16
例えば、それが恋だったとして。
+++
「おはようございまーす!」
「…おはよう、津々井。朝から元気だな」
「榊先生お酒くさいです」
ショック受けてるところ悪いですけど、あんた本当に今最高に酒臭いからな。容赦しませんからねあたしは。
そりゃ、昨日あれだけ飲んでれば酒も残るでしょうね。ちなみに現在朝9時の学校、渡邊先生の姿は見えていない。むしろ今日来るのかも怪しいんじゃないのか? 飲んだくれて部活に来ないとか、教師の風上にも置けないな! まぁ嫌いじゃないからいいけど。
聞いたところによると、結局昨日の夜はお店の閉店時間まで居座っていたらしいし、無理もない。年は離れてるけど、やっぱり馬が合ったんでしょうねぇ。
それはそれでいいとして、あたしはあたしの仕事をします。
「榊先生はあてにならないので、はい、景吾さん。昨日のデータ入れときましたんで、あとで確認してください」
「わかった」
「一応選別はしてますけど、何か注文あったら連絡ください」
「ああ」
まぁこっちはいつもやっていたことなので問題ないとして、今度は白石先輩に向き直る。
「で、白石先輩、こっちは四天宝寺の分なんですけど、どうしましょう?」
「どう、って?」
「データでお渡ししてもいいんですが、印刷したほうが良ければ印刷してお渡しも出来ます。その場合、明日までお時間いただきますけど」
「んー、せやな、印刷頼んでもええか? 料金は部費から出せると思うし」
「了解です、渡邊先生に請求書出しておきますね」
となると午後の予定の前に印刷所に行っておいたほうがいいかもしれない。予定の時間を逆算して、動かなければ。
そんなことを考えながら手帳で予定を確認していると、なんだか視線を感じた。顔を上げたら、しげしげと白石先輩があたしを見ている。え、なんですか。
「津々井、出来る子なんやな」
「えっへん」
「なんや、それ」
それから無駄のない微笑みを浮かべ、ポンと一度頭を撫でてくれた。い、いやぁイケメン。これは白石先輩モテるわ。わかるわ。
同じくイケメンという括りにいるくせに、性格が違うとこんなにも違うものなのか、と心底感心する。別に景吾さんと比べてるわけじゃないよ。比べてないからまるで親の仇でも見るかのごとき阿修羅の目であたしを睨むのやめろ。
じゃあ写真頼むな、と残して準備をしに部室に白石先輩が戻っていってから少しして、ごほん、と頭上から咳払いが聞こえた。なんですか、そのわざとらしい咳。
見上げれば、ちらりと一度景吾さんはあたしに視線を流した。一応さっきの人を殺せそうな視線はひっこめてくれていたらしいけど、感謝なんかしないからな。
「…お前、随分すっきりしてるじゃねえか」
「…そうですか?」
こうしてあたしと並んでいて景吾さんが喧嘩を売ってこないのは珍しい。
一応云っておくと、理由がない限りあたしから喧嘩を吹っ掛けることなんかないんですからね。年がら年中景吾さんと戦争してるわけではないのだ。おおむねあっちから喧嘩売ってくるから買ってるだけで、そもそもあたしは平和主義者です。
相変わらず完全に見下す視線で腕を組んで傲岸不遜そのものの態度だけど、それはこの人のデフォルトだ。今更なんとも思わない。
「ま、せいぜいうまくやれ」
小さく鼻で笑う、それは景吾さんにとっては上機嫌な証。
この人は本当に難しい。
訳の分からないところで不機嫌になって、訳の分からないところでご機嫌になるのだ。それなりにこの人のことを良く知っているとは思うのだけれど、こういう細かいところは未だに謎。
ともあれ、ご機嫌ならそれに越したことはない。
それに、どうやら、ほんの少しだけだろうけど、この人なりにあたしを心配してくれていたみたいだ。
