仮面ライダー NEXTジェネレーションズ   作:大島海峡

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第六話:Dark Night(11)

 泊進ノ介の変身したドライブは、雄叫びとともに、そして自ら吹き出す白煙を突っ切ってダークドライブへと挑みかかった。

 

 が、108は避けもしない。真正面から、右腕一本で受け止める。押し返す。

 しかし元より進ノ介は、このスペック差で競り合うつもりはないらしい。精一杯に踏み止まりつつ、伸ばすその手が目指したのは腕のシフトカーだった。

 そこには108の意識が組み込まれているはずで、強制的に引き抜くまではいかずとも、ダメージさえ与えらればダークドライブは108の支配から

 

「無駄なことを」

 

 パラドックスはその手を上から押さえつけて嗤った。

 

「私が何故今まで干渉できなかったこの身体を自由にできると思う? すでに我が肉体を介し、コアのデータをすでにベルトに移してあるからだ!」

 

 強引で力任せの正拳が、ドライブの体勢を崩す。

 彼の言葉を証明するかのように、以前スタインベルト式のドライバーには、108の三文字が不気味に点灯していた。

 

 進ノ介は反撃を試みるが、いかんせん性能差が開きすぎていた。

 さながら絡む子どもをいなすかのように、進ノ介の渾身のパンチやキックの連打を、はたき落とし、振り払う。

 反撃にくり出されたボディーブローは、たった一撃で重装を破るほどの衝撃を与え、進ノ介の膝を折らせた。

 

「どうした? 以前はもっと歯ごたえがあったはずだが? ……所詮は生身の人間。この二十年で、ずいぶんと衰えたよう、だなぁッ!」

 

 ドライブの腕を掴んだまま逆に離さず、ダークドライブは何度も踏みつけたり膝蹴りを見舞う。合理的だが人道的ではない、泊エイジであれば決してしないであろうラフファイト。

 

 春奈は動いた。

 一度は進ノ介に止められたが、やはりあの戦力差では太刀打ちできないし、エイジの精神を呼び戻すことさえできないだろう。

 

 駆け出した春奈だったが、ガイアメモリを手にした指先に刺激がはしった瞬間、反射的に足を止めた。

 その小さな筺体がスパークを発している。ディスプレイが、明滅を繰り返す。

 

(やはり……調整不足か!)

 風都タワーでトリプルAに変身したがゆえの、過度な負担。それがまだ残っている。

 だが、そのまま看過されることが許される状況ではない。

 いけるのか、と自問する。私に質問をするな、という自答が返ってくる。

 そうだ、選択肢などもとより存在しない。

 

「変……身!」

〈Accel!〉

 

 やや濁りのあるガイダンスボイスとともに、背後のバイクが分解され、T3アクセルへの装甲となって春奈を身を包む。そして、ダークドライブめがけて飛び蹴りを放った。

 難なくかわされる。それで良い。元より、進ノ介を解放させて体勢を立て直させるのが目的だ。

 彼の代わりに組み合いながら、春奈はやりづらさを感じていた。手足が命じた通りに動かない。

 T3に匹敵するダークドライブの出力、自身のドライバーやメモリの動作不良。そんな外的要因もあるが、心情的な部分によるところも大きい。エイジを人質にとられているという重圧、見慣れたものとまるで違うファイトスタイル。それに苦しめられているということも、認めざるをえなかった。

 

 持ち直した進ノ介が、ふたたび加わった。

 横槍を突く形で飛来したドライブの拳をかわして、伸びきった腕を掴み、その身体を大きく振り回す。進ノ介は春奈に激突した。避けきれず、勢いも殺しきれずにつんのめったところを、ブレイドガンナーの刃が襲う。

 

(おまけに、本人よりも偽物のほうが扱いが上手いときた)

 

 舌打ちしたいのをこらえ、拳と剣とを打ち合う。

 即席コンビは呼吸こそ合わないものの、互いの動きを読んで左右に分かれ、ほぼ完璧とも言える挟撃の体勢をとっていた。

 だが、ダークドライブはくすぶる火やガレキを用い、狡猾なまでに、一対一の状況を作り出すことに徹底していた。

 

 そういう演算と判断の速さ、視野の広さは人間の比ではない。

 このまま分散するのはまずい。そう判断したふたりの仮面ライダーは、諮らうまでもなく一つ同じ地点にまとまった。

 だが、それを見越していたかのように、ダークドライブの手の上で球形により集められた青い電光が、その場所へと投げつけられ、着弾とともに大きく爆ぜた。

 

 防御する間も無く、数メートルのコンクリートを削りながら、ふたりは地面を転がった。

 春奈は痛む全身を叱咤し、立ち上がる。

 

(どうすれば良い)

 思い悩む。逡巡する。

 出力が不安定な今のT3アクセルであったとしても、ダークドライブにダメージを与えることはできるだろうし、相打ち覚悟で挑めば完全破壊も可能だろう。だがそれは、そのまま負担が装着者であるエイジにかかることを意味している。下手を打てば、死にも至るだろう。

 

 進ノ介の安否と意向を目で確かめる。

 

 彼は、静止していた。

 呼吸は荒い。膝立ちになりながら、総身から火花と白煙とを吐き散らしながら、スパークを起こす右腕を抱きかばうように。それでも我が子が封じられた黒い鎧を、じっと見据えたまま。

 

 ダメージを受けているのはお互い様だが、見た目や108の言動から推察するに、それは万全のフォームではないだろう。もしや自分の認知していない部分で深刻なダメージがあったのだろうか。

 

