ロビーの冒険   作:ゼルダ・エルリッチ

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24、ほんとうの強さ

 美しい朝の光が、この土地のすみずみにまでふりそそいでいました。じこくは、羽うさぎのこくげん。朝の六時ころです。夜のあいだにたまったたくさんの水のしずくが、みずみずしいみどりの葉の上で、宝石のようにきらめいていました。おだやかな空、小鳥のさえずり。さきほこる花々、みのるくだもの。すべてのものが、この土地のへいわさをよくあらわしていました。

 

 ですがいったいだれが、ここにこんな光景があらわれることを、よそくできたでしょうか? 白く美しいすいしょうのようなれんができずかれた、かがやけるみやこ。そのみやこにかかる、四つの白いネックレスのような、じょうへき。そのじょうへきのいちばんそとがわ。このみやこに通じる門の、そのさきのみどりの平原に、今まっ黒なおそろしい影たちが、ひしめいていたのです。それは……、そう、おそろしい黒の軍勢、ワットの者たちでした。

 

 ここは、美しき白のみやこ、シープロンド。

 

 そのかがやけるみやこに、今黒の魔の手がせまろうとしています。

 

 

 

 「いつでもよろしいですよ、王さま。」

 

 白いネックレスの、そのいちばんそとがわ。つまりみやこのいちばんそとがわの、そのじょうへきの上。今そこに、ワットの軍勢にむかいあうかたちで、たくさんのシープロンの者たちが集まっていました。王さまに声をかけたのは、りっぱなししゅうのされたきぬの衣服に身をつつんだ、ひとりの身分の高そうなシープロンです。それは王さまのそっきんのひとり、われらが仲間、ルースアンのおとうとでもある、ルーベルアン・トーンヘオンでした。

 

 「そうだな。」

 

 こちらはメリアン王。メリアン王は、その手に、しきをとるためのみじかいつえを持っております。りっぱなちょうこくのなされた、白い宝石でできたつえです。これは代々シープロンドの王宮に伝わるもので、とくべつな力を持っているとされる、魔法の品物でした(売ったら、たいへんなねだんがつくことでしょう。売りませんけど)。

 

 メリアン王ははるかな平原を見つめたまま、しばらくもの思いにふけっていましたが、やがて手にしたつえをぱっと前にふると、そっきんの者たちにいいました。

 

 「よし、使者を送れ。これがさいごのチャンスだと、いってやるといい。たぶん、むだだろうがな。」

 

 「むだでしょうがね。」そういってルーベルアンが、衛士たちに(王さまからのついかのそのメッセージのこともふくめて)あいずを送りました(このあいずは、手ばたしんごうのようなもので、遠くにいる相手にもメッセージを送ることができました)。それと同時にシープロンドの門がひらき、そこから、馬に乗った使者たち(これはフォルテールとホロウノースのふたりがつとめました)が飛び出します。そしてワットのがわからは、いぜんにやってきたあの黒い毛がわを着た三人の使者たちが、ふたたびやってきました(話しあいは、きたいできそうもありませんね)。

 

 おたがいの使者たちが、顔を見あわせます。フォルテールとホロウノースは、さほうにのっとって、馬からおりておじぎをしましたが、ワットの使者たちは、ぶれいにも、馬に乗ったまま話しをはじめました。

 

 「話しあいのよちはないはずだ。わへいの道を破ったのは、そちらなのだからな。」ワットの使者たちがいいました。わへいですって? よくいいます! こうふくか? いくさか? なんて、きめつけておきながら! フォルテールとホロウノースは、心の中で、んべー! と舌を出してやりましたが、さすがにこの場は(じっさいにそんなまねをするようなことは)ひかえました。

 

 「われらは、われらの道を歩むのみ。それは、なんら変わりありません。あとは、あなた方の心、ひとつでございます。これがさいごのチャンスだと、心得ていただきますよう。」フォルテールがいいました(王さまにいえといわれたついかのメッセージのことも、しっかりいいましたね)。

 

 これをきいて、ワットの使者たちはあきれたように、手をふっていいました。

 

 「まったく話にならんな。それではこれにて、いくさのはじまりとしよう。われら、アルファズレド王あずかり、ロートタリスのマダン・レクグワース隊がお相手つかまつる。そちらの兵力は?」

 

 「われら、メリアン・スタッカート王しき下。シープロン衛士、二百です。いくさのおきてにかたくしたがうことを、おちかいいたします。」ホロウノースがこたえます。

 

 「心得た。われらもむろん、おきては守らせていただく。よりぬきの兵士、七百五十にてお相手しよう。では!」

 

 そういってワットの使者たちは、隊の中へともどっていきました。やっぱりさいごの話しあいなどというものは、きたいできませんでしたね。ですがいぜんにも説明いたしました通り、たとえワットの軍勢といえども、いくさのおきてはきちんと守ってもらえるようです(「三ばいの兵士たちまでしか使えない」というルールがありましたよね。そして「兵力が二百五十人にみたない場合でも、二百五十人としてあつかわれる」というルールもありました。ですからワットの軍は、こんかい集まった八百五十人ほどの兵士たちのうち、(二百五十人の三ばいの)七百五十人の兵士たちだけが、戦いにさんかするというわけだったのです。

 

 ちなみに、ワットの軍勢がやってきたのは、ここから南東に進んだ地にあるちゅうとんちからでした。そこは「西のちゅうとんち」とよばれるロートタリスという場所で、北の地のけいびにあたる兵士たちがいるところだったのです。ベーカーランドにせめこむために、ワットの兵士たちは今そのほとんどが南の地へとうつっていましたから、シープロンドをせめ落とすにあたって、この北の守りのロートタリスの兵士たちが使われたというわけでした。いうなれば、「い残り組」といった感じですね。だからといって、べつに、弱いというわけではありませんでしたが)。

 

 ですがやはり、相手はつねに三ばい(またはそれ以上)の勢力でせめこんでくる、ワットの黒の軍勢。これに対して、シープロンドの衛士たちは、ろくに武器も持っておりません(かざりのやりは持っていましたが、これでまともに戦うことなんて、はじめからむりでした。すぐにぽっきり、おれてしまいますから)。ワットの軍勢も、そのことはよくわかっていました。ですがかれらは、いっさいようしゃなどしません。相手がどんなに弱くても、つねに全力でむかってくるのです。メリアン王をはじめ、シープロンの者たちも、そんなことは百もしょうちのはずでした。ではいったい、メリアン王やほかのシープロンたちのよゆうは、ほんとうにどこからくるというのでしょうか?

 

 ワットの軍勢が動き出しました。そのあちこちで、ぶきみなつのぶえの音色が吹きならされていきます。ワットのもんしょうがそめぬかれたまっ黒なはたが、ゆらゆらとゆれていました。黒の軍勢の足音、よろいのなる音、たてがこすれる音、剣がゆれる音……。それらはまったくもって、この美しい空の下にはふつりあいな、悪夢のようなしろものたちでした。

 

 

 ついに、シープロンドの戦いがはじまったのです。

 

 

 「やっぱり、むだでしたね。」せまりくる軍勢のことを見つめて、ルーベルアンがメリアン王にいいました。

 

 「むだだったな。」メリアン王が「ふう。」と息をついて、それにこたえました。「さいごのチャンスだと、いってあげたのに。」

 

 「しかたない。では、せいなる山のお力を、おかりするとしよう。」

 

 メリアン王はそういって、手にした白いつえをさっとふり上げました。そしてそれをあいずに、白いじょうへきの上にいる衛士たちが、つぎつぎと、なにかのはこをそうさしはじめたのです。それらのはこは、じょうへきの上につくられたまるいやねのついたいくつかの小さな塔の下の、白い石の台の上に、それぞれひとつずつ乗せられていました。はこの大きさは、はばが二フィートほどで、高さは一フィートほど。すみきったとうめいなすいしょうでつくられた、美しいはこでした。

 

 これはいったい、なにをするものなのでしょうか? 衛士たちが、そのはこの上にえがかれたたくさんのもように手をかざしたり、なにかのスイッチのようなものをおしたりしていきます。そしてさいごに、はこのまん中にはめこまれていた、とうめいなドームに手をかざすと……。

 

 

  ぶいいいい~ん! ばああああっ!

