オー・マイ・リトルガール!   作:秋元琶耶

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『大丈夫。』

 

 

 

太陽は直視すると失明する。

だから視界の端に入れるだけで、十分。

 

 

+++

 

 

ひよこ頭との再会をしてしまった翌日から、あたしはアグレッシブになった。

というのも別にいい意味ではない。

つまり、逃げ回っている。

ヤンキー財前が余計なことをしたおかげで名前がバレた上に、あの調子ではクラスまでゲロッている可能性が高い。仮に財前が吐かなくとも、名前がバレた時点でクラスも割れる可能性は上がっているのだ。保険をかけるには越したことはない。

朝は花の依頼がない限りギリギリに登校、休み時間は即トイレに駆け込み時間を潰し、昼は人気の少ない裏庭の茂みでお弁当。放課後はチャイムと同時にダッシュで帰宅、当然テニスコートや部室棟には近寄らない。

そこまでする必要があるのかと問われれば、多分、過剰だと思う。

あの人があたしを訪ねてくると決まったわけではないのだし、来てもその場で逃げるなり適当にやり過ごせばことは済むはずだ。

でも、出来れば、もう会いたくない。

あんなキラキラした人は、あたしの灰色の中学生活には必要ないのだから。

先日、たまたま前の学校の友人から連絡がきたのでついでに最近のことを愚痴ってみたら、

『小毬って本当に、癖のある人に好かれるよね』

とのありがたいお言葉。お前ほんと面白がってばっかか! そろそろ泣けてきた。

 

実に友達甲斐のある友人のお言葉にほんのりしょっぱさを感じつつお弁当を突いていると、ガサガサという茂みをかき分ける音がした。

こんなところに来る物好きな生徒はあたしくらいだろうし、まぁどうせ犬猫の類だろうと特に気にもせず最後の卵焼きを頬張った瞬間。

「あ!」

「げ…」

ひよこ頭、登場。

噓でしょ。

もう引きつった顔を隠すこともせず固まっていると、焦ったように身振り手振りでひよこ頭さんは弁解を始めた。

「あ、あーっと、あんな、実は財前がな、津々井なら昼はこの辺におるって云っとって、その」

「…そうですか」

あいつ今度殴らせてくれないかなぁ。

つーかなんであいつあたしがここにいること知ってるの。怖いわ。

いろんな感情が複雑に絡まって、もうため息しか出ない。

そのため息を勘違いしたらしいひよこ頭さんは、気まずげに頬を掻いてぽつりと零した。

「…なんや、困らせてしもたみたいで、すまんな」

本当ですねと返したいところだけれど、そんな申し訳なさそうな顔で云われては、こっちが困るというもので。

「転校生で大変かもしれへんし、妙に気になってお節介したなってなぁ」

「…いえ」

 

…多分この人は、本当に悪気なんてないのだろう。

たまたま妙な時間に妙な奴と出くわして、そいつはどうやら転校生で周囲と馴染めていないらしい。

偶然とはいえそんなあたしと出会ってしまった彼は、気にせずにはいられなかったのだ。ただ純粋に、好奇心よりも前の反射のような気持ちで。

いくら学校では無口無愛想を演じていようと、そんな人に冷たくできるほど、あたしは冷徹にはなれない。

が。

「せや、財前に聞いたんやけど、自分あんま誰とも喋らへんみたいやな」

なんで? と本気で不思議そうに首を傾げるひよこ頭に、心底呆れる。自分でお節介してるって自覚してるくせにまだ踏み込んでくるとか、どんだけ無神経なの。

 

申し訳ないとは思いつつ、あたしもそろそろ面倒になってきた。ここらではっきり云っておけば諦めてくれるかもしれない。

ひとつ息を吐きだしてから、あたしは胸の中に溜め込んでいたものを吐き出すように口を開いた。

「転校初日に自己紹介をしたら、大阪にいるんだから、大阪の言葉を話せと云われました。無理して話せばそれはそれで馬鹿にするくせに、ずるいと思いませんか?」

「………」

「それにあたし、大阪特有のギャグのノリというかギャグについていけないんです。なんでもかんでもおもしろおかしくしようとするところは結構苦手。それを押し付けてくる人も、好きじゃない」

「…………」

「だから、黙ってようと思ったんです。友達はいらない。目立ちたくもないし、静かに中学生活を送れたらそれでいい」

彼はあたしが話している間、口を挟まずに聞いてくれた。顔を見ながら話はしなかったから彼がどんな顔をしていたのかは知らない。

けどどうせ、呆れているに違いない。だってこんな話はきっとこっちの人にとってはどうでもいいようなつまらない話だ。ただの学校に馴染めない転校生が拗ねているに過ぎない話だと、そう思うだろう。

 

「すみません、あなたは悪くありません。これはあたしの意地の問題だから」

手早くお弁当をまとめて、立ち上がる。

これ以上話すことはない。

未だに沈黙したまま立ち尽くしているひよこ頭さんにぺこりと頭を下げる。

 

「気を…悪くさせてしまって、ごめんなさい」

 

だって、初めて会った時からあなたは優しかったのに。

 

「気にかけてくださって、ありがとうございました」

 

関わりたくないと思った反面、嬉しいと思ったのも本当。

怖くて顔を見ることはできなかったけれど、それももう関係ない。ここまで話してまだあたしに構うような気はまさか起きないだろう。

だから、これで、お終い。

最後にもう一度頭を下げて、あたしはこの場を後にした。

あの人が追いかけてくる様子はなかった。

 

大丈夫。

あたしは、大丈夫だから。

 

 

 

 

 

*****

 

短めに。

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