タツキの精神状態が乱れた時と同じくして
「戦いに紛れて忍び込むのなんて容易いものだな」
黒服の男が藤丸やネロ達のいる建物内へ侵入していた。
騒ぎに紛れて侵入したのだ。
「ボス!ネロの首を落とすためにはまずあの剣士と盾兵が厄介かと。先程の戦いでも有能な者達が手に負えない程の強さでした」
「信じられんな。だが本当なのだろう。其奴らに見つからぬように潜り込むぞ。下手な戦闘は避けるように」
「「了解」」
3ん人組は建物内へ忍び込むと周囲を確認しながら足を進めた。
同刻
「タツキ達が戻るまでに準備を終わらせておきたいね」
「そうですね。タツキさん達は頑張ってましたから」
『寝坊してたけどね』
ロマンはタツキの精神状態が良くないことをモニターで把握していたがタツキの現状を藤丸達には報告しなかった。
タツキのことを思い藤丸はそのことを聞いたらまずこの場所を飛び出しタツキの元へ向かうだろう。
そうなれば、タツキ自身がそれを見られたくないと思っていたら最悪の展開になりかねないと判断していた。
「タツキらしくないよね」
「其方らはそのタツキという者を好いておるのだな」
藤丸とマシュの会話に疑問を持ったネロが声を掛けた。
その問いに藤丸は唐突だなと思いながら問いに対して問いで返した。
「どうしてですか?」
「寝ていて戦場に出れなかったなど、許せるものではない。それを其方らは何も咎めることをしていないのでそう思ったのだ」
「いや、それはタツキ自身が一番理解してるから俺達が何かいう必要は無いんですよ」
「ふむ。そうなのか。少し席を外す」
ネロの表情が少し険しくなり部屋を出て行った。
「侵入者め」
ネロは建物内へ賊が忍び込んだことを連中から少し漏れた殺気や敵意により気づき、それを始末するために部屋を出た。
風呂場
「へー本当に貸切にするとはねぇ」
武蔵は貸切にされた風呂へ入った。
「それにしてもタツキは何でああも一人で片付けようとするかなー。サーヴァント戦の時は私に頼る癖に。まさかサーヴァントじゃなくて同じ人になら勝てるとか自惚れてるんじゃ......自惚れてそうね。。。」
武蔵は湯船に顔をつけ湯船でブクブクしていた。
武蔵はタツキが現在、侵入者の始末をするために先に風呂へ入ってくれと言ったことは気づいていたがその後に起こることは予測できていなかった。
同刻
『タツキ君!大丈夫かい!』
タツキはその場所にうなだれて思考を巡らせていた。
何が起きたのかを把握するために深呼吸して精神を安定させようと必死だった。
そのタツキにダヴィンチちゃんは必死に声を送っていた。
『タツキ君!』
「ああ。大丈夫」
そう呟いたタツキの声からはとても大丈夫とは思えなかった。
「なあ。ダヴィンチちゃん、侵入者って敵だよな。例えそれが敵か味方かわからないとしても侵入して何かをしようとしたら敵だよな」
『え?どういうことかな?』
何が起こったかわかっていないダヴィンチは返事ができなかった。
「いやなんでもない」
そう言って通信を切った。
「そのお漏らしのように漏れてる殺気は何だ。殺気漏らしてる時点でお前らは敵だよな」
そう言ってタツキは殺気の漏れている場所へ向かった。
それは僅かな差であった。
タツキが族を見つけるやいなや刀を抜き溢れ出る殺気に族は気づきタツキを視界に入れた。
そして硬直した。
そこにあったのは死だった。
生きて帰れないと思わせる程の殺気がタツキから溢れていた。
「逃げ......」
逃げるぞと言おうとしたであろう族のリーダーの首が飛び、それを見て短剣を一人の男は構え、一人は足早にその場から去ろうとした。
「逃げんなよ」
タツキは小太刀を抜き逃げた男の背目掛けてそれを投げつけた。
小太刀は見事に男を背中から貫いた。
「お、おい!お前!俺はこの件から手を引く、だから許し......」
「手を引くとかそんなもんどうでもいいんだよ。侵入した時点で手を引くとかその次元は超えてんだ」
タツキは冷静に死を与えた。
そしてタツキの身体には返り血が飛んだ。
「ああくそ。ネロ帝にバレたら俺も殺されるかな。壁とか床が血だらけだよ。とりあえず死体の処理からするか」
そう言ってタツキは門へ向かった。
タツキが族を見つけて殺しにかかるのと同時にネロは族の姿を確認した。
来る方向が同じであれば話し合いの余地はあったかもしれない。族を拷問するという結論もあったかもしれない。
ネロが見つけた時には既に3人の前に死を体現したような男が刀を抜き走っていた。そして次の瞬間族の首は飛んでいた。
ネロは壁に隠れて様子を伺っていた。
族の様子ではなくタツキの様子だ。
「本当に死神のようなやつだな」
人を殺すことに対して何の感情を持たずただ当たり前の様に殺している様子は異様だった。藤丸という人間が信じる様なタイプでは無いとネロは思った。
アレは命令されればもしかしたら藤丸ですら殺すのではないかと。そう思わざるを得なかった。
全く。壁も床も血だらけだ。
死体をぶら下げて何処へ行くつもりだ?