 

 

 はこが、にぶい音を立てて動き出しました! そしてそれと同時に、とうめいなドームが青くまぶしい光を放ちはじめたのです!

 

 同じことが、あっちでもこっちでも起こっているようでした。それらのはこは、四つあるネックレスのじょうへきの、そのそれぞれに、なんこかずつおかれていたのです。

 

 

 はこから出る青い光が、あっというまに、白いじょうへき全体をつつみこんでいきました! そしてそのちょくご。おどろくべきことが起こったのです。

 

 

 じょうへきをつつみこんでいたその青い光が、しゅごごごごー! うずをまくような大きな音とともに、じょうへきのちゅうおうへとどんどん集まっていきました! そして、その光の中から飛び出したのは……。

 

 

 「ごがああああー!」

 

 

 で、出たー! まっ青なからだを持った、巨大なりゅうです! それは、水の精霊の力を持った強力なりゅう、ウォーター・エレメンタルドラゴンというりゅうでした。どっひゃー! こんなものが飛び出てくるなんて!

 

 そして白いネックレスのじょうへきは、四つ。つまり……。

 

 

 「ぐがああああー!」「ぐるごごごご!」「がががるるるー!」

 

 

 そういうことです! 四つのじょうへきそれぞれから、エレメンタルドラゴン! つまり全部で四体の巨大なりゅうたちが、飛び出してきたというわけでした!(このじょうへきにつくられたたくさんのすいしょうのはこは、それぞれが精霊たちにちょっとしたあいずを送るための、そうちでした。そのあいずにこたえて、強力な精霊たちが飛び出し、このくにを守るのです。いうなれば、この白いネックレスのじょうへきは、「敵をけちらすこうげききのうつき」の、精霊のバリアー。シープロンドはこんなに強力な四重にも渡る精霊のバリアーによって、かたく守られていたというわけでした! これでなっとく。これではだれも、かなわないはずです!)

 

 

 「え……? ええっ? えええーっ!」

 

 

 おどろいたのは、ワットの兵士たち! おどろいたなんてものじゃあありません。それもそのはずですよね。シープロンドは軍を持たない、おとなしいくに。ワットの兵士たちはこんな戦いなんて、ほとんど「かたちだけ」みたいなものだと思っていたのです。たくさんの兵士たちで、ちょっとおどかしてやれば、すぐに音を上げてこうさんしてくるだろうと。それがどうでしょう。いきなり巨大なエレメンタルドラゴンが、四体! うなりを上げて、こちらへとむかってきましたから!

 

 

 「ぎゃああー!」「うわああー!」「やばい! やばい! ひええー!」

 

 

 ワットの兵士たちはもう、大こんらん! あっちへこっちへ逃げまどいます! ですけど、むかってくるりゅうたちは、ようしゃしません。

 

 「ごおおおー!」 

 

 りゅうの口から、水のほのおが飛び出します!(ふつうりゅうというものは、その口からほのおの息を吹き出すことでゆうめいですが、このウォーター・エレメンタルドラゴンは水の精霊のりゅうでしたから、水でできたきりのような息を吹き出しました。ですからまさに、水のほのおといった表げんが、ぴったりだったのです。)そしてその水のほのおは、逃げまどうワットの兵士たちを、いちもうだじん! ざざざあー! みんなまとめて、あらい流してしまいました!

 

 

   ざざざあー! ずざざざー! ばっ、しゃあーん! 

 

 

 あたりはもう、水びたし! かわいそうなワットの兵士たちは、剣もたてもかぶとも、みんな流されて、まさにぬれねずみです!(中にはよろいまで流されて、シャツだけになってしまった兵士までいました。こうなったらもう、兵士だかなんだかもわかりませんね。)

 

 そして、つぎのこうげきが!

 

 とつぜん、水びたしの地面が、ぐぐぐぐ! と持ち上がって……。

 

 

 アッパー・パーンチ! どっご~ん!

 

 

 「ぎゃあああー!」

 

 地面の下から巨大なげんこつが飛び出して、ぬれねずみになったワットの兵士たちを、ようしゃなく下からパンチしました! こ、これはきつい!

 

 かわいそうなワットの兵士たちは、二十フィートほども飛ばされて、地面にできた水たまりの中に、ばっしゃーん! 水びたしのうえに、どろまみれ! もう、ふんだりけったりです!

 

 これは土の精霊でした。いっぱんにはノームとよばれることもありますが、ここで出てきたのは、そのこぶしだけ(それも、とく大きゅうの!)。ノームとはほんとうは、小さな人のすがたをしているのです。でも人のかたちでなくても、そのこぶしだけでじゅうぶんでした。なにしろそこらじゅうから、この(とく大きゅうの)土のこぶしが飛び出してきましたから!

 

 

 パーンチ! ノーム・パーンチ! フック! ジャブ! ブロー!

 

  

 ワットの兵士たちは両手を上げて逃げまどい、たたかれ、飛ばされ、ころんで、ばっちゃーん! つぎつぎに水たまりの中へとたおれこんでいきます。もう、黒いよろいを着ていなくても、どろでまっ黒!

 

 なんとおそろしい。メリアン王やそっきんの者たちが、ワットの軍勢の武力に対してもへいぜんとしていたわけが、これではっきりわかりましたね。「わがくには、神さまによって守られておりまする。」これは第六章の、ロビーたちの出発についてのかいぎの場で、ルエルしきょうさまがいっていた言葉です。その言葉の意味も、これではっきりとわかりました。シープロンドは、神さま、精霊の力によって、かたく守られていたのです。どんなに強い軍隊だって、シープロンドにはかなわないのです。ワットの兵士たちはこんかいの戦いで、そのことをいやというほど思い知らされました(そのかいぎの場面で、ワットの兵士たちにきいた話をわたしからみなさんにお伝えしたことがありましたが、そのとき兵士たちは、こういっていましたよね。「シープロンド? やめてくれ! もう、あそこだけは、こりごりだ!」あの言葉はつまり、こういうわけからだったのです。かれらもまた、りゅうの息に流されて、土のこぶしにパンチされまくった者たちでしたから……。

 

 ところで……、精霊のりゅうやこぶしがあばれまくっているわけですが、これって「戦いのための魔法を使ってはならない」といういくさのおきてに、いはんしてるんじゃないの? と思われた方もいるかもしれませんね。精霊の力と魔法は、にたようなものですから。ですがこれは、いはんとはなりませんでした。戦いの魔法とは、あくまでも、みずからが魔法の力を生み出して、その魔法の力で相手をこうげきするというもの。シープロンたちは、魔法で精霊たちを生み出したというわけではありません。シープロンたちは、精霊たちにちょっと、あいずを送っただけなのです。そして精霊たちは、みずからの意志でかってにあらわれて、そして魔法の力ではない、みずからの持つほんらいの力によって、かってに相手をこうげきしているだけでした。ですから精霊たちが、こうげきの魔法を使っているというわけでもありません。魔法ではなく、自分ののうりょくで、相手をこうげきしているだけなのですから。

 

 ちなみに、「そとからの勢力がいくさに加わった場合、その勢力はこんご、そのくにのしょぞくとしてあつかわれる」というルールがありましたが、精霊たちはこのルールにすら、あてはまりませんでした。勢力というのは、兵としてのかたちとして、はっきりととどまることのできる者たちのことをいいました。ですがかれら精霊たちは、ぜんぜん、はっきりとした兵のかたちなどといったものに、とどまることなどできません(すぐにどこかへ、ふいっと消えてしまいますから)。ですからこの精霊たちは、こんごも、シープロンドのしょぞくとしてあつかわれることはないのです(あの巨大なウォーター・エレメンタルドラゴンでさえも!)。シープロンたちは、こういったことをすべてしょうちのうえで、精霊たちにあいずを送りました。う~ん、さすがは、したたかなシープロンたちですね。悪ぢえ(?)にかけては、ワット以上かもしれません……)。

 

 「ええい! なにをしているのだ! こらー! 逃げるな! 戦わんか、ばかもの!」

 