今回の練習試合はどう考えてもそもそもはあたしに対する嫌がらせから始まってるんだろうけど、その中のほんのわずかな部分であたしの様子を見ておきたかったっていう気持ちがあったのだろう。
絶対やり方は間違えている。職権乱用にも程があるとは思う。
でも、少し、嬉しい。
あたしたちはこういう関係だから、お互い素直に心配だ、とかありがとう、とかそういうことは云わない。
云わないけれど、多分、伝わる。
なんだか気付いてしまえばくすぐったくて、思わず小さく笑ってしまった。
「…もうちょいうまいこと云えないんですか?」
「なんだ、俺に優しくされたいのか?」
「全然。優しくしてほしい人は他にいますから」
「そうかよ」
ふん、と鼻で笑うと、景吾さんはさっさとコートに行ってしまった。
氷帝のみんなは昼過ぎの新幹線で東京に戻るらしく、時間ぎりぎりまでは合同練習する予定だそうだ。観光もせずにひたすらテニスとは、恐れ入る。まぁあんな人たちでも意外とすごいプレイヤーらしいので、もしかしたらこれが普通なのかもしれないけど。普段の生活知ってるとこの人たちがすごいなんてミジンコ程も思わないから、周囲との認識の差に時々戸惑う。
いつもテニスしてたら格好いいのにね。
直接云ったら顰蹙ものだと自覚はあるので、思うだけはただである。
それからすぐ、コートに入った景吾さんと入れ違いでやってきたのはちょただった。今日も今日とて朝もはよから爽やかです。
「小毬、おはよう」
「おはよ、ちょた」
どうしたの、と首を傾げると、ちょたは一度後ろにいる先輩たちを気にしてからそっと腰を屈めてきた。おう、悪かったね小さくて。気を遣ってくれてありがとね。傷ついた。
「あのね、跡部さんもそうだけどね、みんな心配してたんだよ」
「心配?」
頷く。
もともとちょたは冗談なんていうタイプじゃないし、嘘も云えないまっすぐな人間だ。そして同時に心根の優しい人だから、その言葉は真実なのだろう。
真剣な眼差しをおちょくることなんて出来ないし、あたしは黙って話を聴いた。
「小毬、転校してすぐの頃、よく俺に愚痴の電話してきてただろ? 最近は全然なくなったけど」
「あー、うん、あの頃ね…」
「もしかしたら向こうに馴染めてないんじゃないかとか、みんなで心配してた」
学校に馴染もうともせずうじうじしていたあの頃のことだ。今思い返しても腹立たしいうじうじ具合、出来れば忘れてほしいけど、気遣い屋さんなちょたは気にしちゃうのだろう。
「それに跡部さんなんか、いつもみたいな喧嘩出来る相手がいなくなっちゃったから、顔には出さなかったけどすっごく寂しそうだったんだよ」
「あはは!」
「笑いごと?」
「そりゃそうだよ、景吾さんったら、実はあたしのこと大好きね!」
ちょっぴり拗ねたように口を尖らせるちょたの背中を軽く叩いて笑う。
笑っちゃうよ、ねえ。
だってさ、結局あたしと景吾さんって似てるのよ。
顔を合わせれば口喧嘩、時にはド突き合いに発展するようなあたしたちは、けれど根本的には同じだった。
似ているから、同じだから、衝突するのだ。
それは性格とか見た目とかそういうものではなく、もっと根本的な、生き方みたいなもの。
だからさっきの言葉はブーメランなのだ。
絶対直接なんか云ってやらない。
この言葉だけは墓場まで持っていくという確信がある。
けれどあえて、誰の耳にも届かない場所で口にすることがあるならば、こう云おう。
―――あたしだって、景吾さんのことが大好きだ。
あたしの笑いが景吾さんを馬鹿にした笑いじゃないとわかったのか、ちょたは腑に落ちないような複雑な顔をした後、諦めてため息をついた。
素直じゃない、なんて、そんなの今更あたしに云う事じゃないでしょう?
