オー・マイ・リトルガール!   作:秋元琶耶

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あの日(番外編)

「謙也さんって、前に白石先輩に何かしたんですか?」

「へ?」

 

その話題は唐突だった。

現在昼休み、会議室。

小毬は頼まれた花を活けており、謙也はそれを眺めながら弁当をつついていた。

もはや小毬が学校中の花を活けているのは日常の一部となり始めた、ある夏の日のことだった。

思わずポロリと唐揚げを落としてしまった謙也がなんでや、と問うと。

「なんとなく」

しかし、なんとなくで生まれるような問いではないはずだ。

きっと彼女なりの根拠があるはずで、それは知らなければならないことだと謙也は思う。

すると小毬は、うーんと小さく考えながら大振りの百合を取り出して長さの調節をする。この花瓶のメインとなる花だ、細心の注意を払わなければならないので、少し謙也は答えを待った。以前、タイミングを間違えて話しかけてものすごく怒られた覚えがあるのだ。基本的に謙也は学習の人である。

 

それから数十秒、息すら止まるような静かな空気の後、するりと百合を花瓶に差し込んだ小毬は次の花を取り出しながら続けた。

「なんていうかな、違和感があって」

違和感。

そんなものが自分と親友の間に存在するのだろうか、とにわかに信じられず首を傾げると、ぱちん、と花の茎を切り落としながら淡々と小毬は云う。

「仲がすっごくよさそうなのはわかるんです。でも、どこか謙也さんが白石先輩に…遠慮してるように感じました」

「………」

「あたし、写真もやってるから、自分の周囲のことってよく見ちゃうんです。だから、謙也さんの違和感にも気付いちゃいました」

そういうの嫌だったすみません、と謝る小毬に、内心謙也は驚いていた。

 

気付かれるなんて思わなかった。

気付く誰かがいるなんて、思いもしなかった。

そうだ、自分は確かに遠慮している――というよりも、負い目を感じている。

 

一年前のあの日、全国大会。

立海大付属とのあの試合が、今でも謙也の心に重くのしかかって離れてくれない。

自分のせいで負けてしまったことも、先輩に繋げなかったことも、実を云えばどうだっていい。

そんなことよりも、白石に試合をさせられなかった、その一点だけが謙也の心残りだった。

あの日からずっと、謙也は白石に負い目を感じている。

消せることのないあの日の結果、覆せない日。

どうしたら彼に報いることが出来るのかわからないまま、今年も夏がやってきてしまった。

 

「謙也さん」

花は活け終わったのか、いつの間にか小毬は謙也のすぐ傍に立っていた。どうやらぼうっとしていたようだ。

「…大丈夫?」

頬に触れる、さっきまで花を扱っていた手。

水によく触れるから、決して滑らかなものではないその手は、けれど謙也にとってはこれ以上ないほど優しい手に思えた。

 

少しだけ目元に水分を感じて、ぎゅっと謙也は目を瞑る。

今は涙を流していい時ではない。そもそも自分が泣くのはお門違いの自己満足だ。

 

代わりに、縋るように小毬の手を握り、空いたほうの手で軽く抱き寄せた。小毬の身体は、思ったよりも簡単に謙也のもとにやってきた。

「…ああ、平気や」

小さな肩に額を預け、呟く。

「…もうちょい、このままでええか?」

拒絶されてしまうだろうか。

何せ、自分たちは付き合っていない。

 

好き合っている自覚はあるのに告白に至っていなのは、ちょっとした理由があるのだけれど、その話は今は関係のないことだ。

自分たちの関係は酷く曖昧で歪なものだった。

そんな関係を気に入ってしまっている自分も、また歪んでいる。謙也は自嘲したが、顔は小毬から隠れているので彼女がその自嘲に気付くことはないだろう。

恋人でもない相手に肩を貸すなんて、実はかなりプライドの高いこの少女が許してくれるものか、謙也には自信がない。

けれど。

「…はい」

少しだけ照れたような、承諾の声。

ああ、たまらなく愛しい、と思った。

許可の言葉に安心して、謙也はそっと目を閉じた。

 

あの日の後悔は消えない。

きっと一生忘れはしないだろう。

けれど、何故だろう。

 

この心優しい子が傍にいてくれたら、それだけでその後悔と向き合えるような、そんな気がした。

 

 

 

 

 

*****

 

実は根暗は謙也さんのほうだったちゅー話や

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