 兵士たちの隊のうしろで、ひとりの大きな男せいがさけんでいました。この人物はこの軍勢をしきしているしきかん、マダン・レクグワースという人物でした。ティガニアという、とてもめずらしい種族の人物で、トラの種族の者なのです(ティガニアはこのアークランドには、数えるほどしかおりません。西の大陸ガランタの、そのまたいちばん西のはしに住んでいる種族でしたから。なんでこんなところまでやってきたのかは、わかりませんが)。

 

 「むりです! りゅうが! うわあー!」

 

 ざざざー! しきかんにどなられた兵士のうちのひとりが、また水のほのおに流されていってしまいました。ほかの兵士たちもつぎつぎと、ノームパンチでぶっ飛ばされていきます。

 

 「おのれー、シープロンどもめ! こしゃくなまねを!」マダンは両のこぶしをにぎって、ぎりぎりと歯をくいしばりました(どうやら、かなり怒りっぽい人のようですね。自分のじょうしじゃなくてよかった)。

 

 「いったん、しゃていがいにひけ! こうなれば、あの切りふだを出す! 使うまでもないと思っていたが、やむを得ん! やつらを前に出すのだ!」

 

 マダンがさけびました。そしてその言葉にあわせて、隊のうしろから、まっ黒な四頭の馬たちがあらわれたのです(しゃていがいにひけというのは、精霊のりゅうと土のこぶしの手のとどかないところまで、下がれという意味なのです。この精霊たちは、じつはみずからの力のみなもとであるネックレスのじょうへきから、遠くはなれることができませんでした。じょうへきにかこまれたシープロンドのみやこの中ならば、自由にいききすることができましたが、こんかいのように、じょうへきのそとにいる敵に対しては、いちばん遠くても百ヤードほどまでしか、手を出すことができなかったのです。それに気づいていたマダンが、ここで精霊たちにじゃまされないうしろまで、下がれとめいれいしたわけでした。おそろしい悪だくみをこれからおこなう、そのために……)。

 

 その馬たちの上に乗っていたのは……。

 

 

 レシリア! ルースアン!

 

 ハミール! キエリフ!

 

 

 ああ、なんてこと! おそれていたことが、ついに! ついにかれらが、その身をワットにりようされてしまうときがやってきたのです!

 

 

 シープロンドを、おそろしいわなにはめるために……。

 

 

 ワットがかくし持っていた、切りふだ。それが、かれら四人のほりょたちでした。ワットはこのほりょたちを、いちばんりえきが生み出せるときに、いちばんひきょうな方法で使おうと考えていたのです。それが、今でした。

 

 「あの者たちの身は、シープロンドを落とすさいに、りようできましょう。」これはリュインとりででワットの黒騎士たちが、とらわれのリストールの前で、しきかんのガランドーにいった言葉でした。あの者たちというのは、もちろん、とらわれのレシリアたち、四人の仲間たちのことにほかならなかったのです。

 

 「シープロンドなぞ、かんたんに落とすことができるでしょうが、そなえに越したことはありません。万いちのことがあれば、やつらの身をれんちゅうにつきつけて、やみの力にでもそめてやりましょう。助けてほしくばこうふくせよと、シープロンドにせまることができます。いかにくせもののメリアン王とて、こんどばかりは、ようきゅうをのむでしょうな。」

 

 なんというひどいことを考えつくのでしょう! そしてこれこそが、ワットの者たちの考えた、おそろしいわなでした。

 

 レドンホールの黒ウルファたちのことをおそった、おそろしいやみの力。こんどはレシリアたち、とらわれの者たちのことをも、同じ目にあわせようというのです。自分たちのだいじな仲間たちが、目の前でそんな目にあわされようとしていたのなら……、いくらかたいかくごの心を持ったシープロンたちであっても、ワットのようきゅうに、くっしないわけにはいかないでしょう(もし、ようきゅうに応じなければ、ワットはほりょたちのことを、ほんとうにやみに落としこんでしまうでしょう。そして……、やみに落としこまれた者は、自身のその身に、たいへんなふたんを与えられることになるのです。こううんにも、レドンホールの黒ウルファたち、そしてべゼロインの戦いでたおれた者たちにおいては、まだそのやみの力にたえることができていましたが、ここで新たにやみに落としこまれた者たちが、そのやみの力にいつまでもたえられるというほしょうも、どこにもありませんでした。それこそ運が悪ければ、その場でそのいのちまでをも、ただちに落としてしまいかねないのです!(そしてこのやみの力を取りのぞくための方法は、ざんねんながら、光の魔法をあやつるわれらが白き者たちには、見つけることができていませんでした。)

 

 メリアン王をはじめ、シープロンドの者たちは、かたいかくごの心を持っています。ひとときの心のまよいのために、くにを危機にさらすようなことは、してはならないとこころえていたのです。しかし、いくらそれがくにのためであったとしても……、目の前の仲間たちのことを、みずからの手で、みすみすそんな目にあわせてしまうようなことは、メリアン王にもとてもできることではありませんでした。このおそろしいわなのことをきかされたリストールの気持ちは、どれほどのものだったのでしょうか。ですからリストールは、その前に、かれらのことをなんとしても助けたいと思ったのです)。

 

 もし、万がいちシープロンドが勝ちそうなことになったとしても、このほりょたちさえいれば、やつらも手が出せなくなる。四人のほりょたちは、いわば戦いに勝つための、ほけんでした(ところで、いぜんにもすこし説明しましたが、ここでやっぱり、このほりょというもののあつかいについて、もうすこしくわしく説明しておかなければなりません(ぜんぜん、おもしろくもないじょうほうですが)。

 

 いくさで勝ちをおさめたくには、相手のくにの兵士たちの中から、ひとつのくにであわせて千人までを、いくさでのほりょとして自分のくににつれていくことができました。そしてこれも、いぜんにお伝えしたことがありましたが、ほりょをつれていくことは、いくさに勝ったくにのけんりとしてはみとめられていることでしたが、じっさいにほりょたちをつれていくようなまねをすることは、このアークランドではひとつのくにをのぞいて、ほとんどありませんでした。

 

 そのくにとは? そう、ワットです。ワットは戦いで得たほりょたちを、自分たちのくにのろうどう力として使い、くにのはってんのためにりようしていました。

 

 ほりょたちは、いご、法の名のもとにワットのくにのざいさんとしてあつかわれ、こんごのいくさにワットがやぶれでもしないかぎり、ずっと敵の手の中ではたらかされたり、ときにはいくさの手助けをさせられたりしてしまうことになるのです。

 

 (ちなみに、ほりょを取ることには例外がひとつありました。「本軍をしきするしきかんは、ほりょにすることができない」というきまりがあったのです。本軍とは、くにのいちばん大きな部隊のこと。ベーカーランドでいえば、エリル・シャンディーンの兵士たちと白の騎兵師団のことをしきする、ベルグエルム、フェリアル、ライラの三人が、本軍のしきかんにあたりました。ですからべゼロインが落ちたとき、かれらはほりょになることはなく、ベーカーランドへともどされたのです(このルールは、たとえ本軍をひきいた戦いでなくても、本軍のしきかんであれば、てきようされました。ちなみに、リュインのしきかんであるリストールの場合は、本軍のしきかんではありませんでしたから、このルールにはあてはまりませんでした。ですからワットは、リストールの身をようしゃなく、とらえたのです)。

 しきかんでない兵士たちなら、ほりょに取ることはできます。ですがべゼロインで戦った兵士たちは、そのほとんどが、やみのつるぎの力のぎせいになりました。ですからワットは、かれらをほりょに取らなかったのです。取ろうと思えばほりょに取ることもできましたが、あえてワットは取りませんでした。あっとう的なまでにたたきのめされた兵士たちを敵のもとへ送りかえすことによって、力の差を見せつけ、きょうふさせることが、そのねらいでした。)

 

 レドンホールの場合は、黒ウルファの兵士たち八百人ほどが、すべてほりょとしてワットにつれていかれました。そこでかれらは、アーザスのおそろしいたくらみにより、やみの力をおびたやみの兵士として使われることになってしまったのです……。これは、「ちょっとやみの力こめちゃうから、あとは、おもしろおかしく使ってよ。」という、アーザスのなんともひどすぎる気まぐれによるものでした。まったくアーザスには、人の心などというものはないのです!