「頼みが、ある」

 危惧する春奈に、進ノ介は低い声でささやいた。

 そのマスクから、苦しい喘ぎの切れ間に、ひとつの手段がもたらされた。

 

「……そんなことが、できるわけ、ないでしょう」

 しかし、春奈がまず第一に示した反応は、一回り以上年上の男の正気への疑いだった。

 進ノ介が冗談を言っているようには思えない。そんな状況ではない。こうしている間にも、彼の子を抱え込んだダークドライブは、勝利を確信しながら車道を闊歩し近づいてきている。

 

「T3アクセルの資料は俺も読んだ。できないはずはない。手はこれしかない。108とエイジを切り離すには、これしか」

 たしかに、理論上で言えば可能だった。それを成すだけの技量も自信もあった。それでも、この場にいる全員を追い詰める、危険な策に違いなかった。

 

「しかしっ」

 逡巡する春奈と、進ノ介はそれ以上の問答をするつもりはないようだった。

 完全に起き上がると同時に、ドライブは疾駆する。

 

 敢然とみずからの正規の次世代型に立ち向かいながら、進ノ介はみずからのドライバーの上辺を連打する。

〈超! デッドヒート!〉

 ベルトが叫ぶ通り、まさしくその突撃は決死行のようなものだった。

 ぐんと一段階加速すると、砲弾のごとくダークドライブに肉薄する。

 

 掴みかかる手の節々から、排煙が漏れ出る。それは熱を逃がすためというよりかは、主の生命をも吸い上げ、そのまま気化させエネルギーに転換させているかのようだった。

 

 だが、ダークドライブは数歩押し返されただけだった。その必死さに対し、108は鼻で嗤うばかりだ。

 

「訂正しよう。衰えたのは、肉体ばかりではない。その頭脳さえも、どうやら錆びつかせたようだなぁ! 泊進ノ介ッ! その程度ではダークドライブにさえ及ばないと、何度言えば理解するのだ!?」

 

 ドライブの足が止まる。押し返されつつあるそのツギハギの装甲に、容赦なく、あるいは嘲り、なぶるかのように反撃の拳や膝が見舞われる。

 それでも、我が子を救うべく、我が子の身体にしがみついて、離れなかった。

 

 ――その意思の強さを見ては、照井春奈もまた、仮面ライダーとして覚悟を決めざるをえなかった。

 一本のメモリを、衛星を通じて転送する。

 

 手を止め、寸時の躊躇のあと、彼女はアクシズAにそれをゆっくりと挿し込んだ。

 

「――いいや、身体はともかく、頭のほうはまだ健在らしいぜ……ロイミュード108」

 

 いくらか往年の若さを取り戻したかのような口調で、彼は笑いを含ませる。

 虚勢か。勝ち目のない戦いを自覚しての自暴自棄かあるいは……

 その余裕の意味を図りかねるかのように、108の動きが一瞬止まった。

 みずからの腹部に打ち込まれた拳を強く抑えつけながら、進ノ介は静かに答えた。

 

 

 

「お前が教えてくれたんだ。そのベルトのリムーブの方法をな」

 

 

 

 やれ、という鋭く乾いた声がかかる。

 春奈の身体は、考えるよりも先に反応した。

 

〈LIGHTNING! MAXIMUMDRIVE!〉

 

 濃青色のガイアメモリを読み取った銃型のデバイスを、春名は組み合うふたりへと向けた。

 銃口に、青白い電流がほとばしる。その光輝を浴びた瞬間、闇夜の遠目から見ても、明らかにダークドライブは動揺し、取り乱していた。

 

「貴様ァ! まさか……離せ、離せェ!」

 

 ドライブの拘束を振り払うべく、108の攻勢は激しさを増していく。

 だが、どれほどの無秩序な暴力にさらされてもなお、進ノ介は離さない。食らいついたまま、叶わぬまでもその意志力でもって耐え忍び、みずから重石となってダークドライブの行動を抑制していた。

 

「離れてください、泊刑事!」

 

 銃口を構えたまま、春奈は吼える。

 彼女の射程の先で、二世代のドライブの影が重なっている。

 

「構わない! 俺ごと撃て!!」

「でもッ」

「撃てぇ!」

 

 そうだ。ダークドライブが動けなくなっている今しか、タイミングは存在しない。

 進ノ介が振りほどかれるのも時間の問題だった。

 

 ――他に、とれる選択肢はなかった。

 

 トリガーを絞る瞬間、まったく別の光景が脳裏をよぎった。

 クリスマスのあの夜。風都タワー、籠城犯、W、落ちる母、遅れる父、彼らを、なじる、幼い自分。

 

 

 

 紫電が発せられた。

 

 一条の流星のように伸びるその一射は、さながら春奈の動揺をそのまま写し取ったかのようにおおきくブレて、そして予想よりも、勢いが強い。

 

 進ノ介もそれを見て取ったのだろう。

 あろうことか、彼はその電流の前に回り込み、背で受け止めた。

 他ならぬダークドライブを、いや泊エイジを、その直撃からかばうために。

 そして、自身が電流の調整弁となって、ベルトに膨大な電力を流し込むために。

 

「オオオオォォォォ!」

 

 仮面ライダーは勇ましく声をあげる。刑事は、父は、声を発し、みずからを焼く激痛に耐えていた。

 そして雷光を帯びたその手が、震えながらもドライブドライバーを握りしめる。

 108と表示されたディスプレイが電光を浴びせられ、ノイズ交じりの、裏返った苦悶の悲鳴が轟いた。

 

 小規模な爆発がその接点で起こり、一帯の闇を切り裂くかのような真っ白な稲光が、二色の断末魔の悲鳴もろとも、彼らを呑みこんだ。

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