ロビーの冒険   作:ゼルダ・エルリッチ

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18、ノランべつどう隊まいる

 「全兵、しゅつじんじゅんび、ととのいましてございます!」

 

 黒いよろいを着て、黒いかぶとをかぶったふたりの兵士たちが、ひざまずいていいました。

 

 こがね色のかみの男の人が、ひとり、そのさきでかなたの平原をながめていました。かれは、ほうこくにやってきた兵士たちと同じく、黒いよろいを着ております。ですが腰には、その黒いよろいとはなんともふつりあいな、こがね色のさやにおさまった、大きなおうごんのつるぎをさしていました。

 

 どうやらこの人が、この兵士たちのしきかんのようでした。そしてその人は、ゆっくりと兵士たちの方をふりかえると、するどいまなざしでこたえたのです。

 

 「じきに、本軍がとうちゃくする。それまで、たいきせよ。本軍がとうちゃくしだい、べゼロインへの進軍をかいしする。」

 

 「はっ!」

 

 しきかんのめいれいを受けて、ほうこくにきた兵士たちは深々と頭を下げて、下がっていきました。

 

 あたりはいちめん、赤茶けた荒れ野が広がっていました。そのさびしい土地にあわせたかのように、空には同じく、さびしげな雲がどんよりと広がり、今にもひと雨きそうなふんいきでした。風が吹いていました。ひゅうひゅうと石かべのあいだを吹きぬけていくその風の音は、なんともせつなく、かなしげでした。もし、風に心があるのだとしたら……、なにをかなしみ、こんなにもせつない泣き声を上げているのでしょうか? 去ってゆく者への思いか、あるいは手をのばしてももうとどかない、失ってしまった者へのかなしみか……。そんな風の心を受けとめたかのように。しかいの下に広がるおだやかな流れの大河のみなもには、小さな波が、つぎつぎと生まれては、消えていきました。

 

 ここは大河ティーンディーンのその大いなる流れが、ベーカーランドのくにの中へとはいりこんでいくところ。そのたいせつな場所を守るために、ここには、りっぱなとりでがきずかれていました。ほんの数日前までは、この場所はベーカーランドのゆうかんなる兵士たちによって、かたく守られていました。ですが今は、かれらのすがたはありません。かわりにやってきた者たち。それが今、このとりでの上の見晴らし台で言葉をかわしていた、かれらだったのです。そう、ここはワットによってせめ落とされた、リュインのとりで。そしてここにいるかれらは……、もうおわかりの通り。そのワットの兵士たちでした。

 

 こがね色のかみのしきかんは、重い表じょうを浮かべながら、かなたの空を見つめていました。そのさきには、もうひとつのベーカーランドのとりで、べゼロイン。そしてさらにそのさきには、エリル・シャンディーンのみやこがあるのです。

 

 よこしまなるワットの、黒の軍勢。その兵士たち。それをたばねるしきかんなのですから、このこがね色のかみの男も、さぞかし悪いやつなのでしょう。ですが……、この人は、どこかほかのワットの兵士たちとは、ちがうような感じがしたのです。「なにがちがうの?」ときかれたら、はっきりとはこたえられないのですが、どこかその心のおく底に、深いなやみをかかえているかのような……、そんな感じがしました。

 

 でもワットの黒騎士たちと同じようなおそろしい黒いよろいを着て、そばには同じく、こわいデザインをしたまっ黒なかぶともおいてあります。この人物が、おそろしいワットの軍勢のしきかんであるということに、ちがいはありませんでした。

 

 

 こがね色のかみのしきかんは、ふたたびきびしい顔をして、見晴らし台からとりでの中へとはいっていきました。入り口の兵士が敬礼をして、かれのことをむかえます。

 

 「本隊への、ほうこくじゅんびはできているか?」しきかんが兵士にいいました。

 

 「はっ、うさぎの用意、ととのいましてございます。」兵士がこたえます。うさぎ?

 

 「よし。だれも部屋にいれるな。重要なほうこくだ。」

 

 こがね色のかみのしきかんは、そういって石のろうかをひとり進み、そのおくのひとつの部屋の中へとはいっていきました。そこは石づくりの小さな部屋で、まども家具も、なんにもありませんでした。ほんとうに、からっぽの部屋だったのです。いえ、ひとつだけ、この部屋のまん中の床の上に、おかしなものがありました。それは木のつるをあんで作った、ひとつの鳥かごだったのです。ですが、その中にはいっていたのは……。

 

 うさぎです! さっき兵士がいっていたのは、このうさぎのことだったようです。見たところ、なんのへんてつもない、ふつうのいっぴきの、はい色のうさぎのように見えましたが……、いったいこのうさぎで、なにをしようというのでしょうか? 

 

 こがね色のかみのしきかんは、部屋のとびらに大きなかんぬきをかけて、だれもはいってこられないようにしました。わきにかかえたかぶとを床の上におき、そしてかれは、なんと、鳥かごの中のうさぎにむかって話しかけたのです!(え? このうさぎって、しゃべるうさぎなの? いえ、このうさぎは、ほんとうに、ただのうさぎでした。じつのところ、さきほどそとのしげみの中で、兵士たちが見つけてきたばかりだったのです。それじゃ、いったい?)

 

 「アーザス、わたしだ。」

 

 アーザス! ここで、あの魔法使いの名まえが出るなんて! 

 

 しかもそれ以上におどろいたのは、あのアーザスのことを、よびすてにしたということでした。ワットの軍の中でも、もっともえらいところにいるはずのアーザスのことを、よびすてにするなんて! いったいこの人物は、なに者なのでしょうか?(アーザスは黒の軍勢のさんぼうとして、ワットのアルファズレド王の仲間に加わっていました。このさんぼうというのは、軍の中でいちばんえらい王さまにちえや力を貸す者のことで、さんぼうはアルファズレド王とならぶくらい、えらかったのです。ですからそのアーザスのことをよびすてにできる人物なんて、ワットの者の中では、ほかには、王であるアルファズレドくらいのものでした。ですからおどろいたのです。)

 

 しきかんが話しかけると、それまで鼻をひくひくさせて、鳥かごのにおいをくんくんかいでいるだけだったうさぎのようすが、変わりました。くりくりとかわいらしい大きな目が、急に、切れ長のおそろしい目つきに変わったのです! そしてその口もとにぶきみな笑みを浮かべると、うしろの二本の足で、すっくと立ち上がりました!(こんなふうに、うさぎがふつうに立っているところなんて、めったに見られるものではありません! うさぎの種族、ラビニンだったら立ちますけど!)

 

 「ああ、ガランドーだね。げんき?」うさぎがしゃべりました! そしてその声はまさしく、あのアーザスのものだったのです!

 

 これは、アーザスの魔法でした。遠くはなれたところにいる者と、動物のからだを通して話しをすることができるという、おどろくべきわざだったのです!(げんざいこのアークランドでこの魔法のわざを使えるのは、アーザスと、大けんじゃノランくらいのものでした。それほど、この魔法はあやつるのがむずかしかったのです。

 ちなみに、使う動物は小さな動物だったら、なんでもよかったのです。たまたま兵士がうさぎを見つけたので、こんかいはうさぎでした。)

 

 それはそうとして……、アーザスのいった、ガランドーという名まえ。この名まえを、みなさんはきいたことがあるはずです。それは第十六章の終わり、エリル・シャンディーンのお城の前で、ライラとベルグエルムが話していた、その話しの中に出てきた名まえ。ワットのあのおそろしいディルバグの黒騎士隊の、しきかんと思われる人物の名まえでした。そしてこのうさぎ(アーザス)と話していた、こがね色のかみのしきかんこそが、まさしく、そのガランドーだったのです!(じつはこのガランドーは、ここよりもっと前に、すでにみなさんの前にそのすがたをあらわしていたのです。え? ほんと? と思われるでしょうが、第十三章のはじめ。うでにリボンをまいたワットの使者が、ディルバグに乗ってワットの王城にもどってきた場面のことを、思いかえしてみてください(ちょっともどって、読んでみるのもいいでしょう)。その使者につづいてやってきた、身分の高そうだった、こがね色のかみの兵士がいましたよね。そう、じつはあの兵士こそが、このガランドーだったのです。)

 

 「なにもかも、おまえの思い通りだ。まんぞくだろう。」

 

 ガランドーが、怒りのこもった声でアーザスにいいました。それをきいたアーザス(うさぎ)は、「くっくっく。」という、いつもの笑い方をしてこたえます。

 

 「きみの力には、いつも助けられるよ、ガランドー。ほんとうにきみは、よくやってくれる。でも、ここからが、ほんばんだからね。さいごの戦いでも、ぼくのきたいに、こたえてくれるかな?」

 

 アーザスの言葉に、ガランドーは「くっ……!」という声を上げて、アーザス(うさぎ)のことをにらみつけました。そしてふりしぼるように、強い思いをこめて、いったのです。

 

 「つとめは果たす。だが、いいか。おまえがやくそくを破ったら、わたしはおまえを、ぜったいにゆるさんぞ。」

 

 「えー、こわいなあ。」アーザスはそういって、また「くっくっく。」と笑いました。「あんまり、おどかさないでよ。ぼくは、気が弱いんだから。」

 

 よくいいます! 今までたくさんの、ひどいことをしておきながら!

 

 「でもねえ、やくそくのことをいったら、それは、ぼくだって同じだよ? きみがやくそくをしっかり守ってくれれば、だーれもきずつかずに、すむんだから。あの子だって、ね。」

 

 「きさま……!」

 

 ガランドーは怒りにふるえ、こぶしをにぎりしめました。どうやらこのガランドーとアーザスとのあいだには、人知れない、ひみつのやくそくがあるみたいなのです。そしてそれこそが、ガランドーがアーザスにつきしたがって、このワットの軍のしきかんになっている、ほんとうのりゆうのようでした。

 

 「わたしは、やくそくを守る。いもうとには……、ライラには、ぜったいに手を出すな!」

 

 いもうと……! ライラ……!

 

 そうなのです……、このワットのこがね色のかみのしきかん。おそろしいディルバグに乗った、黒騎士隊のしきかん、ガランドー・アシュロイは、あのベーカーランドの白の騎兵師団の隊長である、ライラ・アシュロイの、お兄さんでした……!

 

 いっぽうは、ベーカーランドの白の騎兵師団の隊長……。いっぽうは、ワットの黒の軍勢のしきかん……。まるでせいはんたいの立場にあるこのふたりの人物が、血のつながった、兄といもうと。なんて、つらくて、ざんこくで、重いじじつなのでしょう!

 

 「ぼくだって、そんなことしたくないよ。だから、きみには、もっとがんばってもらわなきゃね。」アーザスが、あっけらかんとしたいい方でいいました。

 

 ガランドーは、自分の手を見つめました。どうしてもやらねばならない、みずからのつとめ……。それをかれは、痛いほどにわかっていたのです。

 

 「もうすぐ、本隊がつく。まずは、べゼロインだ。」ガランドーがいいました。

 

 「ああ、そうだっけね。ベゾルインか。」アーザスがきょうみもなさそうに、いいました(アーザスはきょうみのない物や人物は、名まえをしっかりおぼえていないのです)。

 

 「じゃ、よろしくたのむよ。ああ、そろそろおやつの時間だから、切るね。いいほうこくがきけることを、楽しみにしてるから。ばいばーい。」

 

 アーザスがそういうと、鳥かごの中のうさぎは、とたんにもとのうさぎにもどって、きょとんとした顔つきで、また鼻をひくひくさせはじめました。

 

 ひとり残ったガランドーは、そのまま動かず、にぎったその自分の手を、じっと見つめていました。アーザスとのやくそく。それは、いもうとのライラの身の安全のほしょうとひきかえに、みずからのその身を、アーザスのもとにささげるというものだったのです……。

 

 ガランドー・アシュロイ。かれはもともと、白の騎兵師団の人間隊の副長でした(兄のガランドーでも、いもうとのライラには、剣のうででかないませんでしたから)。白の騎兵師団の、副長。それが黒の軍勢のがわにつけば……、ワットにとって、ひじょうにやくに立つそんざいとなります。ベーカーランドのさまざまなじょうほう。白の騎兵師団のじょうほう。兵士の数。戦い方。とりでの中がどうなっているのか? それらのことが、すべて、ワットの知るところとなるのですから。ワットにとって、そのりえきは、はかりしれないものでした。

 

 アーザスはそれをねらって、ガランドーに目をつけたのです。アーザスは、ガランドーのじつのいもうとが、同じ白の騎兵師団の隊長であるライラであるということを知って、それをりようしました。それも、なんともじゃあくきわまりない、方法でもって。

 