 

 ですがそれでも、ほりょたちのあつかいについてさだめられた取りきめのことを、ワットは「破ってはいない」といいました。その取りきめとは、「ほりょたちの身をいたずらにきずつけることは、かたくきんずる」というものでした。やみの力にそめることは、べつにほりょたちのことをきずつけているわけでもないし、けがもさせていないというのが、ワットのいいぶんです。こんないいぶんは、まったくなっとくができませんが、それでもワットは、やはりこのいいぶんを通してしまっていました。

 

 そしてワットの、そのいちばんひきょうなところ。それはこのほりょたちのことを、いくさの勝ち負けのためにりようしているというところでした。大きないくさでは取りきめとしておこなうことができませんでしたが、両軍あわせて千人以下とさだめられている小さないくさの場合では、じょうけんをしめすことによる、こうふくかんこくというものが、しばしばおこなわれます。これは、なにかをしてやるかわりに相手にこうふくをせまるというもので、ほんらいならば、おたがいのりえきになることをおたがいに考えて、いくさをするまでもなく、あらそいをかいけつするというもくてきのためのものでしたが、ひきょうなワットは、「ほりょたちの身のあつかいをよくしてほしいのなら、いうことをきけ」ということを、そのこうふくのためのじょうけんとして使ってしまっていました。

 

 たしかに、じょうけんの内ようのことはおたがいで話しあってきめることでしたから、正式な取りきめとしてはさだめられていません。ですがこんなじょうけんは、まったくもって相手の弱みにつけこむものであり、ひきょうそのものです! そしてそのひきょうそのもののやり方を、ワットはこんかいの戦いでもまた、おこなおうとしていました。

 

 もっともワットの場合は、あっとう的なまでの兵力の差を相手に見せつけるというやり方を好みましたから、じょうけんをしめしてこうふくをせまるのは、とくべつな場合にかぎられていました。「兵士たちをそろえるのがめんどう」だとか、「武力よりもせいしん的に相手を痛めつけてやった方が、こうか的」だとか、そんな場合です。

 

 こんかいの場合では、武力でかなわなかったので、やむを得ず、ということになるわけですが、それでもワットが、いぜんゆうりなじょうけんの上に立っているということに、変わりはありません。ワットはそのゆうりなじょうけんをさいだいげんにいかして、今までのやりくちよりもはるかにひきょうな方法でもって、シープロンドにこうふくをせまろうとしていました。とらわれの者たちのことを、悪しきやみにそめてしまおうというのです!

 

 こんなことは、ぜったいにやめさせなければ! でも、いったいどうすれば……? やはりこのまま、おとなしくワットにこうふくするいがい、ないのでしょうか?)。

 

 

 「ほりょたちを進ませろ!」マダンが兵士たちにめいれいしました。

 

 

 きたない! なんてきたない!

 

 

 四人の仲間たちはそれぞれ一頭ずつの馬に乗せられていました。しかも、両手をうしろ手にしばられて! かれらの両わきには同じく黒い馬に乗った、黒いほのおを上げたおそろしい剣を持った騎士たちがふたり、ぴったりついて、その剣のさきをとらわれの者たちの方にむけていました。この剣こそが、アーザスのそのおそろしいやみの力のこめられた剣だったのです(べゼロインの戦いで黒ウルファたちの持っていた剣よりも、はるかにおそろしげな感じでした。これは、やみの力がそれだけ大きいからなのです)。この剣で切られた者は、黒ウルファの仲間たちやべゼロインの戦いでたおれた仲間たちのように、やみにとらわれてしまいました。ひきょうなワットは、そのなんともおそろしい光景のことを、シープロンの者たちの目の前につきつけてやろうというのです。

 

 これを見ろ! ははは、どうだ! これで、手も足も出まい! こいつらは、アルファズレドへいかじきじきのごめいれいにより、とらえられた者たちだ。おまえたちも、よく知っていることだろう。このふとどき者たちのしょばつのことについては、へいかはわれらに、いちにんされた。どうしようと、それは、われらの自由だ。やみの力にそめてやろうともな。だが、おまえたちがおとなしくこうふくするというのなら、考えてやってやらんでもないぞ。われらにも、なさけはある。さあ、どうする!

 

 というのが、マダンのせりふ……、のはずでしたが……。

 

 

 「ほりょというのは、いったい、だれのことかの?」

 

 

 とつぜん、うしろから声がしました!

 

 「え? あ、あれ?」マダンがそういって、ほりょたちの方を見てみると……。

 

 そこには馬しかいません。

 

 だれも乗っていないのです!

 

 そんなばかな! さっきまで、そこにいたのに! わけもわからず、マダンがうしろをふりむくと……。

 

 

 「うわあああー!」「ば、ばけもの!」

 

 

 口ぐちに上がる、部下たちのさけび声! そこには身長三十フィートはあろうかというほどの、おそろしい巨大な岩の兵士たちが、立ちはだかっていました! それも、なん体も!

 

 「な、なんだあー!」マダンがどぎもをぬかれてさけびました。

 

 

 こ、この兵士たちは! みなさんには、もういうまでもありませんよね。

 

 岩のけんじゃリブレストの、岩の兵士……、いえ、ロボットたち! かれらがついに、このシープロンドまでたどりついたのです! やったー!(それにしても……、まさにぎりぎり! あやういところでした! リブレストさんは「すぐに追いついてみせるわ!」みたいなことをいっておりましたが、じっさいには道の悪いところなどもあって、けっこう時間をくってしまったのです。それでも、とんでもなく早くこのシープロンドまでたどりついたことには、まちがいありませんでしたが。なにしろ、馬で二日はかかる道のりを、六時間半でやってきましたから! はやい!)

 

 岩のロボットたちは、みな大きな岩の剣をかまえております。戦いのじゅんびは、ばんたんのようでした。そして、そのいちばん前に立ちふさがっているロボットの、その肩の上には……。

 

 

 レシリア! ルースアン!

 

 ハミール! キエリフ!

 

 

 ロープをとかれ、自由の身になった四人の仲間たちが、まさにけいせいぎゃくてん!マダンのことを、ぎろり! にらみつけていたのです!

 

 いうまでもなく、かれらは馬の背から、(リブレストのあやつる岩のロボットのゆびにちょこんとつまみ上げられて)ロボットのその肩の上まではこばれました(ついでに、かれらのわきにいた騎士たちは、ロボットのゆびにぺちん! とはじかれて、ノックアウト! 二本のやみの力の剣も、ともにぽっきりおれてしまいました。やったー!)。そしてリブレストのいった通り、もうかれらは、ほりょなんかじゃありません。今ふたたびこのしゅんかんから、ワットの悪に立ちむかう、自由のヒーロー、ヒロインとなったのです!

 

 「こーの、がきんちょども。すこーしばかり、いたずらがすぎたようだのお。」

 

 ロボットの頭から、ひょっこり。顔を出したリブレストが、にやりとふきつな笑みを浮かべながらいいました。これから、とってもこわーいことがはじまりそうな感じです。それは、そう、おしおきターイム!

 

 「悪いがきんちょには、きつーいおしおきが必要だわい。レイミール、やったれい!」

 

 「イエス・サー! キャプテン!」

 

 ロボットの中から、レイミールの高いかわいい声がして……。

 

 

 「せいぎの剣を、受けてみよ! ジャスティス・ブレードランチャー!」

 

 

 ぎゅ、ぎゅいいん! 岩のロボット兵士が、その巨大な岩の剣をふりかざしました!

 

 そして、ぶおおん! ふりおろされた剣のやいばのさきから、オレンジ色に光りかがやくたくさんのほのおの矢が飛び出して、逃げまどうワットの兵士たちのまん中に……。

 

 

 どごごご、ごごごご、ごごごご、ごごごご、ごごごご、ごごごご、ごごごお~ん!

 

 

 まさに雨あられのようにふりそそいだのです! これはきつい!

