オー・マイ・リトルガール!   作:秋元琶耶

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どうしたらいいのかなんて、わからない

 

 

 

「自分、謙也さんと喧嘩でもしたんか?」

「…してない」

「嘘こけボケ」

「う、嘘じゃない!」

「ほーぉ? ほんなら俺の目ぇ見てもっぺん云ってみ」

 

なんなのこいつ、関係ないじゃん。

昼休み、利用者がほとんどいない図書室に引きずり込まれて尋問を受けていた。こう書くと若干いかがわしいにおいがしなくもないが、それはそこ、あたしと財前である。色めいた雰囲気にはミジンコほどもならなかった。

本来は飲食禁止の図書室だけど、お弁当まで強奪され何故か司書室に通される。何でも今年から新任の司書は本の虫で、生徒そっちのけで図書室中の本を片っ端方読み漁っている人で、あまり司書室を使っていないらしい。もったいないから代わりに使ってるって、なんなのその某郷田武みたいな言い分。素で云ってるあたりが怖いわ。

まぁとにかく、つまり今あたしと財前はふたりで司書室にこもっている。逃げようにも出口は財前の後ろにあって、逃げられそうにもない。

「本当に、喧嘩とかじゃないんだってば」

じゃあなんだ、という目で睨まれる。こえーよ! あんた目つき悪いんだからガチで睨まれるとマジで怖いんだよ自覚しろ!

しかしこれは、すべてとはいかずとも多少は理由を話さないと逃がしてくれそうにない。

…いや、だから、本当に喧嘩じゃないのだ。

 

あの日、あの後。

まるで時間が止まったのではないかと錯覚するほど、気が遠くなるような沈黙を挟んだ後。

ぽかんとしたままの謙也さんと、自分の行いを思い返して茹蛸状態になったあたし。

ザ・ワールドを解除、時を加速させてくれたのは、テニスコートに現れた白石さんだった。ありがとうバイブル、ありがとうスタンド使い。自主練をしようとしてコートに出てみたら謙也さんがまだ帰らずにいたから声をかけてくれたらしい。

その瞬間、あたしは花と鞄をまとめてひっつかんで脱兎のごとく逃げ出した。

逃げるしかないでしょ。

逃げる一択でしょ。

あのままあそこにいたら、あたし、何するかわからなかった。

照れと羞恥で謙也さんをタコ殴りにしていた可能性すら否定できない。しかし謙也さんは跡部さんじゃないのだ、気軽に暴力をふるっていい相手ではない。だから逃げて正解。

 

それが、先週の水曜日のこと。

今日は週も明けた火曜日、あれから実に一週間が経っていた。

あの日から、一度も謙也さんと話していない。それどころから、転校してきた当初よろしく逃げ回る生活。この3か月で謙也さんが教室に顔を出すタイミングなどはある程度わかっていたので、そこを見計らって6組に逃げたりトイレに駆け込んだりしていた。

だって、どんな顔をしたらいいかわからないじゃないか。

「…ちょっと、失礼なことしちゃって。合わせる顔がないっていうか」

今思い出しても恥ずかしい。

謙也さんを台座代わりにしたどころか、その、無意識とはいえ、あんなこと。

云ってからちょっと頬の熱さを感じて思わず自分で頬を抓っていると、にやり、と財前が笑った。

何よ、すごい嫌な予感する。

すると、案の定。

…財前は、爆弾を投下した。

「いちゃつきついでにキスでもしたか」

「!!??」

「図星か」

いいいいいちゃついてへんわ!!

と大阪人が聞いたら激怒間違いなしの似非大阪弁で弁解する余裕など今のあたしにはあるはずもなく、金魚みたいに口をパクパクさせることしかできない。

何云ってるの、なんで知ってるの、どこで見てたの。

声にならない声で訴えれば、ごそごそとポケットを漁って、取り出したのは。

「激写」

ズイと差し出された携帯電話の画面には、一枚の写真。

それはテニスコートの中から撮られたようなアングルで、そこには一組の男女が映っていた。

っていうか。

「………!!!!」

これは一週間前の、あたしと謙也さんで、しかもこれは。

 

「消せ―――ッ!!!!!」

 

反射で握り拳をまっすぐ前に突き出していた。所謂右ストレートである。反射であるからして手加減なしで繰り出された渾身の右ストレートは、まさかこんな行動に出られるとは思いもしなかったのであろう財前の鳩尾に見事に吸い込まれていった。

だってこんなの悪趣味すぎる。

 

…あたしが、謙也さんの頭にキスしてる場面なんて!

 

 

+++

 

 

財前が復活したのは、丁度あたしが財前の携帯から写真を削除したときだった。

人の携帯を勝手にいじるなんてプライバシー違反なのは重々承知だが、それ以上にあたしのプライバシーが踏みにじられている事実に気付いてもらいたい。なので容赦なく削除。一瞬携帯自体を握り潰してやろうかと思ったけど、それは親御さんに申し訳ないので勘弁してやる。

「…相変わらずええパンチ持っとるやないか自分…」

「伊達に重いカメラ機材持ち歩いてるわけじゃないんで」

「謝れ」

「お前が謝れ」

「………」

「…………」

バチバチと火花が散る。云っとくけどあたし悪くないかんね。

 

断固折れる姿勢を見せずに踏ん反り返っていると、はぁ、と財前は小さくため息をついた。

なんだこのやろーため息つきたいのはこっちのほうじゃ。いいぞ、やるならやるぞ。ルール無用の残虐ファイトのゴングを鳴らすか?

と、ちょっとファイティングポーズでスタンバっていると。

「謙也さんの様子、おかしいんや」

首を傾げる。どうやら殴り合いをするつもりはないらしい。いや、あたしだってないよ。冗談だよ。

ポーズを解いておとなしく話を聴く態勢になると、ちらりとあたしを見てから続けた。

「ぼーっとしてると思ったら急にヘドバン始めて、そうかと思ったら赤くなったり青くなったり忙しないし、大会近いっちゅーんに心ここにあらずっちゅー感じでな」

…それは、不審ですね。

ありありと想像できるあたりが悲しいが、多分あたしの想像通りの謙也さんがいるのだろう。

ああ、ごめんなさい。

心底申し訳ない気持ちになって俯くと、呆れたような財前の声がした。

「…どうにかせぇよ」

視線が痛い。

お前のせいだろって、口にはしてないけどそう云っているのがよくわかる。

でも。

「…どうにかって……」

そんなの、わかんない。

あたし自身がどうしてあんなことしたのかわかっていないのに、謙也さんになんて云ったらいいの。

 

ごめんなさい、は違う気がする。

気にしないで、も違うと思う。

ならばなんと云えばいいのか。

あの日からずっと考えていて、こうして財前に問いただされている今も、答えは出てきてくれなかった。

 

 

 

 

 

*****

 

もうちょいどたばたする予定

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