 アーザスはガランドーにいうことをきかせるために、ガランドーのいもうとであるライラに、じゃあくな魔法をかけました。アーザスがその魔法ののろいをとき放てば……、ライラは、やみの世界に取りこまれてしまうのです。自分にそんなのろいがかけられたなんてことは、ライラはまったく、気がついていません(この魔法はじっさいにそののろいがとき放たれるまでは、かけられた者のからだには、なんのへんかもありませんでしたから。じつにおそろしい魔法です)。ただひとりガランドーだけが、とつぜんに自分の前にあらわれたアーザスほんにんから、そのことをきかされました(アーザスはその気になれば、ガランドーほんにんにたぶらかしのじゅつをかけて、かれを思いのままにあやつって、味方にひきこむこともできました。ですがアーザスは、わざと、かれのいもうとをねらったのです。あやつり人形みたいにいうことをきかせるより、その方がおもしろそうだから。アーザスはそう思いました。ひどすぎます! そしてアーザスがライラではなく、ガランドーに目をつけたわけも、そこにありました。兄であるガランドーの方が、年下のいもうとのことをかばう気持ちが強いはずだと、アーザスは思ったのです。その方がよりいうことをきかせやすいし、楽しいだろうと、アーザスは考えました。ほんとうにひどい!)。

 

 やみの世界にとらわれていく、ライラのすがた……。アーザスはガランドーに、そのみらいのえいぞうを見せつけました。こんなものを見せられて、兄であるガランドーに、どうしてさからうことができたでしょう……? かれはアーザスに、ただただ、したがうほかはなかったのです……。

 

 こうしてガランドーはただひとり、ライラへの手紙だけを残して、ベーカーランドを去りました。手紙の中でガランドーは、アーザスのことも、ライラにかけられたのろいのことも、なにもいいませんでした。ただライラに、自分のしんねんにしたがって、強くしあわせに生きてほしいと、それだけをいい残したのです。ライラにこれ以上、よけいな心配をかけさせまいとして……。ガランドーはそれからすぐ、アーザスのめいれいにより、ディルバグの黒騎士隊のしきかんとなりました。

 

 ガランドーはワットの者たちの前では、兵をひきいるしきかんとして、れいこくなすがたをよそおっています(第十三章のはじめに、はじめてガランドーがとうじょうしたとき、かれはベーカーランドといくさになることをよろこんでいるかのようにふるまい、笑みさえ浮かべていました。じつはあれもすべて、ガランドーは、わざと、そのようにふるまっていたのです。ワットの者たちの前では、ベーカーランドのうらぎり者としての自分を、えんじつづけていなければなりませんでしたから)。ですが心の中では、いもうとのライラのことをかたときも忘れることなく、いつも心配し、くるしんでいました。かわいそうに……。

 

 「アーザスめ……」

 

 ガランドーは、はきすてるようにつぶやきました。そして床においたかぶとをわきにかかえると、とびらのかんぬきをはずして、ふたたびきびしい顔をして、ひとり、とりでの中へと消えていったのです。

 

 そのひとみのおくに、ライラのすがたをうつして……。

 

 

 「さいごの旅のことについては、ノランから話されるであろう。ついてまいれ。」

アルマーク王がそういって、みんなのことをみちびきました。

 

 ここはベーカーランドのお城、エリル・シャンディーンの、てっぺん。そこからさらに半マイルほども空中ろうかを歩いて、ようやくたどりついた、王さまのぎょくざのある塔の上。そして今、みんながむかったのは、そのぎょくざのうしろ。女神リーナロッドのぞうの、その足もとだったのです(さきほど、ひみつの出入り口がひらいたところです。といっても、そこにはっきりと、出入り口が見えているというわけではありません。せいかくには、「出入り口がかくされているところ」といった方がいいでしょう。この出入り口はほんとうに、近くでじっくりながめても、どこがとびらなのか? ぜんぜんわかりませんでした。ですから、ひみつの出入り口なのです)。

 

 ひとりの兵士が進み出て、女神の足もとのかべを手でさぐり、そこに、手に持っているなにかをかざしました(ちなみに、そこはさっきひらいた方とはべつの、左足の方でした。どうやらさっきとはちがうべつの出入り口が、そこにあるみたいです)。すると……。

 

 ぷしゅー。

 

 さきほどと同じ、空気のもれるような音がして、それまでまったくかべにしか見えなかった場所に、ふたたび、ひみつのとびらがひらいたのです!(ちなみに、兵士が手に持っていたのは、まん中に白い石がついた、きいろいリボンでした。このリボンはこのひみつのとびらをひらくための、とくべつな品物で、このリボンをとびらのある場所にかざすと、かくされているとびらがひらくというしくみになっていたのです。このリボンはしっかりとかんりされていて、お城の戸じまりをまかされているとくべつな兵士たちにしか、持つことはゆるされていませんでした。その兵士たちはリボンと同じく、きいろいもようのはいったかっこいいよろいを着ていて、うでには同じく、きいろいわんしょうをまいていました。かれらはその名も、「イエローリボンけいび隊」! 名まえはともかくとして……、お城の中でも、もっとも重要な人たちだったのです。)

 

 入り口をくぐって中にはいると、そこはなんともふしぎなところでした。そこは、はしからはしまでが二十フィートほどのまるい部屋で、かべも床も、まっ白にかがやいていたのです(ロビーはさいしょ、そとのおひさまの光がさしこんでいるのかと思いましたが、すぐに、これはまわりのかべそのものが白い光を放っているのだということに気がつきました。だってそとは今、すっかり、おひさまがしずんでしまっている時間でしたから)。まどはなくって、つるつるとした白いかべが、ずうっと上の方にまでのびていました。

 

 いったいここは、なんの部屋なのでしょう? ですがロビーはすぐに、そのこたえを知ることになったのです。

 

 「この上だ。」

 

 アルマーク王がそういって、かべぎわの床の上においてあった、まるい板のようなものの上に乗りました。それはちょっけいが三フィートほどで、あつさが二インチほどの、よくみがかれた、白いまんまるな石の板でした(見た目はまるで、ホワイトチョコみたいでした)。そしてよく見ると、その石の板は、このまるい部屋のかべにそって、同じかんかくをあけて、全部で六つ、きれいにならべておかれていたのです。

 

 「いっこ、たんないから、ロビーは、ぼくといっしょに乗ろうね。」ライアンがそういって、ひとつの板の上に乗り、ロビーのことを手まねきします。あわててロビーも、わけもわからないまま、その板の上に乗りこみました(小さな板でしたから、いくらライアンが小さくても、ふたり乗ったらいっぱいでした)。

 

 つづいて、デルンエルム、ベルグエルム、ライラ、フェリアルも、それぞれの板の上に乗りこみます(おともの兵士たちは部屋の入り口の見張りに残りました)。アルマーク王と、ロビーとライアンをあわせて、これで六つの板が全部うまったわけでした。

 

 「落っこちないように、しっかり立っててね。」不安げにしているロビーに、ライアンがいいました。え? ま、まさか……、また?

 

 

 「アローイン!」

 

 

 ロビーの思った通り! ライアンのその言葉をあいずに、ふたりの乗ったその石の板が、床からふわーん! ちゅうに浮かび上がったのです!

 

 「や、やっぱりー!」ロビーは思わずしゃがみこんで、「ひええ!」とライアンの足にしがみついてしまいました(おかげでライアンは、「わわ!」とよろけそうになってしまいましたが)。

 

 つまり……、この部屋はみなさんの世界でいうところの、エレベーターだったのです!石の板に乗ってあい言葉をいうと、石の板が上がったり下がったりして、乗っている人をほかの階にまではこんでくれるというわけでした!(お城の七階にくるまでには、魔法のらせんかいだんに乗ってきたわけですが、いってみれば、あれはエスカレーターですよね。そしてこんどは、エレベーターというわけなのです。う~ん、エリル・シャンディーンって、ファンタジーなのにげんじつ的! 

 ところで、王さまもさいしょ、下の階から、このエレベーターに乗ってぎょくざの間までやってきました。それならなにも、わざわざあんなに長い空中ろうかを歩いていかなくても、みんなもはじめから、このエレベーターに乗ってぎょくざまでいったらよかったんじゃ……。でもまあ、正式に王さまに会うためには、長い空中ろうかを歩いてぎょくざまでいくというのが、きまりになっているようでしたので、ここは、そのでんとうの顔を立てることにしましょうか……。

 ちなみに、王さまがきたときになっていた、ちん、ろん、らん、という音楽は、「もうすぐエレベーターがつきますよ」ということをしらせるためのもので、「ちーん!」というベルの音は、「つきましたよ」ということをしらせるためのものだったのです。)

 

 

 ちーん!

 

 

 ほどなくして、ライアンと(そのライアンの足にしがみついている)ロビーを乗せた石の板が、てっぺんまでたどりつきました(でも……、王さまのぎょくざのある場所が、お城のてっぺんなんじゃないのでしょうか? そこよりさらに上にある、この場所って……?)。

 

 

 ちーん! ちちちーん! ちーん! 

 

 

 ほかのみんなを乗せた板も、じゅんばんにてっぺんにとうちゃくです(この石の板は、その上に乗った人のあい言葉だけに反応して動くというものだったのです。そのため、上につくのも、それぞれひとりずつでした。ひとりとうちゃくするたびにベルの音がなるので、ちょっとうるさいのですが……)。

 

 そこはぎょくざのある広間から(そして女神ぞうのその頭の上よりも)さらに上につき出た、いっぽんの塔の中でした(なるほど、ぎょくざの間のそのやねの上にも、小さな塔がつき出ていたんですね。これならお城のてっぺんであるはずのぎょくざの間より、さらに上があっても、おかしくないわけです。そこにいくためのエレベーターが女神ぞうの中にあるというのは、やっぱり、ばちあたりのような気もしますが……)。そしてここは、お城の人たちでもふだんははいることのできない、とてもとても、とくべつなところだったのです。それはこの場所に、とてもだいじなあるものが、おかれていたからでした。

 

 ベーカーランドのお城の、そのいちばんてっぺんにおかれている、だいじなもの。それがなんだか? みなさんにはもう、おわかりでしょう。そう、この場所には、ベーカーランドのくにのいちばんの宝物、青き宝玉がおかれていたのです!

 

 

 風がぴゅうぴゅうと吹きつけていました。エレベーターの終わり、石の板がたどりついたその塔は、青いタイルのとんがりやねをなん本かの石のはしらがささえているだけの、かべのない、あずまやの塔だったのです(ちなみに、石の板がたどりついたこの場所は、まん中が下まで吹きぬけになっていて、石の板はその吹きぬけをぐるっとかこんだつうろのふちに、ぴたっととまりました。ですが、もしこの吹きぬけに落っこちてしまったら? だいじょうぶ。なんと、落ちた人には空中で魔法の力がはたらいて、そのままその人は、ふわふわと、下までおりていくことができたのです!

 

 ほかにも、人と人とがぶつからないように、板と板のあいだにはきょりが取ってあったり、危険を感じたら、板が自分でとまったり。安全たいさくもばっちりされていました。でもさすがに、ふわふわおりるのが楽しいからというりゆうで、わざと吹きぬけに飛びこむ人はいないみたいです。そんなことをしたら、ぜったい怒られますから)。ロビーはライアンに手をひっぱられながら、なんとか、石の板からその塔のつうろの上へと、おり立つことができました(しっかりとした足場にかんしゃですね!

 

 ちなみに、ライアンはいぜんエリル・シャンディーンにきたときに、この場所にもあんないされていました。ですからこのエレベーターのことも知っておりましたし、乗るのもぜんぜんへいきだったのです。おもしろかったので、そのときライアンは、十回以上ものぼりおりしてしまったくらいでした。そしてなん回か乗っているはずのフェリアルでしたが、じつはかれは、どうにもこのエレベーターがにがてで、ロビーと同じくらいおっかながっていました。かれのめいよのためにも、文章にしては、わたしもあえてお伝えしていませんでしたが……)。そしてこの塔からのびるいっぽんの石の橋が、そのさきにあるもうひとつの青いとんがりやねの塔のもとへと、みんなのことをまねいていたのです。

 

 この「もうひとつの塔」というのが、じつにおそろしいものでした。それはなぜか?といいますと、じつはその塔は、やねの上につき出た今いる塔から、西の海の方に空を十ヤードほども進んでいった、そのさき。つまり、まったくの空中に、ぽつんと浮かんでいたからなのです!(つまり、今いる塔からのびているいっぽんの石の橋だけが、空中のその塔へとむかう、ゆいいつの道だったというわけなのです。なんておそろしいところに塔をつくるんでしょうか!

 でも、ご安心を。この塔は魔法のわざによって、しっかりとささえられているということでしたから。でなければとても、こんなおそろしいところにある塔になんて、渡れるはずもありません!)

 

 みんなは(ロビーだけはおそるおそる)その空中に浮かぶ塔へとむかって、石の橋を渡っていきました(そこがもくてき地だということでしたから)。そしてロビーは、その空中の塔の床のまん中に、りっぱなかざりのついた白い石の台がひとつあるのを、見て取ったのです(その塔も、さいしょの塔と同じ、かべのないあずまやの塔でしたから)。そしてそのかざり台の上、五フィートほどの空中に、それはありました。

 

 さいころのようなかたちをした、ひとつのすき通った青い石。それが空中で、光をきらきらとはんしゃさせながら、ゆっくりとまわっていました。そう、これこそ、ベーカーランドのしょだいの王、イェヒュリー・ベーカー王が、このアークランドの地で女神リーナロッドよりさずかったとされる、青き宝玉、そのものだったのです!

