ロビーの冒険   作:ゼルダ・エルリッチ

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22、それぞれのむかうさき

 ここはこのアークランドのどこかの、とある岩だらけの、ものさびしい荒れ野の中。今その荒れ野の中を、たくさんの者たちが、まっすぐにれつをなしてぞろぞろと進んでいるところでした。その数は、すくなくとも二百人以上。じこくはもうすぐ、ま夜中にさしかかろうかというころでしょうか? こんな時間に、こんなところをこんなに大人数で進んでいるなんて、まったくもってふつうじゃありません。かれらはいったい、なに者なのでしょうか?

 

 れつのまわりには、黒いたいまつを持った者たちがいて、進む者たちのことを見張っていました。たいまつを持ったその者たちは、兵士たちでした。みな黒いよろいかぶとに身をつつんでいて、腰にはきみの悪い黒いさやにおさまった剣が、さしてあります。長いやりを持った者もいました。このやりもまた、黒いすみでまっ黒にぬられた、うすきみの悪いやりでした。

 

 この兵士たちが、どこの兵士たちなのか? 読者のみなさんになら、これ以上説明しなくてもおわかりだと思います。れつの先頭には、同じく黒いよろいを着た兵士たちが、そのさきに黒いはたぬのをつけた長いぼうを、かかげていました。そのはたぬのにそめられたしるしは、まさしくワットのはたじるし。いうまでもなく、この兵士たちは、ワットの者たちだったのです。

 

 ですが、待ってください。れつのまわりで、たいまつや、やりや、はたぬのを持っている者たちは、たしかにワットの者たちでした。しかしこの場所には今、そんなワットの兵士たちなんかよりも、はるかにたくさんの、べつの者たちがいたのです。その者たちは、ざっと見つもっても、二百人ほど。つまりこの場にいる者たちの大半の部分でした。

 

 そのかれらがいたのは、このれつのまん中の部分でした(つまり、このれつの大半の部分ということでした)。そしてよくよく見てみれば……、なんてこと! その人たちは、みなそれぞれの手足に「かせ」をつけられ、ロープでつながれた、とらわれの人たちだったのです! つまり、かれらのまわりをいっしょになって歩いているワットの兵士たちは、かれらとらわれの者たちの、見張り番だったというわけでした。ワットの兵士たちは、これからこのとらわれの者たちのことを、どこか東の地へとつれていこうとしていたのです。では、このとらわれの者たちとは、いったいどういう人たちなのでしょうか?

 

 全部で二百人ほどにもおよぶ、とらわれの者たち。たいへんな人数です。かれらはみな、おそろいのわたのはいったりっぱな衣服を着ていて、みんな、おそろいの白いマントをはおっていました(これは寒さをしのぐためのとくべつなマントで、あたたかい動物の毛が使われていました)。そしてそのマントにぬいつけられた、ひとつのもんしょう。それが、この人たちがなに者なのか? という、そのなぞのこたえを、はっきりとゆうべんに物語っていたのです。

 

 そのもんしょうは、ベーカーランドのもんしょう。そう、この大勢のとらわれの者たちは、ベーカーランドの人たちでした! つまりこの者たちは、ワットにうばわれたリュインとりでのことを守っていた、その兵士たちだったのです!(第十八章のさいご。レシリアたち、とらわれの仲間たちのとじこめられていたリュインとりでのろうやの前で、しきかんのガランドーがいっていた言葉をおぼえていますでしょうか? 部下の兵士たちから、黒の軍勢の本軍がとうちゃくしたとの、しらせを受けたときのことです。リュインのほりょたちを、東のちゅうとん地へはこべ。そう、ここにいるワットの兵士たちは、そのガランドーのめいれいを受けて、今リュインの二百名のほりょたちのことを、東のワットのちゅうとん地まで送りとどけているところでした!(このちゅうとん地というのは、軍隊がしばらくのあいだ、かりにとどまっている場所のことをいいます。とらわれの兵士たちは、とりあえずそこにはこばれて、それからあらためて、ワットのくにまで送られるというわけでした。

 

 ちなみに、かれらがむかっていた東のちゅうとん地というのは、レクタイルという名まえでよばれていて、ひとつの小さなまちのようになっていたのです。食べもの屋さんや、おしばい小屋や、しゃてき場までありました。なんだか、楽しそうな気もしないでもないですけど。))

 

 この者たちが、リュインとりでの兵士たち。ということは……? 

 

 リズの知られざるじつのお兄さん、リュインとりでのしきかんのリストール・グラント。そして白の騎兵師団のウルファの騎士、ハミール・ナシュガーのおとうと、小さなレイミールも、このれつの中にいるのでしょうか!

 

 どこだ? どこだ? れつを、はしからじゅんに見渡してみると……。

 

 

 いました! レイミールです!

 

 

 ああ、かわいそうなレイミール! かれはれつのうしろの方で、となりの兵士とロープでつながれたじょうたいで、足をひきひき、うなだれて歩いていました。だいぶつかれているようすでしたが、どうやら、けがはしていないようです。

 

 よかった! とりあえず、レイミールはぶじでした! このことをいっこくも早く、兄のハミールに伝えてあげたいものです! 

 

 でも、そのハミールもまた、リュインとりでにとらわれの身……。きょうだいそろってとらわれの身だなんて、なんてひどい話なのでしょう! 

 

 でも今は、仲間たちにかれらをすくうしゅだんはないのです……。かれらのために、自分たちの今、できることをやるしかありませんでした。かなしいことですが、今はさきに、進まなくては。

 

 

 さて、レイミールはからだが小さかったので、大きな人たちばっかりの中から、わりあいかんたんに見つけることができました。ですが、リストールは? リストールはどこにいるのでしょう?

 

 リズのお兄さん、リストール(ほんとうの名まえはリステロントですが)。かれはリュインのしきかんでしたから、この中にいるとしたら、れつのいちばん前か、いちばんうしろにいるのだと思います。ですがリストールのことをさがすのに、もっと手っ取り早い方法がありました。それは、そのかみの色。リストールのかみは、きれいな青がみだったのです。これはいもうとのリズと、おそろいでした。つまりこれは、シルフィア種族とくゆうのかみの色だったのです(この青いかみの色について、リストールはみんなには、「大むかしの風のたみの血がはいっているからだ」と説明していました(リズの場合は説明なんてせずに、「なんで青いのか? よくわからん。」といっていただけでしたが……)。ほんらいふつうの人間の者であれば、このおとぎのくにアークランドにも、青いかみの者はほとんどいなかったのです。まれに精霊の力を強く受けいれるからだのために、青いかみを持つ者もいることはいるそうですが、それはほんとうに、とくべつな者。しかも、こんなにあざやかな青がみになるということは、まずありません。リストールは自分がシルフィアであるということをかくし通しておくために、風のたみなんていう、でたらめの種族を作り上げて説明していました(ひょっとしたら、ほんとうにそんな種族の者たちがいるのかもしれませんが。このアークランド世界は、まだまだなぞだらけなのですから))。

 

 ですからわたしは、その青いかみのことを目じるしに、リストールのことをさがすことができました。しかしいくらさがしても、そんな青いかみの者は見あたりません。リストールだけ、どこかほかの場所へつれていかれたのでしょうか? しきかんですから、それも考えられます(それともまさか、かみの毛に絵の具をぬって、ほかの色にそめてしまったというわけではありませんよね?)。

 

 いない、いない! あきらめかけていた、そのとき……。

 

 おや? れつのいちばん前。ワットの兵士たちにまぎれて、ひとりだけ、マントのフードをかぶっている人物がいます。まさか!

 

 やっぱり! フードの影から、ちらちらのぞく、青いかみ! いました! リストールです!

 

 しきかんであるリストールは、れつのいちばん前で、ワットの兵士たちといっしょにされて歩かされていました。これではいくられつの中をさがしても、見つからないはずです。見張りのワットの兵士たちの中にいましたから。しかもその青いかみを、フードでかくしてしまっていましたもの、わからないはずでした(もう! ちゃんとかみを出しててよ!)。

 

 とにかくこれで、リストールもレイミールも、このれつの中にいるということがわかりました。ですが、だからといって、とてもよろこんでなどいられるものではありません。ほかの大勢の仲間たちのこともふくめて、けがなどはしていないようでしたが、みんなほんとうに、つかれきっているようすでした。かれらには、あたたかい食事と寝床が必要です。早く、助け出してあげたい! ですがわたしには、どうすることもできません……。

 

 去ってゆく、とらわれの者たち……。それを今は、ただ見守ることしかできませんでした。ああ、自分のむりょくさが、はら立たしいくらいです! 

 

 と、まさにそのときのこと……!

 

 

 わたしのこの思いが、こんなにも早く、天にとどくことになろうとは!

 

 

 かれらが暗くさみしい森の中にさしかかって、しばらくたったころのことでした。とつぜん、だれもがよそうすらしなかった、おどろきのできごとが起こったのです!

 

 

 「うわわーっ! な、なんだー!」

 

 

 ワットの兵士たちの、さけび声! その声に、今まで下をむいてとぼとぼと歩いているだけだったわれらがとらわれの仲間たちも、びっくりして、あたりを見まわしました。すると!

 

 まわりのうっそうとした森の木々のあいだから、ご、ごいーん! ぎゅ、ぎゅいーん! こ、このききおぼえのあるおかしな音は! そう、いぜんリュインとりでのそばにいた、あのなぞの老人のうしろから、きこえた音ではありませんか! そしてその音のしょうたいと、ワットの兵士たちの上げたさけび声の意味は、すぐにあきらかとなったのです。

 

 木々のあいだから、なん体もの、岩でできた巨大な人がたの兵士たちがあらわれました! きこえていたおかしな音は、この岩の兵士たちが動くときに、手足のかんせつから出ていた音だったのです!

 

 もうワットの兵士たちは、びっくりぎょうてんなんてものじゃあありません。なにしろ、相手が悪すぎでした! 目の前にあらわれたのは、身長が三十フィートはあろうかという、とんでもないほどの大きさの、岩の兵士たちでしたから! からだは、ぶあつい岩のよろいで守られていて、頭にも、がんじょうそうな岩のかぶとをかぶっています(といっても、この兵士たちはもともとみんな、岩でできておりましたので、よろいやかぶとはただのかざりでしたが。そんなものがなくたって、じゅうぶんかたいのです)。そして、「この相手にはかなわない」とかんねんさせる、けってい的なものが、その岩の兵士たちの手にはにぎられていました。

 

 岩の兵士たちの手には、これまた岩でつくられた、巨大ないっぽんの剣がにぎりしめられていたのです! こんな剣でおそわれたなら、ひとたまりもありません。そしてそんな岩の兵士たちが、すくなく見ても十五体ほども! いっせいに森の中から、目の前にあらわれてきました!

 

 もう、けっかは火を見るよりあきらかでした。なにしろワットの兵士たちは、ほりょを送りとどけるということをその大きなにんむとしておりましたので、大がかりな戦いをおこなうことなんて、はじめから考えにいれていなかったのです。やみにまぎれて、すくない人数でほりょたちのことを取りかえしにくるかもしれない者たちのことは、もちろんけいかいしてはいましたが、こんなに巨大な岩の兵士たちがぞろぞろとうじょうしてくるなんて、まったくもって、そうていがいでしたもの!

 

 ですからかれらの人数は、必要以上に多くはありませんでした。ぐたい的には三十二名で、このにんむについていたのです(これはほりょたちを取りもどしにひそかな人数の者たちがやってきたとしても、それに対応できる、さいていげんの人数でした)。この人数の人間の兵士たちが、身長三十フィートはあろうかという巨大な岩の兵士たち十五体ほどと、まともに戦えなんていうことが、そもそもむりなことでした。

 

 ワットの兵士たちは、ぎゅ、ぎゅいーん! 「うわわわー!」つぎつぎに、岩の兵士たちのそのゆびさきに、ちょこんとつまみ上げられていきます! さらに、「ひええ!」と逃げようとする者たちにむかって、ばしゅっ! 岩の兵士たちのその手のさきから、岩のついた大きなあみが飛び出して、兵士たちはみな、そのあみにからめとられて身動きが取れなくなってしまいました。

 

 気がついてみればものの数十びょうほどで、すべてが終りょう! 三十二名もいたワットの兵士たちは、ぜんいんあみでひとつにまとめ上げられて、ごちゃまぜのじょうたいのままで、あっというまに山とつまれてしまったのです!(それにしても、なんて手ぎわのいいこと!)

 

 さてさて、これにはとらわれのわれらがリュインの兵士たちも、みなびっくりするやら顔を見あわせるやらで、大いそがしです(とうぜんの反応ですよね)。あまりにとつぜんのことで、なにが起こったのか? まだわかっていない者さえいました。

 

 そんなかれらの前に、一体の岩の兵士が歩みよります。

 

 そしてそのとき、またしても、みんなのどぎもをぬいたおどろきのできごとが!