「俺たちはみんな小毬が好きだよ」
わかってるだろ、と。
真剣に云うちょたに、だからあたしも微笑んだ。
「あたしもよ」
当たり前だ。
大好きに決まってる。
氷帝ではいろんなことがあって、そのどれもが未だに色褪せない最高の思い出で。
腹立たしいことも山ほどあったけど、それを飛びぬけるほど楽しいこともたくさんあった。
「ちょた、ありがとうね」
離れてしまったことは悲しい。
だけど離れてしまってもこうしていられる関係が嬉しい。
「わかってると思うけど、離れてても俺、小毬の親友だからね」
真顔でこんな恥ずかしいことを云っちゃうんだから、ちょたは少しくらい恥じらいとかを覚えたほうがいいよ、あたし以外にやったら勘違いされちゃうから。
なんて思いながら、胸を張る。
「当然。嫌だって云っても一生ちょたの親友の地位はキープしてやるんだから」
そうしてお互い笑って、握った拳をぶつける。
こんな親友に出会えた、あたしは幸せ者だ。
しみじみと、そう思った。
+++
とりあえず、さっきのであたしの今日の仕事は終わった。氷帝のデータは渡したし、四天宝寺の分はこれから印刷依頼に出すだけで、さすがに今日の練習までは付き合えない。そもそもこの後予定があるからゆっくりしてもいられないしね。
ジロ先輩や向日先輩に捕まると逃げられなくなりそうな予感がするので、ここはさっさと退散するのが利口だろう。後で文句云われそうだけど、見送りには行く予定だから許してほしい。あと、夏東京に行くんだからそのときは思う存分付き合うから我慢しててくださいよ、先輩方。
みんなはそれぞれ自分の準備しているし、どうせ昼には戻ってくるんだからわざわざ声をかける必要もないだろうか。テニスやってるときはそっちに夢中になる人たちだし、まぁいいか。
じゃあ一旦失礼しまーすとそっと荷物を持ち上げると。
「あら、おはよう、津々井ちゃーん」
にこやかに手を振る金色先輩がそこにいた。
そして何の疑問も持たずに朗らかに挨拶を返すあたし。
「おはようございます、金色先輩」
「うん。うふふ」
ところが振り返って挨拶を返しても、金色先輩が立ち去る様子はなかった。
はて、写真のことはもう白石先輩と相談してるんだし、金色先輩に伝えることは特になかったと思うのだけれど―――…、と、ふと気付いてしまって息を止める。
すると、次の瞬間。
にやぁ、と。
…先輩、その顔、怖いです。
「で、昨日、どやったん?」
デスヨネーソウキマスヨネー。
気付かないでさっさと帰ればよかった、と思ってももう後の祭りである。
これは逃がしてもらえない。
しかも気遣いなのか素なのかわからないけれど、いつもニコイチな一氏先輩が隣にいないというのも気になる。見れば遠くで石田先輩や小石川先輩と話している。あ、すごいちらちら見てる。金色先輩ガン無視。ああ、可哀そう…面白いけど。
まぁ、いいや。
念の為近くに誰もいないことを確認してから、あたしは観念して口を開いた。
「…収まるところに、収まりました」
「えっ、ほんま? 謙也くんやるやないの!」
「あ、いや、すみませんちょっと違うんですけど」
おめでとう、と小さく拍手をしてくれた金色先輩に、慌てて訂正する。
というかもうこの人の場合は何を隠してもバレる気がするので、いっそ話してしまったほうが気が楽だ。からかったり茶化したりするような人でもないし、むしろ相談に乗ってくれそうだし。
