風呂場
貸切風呂というのはなぜか高揚するものだ。
そんなことを考えながらタツキは風呂場へ入った。
が。
そこは既に貸切ではなくなっていた。
おっさんどもが群がっとる。
「おぉ!来たな!異国の若いの!お前さん凄かったなァ!あれぞ正に一騎当千というべきか!」
湯船に浸かっていたおっさんが此方を見てそう叫んだ。
すると風呂場にいた者達が「あれが噂の」「あの子が?若いのにすごいな」などなど、すぐに出たいと思う程に注目を浴びていた。
「なんじゃこら。ネロ帝め。やりやがったな」
「なんじゃ?入らんのか?」
風呂を眺めながら立ち尽くすタツキを見て、おっさんが不思議そうにしていた。
「いや、予想と結果がズレていたのでその修正を」
「何を言っとるかわからん。まあええわ、好きなタイミングで入れ」
「そうさせてもらう」
掛け湯をして誰もいない端にゆっくり入った。
「ああぁああ」
うむ。気持ちが良い
本当に男しかいねーな。
周囲を見渡しても女子はいない。
つまり俺の選択は正しかった。
褒めてつかわす!過去の俺!
そういえばネロと戦った時、咄嗟に二本目抜いちまったけど、あの瞬間のあの一太刀に関しては俺の意志での一刀だった。
だが、守りの太刀で二本目を抜いたのは完全に反射的に体が反応していた。
あの時一瞬だが世界が歪んで見えた。
いや、歪むと言う表現は違和感がある。
分裂して見えたと言うべきか。
いや、もっと正確に表現するなら、いくつもの世界が同時に見えたと言うべきか。
その中のいくつかは俺はネロの剣で死んでいた。
走馬灯ではない。
あれは多分だが、別の選択をした場合の俺の姿だろう。
記憶に残るのは斬られて落とされる俺の姿。
そして俺は二本目を抜いていた。
俺の思考や意志を押し付け、反射が生き抜くことを選んだのだろう。
武蔵にはこのことは話すべきか。
それともダヴィンチちゃんに聞いてみるのもいいかもしれない。
これは本当にただの反射なのか?
そんな疑問を頭に抱えていると、ふと視線を感じ辺りを見回した。
「おいこらめテメェら!見てんじゃねぇ!」
「まあまあ坊主!皆お前さんのことが気になってんだよ!立会いたいってやつも多いんだぜ?そう怒んなよ」
先ほどから俺に話しかけてくるおっさんだ。
いつのまにか俺の隣まで来ていた。
不覚にも考え過ぎていて、こいつの接近に気づけなかった。
「あーそう。じゃ俺はもう上がる」
「そうか?じゃあ最後にだ、お前さんが何処から来たかはわからないが俺達からしたらお前は立派な戦士だ。頼りにしてるぜ?」
「好きにしろ」
そう言い残して風呂場から出た。
さて、宴に行くか。
カルデアの制服を着て刀を帯刀し、街へ出た。
宴ではネロやその他の人間達と少しだけ話してから部屋へ戻った。
明日からは遅れを取るわけにはいかない。
今日は早めに寝るか。
タツキはそのままベッドへと向かい、そのまま眠りについた。
この日以降タツキの眼にあらゆる可能性がはっきりと意識して見えることは無かった。
その一回は何かの偶然なのか必然なのか、その力があることを気づかせるためにあえてはっきりと見せた。
何者かはまだタツキにはわからない何者かが。
ーーーーーー
朝
タツキは誰よりも早く起きた。
そして制服を着て刀をベルトに帯刀、小太刀と太刀を抜刀し振り抜いた。
「調子が良いな」
二天一流の基礎の型をいくつか振った。
五輪書通りの修練を積んでいた頃はよく振っていたが、そこに自己の意思を入れて考え始めてからはあまり振っていなかった。
二天一流の構えには上段、中段、下段、右の脇、左の脇の五つからなる五方の構えというものがある。