 

 その岩の兵士の頭が、とつぜん、ぱかっ! とひらきました! そしてそこから、ひょっこりとあらわれたのは……。

 

 「がーはっはっはっは! たわいもないわい!」

 

 あの岩のようにがんこそうな、なぞの老人ではありませんか!(岩の中から、岩のような老人! なんてぴったりはまってるんでしょう!)なんとこの岩の兵士たちは、人が中に乗りこんで、そうじゅうすることのできる、いわば巨大ロボットのような兵士たちだったのです! なんてすてきな! わたしも乗ってみたい! あ、おほん、それはともかく……、どうやらこの老人は、わたしたちの仲間のようでした。とらわれの者たちは、きょとーんとしながらも、とりあえずその点では、ほっとしていたのです。

 

 「おまえさん方、なんぎだったの。わしは、岩のけんじゃ、リブレストだ。ノランにいわれて、おまえさん方を助けにきたぞい。」

 

 なんと! 岩のけんじゃですって!

 

 そうです! この岩のようにがんこそうな、おひげもじゃもじゃの老人は、アークランドに住む三人の名高いけんじゃたちのうちのひとり、岩のリブレストでした!(三けんじゃのうちのひとりには、もうすでに会いましたよね。木のけんじゃ、カルモトです。さて、では、残るひとりは? 前にもいいましたが、そのうちとうじょうしますので、お楽しみに。

 ちなみに、ノランはこれらの三けんじゃたちとはまたべつの、世界さいこうのけんじゃとよばれている人物でした。)

 

 さあ、これはたいへんなことになってきました! 岩のけんじゃ、じきじきのお越しなのですから。なにしろけんじゃという者たちは、めったなことでは、人前にそのすがたをあらわさないのです(大けんじゃノランも、やっぱりそんな感じでしたよね。すぐにどこかへいっちゃうんですもの)。とくに岩のリブレストといったら、だれも知らない、どこか山おくのどうくつに住んでいて、そこからいっぽもそとに出てこないといわれているほどの、腰の重ーい人物でした。ですからなおさら、おどろきだったのです(それにしても、ノランもにくいことをしてくれるじゃありませんか! ほんとうにこまったときには、やっぱりこうして、助けてくれるのです。さすがは大物ですね!)。

 

 さて、そんな岩のけんじゃのことを前にして、リュインの兵士たちは、かんしゃするやら、おそれいるやら、このチャンスにサインをもらいたいけれど紙とペンがなくてくやしがるやら、いろんな反応に大いそがしでした。ですけどここは、すみやかにつぎの行動にうつらなければなりません。せっかく助かったんです。自分たちのできる、さいこうのしごとを、これからしてやろうじゃありませんか!(ところで……、つかまえたワットの兵士たちは、このあとリブレストさんがみんな、自身の魔法で作り出したひとつの岩のドームの中にとじこめてしまいました(このままワットの兵士たちのことを逃がしてしまえば、のちのちいろいろとめんどうなことになると思ったからでした)。

 

 この魔法のドームは岩や地面の上にかぎり、いちにちにひとつだけ作り出せるというもので、なん十人もの者たちのことを、魔法のききめがつづく二十四時間のあいだだけ、その中にとじこめておくことができたのです(もっとも、三十二名もの者たちをその中にいれたら、けっこうぎゅうぎゅうでしたけど……)。

 リブレストはとらわれの者たちが東のレクタイルにはこばれるということをよそうしておりましたし、ワットの兵士たちから(きびしく)きき出してかくにんを取ることもできていました。そしてレクタイルまでは、歩いていけば、まるいちにちくらいかかる道のりだったのです。ですからリブレストは、そのことも考えにいれたうえで、この岩のドームにワットの者たちのことをとじこめて、その二十四時間のあいだ、ほかのワットの者たちに気づかれることなく行動できるようにしました。

 

 もっとも、岩のドームにとじこめなくても、つかまえた者たちのことを木にぐるぐるにしばりつけでもしておけば、いちにち以上でも時間がかせげたかもしれませんが、いくらワットの者たちとはいえそこまでしたらかわいそうだと、リブレストも思ったのです。それにそんなことをしなくても、二十四時間も時間がかせげればじゅうぶんだと、リブレストも思っていましたから(そしてここでひとつ、説明をつけ加えておきます。いぜんにもお伝えしましたように、このアークランドでは遠くはなれた場所とれんらくを取りあうためには、でんれいの鳥が使われることがいっぱん的でしたが、それにはじょうけんもひとつありました。このでんれいの鳥は、あらかじめくんれんして教えこんだ場所にしか、飛ぶことができなかったのです(「とくていの人物のいる場所」というのもむりでした。あくまでも、ある一点の地点だけにしか送れなかったのです)。ですから、ゆうずうをきかせていろんなところへ鳥を送りこむというようなことは、できませんでした。

 

 そしてでんれいの鳥をくんれんするためには長い時間が必要になりましたので、ワットの者たちが、うばい取ったリュインのとりでへと送ることのできる鳥を持つことができていないということも、リブレストはしょうちしていたのです(あらかじめ、でんれいの鳥を敵のいる地のそのただ中に飛ぶようにくんれんしておくことなんて、いくらワットの者たちといえども、むりでしたから。そしてもちろん、これはべゼロインとりででも同じです)。ですからリブレストは、つかまえたこのワットの兵士たちがリュインの仲間たちのもとへとかけこまないかぎり、リュインのワットの者たちも、ほりょたちはまだ東のレクタイルにむかってじゅんちょうに進んでいると思うだろうということをふまえたうえで、かれらを岩のドームにとじこめました)。

 

 ちなみに、この岩のドームの中には水場やトイレなどもばっちり作りつけられていて、二十四時間ぶんのしょくりょうや飲みものなども、ちゃんとじゅんびされていました。それに加えて、とじこめられた者たちが二十四時間のあいだにたいくつしないようにと、魔法のチェスばんやボードゲーム、カードゲームなども、たくさん用意されていたのです。まあ、気配りのいいこと!)

 

 「けんじゃ、リブレストどの。」

 

 ひとしきりのおれいの言葉がすむと、兵士のうちのひとりが、リブレストに近づいてきていいました。頭にかぶったフードを取ると、美しい、さらりとしたきぬのような青いかみが、あらわになります。そう、それは青いかみを持つ、失われしシルフィア種族の者のひとり、リストール・グラントでした(ちなみに、みんなの手足につけられていた「かせ」は、ワットの兵士たちの持っていたかぎによってすっかり取りのぞかれておりますので、ご安心を)。

 

 「わたくしは、リュインのしきかん、リストール・グラントと申します。けんじゃどのに助けていただけるなど、これほどこうえいなことはございません。心より、おれい申し上げます。」

 

 リストールはそういって、リブレストに深々と頭を下げました。まわりの兵士たちも、みなリストールにならいます。

 

 リストール・グラント。ねんれいは、二十二、三。リズより三つほども上でしょうか? しきかんとしては、とても若いねんれいです(でもライラの方が、もっと若いですけど。お伝えしておりますように、アークランドではその人ののうりょくを見るときに、ねんれいなど気にしないのです。マリエルがいい例ですよね)。すらりとした長身。手足はとてもほそいですが、きんにくががっしりとしまっていて、力強く見えます。マントの下には、青いラインのはいったしんじゅ色のきぬの衣服を身につけていて、それが青いかみとよくはえて、全体にとてもしんぴ的なふんいきをかもし出していました。

 

 そしてなにより。う~ん、あきれるくらいの美男子です! だまって立っていたのなら、女の人なら、みんなすいこまれていってしまいそうなくらいでした(男の人でも?)。まるで、どこかのくにの王子さま!(ライアンもシープロンドの王子さまとして、とても気品のある顔立ちをしていましたが、いかんせん、ライアンの場合は、そのおこないが上品とはいえない部分が多くて……)シルフィアという種族は、もともとみんな美人ぞろいでしたが、リストールはその中でも、ぐんをぬいていたのです(いもうとのリズも、やっぱり、だまっていれば美人なんです。でもいかんせん、リズの場合は、そのおこないが上品とはいえない部分が多くて……)。

 

 「おお、おまえさんがリストールか。」リブレストがこたえました(もじゃもじゃおひげのリブレストと、すらりと美しいリストール。う~ん、まるで正はんたいです……。リブレストさん、ごめんなさい!)。

 

 「おまえさんのことを、助け出してほしいと、わしはノランにいわれてな。シルフィアなんだってな? シルフィアがまだ残っていたとは、わしもおどろきじゃわい。」

 

 これをきいて、その場にいるほかのリュインの兵士たちは、びっくりぎょうてんです。「シルフィアですって!」「リストールしきかんが!」「たしかに、このかみは青すぎる!」みんな口ぐちにさけびはじめました(みんなリストールがシルフィアだということは知りませんでしたから、それもとうぜんでした)。

 

 リブレストさん、うっかり口どめされていたのを忘れて、しゃべってしまいました。じつはノランはリブレストに、「リストールというシルフィア種族の者が、リュインの兵士たちとともに、とらわれの身となってしまってなあ。みんなといっしょに、助け出してやってくれんか。」とたのんでいたのです。そのあと、「そうそう、やつがシルフィアだということは、まだ、みんなには、だまっていてくれ。いずれ、ときがきてから、話したいでな。」といってもいましたが、リブレストはそれを、すっかり忘れていたというわけでした(やっぱりリブレストさんも、けんじゃなんですね。うっかりなところは、けんじゃにきょうつうのようです。いちばんうっかりなのは、やっぱりカルモトでしょうけど……。

 それはそうと。ノランはリストールがシルフィアなのだということに、もう気づいていたんですね。さすがはノランです)。

 

 リブレストはみんなのさわぎを見て、ようやく口をすべらせてしまったということに気がつきました(もう手おくれですけど)。ですがリブレストは、「すぎたことはしかたない」というタイプでしたので、そんなことはまったく気にもかけずに、「がっはっは!」と大きな声で笑い飛ばすばかりだったのです(いや、すこしは気にしてほしいのですが……)。

 

 「そーいや、いうなと、いわれとったわ。まあ、こまかいことは、どうでもいいわい。」(いや、あんまりこまかくはないのですが……)

 

 さあ、こまったのはリストールです。みんなのさわぎを、おさめませんと。

 

 「みんな、どうか、さわがないでほしい。」リストールはみんなのことを手でせいして、いいました。

 

 「すまない。だますつもりは、なかったのだ。シルフィアには、とかく、いわくがつきまとう。西の大陸には、この力を悪用しようとする者が、数多くいる。みんなのことは、しんらいしている。だが、うわさとは、どこで伝わるものか? よそくがつかない。みんなに、とんだめいわくがかかるともしれない。そのためわたしは、シルフィアであるということを、だまっていた。ゆるしてくれ。」リストールはそういって、みんなに深々と頭を下げました。

 

 「ゆるすもなにも!」これに対して、兵士たちはみんなおたがいの顔を見あって、それぞれの思いをたしかめあったのです。 

 

 「シルフィアだろうがなんだろうが、リストールしきかんは、われらのリストールしきかんです! われらいちどう、心より、しきかんのことを、したい、そんけいしております! どうか、頭を上げてください!」

 

 すばらしい仲間たちでした。しきかんと兵士たちの心が、みんなひとつに、まとまっていたのです。おたがいが、おたがいのことを、したい、そんけいしあっている。人と人とのかんけいとは、こうありたいものです。

 

 「ありがとう、みんな。」リストールは仲間たちに心からかんしゃして、もういちど頭を下げました。ふう、よかった。これで、シルフィアのけんは、いっけんらくちゃくです(まったく、リブレストさんたら!)。

 

 

 「リブレストどの。」リストールが、こんどはリブレストにむきなおっていいました(ここからは、だいぶまじめな、むずかしい話になります)。

 

 「リュインにせめこんできたのは、たくさんのディルバグに乗った黒騎士たちでした。かれらは空から、夜のやみにまぎれ、とつぜんにあらわれたのです。われらのていこうもむなしく、ふいをうたれたリュインのとりでは、なすすべもないままに、敵の手によってうばわれてしまいました……」

 

 おそろしいたいけんが仲間たちの中によみがえり、仲間たちはみな、かなしみにうなだれました。

 

 リストールがつづけます。

 

 「リュインの者たちは、みな、ろうの中にとらわれの身となりました。そして、あるとき、じゃあくなる黒騎士たちが、わたしのもとへとやってきたのです。かれらは、北からやってくるある者たちのことを、とらえようとしていました。そのくわだてに、わたしの身をりようしたのです。それは、ひきょうな、とてもひきょうな悪だくみでした。」

 

 おそろしい黒騎士たちの、よこしまなる悪だくみ……。それは、北からやってくるふとどき者たち、つまりわれらが仲間たちのことを、リストールの身をおとりに使って、おびき出そうというものでした! セイレン大橋の上で、ディルバグのていさつ隊の一隊をロビーたちにたおされてからというもの、ワットの黒騎士たちは、しつように、そのふとどき者たちのゆくえのことを追っていたのです(ふとどきなのは、どっちでしょうか! ロビーたちにとっては、とんでもないとばっちりです。