 

 ひとめ見るなり、ロビーはその美しさに心をうばわれてしまいました。アーザスのたくらみによって、そのかがやきを失いつつあるという、青き宝玉。ですがそれでもなお、この宝玉はほかのどんなすばらしい宝石よりも美しく、どうどうと光りかがやいていたのです(ちなみに、この宝玉の光は、遠く西の地からやってくる船たちの、目じるしにもなっていました。つまりこの塔は、うみべのとう台のやくわりをも果たしていたのです。ですからこんな、お城のてっぺんにあるんですね)。

 

 

 「おお、やってきたな。」

 

 

 とつぜん、どこからか声がしました。その声に、ロビーは、はっとして、われにかえります。ロビーはすっかり、宝玉の美しさに見とれてしまっていて、そのわきの、石のはしらの影にいたそのひとりの人物のことに、ぜんぜん気がつきませんでした。

 

 声とともに、その人物がぺかぺかとくつ音を石の床にひびかせながら、歩き出てきました。茶色のぼろぼろのマントをはおっていて、くたびれた衣服に、ぺたんこのくつというかっこうです(ぺたんこのくつですから、そのくつ音も、こつこつではなく、ぺかぺかだったのです)。肩からは大きなかわのかばんをかけていて、そして手には、さきに白いすいしょうのはまった、長い木のつえを持っていました。

 

 肩までのびた茶色のかみが、風になびいてぱたぱたとゆれております。おかしなことに、かみの毛の色は茶色なのに、長くのばしたそのおひげは、はい色でした(ですから、茶色とはい色、どっちがほんとうの毛の色なのか? わかりません)。見た目はもう、ずいぶんおとしよりでした。ですが、その力強い目。五フィート八ほどもある、しゃんとした背かっこう。そして、しっかりとした足取り。どれを取っても、とてもおとしよりとは思えなかったのです。

 

 「待たせてすまぬな、ノラン。」アルマーク王がいいました。

 

 ノラン! そうです、この人物こそ、この世界でいちばんといわれる大けんじゃ、ノラン・エルセルファス・クーシー、その人でした!(けんじゃにしてはずいぶんぼろぼろのかっこうをしておりますが、これはかれが一年中、あっちやこっちを飛びまわっているからでした。きれいな服を着ていても、あっというまにほこりにまみれ、ぼろぼろになってしまうのです。ですからノランは、いつも、ねだんの安い旅用の衣服とマントを身につけていました。同じけんじゃのカルモトの、どはでなかっこうとは、えらいちがいですね。)

 

 ノランは「はっはっは!」と大きな声で笑って、アルマーク王にこたえました。

 

 「おかげで、また、でしに、こてんぱんにやられてしまったわ。」

 

 でし? するとそのとき。同じくはしらの影から、もうひとりの人物があらわれたのです。

 

 その人物は、はしらの影の石のベンチ(ベンチがあったんですね)からぴょこんと飛びおりると、ノランの横まですたすたと歩いてきました。背たけはライアンと同じくらい。りっぱなししゅうのはいったきれいな服を着ていて、金色のふち取りのされた白いケープをはおっております。そのケープについたフードをすっぽりかぶっていて、フードには金色の大きなリボンがふたつ、左右にかわいらしくかざられていました。ひざの上までの半ズボンをはいていて、このズボンもまた、小さなたくさんの金色のリボンで、かわいくかざられていました。

 

 ひとめで子どもだとわかりました。人間の種族の子で、ねんれいは十二さいか十三さい、そのくらいでしょうか? フードからのぞいているのは、とてもかわいらしい顔をした、女の子のようでした。かがやくように美しい、こがね色がかった茶色のかみの毛で、まるっこい、かわいいかみがたをしております(フードをかぶっているので、全部は見えませんでしたが)。ひとみの色は、ここちよい海のしお風のような、やわらかなサファイア色。手には、さきにもも色のすいしょうのはまった、きんぞくでできたつえを持っていました。

 

 「おししょうさまが、弱すぎるんです。まあ、でも、カードだったら、だれだって、ぼくにはかなわないでしょうけど。」

 

 その子はかわいらしい声でそういって、その場にいるみんなにぺこりと頭を下げて、あいさつしました。やっぱり、女の子のようです。でもかわいい声のわりには、ちょっとなまいきな感じで、りくつっぽいしゃべり方をする子のようですね。それに自分のことも「ぼく」ってよんでるみたいですし、やっぱりけんじゃのでしだけあって、すこし変わっているところがあるみたいです(ところで、かれらの話しのことですが、ノランとそのでしのこの子のふたりは、ロビーたちがやってくるまでのあいだ、この場所でカードゲームをしてあそんでいました。それはベーカーランドで子どもたちに人気の「ディルグレイド」というカードゲームでしたが、エリル・シャンディーンのまちにもお店がありましたよね。このゲームにおいては、ししょうであるノランも、でしにまったくかなわなかったというわけなのです。

 なにしろ、でしの持っている「エクセレンス・エンペラードラゴン」の強さといったら! ししょうノランの「魔法使い騎士団」は、でしの「さい強ドラゴン軍団」に、げんざい二百五十四れんぱい中! この日もこてんぱんにやられてしまって、れんぱいきろくをさらに、のばしてしまったというわけでした。もっとも、こんなに強いカードがなくても、でしのこの子のいう通り、だれもこのゲームでは、この子にかないませんでしたけど。それほどこの子は頭がよく、カードだけではなくて、あらゆるゲームに強かったのです)。

 

 「おぬしが、ロビーベルクだな。うむ、ムンドベルクに、よくにておる。それから、きみは、シープロンドのライアン王子。ひさしぶりだのう。」ノランがいいました。

 

 「あ、はい、おひさしぶりです。」ライアンがあわててこたえましたが、ライアンはさっぱり、ノランのことをおぼえていませんでした。じつは四年前、メリアン王たちのことをまねいたそのかんげいのしきてんの席に、たまたまノランもやってきていて、メリアン王とライアンにあいさつをしていたのです。でもライアンは、テーブルの上のお菓子のことばっかり見ておりましたから、ノランのことをぜんぜんおぼえていませんでした(世界さいこうのけんじゃよりも、やっぱりライアンはお菓子でしたね)。

 

 「わたしは、ノランだ。こっちは、でしのマリエル。」

 

 ノランにしょうかいされて、マリエルとよばれたその子が、またぺこりと頭を下げて、ロビーとライアンのふたりにあいさつしました。

 

 「はじめまして。マリエル・フィアンリーと申します。ノランおししょうさまのでしで、このお城の、きゅうていまじゅつしをしております。」 

 

 きゅうていまじゅつしというのはお城につかえているゆうしゅうなまじゅつしのことで、さまざまなちえを出したり、いろいろな魔法を使ったりして、王さまやくにの人々のお手伝いをするのが、そのだいじなやくめだったのです。そしてエリル・シャンディーンのお城には、四人のきゅうていまじゅつしたちがいましたが、ほかの三人はみんな、はたち以上のねんれいでした(いちばん若くても二十一さいでした)。きゅうていまじゅつしになるためには、人なみはずれた魔法のさいのうと、ゆうしゅうなるずのうが必要だったのです。いってみればエリート中のエリートといったところであって、きゅうていまじゅつしというのは、ほんのひとにぎりの、ばつぐんにすぐれたまじゅつしだけがなることをゆるされる、魔法をこころざす者であればだれもがあこがれる、せまき門でした。

 

 ですからマリエルくらいのとしできゅうていまじゅつしにえらばれるということは、とてもすごいことなのです。しかもあの大けんじゃノランのでしなのですから、このマリエルという子は、そうとうな魔法のさいのうの持ちぬしであると考えていいでしょう。なにしろノランといえば、でしを取らないのでゆうめいでもありましたから(あちこち飛びまわっているので、でしを育てているひまがないというりゆうが大きかったのですが……。

 

 そして。ノランがマリエルのことをでしにしたわけは、じっさいのところ、ノランいがい、だれも知りませんでした。ただあるとき、はるか西の地からもどってきたノランが、マリエルのことをつれてきたのです。そのときマリエルは、まだ五さいでした。みすぼらしい服を着ていて、かみの毛もぐしゃぐしゃ。手には小さなお守りだけをひとつ、にぎりしめていたそうです。そしてその胸には、見たこともない、おそろしげなりゅうのもんしょうがきざまれていました。

 

 マリエルの胸にりゅうのもんしょうがあるというこのことを知っているのは、ノランのほかは、アルマーク王と、ごく一部のお城の者たちだけです。そして、このおそろしいりゅうのもんしょうのひみつについては、ざんねんながら、このロビーの物語の中では語られません。マリエルの、そのひめられたひみつ……、遠く西の大陸の、エクセレンス・ドラゴニア帝国のめつぼうにまつわるその物語は、またいつか、べつのところでお話ししたいと思います。きっとそれだけで、本がいっさつ、できてしまうことでしょうから。

 

 それからノランは、マリエルをアルマーク王にあずけ、こういいました。

 

 「王よ、今からこの子は、わたしのでしだ。城で育ててやってくれ。いずれこの子は、わたしをこえる、けんじゃとなることだろう。」

 

 そしてマリエルは、わずか十一さいのときに、このエリル・シャンディーンのきゅうていまじゅつしにえらばれたのです。手にしたつえは、そのおいわいに、ノランからおくられたものでした。

 

 マリエルは、むかしのことをぜんぜんおぼえていません。ですがマリエルにとって、かこはどうでもいいことでした。マリエルには、わかっていたのです。たいせつなものは、今、そしてみらいにこそ、あるのだということを。

 

 マリエルは、こうして、ノランのでしであるということ、エリル・シャンディーンのきゅうていまじゅつしであるということをほこりに、魔法のしゅぎょうに日々、はげんでいました。

 

 ところで……。ここでひとつ、けっこう重要な説明を加えておきます。それは、なぜ、かれらきゅうていまじゅつしたちが、ロビーのことをむかえにいくこんかいの旅に、加わらなかったのかということ。たしかに、まじゅつしであるかれらがいれば、これまでの冒険の中でも、かなり助けられたところがありましたよね。ですがかれらのようなまじゅつしたちは、いつもたいへんなしごとをこなしていて、なん日もお城をあけるような旅には、出ることができなかったのです。ましてや今は、ワットとの大いくさのじゅんびに追われておりましたので、ことさらたいへんなときでした。かれらきゅうていまじゅつしたちが、ひとりでもかければ、いくさへの対応は、大きくおくれてしまうことでしょう。そのためアルマーク王は、それらのことをすべて考えにいれたうえでも、きゅうていまじゅつしたるかれらにひってきするほどの力を持った、ベルグエルムたち四人の騎士たちを、この重要な旅に送り出したのです。

 

 ワットとの大いくさがはじまるまでには、まだしばらくの時間があります。アルマーク王は、そのあいだにきゅうせいしゅであるロビーのことをお城までつれて帰ることのできる、ゆうしゅうなるベルグエルムたちに、そのにんむをたくしました。まだいくさまでには時間がありましたので、かれらのるすのあいだは、もうひとりのゆうしゅうなるしきかんであるライラに、そのかわりをつとめてもうことができましたから。アルマーク王は、すべての人の力がすべてうまくまわるようにと、ぎりぎりのせんたくをしていたのです)。

 

 「きゅうていまじゅつし! すごいなあ、そんなに若いのに。」ライアンがそういって、マリエルのことをほめました。

 

 「いえ、それほどでも。」マリエルはひかえめにいいましたが、ほめられてすごくうれしそうでした。

 

 「それに、女の子できゅうていまじゅつしっていうのも、めずらしいよね。男の人ばっかりなのに。マリエルちゃんって、やっぱり、すごいなあ。」ライアンが、そういったとたん……。

 

 「こらー! 女の子とはなんだー!」

 

 とつぜん、マリエルが両手をふりかざしてどなりました! ええっ? ど、どうしたの?

 

 「ぼくは、男の子だ! よく見ろ!」

 

 ええっ! お、男の子? マリエルはそういって、フードをがばっ! とうしろへ下げました。こがね色がかったきれいな茶色いかみが、ふわりとなびきます。フードをぬいだので、これでその顔を、はっきりと全部見ることができるようになったというわけでした。どこが女の子だ! よく見ろ! というわけでしたが……。

 

 やっぱり、女の子みたいにかわいらしい顔なんですけど……。いわれなかったらまちがえてしまうのも、むりもありません(かみがたも女の子みたいですし、そのうえ声まで、かわいらしい高い声でしたから)。

 

 すっかり怒られてしまったライアンは、「ええっ!」とおどろいて、あわててとりつくろおうとします(ちなみに、ロビーもマリエルのことを女の子だと思っておりましたので、さきに女の子だといわなくてよかった……、と心の中でひそかに思っていましたが)。

 

 「だ、だって、マリエルって、女の子の名まえじゃん! ぼくのいとこも、マリエルって名まえだよ。まちがえちゃうよ!」

 

 じつはこれが、ライアン(とロビー)がマリエルのことを女の子だと思った、いちばんのりゆうでした。ライアンのいう通り、マリエルというのは、このアークランドでは女の子にしかつけない名まえだったのです。ですからライアン(とロビー)は、マリエルのことを女の子だと、はじめからすっかりきめつけてうたがいませんでした。ですが……。

 

 さあ、これがマリエルのきげんを、ますますそこねてしまったのです。

 

 「ぼくのいちばん気にしてること、いったなー!」

 

 マリエルはもう、かんかんです! 持っているつえのさきから、ばちばち! ときいろい火花が!(ちょ、ちょっと、おししょうさまー! なんとかしてよー!)

