「終わりだな」
タツキの刀が、人の姿に戻ったレフの首に当てられていた。
「はい!」
俺の言葉に隣にいたマシュが答えた。
「馬鹿な....たかが英霊ごときに我らが御柱が退けられるというのか?」
レフは俺たちを見ながらそう言った。
「そうだったみたいだな」
「いや、計算違いだ」
「あ?」
レフは何やら1人でブツブツと言い出した。
「なにしろ神殿から離れて久しいのだ。少しばかり壊死が始まっていたのさ」
「負け惜しみだな」
レフの言う内容の半分以上は理解ができない内容だったが、負け惜しみであることは理解できた。
「負け惜しみ....言いたければ言えばいいさ。私も未来焼却の一端を任された男だ。万が一の事態を想定しなかった訳でもない」
「は?何言ってんだお前」
「タツキ!早くそいつを斬りなさい!」
「え?」
武蔵が叫び、俺はとっさに刀を振った。
レフの首を頸動脈を斬り割いた。
『聖杯の活性化を感知した!また何かが起きるぞ!』
「も、もう遅い!これこそ真にローマの終焉に相応しい存在だ」
死にかけのレフの発するその台詞から、死に際の台詞とは感じられない重みを感じた。
「来たれ!破壊の大英雄アルテラよ!!!!!!」
レフが叫ぶと空間が光り輝いた。
ヤバイのが来る!
タツキは瞬時に察しその場から後退した。
「ははははは!終わったぞ!ロマニ・アーキマン!人理継続など夢のまた夢!このサーヴァントこそ究極の蹂躙者!アルテラは英霊ではあるがその力は」
「せめてお前だけは殺す!レフ!!!」
タツキは再び刀を構え踏み込もうとした時だった。
「黙れ」
え?
目の前でレフが真っ二つにぶった切られた。
突如現れたその女性。アルテラと呼ばれた英霊によって。
白髪に褐色肌の女性だ。
手に握る剣は赤や青や黄色に発光していた。
「仲間....割れか?」
『何が起きてるんだ?』
「彼は....召喚したサーヴァントに両断されました。真名はアルテラ、恐らくセイバーです」
マシュがロマンに説明をしている中、1人のサーヴァントがその不意を突いていた。
「セヤァア!!!」
ガン!
武蔵の真後ろからの不意打ちをアルテラは手にした金色の器で弾いていた。
アレは先程レフの体から溢れ落ち、アルテラが抜き取っていた物だ。
まさかアレが
「聖杯っ」
武蔵はそのまま後方へ飛び距離を取った。
そしてその攻撃を受け止めた聖杯は、そのままアルテラの手に吸い込まれていった。
「私は、フンヌの戦士である。そして大王である。この両方世界を滅ぼす破壊の大王」
「破壊のーーーー」
アルテラがそう言った途端、周囲が空間が震えた。体にヒリヒリとした感覚があった。
何が起こるのかはわからない。ただ唯一わかることは。
とてつもなく危険だということだ。
「タツキ!こっちにこい!マシュ、宝具使用だ!」
「武蔵!後退だ」
「ああもう!わかってるわよ!」
武蔵はすぐにこちらまで来るとマシュの後ろに隠れた。
「
アルテラの剣の柄から放たれた赤色の光が天井を貫き、天に突き刺さる。
そしてその光が突き刺さった空に幾重にも重なる魔法陣の様なものが展開された。
そしてその魔法陣に収束されたエネルギーが光の柱となり、タツキ達のいる城を襲った。
「
それに合わせてマシュが宝具を展開する。
巨大な光の盾が出現し、タツキ達を守るように展開された。
「
そこへ走ってきた、ブーディカが状況を察し、すぐに宝具を展開した。
車輪が宙に出現し、アルテラの宝具を守るべく展開される。
そして宝具が激突した。
目の前で何が起きたのか、全く見えなかった。
ただ久し振りにサーヴァントの本気のビームを見た気がする。
なんて気楽に考えている場合ではないが、生きているという奇跡を噛みしめるには丁度いい。
『ああ、対城宝具の解放を間近にしながら、君たちが死んでいないのがボクには不思議なくらいだ」
「あと、ブーディカ来てくれたんだな」
「ギリギリだった」
「ロマンとりあえず、喜ぶのは後にしよう。問題のアルテラってのがいないんだが?」
俺は周囲を見渡すもその存在を確認できずにいた。
宝具により城は壊され、俺達は現在、荒野に放り出されていた。
それなのにその存在が視認できないということは。
「移動したのか?」
『ああ、方角から見て恐らく、首都ローマを目指すつもりだろう」
「だってさ皇帝様」
「余はローマをくれてやるつもりはない」
「ならば決まりだな。藤丸はどうする?」
「もちろんやるさ」
『と、言ってるそばから邪魔が入ったぞ。大型の魔力反応。アルテラと繋がった聖杯の魔力に呼び寄せられたのか。幻想種ワイバーンだ!』
ロマンの声を聞くや否や、俺と武蔵は飛び出した。
俺たちの役目を全うするか。
「おい、お前たち!」
藤丸は俺たちが飛び出したことに驚くがすぐに、呼び止めるのをやめた。
「任せたよ」
「任せろ!」
「任せなさい!」
俺と武蔵は答えて、敵の群れに突撃した。
「ぬああああああああああ」
「セヤアアアアア!」
俺と武蔵は敵のワイバーンを一太刀で切り落とし、続けて何体も始末していく。
「武蔵!狙うぞ」
「わかってる」
タツキは走りながら、敵を切り足を止めることなく進んでいく。
武蔵も同じくだ。
ガッ!