 

 そして、「そのふとどき者たちのことを、ぜったいにとらえよ!」とめいれいしたのは、ほかでもありません。ワットの王、アルファズレドほんにんでした。アルファズレドは、ワットにたてつく者は、どんな相手だろうとゆるすわけにはいかなかったのです。それをまげれば、みずからのしんねんを、まげてしまうことになるからでした。

 

 ふとどき者たちの中にシープロンの者がいるということがわかったことで、アルファズレドのけっしんは、ますます強いものとなりました。シープロンたちのくにシープロンドは、かつての仲間、メリアンのくに。アルファズレドは、自分のもとからはなれていったかつての仲間たちに、自分の考えの正しさをしめす必要があったのです。力こそ、せいぎ。力こそが、この世界にしんのまとまりをもたらす……。だからこそアルファズレドは、シープロンドをどうしても、せめ落とすつもりでした。

 

 しかしシープロンドは、兵を持たない中立のくに。やたらにこうげきするわけにはいきません。そんなことをすれば、ワットはこのアークランドの世界の中で、くにとしてみとめられなくなってしまいますから。

 

 そんな中で、シープロンのふとどき者のそんざいは、ワットにとって、願ってもないざいりょうとなりました。これでシープロンドに、ワットへのはんぎゃくのつみを着せることができるのです。それがシープロンドをこうげきする、りゆうとなるのです。それこそが、アルファズレドのねらいでした。

 

 同じく仲間だったムンドベルクのくに、レドンホールは、すでに落ちました。アルマークのベーカーランドも、これから落とそうとしています。アルファズレドのやろうとしていることは、かつての仲間たちに対する、見せつけでした。自分の考えこそが、せいぎなのだと。アルファズレドはかつての仲間たちに、そのことを思いしらせようとしていたのです)。

 

 ロビーたちはメリアン王のていあんにしたがって、西のひみつの道からベーカーランドへとむかいました。ですが黒騎士たちは、ロビーたちが西の地を進んでいったという、そのことを知りません。では黒騎士たちが追っていた、そのふとどき者たちとは?

 

 そうです、それはロビーたちの身がわりとなって南の街道を進んでいった、レシリア、ルースアン、ハミール、キエリフの、四人の仲間たちにほかなりませんでした。

 

 読者のみなさんは、かれらがどうなってしまったのか? すでに知っています。かれらはリュインとりでのろうごくに、つながれてしまったのです。なぜそうなってしまったのか? つまりそのこたえこそが、リュインをせめた黒騎士たちのおこなった、そのひきょうな作戦にほかなりませんでした。

 

 黒騎士たちはリストールの身をしばり上げ、ディルバグの足にしばりつけました! そして空高くから、かくれているレシリアたち、われらが仲間たちに対して、大声でさけんだのです。

 

 「リュインのしきかんはあずかった! ただちに、出頭せよ! 出てこなければ、しきかんの身のほしょうはないぞ!」

 

 なんてひきょうな! レシリアたちがつかまってしまったわけが、これでようやくわかりました。かれらほどの者たちが、そうかんたんにつかまるはずがありません。そこには黒騎士たちの、こんなにもひきょうな作戦がありました。そしてレシリアたちにこの申し出をこばむことなどは、できるはずもなかったのです……(もしこの申し出をこばんで、かくれたままでいたとしたら……? 黒騎士たちはリストールの身に、ほんとうにおそろしい害を与えたことでしょう。ワットはみずからの力を見せつけて、相手をふるえ上がらせて、いうことをきかせるというやり方を好むくに。その見せしめのためであるのなら、かれらはそのしゅだんをえらばないのです。たとえば、レドンホールの黒のウルファたちでした。やみにとらわれてしまったかれらのすがたは、たくさんのくにぐにのたくさんの人々に、文字通りのきょうふを与えていました。ワットはこんどは、そのまがまがしき力を、リストールの身にまでおよぼしかねないのです。そうなってしまったのなら、たとえそのあとリストールのことを助け出すことができたとしても、もはやかれは、やみにとらわれて、なにごともなすこともできなくなってしまうことでしょう。

 

 りゆうはのちに語られることになりますが、このアークランドをほろびの道からすくい出すためには、それはなんとしてでもさけておかなければならないことでした。ですからレシリアたち、われらが仲間たちは、なおいっそうのこと、みずからの身をぎせいにしてまでも、リストールのことをすくわんがために、ワットにその身をささげたのです。自分たちがつかまれば、すくなくともリストールの身に、ワットの注意がこれ以上、そそがれることもなくなります。かれの身に、必要以上のおそろしい危害が加えられることも、なくなるはずでした。なんという、いたましい話なのでしょう! つづく、きぼうを信じて、レシリアたち四人の仲間たちは、そこまでのかくごを持って、ワットにその身を投じたのです)。

 

 「ぐむむむむ……! なんてことじゃい!」リストールの話をきいて、リブレストはその岩のような両のこぶしをぎりぎりとにぎりしめながら、いいました。「ワットのがきんちょどもめ! 好きほうだいなことをやりよって!」

 

 リブレストの怒りは、どんどん大きくなっていきます。

 

 「リブレストどの。」リストールがつづけました。「そのふとどき者というのは、ほかでもありません。ベーカーランドの若き騎士、ハミール・ナシュガーと、キエリフ・アートハーグの両名。そして、めいゆう国シープロンドの、けいあいすべき友、レシリア・クレッシェンドに、ルースアン・トーンヘオン。そのかれらなのです。」

 

 いつのまにか、リストールのそばに小さなレイミールがやってきていました。レイミールは兄のハミールの名まえをきいて、しょんぼりとうなだれております。レイミールはリストールから、兄のハミールがとらわれの身になってしまったということを、すでにきかされていました。

 

 「ふとどき者などというのは、もちろん、ぬれぎぬです。」リストールがさらにつづけます。「それはすべて、ワットのさくりゃく。そして、リブレストどの。黒騎士たちは、かれらをほりょとして、つれていってしまいました。かれらはディルバグに乗せられ、北のシープロンドへとつれられていったのです。おそろしいさくりゃく。われらがめいゆう国、シープロンドをせめ落とす、そのくわだてのざいりょうとするために……」

 

 仲間たちは、シープロンドへ! ワットの者たちは、シープロンドをせめ落とすそのおそろしいさくりゃくのために、とらわれの者たちの身をりようしようとしていたのです! なんということでしょう! そんなことは、いっこくも早く、とめなければなりません!(ワットの者たちが、シープロンドにせめこんでくる。シープロンドのかいぎの席で心配されたことが、今ほんとうに、起ころうとしていました! そしてそのくわだての中で、ワットの者たちがどんな方法をもって、とらわれの者たちの身をりようしようとしているのか? それはまだわかりませんが、どうせワットのことです。ひきょうきわまりないことを、考えているにちがいありません!)

 

 「リブレストどの。わたしは、かれらのことを、よく知っています。」リストールがいいました。「かれらはわたしをすくうために、わざわざ、このリュインの地にまでやってきたのです。おそらく、かれら四人のやくわりは、きゅうせいしゅどのを敵の目から遠ざけるというものだったのでしょう。南の街道をくだってきたのなら、そのやくわりは、もうじゅうぶんに果たしたはず。あとは山道にそって、敵の目をかわしつつ、安全なべゼロインの地へとその身をのがれさせることを、考えればよかったはずです。しかしかれらは、もうひとつのやくわりを果たすため、あえて、このリュインとりでのすぐそばの地にまで、やってきたのです。こんな敵の地のさなかに、大きな危険をおかしてまで……」

 

 リストールのいう通りでした。レシリアたち四人の仲間たちは、ロビーたちのために敵の目をひきつけるというそのやくわりのほかに、もうひとつのひみつのもくてきをも、持っていたのです。それは……。

 

 

 とらわれのしきかん、リストール・グラントを助け出すというものでした!

 

 

 それはほんとうに、ごくひのもくてきでした。出発のまぎわに、メリアン王から、レシリアとルースアンだけに伝えられたのです(ですから、ごめんなさい。読者のみなさんも知らなかったわけなのです)。メリアン王は、リストールがシルフィアだということ、そしてリストールだけが持つあるとくべつなやくわりのことについて、よく知っていました。リストールを助け出すことが、このアークランドの運命において、とても大きな意味を持つことになるということもです(それらがなんなのか? そしてメリアン王がなぜそれらのことを知っていたのか? ということについては、このあとの物語の中で語られます。のちのちのお楽しみに)。それらのじょうほうは、きわめて重大で、せんさいなものでした。ですからメリアン王は、そのことを今は、レシリアとルースアンだけに伝えたというわけだったのです(ハミールとキエリフには、ちょっとかわいそうでしたけどね。

 

 ちなみに、リストールのことを助け出すようにとレシリアたちに伝えたメリアン王でしたが、もちろんメリアン王は、「大けんじゃノランが岩のけんじゃリブレストに、リストールのことを助け出すようにたのんだ」などということは知りません。ノランがこのアークランドにやってきたのは、ほんとうにとつぜん、旅の者たちがシープロンドを出発した、そのあとのことでしたから。エリル・シャンディーンのアルマーク王ですら、ノランがやってくるなどということはわからなかったのです(お伝えしました通り、ノランはほんとうに、なんのれんらくもなくとつぜんやってくるのです)。

 

 ですからメリアン王は、とらわれの身となったリストールのことを助け出せるのは、今このとき、自分だけであるのだということをりかいしていました。リュインとりでのふいをついて、とりでのはんたいがわからそこにふみこんでいくようなまねができるのは、ベーカーランドとはんたいがわの地にいる者たちで、しかも敵の目をのがれることのできるすべを持っている、レシリアたちくらいであるということを、メリアン王はよくしょうちしていたのです。

 

 じっさいには、ノランにたのまれたリブレストがそのやくめをひきつぐこととなりましたが、もしリブレストが動いていなかったのなら、ほんとうにリストールのことを助け出せるかのうせいを持ちあわせていたのは、メリアン王にいらいされた、レシリアたち四人の者たちだけにほかなりませんでした。メリアン王は、このようなことをすべて考えにいれたうえで、レシリアたちに、この重要なにんむをたくしたのです)。

 

 「リブレストどの。」ふたたびリストールが、重い表じょうをしてリブレストにいいました。「わたしを助けるようにと、ノランどのがいわれた、そのわけは、もうごぞんじのことと思います。わたしには、大いなるやくわりがある。わたしは、そのやくめを果たそうとしていた矢さきに、ふこうにも、とらわれの身となってしまいました。ですが今、あなたにこうして、助けていただいた。わたしは、今すぐにでも、タドゥーリ連山にむかわなければなりません。」

 

 タドゥーリ連山? それはシープロンドのくによりもさらなる高きにそびえる、せいなる山々の名まえのはずでした(かなしみの森の小川を渡るときには、ライアンが、その山のせいなるわき水の力を使いましたよね)。リストールの持つという大いなるやくわりというものと、そのタドゥーリ連山とに、いったいどんなかんけいがあるというのでしょうか?(ちなみに、リストールの果たすべきそのやくわりというものは、さいごの戦いのはじまる、このときにおいて、おこなわなければならないものでした。ですからそれは、あらかじめ、果たしておけるようなことではなかったのです。そのりゆうについては、のちほど、そのときがきたらお伝えしたいと思います。)

 

 リストールがつづけます。

 

 「もちろんわれらは、うばわれたリュインとりでを、ふたたび取りもどさなくてはなりません。ですが、今のわたしには、その前に、いちばんに、気がかりなことがあるのです。それは……、黒騎士たちにつれていかれた、とらわれの者たち。わたしはかれらを、助けてやりたい! かれらは、わたしのせいで、とらわれの身となりました。こんどはわたしが、かれらを助けてやる番です。かれらは、今朝の早くに、ディルバグの背に乗せられて、シープロンドへとむかいました。今からでは、とてもまにあわないとは、わたしも思います。ですが、万にひとつでも、かれらをすくえるかのうせいがあるのならば、わたしは、そののぞみに、かけたいのです。黒騎士たちのわなにかかろうとしているシープロンドを、われらのこの手で、すくえるかのうせいがあるのならば、わたしは、そののぞみに、かけたいのです。その思いをつなぐことができるのは、われらのみ。そして今、このときでしかないのです。どうかわれらに、お力をお貸し与えください! お願いです!」

 

 「お願いします!」「リブレストどの!」「力を貸してください!」

 

 リストールの言葉に、兵士たちもみな口ぐちにさけんで、リブレストにお願いしました。リストールの思いは、また、兵士たちにも、しっかりと伝わっていたのです。

 

 そのあつい思いを前にして、リブレストは大きな口をいっぱいに食いしばって、「ぐむむむむ……!」とうなりました。そして……。

 

 

 「ああったりまえじゃ~い!」

 

 

