馬を走らせていると、その男と遭遇した。
「レフ・ライノールさん。でしたか。全てを焼き払ったカルデアの一人だった方ですね」
モスグリーン色のタキシードとシルクハットを着用した、男性だ。
カルデアを爆破した犯人であり、オルガマリー所長を抹消した敵だ。
「おや。君は確か。あぁそうそう一般枠にいた剣士だったな。しかし何だその姿は。まるでサーヴァントのようではないか......ああなるほど。そういうことか」
「撤退すべきだ。こいつ只者じゃないナァ」
黒馬が後退りしながら、そう言った。
「マスターよ。だそです。引きますか?」
(こいつが此処にいるってことは、逃げるというのはガリアを捨てるって事になる。だが勝てる見込みは無いんだな?)
「フラッグデビルよ。勝率はどれほどですか?」
「私の感が正しけりゃ、もう一つの宝具でも勝てねぇな。ありゃバケモンダゼェ。見た目で判断すべき敵じゃあネェ」
「フラッグデビル?下等な人間が付けた名か?それを許容するとは驚いたよオロバス」
オロバスと呼ばれた途端、黒馬の様子が豹変した。
平兵衛を突き落とし、平兵衛とレフの間に平兵衛を守るように立った。
「平兵衛。これはマズイ。こいつ何者かは知らないが、私の事を知ってやがる」
「マズイとは。貴方は此方側でしょう。愚かな選択をしていることに気がつかないとは。全く愚かだ」
レフが足を進めると、フラッグデビルいやオロバスはその姿を変えた。
「本気で戦うしかなさそうだナァ。平兵衛逃げてもいいゼェ。私が時間稼ぎくらいしてやるよ」
「いんや。私も戦いますよ。仕方ないですね。では契約です、私の未来を授けましょう!オロバスよ真なる力にて我が望みを叶えたまへ」
「契約が成された。平兵衛の未来は喰らった。いつも通りフラグは喰っておいてやったゼェ」
「助かるよ。フラグを立ちたままにしてしまうとマスターに怒られるだろうからね」
「気にするなヨォ!私に必要なものは無い。お前と戦えるならそれが楽しいのでナァ!さぁ行こうか平兵衛!」
途端、オロバスを包み込むように、黒色の煙が上がった。
煙は数秒の後晴れた。
そしてそこには別の個体が立っていた。
黒色の鎧を纏い、手には斧を持った二足で立ち、馬の頭をした魔物がそこにいた。
「さて、始めますよ平兵衛」
その魔物は落ち着いた声色で、平兵衛に話しかけた。
「久しぶりに見たな。オロバスのその姿。よしでは戦うとしようか」
平兵衛は旗槍を構えた。
「行きます」
「ええ」
オロバスが突っ込み、それをレフが止める。
「魔術による障壁か?」
「愚かだ。オロバスッ」
オロバスの腹に魔術の球が被弾する。オロバスは吹き飛びながらも、斧を投げた。
レフがそれを綺麗に避けた。
「ハァッ!」
レフの後方で飛んできた斧をキャッチした、平兵衛がそのまま斧を振り抜いた。
「フッ」
レフが斧を手で受け止める。
「いいのですか?相手は二人ですよ?」
「セェアッ」
旗槍を持ったオロバスが、レフ目掛けて突っ込む。
平兵衛はレフの後方へ素早く回るために、槍を置いたまま動いていたのだ。
武器が飛んでくる事を予め聞かされていたように、動いていたのだ。
「魔術師だから接近戦ですか。考えが甘い」
レフが突っ込んでくるオロバスに向けて手を開いた。
その途端オロバスが吹き飛ばされ、その片手間で、平兵衛を魔術による攻撃で吹き飛ばした。
(危険信号だな。武蔵よ。マスターである宮本タツキが命じる。宝具を使用し、我が身を助けろ)
二人掛かりでも余裕を持って、戦うレフを見て、タツキは判断を下した。
意識の中で、そう告げると平兵衛の手の甲にある令呪が1画消えた。
さて、はじめての武蔵の宝具。見せてもらおうじゃないか。
(それと平兵衛時間切れだ。身体返してもらう)
「私が至らぬばかりに申し訳ありませんでした、マスター。オロバス撤退です」
「仕方ないナァ」
そういうと、オロバスは消えた。そして旗槍と斧も消え、タツキの肉体はタツキに返された。
「さて、レフ。俺が相手になる」