 

 そんなかれらのやりとりを見て、ノランは「はっはっは。」とのんきに笑って、ロビーとライアンのふたりにいいました。

 

 「マリエルは、小さいときにこの城にきたのだが、むかしの名まえをおぼえてなくてな。それでアルマークが、女の子だと思って、マリエルと名づけたのだよ。わたしもすっかり、男だと伝えるのを、忘れておってのう。アルマークはしばらく、マリエルを女だと思っておったから、今さらほかの名まえに変えることも、できなくなってしまったのだ。」

 

 いわれて、こんどはアルマーク王が、どきっ! としてしまいました。どうにも気まずい表じょうです。

 

 「ま、まあ、よいではないか。ようは、ほんにんの、気持ちの持ち方しだいだから……」アルマーク王はそういって、「はは、は。」とひきつって笑いました(ちなみに、マリエルのみょうじのフィアンリーというのは、お城のべんきょうの先生の家のみょうじでした。マリエルはその先生のようしとして育てられましたので、今はフィアンリーのみょうじを名のっていたのです。べんきょうの先生の家で育ったマリエルは、そのためちょっと、りくつっぽいところがありました。でも、まだまだ子どもっぽいところもあったのは、みなさんも見ていただいた通りです)。

 

 「しょうがないですね。まあ、いいです。それほどぼくって、かわいいんだから。」マリエルが、鼻を「ふん!」とならしていいました。

 

 これに対して、こんどはライアンが頭にかちーん! ときてしまったから、さあたいへんです!(お子さまどうしの戦いが、ぼっぱつ!)

 

 「な、なにおーう! かわいさなら、ぼくだって!」ライアンはそういって、ロビーの方をむいて、両のこぶしをふたつ、ほっぺにつけて、かわいらしいしぐさをしてみせました。

 

 「ね? ぼくの方が、かわいいよね! そうでしょ? ロビー。」

 

 「なにいってるんです! ぼくの方がかわいいに、きまってるよ!」

 

 な、なにやら、たいへんなさわぎになってしまいましたが……。もうマリエルとライアンは、わーわーきゃーきゃー。おたがいの「かわいさ」について、いっぽもゆずらない、ぎろんのかわしあいです! どうやらライアンもマリエルも、「これだけはゆずれない!」という部分に、おたがいふみこんでしまったようですね。それにしても……、どっちも男の子なのに、どうせなら「かっこよさ」で、もめてほしいものです……。ロビーはふたりのお子さまのあいだにはさまれて、もみくちゃにされながら、う~ん……、とにが笑いするしかありませんでした。

 

 

 さて、話がだいぶ、でし(マリエル)の方にかたむいてしまいましたが……、(「かわいさ」についての戦いは、もうこのへんにしてもらって……)それではそろそろ、ここへきたほんらいのもくてき、大けんじゃノランの話をきくことにしましょう(横ではマリエルとライアンが、おたがいににらみをきかせあって、まだばちばちと火花を飛ばしあっているみたいですけど……)。

 

 みんなは、宝玉の前に集まっていました。近くによると、宝玉からは、ふいーんという、小さな音がなっているのがわかりました。ゆっくりとまわりながらかがやく、美しい宝玉。これが今、よこしまなる魔法使いアーザスの手によってねらわれ、そしてそのために、その力を失いつつあるというのです。はじめて見るロビーには、どこが悪くなっているのか? ぜんぜんわかりませんでした。しかし、いぜんの力強い宝玉のかがやきを見たことがある者にとっては、今の宝玉のかがやきは、ほんとうに弱々しいものに感じるはずです(なにしろいぜんの宝玉のかがやきは、じっと見ていたら、まぶしくて目が痛くなってしまうほどでしたから)。それほどこの宝玉の力の弱まりは、はっきりと、痛いほどに感じられるようになっていました。

 

 「これが、このアークランドの、大いなる力のみなもとだ。」宝玉に見いっているロビーに、ノランがいいました。「どうだ。その力を、おぬしも感じるか?」

 

 ロビーはだまってうなずくと、しばらくたってからこたえました。

 

 「はい。この石の中には、ものすごい力があるのだとわかります。でも、変です。はじめて見るものなのに、とても、なつかしい感じがする。」

 

 ロビーの言葉に、ノランもうなずいてこたえます。

 

 「それは、おぬしのその剣のせいだろう。その剣のやいばと、この石は、同じものだ。そして、そのひめたる力もな。」

 

 ロビーは腰の剣に手をあてました。心なしか、剣は宝玉の力にこたえているかのように、ロビーのその手に、ふしぎなぬくもりの力を感じさせました。

 

 「おぬしは、この石を守らなければならん。それが、このくにを守ることになる。」ノランが宝玉の方をむいて、ロビーにいいました。「さいごの旅は、とてもかんたんなものだ。おぬしはまず、精霊王のもとへゆき、そしてそこから、アーザスのいる怒りの山脈までゆく。それだけのことだ。」

 

 え? ノランさん、今、なんて?

 

 ロビーは思わず、自分の耳をうたがってしまいました。「アーザスのところにいく」。それはわかっておりましたから、そこではありません。その前です。ですがロビーがノランにたずねる前に、かれがノランにくいつきました。

 

 「精霊王のところ! 精霊王に会えるの! ほんとー!」

 

 それはもちろん、ライアンでした。ごぞんじの通り、ライアンは精霊ととてもなじみの深い、シープロンドの者でしたから、精霊王なんていったら、それはもう、ぜひともお会いしたい相手だったのです(たとえば大人気スターの大ファンの子が、そのあこがれの人に、ちょくせつ会えるといわれたらどうでしょう? まさに今のライアンが、それだったのです)。

 

 しかしノランの言葉にびっくりしたのは、ライアンだけではありませんでした。というより、アルマーク王と、デルンエルム、マリエルの三人をのぞく、ぜんいんがびっくりしたのです(いつもれいせいなライラまでが、ベルグエルムやフェリアルといっしょになって、すごくおどろいていました)。やみの精霊の谷で、そのそんざいがあきらかとなった、伝説の精霊王。そしてこんどは、じっさいにその精霊王のもとに、会いにいくというのですから、みんながおどろいたのもむりはありません。

 

 「精霊王のところへいくって……、ほんとうに、そんなすごいところにいけるんですか!」こんどはロビーが、ノランにくいいるようにたずねました(さきにくいついていたライアンのことは、マリエルが「こら! おししょうさまからはなれろ!」といってひきはがしました。もちろんそのあと、わーわーもめてましたが……)。

 

 ノランはそんなロビーの言葉をきいて、また「はっはっは。」と笑っていいました。

 

 「いけるもなにも。ロビーベルク、おぬしは十さいになるまで、その精霊王のもとで暮らしてたのだ。」

 

 えええーっ! 

 

 もう、びっくり! ロビーが、精霊王のところで暮らしてた? これはいったい! みんなももう、びっくりぎょうてんです!(いつもれいせいなライラまでが、ベルグエルムやフェリアルといっしょになって、すごくおどろいていました。)

 

 「ちょっと! ロビー! それってどういうこと! ぼくに、ないしょにしてたの!」ライアンがもう、すっかりこうふんしてしまって、ロビーのことをゆさゆさゆさぶっていいました。ロビーは「あわわわ……」とぐらぐらゆれながら、もう、わけもわからなくなってしまっているありさまです。 

 

 「これこれ。かれにいっても、むだなことだ。ロビーベルクは精霊王のもとを去るとき、精霊王のことや、そこにいたことのすべてのきおくを、なくしておるからのう。」ノランがつづけます。

 

 「え?」ライアンがロビーのからだから手をはなして、いいました(ロビーはかわいそうに、すっかり頭がふらふらになって、ぺしゃんとたおれてしまいました)。

 

 「ロビーベルクのことを、守るためだ。」アルマーク王がこたえます。「精霊王のもとにいたということをおぼえているままでは、ロビーベルクに、思わぬさいなんがふりかからないともかぎらない。精霊王がほんとうにいるのだというひみつは、守られたままにしておくのが、ほんらい、だれにとってもいちばんよいことなのだ。だから精霊王は、ロビーベルクのきおくを消したのだよ。」

 

 「そんなー! せっかく、精霊王のところにいたのにー!」ライアンがアルマーク王の前に進み出て、ぶーぶーもんくをいいました(すぐにマリエルに、「こら! 失礼だぞ! もどれ!」といわれて、うしろにもどされました。もちろんそのあと、わーわーもめてましたが)。

 

 「精霊王のひみつは、守られつづけなくてはならん。」ノランがさらにつづけます。「だが、ロビーベルクがどうして精霊王のところにいたのか? そのわけくらいは、話してもかまわんだろう。」

 

 そういってノランは、ロビーのそのひみつのかこのことを明かしました。

 

 

 それはロビーが、まだ五さいのとき……。

 

 それまで山里でかくれるようにすごしてきたロビーの身に、大きな危険のときがおとずれました。それは、ロビーがそのときにはじめて手にいれることとなった、ある力のために生まれた危険でした。その力とは……、そう、レドンホールに代々伝わる、アストラル・ブレードとよばれる、せいなる剣。その剣の力をひき出すことができるという、そのとくべつな力のことにほかならなかったのです(この力はほんらい、おさないときにはまだ生まれません。少年少女くらいに成長したときに、はじめて、レドンホールの王の子は、剣の力をひき出すその力を持つようになるのです。ですからロビーの五さいというのは、だいぶ早いねんれいでした。ムンドベルクの場合は十さいのときに、この力を持つようになったのです)。

 

 この力を、ロビーベルクが持つようになる。それはムンドベルクには、はじめからわかっていたことでした。ですからムンドベルクは、それより前に、ロビーを山里にかくしたのです。ロビーのその力を、あのよこしまなる魔法使い、アーザスに悪用されないために。わが子、ロビーベルク。この子は、このアークランドのきゅうせいしゅ。けっして悪の手になど、渡してはならぬと。

 

 ロビーを山里にかくしたことで。危険はさけられたかのように思われていました。

 

 

 ですがそれは、大きなまちがいであったのです。

 

 

 アーザスの持つ、赤いキューブ。そしてなによりも、アーザスのそのおそろしすぎるほどの、じゃあくなる魔法の力……。それらをあわせたまがまがしい力は、このアークランドのどんなに山深い場所にかくれようとも、さけられるというものではありませんでした。

 

 ロビーが剣の力を持つようになった、そのとき。アーザスの持つ赤いキューブが、大きく、その力のバランスをくずしたのです。はかり知れないほどに強大な魔法のさいのうを持つアーザスにとって、それが意味することを知るのは、たやすいことでした。キューブの力のバランスがくずれたのは、キューブに力を与えることのできる剣、アストラル・ブレードをあやつることのできる者が、新たにあらわれたということ。つまりそれは、レドンホールの王の子が、どこかにいるということを、はっきりとあらわすものであったのです……(しかもアーザスには、それが男の子、王子であるということさえわかりました。男と女では、その力のせいかくが、ちがったのです)。

 

 ロビーが剣の力を持った、そのしゅんかん。ロビーのそんざいのことを知ってしまえる……。アーザスのおそろしさというのは、ほんとうに、みなのそうぞうをはるかにこえるほどのものでした。

 

 

 アーザスはすぐに、レドンホールに使者を送りました。頭がかぼちゃで、手足がへちま、からだはたまねぎのよせ集めという、ふざけたやさい人形を送りつけたのです。その使者はムンドベルクに対して、こんなことをいいました。

 

 「ゴしそく、オタンじょう、オメでとうござイマス! ツキましてハ、ゼひ、ワタくしどモの家デ、オいわいノぱーてぃーヲヒラキたイ。親子デ、ふるッテ、ゴさんかクダさいマセ!」

 

 ムンドベルクはそれをきいて、全身がふるえました。ロビーベルクのことが、アーザスに知られてしまっていたのです!

 

 なぜアーザスに、それがわかったのか? ムンドベルクにはけんとうもつきませんでした。しかしアーザスに知られてしまった以上、ロビーのことを、もっとほかの、どこか安全な場所にかくさなければなりません。でも、いったいどこへ……?

 

 「お料理ハ、オ肉とオ魚、ドッチガお好ミでショウ? やっパリ、うるふぁサンでしタラ、オ肉の方が……、アっ!」

 

 ムンドベルクはぺちゃくちゃうるさいそのやさい人形の使者を、腰の剣でまっぷたつにしてしまいました。使者のからだはとたんにばらばらになって、たまねぎがあたりいちめんに、ころころところがっていきます(これらのおやさいは、お城の料理人が、あとでおいしいシチューにしてしまいました)。そしてムンドベルクはそのとき、あることを思い出しました。それはひとつの、とある、青いネックレスのことだったのです。

 

 

 「ロビーベルク、おぬしが今首にかけている、そのネックレス。それはむかし、ムンドベルクが、精霊王ほんにんからもらったものなのだ。」

 

 ええっ! またしてもノランの言葉に、ロビーもライアンも、みんながびっくりぎょうてんです!