 

 

 もう勝負は、これでほとんどついていました。切りふだのほりょたちまで取りかえされて、ワットの軍勢は、もはや、ちりぢりのばらばら。兵士たちもみんな、戦意そうしつです。残るは岩のロボット兵士たちの前にいる、ごくわずかな兵士たちのみ。しきかんのマダン・レクグワースと、そのおともの十数人の兵士たちだけでした(ちなみに、まだほかの兵士さんたちは逃げまどっているだけでしたので、けがをして戦えないじょうたいになっているというわけではありません。ですからまだワットは、「戦えない者が多数となったとき、そのいくさは負けとなる」といういくさの勝ち負けのじょうけんを、みたしていませんでした。じっさいにこのいくさの場から遠くへ逃げてしまえば、その者はもう戦えない者としてあつかわれましたが、まだかろうじて、かれらはこの場にふみとどまっていましたから。でもかれらが遠くへ逃げ出すのは、もう時間の問題みたいですけどね。

 

 ところで、リブレストの岩のロボット兵士たちについてですが、このロボットは中に人がはいって動かしておりましたので、魔法で動いているというわけではないのです(いってみれば、からくり人形みたいなものです。もっとも、中に人がはいっていない場合や、ここにくるまでの自動そうじゅうのときなどでは、しっかりとリブレストさんの魔法の力が使われていましたが)。ですからこれは、こうげきの魔法を使ってはならないという、いくさのルールいはんとはなりませんでした。

 

 では、さきほど雨あられのようにぶっぱなした、ほのおの矢については? じつはそれは、リブレストさんの作った「工作物」なのであって、魔法の力が使われているというわけではなかったのです!(いってみれば、花火みたいなものです。その花火みたいな力が、剣のさきから出るように作られていました。よくできた「工作物」ですね!)

ですからみんなもえんりょなく、この工作物の力をぶっぱなしたというわけでした。う~ん、なんか、すごい!)。

 

 「ぐむむむむむ……!」

 

 マダンは歯をぎりぎりとくいしばって、くやしがりました。目の前には、巨大な岩のロボットたちがずらり。うしろには四体のエレメンタルドラゴンたちと、たくさんの土のこぶしたちが、よらばうたんと待ちかまえております(しかも土のこぶしたちは、人さしゆびをいっぽん、ちょいちょいと動かして、「カモ~ン!」といったふうにこちらのことをちょうはつしていました)。どう見ても、自分たちの負けでした。ですが、このマダン・レクグワースという男、根っからの負けずぎらい。そしてあきらめの悪さにかけては、人いちばいだったのです。

 

 「おのれ! このマダンを、見くびるなよ!」

 

 マダンはそういって、腰にさしていた二本の剣……、ではありません、おのを、しゃきん! 両手にかまえました! このティガニア種族のしきかんは、種族だけではなく、その戦い方までなんともめずらしいものだったのです。両手に、おの。二刀流ならぬ、二おの流? まあ、よび名はいいとして、とにかくその大きなからだとあいまって、すごいはくりょくでした。

 

 でも……、やっぱり相手が、悪すぎですよね。いくらティガニアがはくりょくたっぷりでも、相手はさらにはくりょくたっぷりの、岩のロボット兵士たちでしたから。背たけが五ばいほどもちがうのです。

 

 それでも、マダンの気あいはじゅうぶんでした。全身から、オーラのような力があふれかえっております! そしてマダンは、両手に持ったおのをぎゅぎゅっ! とにぎりしめると、すさまじいはやさで、リブレストの乗る岩のロボットにむかってとっしんしていきました! すごい!

 

 

 「受けてみよ! デュアルアクス・デストロイヤー!」

 

 

 

  

 「おい、おまえたち。おまえたちもいっしょに、吹っ飛ばされてみるかの?」

 

 リブレストが、その場にいる兵士たちにいいました。それからしばらくして……。

 

 

   ひゅううう……、ばっしゃ~ん!

 

 

 巨大なロボット兵士のこぶしに吹っ飛ばされたマダンが、どろの水たまりの中に落っこちた音でした……。あーあ、だから、いわんこっちゃない……。かわいそうなマダン・レクグワースは、「う~ん……」口からあわを吹いて、そのままどろの中で、おねんねです。

 

 

 「ひえええ~!」「た、助けてくれ~!」「こんなところにいられるか~!」

 

 

 これで、ほんとうにきまり。しきかんのマダンまで失ったワットの軍は、そうくずれ。剣もやりもみんな放り出して、いのちからがら、どろだらけのぬかるみ道を走ったりころんだり、逃げ帰っていきました(ちなみに、マダンは六人の兵士たちにかつぎ上げられて、はこばれていきました)。

 

 やったね、やった! シープロンドの大しょうりです! じょうへきの上から戦いのようすを見守っていたシープロンの衛士たちは、やりをかかげて大よろこび! 口ぐちに精霊の力をたたえ、メリアン王をたたえ、そしてこのすばらしきくに、シープロンドのことをたたえました(あの巨大な岩の兵士たちは、いったいなに? とも思っていましたが)。

 

 「メリアン王、ばんざーい!」

 

 「シープロンドに、えいこう!」

 

 「やーいやーい! おとといきやがれ! ざまーみろー!」

 

 さいごだけちょっと、品がありませんでしたが……。

 

 

 

 

 「兄さん!」

 

 リブレストの乗る隊長きのロボットの中から、小さな見ならい兵士、レイミールが飛び出しました(さきほどはみごとなロボットさばきで、ワットの兵士たちのことをやっつけましたよね。もう、いちにんまえといっていいほどの、すばらしいはたらきぶりでした)。そのあまりにもとつぜんのできごとに、ハミールはもう、びっくり! さっきからびっくりすることばかりで、もうなれっこになってしまいそうでしたが、これにはほんとうにびっくりでした。リュインのとりでで、その身のゆくえすらわからなくなってしまっていた、おとうとのレイミール。その小さなレイミールが、とつぜんにあらわれた岩のロボット兵士軍団の中から、またもとつぜんにあらわれましたから!

 

 「レイミール! おお……!」

 

 ハミールの胸の中は、もうありとあらゆる感じょうでいっぱいでした。新たに生まれた、たくさんのおどろき。いぜんからあった、不安やおそれ。ずっとずっと胸の中をうめつくしていた、レイミールへの思い……。それらがすべてごちゃまぜになって、この若きウルファの騎士の心の中を、うめつくしてしまったのです。

 

 ですが今、それらの思いの中から残すべきものは、ただひとつ。ハミールはすぐに、自分の心の中のよけいな部分をみんなくしゃくしゃにまとめて、ぽい! ごみばこにたたきこむと、いちばんだいじな思いだけをひとつ、ここにさらけ出しました。それは、そう、レイミールへの深い思いでした。

 

 「レイミール! 心配したぞ! ぶじだったか! よかった! ほんとうによかった! どれほどおまえのことを、心配したか!」

 

 

 ハミールは岩のロボット兵士のその広く大きい肩の上で、ついに、おとうとのレイミールとさいかいを果たしたのです。

 

 

 「ほんとうに……、ほんとうに……、うわああ!」

 

 ハミールはレイミールの名まえをなんどもよんで、なみだを流して、その小さなからだのことをうでの中にだきしめました。もうにどと、会えないのではないか……? そんな考えさえ、かれの心の中からまったく消えていたというわけではありませんでした。さいあくのことすら、その頭の中にはよぎってさえいました。

 

 レイミールのことをだきしめる、ハミール・ナシュガー。かれはこのとき、騎士でも、兵士でも、勇者でもありませんでした。ただただ、家族のことを思う、ひとりの人であったのです。

 

 「よがっだなあ……。ほんどうに、よがっだなあ……」キエリフが、そんな友のすがたを見て、となりのルースアンとだきあいながらよろこびをあらわにしていました。

 

 

 

 「レシリア、ルースアン、よくぞもどった。くろうをかけてしまったな。ハミールどのも、キエリフどのも、ぶじでなによりだ。」

 

 すべてをさっしたメリアン王が、仲間たちの手を取って、心よりの言葉をおくりました。

 

 「たいへんなにんむの旅に送り出してしまったことを、申しわけなく思う。どうか、ゆるしてほしい。」

 