タツキが小太刀と太刀を抜き、中段で構えた。
「その状態で戦うというのか?だが、所詮は人間。始末して終わりだ」
「ああ。どれだけ強くても、所詮は人間の極致にすら達していない俺だ。戦えば負けるのは確定だろうな」
「では何故と聞くまでもないか。来たなセイバー」
全力のスピードで駆けつけた武蔵の背後には、黒色の四本腕にそれぞれ刀を持つ仏の姿が見えた気がした。
武蔵が刀を振り抜くと、光の光線がレフ目掛けて襲いかかった。
光の光線というよりは、魔術により肥大化した刀?なんなんだこれは。
周囲を巻き込む宝具の威力は凄まじく、離れていたタツキの元にまで、その風圧は届いた。
身を低くして刀を地に突き立て、吹き飛ばないようにしなければ、身体が持っていかれそうだった。
砂煙が舞う中、タツキは決して宮本武蔵から目を離すことは無かった。
全てを視界に収め、それが何なのか。しっかりと記憶したいと思ったからだ。
「これが武蔵の宝具」
俺の口から自然とそう漏れていた。
武士ではない。これがサーヴァント・セイバーとしての宮本武蔵の本気の一撃なのか。
「待たせたわタツキ。にしても宝具の使用を許すなんて、何事かと思ったけど、まさか親玉が出て来てるとはね」
武蔵の背後にいた仏は消え、いつもの武蔵がそこにいた。
「すまん。宝具の重要性は理解していたつもりだが、相手が相手なだけにな。だがまあそう簡単には倒れてくれないか」
レフのいたところを見ると、二つの影があった。
一つはレフ。そしてもう一つは
「ここまでか。申し訳ありませんマスター」
金色の鎧を纏った、赤みがかった髪の男だった。
「セイバーの足止めを命じたはずだが?みすみすこちらへの加勢を許し、宝具の身代わりになって消滅するか」
「はははこれは手厳しい。ですが申し訳ありません。御武運をマスター」
そう言い残し、金色の鎧の男は消えた。
「これだから使い魔は。仕方ない引きますか」
そう言ってレフは消えた。
サーヴァントを失ったのに、そこに対する感想は無いのか。
後悔とかするものじゃないのか?俺は武蔵を失ったらすごく後悔する。でもレフは違うのか。使い魔って言ったか。
つまり彼にとってのサーヴァントはその程度の認識でしかない。
英雄という認識ではなく、単なる使い魔の一つということか。
本当にカルデアの連中は何であんなやつを、いや違うか。あの時はあの人がいないと成立しなかったって言ってたな。
「それにしてもレフを守ったあのサーヴァント。何者だったのだろうな」
「ああ、ランサーね。たしか、スパルタの王?って言ってたかな?しつこく付きまとって来たのよ。それとタツキ。頼光が来てるわよ」
スパルタの王?
知らない場所ですね。スパルタクスの王様でしょうか? 違いますねはい知ってます。
「了解。それで逃げろと?」
「もちろん。手合わせするに決まってるでじよ?」
「当たり前だ!憑依かなんか知らんが、俺全然戦えてないんだよ!だから頼光さんと戦いたい」
「憑依?またアレやってたの?だから俺の身体を守れみたいなこと言っていたのね」
「まあな。武蔵が来るとわかってから、戻ったけど。俺的には武蔵と連携は楽しいから、それを俺の身体を使って別のやつにやらせたくないからな」
「なっ!?そう正面から照れるなぁ」
武蔵ははにかみながら、そう言うのだが、こちらとしては、そう照れられると俺も恥ずかしいのだよなあ。
『失礼。盛り上がっているところ悪いが、その近辺のサーヴァント反応は消えたよ。バーサーカーも撤退済みだ。ガリアの防衛お疲れ様。藤丸君達は現在女神と出会っているんだが、そちらもまたややこしくてね。あまりタツキ君達を見てられなかった。レフ・ライノールと戦ったそうだね』
ロマンだ。連絡もよこさないから藤丸達の方が大変なのはなんとなくで、予想していたのだが、女神と来たか。
出会って見たかったとは思う。神様なんて出会える事がまず無いからな。
「まあ戦うためではなさそうだった。ガリアを潰しに来たって感じだと思う」
