鈴蘭寮の艦娘達   作:雨守学

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戦後から一年と数か月。

艦娘達は普通の人間となり、第二の人生を歩み始めていた。

親の元で暮らす者、自立する者、結婚する者まで現れた。

そんな艦娘達をサポートする為、海軍は全国に艦娘専用の寮を設立した。

これは、その中の一つである「鈴蘭寮」に暮らす、艦娘と「提督」の物語である。

 

 

 

窓の外は、まだ少しだけ暗かった。

 

「寒い……」

 

壊れた暖房は、やはりうんともすんとも言わなかった。

 

「畜生……鈴谷の奴も海軍連中も……全く……」

 

クリスマスパーティーの日……鈴谷の奴が調子に乗ってシャンパンをぶちまけたせいで、こいつは御釈迦になった。

海軍に連絡して替えを頼んだら、支給に時間がかかるとの事だった。

 

「しかたねぇ……」

 

ジャージに着替え、そのまま庭へと向かった。

 

 

 

外に出ると、既に庭を駆けている者が二人いた。

 

「よう」

 

「あ、提督。おはようございます」

 

「おはよう提督。貴様もジョギングか?」

 

大和と武蔵。

こいつ等は最近、よく朝にジョギングをしている。

大和がここに来てからだったな。

 

「体を温める為にな。どこぞのクソガキが暖房を壊してくれたおかげで健康になれるってもんだ」

 

「そんなに温かくなりたいのなら、女でも作ったらどうだ? 心も体も温めてくれるぞ」

 

「財布の寒い俺には、女も冷たいだろ」

 

「フフフ、確かに」

 

庭は寮を囲むように出来ていて、ジョギングをするのに最適だった。

 

「提督、大和たちはもうちょっとしたらあがりますから、終わったら食堂に来てください。朝食を用意します」

 

「いいのか?」

 

「えぇ、実家からお米がたくさん届いたので、おすそわけです」

 

「ありがたい」

 

「では、後で」

 

準備運動をしている俺を置いて、大和たちはまた走り出した。

 

「朝食か……」

 

鳳翔がいた時はよく作ってもらっていたな。

大和はあいつの友人だと言うだけあって、そういう気遣いがしっかりしている。

他の連中とは大違いだ。

 

「よし……」

 

準備運動を済ませ、ゆっくりと走り始めた。

呼吸をする度に、肺の中が凍る様だった。

 

「はっ……はっ……」

 

機関車のように、白い息がリズミカルに口から出てゆく。

寮のベランダ側に差し掛かったところで、上の方から声がした。

 

「提督」

 

パジャマ姿の陸奥がこちらを見ていた。

 

「おはよう。ジョギング? がんばってね」

 

「おう」

 

この寮にいる艦娘は、自立出来る年齢もあってか、戦艦と重巡が多い。

パートナーを見つけたい者、自立の為の訓練をしている者、親を亡くした者、様々な理由でこの寮にやってくる。

俺はその管理人で、何故だか「提督」だとか「司令官」だとか呼ばれている。

 

 

 

ジョギングとシャワーを済ませ、食堂へ向かう。

基本的に食事は自由だ。

皆で食べるとかそう言うのは無い。

ただ、各部屋には電気コンロが二口と、小さなシンクがあるのみなので、料理の出来る奴は大体食堂を利用する。

 

「提督、お待ちしておりました」

 

「悪いな」

 

「いえ、どうぞこちらへ」

 

食堂には俺と大和しかいなかった。

 

「お前だけか」

 

「はい。武蔵は先に食べ終わって、部屋に」

 

「そうか」

 

静かな食堂。

皿を置く時の音が、なんだか懐かしく感じた。

 

「鳳翔を思い出す」

 

「鳳翔さんですか?」

 

「ああ。あいつがいた時は、たまにこうして飯を作ってもらっていたんだ」

 

「じゃあ、今度は大和の番ですね」

 

何が嬉しいのか、大和はにっこりと笑った。

 

「どうぞ。大和もご一緒していいですか?」

 

「ああ」

 

「では、失礼します」

 

大和が座るのと同時に、シャンプーか何かの良い匂いがした。

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

手料理を頂くなど、何時振りだろうか。

鳳翔のを最後に、食べてないのではなかろうか?