ネロはタツキの後を追った。
ーーーーーー
タツキは門へ向かい、門番の一人へと話しかけた。
「すまんちょっといいか?」
「何だい?って!?血だらけだ!?」
門番の一人がタツキを見て驚いた。
そしてもう一人の門番が此方へ向け槍を構えた男の足元に族の首を投げた。
「悪い。族が侵入してたので三人ほど殺したんだ。始末頼む。それにお前らだって侵入を許したとなったら立場、危ういだろ?廊下に死体転がってるから早急に始末してもらってもいいか?」
「どうする?信じるか?」
「俺が門を守るからお前行ってきてくれ。流石に2人共行くのはまずいだろうしな」
「了解」
そう言って、最初に槍を構えていた、男が死体の処理へと向かった。
「さて、俺も風呂にでも行くか」
そう言ってタツキは人のいない平野へと出た。風呂とは真逆だ。街から出るのだからそんなところに何かがあるわけがない。
つけられてるな。
最初はただ偶然かと思ったが、俺の後ろをチョロチョロされるのはイラつくな。
(殺す)
タツキは後方へ殺気を飛ばした。
「余に殺気を向けて何のつもりだ!」
タツキが後ろを振り向くとそこには赤ドレスの女の子ネロ帝がいた。
「ネロ帝!?何の用ですか!?」
突然のネロ帝の登場にタツキは驚きを隠せなかった。
「まずは先の潜入者共の、始末感謝するぞ」
「見られてたのか。気にしないでください。通りかかった時にたまたまいたので」
「そうか。其方、余と立会いをしてみる気はないか?」
「剣での立会いですか?いいですけど手加減はした方がいいですかね?」
「もちろん無くて良い。余も本気で行くぞ」
「わかりました」
そう言ってタツキは太刀の秋を抜き構えた。
「うむ?二刀流とやらは使わぬのか?」
タツキが二本の刀を抜かなかったことに疑問を感じたネロから質問があった。
「俺は決闘とか剣士としての勝負では二刀流は使わないんだ。手抜きとかじゃないぞ?なんていうか己へかけた制約のようなものだ」
「そうか。だがそれは手抜きと余は見るぞ」
そういうとネロは赤と黒の異様な形をした剣を構えた。
形状からして突きがメインの剣か。
「悪いな。手抜きでは無いんだがそう思われても仕方がないと思っている」
「そう思うのであれば二本目を抜くが良い」
「抜かない」
そう答えると同時にネロは剣を構え飛び上がった。
は?
そして剣を上段から振り下ろしタツキめがけて叩きつけてきた。
おいおい。全体重ののった一撃かよ。それ避けられたら隙ができるのに。
二天一流-神無月 孤独剣 [ 撃墜 ]
タツキは振り下ろされるネロの剣を自分の刀で受けた。
そしてその受けた刀を左後ろへと引いた。
刀に全体重を乗せていたネロはバランスを崩しタツキの左後方へと転倒しかけたところをタツキが流した流れのまま刀の先でネロの背を狙い刀を突いた。
確実に必中コースだったのだが
「甘い!」
バランスを崩していたネロは左足でタツキを蹴り飛ばした。
「ってぇよ。皇帝様がずいぶんと派手な戦い方をなさる」
タツキは蹴られた左足を少し動かし問題ないことを確認すると、構えを解いた。
「二本抜く気になったのか?」
ネロは剣を構えることなく自然体のままこちらを伺っていた。
「そうだな、二本抜いてもって考ッ」
二天一流-水無月 其の一 水の無い夕立
無形からの斬撃。型がない故に隙を見せたら斬る。二天の技の中で一刀でも使える技だ。
「なっ!?」
ネロはギリギリのところでその技を避けていた。
いや違う
見られていた?
やばい!