個人的に左の脇、右の脇は苦手であるが、できないわけではない。
構えは状況に応じて変えれるくらいはできる。
だが苦手であるのでこういった時間にその構えを取って修練を積む。
少しづつレベルを上げていくのがタツキの最近の特訓である。
以前ダヴィンチちゃんからレイシフト中にハードな特訓メニューを組むのはダメだと言われたのでそこは守っている。
実際、レイシフト中に無駄に疲れるのは好ましくはない。
そのため身体を温める、精神を落ち着けるくらいにしている。
『練習か?精が出るなー?』『落ち着いて振れ』『もう一歩踏み込め』『叩っ斬るだけだろ』『おむすびか?すまんな』『娘さん元気そうで何よりだ』『すまんな助かったよ』『かけがえのない日々だからな』『私にもできます』『気持ち?そんなもの考えたことないよ』『僕のことは気にしないでよ』
『さて、始めようかの。戦いを』
タツキの頭の中で人の声が聞こえた。
その声の後、タツキの精神をより安定した、形でより戦える状態へ導いた。
よし、安定したな。
タツキはカルデアの制服を着て、制服の内ポケットにあらゆる小道具を入れた。
これはダヴィンチちゃんにお願いして改造を施してもらったことで内ポケットが左右合わせて12ポケットある。
そしてそこに入れたものの感覚と重さをわからなくできる作りにしてあり、即出すには不便だが持ち歩きには便利である。
そして制服をメンテナンスに出す度に柔軟性がよりタツキ専用の形へと改造されているのもわかる。
以前より動きやすくなっているからだ。
そしてタツキはいくつか技の型の練習をし時間を過ごした。
そして時間は過ぎ、ネロと藤丸、マシュ、武蔵の集まる部屋へと向かった。
部屋に入ると俺以外は全員集まっていた。
「お、タツキちゃんと起きたな」
藤丸が俺をみてそう言った。
寝坊しないか心配されていたらしい。
「おはよ。起きるよ。マシュも武蔵もネロ帝もおはよう」
タツキの到着を確認すると通信が入った。
『おはようございます。皇帝陛下。おはようタツキくん。皇帝陛下に実はひとつ大切なお願いがございます」
お願い?なんだ俺は聞いてないな。
藤丸達は知ってるみたいだ。
「うむ、何でも言ってみるがよい。余は寛大だぞ?」
「この時代に於ける我々の活動を安定させるためにエトナ火山へと参りたいのです。我々にとって、重要な霊脈があの火山には存在しているんです」
うーむ?とりあえず簡単にすると、活動をしやすくするために火山に行くということだな。把握した。
「エトナか。宮廷魔術師もエトナにはよく行っていたな。ふむ、なぜだ?」
「うむ。何故でしょうな」
「タツキは知らんのか?」
「皇帝陛下、私どもがらそのようなこと知っているはずありませんよ?」
「すみません。タツキはそういうのに関心が無くて。理由は戦力の確保の為です」
なるほど?戦力の確保ね。
「なるほどな。よくわからぬが、貴公たちの申し出は認めよう。貴公たちがエトナへと赴けば、それが余のため、余のローマのためになるのであろう?」
「らしいですね〜俺にはよくわからんのだけど」
「あいわかった!余は連合帝国の調査があるゆえ同行はできぬが、好きにするがよい。道中、連合の兵と見えた時には油断するなよ。それとタツキはもっと学んだ方が良いぞ?」
「善処します」
ーーー
「ふむ」
「フォウ」
「こうもあっさり到着できてしまうと拍子抜けだな」
『そうだね。この一帯は連合にとって重要な地域じゃないのかな』
「いえ、お二人共どうやら霊脈には既に何かが群がっているようです」
え?
うん?
うーん?
霊脈にはって言った?