 

「美味いな」

 

「本当ですか? 良かったです」

 

大和。

こいつがここに来た理由は、恋人を探すためだと言っていた。

料理も上手くて、結構な美人なのに、男が出来ないと言うのは何故だろうか。

 

「そう言えば、提督のお部屋の暖房ですけど、まだ替えは来ないんですか?」

 

「まだしばらくかかりそうだ。海軍連中はいつもそうだ。戦争が終わって腑抜けてるんだ」

 

「そうなんですか。でしたら、使わなくなった湯たんぽがありますけど、どうです?」

 

「湯たんぽか……。また古臭い物を持ってるのだな」

 

「お財布の寒い提督には良いものとなるでしょう」

 

「それで財布を温めろってか」

 

「ふふふ、そうしてください」

 

そんなやり取りをしている内に、目が覚めたばかりの艦娘達が数名、食堂へ入って来た。

それぞれが手に朝食を持っている。

部屋で食べるよりも、皆で食べるのが好きな奴は、わざわざここへ来て食べるのだ。

 

「ふわぁ……おはよー……って、あれ?」

 

出たなクソガキ鈴谷。

 

「提督、それ手料理じゃん? へー、自分で作ったの? 鈴谷の分は?」

 

「大和の手料理だ」

 

「え!?」

 

大和は何故だか申し訳なさそうに微笑んだ。

 

「なんで大和さんの手料理を提督が食べてんの?」

 

「実家からお米が届いたので、おすそ分けしようと思いまして」

 

「そう言うこった。ほれ、あっち行けクソガキ」

 

「クソガキじゃないし!」

 

そう言うと、鈴谷は俺の隣にドカッと座った。

 

「鈴谷さん、パンだけですか?」

 

「たまにサラダも食べるよ。今日はあまり食欲ないんだよねー。昨日の夕食、遅かったし」

 

「そうやお前、最近帰りが遅いが、何やってるんだ? いつも門限を少し過ぎて帰ってくるじゃねぇか」

 

「いいじゃん別に……」

 

「よくねぇよ。お前に何かあったら、俺が怒られるんだよ。ここに住んでいる以上、ルールは守れよ」

 

「陸奥さんとかはいいのに……?」

 

「あいつらはもう大人だ。そういう管理はちゃんと出来ているし、お前とは違うんだよ」

 

「…………」

 

「大体な、お前は幼稚なんだよ。俺の暖房は壊すし、年上に敬語を使えないし、何よりも……」

 

そこまで言うと、鈴谷は机を叩いて立ち上がった。

 

「おい」

 

「鈴谷だって子供じゃないし……」

 

そう吐き捨てて、鈴谷は食堂を出ていった。

 

「なんだあいつ……」

 

大和が後を追おうとした。

 

「放っておけ。ったく……ああいう所が子供だって言ってるんだ……」

 

「提督、少し言い過ぎでは……?」

 

大和にそう言われて、俺は何も言えず、ただ飯を口に運ぶだけだった。

前に、鳳翔に怒られたことを思い出す。

 

 

 

朝食を済ませ、少しばかり仕事をする。

とは言え、海軍への報告書類をまとめるだけだが。

 

「クリスマスパーティーの予算……全然足りなかったな……」

 

今回は豪勢にやりすぎた。

途中、誰かが高い酒を買ってきやがったこともあるし……。

 

「……臨時……新規入居祝い……っと。こっちに幾分か乗せるか……」

 

そんな事で悩んでいると、部屋のドアが叩かれた。

 

「おう」

 

「提督、お仕事中?」

 

コーヒーを持って陸奥がやって来た。

 

「ああ、インチキ中だ」

 

「はい、コーヒー。そんな事していいの?」

 

「バレなきゃいいんだ。実際に使っているしな」

 

コーヒーを一口啜る。

 

「ねぇ、仕事が終わったらいつもみたいにお出かけするんでしょ? 私も行きたいわ」

 