 かれらを危険なおとりとしての道に送り出したのは、ほかでもない、メリアン王でした。ですからメリアン王は、大きなせきにんを感じるのと同時に、かれらの身のことを、たいへんに心配していたのです(かれらをおとりの旅に送り出すことは、メリアン王にとっても、もちろんとてもつらいせんたくでした)。

 

 ふたたびもどってきた、かれら。たいへんな目にあい、こんなんな旅になってしまったということは、だれにとってもあきらかでした。ほんらいならば、かれらはおとりとしてのつとめを果たしたあと、自分たちもベーカーランドで、ふたたびロビーたちと落ちあうよていだったのです。それがこうして、このシープロンドまで、とらわれの者としてのかたちでもどってきましたから。

 

 そのりゆうは、メリアン王にはおおむねわかっていました。そして今、そのりゆうのもととなった人物がひとり、かれらといっしょに目の前にやってきていたのです。

 

 「リステロント、いや、今は、リストールという名であったな。」メリアン王がいいました。そう、レシリアたち、自由の身となったわれらが仲間たちは、かれらが助け出すはずだったリュインのしきかん、リストール・グラントとともにやってきていたのです。

 

 「リュインのことは、痛ましいことであった。ざんねんでならない。」メリアン王が、しずんだ顔をしていいました。「だが、そなたも、リュインの者たちも、こうしてぶじに、わたしの前にいる。それだけは、まことによろこばしいかぎりだ。よくぞ、ぶじにまいられた。そして心より、そなたたちにかんしゃの気持ちをおくりたい。」

 

 そしてメリアン王はそこまでいうと、急にかれらのうしろにしせんをやって、その場で深く頭を下げたのです。そこには……。

 

 ご、ごごいーん! ぎゅ、ぎゅいいーん! 

 

 たくさんの、岩のロボット兵士たち! そしてそのロボット兵士たちの前には、そう、アークランドの名高い三けんじゃたちのうちのひとり、岩のリブレストが立っていました。

 

 「けんじゃリブレストどの。お会いできてこうえいにございます。」メリアン王がうやうやしく、リブレストにいいました。相手はとてつもない力を持ったけんじゃのひとり。このアークランドでも、もっともそんけいすべき相手なのです。ですが……。

 

 「よいよい! かたくるしいあいさつは、ぬきだわい。」リブレストは手をぱぱっとふって、メリアン王に頭を上げさせました。

 

 「おまえさんは、メリアンだな? 王になったんだったのう。あの、ひよっこ王子さまも、りっぱになったもんだわ。」

 

 リブレストはそういって「がっはっは!」とごうかいに笑い、メリアン王のもとへとつかつかやってきて、王さまの頭をがしがしとなでまわします(まるっきり子どもあつかいです。なん百さいだか? わからないほどのリブレストから見たら、みんな子どもみたいなものでしたから)。どうやら三十年前の冒険の旅のことを、リブレストもよく知っていたみたいですね。

 

 「この戦いは、さいごのきょくめんをむかえておるぞ。」

 

 笑っていたリブレストが、とつぜんまじめくさった顔になっていいました。その表じょうは、かたくこわばり、こわいくらいでした。

 

 「ここにいる、リストール・グラント。この者が、この戦いにおいての、大きなかぎをにぎっておる。おまえさんには、いうまでもないだろうがな。」リブレストが、うしろにひかえるリストールのことをしめしながら、メリアン王にそういいます。

 

 ノランも同じことをいっていました。「さいごの戦いでは、かれのそんざいが、大きな意味を持つこととなろう。」いったいリストールには、どんなひみつがあるというのでしょうか?(そしていぜんにもお伝えしました通り、そのひみつを、メリアン王も知っているようなのです。さあ、早く教えてください、王さま!)

 

 「ことは、いっこくをあらそうでしょう。」メリアン王がいいました。「リストール。今こそ、人も、精霊も、植物も、そのかきねを越えて、力をあわせなければならないときだ。これは、そなたの運命ともいえるであろうな。もういちど、このアークランドに、花の騎士たちの力をよみがえらせなければならない。それができるのは、もはや、そなたしかおらぬ。」

 

 メリアン王の言葉に、リストールはだまってうなずきます。花の騎士たちとは、いったい?

 

 「わたしはすぐに、タドゥーリ連山へとむかいます。」リストールがいいました。「もとより、わたしは、この地をおとずれるつもりでした。このアークランドは、めつぼうのときをむかえております。わたしのつとめは、まさに今。かれらのゆるしをこい、その力をあおぐときです。」

 

 リストールはそういって、その場にいる者たちにいちれいをすると、そのままひとり、歩き出していきました。

 

 

 かれの運命の場所、タドゥーリ連山へとむかって……。

 

 

 「待って! だれも、いっしょにいかなくていいの?」レイミールが、去っていくリストールのすがたを見ながらいいました。ですがメリアン王もリブレストも、仲間たちも、動こうとはしません。ハミールはレイミールのうでを取り、静かにいいました。

 

 「だれも、かれの助けとなることはできない。われわれではな。ここは、かれの力にかけるしかないのだ。」

 

 ハミールはとらわれの身となっていたあいだに、レシリアからすべてのことをきかされていたのです。リストールのかこ、そして、その運命のことを……。

 

 リストール。リステロント・グランテルド。かれは失われし大いなる精霊の種族、シルフィアの青年です(ここまでは、みなさんもよく知っています)。大むかし、このアークランドにもふつうに暮らしていたはずの、シルフィア。かれらがいなくなったりゆうは、いぜんにもお話ししたことがありました。人がふえ、アークランドの力のバランスがくずれたことが、そのいちばんのりゆうでした。

 

 シルフィアをはじめ、たくさんの種族の者たちが消えていった、アークランド……。そして今からおよそ百年のむかし、このアークランドにおいて、もっとも大きな力を持った種族の者たちが、失われていったのです。かれらの名は、ネクタリア。大いなる植物の種族の者たちでした。

 

 ネクタリアはこのアークランドの大地そのものといっていいほどの、大きなそんざいでした。人のすがたをしておりましたが、その力は植物の力です。きれいな水と美しい光によって力を生み出し、そのちえとわざは、このアークランドの大いなるいしずえとなっていました(大むかし、さいしょのカピバルたちに数々のわざを伝えたのも、もともとはネクタリアたちだといわれています)。かれらがいなかったのなら、このアークランドもこれほどゆたかではいられなかったことでしょう。ネクタリアたちの力は精霊たちの力と同じくらいに、このアークランドにおいてとても重要なものだったのです。

 

 そのネクタリアの力のけっしょうともいうべきそんざい、それが「花の騎士団」でした。花の騎士団はこの世界のすべての種族の者たちとともに、ささえあい、ともに協力しあって、このアークランドをはんえいへとみちびいていったのです。

 

 ですがその花の騎士団も、どんどんと力をましていく人間たちのことを、しだいにおさえることができなくなっていきました(ほかの多くの種族の者たちではなく、ここでは人間だけのことをさしています)。多くの森が切りひらかれ、はたけが広がりました。たくさんの動物たちがかいならされ、ぼくじょうが作られました。これらはすべて、人間であるかれらが生きていくために、必要なものです。ですがネクタリアたちにとっては、とてもがまんのならないことでした。かれらネクタリアたちは、しぜんそのものでしたから。しぜんを切りひらき、しぜんに反する生き方しかえらべない人間たちのことを、ぎもんに思うようになったのです(もちろん、人間いがいのほかの種族の者たちでも、生きるためにはすくなからず同じようなことはしています。ですが人間は、ほかの種族の者たちとくらべても、しぜんをはかいすることのとても多い種族でした。ですからネクタリアたちは、人間たちのことを注意して見るようになったのです)。

 

 そしてついに。

 

 ネクタリアたちは花の騎士団とともに、そのすがたをこのアークランドからかんぜんに消していってしまいました。

 

 かれらがどこへいったのか? 知る者はいません。

 

 

 ただひとりをのぞいては……。

 

 

 そう、それがリストールだったのです。じつはリストールはそのむかし、ネクタリアたちの花の騎士団に、騎士として加わっていました!(これはたいへんにめいよなことでした。)