「つまりあのごちゃごちゃしてるのが霊脈?」
「そうですね。そのごちゃごちゃしているのは怪物ですが」
「オバケかな?」
「お化けではないかと」
『死霊系の怪物かな?自然発生してるとしたら、大した霊脈だぞ!』
「タツキ意外だな。お化け苦手だったりするのか?」
藤丸が不思議そうにこちらをみた。
「心外だな。俺だって怖いものはある。そうだな斬れない奴は苦手だ」
「それどこぞの強者の台詞なんだけど」
「そうか?でも実際アレは斬れるし問題ないがな」
「そう?じゃ頑張って」
「おう!行くぞ武蔵」
「了解」
タツキと武蔵が先陣切って飛び出したのをみて、マシュとネロも戦闘へ加わった。
「クソか!さっさと落ちろ!」
斬れるのはいいが、謎に耐久値が高いな。
先程から斬っても斬っても敵が消滅することはない。マシュや武蔵の攻撃では普通にダメージが通っている。
ただの斬撃ではダメージが少ないのか?
お化けだから?
なら、魔術での攻撃なら届くだろうか。
要はルーンブレイドの
「フンッ!」
お化けはその斬撃により消滅した。
なるほど。通常の斬撃よりかはダメージがあるみたいだ。
聖召石ははめ込んでいるだけなので消費はされないし、このやり方をするならこの最後の聖召石は失うわけにはいかないな。
「よし、これで全部だな」
タツキと武蔵は刀を鞘に収めた。
「戦闘終了しました。ではターミナルポイント、作成します」
とマシュが作業を始めたので俺達はそれを見学しながら、周囲の警戒ということで周囲にいる連中の把握を行いながら作業が終わるのを待っていた。
そして効率よく作業は進み
「召喚サークル、確率完了しました。これでこの時代でも戦力が確保できるはずです」
マシュのその一言で俺は警戒態勢を解除し、マシュの元へと戻った。
「お?完了したか、剣士いるかな。剣士なら手合わせ願いたいな」
「そうね、私が先やるわよ」
「ハァ?武蔵は後だ!」
「何言ってんの!昨日先に皇帝と戦ったじゃない!」
「え!?待って待って!タツキ!ネロさんと戦ったの!?」
「なんだ藤丸。鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして。まあ負けたけどな。マシュも豆鉄砲でも食らったか?」
藤丸とマシュがとても変な顔をしていた。
「い、いえ。あの、平常運転で何よりです」
「だ、だね。いつも通りで何よりだよタツキ」
「そうか?お前ら、俺を戦闘狂とか思ってそうだな」
「違うんですか!?」
「違うの!?」
「なっ!?違うわ!俺はただ強いやつと戦ってみたいだけだ!」
(それを戦闘狂っていうんだ)
(それを戦闘狂っていうんです)
二人から無言で見つめられた。
「ま、いいや、とりあえず。武蔵さん?その煩い鯉口を黙らせないか?」
武蔵が鯉口でタツキを挑発して、ニヤニヤとしている。
「あれ?そっちこそ、煩い鯉口じゃない?ねえタツキ」
タツキも挑発で返し、二人の視線が交差した。
「「ははは」」
『あの二人は大丈夫かそう?』
ロマンがそう言った。
「えと、多分危険です」
「はい、少し避難をします。彼等が真剣にやり合うと思います。先にサーヴァントと戦う権利を賭けて」
そう言ってネロを二人が少し避難させた。
『待って待って!二人とも!まだ魔力反応があるみたいだ!サークル確立より前に霊脈から漏れていた魔力に引き寄せられたのか』
「武蔵勝負!」
「受けた!」
「ちょ!二人とも!敵が来てるのにそんなことやってる場合じゃ」
藤丸の心配は必要がなかった。
何故なら二人が同時に敵めがけて駆け出し、我先にと敵を斬り倒し始めたからだ。
「ウォオオオリャアアアアアアアア」
タツキが二刀を抜き片っ端から敵を追いかけ回して斬り倒していた。
羊を追いかけるように端から中心へ追い込むように。
敵を敵と思っていないみたいに。
逆サイドでは、武蔵が同じように羊狩りのように追いかけ回していた。
「似た者同士すぎる」
「どうしましょうマスター。私も戦闘へ加わった方がよろしいでしょうか?」
「そ、そうだな。群れから逃げたひつじ、じゃない!敵を倒して」
「ひつ?わかりました」
そう言ってマシュは群れから逃れた羊ではなく敵を倒しに参戦した。
「ふぅ、終了か」
「タツキ、せーの!」
タツキの武蔵は互いで笑みを浮かべそしてお互い数字を放った。
「18」
「17」
なんだと。
一匹負けた。
「私の勝ちね」
「チクショォ何匹か外側へ逃がしてしまったからカァ!あ、マシュナイスプレー、取り溢れの補給助かった」
「い、いえ、お二人こそ、流石です」
( うん!?敵意?)
