聖都大学附属病院。
急患、泊進ノ介の受け入れ先として選ばれたのは、その大病院だった。
現場からは少し離れていたこの場所が選ばれたのは、深夜でも十分に対応できる設備と人員がそろっており、なおかつ実績があったからだ。
摂理や常識から外れたかのような、未曾有のパンデミックを乗り越えたという、実績が。それも、幾たびも。
空港か、あるいは大コンサートホールかのものであるかのような待合室で、数名の男女がその広さを持て余すかのように集まっていた。あるいはじっと座り続け、あるいは廊下の左右をせわしなく往復し、あるいは壁を手足で叩いて。
そんな彼ら、特状課メンバーから離れた位置に、患者の息子は座っている。
雨に濡れた髪を拭かず、拭いてももらえず、ただうつろな目で、じっと床にしたたる水滴を見つめていた。
足音が、近づいてきた。
進ノ介のオペをしている方角から聞こえてきたそれに、彼……泊エイジ以外の全員が、食らいつくかのように反応し、視線を集中させた。
白衣をまとったその男もまた、落ち着いた足取りで彼らに寄った。
「先生、進ノ介は!?」
取り囲まれながらも彼らのプレッシャーに気遅れせず、自身の前で手を組みながら毅然とした態度をとっている。
それなりの歳だが、目元のあたりに鋭さと幼さをその医者は同居させていた。
彼自身は、執刀医ではない。
今なお、オペは継続中だった。そもそも彼は、救命医ではなく小児科医だった。
だが、泊進ノ介の個人的な知己でもある。その好意によって、部署を超えてわざわざ報せに来てくれたというわけだ。
「急所は外れていたので今のところは、どうにか。けど、ガイアメモリによる肉体への負担に関しては本人の回復力を信じるしかない状態です……けど」
「けど、なんです?」
「今回の件だけじゃなくて、もともと刑事さんの身体に蓄積していた負担が、ここに来て一気に出ています。もちろん最善は尽くしています。それでも……最悪の結果だけは、覚悟しておいてください」
その物腰はやわらかく、だがハッキリと、状況がかんばしくないことを告げている。
彼の肩をつかんだ追田刑事を始めとした仲間たちに、悲嘆の色が浮かぶ。
「――ずっと、戦ってきたんですね。あの人は。たとえ変身できなくなっても、刑事として、仮面ライダーとして」
感心していいのか、医者として怒って良いのか。自身さえ迷ったような複雑そうな口ぶりで、しみじみと彼は言った。その視線が、ひとり離れた場所に座る青年を見つめた。
もとよりその素性、進ノ介との関係を、その医者は知っていたのだろう。
無骨な両腕をスルリと抜けて、エイジへと歩み寄った。
そして目線を合わせるように屈みこんだ医者は、ふっと表情をやわらげた。
「大丈夫! ウチの外科医は、優秀だから。『俺に切れない
その執刀医たる人物の物まねだろうか。両手の甲をかかげてみせて、ことさら明るく振る舞っている。
「……大丈夫。君のお父さんの運命は、僕たちが変える。君のお父さんが刑事として戦ってきたように。僕らも、医者として。だから君も信じて待ってて。お父さんの強さと、そして君自身を」
水晶のようなきらめきを瞳に宿し、彼は見返す。
さすが小児科医。『こども』の扱いには慣れているといったところか。
皮肉な気持ちで自嘲で返すエイジの心に、その医者の言葉は遠い。
君にもいつかわかるよ、そう言いたげに目を細めた彼は、白衣をひるがえしその場を後にする。
胸から下げた、赤いストラップ。そこから先の、ID付きのネームプレートには
「宝生」
と書かれていた。