「大和も着いてくるそうだが、それでも良いなら」

 

「大和さんも? なんで?」

 

「知らん」

 

「そう。せっかく提督と二人っきりでお出かけできると思ったのに」

 

そう言うと、陸奥はニヤニヤしだした。

 

「ねぇ、こっそり二人で出かけない?」

 

「言ってろ」

 

「冷たいわね。提督もこの部屋も」

 

「後者は認める」

 

陸奥は仕事を眺めていたが、しばらくすると飽きたのか、部屋へ帰っていった。

 

 

 

お昼前。

この時間になると、いつもどこかへ出かけるようにしている。

管理人とは言え、ずっとこの寮に篭っていなければいけない訳じゃないしな。

 

「さて……」

 

時々、この外出に寮の誰かが着いてくることがある。

その大体が、お昼をご馳走して貰う為に着いてくる。

本当、図々しい奴らだ。

それに応える俺も中々の善人……と、言いたいところだが、実は海軍からちゃんと予算がおりている。

交際費として。

これを使わないと、次年は減らされる可能性があるから、ほどよーく使わせてもらっているのだ。

 

「おーい、行くぞ」

 

声をかけると、大和と陸奥が玄関へとやって来た。

 

「陸奥さんも一緒だったんですね」

 

「よろしくね」

 

 

 

正月の明けた町は、まだどことなく静かに感じる。

 

「ねぇ、今日はどこへ行くの?」

 

「――恩賜公園だ」

 

「――恩賜公園ですか。大和、初めてです」

 

「そう言えば大和さんは、どうして今日?」

 

「皆さんからこの事を聞きまして、一度ご一緒させて貰えたらと」

 

「そう。もし私が来なかったら、提督と二人っきりだったのよ?」

 

「そうですね」

 

大和の反応が思っていたのと違ったのか、陸奥は少しだけつまらなそうな顔をした。

 

 

 

――恩賜公園は、改修工事をしているのか、所々バリケードが張られていた。

 

「外国人の方がたくさんですね」

 

「観光名所だからな」

 

この公園には良く来る。

広いし、動物園や博物館、美術館もある。

程よく時間を潰せるのだ。

 

「提督、屋台があるわ。何か買ってよ」

 

「屋台は駄目だ。ああいう店にはロクな奴がいない。もっとちゃんとしたところで買ってやるから、やめておけ」

 

「そう? じゃあ、後でちゃーんと、ね?」

 

「分かってるよ。大和も何か食いたいものあったら言えよ」

 

「いえ、大和は……」

 

「海軍から交際費が出てる。使わないと次年は出ないんだ。だから、なるべく使っておきたい」

 

「じゃあ……お言葉に甘えて」

 

そんな会話をしながら、公園内を歩いた。

 

 

 

しばらくすると、陸奥が疲れただなんだとゴネ始めたので、園内にあるカフェへと立ち寄った。

 

「ずっと歩いているのだもの。疲れちゃうわ」

 

「そんな歩きにくそうな靴履いているからだろ」

 

大和も似たような靴を履いていたが、疲れた様子は無かった。

まあ、鍛えている量の違いだろう。

 

「陸奥さんと提督って、仲がいいですよね」

 

「どこが……」

 

「あらあら、照れちゃって」

 

「誰が照れるか」

 

陸奥は鈴蘭寮で古株に入る奴だ。

大和と同じで相手を見つける為に来たそうだが、最近はそう言った話を聞かない。

 

「大和も提督と仲良くなれたらと思ってます。こういうお出かけの機会があったら、また誘っていただけると嬉しいです」

 

「ああ、分かった」

 

「ちょっと、私の時と態度が違くない?」

 

「ごちゃごちゃうるせぇな……」

 

特別大和に興味があるわけじゃない。

他の奴と違って、どこか本心が見えないと言うか、接し難さがあった。

謙虚だが、それは純粋な謙虚さではなく、計算されたと言うか、敵を作らない姿勢と言うか……。

逆を言えば、俺たちを本当の大和から遠ざけようとしているようにすら感じる。

仲の浅い人間には、心をオープンにせず、様子を見る癖があるのだろう。

そんな姿勢はいずれバレるものだ。

もし、それが原因で大和が寮に居辛くなったら、管理人として困る。

本人も、本心かどうかは分からないが、交流の機会が欲しいと言っているし、なるべく早めに心を開けるように手配してやらなければと思っていた。

 

「提督、聞いてる?」

 

「ん、何だ?」

 

「もう……鈴谷の話よ」

 

「鈴谷?」

 

「鈴谷さんに彼氏が出来たんじゃないかって話です」

 

あいつに彼氏?