 

 ロビーがいつも身につけていた、ひとつのネックレス(またはペンダント)。ロビーと、どこにいるとも知れない自分の家族とをつなぐ、たったひとつの手がかりとして、たいせつにしてきたこのネックレス。それがなんと、自分の父であるムンドベルクが、むかし、精霊王ほんにんからもらったという、すごいネックレスなのだといいました!(カルモトも「そのネックレスからは、とくべつな力を感じる」といっていましたよね。たしかに、その通りでした。なにせ、精霊の力を持った品物は、まだあるとしても、精霊王からもらったネックレスなんて、だれも持っていないのはあたりまえでしたから! それほどこれは、すごい品物だったのです。

 ちなみに、ライアンがすぐに、「ちょっと! 見せて見せて!」とくいついてきました。)

 

 「そのむかし、おぬしの父、ムンドベルクと、その友のアルファズレドは、怒りの山脈からの帰り道で、ぐうぜん、精霊王のトンネルに出くわした。そこでふたりは、精霊王から、りゅうたいじのほうびとして、そのネックレスをもらったのだ。あとからおくれてきたアルマークとメリアンは、ネックレスをもらえなくて、ひどく、ざんねんがったそうだがのう。」

 

 なるほど、そういうわけで、このネックレスをもらったんですか……、って、ぜんぜんわかりません! しかも、なんかすごく気になることを、いろいろさらっといっていましたけど! 友のアルファズレド? いったい、どういうことなんですか? ノランさん!

 

 「おや? お前たち、なにも知らないようだの。三十年前の、赤りゅうたいじの旅のことだよ。ここにいるアルマーク、レドンホールのムンドベルク、シープロンドのメリアン、ワットのアルファズレド、この四人と、わたしとで、怒りの山脈にすむりゅうを、たいじしにいったというわけだ。なかなか、骨のおれるしごとだったわい。なあ?」ノランはそういって、アルマーク王の肩をばしっ! とたたいて、「はっはっは!」と大声で笑いました(いわれてアルマーク王は、「そ、そうですね……」とにが笑いしておりましたが。なんだかいろいろ、あったみたいですね)。

 

 今からおよそ三十年前……。このアークランドに、とんでもないわざわいの力を持つ、赤いりゅうがやってきました。そのりゅうは、アークランド北東部の切り立った山の中にすみつき、そこからアークランド中を、荒らしてまわったのです。そのたいじにむかったのが、ノランひきいる、四人の若き王子たちでした。

 

 四人はたいへんな冒険のすえ、りゅうをやっつけました。りゅうが火を吹き、怒りくるったその場所は、今でも、そのりゅうの「怒りのわざわい」とよばれる、あつい風が吹き荒れているそうです。そしていつしかその場所は、人々から、こうよばれるようになりました。怒りの山脈と。そう、まさに三十年前のその冒険のぶたいこそが、今アーザスのいるという、怒りの山脈、その場所だったのです!(このノランと四人の王子たちの冒険の物語については、わたしはぜひ、みなさんにも語りたいと思っています。この本とはまたべつの本の中で、おきかせしたいと思っておりますので、それまでどうぞ、お楽しみに!)

 

 と、その旅の中身のことについては、またべつのこととして……、やはりひとつ、すごく気になることがありますよね? そう、アルファズレドのことです。ワットの黒き王。アークランドいち、れいこくで、なさけようしゃのない悪者といわれている、あのアルファズレドが、かつてアルマーク王たちとともに、仲間として、友として、いっしょに戦ったといいました! それがなぜ、今はこんなことに……?

 

 その思いを感じてか、アルマーク王がロビーとライアンにいいました(ベルグエルムとフェリアルは、とうぜん、むかしのその旅のことをすでにきいて知っていました。ですがロビーはまだ、その旅のことを知りませんでしたし、そしてライアンも、まだ父のメリアンから、そのことをきかされていなかったのです(きいてたら、もっと、メリアン王のことをだいじにしたかもしれませんが……)。

 

 メリアン王は、自分がかつて、このアークランドをすくうたいへんな冒険の旅に出たのだということを、ライアンにはあえてだまっていました。たぶん、いったらライアンは、「ぼくもいくー!」といい出すにきまっていましたので……。そのためメリアン王は、お城の者たちにも、シープロンドのまちの人たちにも、「ライアン王子の身の安全のために、かれにはこのことを、だまっているように」とねんをおして守らせていたのです。

 

 つまりこういったわけで、この場にいる者たちの中で、りゅうたいじの旅のことと、アルファズレドのむかしのことを知らなかったのは、ロビーとライアンのふたりだけでした。それと、すいません。読者のみなさんもでしたね。

 

 ちなみに、ライアンは、自分にそんなだいじな旅のことをずっとないしょにしていたメリアン王に、今めらめらと、怒りのほのおをもやしていました。そして、「シープロンドに帰ったら、いちばんにひっぱたいてやる!」ときめたのです。メリアン王、ピンチ!)。

 

 「アルファズレドは、しはいの道をえらんだのだ。」

 

 アルマーク王はそういってかなしみ、うなだれました。

 

 「わたしたちがたいじしたりゅうは、ある品物を持っていた。それは、じゃあくなりゅうの、しはいの力をひめた、黒いおそろしいメダルだった。それを見つけたわたしとアルファズレドは、そこで、おたがいの道をたがえることとなったのだ。わたしは、『そんなものはすてろ。』といった。だが、アルファズレドは、それを取った。そしてわたしに、こういったのだ。『おまえがのぞむのは、このアークランドの、とういつ。だが、それは、夢物語だ。この世界では、そんなあまい考えなどは通じない。おれは、この力で、しはいの力で、このアークランドのことをまとめ上げてみせる。』とな。」

 

 それから、アルファズレドは、りゅうのそのおそろしい力で、このアークランドのことをしはいしようとしてきました。それこそが、このアークランドのことをまとめ上げ、あらそいのない世界を作って、人々のことをすくうための、ただひとつの方法だと信じたのです。

 

 へいわにまとめ上げるのも、力でいうことをきかせるのも、同じ、とういつ。アルファズレドは、こうして、ほかの三人の仲間たちとはちがう道を進んでいきました。仲間たちにとって、それは、とてもかなしいことでした。

 

 「アルファズレド。あの若者が今、さまざまな悪さをはたらいとるのは、ざんねんなことだ。だが、やつにはやつの、道があるでのう。」ノランが、アルマーク王の方をむいていいました(いったいいくつなのか? わからないほどのねんれいのノランにとっては、アルファズレドもまた、ただの「若者」にすぎなかったのです)。ノランの言葉に、アルマーク王はふくざつな思いで、小さくうなずきました。

 

 「さて、ロビーベルク。かんじんなことは、そのネックレスが今、おぬしの首にあるということだ。」ノランが、ロビーの方をむいていいました(そうでした。ちょっと、むかし話に話がそれてしまいましたが、今問題なのは、ロビーのこのネックレスのことでしたね)。

 

 「精霊王は、それを渡すときに、こういったそうだ。『このネックレスは、おまえたちの世界と、われらの世界とを、つなぐもの。おまえか、おまえのしそんか? こんなんがおとずれたとき、このネックレスをもちいて、われらの助けをこうがよい。』とな。そしてムンドベルクは、おぬしを守るため、そのネックレスを使い、精霊王のもとにおぬしをあずけたのだ。」

 

 精霊王のネックレス。このネックレスのおかげで、ロビーは精霊王のもとへゆき、そしてそこで、守られることとなったのです。このネックレスは、いわば精霊王のいるひみつの世界へのとびらをあけるための、かぎのようなものでした。

 

 精霊王の住む世界。そこは絵本の中だけにそんざいするはずの、おとぎの世界でした(今いるこの場所、アークランドも、みなさんにとってはかんぜんにおとぎの世界ですが……。精霊王の世界は、その中でも、さらにおとぎの世界でした。ややこしいですけど)。ロビーがかなしみの森のとしょかんで読んだ「精霊王のふしぎのくに」という絵本では、主人公の女の子が精霊王のトンネルを通って、ふしぎの世界へとまよいこむのです。そこはイーフリープとよばれる世界で、そこでは、きせつも、重さも、時間さえも、すべてが精霊王の思うがままに動きました。

 

 ノランのいうことには、このネックレスはあるとくべつな場所でその力を使うと、精霊王の住むイーフリープ世界への入り口がひらくそうでした。そのとくべつな場所というのが、精霊王のトンネルだったのです。

 

 そのむかし、ムンドベルクとアルファズレドがぐうぜん見つけたという、精霊王のトンネル。それはふつうの人にはまったく見えませんし、どこにあるのかもまったくわかりません。ですがノランは、そのトンネルがどこにあるのか? 知っておりましたし、そしてその場所を、ネックレスを受け取ったムンドベルクとアルファズレドにも、教えていたのです。いつかこのネックレスを使いたいときがやってきたのなら、そこへいけと(ところで、精霊王のトンネルはこのアークランドの中にも、いくつかそんざいしていたのです。ムンドベルクが教えてもらったのは、レドンホールからほど近い、山のたきの中でした。アルファズレドも、ワットの北東部、岩だらけの土地の中にあるトンネルを教えてもらいましたが、かれはこのネックレスを使う気などは、ぜんぜんありませんでした。アルファズレドは、精霊の力などにたよりません。かれの信じるものは、りゅうのメダルのしはいの力、そして、みずからの力のみだったのです。かれがもらったネックレスは、今でも、ワットの王城のどこかのひき出しの中に放ってあるはずです。なんてもったいない! それを知ったらメリアン王は、きっとこういうことでしょう。「いらないなら、ちょうだい!」)。

 

 こうしてムンドベルクは、ロビーを精霊王のもとへとたくしました。アークランドを守るため。そのきゅうせいしゅを守るため。そしてなにより、わがあいするむすこ、ロビーベルクを、悪のその手から守るために……。

 

 「それからぼくは、どうなったんですか? なぜ、かなしみの森に……?」ロビーがノランにたずねました。ここがもっとも、大きなぎもんでした。

 

 「ぼくには……、ぜんぜんきおくがない。」

 

 ロビーのといかけに、ノランは「ふむ。」とひげをなでおろしてから、こたえます。

 

 「精霊王は、すべてを知っておるということだ。おぬしの、その運命のこともな。」

ノランはロビーの目を見すえながら、つづけました。

 

 「このくにのゆくすえは、これからきまることだ。精霊王も、ゆれ動くみらいのことまでは、いいあてることはできん。それを知っていたからこそ、精霊王は、おぬしを、おぬしの運命の中へと送り出したのだ。」

 

 「だからぼくは、かなしみの森に……」ロビーがいいました。

 

 「そうだ。」ノランがこたえます。「おぬしが十さいのとき、精霊王は、このアークランドのみらいを見た。それは、光とやみ。ふたつの世界だ。光が勝つか? やみが勝つか? それはまだ、だれにもわからん。光とやみは、つねに、ふたつでひとつだからのう。それにけっちゃくをつけるために、精霊王は、ロビーベルク、おぬしをきゅうせいしゅとして、もとのアークランド世界の中へともどしたのだ。おぬしがレドンホールのいい伝えにあるきゅうせいしゅであるということは、もちろん、精霊王も知っておったからな。そしてそのことは、精霊王の口から、ムンドベルクにも伝えられていた。だからこそムンドベルクは、なおのこと、おぬしのことを、ひっしに守ろうとしたのだ。」

 

 そうです、ムンドベルクが「わがむすこロビーベルクこそが、いい伝えのきゅうせいしゅなのだ」と知っていたのは、ほかでもない、精霊王ほんにんから、そうつげられたからでした。なんでも知っているという、伝説の精霊王。その精霊王から、ちょくせついわれましたから、こんなにしんらいのできることはありません。親が、子を守ろうとする気持ち。そしていい伝えのきゅうせいしゅのことを、守らなければならないという気持ち。その両方をたくされたムンドベルクの思いは、どれほどのものだったのでしょうか……?

 

 「おぬしは、イーフリープから、かなしみの森のあるアークランドの北の地へと、はこばれた。あの地には、いにしえのじだいから、守りの魔法の力がはたらいとったからだ。精霊王は、その魔法をさらに強いものとし、あの地をイーフリープ世界と同じほどの、守りの場とした。このアークランドでも、それができるのは、あの地をおいてほかにない。あの地の中にいるかぎり、いかに強力なまじゅつしとて、おぬしのいばしょを見破ることは、かなわんだろう。いくら、アーザスとてもな。おぬしとその腰の剣は、こうして、悪の目からのがれつづけながら、運命のときを待つことができたのだ。そして、おぬしは今、ここにいるのだよ。」

 

 これで、すべてのなぞがつながったのです。

 

 ロビーのかこ、そして、今……。

 

 

 ロビーはここから、みらいへと歩み出すのです。

 

 このさきに待ち受ける、自分の運命の中へと……!

