オー・マイ・リトルガール!   作:秋元琶耶

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誕生日について

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「6月でした」

 

何気ない日常。

お弁当をつつきながら、そういえば、と明日の天気の話でもするかのように投げかけられた問いに、こちらもあっさりと答えたら。

 

「え?」

「えっ」

「なんで?」

「な、なんでと云われましても…」

 

まさかの疑問に動揺を隠せない。

え、何どういう意味。

なんでって、そりゃああたしも一応人間なのでとしか答えられないじゃないですか。

まるで世界に絶望したように謙也さんが頭を抱えてしまったのを見て、何故か理不尽な罪悪感が募る。

あ、あたし悪くないはずなのに…。

 

 

+++

 

 

「小毬の誕生日はいつなん?」

 

今度金色先輩の誕生日で、みんなでどっきりパーティーを計画中なのだと笑って話していた謙也さんが、ふと気付いたように口にした本日の話題。

いいなあ顔面ケーキ、あたしもやってみたい。誰にとは云わないけどやってみたい。誰とは云わないけど景吾さんに日頃のストレスを発散するかの如く全力投球したい。あ、云っちゃった。

実は去年の景吾さんの誕生日の時に計画は立ててたんだけど、土壇場でバレてケーキを没収されてしまい、計画は水の泡になってしまった。本当にあの人空気読めないよね。みんなでお祝いしてやろーって、少しでも楽しい誕生日にしてあげようと思って計画してたのにさ。いやまぁ、誰が楽しいって、顔面にケーキを投げつける役のあたしが一番楽しいんですけどね。

ああ、懐かしい。あれからもう一年近く経つのか。

 

そんなノスタルジックな気分になりながら何気なく返した言葉には、冒頭の絶望が返ってきたわけで。

「あの、謙也さん?」

「なんでや…」

「えー…」

ほら、あたしも一応人の子だからさ、誕生日というものがね、存在するんですよ。ビックバンから発生した未知の物体じゃないからさ、病院とか戸籍とかに記載されるような正式な生誕日がね、あるんですよ。

だから、なんでそんな日に生まれたん? みたいな顔されてもめっちゃ困るっていうか。

「なんで教えてくれへんかったん…?」

あ、そっちですか。

びっくりした、なんで生まれてきたのかとかそういう哲学とか親に云ってくれとかいう系統の話になっちゃうのかと思ったけど、杞憂だったみたいです。

でも別に隠してたわけじゃないんですよ。

「だって、自分から今度誕生日なんです、でも日曜日なんです、なんて云いにくいじゃないですか」

平日ならまだ軽口で、明日誕生日なんだー祝ってーとか笑って話せるかもしれないけど、よりにもよって今年のあたしの誕生日は日曜日だった。部活にも所属していないあたしが日曜日に誰かに会うなんて、わざわざ予定を組まない限りありえないし、そもそも誕生日だから祝って、なんて云うのも気恥ずかしい。一応家では両親からお祝いしてもらったんだしもう十分かなっていう気もするし。

 

ちなみに去年の誕生日は景吾さんからはミヤマリンドウの鉢植えをもらった。

もしもあたしが景吾さんと特に関わりもなく過ごしていて、あの人の性格をよく理解していない状態であれば、もしかしたら、ラピュタが見つかるくらいの確率で恋に落ちてしまうかもしれないようなすっごい笑顔で渡された鉢植え。

確かにあたしは花が好きだ。生け花も好きだし、その辺の咲いてる野草だって好きだし、園芸部が手入れをしている花壇の花だって大好きだ。切り花、押し花、鉢植え、樹花、なんでも好きだ。

だから花をもらうこと自体は嬉しい。たとえその相手が景吾さんだったとしても、花には罪はないのだから。

でもね、あたしは知っていた。

ミヤマリンドウの花言葉は、『悲しんでいるときのあなたが好き』。

ご丁寧に開花した状態で渡してくれたその手間暇を他のところでかけてほしいと思ったあたしは間違っているでしょうか。

あんたは純粋にあたしを喜ばせることすらしないのか、とその後取っ組み合いの喧嘩になったことは出来ればいろんな人の記憶から消えてほしい思い出です。あいつ絶対わかっててやってた。

 

そのあとちょたには花の刺繍が入ったストールをもらったり、幼馴染トリオ先輩たちからアロマオイルの詰め合わせ、忍足先輩からはマリメッコのポーチ(実は今でも愛用中)、日吉と樺地からはレザーのブックカバーとブックマーカーのセット(これもずっと使ってる)、滝先輩からは高級チョコレートの詰め合わせをもらい、人生で一番充実した誕生日だった。