 天もわれんばかりの、すさまじい大声! 思わず兵士たちは、みなたまらずに耳を両手でおさえ、中にはそのまま、ぺたんと地面にしりもちをついてしまった者さえいました(なにしろまわりの木々の葉っぱがその大声でびりびりとふるえたくらいでしたから、とんでもない大声だったのです)。

 

 「力を貸せだと? そんなもん、いうまでもないことだわ!」リブレストが、そのまま大声を張り上げてつづけます。

 

 「こ~のリブレストに、まかせておけ~い! ディルバグだかなんだか知らんが、そんなもん、ものの数時間で追いついてみせてくれるわ! ワットのがきんちょどもの悪だくみなんぞ、こっぱみじんにうちくだいてくれる! お前たち! こうしちゃおられんぞ! 今すぐわしに、ついてこい! つかまったそいつらも、シープロンドも、みんなまとめて、さっさと助けにいくぞい!」

 

 これをきいた兵士たちの、よろこびようったらありませんでした。みんなこぶしを天につき上げて、「おおおーっ!」といっせいに、心からの声を上げたのです。

 

 けんじゃリブレスト。なんとも男気にあふれる、たよれる人物じゃありませんか! わたしもすっかり、その心意気にほれこんでしまいました(はじめはわたしも、「なんだか、もじゃもじゃおひげの、変な人だなあ……」などと思っていましたが……。リブレストさん、ごめんなさい。

 

 ところで……、リブレストはかんたんにいっているようですが、これはとんでもない、「むりなんだい」なことでした。なにしろディルバグたちがリュインを出発したのは、今日の朝。今から十六時間ほども前のことでしたから(これはリストールが、ろうやのまどからかくにんできたことでした。時計を取り上げられていましたので、せいかくな時間まではわかりませんでしたが)。そのディルバグたちに今から出発して追いつこうというのですから、なみたいていのことではないと、すぐにわかりますよね。

 

 リュインからシープロンドまでは、空を飛べるディルバグでいけば、必要ふかけつな休そくの時間をふくめても、まるいちにちくらいあればついてしまいます。ですからディルバグたちがシープロンドにたどりつくまでには、あと八時間とかからないはずでした(ひょっとしたら、もっと早く、六時間くらいかもしれません)。そんなにみじかい時間の中で、ここからそのディルバグたちに追いつこうなんてことは、まったくもって、ふかのうに近いことでした。リストールもそれをよく知っておりましたから、「万にひとつのかのうせい」といったのです。

 

 ですがリブレストに、そんなことがわからないはずもありません。なにしろ、けんじゃなのですから。リブレストにはなにか、ひさくがあるようでしたが……、さてさて、いったいリブレストは、こんなにみじかい時間の中で、どうやって、ディルバグたちに追いつこうというのでしょうか? それはこのあと、おどろきのてんかいの中であきらかにされますよ。こうごきたい!)。

 

 「マグマばくはつ! わしも二百年ぶりに、心の底からもえてきたわい!」

 

 リブレストがそのおひげをぴーん! とさか立てて、全身から白い湯気をぷしゅー!と吹き出しながら、さけびました(どういうからだなのでしょうか……?)。

 

 

 こうして、リストールとレイミールをふくむ、リュインの二百名にもおよぶ白き力の者たち(せいかくには二百三名でした)は、このたのもしい岩のけんじゃリブレストと、その岩の兵士たちとともに、この夜のやみの中をふみ出していったのです。すべての者の心は、ただひとつでした。悪をくじいて、せいぎを守る! かれらの心は、まさしくマグマのように、ふつふつともえ上がっていたのです。

 

 待っててね、みんな! そして、たのみましたよ、リブレストさん!(ところで、さっきいうのを忘れていましたが、二百年ぶりって、いったい今、おとしはいくつなの? リブレストさん……)

 

 

 (さて、物語はもうすこし、このリブレストたちの場面がつづきます。ロビーたちの旅の物語のつづきは、もうちょっとあとで……)

 

 うっそうとした森の中。時間は、ま夜中。そこに、とてもたくさんの人たちが集まっていました。その数全部で、二百四名! そしてそれいがいにも、とんでもなく大きな岩の兵士たちが、全部で十七人!(こちらは、人というわけではありませんでしたが。ちなみに、かれらのそばに作られている岩のドームの中にも、三十二名のワットの者たちがいましたけど。)

 

 そう、いうまでもなく、かれらは岩のけんじゃリブレストにひきいられた、白き力の者たち。せいぎの者たちでした。かれらは黒騎士たちにつれ去られたとらわれの仲間たちのことを、助け出さんがため、そしてひきょうなわなにかけられようとしているシープロンドのことを、悪の手から守らんがため、今そのけついに、もえているところだったのです。

 

 さいごの旅へとむかう、ロビー、ライアン、マリエル、リズの四人の者たちは、大けんじゃノランのみちびきによる、ノランべつどう隊なわけでしたが、こちらは岩のけんじゃリブレストにひきいられた、いわばリブレストべつどう隊といったところでしょう。これからそのリブレストべつどう隊の冒険が、はじまろうとしているところでした(そして……、ここでひとつ、重要な説明を加えておきます。リズレストにリストールのことを助けるようにいらいしたのは、ノランでしたが、ノランはリブレストに、「リストールを助けたあと、そのままかれひとりを北のタドゥーリ連山まで送りとどけ、あとは残りの兵力を使って、なんとかリュインとりでを取りもどしてもらいたい」とたのんでいたのです。つまりべゼロインとりでのことを助けてやってほしいというしじは、ノランはしてはいませんでした。これはとても、ざんこくなことかもしれませんが、いくさのルールとして、兵力のすくない方のくにに対しては、とりででの戦いにもちいることのできるてきせい人数というものが、さだめられていたのです。もはやべゼロインとりでには、このルールにあてはまるてきせい人数、七百二十名が、すべて配置されていました(そしてこの人員をとちゅうでほかの者たちといれかえるようなことも、ルールとしてできませんでした)。ですからかれらリブレストべつどう隊の者たちが、このままべゼロインとりでにかけつけたとしても、仲間たちのことをこれ以上助けることはできなかったのです。それはリブレストべつどう隊のかれらにも、よくわかっていたことでした。くやしいことですが。

 

 さらに、これもとてもつらく、ざんこくなことでしたが、ノランはもはや、ベーカーランドの者たちがこのままべゼロインとりでを守りきることは、むずかしいだろうと考えていました。ただでさえ、あっとう的な数の敵を相手にしなければならないというのに(リュインでのはいぼくのペナルティが加わり、べゼロインの戦いでは、白き勢力の者たちは、自分たちの兵力の三.四ばいもの敵を相手に戦っていたのです!)、しかもこんかいは、あのおそろしい魔女の三姉妹たちも、それに加わるのです。こんどはどんなにおそろしくて、ひきょうな手を使ってくることか……(いくらベーカーランドのきゅうていまじゅつしたちがそのたいさくを考えてきたとしても、相手はいくさのルールのすきをたくみについて、さらにその上をいってしまうのです)。

 

 ですからノランは、運命のけっちゃくのときは、そのさきにつづく、さいごの大いくさでつけられるのだと見こしていました(これはノランにとっても、とてもつらいことでしたが、ノランは感じょうにしはいされることなく、つねにれいせいにものごとを考えて動きました)。そのためその大いくさにかけて、ノランはリストールのことをちゃくじつに北のタドゥーリ連山まで送りとどけ、リュインとりでを取りもどしてほしいとたのんだのです。さいごの大いくさがはじまってしまったのなら、そのあとで、リブレストにはまた動いてもらうつもりでした。

 

 そしてリブレストはノランのしじの通り、リストールを北の地へと送りとどけることになりましたが、それはこの通り、ノランのさいしょのしじとはだいぶことなるものとなりました。つまりリブレストはリストールを送りとどけることに加え、まずはとらわれの者たちとシープロンドのことをすくうべく、みずからの持つ岩の兵士たちの「全軍」をもってしゅつげきしていったのです(これもまたのちに説明されることになりますが、そのくににしょぞくしていない兵力(そとからの兵力)であれば、いくさにおいていっぽうの軍に新たな兵力が加わったとしても、加わったあとのごうけい人数が相手と同じ数までであれば、相手は兵士をついかすることができないというルールがあったのです(加わったあとのごうけい人数が相手の数をこえる場合、相手はそれと同数までの兵士をついかできるというルールがあります)。リブレストひきいるリュインの兵士たちは、シープロンドのしょぞくではないそとからの兵力でしたから、このルールにあてはまりました(ただしさきほどもお伝えしました通り、すでにさいだいの人員が配置されているべゼロインとりでに対しては、たとえそとからの勢力であっても、それ以上の兵力のついかはできませんでした)。そのためリブレストも、(相手の兵力をこえない)いちばん強力な手助けをすることのできる全軍をもって、シープロンドにむかったのです(もっとも、感じょうに流されて全軍でしゅつげきしていった、というところもだいぶ大きかったのですが……)。

 

 そのほか、「そのくににしょぞくしない勢力がいくさに加わった場合、その勢力はこんご、そのくにの新たなしょぞくとしてあつかわれる」とか、「いくさの場に、そのくににしょぞくする兵力が新たに加わった場合、相手はその数にあわせた三ばいまでの兵力を使うことができる」とかいうルールもありましたが、もはやここまでくると、ややこしすぎてよくわかりませんね……)。

 

 そしてリブレストは、ノランのはんだんのことを考えにいれたうえでも、リュインとりでを取りもどすのは、シープロンドへむかうにんむをゆうせんさせたそのあとでも、じゅうぶんだとはんだんしていました(魔法の岩のドームのこうかがきれる前に、じゅうぶんもどってこられるとも思っていました)。リストールをはじめ、リュインの者たちは、こういったことをすべてきかされて、それをじゅうぶんしょうちのうえで、リブレストのしきにしたがっていたのです)。

 

 

 (やっと説明が終わりました。話のつづきにもどりましょう。)

 

 さて、ついにかれらはその大いなるもくてきのための道のりを歩み出したわけですが、じっさいにはかれらは、みずからの足で進んでいったというわけではありませんでした。それってどういうこと? そのこたえは、けんじゃリブレストのひきいる、岩の兵士たちにあったのです。

 

 出発にあたり、リブレストは岩の兵士たちにむかって、さっと手をふりかざしました。岩の兵士たちはそれにこたえて、ぎゅ、ぎゅいーん! と音を立てて、ひざをまげて地面にかがみこみます。

 

 「さあ、さっさといくぞ! おまえたち、こいつらに乗りこめい! この岩の兵士たちなら、シープロンドまでの道のりも、なんのそのだわ!」

 

 リブレストがそういうと……、なんと! 岩の兵士たちのおなかの部分が、ごごいーん! とひらいて、そこに人が七、八人ほども乗りこめそうな、空間ができたじゃありませんか! そこはこの岩の兵士たちがにもつをはこぶための、しゅうのうスペースでした。ですがこんかいのように、人をはこぶためにも、じゅうぶんに使えたのです。う~ん、まったくもって、すごいロボット……、いえ、兵士たちです(そしてこれこそが、リブレストのひさくでした。リブレストはこの岩の兵士たちの足でもって、シープロンドまでむかおうとしていたのです。でもほんとうに、そんなにはやく走れるのでしょうか? ものの数時間で追いついてみせてくれるわ! などといっておりましたけど……)。

 

 でもいっぱいにつめても、そこに乗れるのは岩の兵士一体につき、十人がやっとでした。リュインの者たちは、全部で二百三名おりましたから、ちょっと計算きをたたいてみますと……。岩の兵士たちは全部で十七体いましたから、乗れるのは十人ずつの、百七十人。となると、残り三十三人のリュインの兵士たちがあまってしまうのです。かれらはどうしましょうか?

 

 なんのなんの。こんどは岩の兵士たちの頭が、ぱかっ! そうでした、頭のそうじゅう席にも、人が乗れたのです。ここにそれぞれ、ふたりずつ乗りこめば……、ほら! リブレストのひとりをあわせれば、ちょうどぴったり、三十四人ぶん! なんという、ぐうぜんぴったりな数字なのでしょう!(これはほんとうにぐうぜんでした。もし乗れない人がいたら、岩の兵士たちの背中にひもでくくりつけて、おんぶしていこうと思っていましたが。)

 

 「ぜんいん乗ったな!」リブレストがさけびました。なんとその声は、すべての岩の兵士たちのそうじゅう席と、おなかのかくのうこの中からきこえてきたのです。じつはこの岩の兵士たちは、それぞれが糸のない魔法の糸電話みたいなものでつながっていて、おたがいに話しをすることができました! まったくもって、すごいロボットです! いえ、兵士……、もう、ロボットでいいですよね! こんなロボット、わたしもぜひ一体、自分用にほしい!(いちおうねんのためにいっておきますが、これはわたしがかってにロボットとよんでいるだけなのであって、もちろんほんもののロボットというわけではありませんよ。みなさんはちゃんと、岩の兵士とよんであげて……、みんなもロボットとよぼう!)