 

 

 「出かけるじゅんびは、できています。」

 

 ロビーが、しゃんと胸を張って、ノランにいいました。ノランはそんなロビーのことをしっかりと見すえて、静かにほほ笑んでおりました。

 

 「おぬしには、もう、わたしの助けは、なにもいらんようだの。」ノランがこたえていいました。

 

 「おぬしはこれから、精霊王のところへゆかねばならない。剣の、そのさいごの力をわがものとする、しれんを受けるためだ。それは、アーザスをうち破るために、必要となるものだ。」

 

 「精霊王の、しれん……」ロビーが思わずつぶやきます。

 

 ノランがつづけました。

 

 「ロビーベルク。剣の力をわがものとするためには、その剣の力の意味を、よくりかいしていなければならん。いうなれば、その剣をあつかうためには、それなりのしかくが必要なのだということだ。それをりかいするためには、やみくもに動いてもだめだ。もはや、時間もないでな。イーフリープで、精霊王のしれんを受けるのが、いちばんよいだろう。」

 

 これまで、たくさんの場面でロビーと仲間たちのことを助けてくれた、剣の力。その剣の力をしっかりと使いこなすためには、精霊王のいるイーフリープでのしれんを受けるのが、いちばんだといいました。そのしれんを乗り越えたときにこそ、はじめてロビーは、剣をあつかうためのしんのしかくを得て、この剣の、そのさいごの力をひき出すことができるというのです(それがどんな力なのか? ということについては、のちにあきらかとなるでしょう)。

 

 そしてその力こそが、アーザスのことをうち破り、この世界にしんのすくいをもたらすために、必要な力なのだといいました(今までの剣の力は、まだまだ、剣の力のさいしょの部分にすぎないというのです。う~ん、やっぱり、このアストラル・ブレードという剣。ただものではありません。そしてこの剣の、そのさいごの力を使いこなすためのしかくを、ロビーはこれから、身につけようとしていました。それも、精霊王の待つおとぎのくに、イーフリープでのしれんによって。なんだかとっても、かっこいいじゃありませんか! まさに、きゅうせいしゅ。主人公って感じですよね!

 

 そして……。このしれんを受けるためにも、ロビーははるばる、このベーカーランドの地にまでやってきたのです。イーフリープへいくためには、精霊王のトンネルを通っていかなくてはならないわけですが、そのトンネルにいくためには、ロビーの住んでいたかなしみの森からは、このベーカーランドの南東部に位置するトンネルが、いちばんてきしていました。ちょくせんきょりからいえば、ワットの北東部にあるトンネルがいちばん近かったのですが、いくらなんでも敵地のどまん中をつっきっていくというのは、リスクが大きすぎます。もしロビーがつかまってしまったのなら、元も子もありません(精霊王のトンネルがあるのは、フェアリー・ベルトとよばれる、とくべつなちいきの中にかぎられていました。そのちいきはベーカーランドの南の地から東に進み、そしてそのままレドンホールとワットの東を通って、はるか怒りの山脈のほうがくにまでのびていたのです。ですからロビーの住んでいたかなしみの森をふくむ北の地には、ざんねんながら、この精霊王のトンネルはひとつもありませんでした)。

 

 このようなわけで、ロビーはベルグエルムたちにひきいられて、(長い冒険のすえに)まずはこのエリル・シャンディーンへとやってきたのです。精霊王のトンネルにいくためには、まずはいちど、通ることもふかのうな山がく地をうかいして、このエリル・シャンディーンの地を通っていくのが、いちばんの近道でしたから。それにこれはもうすこしあとで語られますが、エリル・シャンディーンで、必要な人員のちょうせいをおこなう必要もありましたし)。

 

 「わかりました。」ロビーがいいました。

 

 ノランはそのロビーの言葉にまんぞくしたように、ゆっくりとうなずいてみせました。

 

 「そのあとのことは、精霊王が、おぬしをみちびいてくれることだろう。怒りの山脈への、いき方もな。さて、まずは、イーフリープへのいき方だが……」

 

 ノランはそういって、ちょっとむずかしい顔をしながら、ひげをととのえていました。なにか、問題でもあるのでしょうか? 

 

 「このエリル・シャンディーンから、さらに南東へくだった地に、精霊王のトンネルがある。まずは、そこへむかうのだ。だが今、そのトンネルも、力のバランスがくずれてしまっていてのう。あけるのには、ちと、とくべつな力が必要でな。」

 

 とくべつな力? それはいったい、どんな力なのでしょう?(まさかまた、ライアンみたいに、どっか~ん! って吹き飛ばすんじゃないですよね……?)

 

 「精霊王のトンネルは、精霊の力に守られておる。宝玉の力が弱まった今、その入り口は、精霊たちの力によって、かたくとざされてしまったのだ。かれらの世界が、よこしまなる力に、そまってしまわぬようにとな。もはや、そのネックレスの力だけでは、精霊王のトンネルをひらくことは、できん。精霊がとざしたトンネルをあけるためには、また、ほかの精霊の力が必要なのだよ。」

 

 「なーんだ、そんなことか。」ノランの言葉に、ライアンが飛び出していいました。「だったら、ぼくにまかせてよ! シープロンドいちの精霊使い、ライアンさまの手にかかれば、そんな入り口の、ひとつやふたつ!」

 

 そうです、精霊のことなら、ライアンにまかせるのがいちばんですよね!(ライアンの言葉には、だいぶ大げさなところがあるようですが……)ロビーも、「そうだ、ライアンならだいじょうぶ」と思っていましたが……。

 

 「いや、精霊使いではだめなのだ。あの入り口は、精霊そのものの手によってしか、あけることはできんのでのう。中の世界とこちらの世界とは、かんぜんに切りはなされてしまっておるから、入り口をあけるためには、そとから、精霊の力によってあけるしかないのだよ。」

 

 ノランの言葉に、ライアンは「え?」といって、ロビーと顔を見あわせてしまいました。ふたりとも、ノランのいっていることが、よくわからなかったのです(精霊使いがだめで、精霊ならよくて……。はっきりいって、わたしにもわかりません!)。

 

 「ぼくが精霊にたのんであけてもらえば、おんなじことじゃない。」ライアンがいいましたが、ノランは首を横にふって、いいました。

 

 「精霊王のトンネルをあけることができるのは、それだけの力を持った、精霊だけなのだ。水や、風や、火の精霊たちでは、たばになってかかっても、だめだ。せめて、やみの精霊ほどの力がなくてはな。おぬしは、やみの精霊に、入り口をあけてくれとたのめるか?」

 

 「う、うぐぐ……、それは……」

 

 ノランの言葉に、ライアンはかえす言葉もありませんでした。なるほど、精霊使いではだめだといったノランの言葉には、こういうわけがあったんですね。あのおっかないやみの精霊たちに、そんなことをたのむなんてこと、それこそ、むりなそうだんというものですもの!(前にやみの精霊の谷をすんなり通してもらえたのは、精霊王がかれらに「通してやってくれ」とたのんでいたからなのであって、それはほんとうに、とくべつなことでした。精霊王ならまだしも、やみの精霊たちに「トンネルをあけてくれ」なんてたのんだとしても、いうことをきいてくれるはずもありません。いくら精霊王に会いにいくためだといっても、アークランドをすくうためだといっても、むりでしょう。人の住む世界でのできごとは、かれらには、かかわりのないことなのです。でも、けっしてかれらは、悪者なのだというわけではありません。光に力を与えるためには、また、やみの力も必要。かれらは人の世界にかかわることをせず、ただじゅんすいに、やみの世界を守りつづけているだけなのです。

 

 ところで……、読者のみなさんの中には、こう思った方もいるかもしれませんね。そんなめんどくさいことしなくても、精霊王ほんにんに、「トンネルをあけてくれ」ってたのめないの? って。もちろん、それができたら、いちばんかんたんなんですけど……、じつは精霊王は、みずからその力をおよばせて、そとの世界の者をイーフリープ世界の中にまねきいれるようなことをすることは、できませんでした。

 

 これはイーフリープ世界とアークランド世界とのあいだで、「取りきめ」として、はじめからさだめられていたことでした。イーフリープ世界の者は、そとの世界の者をみずからイーフリープ世界の中にまねきいれたり、そとの世界の者のおこなうことに、ちょくせつ手を出してあやつるようなことを、してはならないときめられていたのです。

 

 いぜんムンドベルクとアルファズレドが精霊王のトンネルに出くわしたのは、ほんとうにぐうぜん、その場所にトンネルがひらいたからのことなのであって、精霊王がかれらを、まねいたというわけではありませんでした。精霊王というのは、ほんとうに、人の世界のことに、かんたんに力をおよばせていいそんざいではなかったのです。精霊王が、むやみにその力をおよばせてしまえば、この世界のバランスは、大きく変わってしまうことでしょう。そのため、こちらから力をつくして精霊王に会いにいくのであれば、問題はありませんでしたが、精霊王の方から、こちらのおこないに手を出してむかえいれるようなことをすることは、いくら世界のいちだいじのこのときであっても、できませんでした。トンネルの入り口をずっとあけたままにしておいてあげる、というのも、精霊王が自分でみんなをイーフリープにまねきいれているのと、おんなじことになっちゃいますしね。なんだかずいぶん、ややこしいんですけど……。

 

 ちなみに、たとえ精霊王でも、みずから自分のところへやってきた人物に対しては、ネックレスなどの小さなおくりものや、じょげんを与えるくらいのことは、できたのです。それはその者のおこないにちょくせつ手を出すわけではありませんし、それを受け取った者が、それでなにをするのか? ということについては、すべて相手に、ゆだねられているからでした。そして同じく、やみの精霊たちに「ロビーたちのことを通してやってくれ」とたのんだのも、ロビーたちはべつに、精霊王のおかげでやみの精霊の谷にはいっていくことができたというわけではなく、自分たちでみずから、谷にはいっていったのです。ですから精霊王がロビーたちのおこないに手を出して、かれらの動きをあやつったというわけではありませんし、谷を通ることができるようにしたけれど、そのあとそれを、どういかすのかは、すべてロビーたちにゆだねられていました。う~ん……、やっぱりかなり、ややこしいですね……。

 

 そしてライアンはまたマリエルに、「わかったら、ひっこみなよ!」といわれて、ひきもどされてしまいました。ですがこんかいばかりは、ライアンも、しゅんとして、おとなしくしていたのです。ですからマリエルも、「あれ? ちょっと、いいすぎちゃったかな……」と心配しました。)

 

 「それじゃ、どうすれば……」ロビーがノランにたずねました。

 

 「心配せずともよい。ちゃんと、入り口をあけられる男を、知っておるからの。」

 

 ノランの言葉に、ロビーもライアンも、え? という顔になりました。精霊じゃなくちゃあけられないといったのに、あけられる男って、どういうこと?

 

 「かんたんなことだ。」そんなふたりにむかって、ノランがさらっといいました。「その男が、精霊なのだよ。」

 

 ええっ? 精霊の男? なんだかますます、わけがわかりませんけど……。

 

 「名を、リズ・クリスメイディンという。リズは、失われたシルフィア種族の、まつえいなのだ。シルフィアは、精霊の一族。すがたかたちは人間だが、中身は精霊、そのものなのだよ。」

 

 なんと! そんな種族の人がいるんですか! このアークランドには、まだまだ、おどろきの種族の者たちがいるものです。つまりその人は精霊だから、その人にたのめば、イーフリープへの入り口をあけることができるということらしいのでした(しかも精霊王のトンネルをあけられるというのですから、かなり力のある精霊のようです。やみの精霊たちみたいに、おっかなくなければいいんですけど……)。

 

 「リズ・クリスメイディン。かれは、もともと、このエリル・シャンディーンの剣じゅつしなんやくでした。」ベルグエルムがロビーにいいました。

 

 しなんやくというのは、人にそのわざを教える、先生のことです。リズは、剣じゅつ、つまり、剣のわざを教える先生だったのです。ということは、かなりのうでまえのようですね。でも、精霊と剣。あんまりむすびつかないような気がしますが……(ちなみに、リズはライラとごかくに戦うことのできる、ただひとりの相手でした。ということは、やっぱりただ者ではありません。なにせライラは、このベーカーランドでさい強でしたから!)。

 

 「じゃあ、リズさんに入り口をあけてくれるように、たのめばいいんですね。そのリズさんは、今どこに? 近くに住んでるんですか?」ロビーがたずねました。

 

 「いや、それが……」ベルグエルムが、言葉をにごします。フェリアルとふたり、顔を見あわせて、なんだか変なようすでした。

 

 「リズは、二年前、『おれは音楽にすべてをささげる!』といって、この城を出ていってしまいまして……、それいらい、ベーカーランド南東部の、けわしい山の中に、こもってしまっているんです。なんでも、静かなところじゃないと、作曲ができないそうで……」

 

 な、なんと! 剣じゅつしなんやくから、音楽家! ずいぶんと、思いきりのいい人のようですね! って、それはいいとして……、今は、リズさんの住んでいるところが問題です。けわしい山の中ですって?