「ッブネェな!ゴーレムか」
いつのまにか現れたゴーレムが岩を投げて来たのでタツキは少し、足を止め横に飛んで、それを避けた。
そしてタツキはそのゴーレムめがけて走り、ゴーレムの胸に何かを貼り付けた。
「まあ試しにやってみるよ。簡易爆弾」
電源を入れて、対象に貼り付けると20秒後に爆発するってダヴィンチちゃん言ってたっけ。
ゴーレムなんて切れるかわかんねーし、モノは試しだ。
俺はそれを設置するとその場から走って一直線に進んだ。
すると後方からそのゴーレムが追って来ているのがわかる。
速度は遅いが充分に距離を置いてから爆発してほしいのに、近づいてくるなよ。
タツキはそう思いながらもワイバーン達を無視して走った。
「20秒」
タツキがそう呟いたと同時に後方で爆発が起きた。
近くにいたワイバーンを数匹巻き込みゴーレムは砕けた。
「威力たかっ!」
初めてみるその威力にタツキは驚きながらも、目的の人物を見つけ、後方を振り返ることはなくなった。
「武蔵!」
「いざ、参る!」
俺と武蔵がやろうとしていたことは、雑魚の始末なんかではない。
敵のボスの首を取ることだ!
「覚悟しろ!アルテラ!」
「破壊する」
俺の刀とアルテラの剣が交差した。
対面して数分が経とうとしていた。
アルテラの注意の八割は後方から隙を伺う、セイバーに注がれていた。
アルテラ自身、目の前の人間が脅威とは思ってない。
ただ煩わしいだけだ。
だからと言って無視はできない。
この人間は弱くないからだ。
隙を見せればアルテラを殺す程度には強い。
隙を見せなければ防戦一方だ。
しかしこれが決定的にアルテラが攻めきれない理由でもある。
無駄に攻めようとしてるならば、やりようはある。
この人間の目的は、仲間が到着するまでの時間稼ぎと、私の足止め。
そして私が無理にこの人間を抜こうとすれば、後方のセイバーにやられる。
この人間を殺すという選択肢もあるが、それは私の死を意味している。
後ろに控えているセイバーは、私がこの人間を打った瞬間の隙を見逃さないだろう。
だからこそこの配置はタチが悪い。
逆であれば、セイバーを倒して後ろから来た人間も倒せる。
きっとそれも考えられた上なのだろう。
マスターを倒せばセイバーは消える。しかしマスターを倒すのと私が切られるのは同時に起こるだろう。
この人間は自分を囮にして、私を取りに来ている。
そして先程から私の警戒がこちらの人間に向かられつつある。
剣を交える度に、こちらの手の内を明かしているようだ。
もちろんアルテラもそんなつもりはない。だがこの人間は剣を交える度にその鋭さを増していた。
やはり考えるばかりでは何も変わらない。
分が悪くなる一方だ。
やはり。
私は考えることは苦手だ。
「私は破壊するだけだ」
アルテラはその一言を口にすると。
目の前の人間を斬り伏せんと、その剣を振り抜いた。
鞭のように振り抜かれた剣が、鮮やかな弧を描きタツキの身体を襲った。
タツキはいきなり全力を出したアルテラを前に、一瞬行動に移すのが遅れた。
いや、遅れたではなく
反応できなかった。
「しまっ」
タツキの反射神経ではその剣を止めることはできない。
そうアルテラは読んでいた。
そしてそのまま後方へ切り返して、迫り来るセイバーの動きを一度でも止めれば、セイバーはマスターを失い消える。
考える必要などなかった。
はずだった。
目の前の人間がブツブツと何かを口にした途端、その動きが変わった。
まるで人が変わったように、その殺意が増しアルテラの剣を弾き返していた。
そしてこの人間と目が合った時ゾッとするものを感じた。
私と同様の目だった。
ただ壊す事だけを目的とした者の目だ。
いや、違う。この目はただの人間の目ではない。
「魔眼か」
そしてアルテラ自身が後方への注意を怠っていたと気付いた時には、アルテラの身体に深々と刀傷ができていた。
「セイ、バァ」
タツキに剣を止められた反動と驚きによる衝撃二つの出来事から生まれた硬直は、アルテラに致命的な隙を作っていた。
その隙を後方から狙っていた武蔵が斬り捨てたのだ。
「御免」
武蔵はそう言って抜刀した二本の刀を鞘に収めた。
武蔵が鞘に収めたと同時に、アルテラは光の粒子となり退界した。