タツキは反射的に首を後ろへ引き、ド派手系イナバウアーみたいになっていた。
そしてその上を赤い閃光が走った。
やべえ
タツキは必死に体制を起こし刀を振った。
しかしネロはそれを容易く避けそして追撃の斜め斬り。
タツキはそれに合わせて身を剣の方へ寄せた。
「なっ」
鮮血が弾けた。
タツキが自ら剣へ体を寄せたことにより最大の威力でのダメージを避け、そしてネロは思いもよらないタツキの動きに一瞬動きを止めた。
剣士にとって間合いの内側のさらに内側。そこへ敵の侵入を許すことはあってはならない。何故なら剣を振るうよりも前に敵に攻撃されるから。つまりこの距離は剣を振るうよりも拳の技の間合いとなる。
タツキはその隙を見逃すことなく一撃を振り抜いた。刀ではなく
コンパクトにただ単純に相手捩じ伏せる左拳
でネロの腹を打ち抜いた。
タツキがどおだ!と思った瞬間ネロは怯むことなくタツキの顔を左手で後方へ力強く押した。
「は?」
タツキは一瞬何が起こったのか理解できなかった。ネロはタツキをただ強く押しただけ。
だが、それによりバランスを崩し後方へバランスを崩したタツキの立つ場所はネロの剣の間合いであった。
バランスを崩したタツキは剣を振るうことはできない。
よって避けることのできない一撃がタツキを襲う。
ネロの剣が振り抜かれた。その剣には確実に殺気が込められていた。いや、この瞬間ネロは加減を間違えたのか、それとも鼻から決闘での敗者は死という考え方だったのかはわからない。だがこの一撃は確実にタツキを殺す軌道で殺意を込めて振り抜かれていた。
避けることなどできようもない。
俺の負けだ。と感じ取ったタツキを動かしたのは幼い頃から体へ叩き込まれてきた反射だった。
熱いものに触れた時すぐに手を離すようなものでタツキの場合、死にそうになった時身体はなんとしても生きるように動く。
ガンッという鈍い音と共にタツキの身体にネロの剣が振れる前に止まった。
「余の勝ちだな!」
ネロは叫んだ。
「殺すつもりで来てんじゃねーよ」
正直タツキは驚いていた。自分の反射がアレに反応できるとは思っていなかったからだ。
そして驚いていたのはネロも同じまさか止められるとは思っていなかった。
「すまぬ。其方に対して手を抜くことはできなかった」
ネロは殺気を消し、普段通りの状態へと戻った。
「余の勝ちでよいな?」
「二刀目を抜いたから俺の負けってか?まあそうなるか」
そう。タツキはネロの攻撃を止めるために左手で二刀目の刀を抜いてそれを防いでいた。
タツキの意思を無視し身体が二本目を抜いたのだ。
「少しは気が晴れたか?其方に一つだけ。怪しい動きをした者は今後も味方を惑わす。其方の判断は正しいと余は考えるぞ。では宴に遅れるでないぞ」
ネロはそう言い残しその場を後にした。
なるほど、それを伝えるために。その言葉を相手に納得させるために己の力を見せたのか。
流石皇帝様だ。
「風呂に入ってから参加するよ」
ネロは手を振り歩いて行った。
タツキは刀を鞘に収め、地面に尻をついた。
「あぁああああ。疲れたぁ。久しぶりの決闘楽しかったぁ。ま、負けちまったけど、学ぶことは多いな。つーか反射的に二本目を抜いちまったじゃねーか!」
何より一刀の制約は楽しむために俺がつけた掟だ。
それは二刀は敵を殺すために教え込まれた刀であり、一刀はタツキが名代に負けた後から本格的に学び出したため、タツキからすると決闘は殺しではなくお互いを高め合い認め合うものという認識のため、タツキは決闘において二刀は使わないとしていた。
「まさか咄嗟に抜いてしまうとはな。つーか女の子ってなんなの!って感じなんですけど。腹パンしたのにすぐに追撃して来たりさ、もう手に負えないっての」
タツキはその場に寝転がり空を見た。
「風呂に行きたいけど、疲れて動けません」
「なら運んであげようか?」
突然の返答に驚き声の方を見ると、タツキと空の間に顔を出したのは武蔵だった。
髪を束ねていない武蔵はレアだ。
「髪かわいいなそれ」
「なっ!?え!?タタタタタタツキ!?」
武蔵は顔を真っ赤にしてすぐに髪留めをつけた。
「もったいない」