 

「最近、帰りが遅いでしょ? それって、やっぱり男が出来たんじゃないかって思うの」

 

「お前は何か聞いてないのか?」

 

「んー……強いて言うなら、化粧を教えてくれってよく言われるようになったわ。ファッションについても聞かれたし……」

 

「それって、やっぱり相手が出来たから、お洒落をしようってなったのですかね?」

 

あの鈴谷に男か。

何だか相手の顔が容易に想像できそうだ。

こう、金髪で、これでもかってほど日焼けしてて……。

 

「そう言えば今朝、喧嘩してたようだけど、大丈夫なの?」

 

「門限の事でもめただけだ。彼氏が出来ようが何をしようが勝手だが、門限だけは守ってもらわないと困る。あいつはまだ学生なんだ」

 

「なんだかんだ言って心配してるんだー」

 

「管理人としての義務だからな。それ以上の何ものでもない」

 

本当は親がやるべきことを、管理人である俺がやらないといけない。

そこでもし何かあったら、これから自立するであろう元艦娘達が安心して寮を利用できなくなるし、親も寮に送れなくなる。

それだけは避けたい。

俺がこいつらに出来る事は、もうこれしかないんだ。

もう、あの時のように――。

 

 

 

それからまた公園内を歩いたり、陸奥の要望で近くにある大型量販店を見て回ったりした。

最初こそは静かにしていた大和も、馴れて来たのか、食べ物を強請る様になった。

 

「クレープ美味しいですよ」

 

「そりゃ良かったな。にしても、良く食うな」

 

「お恥ずかしいです……」

 

「でも、こーんなにスリムだなんて、羨ましいわ」

 

「陸奥さんだって同じです」

 

「私は抑えてるもの」

 

二人は気が付いていないだろうが、周りの女が物騒な視線を向けていた。

まあ、分かるよ。

 

「ねぇ、提督。写真撮りましょう。大和さんも」

 

そう言うと、陸奥はスマートフォンを取り出して、上に掲げた。

 

「ほら、もうちょっと寄って」

 

「こうか?」

 

「大和さんも、ほら」

 

「失礼しますね、提督」

 

「行くわよ。はい」

 

陸奥と大和に挟まれて、窮屈そうにしている俺が写っていた。

 

「後で二人にも送るわね」

 

女ってどうしてこう写真を撮りたがるんだ。

何でもない場所なのに。

 

「次はどこに行く?」

 

そろそろ帰ろうかと思っていたが、大和も馴れてきたようだし、もうちょっと遊んでいくか。

 

「お前はどこに行きたい?」

 

「大和が決めるのですか? そうですねぇ……じゃあ、あそこなんかどうですか?」

 

 

 

それから夕方までガッツリ遊んでしまった。

 

「今日は楽しかったわね」

 

「えぇ、今度は他の皆さんと一緒にお出かけしたいです」

 

そう言うと、大和はニッコリと笑った。

俺の心配することじゃなかったか。

こいつはこいつで勝手に心を開いて行くだろう。

 

 

 

寮に帰り、夕食を食べてから少しだけ仕事をした。

その間、色んな奴が俺の部屋で騒いでは、帰ってゆくのを繰り返していた。

管理人室は他の部屋と違って広いから、勝手に溜まり場になったりする。

いつもの事で気にはならないはずだったが、どこか違和感があった。

 

「そう言えば、鈴谷さん、まだ帰ってきてないんですね。とっくに門限は過ぎていますよ」

 