 

 「たいしたことではない。」ノランがいいました。「ここからでも、歩いて二時間もすればつく。ほんとうなら、さいごまで馬でいきたいところだが、なにせ、やつの住んでいるところは、だんがいぜっぺきの上でな。馬では、のぼれんのだ。それに、馬がいると、はらをすかせたガウバウどもに、すぐにくわれてしまうからのう。」

 

 ノランはそういって、ゆかいゆかいといったふうに、「はっはっは!」と大声で笑いました。って、かなりたいしたことあるじゃないですか! ぜんぜんゆかいじゃないです!(ガウバウというのは、おおかみににたきょうぼうなけもののことで、このけものは十数ひきものむれをなして、えものにおそいかかるのです。こんなおっかないけものが、リズの住んでいる山には、たーくさん、いるらしいのでした。やっぱり、ゆかいじゃないです!)

 

 「あ、あの……、けっこう、たいへんなところみたいなんですけど……。どうすれば、リズさんのところまでいけるんでしょうか?」ロビーが(とっても)不安げにたずねました(とうぜんですね)。

 

 「ん?」ノランがきょとんとした顔をして、こたえます。旅なれた大けんじゃであるノランにとっては、だんがいぜっぺきも、危険なガウバウというけものも、ぜんぜんふつうの、にちじょうの相手にすぎませんでしたから。

 

 「おお、そうか。」ノランがすまんすまんといったふうに、手を上げていいました。「おぬしは、魔法が使えんのだったのう。」

 

 そのとき。

 

 「ぼくに、おまかせください。」

 

 そういって前に進み出たのは、マリエルでした。ケープの両方のはしっこを、両手のゆびさきでちょこんとつまみ上げて、かわいらしいかっこうをしてみせます(うしろではライアンが、「うわー! あざとい! あざとい!」とぶーぶーいってましたが……)。

 

 「そうだ。そのためにも、マリエルにたのんでおいた。」ノランがつづけました。「こんかいの道のりについて、おぬしをあんないするようにと、たのんでおいたのだ。マリエルなら、まったく、安心してだいじょうぶだぞ。なにしろ、わたしのでしだからのう。強いのなんの。」

 

 ノランはそういって、また「はっはっは!」と大声で笑いました(よく笑う人ですね……。そしてこのマリエルのそんざいこそが、さきほどわたしが申し上げました、このエリル・シャンディーンでの必要な人員ちょうせいでした。リズのところ、そして精霊王のトンネルのところへとロビーのことをみちびく、こんかいのこのとくべつなにんむについては、アルマーク王とノランは、ゆうしゅうなまじゅつしであるマリエルに、たくすべきだとはんだんしていました。もはや、ベルグエルムたち白の騎兵師団の者たちも、ワットとの戦いにおもむかなければならないときでしたし、きゅうていまじゅつしがひとり、この場からしばらくはなれることにはなってしまいますが、この重要かつ危険なにんむをまかせるのには、まさにマリエルが、てきにんであるとはんだんしたのです(やはりこんかいもアルマーク王は、ぎりぎりのせんたくをしていたわけでした)。

 

 それはそうとして……。こんかいの、リズのところへといくという、このにんむ。読者のみなさんの中には、こう思った方もいるのではないでしょうか? わざわざこちらからリズのところまでいかなくても、あらかじめリズのことを、お城までよんでおけばよかったじゃないかって。それもたしかに、ひとつの手でした。ですがそこには、ノランとそのでしのマリエルによる、ひじょうにたくみにねられた計算があったのです。

 

 それはどういう計算か? といいますと……、説明するのがいやになるくらいの、ひじょうに長くて、めんどうくさいものでしたが、やっぱり説明しておかないわけにはいきませんね。ここでわたしは、マリエルからきいたその計算の内ようについて、ノートにきろくしたことを、そのまま、ここに書きとめておきたいと思います。長いうえにややこしいですから、あらかじめ、そのつもりでかくごをお願いしておきます。

 

 まず精霊王のトンネルにむかうまでの道のりは、ふたつあったということ。これはエリル・シャンディーンの南にあるトンネルと、リズの家の南東にあるトンネルの、ふたつでしたが、じつはこれらのトンネルにいくまでのきょりと時間は、ほとんど同じでしたので、その点からいえば、どちらのトンネルをえらんでもいいわけでした(お城の南のトンネルにいくためには、時間をせつやくするために、あらかじめリズをお城までよびよせておく必要がありましたが、それは問題のうちにははいりませんでしたので、取りのぞきます。よべばいいだけのことですから。

 また、リズの家の南東のトンネルまでまっすぐいくルートと、リズの家に立ちよってからそのトンネルまでいくルートでも、地形的にはほとんど同じ時間でいけました。ですからやっぱり、その点からいっても、お城の南のトンネルとリズの家の南東にあるトンネルは、どちらをえらんでもよかったわけです)。

 

 しかし、お城の南への道のりには、それいがいの点で、わずかばかりの問題が。

 

 この道のりは、けわしい山道でしたが、そこには「じきあらし」、つまりじしゃくの力と同じ力を持ったしぜんのあらしが、吹き荒れるかのうせいが、わずかにあるということでした。そのかくりつは、マリエルの計算によれば、八パーセント。このあらしにそうぐうしてしまうと、山道に足どめをくって、マリエルほどの者が魔法をたくみに使いこなしたとしても、よけいな時間をついやしてしまうおそれがあるということだったのです。

 

 そして、リズの家の南東にあるトンネルにいくための道のりにも、わずかばかりの問題が(ガウバウたちの問題は、ゆうしゅうなまじゅつしであるマリエルなら、なんの問題でもなかったので、取りのぞきます。なにしろマリエルは、ノランのでしでしたから)。

 

 じつはガウバウたちのいるがけの道にたどりついてから、そのあとの道のりには、なんの問題もありませんでしたが、問題があったのは、そこにたどりつく前の道。その道にはあるエネルギーがそんざいしていて、そこをシルフィアであるリズほどの強力な精霊エネルギーを持った者が通ると、その精霊エネルギーに道のエネルギーが反応して、精霊エネルギーのひずみが生まれてしまうかのうせいがあるのだということでした。そのかくりつは、マリエルの計算によれば、十二パーセント。このひずみが生まれると、どうなるのか? というと、そのエネルギーによって、あたりいちめんに空飛ぶくらげのような生きものがあらわれて、道をすっかり、うめつくしてしまうのだそうです! そうなると、マリエルほどの者が魔法をたくみに使いこなしたとしても、まるで水の中を進んでいるかのように、動きがにぶくなってしまって、たいへんな時間のロスになってしまうのだそうでした(この道をさけて通れば、それも時間のロスになりますしね)。

 

 ですが、精霊エネルギーのひずみについてのこの問題は、あくまでも、シルフィアほどの精霊エネルギーを持っている者にかんしての話。ふつうの者であれば、この道は、なんの問題もなく通ることができたのです。

 

 つまり、こういったわけで……、「八パーセントぶんリスクをすくなくすることのできる、リズの家の南東のトンネルをめざすルートを進み、そのためにリズには、自分の家で自分たちがいくまで待っているようにと、手紙でしじを出しておく」という、こんかいの、このけいかくにいたったというわけでした。まったく、なんという計算のねりようなのでしょうか!(どんな計算によってパーセントの数字を出したのかは、さっぱりわかりませんが……)さすがはまじゅつし。頭がよろしい。

 

 それともうひとつ、だいじなこと……。精霊王のトンネルをあけるためにリズの力が必要だという、こんかいのこのことについては、きゅうきょ、エリル・シャンディーンにノランがやってきた、そのあとになってからわかったことでした。ロビーがイーフリープで精霊王のしれんを受ける必要があるのだということは、いぜんからしょうちしていたことでしたが、今まではただ、ロビーの持つネックレスの力さえあれば、イーフリープまで、問題なくいけるはずだったのです。

 

 ですが、ここにきて急に、そうていがいの問題が起こってしまいました。それは、そう、ノランもいっておりました通り、精霊王のトンネルが精霊の力によって、かたくとざされてしまったということだったのです。

 

 これはじつは、アークランドにやってきたノランが、ねんのためにしらべてみたことによって、はじめてわかったことでした(はなれたところからでもそれがわかるほどの魔法を使うためには、やはりノランほどの力が必要でした。ベーカーランドのきゅうていまじゅつしたちにも、マリエルにも、まだ、それほどのわざは使えなかったのです)。それによれば、トンネルがとざされたのは、ごくさいきん、つい数日ほど前のことだったというのです。これでは、さすがのノランでも、マリエルでも、だれにだって、よそくのできないことでした(まったくもって、きんきゅうじたいでした)。

 

 ですからリズのところへいくこんかいのこの道のりのことは、とつぜんにきまったことなのであって、そのためマリエルは、ノランに急ぎたのまれて、魔法の手紙をノランのやってきたきのうの夜のうちに、リズのところへと送ったというわけなのです。以上、説明コーナーでした)。

 

 「ノランさんは? ノランさんがつれてってあげたらいいじゃん。こんな、ちびっ子じゃなくてさ。」

 

 うしろの方から、ライアンがいじの悪ーいいい方でいいました。マリエルがロビーのあんないをするときいて、ライアンはぜんぜん、おもしろくなかったのです(とうぜんマリエルがすかさず、「きみだって、ちびっ子じゃんか!」といいかえしました。まったく、これではふたりとも、まさにどんぐりのせいくらべですね……。ロビーがあわててふたりのあいだにはいって、とめました。やれやれ……)。

 

 「わたしはすぐに、出かけなくてはならん。」(ちびっ子たちのさわぎをよそに)ノランが急にいいました(あんまり急でしたので、みんな、とてもびっくりしてしまったものでした)。

 

 「もうだいぶ、時間がすぎてしまったからの。すまんが、ここからさきの道は、おぬしとマリエルの、ふたりでいってもらいたい。」

 

 ノランはロビーにそういって、肩から下げたかばんをひょいとしょいなおします。どうやらほんとうに、今すぐ出かけてしまうみたいでした。

 

 「ノランどの、これからどちらへ?」ベルグエルムが、あわててたずねました。やっぱりこんども、ノランとゆっくり話しをすることは、できないみたいでしたから。

 

 「うむ。」ノランがこたえます。「リュインとりでのことは、きいておるよ。痛ましいことだ。リストール・グラントは知っておるな?」

 

 「そんけいすべきしきかんです。」ベルグエルムがこたえました。

 

 リストール・グラントというのは、リュインとりでのことをまかされていた、ベーカーランドのしきかんでした。もちろんベルグエルムもフェリアルも、かれのことはよく知っていたのです。アークランドの北の地へ、ロビーのことをむかえにいく、そのときにも、かれらはリュインとりででかれに会っていました。そして、とりでが落とされた今。リストール・グラントしきかんは、ほかの兵士たちやレイミールと同じく、ぶじでいるのかどうかさえも、わからなくなってしまっていたのです。

 

 「さいごの戦いでは、かれのそんざいが、大きな意味を持つこととなろう。わたしも、できるかぎりのことはさせてもらう。とにかく今は、時間がなによりもたいせつだ。」

 

 ノランはそういって、ベルグエルム、フェリアルと、かたくあくしゅをしました。

 

 「おぬしたちは、すばらしいはたらきをしてくれた。これほど早く、きゅうせいしゅをこの地に、みちびいてくれたのだからな。おぬしたちのはたらきは、このアークランドの運命を、大きく変えることになるだろう。」

 

 ノランの言葉に、ベルグエルムとフェリアルは、すっかりきょうしゅくしてしまいました。大けんじゃノランにこんなにほめられるなんて、たいへんなめいよでしたから(それをかぎつけたライアンが、うしろで「ちょっと! ぼくは? ぼくは?」とノランにもんくをいっていましたが)。

 

 「これからの道のり、おぬしたちには、おぬしたちの、大きなやくめがある。だれにもかわりはつとまらん。ベーカーランドを、たのむぞ。」

 

 そしてノランは、さいごにロビーにいいました。

 

 「ロビーベルク。わたしができることは、ここまでだ。あとは、おぬしが、道を切りひらいていかねばならん。つらい旅になるやもしれん。だが、おぬしなら、きっと、そのもくてきを果たすことだろう。」

 

 こうしてノランは、その場にいる者たちにえしゃくをして、でしのマリエルの肩を手でぽんとたたいてから、去っていったのです(去っていくノランを見ながら、フェリアルが「ああー、いっちゃった……」とべそをかいて、ライラにおしりをたたかれ、「しっかりせんか!」としかられていましたが)。

 

 

 大けんじゃノランが旅立ちました。

 

 残された者たちは、これから、どう動くのでしょうか?

