Wはもつれ合いながら『獅子』のギルガメッシュと塔の上を駆け抜けていく。
鉄音を放ちながら組みつく彼らは、ほぼ同時に互いの胸部を足裏で強打し、それを助けに距離をとる。
「……ハッ」
それでも翔太郎の変身するジョーカーサイドのWは、不敵な笑声を立てた。
その身を起こしながら、首に絡みつくマフラーを振り払い、触覚のような頭の突起を撫でる。
〈LIBRA ON!〉
ギルガメッシュがスイッチを変える。
手中に精製された錫杖で足場を叩くと、その像が大きくブレて消えた。
気配の消えた敵は、一瞬後にWの背後から現れた。
振りかぶった錫杖を、右手の甲が冷静さとともに的確に受け流す。
それに呼応して、翔太郎の左手が浮き上がった杖の胴を掴む。
〈HEAT! HEAT! JOKER!〉
相手の攻撃と動きを封じたその一瞬の隙に、メモリチェンジをした。
赤く変色したソウルサイドが、消えた白いマフラーに代わり紅蓮渦巻く拳を旋回させて連打を見舞う。
ギルガメッシュは一度退いて、間合いをとると、リーチを活かして得物を突き出した。
〈HEAT! METAL!〉
呼吸を合わせるように、今度は翔太郎の側のメモリを入れ替える。
『闘士の記憶』を引き出したWは、その背に転送した
そして互いに、低く跳躍した。
十メートルほどにもなる飛翔のなか、杖と棒とで打ち合い競り合い、拮抗したまま地面に着地しそのままスリップする。
〈『星』には、『月』で行こうか〉
Wが右目を点滅させながら、理知的にもうひとりの人格へと話しかける。
だが、わざわざ許諾を得ずとも、彼らの意思はすでに統一されていた。
〈LUNA! METAL!〉
鞭のように、空気を裂いてしなりながら機をうかがいわずかな隙を穿ち、杖を取り上げた。
〈ARIES ON〉
だが、その錫杖がスイッチの入れ替えとともに消滅し、代わりにドラムが先端についた図太い杖へと切り替わった。
その重量差と質量差でメタルシャフトを強引にいなすと、その幾何学的な模様を手回ししながら、ドラムでWを殴打した。
重い。だがそれ以上に、奇妙な脱力感が、杖を防いだWの左側を襲った。
「おぉっ……なんだか急に頭がクラクラ来やがった」
〈なるほど、生体エネルギーの吸収か〉
自由の効かないボディサイドのメモリを、フィリップの意識を持った右手が取り替える。
〈LUNA! JOKER!〉
Wの四肢が軟体生物のように、しなやかにたわむ。
人間離れした挙動で伸縮をくり返しながら、黄色い右半身がギルガメッシュの猛攻をいなす。満足に機能しなくなった左側を労わるように間をとる。
〈しっかりしたまえ翔太郎、後輩が見ている〉
右手が左頬を何度か叩くと、「お、おぉ」という声とともに我に返り、今度は自身で青いメモリを手にした。
それに合わせて、ギルガメッシュもまたスイッチを変えた。
〈LUNA! TRIGGER!〉
〈GEMINI ON!〉
ギルガメッシュが道化師のようなグローブを広げると、瓜二つの分身がその背後から現れた。
黄色と青のWは、呼び出した大型銃トリガーマグナムで彼らを狙って引き金を絞った。
蛇行しながらそれをかわすギルガメッシュだったが、光玉の連射は、クレセントムーンのように湾曲しながら、彼らを急追した。そして分身たちに回り込んで背を撃つかたちで、彼らを射抜いた。
〈CANCER! ON!〉
またもギルガメッシュがスイッチを取り換える。
分身は消え、グローブの代わりに右手に現れたのは甲殻類特有の鋏。
ゴツゴツとした質感をもった分厚い鋏が横に薙がれれば、風の壁が面となって弾を防ぐ。
一気に距離を詰めるべくギルガメッシュは足を速める。
Wは一度引き金から指を離し、今度は赤いメモリをドライバーの右スロットに換装させた。
〈HEAT! TRIGGER!〉
再び突き出した銃口と、ハンマーのように振り下ろされた甲殻とがかち合う。
ゼロ距離から吐き出された火球の衝撃が、ギルガメッシュに膝をつかせ、後退させた。
〈VIRGO ON〉
赤黒い霧とともに、新たに細身の杖がギルガメッシュの手に現れた。
羽のモジュールのついたそれを大きく振ると、Wとの間の磁場がゆがみ、大きな円形の穴が穿たれた。
タワーを支える鉄骨の破片が、支えを失って崩落する。
Wがそれを避けている間に、白銀の獅子は杖先から生じた渦に、自身を沈ませた。
その口が閉じて、転移した先は風都タワーの風車の上。その羽を落下させてWにぶつけるべく、杖をその接合面に叩きつけようとした。
「させッかよ!」
〈CYCLONE! TRIGGER!〉
メモリのチェンジとともに、Wの右半身が緑に戻る。
火力に代わり連射能力と速射性、精度を得たトリガーマグナムが、ギルガメッシュの足下からその杖を撃ち抜いた。
そしてWは手足を駆使してのぼり、みずからも風車の上に立った。すかさず仕掛けられた獅子の攻めをかわしながら、間隙を縫うように再度メモリを交換する。
〈CYCLONE! METAL!〉
メタルシャフトが旋風を絡めとるようにして曲線をえがき、風都の象徴を守護するべく、ギルガメッシュの魔杖を受け止めた。
「これ以上、タワーも、街も、傷つけさせねぇ」
渾身の力を込めて押し出した一突は、王の両腕を浮かせた。がら空きになった胴に、蹴りを見舞って突き落とす。
だが、落下するその刹那、
〈SAGITTARIUS! ON!〉
ギルガメッシュは、次のスイッチをベルトにセットしていた。次の武装を左腕に展開していた。
サジタリウス・ゾディアーツを象徴する黒と赤の弓。
魔の矢、アポストロスを射出するための王たらしめる武具。
――その名を『ギルガメッシュ』と言った。
「心中でもしてみるか? どうせ消えるこのタワーと!」
みずからの名を冠する強弓をつがえて、王はせせら笑う。
〈CYCLONE! JOKER!〉
基礎の姿に立ち戻ったヒーローは、街の象徴のそばにあって、赤い瞳を情義と闘志と、理知と意志とで燦然と輝かせた。
「いいや、消えやしねぇ」
〈目に見える形ばかりじゃない。この風都には、託され、受け継がれていく多くの想いがある〉
「あぁそうだ……! その想いの風は、これからも俺たちの胸の中で息づいている!」
〈JOKER! MAXIMUMDRIVE!〉
ジョーカーメモリを叩き込まれたマキシマムスロットが決着を誓う音声を鳴らす。
マフラーが蒼天の下ではためき、呼び起された風がWの身体を宙へと浮かび上がらせた。
それに共鳴するかのように、風車が回る。
軋み声をあげる。
それは、有終の美を貫こうとする風都タワーの咆哮だったのか。
あるいは、街の新たな息吹や産声か。
〈SAGITTARIUS! LIMIT BREAK!〉
ギルガメッシュがレバーの操作とともに矢を射放つ。
神々の火箭にも似たその一射は、彼の方に向かったWの正中線を貫通し、その肉体を真っ二つに割るはずだった。
――だがそれより一瞬前に、Wの身体が、割れた。
ギルガメッシュの矢は、黄色い断面図の間を素通りした。
「ジョーカーエクストリーム!」
みずからが二本一対の矢と化したWは、そのまま白銀の獅子王を射抜き返したのだった。