 

 「そうじゅうは、からだでおぼえろ! さあ、わしに、ついてこい! 全力で飛ばすぞ!」

 

 リブレストがそういうと、岩のロボットたちは……。

 

 

   ごいんごいん! ごいんごいん! ごいーん!

   

   ぎゅいんぎゅいん! ぎゅいんぎゅいん! ぎゅいーん! 

 

 

 いさましい音を立てながら、地面をいきおいよく走り出しました!(しかもその目からはきいろい光が飛び出して、道をてらしていたのです!)

 

 は、はやいはやい! 馬でかけるのとはわけがちがうくらい、はやいのです!(マリエルのじぇっとこーく・すくりゅーとまではいきませんでしたが。)そしておどろくべきなのは、その乗りごこちのよさ! こんなにいきおいよく走ったら、がたがたゆれて乗りものよいしてしまうんじゃないかと思っていましたが、そこはやっぱり、けんじゃさんのつくったロボットです。どんなにはやく走っても、そうじゅう席とおなかのかくのうこの中は、ほとんどゆれずにあんていしていました(よかった、これならみんなも、ロビーみたいな目にあわなくてすみますね! 乗りものよいばっかりするはめになってしまっているロビーには、申しわけないのですが……。

 

 ちなみに、そうじゅう席にはレバーがふたつと、足でふむペダルがふたつあって、それらを使って、これらのロボットたちをそうじゅうしました。右のレバーが、前とうしろに進むためのもの。左のレバーが、左右にまがるためのもの。右のペダルは、走るはやさのちょうせつ。左のペダルが、ブレーキです。ちょうど、自動車のそうじゅうみたいなものでした。そしてはじめはちょっととまどっていましたが、リュインの兵士さんたちもすぐにそのそうじゅうになれて、なんとかリブレストについていくことができていました。

 

 ところで、先頭をゆくリブレストの隊長きのそうじゅう席には、リブレストとレイミールのふたりが乗っていたのです。レイミールは「ぜひ先頭に立っていきたい」とお願いして、リブレストといっしょに乗せてもらいました。ロボットに乗ったレイミールのうれしそうなことといったら! 目をきらきらかがやかせて、リブレストに教わりながら、自分でもちょっとそうじゅうさせてもらったりもしていたのです。やっぱりレイミールも、男の子。ロボット大好きでした。ライアンがこのことをきいたら、きっと「ぼくも乗りたーい!」とじだんだをふんでくやしがることでしょうね。

 

 もうひとつ。「これは、なんのボタン?」レイミールがそういって、そうじゅうレバーの下の方についていたボタンをおしてしまいましたが……、そのとたん、しゅごごごごー! 岩のロボットのうでから、岩でできたミサイルがはっしゃ! まっすぐさきの丘にめいちゅうして、どごーん! 地面に大きなあながあいてしまいました!

 

 「こらこら。たまをむだにしては、いかんぞい。」リブレストがそういって「がっはっは!」と笑いましたが、レイミールは、ぽかーん。口をあけたまま、しばらく動くこともできなかったのです。す、すごい……)。 

 

 そしてみんなは、リブレストに助けられた森の中から、いちろ、北へ。シープロンドへとつづく街道めざして、岩場も荒れ地もなんのその。がしんがしん! といさましい音を立てながら、つき進んでいったのです(なにしろこのロボットたちは、たいていのしょうがい物なんて、まったく問題にしません。あるときなんて、目の前に大きな岩があって、まだそうじゅうになれていない兵士さんたちが、「あぶない! ぶつかる!」そこにつっこんでいってしまいましたが、つぎのしゅんかん、ばごーん! 大岩はこなごなになってちらばってしまいました! ぶつかったロボットは、なんともありません。まったくもって、タフなロボットです!)。

 

 「丘を越えるぞ!」

 

 リブレストの声が、それぞれのロボットたちの中にひびき渡りました。十七体のロボットたちは、がしん がしん! と走って、丘を乗り越えていきます。丘を越えたさきは、草木もまばらな、見渡すかぎりの平原になっていました。左の方には、いだいなる切り分け山脈のまっ黒なシルエットが、ゆうゆうとつらなっております。そしてその山のふもとには、南北にのびる南の街道がありました。ここは、ベルグエルム、フェリアル、ハミール、キエリフの四人の騎士たちが、ロビーのことをむかえにいくときに、シープロンドへとむかって進んでいった道です。こんどはその道を、岩のロボットたちに乗ったせいぎの者たちが、こちらもシープロンドへとむかって、歩みを進めていこうとしているわけでした。

 

 「街道に出れば、こっちのもんじゃい。かく、パイロットたちにつぐ! 頭の上に、五つのレバーがあるな? 見えるか?」

 

 リブレストの声にしたがって、頭の上を見てみると……、なるほど、それぞれ色のちがう、五つのレバーがついていました。

 

 「きいろいレバーをひくんだ。シープロンドまでは、それで飛ばしていくぞい!」

いわれるままに、パイロットたちは、きいろいレバーをがくん! とひき下げます。すると……。

 

 「うわわわっ!」

 

 ロボットのからだが、ぐぐいーん! がごん! がごん! じゃきーん! みるみるうちに、かたちを変えていくじゃあありませんか! そして……。

 

 なんと! さっきまで兵士のすがたをしていたロボットたちが、まるで地面の上を走る、船のようなすがたへと変わりました! へ、へんけいするんですか! すごいすごい!(ところで……、残る四つのレバーも、やっぱり気になりますよね。このロボットにはまだまだ、おどろきのきのうがそなわっていたのです。ですがとても全部はしょうかいしきれませんから、それはまた、べつのきかいに……。水の中にもぐったりもできましたけど……)

 

 「こっからさきは、自動そうじゅうにはいるぞい! ざひょうせってい! 四七六二、八七二三! もくてき地は、シープロンドじゃい!」

 

 陸を走る船のすがたにへんけいしたロボットたちは、ぐいん! ぐいん! 船の底にならんだたくさんのしゃりん(このしゃりんはゴムのようなそざいでできていたのです)をきしませながら、たいらな街道の上を、さっきよりも数ばいははやいんじゃないか? というくらいのはやさで、すっ飛ばしていきました!

 

 はやいなんてものじゃありません、はやすぎです!(これならマリエルのじぇっとこーく・すくりゅーよりも、ぜったいにはやいでしょう!)

 

 追っかける相手は、ディルバグに乗ったワットの黒騎士たち。黒騎士たちの乗るディルバグは空を飛んでいましたから、まっすぐもくてき地までいけるため、とてもはやいのです(ですけど、れんぞくして飛ぶためには、ひんぱんに休そくが必要でした。ですから、こちらとしては助かるのです。そのぶん、追いつく時間がかせげますから)。ですがこちらだって、負けてはいられません。この「陸走しゃりん船モード」のロボットたちならば、空を飛ぶディルバグたちよりも、なおはやいもうスピードで、陸の上を走っていくことができました!(まさに風のごとくです! さすがはリブレストさん!

 

 しかもこのロボットたちは、馬やディルバグたちとちがって、休む必要がありませんでした。これならほんとうに、ものの数時間でシープロンドまでたどりつけてしまえそうです! なんともすごい!

 

 ちなみに、今までにとうじょうした乗りものや生きものたちの中で、いちばんはやいのはなにかというと……、それは、いがいやいがい、しらせをはこぶ、でんれいの鳥だったのです(すこし前の説明のところでもとうじょうしましたが、またまたのごとうじょうです)。かれらは重要なじょうほうをいち早く伝えるために、とてもはやく飛ぶことができるようにくんれんされていました。なんと、馬で二、三日かかるような道のりでも、せいぜい三、四時間もあれば飛んでいってしまうのです! はやい!

 

 ところで、シープロンドまでむかえるようにくんれんされたでんれいの鳥が、今手もとにいてくれたのなら、すぐにシープロンドに危険をしらせるメッセージを送れましたけど、とらわれの身であったかれらが、そんなでんれいの鳥を持っているはずもありませんでした(もちろん、そんな鳥をワットの兵士たちが持っているわけもありませんでした。ワットの兵士たちが持っているのは、自国の仲間たちのいる場所のみに飛ぶようにくんれんされた、鳥ばかりだったのです)。そしてさすがのけんじゃリブレストでも、それにかわるほどのはやさでメッセージを送れるわざを使うことは、できませんでした。リブレストのせんもんは、岩のロボットをはじめとする、さまざまな岩の工作物をつくること。いくらけんじゃでも、まったくばんのうというわけではなかったのです。)

 

 夜の街道を、十七そうの岩の船がつき進んでいきます。めざすはひとつ、シープロンド! とらわれの仲間たちのことを、シープロンドのことを、悪の手からすくわんがために。

 

 「ゆ~け、ゆ~け! あら~し吹くとも~!」

 

 リブレストが上きげんで、いさましいマーチを口ずさみました。

 

 「いっけ、いっけえ~! おそれ~ることなく~!」

 

 レイミールのげんきな声が、リブレストの歌につづいて、ロボットたちの中にひびき渡りました。

 

 

 

 そして時間は、ロビーたちのところにもどります。

 

 

 「ありがとう。せわになったね。」

 

 マリエルが、ここまであんないしてくれたリュキアに、出発前のおれいの言葉を伝えているところでした。みんながいるのは、たきのみずうみの、そのほとり。ロビーたちノランべつどう隊の四人は、これから、精霊王の待つおとぎのくに、イーフリープへと、旅立とうとしているところだったのです(ちなみに、マリエルはいよいよイーフリープへとふみこむにあたって、もう服を着がえていました。いわゆる、勝負服というやつです。こんかいの服は……、まさしく、まじゅつし! ひらひらとしたレースのついた白いビロードのシャツに、ガーターベルトとコルセットのついた、黒いきぬのズボン。うらがえんじ色の、黒いあつ手のケープをはおっていて、ケープの前は、大きな赤い宝石でとめられていました。そしてなによりとくちょう的なのは、その大きな黒いとんがりぼうし! 手にしたつえとあわせて、ここまでそろえれば、もうどこから見てもまじゅつしです。マリエルは精霊王のくにイーフリープに敬意をあらわして、まじゅつしとしての、せいそうのかっこうをしていくことにしたというわけでした(ライアンは、「なんか、ぼくの服とデザインかぶってるじゃん!」とぶーぶーいっていましたが)。

 

 ところでマリエルは、このみずうみのほとりで服を着がえてしまうことにしましたが、もちろん着がえているあいだ、みんなにはうしろをむいているようにいっていたのです。「のぞくなよ。」とマリエルがいって、ライアンが「だれが!」とどなりました)。

 

 「ぼくたちは、これから、精霊王さまのところへいく。ラフェルドラード里長に伝えてくれ。われらは、白き勢力の仲間。きたるべきときは、すぐそこまできている。今こそ、おたがいに、力を分かちあい、助けあうときだと。」マリエルがリュキアにいいました。

 

 「うん、わかったよ。」リュキアがこっくりうなずいて、こたえます(ほんとうにわかったのかどうかは、だいぶあやしいですが……)。

 

 「ああ、それから、」マリエルがそういって、なにやら魔法の言葉をとなえると……、ほわん! マリエルの手のひらの上に、フットボールくらいの大きさの、もも色をしたわた毛のボールがひとつ、あらわれました(これは「まじかる・おぶじぇくと」というもので、いちど出してしまえば、あとはずっと、こわれるまでそのまま消えずに残るのです。すぐに消える魔法とくらべると、だいぶむずかしい魔法でしたので、マリエルほどのまじゅつしでも、ボールいっこやロープいっぽんくらいを出すので、やっとでした(もっとも、ほんきを出せば馬車の一台くらい、マリエルなら出せましたが、そのあと二日は、ぐったりになってしまうことでしょう))。

 

 「これは、ぼくからのプレゼントだよ。らんにんぐ・ふぁずぼーる。レベル一から十まで、逃げるはやさをちょうせつできる。レベル十のこいつをつかまえられたら、たいしたものだね。」

 

 魔法のボールを受け取ったリュキアは、大よろこびでした。そしてさっそく、いきなりレベルのダイヤルを十にあわせると……、ひゅんっ! 目にもとまらないくらいのはやさで、ボールが逃げ出したのです!

 

 「待てえーっ!」ひゅんっ! リュキアはそれに負けないくらいのはやさで、あっというまにみんなの前からいなくなってしまいました。

 

 「ちゃんと里長さんに、でんごんが伝わるのかなあ……」リュキアの消えていったさきの丘をながめながら、ライアンがつぶやきました。

 

 「さあ、それじゃ、いくぞ。」

 

 リズがそういって、みずうみの水の方へとむかって、すたすたと歩いていきました。え? みんなが思うまもなく、リズはさっさと、水ぎわに近づいていきます。

 

 「ちょっ、いったいどこへ……」マリエルがいいかけましたが、つぎのしゅんかん……。

 

 「ええーっ!」

 

 みんなはびっくりして、さけんでしまいました。

 

 なんとリズは、水の中にはいるのかと思いきや、そのままみずうみの水の上を、ちゃぽちゃぽ。へいきな顔をして、歩いていくではありませんか!

