「蒼伊、ちょっと良いかしら」
電気を点けてミステリー小説を読んでいると、ドアの向こうから母さんの声が聞こえた。
「今行くよ」
そう返してしおりをページに挟み、部屋のドアを開けた。
「何?」
僕が聞くと、母さんは何やら白い封筒を手渡してきた。
「さっき速達で届いたのよ、蒼伊宛てに」
「僕に……?」
見ると、白い封筒には確かに『篠井蒼伊様』と書かれていた。
「わかった。ありがとう」
戸惑いつつも受け取る。
ドアを閉め、机に戻った。
送り元を見てみると、住所は書かれていなかった。
ハサミで封筒の端を切ると、中から黒いカードのようなものが出てきた。
篠井蒼伊様
はじめまして。我々は『復讐ゲーム運営部』と申します。
この度、篠井蒼伊様に【復讐ゲーム】参加資格が与えられましたことをお知らせ致します。
詳細は、下記電話番号までお問い合わせください。
090-XXXX-XXXX
既に一名の方が参加表明をしてくださっています。
篠井蒼伊様の参加を心待ちにしております。
【復讐ゲーム】運営部企画課
【復讐ゲーム】運営部運営課
「復讐、ゲーム……?」
むしろ参加しろと言ってきたが、なんで僕の名前を知っているのだろう。
僕の危険察知メーターが作動した。
しかし、一人が参加表明を出していることが気になった。僕を無理やりにでも参加させるためなのだろうか。
僕は立ち上がってドアに歩み寄り、鍵をしめた。
机に戻り、無意味に部屋を見渡し、ポケットからスマホを取り出す。
「えっと、090――」
僕は記載されている電話番号を入力し、耳に当てた。
呼び出し音は鳴らなかった。代わりに、若い男の声がした。
『はい、【復讐ゲーム】運営部運営課の黒田です。篠井蒼伊君だね?』
黒田と名乗る男は、とても嬉しそうに訊いてきた。
「はい、あの、まだ参加すると決めたわけではないのですが、詳細を知りたくて……」
『ははは。そんなに緊張しなくていいよ』
黒田さんは可笑しそうに笑うと、こう続けた。
『もちろんゲームについて教えるだけでもいいよ。でもこれ、参加候補者に直接説明しなくちゃいけないんだ。明日、会えないかな?』
いきなり接触を試みてきた!?
僕はスマホを落としそうになり、慌てた。
「えっと、明日は――」
そこまで言うと、僕の言葉は急に止まってしまった。
脳裏に、河野椛の顔がちらつく。
「……何時でもいいですよ。黒田さんに合わせます」
『わかった。じゃあ明日午前9時に、五橋駅で良いかな?』
「はい、大丈夫です」
五橋駅は最寄りの私鉄駅だ。
『じゃあ、また明日』
電話が切れ、僕はまじまじとスマホを見つめてしまった。想像と違い普通の人だった。