 

 花の騎士団がこのアークランドを去るときめたとき、リストールにはかれらとともにゆく道もえらべました。ですがリストールは、残ったのです。ほんとうにこのアークランドに、みらいがないのかどうか? 人間たちにのぞみがないのかどうか? それらを自分の目でたしかめるためでした(それに、今までずっと暮らしてきたくにですもの、リストールにはどうしても、このアークランドを見すてるようなことなどはできませんでした。かれの家族やいもうとのリズだって、ずっと、ひっそりとですが、このアークランドで暮らしてきましたから)。

 

 こうしてリストールは、花の騎士団と、そしてネクタリアたちと、たもとを分けました。そしてリストールは、その身を新しい仲間たちのもとにおくことにきめたのです。それが人間たちのみやこ、ベーカーランドの白き者たちのもとでした(そしてそのとき、ずっと剣に親しんでいたいもうとのリズが、リストールといっしょについてくることになりました。「せっかくだから、この剣のうでまえを、どっかでやくに立てられないかなあ。」というのが、リズののぞみでした)。それからリストールは、兵士たちのしきかんとして、(リズはその剣のうでまえを買われて、剣じゅつしなんやくとして)ベーカーランドでの日々を送ることになったのです。そして今、(リズとリストールの)その運命は動きはじめました。

 

 

 かつて自分も加わっていた、花の騎士団。このアークランドのことを見かぎり、去っていった、その花の騎士団に、もういちどアークランドの力となってくれるように、お願いしにいくこと。それこそがリストールにかせられた、リストールにしかできない、大いなるやくわりだったのです(ノランやリブレストのいっていた「リストールの持つ大きな意味」というのは、このことをさしていました。

 

 そしてリストールがなぜ、今このタイミングでネクタリアたちのところへむかったのか? いぜんにもふれましたそのりゆうのことについて、ここでお伝えしておきましょう。それはリストールが、だれよりもネクタリアたちのことについて、よく知っていたからでした。リストールは、ネクタリアたちへのお願いは、さいごのさいご、このアークランドがめつぼうの危機にある、まさにこのときにおいてしかできないということを、知っていたのです。ネクタリアたちは、かつてこのアークランドのことを見かぎり、去っていきました。そのかれらに、「このアークランドがいつか危機になった場合は、助けてほしい」なんていう、虫のよすぎるお願いを、あらかじめしておくなんてことができるはずもないと、リストールはよく知っていたのです。

 

 ネクタリアたちは、とてもプライドが高く、高貴な者たちでした。そんなかれらに、あらかじめそんなお願いなどをしたとしても、かれらを怒らせることになるだけであると、リストールは知っていたのです。「われらの助けがほしいというのなら、なぜそのときにこないのだ? これでは、われらの力を、戦いのほけんとしてりようしているようなものではないか。」

 

 ですからリストールは、今このさいごのときにおいて、(リュインのしきかんとして、リュインでのいくさのじゅんびをすっかりととのえ終えたうえで)ネクタリアたちのもとへとむかおうとしていたのです。かれらに通じるものは、ただひとつ。一点のくもりもない、まっすぐな心。心からの敬意。ただそれであるということを、かれは知っていましたから)。

 

 「リステロントは、このアークランドのみらいにかけたのだ。」メリアン王が、去っていくリストールの方を見つめながら、いいました。「花の騎士団に、その思いがとどくことを、願おう。」

 

 花の騎士団が去っていった土地。それこそが、シープロンドの聖地とたたえられている、タドゥーリ連山でした(ですからリストールは、「タドゥーリ連山にいく」といいました)。そのためもあって、リストールはたびたび、このシープロンドの地をおとずれていたのです。そしてそれが、メリアン王たちがリストールのことやその大いなるやくわりのことについて、よく知っていたりゆうでした。リストールはメリアン王をはじめとするシープロンの者たちに、みずからのそのやくわりのことについて、話していたのです。リストールとシープロンたちは、ともに、とても深い友じょうをむすんでおりましたから(もちろんベーカーランドの仲間たちとも深い友じょうをむすんでおりましたが、このせんさいな問題を伝える相手としては、やはり、精霊のことにもネクタリアたちのことにもくわしい、シープロンの者たちがふさわしかったのです)。

 

 「かれならきっと、うまくやれる……」

 

 遠い山道に消えてゆくリストールのすがたをさいごに見送りながら、レシリアが静かにつぶやきました。それは、このアークランドのすべての人たちにむけての、メッセージのようでもありました。

 

 

 

 「さあて! ぐずぐずなんぞ、しておられんぞ! 取ってかえして、ワットたたきをはじめにゃならん!」

 

 リブレストが隊長きのロボットに乗りこみながら、仲間たちにさけびました。たくさんの大きなつとめを、果たし終えたかれら(とらわれの者たちのことをすくい出し、シープロンドのことを守り、そしてリストールのこともぶじに送り出したのです)。ですがかれらのしごとは、まだまだ終わってなどはいませんでした。かれらのつぎなる戦いは、これからすぐにはじまるのです(ちなみに、かれらはシープロンドのえん軍としてかけつけたわけですので、かれらはこんご、シープロンドのしょぞくの勢力というあつかいになるのです。

 

 ですけど、このシープロンドでこんご、いくさがおこなわれることなんて、ありそうにないでしょうけどね。ゆいいつ、このシープロンドをおそうりゆうのあったワットでさえ、シープロンドのおそろしさは、いやというほど知ったでしょうから……。

 

 それと、とくに説明していませんでしたが、かれらは岩のロボットたちのそうじゅうに必要な三十四名をのぞいては、すべていっぱんの兵士として、剣を持って戦いの場に加わっていたのです(かれらの持つ剣は出発の前にリブレストが岩をけずって、みんなあっというまに作り上げてくれました。さすが、岩のけんじゃです)。ですけど……、ほかの勢力(精霊たちと岩のロボットたち)が強力すぎて、かれらのかつやくの場面がほとんどありませんでしたね……。ですけどそれは、けっかろんでしょう。かれらはもちろん、シープロンドにこんなに強力なえん軍(精霊たち)がいるとは、思いもよりませんでしたから。シープロンドのこの精霊のバリアーのことについては、ほんとうにシープロンドの者たちいがいには、(ベーカーランドの者たちでさえ)だれも知らない、ごくひ中のごくひのことだったのです)。

 

 ベーカーランドとワットの、さいごの戦い。その戦いにおいて、今のかれらにできる、いや、かれらにしかできない、とくべつなしごとがありました。それは……。

 

 「ワットのれんちゅうがもどらんうちに、リュインとりでをうばいかえす! そのまま、べゼロインまでとつげきじゃい!」

 

 「おおおー!」

 

 そうです、かれらにしかできない、とくべつなしごと。それはまさに、ベーカーランドのふたつのとりでを取りもどすという、その大いなるつとめでした!(とき、ここにきて。かれらはおそろしいじじつを知ることになりました。それはリストールがタドゥーリ連山へと出発する前、ベーカーランドからシープロンドへととどいた、一羽のでんれいのたかがもたらしたものでした。そのじじつとは……、べゼロインとりでが敵の手に渡ったということ。このおそろしいじじつをきいて、仲間たちの心のどうようは、やはりかくせませんでした。おそれていたことがついに、げんじつのものとなってしまったのです。べゼロインが落ちた。それは黒の軍勢の者たちがエリル・シャンディーンのすぐそばにまで、しゅうけつすることができるようになったということを意味していました。もはやエリル・シャンディーンへとつづくさいごの守りが、失われたのです。

 

 しかしわれらが仲間たちが立ちどまることは、けっしてありませんでした。リブレストの言葉に、仲間たちの心はなおいっそうのこと、そしていっきに、もえ上がったのです!)