ああそうか。

鈴谷がいないのか。

いつも仕事の邪魔をしてくるのに。

 

「ったく、何やってるんだあいつ……」

 

「ちょっと電話してみるわね」

 

そう言って陸奥が電話をしてみたが、どうやら出ないようだ。

 

「鈴谷……何かあったのかしら……」

 

「提督……」

 

「…………」

 

 

 

寮は消灯の時間を迎えようとしていた。

 

「鈴谷さん……まだ帰って来ませんね……」

 

「何度も連絡してみたけれど……。ねぇ、何か事件に巻き込まれたとかないわよね? 最近物騒だし、いくら元艦娘だとは言え……」

 

流石に遅い。

連絡の一本も無いと言うのは……。

 

「探しに行くか……」

 

「でも、何処にいるのか分からないわ……」

 

そうこうしていると、寮の電話が鳴った。

出てみると、警察からだった。

 

 

 

「鈴谷!」

 

交番内に俺の声が響く。

その声に、警官も鈴谷も驚いたようだった。

 

「ほ、保護者の方ですか?」

 

「えぇ」

 

「実は……」

 

話によると、夜の街をふらふら歩いている所を不審に思った警察が、鈴谷に声をかけたらしい。

驚いたのか、鈴谷は逃げ出し、そして捕まったとの事だった。

 

「逃げている途中に転んだようで……」

 

足には絆創膏が貼られていた。

 

「本人は黙ってるばかりで困っていたのですが、彼女が艦娘だと知っている者がいましてね。それでお電話させていただいたんです」

 

「ご迷惑をおかけしました……」

 

俺が話している間、鈴谷はじっと床を見つめるばかりだった。

 

 

 

空は曇っているせいで、星空は見えなかった。

時折強く吹く風がとても冷たい。

あれから鈴谷は目すら合わせようとしなかった。

 

「何故門限を破った」

 

鈴谷は黙ったままだ。

 

「寮の皆がお前を心配していたんだぞ」

 

「…………」

 

「何か言ったらどうだ」

 

「……なによ」

 

「あ?」

 

「門限門限って……。いつまで鈴谷を子供扱いするの……?」

 

顔をあげた鈴谷の目には、うっすらと涙が溜まっていた。

 

「どうして鈴谷だけ門限があるの……?」

 

「それはお前が――」

 

「鈴谷だって大人だもん!」

 

閑静な住宅街に、鈴谷の声が響いた。

 

「鈴谷と同い年の子だって……この時間でも遊んでるし……門限なんてない……。なのに……」

 

「…………」

 

「提督にとって鈴谷は子供なの……? いつまで……? ねぇ……いつになったら……鈴谷を大人として見てくれるの……?」

 

「お前……」

 

「子供に見られるのなんて嫌……。鈴谷だって……提督に大人に見られたいもん……。陸奥さんみたいに……大人として接してほしい……」

 

そう言う事か……。

化粧を教わったのも、こんな遅くまで遊んだのも……。

全ては大人に見られたいが故の――。

 

「そういう所が子供だって言ってるんだよ」

 

ただ……。

 

「…………」

 

「……悪かった」

 

「え……?」

 

「クソガキは言い過ぎた……。確かに、まだ幼いところはあるが……それでも、他の同い年の奴なんかよりも、お前はしっかりしているよ……」

 

「提督……」

 

「無理に背伸びするな。大人かどうかは別としても、お前は今でも十分に魅力的な奴だよ」

 

そう言って笑って見せると、鈴谷は安心したのか、ぽろぽろと涙を流した。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

泣き続ける鈴谷の背中を支えながら、寮へと戻った。

 

 

 

寮に着くと、陸奥と大和が玄関から飛び出して来て、鈴谷を囲った。

 

「鈴谷さん……良かった……」

 

「鈴谷……」

 

「ごめんなさい……心配かけて……」

 

「お風呂沸かしてあるわ。一緒に入りましょう」

 

「うん……」

 

陸奥は鈴谷を連れて寮に入っていった。

 

「大和、すまないが、あいつ腹が減ってるそうだから、簡単なものでいいから何か作れないか?」

 

