オー・マイ・リトルガール!   作:秋元琶耶

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衝撃的事実

 

 

 

教室に入る前に、大きくひとつ深呼吸。

「…よし!」

軽く頬を叩いて気合注入して、いざ参らん!

 

「―――お、おはよう!」

 

 

+++

 

 

「…というわけで、クラスのみんなに受け入れてもらえました」

「おー、そかそか、よかったやん!!」

「はい、あなたのおかげです」

 

放課後拉致られて展望台であの景色を観た、その一週間後の放課後。

小さなことにこだわって殻にこもっていた自分が馬鹿々々しくなって、あたしは殻を打ち壊すことにした。え、決意と誓いはどうしたって? そんなもんドブに流して捨てたよ。

まずはこれまでは絶対に自分から挨拶なんてしなかった挨拶を、意を決して自分からしたのがあの日の翌日。

すでに8割程度の生徒が登校していた教室に入って、子供みたいに大きな声でおはようと云った瞬間の緊張を是非想像してもらいたい。初めてのコンクールの結果待ちをしていた時よりずっと緊張して手が震えていた。

ざわめいていた教室は一瞬で水を打ったようにしんとして。

それから、みんながおはようと返してくれた。

ホッとして、実は少しだけ泣きそうになったのは内緒だ。

そのあとはいろんな子が話しかけてくれて、お昼一緒に食べようだとか、今度大阪を案内してあげるだとか、朝の短い時間だけでたくさん話せた。

これまでのあたしは無口無愛想の仮面は鉄壁だったようで、やっぱりみんな近づかないようにしていたらしい。で、今のあたしなら話しかけられそうだと思ってくれたと。

いや、そうだよね、うん、ごめんなさい。

そうして話していくとあたしの持っていた偏見なんかどうでもよくなるほどみんないい子で、あたしは当初の態度を心底反省した。あんなつっけんどんな態度をとっていたことなんてなかったみたいにみんな親身になってくれるなんて、人間出来すぎてやしませんかね。

 

そこからの一週間は怒涛だった。

これまでの壁を打ち崩すようにクラスに馴染む努力をしていたら、あっという間に一週間だ。

おかげで随分クラスのみんなとも仲良くなって、合同クラスで一緒になることの多い6組にも仲の良い子が出来た。

ちなみにその流れで打ち解けた財前はヤンキーではないらしい。あんなにピアス開いてるけどヤンキーじゃないらしい。どうやら部活も真面目にやってる上にかなりの実力者でもあるとかで、なんかもういろいろ詐欺だと思う。ついでにひよこ頭さんに余計な告げ口をしたことについては一発殴らせてもらって平和的に解決した。

 

「それで、これ」

「ん?」

そうそう、今日の本題。別に暇つぶしに話に来たわけではないことを思い出して、慌てて持っていたトートバッグを差し出す。

「つまらないものですが、お礼です」

「…俺?」

「…あなた以外にいますか?」

この状況で。

休憩中なのだろうけど辺りには誰もいないんだから、あなたに決まっているでしょうに。それとも何、誰か見えてる? あなたの目にしか見えないお友達がいたりする? あたしホラーは嫌いじゃないけど冗談は好きじゃないですよ。

当然、とばかりに頷いて更にズイと差し出すと、ひよこ頭さんは一瞬戸惑ったようだったけど、少し考えてから受け取ってくれた。

「え、あ、なんやその、気ぃ遣わしたみたいで悪いな! おおきに!」

ほっぺ赤いけど大丈夫でしょうか。熱あるのかな?

まぁそれはいいとして、あたしが今こうしてクラスに馴染めているのも、そもそもひよこ頭さんのおかげだ。

直接何かをしたわけではないけれど、変わろうと思えたのはひよこ頭さんのお節介の賜物だったと思う。

だから、お礼。

 

ありがとうと言葉で伝えることは簡単だ。

だけど、どうにかして形にしたかった。

これはあたしの自己満足かもしれないけれど、感謝の気持ちを形として示したかったのだ。

 

「それで、あたしあなたの好みとかよくわからないので財前に訊いたんです。でも白玉ぜんざいが好きだって聞いて、さすがにそれは用意できなかったので、小豆入りのマフィンにしてみたんですけど」

「し、白玉ぜんざい?」

「? 違うんですか?」

合同クラスになったときに財前から訊いた情報によると、ひよこ頭さんは無類の白玉ぜんざい好きで、一日一回は白玉ぜんざいを食べないとストレスでハゲてしまうほどなのだという話だった。

それはいけない。

ハゲはいけない。

ならばお礼の選択肢は白玉ぜんざい一択、と云いたいところだが、正直あれは大量に持ってくるには重さがあるし、嵩張る。

キッチンでしばし考えて出した結果は、では小豆を使った何かを作ろう、というものだった。幸い小豆はたくさんある。マフィンなら手軽にできるし、大量生産も可能だ。

運動する人がどれくらい食べるかわからないから、とりあえずたくさん作れば問題ないだろう。多ければテニス部で分けてもらえればいいんだし。

「たくさん作ったので、よかったらみなさんで食べてください」

「お、おおきに!」

バッグを覗き込んだひよこ頭さんは、ちょっぴり複雑そうな顔をした後、しかし甘いマフィンの香りに気分を良くしたのか、にっこりと笑ってくれた。よかった、一応気に入ってくれたらしい。お菓子作りは大得意というわけではないが、結構好きだ。ひとつ味見をしたけど、それなりによくできたと自負している。部活終わりの空腹時にでも食べてくれたらよりおいしく感じるんじゃないだろうか。ほら、空腹は最大の調味料っていうし。

「ええと、それで」

「ん、なんや?」

キョトンと首を傾げるひよこ頭さんの無邪気さが、今は申し訳ない。

ごほんとひとつ咳払いをしてから、あたしは気まずい口を開いた。

 

「…今更で大変申し訳ないのですが、お名前、訊いてもいいですか?」

 

 

+++

 

 

ちょっと待て。

この人今、なんて云った?

あたしの聞き間違いでなければ。

「お、忍足!?」

声が裏返ってしまった。恥ずかしい。

しかしその恥ずかしさすらどうでもいいと思うほど、あたしは驚きに脳を支配されている。

「せや。忍足謙也。謙也でええで」

「は、はぁ…」

朗らかに云われて、しかしあたしはそれどころではない。

「あの、忍足って苗字、関西では多いんですか?」

「ん? いやー、あんましおらんなぁ。うちとうちの親戚くらいやと思うで」

そもそも全国的に少ない上に、特に大阪に多いというわけでもないという。

なんとなく、ある予感が脳裏をよぎった。

「ま、前の学校にも忍足って苗字の方がいたんですけど…」

「ほー、名前は?」

苗字。

大阪弁。

以前謙也さんが云っていた、関東に引っ越した従兄の話。

少ないながら大きなパズルのピースを繋げてみると、とあるひとりの顔が思い浮かぶ。

 

「忍足、侑士先輩」

「あ、それ従兄や。」

…世間て狭い。

 

 

 

 

 

*****

 

イケメンしかいない血族かよぉ!

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