そんなわけで手短に昨日のことを話すと、おかしいな、どんどん眉間にしわが寄っていった。
あ、あれ。こんなはずでは。
なんて気分に大混乱しているあたしを余所に、金色先輩は地を這うようなドスの効いた声で呟いた。
「…付き合ってはいない?」
「…はい」
「え、なんやのそれ。恋愛なめとんの?」
「な、なめてません!」
怒られました。
結構自分の中では落とすところに落としたと思っていたので、この金色先輩の反応はびっくり、というか予想外。正直あれ以外の収め方がわからないんですけど、どうしたらよかったんでしょうか。
ぼそぼそと呟いてみると、呆れたように息を吐かれた。
「津々井ちゃんはそれでええの?」
―――ああ、これは。
呆れているのでもない。
怒っていわけでもない。
心配を、してくれているのだ。
だけど。
「待っててって、謙也さんが云ったから」
浮かべた笑顔は、果たしてちゃんと笑えていたのだろうか。
一瞬面くらったように目を瞬いた金色先輩の反応からは判断しがたく、しかし自分では笑顔を浮かべたつもりなのだから、きっとちゃんと笑えていたのだと開き直る。
「…そ。なら、ええわ」
「ご心配おかけしました」
「ええのよ、ちゃぁんとふたりが笑ってくれるんならね」
にっこりと優しく笑って、ポンと頭を撫でられる。
くすぐったくてむずがゆい気持ちだった。もし姉が――もし、の話である――いたら、こんな風に話したりするのかもしれない。ひとりっ子の自分ではわからないけれど、きっと。
それから、いつもこの人を追いかけている人の気持ちが少しだけわかった。
この人は、見てほしいところを的確に見てくれる。
優しさだけではなくある程度の厳しさをもって、ほしい言葉を投げかけてくれる、そういう人なのだ。
「…一氏先輩が金色先輩のこと好きな理由、わかりました」
「あら嬉しい。じゃあ謙也くんやなくてアタシにする?」
すると、浮気か! と遠くで一氏先輩が叫ぶのを聞いて――結構離れてるのになんで聞こえるんだ、とは今は云わないでおこう――思わず笑って、けれどあたしは首を振る。
「金色先輩も大好きですけど、あたしは、謙也さんがいいです」
「妬けるわね」
コロコロとおかしそうに笑いながら去っていく金色先輩にひとつ頭を下げる。
ありがたいことだ。
ああいう人が傍にいてくれるというのは、きっとあたしだけではなくたくさんの人にとって感謝すべきことなのだと思う。
+++
実は今日は昨日の料亭の女将さんと今後の打ち合わせをする予定になっている。昨日の今日の話だけれど、女将さんから是非にと頼まれては断る選択肢などあたしにはない。自分の作品をあんなに気に入ってくれた人の頼みなら、なんでもやりたいと思うのも当然だろう。
榊先生、酒臭いとか云ってごめんね、でも感謝してます。
帰りには改めてもう一度お礼を伝えねば、と考えつつ、まだ待ち合わせの時間には早いけれど、遅刻するよりはいいので少し早めに移動しようと、あたしは一旦学校を後にすべく校門までやってきた。
今からならば打ち合わせの前に印刷所に寄ってからでも余裕だし、のんびり行こう。
あれ、そういえば今朝はまだ謙也さん来てなかったなぁ。
去り際に白石先輩が小声で『今日遅刻したらケツバットの刑やな』とか云ってたんだけど、大丈夫だろうか。ていうかテニス部なのにケツバットって。
と、ぼんやり考えていたときだった。
「遅刻やああああああ!!!」
…今思えば、初めて会った時もあの人朝練遅刻しそうになってなかった?