 

 「え? なに?」リズが水の上に立って、こちらをふりかえりながらそういいます。

 

 「あ、これ?」そしてリズは、自分の足もとをゆびさしていいました。

 

 なんと、精霊の種族シルフィアであるリズは、水の上をしずまずに歩くことができました! もちろん、ふつうに水の中にはいることもできましたが、ちょっと集中するだけで、こんなこともできてしまえるのです。リズにとってはあまりにもあたりまえのことでしたので、なんの説明もなく、ふつうに歩いていったというわけでしたが、みんなやわたしたちにとっては、しょうげき的ですよね!

 

 「シルフィアだもん、あたりまえじゃんか。それよりさ、早くしなよ。マリエルなら、おれの助けがなくたって、魔法でついてこられるだろ?」

 

 そのリズの言葉に、マリエルは「ふん!」と鼻をならして、こたえます。

 

 「とうぜんだよ! じゃ、なくて、いったいどこへいくのか? ってこと! 精霊王のところへいくんでしょ? 精霊王のトンネルは、むこうの山の、さきじゃないか!」

 

 マリエルがそういって、むこうに見えている山のことをゆびさしました。そこはマリエルがノランからきいていた、アップルキントにいちばん近い、精霊王のトンネルがある場所だったのです(マリエルはほかにも、このアークランドにあるすべてのトンネルの場所をおぼえていました。その中から、いちばん近いトンネルをえらんだのです)。とうぜんマリエルは、これから大急ぎで、そこへむかうつもりでした。

 

 「あーんなとこ、遠すぎていけないよ。」リズが手をふって、マリエルの意見をはねのけました。とうぜんマリエルは、むっとしてしまいます。

 

 「じゃ、どこへいこうってのさ。あそこが、いちばん近いんだぞ。」マリエルがいいかえします。ですがリズは、へっちゃらな顔をしたままで、いいました。

 

 「アップルキントのそとのトンネルにいく必要なんて、ぜんぜんないじゃん。だって、おれたちの目の前に、トンネルはあるんだから。」

 

 「な、なに?」思いがけないリズの言葉に、マリエルがびっくりしていいました。目の前に、トンネルがあるですって? それはわたしも、はつ耳です!

 

 「なーんだ、マリエル、知らなかったのか? そーいや、ノランのじいさんにも、まだいってなかったな。あの島のたきのところにも、トンネルがあるんだよ。」

 

 なんと! このみずうみのまん中にある、たきの島。その島の中にも、精霊王のトンネルがあるといいました! 自分たちが「精霊王のトンネルをあけてください」とたのみにきた相手にはじめて会ったところに、その精霊王のトンネルがあるなんて! なんて、どんぴしゃりなんでしょう!

 

 ということは……、わざわざアップルキントまでリズのことをさがしにきて、とんだ時間のロスになってしまったと思っていたわけでしたが、そうではなかったわけです。もくてきの人物ともくてきの場所が、じつはもうすでに、そろっていたというわけでした。なんてすばらしい! てまがはぶけて、よかったよかった!(リズのしったいも、これでちょう消しですね。)

 

 「ちょ、そんなこと、きいてないぞ! なんでそれを、早くいわないんだよ!」マリエルが、ぷんぷん怒っていいかえしました。

 

 「だって、きかれなかったからさ。」リズが、あいかわらずあっけらかんとしたままで、そういいます。

 

 「そ、そりゃ、きいてはいないけど!」

 

 マリエルは頭の中がすっかり、こんがらがってしまいました。きかれてないから、こたえない。それは正しいような気もするけど……、でもこの場合、きかれる前に教えるのが正しいはずなのであって……、リズのいいかげんさに二をかけて、三でわって……、ああ! わけがわかりません! リズと話しをしていると、いつもこんな感じになってしまうのです。マリエルはこぶしをふたつふり上げて、「あー、もう!」とさけびました(まったくもって、マリエルにどうじょうしてしまいます……)。

 

 「んなこと、どーでもいいからさ。」リズが、うでをふっていいました。「さき、いっちゃうよ? トンネル、あけてほしいんだろ?」

 

 リズはそういうと、ちゃぽちゃぽ、水の上を歩いていってしまいます。

 

 「な……! ま、待てったら、まだ、話は終わってないぞ!」マリエルがいいましたが、リズはぜんぜん、知らんぷりでした。

 

 「まあ、ここは、りくつぬきでいったらいいじゃん。」ライアンがそういって、マリエルの肩を、ぽんとたたきます。マリエルは、すっかり力がぬけてしまって、「はあ……」と深いため息をひとつついて、あきらめました。

 

 

 

 「マリエルの、まじかる・さぽーと。すいみん、るーきん、りろるー!」

 

 マリエルが魔法の言葉をとなえると……、ふおんふおん! マリエルと、マリエルのそばにいるロビーとライアン、三人のからだが、ふわふわとした光につつまれました。これは、みずすましのじゅつ。この魔法を使うと、その通り、水の上をちゃぽちゃぽ歩くことができたのです(いぜんかなしみの森で水の精霊の小川を渡ったことがありましたが、あのときは精霊が道をあけてくれたので、川を渡ることができたのです。こんどは、きょりも深さも小川とはぜんぜんちがう、みずうみが相手でしたから、精霊にたのんで渡らせてもらおうとしても、そうかんたんにはいきません。がんばって水の精霊にお願いすれば、みずうみの上を渡る方法もないわけでもないでしょうが、ライアンもやっぱりここは、すなおにマリエルの魔法にたよることにしました。およいでいくのも、めんどうですしね。それに、たいせつなお菓子がぬれちゃったら、たいへんですから。

 「なんか、さいきんぼく、戦いいがいの出番、なくない?」ライアンがロビーに、ぶーぶーいいました。まあ、マリエルがいるので、そこはしかたありませんね。がまんしてね、ライアン)。

 

 「ぼくのからだに、しっかりつかまって、ゆっくり歩いてください。だいじょうぶです。落としませんから。いきますよー。」

 

 マリエルはそういいましたが、じつはこの魔法は、地味ーなわりにはとってもむずかしい魔法で、ちょっとでも気をぬくと、たちまち水の中に、どぼん! 落っこちてしまうのです。ですからマリエルほどのまじゅつしでも、この魔法を使っているときには、おしゃべりすることさえできないくらいの集中が必要でした(「マリエルの、まじかる・うぉーたー・すらいだー!」なんていう魔法で、水の上をびゅいーん! とすべっていけたら、そうかいですけどね。さすがにマリエルも、なんでもかんでもできるというわけではありませんでしたから(そもそもそんな魔法は、ありませんでしたし……)。マリエルはまた、自分の使える魔法の中で、いちばんこうりつのいい魔法をえらんで、このみずすましのじゅつを使うことにしたのです(ちょっと地味でしたけど)。

 

 ちなみに、ライアンは水の上にいるときに、マリエルのうしろから「わっ!」なんて、ちょっとやってみようかと思いましたが、水の中に落ちるのはいやなので、やっぱりやめておきました)。

 

 ちょぽん、ちゃぽん。みんなは、いっぽずついっぽずつ、しんちょうに、水の上を歩いていきました。なんだかふわふわして、変な感じです。まるでマシュマロでできた床の上を、ころばないように気をつけながら、よちよち歩いているみたいです。ずっとさきの方を見ると、リズがうでを頭のうしろにくみながら、よゆうしゃくしゃく、立っていました。みんながくるのがおそいので、水の上に立ちどまって、待っていたのです。わざとかた足で立ってみせたり、えっちらおっちら歩いてくるみんなの、まねをしてみせたりして、こっちをからかっていました。な、なんか、はら立つ!(でもマリエルは集中を切らさないように、がんばってむししました。)

 

 そして、ようやくのことで……。

 

 「とうちゃーく!」ライアンがそういって、マリエルにつかまっていた手をはなして、いちばんに島にとうちゃくしました(でもさきにリズが待っていて、「おそいなあ、さき、いっちゃおうかと思ったよ。」とからかってきたので、マリエルとライアンが、そろっていいました。「うるさい!」)。

 

 たきの島は、とても美しいところでした。みずうみのまわりも、まさにらくえんといった美しさでしたが、この島はそれらの美しさを、みんな集めたといった感じだったのです。ま新しいみどりにあふれた、げんそう的な木々。色とりどりのくだものや、花々。あざやかな羽の色をした鳥たちが、あちこちでささやいております。きいろやオレンジ色をした大きな花たちが、くるくるとまわりながら、空中を飛びまわっていました(この花はあるていど大きく育つと、つぎの成長の場所をもとめて、みずから飛びまわって旅をするのです。なんともふしぎな花です(ここにリュキアがいたら、花たちを追いかけて、いっしょに飛んでいってしまうことでしょうね))。

 

 地面には、白い毛なみを持ったりすのような動物たちが、走りまわっていました。そのりすたちのまん中には、水の色をした大きなきのこがいっぽん、生えております。でもよく見ると、そのきのこには小さな足があって、その足でよちよちと歩いていました!(このきのことりすたちは、じつは友だちで、きのこの背中には葉っぱでできたふくろがひとつ、下げられていました。りすたちはそのふくろにたくさんの木の実をためこんで、きのこといっしょに、いどうして暮らしていたのです。きのこを食べる動物なんかがきたら、りすたちがいっしょうけんめい追っぱらいましたし、大きな鳥が近づいてきたときなどには、きのこがけむりをびゅー! と吹き出して、相手を追っぱらいました。なんともおかしな友じょうですね。)

 

 「すてきなところだね。」ロビーがいいました。

 

 「うん、まあ、シープロンドほどじゃないけどね。」ライアンがいつものちょうしで、こたえました。

 

 「すごいエネルギーです。」マリエルがつづけます。「こんなところがあったなんて、うかつでした。ここは、このアークランドの、すべてのよい力が集まるところみたいです。」

 

 マリエルがそういって、ためしにちょっとだけ、魔法の言葉をつぶやいてみると……。

 

 

   ぼわんっ!

 

 

 ちょっとしか力を使っていないのに、とんでもない魔法のエネルギーです! つえのさきから、ものすごい力のいなずまが、ばちばちばち! はじけんばかりにあふれ出しました(あわててマリエルは、その魔法を消しました)。

 

 「へええ、すごいね。」

 

 ライアンがそういって、同じようになにかをつぶやいて、精霊たちに語りかけてみます。すると……。

 

 

   ぼぼぼ! しゅばばばばあーん! 

 

 

 まわりの空気や地面が、まるでたつまきにでも飲みこまれたかのように、ぐるぐるとうずをまいてはじけ飛んでしまいました! な、なんておそろしい……(もうすこしで、ロビーまでその中にまきこんでしまうところでしたが……)。

 

 マリエルのいう通り、ここは魔法や精霊の力が、とんでもなく大きくはたらく場所でした。もしここで、マリエルとライアンのあのほんきのあわせわざが、さくれつしたとしたら……、考えただけでもおそろしい! たぶんこの島ごと、みんななくなってしまいそうです……。

 

 「この島は、精霊王がつくったんだよ。」リズがさらりと、とんでもないことをいいました! 精霊王がつくったですって!

