車内は、沈黙と薄闇につつまれていた。
風都に現れた父、泊進ノ介は「乗れ」と促したきり何も喋らず、今まで見たことのないようなけわしい表情でハンドルを握る。
助手席に座らされたエイジ自身はそんな彼の不機嫌な顔色をうかがいつつも、その理由はいくつも思い当たり、あえてヤブヘビとならないよう自分からは詮索しない。
部外者の春奈は何故か後部座席で腕組み脚組み、何食わぬ顔で同乗しているが、元々の性格からして多弁なタイプではない。
さながら護送車に詰め込まれた囚人か、パトカーによって連行される犯人のような心地だった。
そうして連れていかれた先は、警察署……ではなく、その管轄にあたる久瑠間ドライビングスクールの一角。
決して一般人が立ち寄らないであろうその場所は、進之介たちの古巣であり、今のエイジの拠点でもある。
すでにそこには、見覚えのあるかつての特状課の面々が沈痛な面持ちで集まっていた。
母霧子もまた張りつめた顔で我が子を見つめ、その弟の詩島剛は、ソファにもたれかかりながら、逆に心配げに甥を注視していた。その隣には、同じよう表情でさらに
追田現八郎もまた角張った強面をさらにけわしいものとしていて、時折鋭い視線をクッションを抱いて委縮する妻へと向けていた。そのりんなは肩をすぼめるばかりだ。
彼らの視線がエイジへと一極化した次の瞬間、父はようやくリアクションを見せた。そしてその反応は、今まで感情を抑制していた分、激烈だった。
「いったい何をしてるんだ、お前ッ!」
にわかにエイジの胸倉をつかむと、息ができなくなるほどに強く絞り上げて、壁へと叩きつけた。
「言ったよな? 母さんの近くにいて安心させてやれって……なのになんで、よりにもよってダークドライブになって、事件の渦中に飛び込んでる?」
やはり、父の激怒し、それを受けたらしい皆が集まった原因はそこにあった。自分が隠した秘密のなかで、もっとも言いたくなかったこと。と同時に、自分の口から告白しなければと思っていたこと。だが、よりにもよってこんな最悪のタイミングでなくても良いはずだ。
落ち着け、とエイジは自身に念じた。まだ、確証まではつかんでいない。変身やその解除の瞬間を、父やその関係者、マスコミには目撃された自覚はない。りんなも問い詰められてはいるだろうが、あぁ見えて口の軽いほうではない。つまり、まだ確信が持てないからこそ、父はあえて厳しく詰問しているのだ。つまりこれは、ブラフでしかない。
そう推察したエイジは、この場は韜晦することにした。
「なんの、こと……? まさか、例の黒いライダーがまさか僕だって……? いくらあれがドライブに似てたって、さ……息子が変身してるっていうのは安直じゃ」
その遁辞を遮るかのように、一度引いた進ノ介の腕が、ふたたびエイジを壁に押し当てた。
「いまさらそんなウソが通じるかッ! ダークドライブはお前しか変身できないって知ってるだろ!?」
え、と声が漏れた。
りんなが父の名を切羽詰まった声で呼ぶ。
だが激昂した進ノ介は、両者の反応など耳目に入らないかのように、その事実を口にした。
「元々あれは、別のお前が使ってたんだからな!」
しん、と場が静まり返った。
親子の、息遣いだけが聞こえてきた。
ただ目を見開くばかりのエイジが、影として父の瞳に映り込む。
そんな我が子の反応に、今度は進ノ介が虚を突かれる番だった。
「……まさか、知らなかったのか?」
そんな父の背越しに、りんなは額に手をやって天井を仰ぎ見ていた。
「――どういうこと? りんなさん」
父を飛び越えてそう問う声は、エイジ自身が驚くほどに低く冷たく、そして虚ろだった。
口を真一文字に結んでいた彼女は、やがて重たげに答えた。
「だって、フツーは察しがつくだろうし……そのうち自分で答えに行き着くかなーとか思ってるうちにこうなっちゃったし、だから、その…………ごめんなさい」
バツが悪そうにつぶやいていた彼女だったが、その事実が青年にとって重要なウェイトを占めていることを、表情から読み取ったのだろう。神妙な面持ちで、頭を下げた。
だがりんなの黙秘を責めることはできなかった。
彼女の言うとおり、それはエイジ自身が悟ることだったし、そのことを考えられる材料や機会は今までの戦いでいくらでもあった。あるいは無意識のうちに、そこから目を背けていたのかもしれない。
「今まで何もなかった自分が、運命的にシフトカーに戦士として選ばれた」
そのことを、精神的な支柱として戦ってきた彼を、根底から揺さぶることだったからこそ。
内外ともに静止した青年に、落ち着きを取り戻した父が頷いて見せた。
「……ダークドライブの元の装着者は、かつての、この未来になる前の、お前自身だ。エイジ」
エイジは自分の心底で、何かが崩れ去る音を聞いた気がした。