数か月前のデジャブに笑いを誘われ、あれからもう数か月経ったのかと思うと少しばかり感慨深いものを感じた。
たった数か月、もう数か月。
感じ方はいろいろあるけれど、この数か月であたしは随分と変われたと思う。多分、いい方に。
その原因は間違えなく謙也さんで、だけど謙也さんにはそんな自覚はないのだろう。
そんな謙也さんはもしかしたら遅刻常習犯なのかもしれない疑惑に、若干お株が下がりそうです。
心なしか遠い目になって棒立ちになっていると、いかなスピードスターと云えど所詮は人間の出せる速度での話。さすがに校門に突っ立っている人物がいることくらい目に入ったのか、あたしに気付いて急ブレーキで立ち止まってくれた。その足、鋼鉄製? そんな疑問を持ってしまったことは億尾にも出さず、にこやかに挨拶。
「お、津々井、おはよう!!」
「おはようございます、謙也さん。寝坊ですか?」
「おん、昨日帰ってからテンション上がって全然寝れんくて気付いたら朝で、ほとんど寝とらん…」
「ふふ、子供みたい」
ふにゃふにゃと、見てるこっちが恥ずかしくなってくるような気の抜けた笑みに小さく噴き出してしまった。だって心底嬉しそうに笑うから、まるで小さな子供がおもちゃを与えられて喜んでるみたいに見えてしまったのだ。可愛い。
が、あたしは聞き逃さなかったし、スルーしないぞ。
「ところで謙也さん?」
「ん?」
にっこりと笑って、人差し指を自分に向けて。
「あたしの名前は?」
にっこり、にっこり。
自分の笑顔が意外と威圧的にも使えると知ったのは中学に上がってからだった。景吾さんの影響なのかもしれないけれど、そんな怖い可能性はメガトンハンマーでぺしゃんこにしてから丸めて捨ててしまおう。だってあんな人の振る舞いに似たなんてどんなホラーよ。やだよ。
しかし今は使えるものは使うべきなので、にっこり笑顔は崩さない。
頬を軽く赤く染めてうっと言葉を詰まらせた謙也さんに容赦せず、更に笑みを深めて、数秒。
「…こ、小毬」
「はい、小毬です」
折角名前で呼んでって云ったんだから、そして昨日はちゃんと名前で呼んでくれたんだから、これから先だってそう呼んでもらわないともったいない。
少しくすぐったい気もするけど、この程度の違和感にはすぐ慣れるだろう。慣れるくらいに呼んでくれたら一番問題ないのだ。
可愛い反応も見られたし、あたしも時間がない。一度時計を見て遅刻にはならないことを確認して、改めて鞄を持ち直す。
「あたし今から打ち合わせなのでもう行きますけど、氷帝の見送りには戻ってきますから。そしたら一緒に帰りません?」
これくらいの我儘、許してほしい。
待つって云ったんだから待つけれど、ただ待つだけなんてつまらないじゃないか。
無理難題は押し付けない代わりに、ちょっとした我儘くらいなら云ってもいいよね?
甘えるように小首を傾げて見上げると、謙也さんは一度キョトンとしてから、ぱぁぁっと笑顔の花を満開にさせた。わ、わかりやすい。もう本当にこの人は可愛いな!
「ほんならたこ焼きでも食って帰ろ!」
「いいですけど、金ちゃんが食いつきそうですねぇ。あ、なんならみんなも誘います?」
「ん、ふたりで行こうや」
発言に驚いて、パッと謙也さんに視線を投げる。
すると謙也さんは云ってからいろいろ恥ずかしくなってきたのか、片手で口元を覆って顔を真っ赤にしていて。
「…へへ、じゃあ、ふたりで行きましょうか」
もう、この人はいちいち反応がずるい。
こんな反応されたらこっちまで照れちゃうじゃないか!
そうこうしているうちに謙也さんの携帯がなり、電話口からは静かな白石先輩の怒りの声が聞こえてきた。こんだけ離れてるのに聞こえるって、怒鳴ってるわけじゃないのに聞こえる声って、あの人の声帯どうなってんの。怖い。
とにかく謙也さんは顔色を青くして鞄を持ち直した。そういえばただでさえ遅刻しそうで急いでたのを忘れていたらしい。あたしも忘れてた、ごめんなさい。
「俺もう行くし、こ、小毬も気ぃつけや!」
まだちょっと名前呼びを恥ずかしがっているところがまた可愛い。ああ、この人本当に心底可愛いな! でも可愛いって云ったら怒りそうだから、にやける口元を必死で隠しながら、走り去る謙也さんの背中に一言投げかけた。
「怪我、しないでくださいね!」
軽くサムズアップしながら消えていく謙也さんに手を振って、前を向く。
自分でもびっくりするくらい、足取りが軽かった。
+++
多分今、あたしは幸せなのだ。
*****
付かず離れずタイム突入
あとはちょっと何個かイベントやって、終わりになると思います