 

 「むかし、精霊王が、このみずうみにあそびにきてさ。まん中に、島をつくったんだってよ。なかなか、いきなことをするね。」

 

 いき、ですか……。リズの意見はともかくとして、なるほど、どうりでこの島は、とんでもないエネルギーにみちているはずです。

 

 「精霊王のつくった島に、精霊王のトンネルか。どうりで、精霊たちがさわぐはずだよ。」ライアンがそういって、手のひらを空中にかざしました。するとその手の上に、すぐに、風や水の精霊たちのすがたが、ふわふわと見えはじめたのです!(ずいぶんとひさしぶりに、かれらにお目にかかれたような気がしますね。やみの精霊さんたちになら、ついこのあいだ、会えましたが……)

 

 精霊のすがたがかんたんには見られなくなってから、だいぶねん月がたちましたが、ここはそんなことには、おかまいなしの場所でした(むかしのアークランドがこんな感じだったのです)。まさにここは、「よい力」の集まる、精霊たちのらくえん。このアークランドでもゆびおりの、とくべつな場所だったのです(そして精霊の力は、魔法の力でもあるのです。魔法を使うときにはさまざまなしぜんのエネルギーが必要でしたが、そのエネルギーとはすなわち、精霊の力によって生まれるものでした。ですからマリエルの魔法の力も、それによって、大きく高められたというわけだったのです。

 

 ちなみに、マリエルは強くなった力でほんのちょっと、さっきリズにからかわれたしかえしに、リズのかみの毛をもじゃもじゃにするいたずら魔法をかけてやろうかと思いましたが、やっぱりむだな魔法の力を使うのはやめておきました。

 

 と思っていると……、すでにライアンが、リズの頭のてっぺんの毛を風の精霊にぐしぐしひっぱらせて、いやがらせをしていました……。マリエルはライアンと同じようなことを考えていた自分が急にはずかしくなって、思わず顔を赤くして、「こほん。」とせきばらいをしてごまかしました。まったく、かわいい子たちですこと)。 

 

 

 島は、そんなに大きなものではありませんでした。ですからそこからちょっと進んだだけで、もうさきの方から、たしかな水の音がきこえはじめてきたのです。それはこの島のまん中にあるという、たきの水の落ちる音でした。

 

 みんなはきれいな水の流れる小川にそって、歩いていきました。それはなんとも、ここちのいいせせらぎでした。小川のまわりには、たくさんの水の精霊たちが見て取れます。みんな、すいすい飛びまわったり、ぴょんぴょん水の上をはねたり。水のつぶをボールがわりにして、それを取りあってあそんでいる精霊たちまでいました(ちゃんとしたルールがきまっているのでしょうか? しんぱんのような精霊までいました。なんともめずらしい光景です)。

 

 この小川の水は、島のまん中のたきから流れていました。ですからこの小川をのぼっていけば、たきのところまでいけるのです。

 

 水の音が、だんだん大きくなってきました。たきは、すぐそこのようです。そして、さいごのまがりかどをまがったところで……。

 

 「あれ? どうくつ?」

 

 ライアンが、目の前のいがいな光景におどろいて、いいました。てっきりそこに、どうどうとしたたきのすがたがあるものだとばかり、思っておりましたから。ライアンのいう通り、流れる水は、岩山にぽっかりあいたどうくつの中へと、つづいていたのです。そしてごうごうというたきの水の音は、そのどうくつの中からひびいてきていました。

 

 「この中だよ。足もと、じゃり道だから、気をつけな。」

 

 リズがそういって、すいすいどうくつの中へとはいっていってしまいました。あわててみんなも、リズのあとを追いかけます。

 

 どうくつの中は、気持ちのいい空気にあふれていました。息をすうっとすいこむと、さわやかなミントのようなかおりの空気と、こまかい水のつぶが、いっしょに鼻のおくをくすぐっていくのです。足もとにはすいしょうのようにかがやくきれいなじゃりが、しきつめられていました。そしてみんながその上をざくざくと歩いていくと、そのじゃりがきらきらと光って、どうくつのかべを美しくてらし上げていくのです。

 

 どうくつのかべもまた、すき通ったすいしょうのような石でできていました。光にてらされたそのかべの石が、こんどはべつの色の光でそれにこたえて、それがまた、べつの石にも伝わって……。それはまるで、七色の光のイリュージョンの、ショーのよう。みんながいるのは、まさにその、とくとう席。ショーステージのどまん中だったのです。

 

 ロビーもライアンも、マリエルさえも、みんな思わずぼーっとなって、目の前の光景に見いってしまいました。気がつけば、たくさんの精霊たちが、あたりにまたたくげんそう的な光の中を、(まるでショーステージの上のダンサーたちのように)すいすいとまいおどっていたのです。こんなにすてきなショーを見せられてしまっては、だれでも心をうばわれてしまうのは、とうぜんのことでした。

 

 

 「みちくさ食ってないでさ、早くいくよ。」

 

 

 とつぜん、夢の世界のそとから、リズの声がきこえました。みんながはっとわれにかえると、リズが手をぱたぱたとふってあたりの精霊たちのことをはらいのけながら(精霊たちに対して、なんてばちあたりな!)、どうくつのおくへといってしまうところでした。こんなにすてきな光景が目の前に広がっているというのに、まったくリズときたら!(でもリズにとっては、この夢のような光景もまた、ふだんから見なれている、ごくあたりまえのことの一部分にすぎなかったのです。こんなにもすばらしいものが、あたりまえなことになっている。よく考えてみれば、それはすてきなことなのかもしれません。たしかにリズみたいに、感動はうすくなってしまうかもしれません。ですが、美しいものがごくあたりまえに、美しいままにそんざいしている。こんなにしあわせなことは、ほかにないはずです。このアークランドでも、わたしたちの世界でも。)

 

 「ちょっと! 待ってよー!」

 

 「こら! さきにいくな!」

 

 みんなはそういって、さきをゆくシルフィアのあとを追いかけました。

 

 

 

 「な……、なんてすごい……」

 

 思わずロビーが、ため息まじりにそれだけつぶやきました。ほかの言葉が、ぜんぜん出てこなかったのです。それはエリル・シャンディーンの空中ろうかで、道のさきにそびえる女神リーナロッドのぞうを見たときいらいの、大きな感動でした。

 

 どうくつの、そのいちばんおく深く。じゃりの道は、深い池のほとりへとつながっていました。その池のむこう。岩かべから、どうどうと青いしんじゅのつぶのような水のしぶきをあげて、そのたきが流れ落ちていたのです。

 

 その美しさ……。

 

 すべてをつつみこむ、そんざい感……、やさしさ……。

 

 七色の光につつまれた、まるでまぼろしのようなたき。たきのまわりには、この場所ではもうあたりまえのように見ることのできている、たくさんの精霊たちが、たきのせいなる力にさそわれて飛びまわっていました。しかしここには、それいがいのほかの力がありました。ロビーはそこに、たしかに、女神のそんざいを感じ取ったのです。心なしか、腰におびたせいなる剣が、ふわりとかるくなったかのように感じました。ものすごい力が、剣からあふれ出してくるようです。女神の力、精霊の力、そのすべてが、この剣に集まってきているかのようでした。それはなんとも、ふしぎな感かくでした。

 

 「これが、精霊王のトンネルがある、たきだよ。」リズが、あいかわらずのちょうしで、たんたんとそういいます。「このたきにむかって、力を使うんだ。すぐ、ひらくからさ。ちょっと、そのネックレス、貸してみな。」

 

 「ちょーっと、待ったー!」

 

 リズの言葉に、とつぜんライアンがわりこみました。なにごとでしょうか? リズがきょとーんとした顔をして、ライアンの方を見ます。

 

 「やっぱりここは、このぼくにやらせてよ。こんなに精霊の力にあふれた場所も、ちょっとほかにないからね。ここならぼくでも、精霊王のトンネルくらい、ちょちょいのちょいだよ。」ライアンはそういって「ふふん!」と鼻をならし、よゆうしゃくしゃくといったふうに、おどけたポーズを取ってみせました。

 

 「さあ、シープロンドいちの精霊使い、ライアン・スタッカートくんの力、見せてあげましょう! ノランさんは、むりっていったけど、ふっふっふ、はたして、そうかな?」

 

 どうやらライアンは、ノランから「精霊王のトンネルをあけるのは、おぬしにはむり」といわれたことが、ずっとひっかかっていたようなのです。そしてライアンは、はじめから「見てろー、ぼくのすごいとこ、思い知らせてやるんだから!」とひそかに思っていて、精霊王のトンネルもリズにたよらず、自分であけてやろうと思っていましたが(やっぱりそんなこと考えてたんですね。ライアンらしい)、じっさいにこの場所にきてみて、その精霊の力のあまりの強さに、「ここならぼくにも、ぜったいにできる!」と自信を持ちました。こうなったら、ライアンが行動しないはずがありませんよね。というわけで、ここでリズをさしおいての、ごとうじょうというわけだったのです。でもほんとうに、だいじょうぶなの?

 

 「おししょうさまから、いわれたでしょ。ライスタには、むりだってば。」マリエルがあきれ顔でいいましたが、すでにライアンは、やる気まんまんでした。

 

 ライアンはロビーから精霊王のネックレスを受け取ると(というより、自分からむしり取りましたが……)、りんとして、みずべのふちに立ちました。マリエルは「ふう……」とため息をついて、うしろにひっこんでおります(好きなようにやらせてやろう、ということです)。リズもうでをくんで、やれやれといった感じで見守っていました。そしてロビーも、「ライアンならできそう」という強いきたいを持って、同じくうしろから見守っていたのです。

 

 なにかわたしも、ロビーと同じく、ライアンにならできそうな気がしてきました(マリエルとリズは、きたいしてないみたいですけど)。これほど精霊の力にあふれた場所であるとはいえ、精霊王のトンネルをあけることができれば、もんくなしにたいした精霊使いです。伝説のシルフィア種族の者たちとも、肩をならべることができるのですから。さあ、ここはみなさんも、ライアンのことをおうえんしてあげようじゃありませんか。がんばれー!

 

 ライアンは精霊王の青いネックレスをにぎりしめ、そしてささやきはじめました。

 

 「せいなる場につどいし、ぜんなる精霊たちよ。われとともに、大いなるみらいへのとびらをひらかん。」

 

 ライアンがそういうと、あたりの空気がばあーっ! とざわめきはじめました。見ると、ここにもそこにもあそこにも、風や水の精霊たちが、この場をうめつくさんばかりに、あふれかえっていたのです! とくに、たきのまわり、そしてライアンのまわりは、まさに精霊だらけ! まるで精霊の海の中に、ライアンがひとりで浮かんでいるかのようでした(かなしみの森の小川でも、ライアンのすがたが見えなくなるくらいに精霊が集まりましたが、こんどはライアンどころか、まわりの景色やたきのすがたさえも、みんな見えないくらいでした!)。なんともすごい! こんなにたくさんの精霊の力が集まれば、ふかのうも、かのうになるかもしれません。これなら、いけるかも!

 

 ライアンのすがたは、集まった精霊たちにかこまれて、まったく見えなくなりました。そしてささやきの言葉が終わって、さいごのひとこと!

 

 「いざゆかん! とびらのさきへ!」

 

 「スピリチュアル・アストラル・ホーリーゲート!」

 

 なんというすさまじい力! さし出した青いネックレスにすべての精霊たちの力がひとつのかたまりとなって集まり、それがたきの前の空間へとむかって、いっきにはじき出されたのです!

 

 

   ぎゅぎゅぎゅぎゅい~!

 

 

 青いネックレスからあふれるおそろしいまでの精霊の力が、そのままたきの前に、精霊王のトンネルのすがたをうつし出していきました! すごい、やった! ついに精霊王のトンネルが、ひらかれるのです! 

 

 「いっけえ~!」

 

 

   どごごごご~ん!

 

 

 ライアンがさいごの力をふりしぼって、トンネルの入り口に精霊たちの力をぶつけました!

 

 

 

 「だからさあ、むりだっていったじゃん。」

 

 リズが、(どうくつのすみっこのかべぎわで、ひざをかかえてすわりこんでしょげかえっている)ライアンにいいました。

 

 「まあ、トンネルが出せたんだから、すごいことだよ。ぼくも、みとめるからさ。」マリエルがライアンの肩をぽんとたたきながら、つづけました。

 

 

 けっかは、まあ、その……、そういうことでした……。

 

 

 やっぱり精霊王のトンネルが相手では、ふつうの精霊たちでは、いくらたばになってもかなわなかったのです。でもそれは、風や水の精霊たちが悪いわけでも、ライアンのうでが悪いわけでもありませんでした。ライアン(と精霊たち)は持てるかぎりの、さいこうの力をはっきしました。でもそれだけでは、だめなんですね。やっぱりノランのいう通り、かたくとざされることになってしまった精霊王のトンネルをあけることができるのは、もとからそれくらいの強力な力を持っている精霊たちでなくちゃ、だめみたいだったのです。いくら精霊使いが、強力であったとしても(たとえば……、今の精霊王のトンネルをあけるために必要な力を、「二百万精霊パワー」としましょう。そして精霊王のネックレスの持つ力を、「百万精霊パワー」とします。シルフィアであるリズは、もともと百万精霊パワーほどの力を持っておりましたので、リズが精霊王のネックレスを使えば、ごうけい二百万精霊パワーとなり、このトンネルをあけることができました。やみの精霊たちの場合は、ひとりひとりが「五十万精霊パワー」といったところでしょうか? ですからやみの精霊たちがふたりで協力すれば、ネックレスを使って、なんとかこのトンネルをあけることがかのうなわけなのです(もっとも、協力できればの話ですけど)。

 

 ところが、風や水、火や土といった精霊たちは、いわばいっぱんの、ふつうの精霊たちでした。かれらのようなふつうの精霊たちは、このような精霊の力があふれかえっている場所であっても、どんなに力をあわせたとしても、ごうけいでせいぜい二、三十万精霊パワーほどの力までしか出せなかったのです。それ以上の数の精霊たちが集まったとしても、ほんらいの力が弱いため、大きくなりすぎた力がちってしまって、それらの力をひとつにまとめることはできませんでした。ですからライアンが精霊王のネックレスまで使って、いくらがんばってかれらの力を集めたとしても、さいこうでも精霊たちの力とあわせて、「百三十万精霊パワー」ほどをかせぎ出すのが、やっとだったのです。

 それではこんかいのように、トンネルのすがたをうつし出すくらいのことまでで、せいいっぱいでした。それを知っていたからこそ、ノランは「むり」といったんですね。ライアンはそれを知らなかったというわけでしたが、それにしても、あんなにがんばったというのに、はじめから「あけられない」ときまってたなんて、う~ん、なんだか、気のどくなライアン……)。

 

 ですが、(いくらライアンのせいではないとはいえ)ライアンは落ちこんだまま、動けません。ロビーがいくらがんばっても、だめでした。ライアンは、よゆうぶって見せていましたが、じつは、ほんきのほんき、自分の持てるさいこうの力を出しきったのです。それでだめでしたから、その落ちこみ方も、さいこうちょう! まあ、その気持ちもわかりますけどね……(う~ん、どうしたものやら)。

 

 「しょうがないなあ。」

 

 見かねたマリエルが、「ふう。」とため息をついて、なにかをささやきはじめました。どうやらまたも、なにかの魔法のようです。

 

 「ちょっと、気が乗らないけど、しかたありませんね。」

 

 マリエルがそういって、ライアンに魔法のじゅつをかけました。ほわわん! ライアンのからだが、きいろい光につつまれます。いったいなんの魔法なのでしょう? と思っていると……。

 

 

 「やっほ~!」

 

 

 ええっ! ライアンがとつぜん、大声でさけんでとび上がりました! な、なにごと?