「はい。おにぎりとみそ汁くらいなら……」

 

「十分だ。俺も手伝おう」

 

大和は少し驚いた後「はい」と返事をした。

 

 

 

冷え切った食堂に、みそ汁の湯気が立ち込めた。

 

「そんな事があったんですね……」

 

「何処からが子供で、何処からが大人なのか分からん……。俺はあいつの事、まだ子供だと思っていたが……」

 

「きっと、提督に子供だと思われているのが嫌だっただけでしょうね。大和が言っても、こうはならなかったでしょうし、本人も本当は子供だって分かっているのでしょう」

 

俺はそれに返事をしなかった。

 

「好きな人に良く思われたい気持ち、大和も分かります」

 

「……みそ汁、これくらいでいいか?」

 

「もうちょっと、ですね」

 

そう言って大和は笑った。

俺の照れ隠しを見抜いていたのだろう。

 

 

 

それから鈴谷は飯を食って、すぐに眠ってしまった。

 

「安心したんでしょうね」

 

「すまないな、陸奥、大和」

 

「いいのよ。そのかわり、今度は二人っきりでデートしてね。約束よ?」

 

そう言って陸奥は部屋へと戻っていった。

 

「モテますね、提督」

 

「父親と結婚したいという娘と同じだ。もっと広い世界でいい男と出会えば、また変わるだろうよ」

 

「そうでしょうか? 少なくとも、あの二人は違うと思いますよ?」

 

「言ってろ」

 

結婚した艦娘、恋人が出来た艦娘。

そのどちらも、自分の提督が相手だと聞いている。

人間となって浅い時期は、こうして身近にいる奴を意識してしまうのだろう。

 

「提督のお気持ちはどうなんです?」

 

「さあな。俺にも分からん。今は財布と部屋の寒さに耐えるので精いっぱいだ」

 

「うふふ、湯たんぽお持ちしますね」

 

大和の湯たんぽを受け取り、俺もすぐに眠りについた。

 

 

 

翌朝。

朝飯を食うために食堂へ行くと、大和と鈴谷が何やら料理をしていた。

 

「あ、提督! おっはー!」

 

昨日の昨日なのに、すっかり元気になってやがる……。

 

「提督、朝食をご用意するので、待っててくださいね」

 

「今日も用意してくれるのか」

 

「今日は鈴谷さんが用意してくれるそうですよ」

 

「昨日のお詫びに鈴谷がご馳走しちゃうよ!」

 

「お前、料理できたのか?」

 

「大和さんに手伝ってもらってるから大丈夫!」

 

「それはお前の手料理と言えるのか……?」

 

「うるさいなぁ。自分だって料理出来ない癖に」

 

そんな事をぶーぶー言っている内に、朝食が出来上がった。

 

「どうぞ」

 

「……いただきます」

 

大和が手伝っただけあって、味は悪くなかった。

 

「……どう? 美味しい?」

 

「ああ」

 

「本当!? えへへ、良かった。やったね」

 

そう言って、ニカッと笑った。

 

「ただ……この玉子焼きが凄く甘い……」

 

「あ、それ鈴谷オリジナルだよ。疲れた体には糖分がいいって聞いたから、たくさん砂糖を入れたんだー」

 

「俺はだし巻き派なんだよ。つうか、甘い玉子焼きにしても、これは甘すぎるんだよ」

 

「えー? ちょうどいい甘さじゃん」

 

「子供舌にはそうだろうよ」

 

「な……! また子供って言った! むぅ……もう怒った! そんなにしょぱいのが好きならお望み通りっ!」

 

そう言うと、鈴谷は醤油をドバドバと玉子焼きにかけた。

 

「かけ過ぎだ馬鹿!」

 

「ふーんだ……」

 

「こんなもの……」

 

「提督」

 

大和の目が俺を責める。

本当、鳳翔にそっくりだ……。

 

「分かったよ……ったく……。うぅ……しょっぺぇ……」

 

「残さず食べてよね!」

 

そう言って、鈴谷はまたニカッと笑った。

 

――続く。

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