突然気配を感じ、敵意のした方を見ると先程の取りこぼしが一匹逃げようとしていた。
それを見つけるやいなやタツキは地を蹴った。
それを見た武蔵は叫んだ。
「マシュちゃん!その獲物倒して!」
「え!?」
マシュは目を丸くしてそれを見ていた。
「させねぇええええええ!これは俺の獲物だ!藤丸どけぇええええええ」
「な!?ちょ!タツキ!?」
まさに猪突猛進の攻撃。
いや暴走だった。
敵めがけて真っしぐら、マシュがその敵に最も近かったが武蔵の声に反応したマシュは戦闘態勢には入っていなかった。
「任せます」
とだけすれ違い様に言われた。
「おう」
と答えて突進。
斬撃の技もなくただただ、全力疾走からの突進突きで敵を消し去った。
「しゃおらああああああ!武蔵!同点だな」
「タツキ。それ暴走っていうのよ」
「え?。あ。すまん」
藤丸、マシュはまあいつものことだからと許してくれた。
『ちょっといろいろあったけど、兵士たちがいないか注意しながら下山しよう』
ロマンにそう言われて帰宅することにした。
「連合ローマ帝国。サーヴァントを擁した勢力であるようですが。一体首魁は何者なのでしょうか。レフ・ライノールであるのか、それとも」
「あちら側にはマスターも付いてるようだし、厄介だな。名代は俺が相手できればいいけど」
『ボクの方では何も掴めていないけど、サーヴァントとマスターがいるなら戦闘は避けられないだろうね』
「マシュと武蔵には頼ることになるな」
「任せなさい!」
「頑張ります!」
『こんなに堂々とサーヴァントという存在が戦場に投入される。明確なまでの異常事態だ』
「相手がサーヴァントかどうかって見極められねーからロマンその辺頼んでいいか?もし万が一俺がミスってサーヴァントと対面した時はすぐに教えてくれ。まあ多分教えてもらわなくても何となくでやべえってのはわかると思うが」
普通に喧嘩売りたくはない敵の部類ではあるしな。
武蔵がいてくれれば頼りになるが武蔵も戦っててこちらは加わらない時は逃げなければならない場合もある。
『タツキくんだけを見てるわけにはいかないからその辺はボク以外に任せておくよ。ダヴィンチとかね』
「ダヴィンチちゃん?頼りになるな」
『任せておきたまへ』
「頼むわ」
ダヴィンチちゃんもそんな暇ではないのによく俺のサポートしてくれるなと思いながら頼ることにした。
『でも、キミたちがいなければきっと皇帝陛下も殺されてしまうだろう。どうか頑張ってくれ』
「「「「了解」」」」
その後、俺たちはネロ帝の待つローマへと戻った。
2部始まりましたね。
武蔵ちゃんの活躍がこんなに早く見れるとは思いませんでした。
とても嬉しいです。