 

 

 「精霊が、なんだってのさ~! ぼくは、ライアン・スタッカートだぞ~! シープロンドの王子さまなんだぞ~! かわいいんだぞ~! きゃはははは!」

 

 

 ちょ、ちょっとライアン、いったいどうしたの?

 

 

 「じいしき・かじょうのじゅつです。自分のいいところを大げさにじかくさせて、自信たっぷりにさせる魔法なんですが、今のライスタをげんきにさせるには、これしかないと思いまして。」

 

 マリエルが、(口をあんぐりとあけてかたまっている)ロビーに説明しました。

 

 「でも、ちょっと、ききすぎちゃったみたいですね……」

 

 マリエルのいう通り、ライアンはもともと自分に自信たっぷりでしたから、それが魔法でますます強くなってしまって、そのけっか、こんなハイテンションなライアンになってしまったというわけなのです……。う~ん、これなら、もとの方がよかったかも……。

 

 「こ、これ、どうするの?」ライアンのあまりの変わりように、ロビーが心配になってマリエルにたずねました。

 

 「この魔法は、しばらくは消せないんです。五分くらいでおさまるかと思いますが……。すいません。」マリエルがすまなそうに、ロビーにいいました。

 

 ロビーは、自分のまわりではしゃぎまわっている(そのうえ自分にすごくからんでくる)ライアンに、またしてもなにもすることができず、その場に立ちつくして、ライアンのことをただただ、見守るほかありませんでした……。

 

 「ほらほら、見て見て! ロビーちゃん! このポーズ、かわいいでしょ~! ほら~、こ~んなサービスもしちゃう! ちゃちゃっちゃ、ちゃ~ん! こ~んなとこまで見せちゃうよ! きゃはははは!」

 

 

 

 「あらよ、っと。ほら、あいたぜ。」

 

 ネックレスを持ったリズが、たきの水しぶきにむかって力をこめると……。

ぶおお~ん!

 

 すごい! さっきライアンがあんなにもがんばってあけようとした精霊王のトンネルが、あっというまに、目の前にその口をひらいたのです!(魔法が切れて「正気」にもどったライアンが、それを見てまたしても、がーん! リズがあんまりかんたんにトンネルをあけてしまいましたので、ショックでまた、落ちこんでしまいました。あ、でも、もう魔法はいいですからね、マリエルくん!) 

 

 「さすがは、精霊王のネックレスだな。とんでもないパワーを持ってるぞ、こいつ。」リズが、手にしたネックレスをしげしげとながめながら、いいました。さすがのリズでも、自分の力だけでは、さらにかたくとざされてしまった今のじょうたいの精霊王のトンネルをあけることなんて、とてもむりなことでしたから。このネックレスの力が、トンネルのとびらをとざしていたその力を弱めてくれたからこそ、こんなにもかんたん(?)に、トンネルの入り口をあけることができたのです(ちなみに、いぜんのじょうたいのトンネルであれば、精霊王のネックレスがなくても、リズならばあけることができました。いぜんのトンネルなら、今のじょうたいのトンネルをあけるための半分の力、百万精霊パワーほどもあれば、ひらくことができたのです。ですがリズは、トンネルをためしにあけてみたことはありましたが、「べつに用がないからいいや。」といって、中にはいりませんでした! なんてもったいない! 

 

 それからもリズは、イーフリープにいくことはありませんでした。「だって、めんどうだし。」というのが、そのりゆうです。それに、家で曲を書いている方が、楽しいみたいでしたから。う~ん、さすがはリズ)。

 

 でもみんなには、そんなネックレスのことよりもなによりも、今いちばんきょうみをひかれてやまないものがありました。それはもちろん、目の前にひらかれた、この精霊王のトンネルです!

 

 「すごい……! さすがのぼくでも、はじめてのけいけんです。じっさいに、イーフリープへつづくトンネルが、ひらいているなんて……!」マリエルが、目の前にひらいたぼんやりとかがやくふしぎなとびらのことを前にして、いいました。

 

 「ほら、すごいよ、ライアン。ほら、見て。」ロビーがそういって、また落ちこんでしまったライアンのことをひっぱってきて、自分の前に立たせました。

 

 精霊王のトンネル……。ただの伝説と思われていた精霊王が、じっさいに住んでいるという、物語の中だけにそんざいするはずのくに、イーフリープ……。そのおとぎのくにへとつづくふしぎのトンネルが、今自分たちの目の前に、こうしてひらいていたのです。このアークランドの中のいったいどれほどの人が、こんなけいけんをすることができるのでしょうか? こんなけいけんは、とくべつな、ほんとうにとくべつな者だけが、一生にいちどできるかできないか? というほどの、きちょうなものでした。今まさに仲間たちは、(そして読者のみなさんも、これを書いているわたしもふくめて)そんなとくべつなたいけんをしようとしていたのです。精霊王のもとへ!

 

 「精霊王……。 精霊王! はわわわ……、どーしよー!」

 

 われにかえったライアンが、急にそわそわしはじめました。むりもありません。精霊になれ親しんできた、シープロンドの者たち。その中でもライアンは、王子さまとして、小さいころからつねに精霊とかかわってすごしてきました。そんなライアンでさえ、精霊王なんてものは、夢のまた夢、とくべつの中のとくべつ。その伝説の精霊王に、今これから、自分が会おうとしていましたから。

 

 メリアン王でさえ、精霊王に会ったことはありません。ルエルしきょうさまだって、レシリア先生だってそうです。おそらくシープロンでは、はじめてでしょう。そのはじめてが、自分なのです! 強がっていたライアンですが、じっさいに精霊王に会うというこのときとなっては、さすがにしりごみして、そわそわしてしまうのも、むりもないことでした。

 

 そんなライアンのことを見て、ロビーがいったのです。

 

 「これはきっと、精霊王さまからの、しょうたいじょうだよ。」

 

 「えっ?」

 

 ロビーの言葉に、ライアンがおどろいていいました。

 

 「精霊王は、なんでも知っている。ライアンのことも、もちろん知っている。ライアンが、シープロンドいちの精霊使いだってことも。だから精霊王は、ライアンをここに、まねいてくれたんだ。」ロビーがつづけました。

 

 「きっと精霊王は、ライアンがくるのを、楽しみに待ってる。だからライアンは、それにこたえてあげなくちゃね。ライアンは、すごいんだから。ぼくじゃ、精霊王を相手にするなんて、むりだよ。ライアンじゃなきゃ。だから精霊王は、ライアンのことを、しょうたいしてくれたんだ。」

 

 ライアンはしばらく、きょとんとしたままでした。

 

 ロビーの言葉は、おせじでも、ごきげん取りでもありません。ライアンはロビーのことを、いわれるまでもなく、よく知っております。それこそ、なんでも知ってる精霊王みたいにです。ですからライアンには、ロビーの心がよくわかりました。ロビーはほんとうに、心の底から、自分にきたいしているのです。精霊王の相手がつとまるのは、ライアンしかいない。ロビーはそう、自分にきたいしているのです。

 

 

 さて、ライアンの反応は?

 

 

 ライアンはうつむいて、だまったままでした(あれ? てっきり、「まーかせてよ!」といって、自信まんまんにいばりちらすとばかり思っておりましたのに。どうしたのでしょう?)。

 

 「……ふ……、ふ、ふ……」ライアンが下をむいたまま、ぼそぼそといいました。ど、どうしたのでしょうか? だいじょうぶ?

 

 心配したロビーが、どうしたの? といおうとした、そのしゅんかん……。

 

 

 「こーの、ライアン・スタッカートさまに、まかせておけーい!」

 

 

 ライアンが、こぶしをふたつ、天高くつき上げながらさけびました!(よかった! やっぱりライアンは、こうじゃなくっちゃ! 思った通りの反応で、わたしも安心です!)

 

 「そのほう! よを、だれだと心得ておる! おそれ多くも、シープロンドいちの精霊使いにして、王子。ライアン・スタッカートなるぞ!」ライアンは胸をのけぞらせて、いばりちらしながら、ロビーにゆびをぴしっ! とつきつけていいました(でも背がちっちゃかったので、あんまりえらそうには見えませんでしたが……)。

 

 「やれやれ。やっぱり、精霊王と肩をならべられるほどのじつりょく者は、ぼくしかいないんだから、しかたないのか……。ぼくくらいになると、みんなが放っておかないんだから、まったくこまっちゃう。」

 

 いいぞいいぞ、そのちょうし! もう百パーセント、ライアンですね! 

 

 「よかった、げんきになったんだね。やっぱりライアンは、げんきなすがたが、いちばんいいな。」ロビーがほっと胸をなでおろして、心から安心していいました。

 

 

 たまにはへこんでしまうこともあるけれど、やっぱりライアンは、どこまでもライアンです。おちょうし者のライアンです。じいしきかじょうなライアンです。なまいきで、負けずぎらいで、へらず口のライアンです。お菓子が大好きなライアンです。かわいいと、自分でみとめているライアンです。

 

 みんなが大好きなライアンです。

 

 

 ライアンは、これでいいですよね!

 

 

 ライアンがまた、いつものちょうしで、マリエルやリズにからみはじめました。マリエルとは、またわーわーきゃーきゃー、やりはじめております。そんなライアンのことを見て、ロビーは笑いがとまりませんでした。マリエルは、「ちょうしのいいやつだ。」とあきれております。リズも、「おかしなやつだな、おまえは。」と思わず笑ってしまいました。

 

 「さあ、いくぞ! なにをぐずぐずしてるんだ!」ライアンがうでをさっとふって、兵士たちにしじを送るしきかんのようなしぐさをしながら、みんなにいいました。

 

 「ライスタがかってにわーわーさわいでたから、さきに進めなかったんでしょ!」マリエルがぷんぷんいいましたが、これはもう、いつものやりとりでした。

 

 「よし、いくぜ、ついてきな。」リズがそういって、池の上をちゃぽちゃぽと歩いていきましたが……。

 

 「ちょっと待った! ぼくが先頭!」ライアンがそうさけんで、とめました(やっぱり。そういうと思いました)。

 

 またマリエルがみずすましのじゅつを使って、みんなは池の上を、たきの前のトンネルまで歩いていきます。そしてトンネルの前までたどりつくと、ライアンがいちばんにその中に飛びこみました(やっぱり。そうすると思いました)。ロビー、マリエルとつづいて、待っていたリズも、やれやれといった感じで、トンネルの中にはいります(トンネルの中は、ほんとうにふしぎな空間でした。まわりのかべは、かたいようで、やわらかいようで、しかもぐねぐねと動いていたのです。その色も、赤いようで、青いようで、白いようで……、まったくとらえどころがないといった感じでした。そしてはるかなむこうに、明るい光の出口がひとつ、見えていたのです)。

 

 ついにみんなは、精霊王の待つイーフリープへとはいりこむのです。そこで仲間たちは、どんなたいけんをして、なにを得るのでしょうか? ノランはいいました。「そこでおぬしは、さいごのしれんを受けなければならん……」

 

 つづく道のさきには、いったいなにが、自分のことを待ち受けているというのでしょう? ロビーはもういちどけついをかため、両手をぐっとにぎりしめました。

 

 

 いよいよだ……。

 

 ロビーは心の中で、そうつぶやきました。

 

 

 「らーいあーん、すたっかーあとー!」 

 

 目の前には、うでをふって歩きながら歌っている、げんきなライアンのすがたがありました。

 

 

 

 

 

 

 




次回予告。


     「これは、アークランドの正式ながいこうである。」

       「おひさしぶりですね、ロビーベルク。」

     「いくぜ、イー・マイナー・セブン!」

       「いぎゃー!」


第23章「精霊王のふしぎのくに」に続きます。


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