あー、こうして考えると去年は賑やかだったなぁ。

ちなみに氷帝のみんなは今年も律儀にメッセージカードやプレゼントを贈ってきてくれて感動した。

今年はみんなでひとつ、立派な花器を送ってくれたのだ。ちょっと値段を考えたくないレベルの代物だったけど、ありがたく頂くことにした。次の展示会にはこれを使わせてもらおうと思っている。

あと景吾さんからは別途で赤いコスモスの花束が送られてきた。手書きのメッセージカードにはひとこと、『せめて花だけでも』。

え、何? この人毎年誕生日には喧嘩売らないとハゲる呪いでもかけられてるの? 『調和』が必要なのは誰よりお前だろ!

 

思い出してイラっとして思わず手にしていたリンゴジュースのパックを握り潰してしまった。飲み終わっててよかった。

自分の気持ちを落ち着かせるように大きく深呼吸して黙ってしまった謙也さんを見ると、ぱちりと目が合った。

「俺は、祝いたかったんや」

拗ねるように唇を尖らせる謙也さんを冷たく突っぱねるなんて出来るはずもなく。

はて、どうしたものか。

ぽりぽりと頬を掻きつつ考え、ひとまず謝ってみることにした。

「えーっと…。ご、ごめんなさい?」

「疑問系かい!」

だって実はそんなに悪いと思ってないし。

さすがにそこまで云ったら申し訳ない気がして云わないけど、だって誕生日ってそこまで大事かなって疑問に思っちゃうのも本心でして。

 

というか、正直照れくさい。

人の誕生日を祝うのはやぶさかじゃないけど、自分が祝われるとなると、嬉しさよりも先に気恥ずかしさが勝ってしまってどうにも苦手だ。

だけど、様子を見るに謙也さんは人の誕生日は盛大に祝いたい人なようだ。

どうしたものか。

ふーむ、とお弁当を片付けながらこの先の展示会の予定などを考え、今月末までは一応時間に余裕があることを思い出す。

それから、しょんぼりと残りのお弁当をつつく謙也さんの袖を引っ張って。

「謙也さん、次の日曜日は時間あります?」

問いかければ、少し考えてから暇であるとのお言葉。

なら、とあたしはにっこりと笑顔になった。

「じゃあ、その日一日、あたしにくれませんか?」

「へ?」

虚を突かれたように目を瞬いて首を傾げる謙也さんに、さらに追い打ち。

 

「誕生日プレゼントとかはいらないから、一日傍にいてください」

 

これくらいはいいよね?

もう誕生日事態は過ぎちゃったんだし、今更何か盛大にしてほしいとか、プレゼントが欲しいなんて云わない。

だけど謙也さんが祝いたいって云ってくれるなら、少しだけいつも以上の我儘をきいてくれるなら、いつもだと難しいことを叶えたい。

これまでは謙也さんは部活で、これからは推薦対策で忙しくなってしまう。あたしだって秋は展示会やコンクールが増えるから、夏前よりもずっと忙しくなるだろう。料亭との契約も続行中だし、頼まれている仕事もそこそこあるし、むしろ秋以降はあたしのほうが忙しくなる可能性のほうが高い。

今しかないのだ。

 

一日、たった一日で良い。

謙也さんを独り占めしてみたい。

ただ、傍にいてほしい。

 

そんな意味を込めて謙也さんを見つめると、しばらくはぽかんとしたまま無反応で。まさかこのまま寝たのかと思って目の前で手をひらひらと振ってみると、ハッと覚醒した。

それから挙動不審全開に視線をあっちこっちやって数秒、ポッと頬を染めて云った。

「…えーっと、ほんなら、俺がプレゼントっちゅー話で…?」

「ぶっ」

「わ、笑いなや!?」

「だ、だって、そういうのって普通、女の子がいうものじゃ…」

「…えっ」

途端、茹蛸のように顔を真っ赤にする謙也さん。

ちょ、ちょっと待って、今の別にそういう意味で云ったわけじゃないんですけど。

つられてこっちまで赤くなってしまい、どうしたもんかこの空気、と視線をさまよわせていると、ごほん、と謙也さんは咳払いをした。

 

「ち、ちなみに俺の誕生日、3月17日なんで」

 

いや、だから。

そういう意味じゃないん、です、が。

 

「…検討しておきます」

 

なんて答えちゃうあたしもたいがい馬鹿ですね!

ああもう、これめちゃめちゃ恥ずかしい!

 

 

 

 

*****

 

細かい設定はしてませんが、ヒロインの誕生日はなんとなく6月末くらいがイメージ

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