『何か他の目的がありそうだから、気をつけてくれ。とりあえずは藤丸君達が戻るまではガリアの防衛をよろしくタツキ君』
「了解」
ロマンとの通信が切れて、俺はその場で座り込んだ。
「はぁー!しんどぉ〜。ないわぁ。ここの防衛なんて今攻めてこられたら無理に決まってんじゃんよ〜!兵士が半数近く怪我人だったのに、死者まで増えて管理職のトレネスは裏切り者ってもうさ〜」
「タツキ。同意よ。でも立ちなさい。ある程度の復興はしないと藤丸君達が戻って来た時申し訳が立たないわよ」
武蔵は相変わらず能天気というか、前向きというか。本当に精神面でも支えてくれるよな。
「申し訳が立たない...か。カルデアの剣士二人で守ってて、守り切れなかったなんて言われないようにしないとな」
「実際やられちゃったけどね」
あははと武蔵は笑いながら、俺に手を差し出した。
「それはこれからある程度は直せるだろう。というかさ、武蔵一人で守ってたんだよな?」
「え?ええまあそうね」
「成る程な。武蔵。俺の前で本気を見せた事無いだろ?」
俺がそう問うと、武蔵は一瞬怖い顔をしたのち、刀を握ってこう言った。
「タツキがまだそこに至ってないから、マスターのサーヴァントである私の本気は解放されていないという意味ではそうなるかな」
返された返答は、俺の思っていた答えとは違っていた。
本気を見せていないというのは、バーサーカーとランサーを相手に立ち回って、ピンピンしているというのが、驚きだったのだ。
先のランサーが武蔵の宝具から、ランサーは敗退はしたが、レフを完璧に守ったところを見て、あのランサーは守りに徹する時に力を発揮するのではないかと予想した。
そこにバーサーカーがいるならば、連携を組めば、矛と盾。武蔵からしたら最悪のコンビだったのではないかというところから来た質問だったのだ。
「いやそうじゃなくてだな。それも気になるけどさ、バーサーカーとランサー相手によく立ち回ったなって事」
武蔵はポンと手の平を叩いて、そっちか!と言った。
「連携されなかったからね。それにできもしない連携はただの愚策よ」
「成る程。まあそうか、あのバーサーカーそういうの苦手そうだもんな」
「苦手かはわかりませんが、私一人でも守りを固めて戦えば、時間稼ぎは出来ました」
「時間稼ぎねえ。まるで助けが来ると予測しているような事をするな」
「タツキが来るじゃない」
うは!武蔵さんそういうところですよ!過度な期待はしないでほしいな。嬉しいけど!嬉しいけど!嬉しいわ!
「行くけどね」
ポーカーフェイスを作り、内面の喜びは隠して話を続けた。
「それで俺が至っていない云々は?」
「それはね。私多分だけど生前に空位に至ったと思うのよね。これは予想とか慢心とかじゃなくて、確信に近いかな。それをハッキリと説明することはできないのが辛いところなんだけど」
「つまりね。タツキが空位に至るとサーヴァントである私も本来の力を取り戻せるって事だと思うわ!だからタツキ期待してるから、至りなさい空位に」
何という事だ。
俺のせいで武蔵の力に制御が掛かっているのか。だが空位に至れって簡単に言われてもな。意味がわからん。
空位って何だよ。武蔵は空位に至ったって言うが、どのようにって部分を忘れているのだろう。
俺へのアドバイスが出来ないようにってところか。
何故そのような試練を俺に与えるのか。
「いずれ至れる日が来たらさ、武蔵。俺と本気の戦いをしないか?」
武蔵の目に殺気が灯る。
きっと俺の目にも殺気が宿っていたのだろう。
武蔵は俺の目をしっかりと見て、答えた。
「望むところよ。ただ私がこの場所に留まっていられる間に至りなさい。私はその約束を破る事はしないから」
留まっていられる?ああそうかサーヴァントは役割を終えたら、座に帰るんだっけか。
「了解。目標さえあれば、俺は強くなれる」
タツキと武蔵はその日、お互いに殺し合いをするという約束を形は違えど成したのだ。
空位に至った者同士の本気の立ち会いは殺し合いを意味し、勝者が決まれば、切り捨てられるという事だ。