「タツキ。怒るよ」
と言いつつも武蔵は若干嬉しそうなのか照れてるのかわからないが嫌ではなさそうだった。
「ごめんごめん。つーか運んでくれるなら頼むわ」
「了解」
そう言って武蔵は軽々とタツキを担ぎ上げた。
そうお姫様抱っこで。
「なんでその持ち方なんだよ!」
「えぇ?恥ずかしいのぉ?」
「はず!?恥ずかしいわけないだろ!ほらさっさと風呂まで運べ!」
武蔵がニヤニヤとこちらを見て来たのでタツキも引くわけにはいかない。
いやでもあれだよ。成人してる男に対してその二つの山が当たるというのは此方としても我慢せざるを得ない状況だがきついよ?ふわふわしてるし。重力を感じちゃうし
「タツキ。また負けたのね。最近負け越してない?」
急に武蔵の顔が暗くなりタツキの目を見て話してきた。
「うっせ!腹パンしたのにすぐに追撃されるとか思わねえよ」
気まずいのでタツキは武蔵の目から目を逸らし進む先を見た。
「あっちも歴史にその名を残す英霊になる人物だからね。それくらいはできる。それにね、ネロはあの瞬間少しだけ身体をタツキの方へ寄せたのよ?気づいてた?」
「は?それって」
「そ、タツキがネロの剣に対して行ったそれをタツキのパンチに合わせて行った。上手く返されたわけよ」
「ハァ。そんな奴らばっかかよ。もう疲れた。早く風呂へ連れて行ってくださいな」
「はいはーい。寄り道観光しながらお連れしますよ」
そう言った武蔵は門へ行き、ネロ宅へ行き、広間へ行き、藤丸、マシュの前を通り、街のど真ん中を通り、そして先程通り過ぎた場所へと戻り浴場へと到着した。
「着いたわよ」
「おいこら!ここさっき通っただろうが!」
「?何のこと」
ふふふと武蔵は笑いながらタツキをおろした。
武蔵的には楽しかったのだろうか?
呑気なやつだなーとタツキは思いながらも自分の顔に笑顔が溢れていることに驚いた。
「あーもういいですよ!運んでくれてありがと!じゃ風呂堪能してきますよ」
そう言ってタツキは浴場へと入った。
「たく!お世話様だよ!」
タツキは一人でそう呟いた。
「それじゃ私もご飯いただきましょうか!」
武蔵はご機嫌に鼻歌を歌いながら、藤丸やマシュのいる会場へと向かった。
ーーーーーー
ネロは歩きながらふと自分の首筋を触れた。
そこは先程一瞬だがヒヤリとした感覚が触れた場所。
そうネロがタツキに二本目を抜かせた際、タツキはもう片方の刀でネロの首を確実に落とす軌道で振り抜いていたのだ。
だがネロの首筋にふれる瞬間ネロが叫んだのだった。
「余の勝ち......か」
あれは死ぬと思ったから咄嗟に出た命乞いとも取れてしまう発言だった。
ああ言った瞬間タツキは右手に持つ刀を引いた。
その時のあの者の目は驚きの目をしていた。それまで見せていたその集中力が切れたような、全く別の目だった。
そうタツキは、はなから、殺すつもりはなかったということだ。
殺すつもりでやっていたのは最後の瞬間、タツキの目が急に殺意のこもった恐ろしい目になったあの瞬間だけ。あの時に嫌な予感がして叫んでしまった。形式上勝ちとなっているが、実際は喜びは無かった。
何故ならこの決闘が意味するものは
ーーー実戦なら殺されていたーーー
ということだからだ。
実際は実戦では無いし、勝ちは勝ちなのだが。
あれが殺し合いなら彼が二本目を抜いた瞬間余は首を斬られていた。
ネロは少しだけだが彼らがタツキを仲間と信頼する理由がわかった気がした。
タツキは実力を持ちそして信念の元戦っている。
二本目を抜けば負けとは。それでは二刀流の意味がないではないか。
ネロは少しだけだがタツキを認めることにした。
「それにしてもあの目......好かぬ」
ネロはそう言った時ネロの横を通り過ぎたのは、名は宮本武蔵と言ったか?其奴に担がれたタツキの姿だった。
タツキと宮本武蔵は楽しそうに話しながら街を走っていた。
「其方。切り替え早くないか。。。」
ネロはハァとため息をこぼした。
それにしても勝つためには何でもやるあの目が好かぬが、逆に良い。
ネロは何故かタツキとは上手く連携が組める気がした。
面白くなりそうだとネロの口元に笑みがこぼれた。