 

 

 

 風の吹きぬける小さな青いとんがりやねの下に、みんなは立っていました。ノランが去った今、これからのことを、みんなは急ぎ、かくにんしなければならなかったのです。

 

 「べゼロインからのほうこくでは、黒の軍勢の本隊は、すでに、リュインの東までやってきているそうだ。」ライラが、ベルグエルムにいいました。「われらはすぐに、べゼロインへはいらねばならぬ。」

 

 「でも、ロビーどのは……」となりのフェリアルが、心配そうにたずねて、ロビーの方を見ます。

 

 ライラのいう通り、べゼロインとりでに黒の軍勢がせめこんでくるのも、もう時間の問題でした。ベルグエルムや、フェリアル、ライラは、白の騎兵師団のしきかんです。べゼロインとりでを守るため、どうしても、みんなのしきをとって戦わなければなりません。ひじょうにざんねんなことですが、ロビーのさいごの旅に、かれらがいっしょにいくことはできないのです……。それは北の地にロビーのことをむかえにいくという、そのにんむをはじめる前から、わかっていたことでした。でも、ベルグエルムとフェリアル。このふたりにとって、今ロビーだけをこのさいごの危険な旅に送り出すということは、とてもつらいことになっていたのです。読者のみなさんには、もうそのりゆうをいうまでもないでしょう。かれらにとって、ロビーはもはや、きゅうせいしゅ、それ以上に、たいせつな仲間でしたから(とくにフェリアルは、とっても心配しょうでしたので、ロビーのことが気がかりでなりませんでした)。

 

 「ぼくは、だいじょうぶです。」ロビーが、にっこり笑っていいました。「マリエルくんもいるし、ちゃんとリズさんのところまで、いけますよ。」

 

 フェリアルが、そのロビーの言葉にこたえる前に……。

 

 「ぼくもいるよ! ぼくも、いっしょにいく! ロビーは、ぼくがいないとだめなんだから。」ライアンがロビーのとなりにやってきて、そのうでを取っていいました(すぐにマリエルが、「ぼくひとりでへいきだよ!」とつっぱねたので、またふたりでなかよく、わーわーのはじまりです)。

 

 「いや、待ちなさい。」そういったのは、アルマーク王でした。アルマーク王は、ロビーといっしょにいくといったライアンに対して、そういったのです(ライアンはマリエルの服をひっぱりながら、「え?」といって王さまの方を見ました)。

 

 「ライアン王子、そなたは、わがベーカーランドの、ひん客だ。」アルマーク王がていねいないい方で、いいました(ひん客とは、たいせつなお客さまという意味です)。

「ベーカーランドとしても、めいゆう国シープロンドの王子を、これ以上、危険な目にあわせるわけにはいかぬ。そなたは、このエリル・シャンディーンに、とどまってほしい。」

 

 アルマーク王はきわめておちつきはらって、そういいました(アルマーク王はなんどとなく、友のメリアン王から、ライアン王子のことをきかされていたのです。かわいいけれど、わがままで、あつかいづらいということ。そして、かわいいけれど、きげんをそこねさせないように、じゅうぶんな注意が必要、などということでした……。ですからアルマーク王は、ライアンになっとくしてもらえるりゆうをよく考えて、しんちょうに言葉をえらんで、そういったのです)。

 

 アルマーク王のいったことは、まったくベーカーランドの王さまとして、正しい言葉でした。ほかのくにの王子さまを、わがくにが危険な目にあわせるわけにはいかない。とどまってほしいとたのんだそのりゆうも、じつにたんじゅんめいかい。だれでもなっとくのいく、わかりやすいりゆうです。ですが……。

 

 ライアンに、それが通じるでしょうか? ライアンが、「わかりました。ひっこみます。」とすなおにいうでしょうか? みなさんなら、すぐにこたえは出ますよね。

 

 王さまの言葉をきいて、ライアンは(マリエルから手をはなして)にっこり、笑いました。

 

 ぞぞぞぞー! そのとたん、その場にいるロビー、フェリアル、ベルグエルムの三人は、心の底からきょうふしたのです! ライアンがこの笑顔を見せたときは……、そう、きげんをそこねて、とんでもなくおそろしいことを考えているときでした!(相手が王さまだろうがなんだろうが、ライアンならやりかねません!)

 

 「王さま。」ライアンはアルマーク王に歩みよって、にこにこしながら、その顔を下からいたずらっぽくのぞきこみました(マリエルに負けじと、かわいらしいしぐさをつけ加えます)。

 

 「王さまは、シープロンじゃないですよねー? わがシープロンドでは、シープロンのことは、シープロンできめるっていう、すてきなでんとうがあるんです。知ってましたー? ところでこれ、父からきいた話なんですけど……、うふふ、王さまってー……」

 

 そのときアルマーク王は、ライアンになにをいわれたのでしょう? はなれたところにいるロビーたち三人には、うしろすがたのライアンが、どんな表じょうで、どんなことをいったのか? わかりませんでしたが、この三人にはだいたい、そうぞうがついたのです……。アルマーク王の顔が、みるみる、まっ青になっていきましたから……。

 

 ようするにライアンは、アルマーク王の弱みにつけこんで、王さまをおどしたのです! なんてめちゃくちゃな子なんでしょう! ベーカーランドの王さまをおどす王子なんて、ライアンいがい、ほかにいるはずもありません! う~ん、さすがというか、なんというか……(このときライアンが、アルマーク王になにをいったのか? それはこのふたりにしかわからないことでした。著者のわたしもさいごまで、このふたりの口からしんじつをきくことはできなかったのです。ライアンは「うふふ、ないしょ。」というばかりでしたし、アルマーク王は、ぶるる! と肩をふるわせて、だめだめ! といったふうに、手をふるばかりでしたから……。

 

 ところで、じつはアルマーク王はロビーたちがエリル・シャンディーンにやってくる前、シープロンドのメリアン王から、でんれいの鳥の手紙を受け取っていました。それにはハミールとキエリフのべつ行動のことなどに加え、こんなこともいっしょに書いてあったのです。

 

 「むすこのライアンがそちらにいくらしいので、よろしく。手あつい、ほごをたのむ。けっして、危険なところへとむかわせないこと。やくそくを守れなかったら、どうなるか? わかってるよね? ね?」

 

 この手紙を読み終えたとき、アルマーク王はしばらく、頭をかかえて動けなかったそうです……。メリアン王の言葉。いいつけを守れなかったらどうなるのか? それは読者のみなさんのごそうぞうにおまかせします……。どうやら、アルマーク王とメリアン王のあいだにも、なにかいろいろ、あるみたいですね。メリアン王、そしてそのむすこのライアンにまで、いいようにあつかわれてしまって、う~ん、かわいそうなアルマーク王……。

 

 ちなみに、この手紙の内ようのことは、ごくひでしたので、アルマーク王はこのことを、デルンエルムいがい、兵士たちにも伝えていませんでした。ですから、ハミールやキエリフがべつ行動を取っているということ、そしてシープロンドのライアン王子がきゅうせいしゅといっしょにやってくるということなども、みんなはまだ、知らなかったというわけだったのです。やはり、たとえしんらいのおける兵士たちであるとはいえ、よけいなうわさが広まってしまいかねないようなことは、王さまとしても、さけなければなりませんでしたから)。

 

 「よかった。ありがとう、王さま。」

 

 ライアンがそういって、るんるん! とこちらに歩いてきました。まんめんの笑顔です(こんどはほんとうの笑顔でした。フェリアルはまだ、おっかながって、ベルグエルムの背中にぶるぶると張りついていましたが……)。

 

 「な、なにを話してたの……?」ロビーがおそるおそる、たずねます。ライアンは「うん。」といって、にこにこしながら、こたえました。

 

 「ロビーのことを、よろしくって。ぜひ、助けてあげてほしいそうだよ。しょうがないなあ。まあ、そんなわけだから、ロビー、よろしくね。」

ライアンはそして、ロビーの腰をぽんとたたきます。

 

 「ちょ、ちょっと! なにをかってなことを!」とうぜんマリエルが、あわててあいだにはいって、いいました。

 

 「王さま、ほんとうなんですか!」

 

 マリエルがアルマーク王をといつめましたが、王さまはただ、だまって、こくこくとうなずくばかりでした……。

 

 「そんなあー!」(マリエルは、がっくりと肩を落としてしまいました。せっかくノランおししょうさまからも、「さいごの旅のことは、おまえにまかせるぞ」ときたいされておりましたのに……。このときのために、ねんいりにきれいな服も用意して、つえもぴかぴかに手いれしていたのです。まさかこんな、よけいなおにもつ(ライアン)がふえちゃうなんて!)

 

 「ノランどのの思いを、つなぐ者たち。さしずめ、ノランべつどう隊といったところか。」

 

 小さなまじゅつしに、小さな精霊使い。ともに力のあるそんなふたりのちびっ子たちのことを見ながら、ライラがいいました(べつどう隊というのは、にんむのために、本隊からはなれてべつに行動する者たちのことをいいます。この場合では、ノランが本隊、マリエルたちがべつどう隊ということになるわけでした)。

 

 「うむ、いいではないか。ノランどののきたいに、こたえてくるがいい。」ライラはそういって、楽しそうにほほ笑みました。

 

 「ノランべつどう隊!」ライアンが思わず、さけびます。「それ、もらった! けっていね! いくぞ、われら、ノランべつどう隊! う~ん、かっこい~い!」

 

 「きみがかってにきめないでよ! おししょうさまのでしは、ぼくなんだからね!」マリエルが、ぷんぷん怒っていいました。

 

 「どっちがロビーの助けになれるかだよ。まあ、ぼくにくらべたら、きみじゃ、まるでお話にならないのは、わかってるけど。なんたって、ぼくは、ロビーの親友なんだから。ねっ? ロビー。」ライアンがそういってロビーのうでにだきついて、マリエルをさらに怒らせます。

 

 「なにおーう!」

 

 わーわーきゃーきゃー。もう、これじゃ出発前から、さきが思いやられますね……。ロビーはふたりのちびっ子たちに両方からひっぱられて、不安いっぱいに思いました。

 

 だいじょうぶかなあ……。

 

 

 

 かつん、こつん、かつん、こつん……。

 

 うす暗い石のろうかをひとり、だれかが歩いてきました。やがてその人物は、ろうかのつきあたりまでやってくると、そこにある、ひとつの部屋の前に立ちどまりました。

 

 その部屋には、ふつうのとびらはひとつもありませんでした。かわりにあったのは……、がんじょうそうな、鉄ごうし。そう、この部屋は、ろうやだったのです。

 

 ろうやの中には、なん人かの人たちがいるようでした。その人たちは、すぐに、やってきたその人物のことに気がつきました。そしてそのうちのひとりが、怒りにあふれた声で、こういい放ったのです。

 

 「ガランドー! この、うらぎり者め!」

 

 ガランドー……。そう、黒いよろいを身にまとい、おうごんのつるぎをその腰におびた、こがね色のかみのしきかん。このろうやにやってきたその人物とは、その言葉の通り、ワットの黒の軍勢のしきかん、ガランドー・アシュロイだったのです。では、かれのことを知っていた、ろうやの中の人物とは……?

 

 ガランドーは、だまったままでした。きびしい顔をして、ろうやの中の人たちのことを、じっと見つめているだけだったのです。

 

 「なんとかいったらどうだ!」

 

 ろうやの中の人物が、さらにこうふんしてどなります。ですが、かれのとなりにいる人物が、かれの肩に手をおいていいました。

 

 「おちついて。ここでいいあらそったとしても、なにもはじまりませんよ。」

 

 その人は、若い女の人でした。このものごとをれいせいにとらえた、おちついたしゃべり方。小さなからだに、白い服。ふちのない、すてきなデザインのめがねをかけていて、頭の上の両がわからは、ライアンと同じひつじの種族の者の耳が、ぴょこんと飛び出していて……、ま、まさか、この人は……!

 

 「レシリアどののいう通りだ。まずは、おちつけ、ハミール。」

 

 レシリア! ハミール!

 

 そうです! このつめたくうす暗いろうやの中にとらわれているのは、ほかでもありません。わたしたちのよく知っている、われらが旅の仲間たち。シープロンドのレシリア・クレッシェンド先生と、ルースアン・トーンヘオン。そしてウルファの騎士ハミール・ナシュガーと、キエリフ・アートハーグ。そのかれらだったのです!(ハミールをなだめたのは、友のキエリフでした。)

 

 「しきかん!」そのとき、ろうかのむこうからふたりのワットの兵士たちがやってきました。

 

 「ただ今本隊が、丘のむこうへ、とうちゃくしたとのことにございます! しきゅう、ごじゅんびを!」

 

 「よし。」ガランドーがれいせいな言葉で、こたえました。「ただちに、兵をむかえいれよ。リュインの二百名のほりょたちは、東のちゅうとん地へ送れ。」

 

 「しょうちいたしました!」兵士たちはガランドーのそのめいれいを受け、急ぎ、去っていきました。

 

 「かならず、痛い目にあうぞ。」ハミールがこんどは、ややれいせいになって、ガランドーにいいました。「ベーカーランドをうらぎったことを、心からこうかいすることになる。」

 

 ガランドーはだまったまま、ハミールのことを見ました。なにかいおうとして、その口をいっしゅんひらきかけましたが、ガランドーはそのまま、また、もときた暗いろうかの中へと、かつんこつんと歩き去っていきました。

 

 風雲、急をつげる。今にもたいへんなできごとが起こりそうだという意味です。その言葉の通り、風も、雲も、このとらわれの者たちのいるうばわれたリュインとりでの空の上を、まるでからみあう二ひきのりゅうたちのように、うねり、さわいでいました。

 

 ふきつなことが起ころうとしていました。

 

 

 

 

 

 

 




次回予告。


   ぴかっ! ごろごろごろごろ! がっしゃあーん!

   びゅびゅびゅうううう! どどどどどおーん!
      


第19章「リズのおうちへいっちょくせん」に続きます。

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