遅れがちの短めですが、ご容赦くださいませ。
山道を、エイジを乗せたネクストライドロンが疾駆する。
人気の少ない夜道だ。前走車や対向車は多くなく、スピードは可能な限りで出されていた。
だが、その中において運転手はハンドルに指一本さえかけていなかった。アクセル、ブレーキいずれのペダルにも足は触れておらず、ギアはカーブのたびにひとりでに変速していく。
機械の自動運転に完全に身をゆだねながら、彼自身は、膝をかかえたまま、表情ひとつ変えなかった。まるで
たしかにそのとおりだ、と彼は自分の発想に同意した。
このちっぽけな空間だけが、自分にとって唯一運命から解放されることを許された、唯一の居場所なのだから。
目を伏せかけたエイジの耳が、何か風音のようなものを車体ごしに捉えた。
バックミラー越しに音の正体を探ってみれば、この車を追う形で、車が走っていた。
その前時代的なオープンカーは、唸り声のような異音をあげながら、夜道を疾駆する。
出しているスピードからして、衝突すれば崖からの転落をまぬがれないようなコーナーもあざやかにドリフトし、幾度のカーブを前にしても速度を緩めることがない。
否、なさすぎた。
まるで一本の矢のような鋭さをともなったオープンカーの向きは、明らかにトライドロンを狙っていた。
みるみるうちに距離を縮められていく。そして、外気にさらした顔が明らかになった。
――金髪碧眼の、白皙が。
エイジはアクセルペダルへと足を伸ばす。だが一手遅かった。
次の瞬間、車のリヤバンパーに、その車のスポイダーが衝突した。
食らいつかれるがごとき衝撃に、エイジは呻き、トライドロンはおおきくバランスを崩す。
速度を落とさせられた彼らに、そのオープンカーが追いついた。並走する。運転手が上体を乗り出しながら、嘲笑を浮かべていた。
「よう、泊エイジ」
「ギルガメッシュ……ッ!」
「どうした? 親に裏切られたような顔をして」
まるで見聞きしたかのようにエイジの心境を揶揄しながら、ハンドルをその姿勢のまま器用に操作する。
黒いボディを基調とし、金色の炎や獅子のレリーフを要所にあしらったデザインは、いかにもこの派手好きの王様らしい。
だが、基本的な造形は、この流線型の低重心のありようは……
「このトライドロンのコピーかっ!」
「そういうことだ」
そのフロントドアを叩きながら、得意げに襲撃者ギルガメッシュはうそぶいた。
「だが創り出したのはこの『ライドトレーサー』だけじゃなくてな」
と言って取り出したのは、自分のものとまったく同型のベルト。
一度完全に手をハンドルから離すと、そのベルト……ドライブドライバーのレプリカを腰へと巻いた。
「変身」
シフトブレスもなく、ただイグニッションキーを回し、低くささやく。
だが、ギルガメッシュを覆い包んだのは、光の粒子ではなく、まがまがしいノイズの音と砂嵐。
その異質な繭をやぶって現れたのは、ドライブとよく似た、毒々しいレッドアイを持つ、けっして品があるとは言えない、金色のアーマーだった。
その姿を、エイジは資料で見たことがあった。
ロイミュード事件の発端となった科学者一度肉体を喪った彼が……自分の祖父にあたるその男が、ロイミュードの身体を奪い変身した姿。
決して仮面ライダーではないその姿を、その呼称を、
「ゴルド、ドライブ!」
エイジは、口にした。
あいさつ代わりにと、ギルガメッシュは腕を振りかざした。
その指先から放出された金色の波動に当てられたトライドロンの動きがにわかに鈍麻した。
落ちていくスピード。メーターを確認しようと前を向き直れば、フロントガラスをスクリーン代わりに表示されるのは、次々と吐き出されていく機能不全を報せるアラームと、エラーメッセージたち。
それが、システムをハッキングして管理者権限を奪う、ゴルドドライブの特性。しかも、基本システムは同じとは言え彼は平行世界の技術にさえも干渉してきた。
状況をすばやく整理したエイジは、自分もシフトブレスを通じてベルトとシフトカーを転送した。
「変身!」
〈DRIVE! TYPE NEXT!〉
車内でダークドライブのスーツをまとったエイジは、あふれ出てくるウインドウ画面を精査し、状況を把握する。
この段階ですでに、自動操縦を含めた、大部分のシステムが敵によって掌握されていた。ドライブシステムを介して最低限の操作への侵食は防ぐことが出来ているが……つまり今、このトライドロンを動かすためには、
「――くそぉっ!」
エイジは意を決してその手でハンドルを握りしめ、アクセルペダルを踏み込んだ。
ネクストライドロンはエイジの予想を超えて加速し、ギルガメッシュと彼の乗るライドトレーサーを振り切ろうと突っ切った。
一度はそれを見過ごし道を譲ったものの、ギルガメッシュもまたスピードをあげてトライドロンを猛追する。
教習所での緊急時の訓練を除けば、この夜中の、強敵とのカーチェイスこそが、泊エイジの初運転となったのだった。