 

 まずは、リュイン。ワットの黒の軍勢はみな、べゼロインへとしんげきしていきました。リュインのとりでは、今「手うす」なはずです。まさかこんなところに、思わぬふく兵がいようとは、思ってもいないことでしょう。まさに今、今がリュインとりでをふたたびせいぎの手に取りもどす、大きなチャンスだったのです(ここでひとつ、さいごのいくさのことについて、そしてこのリブレストたちの行動のことについて、お伝えしておきましょう。軍を持つすべてのくにには、「本軍」と、それいがいの隊というものがさだめられていて、この本軍は、そのくににおいてのもっとも重要でいちばん強力な軍勢のことをいうのです(さきほど、ほりょたちのことについての説明のところでも、この本軍についてふれました)。

 

 この本軍をもちいたいくさにおいてやぶれれば、そこが自分のくにでなくても、みずからのくにがやぶれたのと同じあつかいになるのです。ですから本軍は、ここいちばんという、さいごの戦いのときにおいてのみ使用されるものでした(シープロンドの場合はもともと軍を持っておりませんでしたので、衛士たち二百名が、そのまま本軍というあつかいにされました)。そしてワットは、ベーカーランドとのこのさいごの大いくさにおいて、もちろん本軍をひきいてきたのです。それはぜったいに負けるわけにはいかないという、ワットの強い意志でもありました。

 

 ですがもし本軍がやぶれたとしても、そのくに自体がやぶれたことにはならない、例外がひとつあったのです。それが、とりでのそんざいでした。相手国からうばい取ったとりでをひとつでも持っているのであれば、もし本軍がやぶれたとしても、持っているとりでをすべて相手国にかえすことによって、くに自体がやぶれたというあつかいではなくすことができるのです(その場合、とりでを相手にかえすことによって、本国にひき下がるだけですむのです)。

 

 ですからワットがベーカーランドとのさいごの大いくさにやぶれたとき、リュインとべゼロインとりでのどちらかいっぽうでもワットの手にあったのなら、ワットはすべての力を失うまでにはいかずに、本国にひき下がるだけですみました。それを防ぐためにも、リブレストたち白き勢力の者たちは、それらふたつのとりでを取りもどすべく、けついにもえていたのです)。

 

 

 「リブレストどの。ちょっと、お待ちを。」

 

 いざ出発、というときになって、とつぜんリブレストの下の方から声がしました。見ると、それはメリアン王でした。どうやらおともたちの目をぬすんで、ひとりでこっそり、近づいてきたようなのです。いったい、なんでしょう?

 

 メリアン王がつづけます。

 

 「ノランどのに、いろいろ話をきかれてきたとか。それで、その、ライちゃ……、いえ、わたしのむすこ、ライアン王子のことは、なにかきいていないでしょうか?」

 

 やっぱり、そういうことでしたか……。アルマーク王にでんれいの手紙を送った、メリアン王。ライアンのことをよろしく。けっして、危険なところへとむかわせないこと。そういいましたが、それからかえってきたでんれいの手紙には、そのことについてのへんじが書いてありませんでした(アルマーク王からのへんじの手紙には、「ライアン王子をふくむきゅうせいしゅどのたちが、ぶじにこのエリル・シャンディーンへとたどりついた」ということと、「レシリアたち、南の地にむかった者たちについては、いまだたどりついていない」ということの、ふたつのことしか書いてありませんでした)。ブローチが光っていないので、ぶじであるということはわかっていましたが、今ライアンがどこにいるのか? それすらもメリアン王には、よくわからなかったのです。ちゃんと、エリル・シャンディーンにとどまっているのでしょうか?(でもメリアン王には、うすうす、そうじゃないとわかっていました。アルマーク王がライアンのことをちゃんとひきとめておけるなどとは、はじめから思っていませんでしたから。いちおう、手紙のさいごに、おどしの言葉はそえておきましたけど。)

 

 「おお、わしも、くわしくはきいておらんのだがの。」リブレストが、もじゃもじゃのおひげを手でととのえながら、いいました。「きゅうせいしゅっちゅう、ウルファのもんがいるんだそうな。そいつが、おとものもんといっしょに、イーフリープへむかうのだということだ。今は、そのまっさいちゅうだろう。おまえさんのむすこが、エリル・シャンディーンでそのきゅうせいしゅっちゅうやつといっしょだったとは、きいておるが、イーフリープまで、だれがおともについていったのか? そこまではわしもきいとらん。ノランもすぐに、べつのしごとに走ってしまったからの。」

 

 それをきいて、メリアン王は「イーフリープ! ああ……、そうですか……」とだけいって、がっくりと肩の力を落としてしまいました。そしてとぼとぼと、もときた道をひきかえしていったのです。リブレストは首をひねっていましたが、気を取りなおして、ふたたびロボット兵士の中に乗りこんでいきました。

 

 

 「ふーむ、ノランか。」そうじゅう席に乗りこんだリブレストが、もくてき地までへのしんろをせっていしながらつぶやきました。

 

 「ノランも、ハウゼンくんも、うまくやってくれるといいんだが。」(またハウゼンくんという名まえです。前にもいっていましたよね。この人は、だれでしたっけ?)

 

 「なんです?」リブレストの言葉に、となりの席にすわっていたレイミールが、レバーをひきながらたずねます(隊長きのふくそうじゅうしは、またレイミールがつとめました。もう、かなりのうでまえですものね)。

 

 「なあに、よそは、よそ。うちは、うちだわ。しっかりつとめを果たさんとな。レイミール、陸走しゃりん船モードに、切りかえ用意! 出発するぞ!」

 

 「イエス・サー!」

 

 こうして、十七体の岩のロボット兵士たちは、ふたたびもときた道をリュインとりでへとむかって、大ばく走! 陸を走る十七そうの船となって、かけぬけていきました。

 

 「ちょっと! せますぎないかー? これ!」いちばんさいごの船のかくのうこにぎゅうぎゅうにつめこまれたハミールとキエリフが、おしあいへしあい、いいました。

 

 「がまんしてください。背中にしばられていくより、ましです。」まわりの兵士たちがそういって、新たに加わったふたりの仲間たちのことを、なんとかなだめました(ただでさえ、人でいっぱいでしたのに。兵士さんたちもたいへんですね……)。

 

 

 「どうかしたのですか? 王さま。」

 

 岩のロボット兵士たちのことを見送りながら、ルースアンがいいました(ルースアンとレシリアは、花の騎士団のふっかつにかけて、このシープロンドに残りました。うまくネクタリアたちが力を貸してくれたのならば、いっしょに戦いの地へとおもむくつもりだったのです。いっぽうハミールとキエリフ、レイミールは、やはりいてもたってもいられず、リブレストといっしょにすぐに飛び出していったというわけでした)。

 

 「いや……、なんでもない……。ちょっと、頭痛がしてな……」メリアン王がそういって、頭をかかえながらひっこんでいきます。メリアン王の頭痛のりゆう、それは読者のみなさんにならおわかりでしょう。

 

 「ぜったいこれ、イーフリープまで、ライちゃんもついてったな……」

 

 アルマーク王からのへんじがないということは、つまりそういうことでした……。

 

 

 

 波の音がきこえていました。おだやかなようき、気持ちのいいそよ風。

 

 ロビーは静かに目をひらきました。それからしばらく、ぱちぱちぱち、まばたきをくりかえして、まわりの明るさに目をならします。

 

 「えっ?」

 

 ロビーは、がばっ! と身を起こしました。いったいここは?

 

 たしか、ゆうえんちのおばけやしきで、たいへんな目にあって、その床にたおれこんで、気を失ってしまったはず……。そこまではおぼえていました。ですが今、ロビーがいるところは、あきらかにその場所とはちがうところだったのです(つまりうす暗いおばけやしきの中ではなかったということです)。

 

 あたりはここちよいそよ風の渡る、しばふでした。波の音が、ゆるやかなリズムで、こだまとなってきこえてきます(どこからきこえてくるのでしょう?)。すぐにロビーは、自分のとなりにライアンが寝ているということに気がつきました。よかった、とりあえず、ライアンはぶじのようです(ふつうにぐーぐー寝ていましたから。よだれまでたらして……。ケーキの夢でも見てるんでしょう)。

 

 

 「ロビーさん、気がつきましたか。」

 

 

 声がした方をふっと見ると、それはマリエルでした。しばふのむこうから、こちらへとやってきたのです。

 

 「マリエルくん、ここは……?」ロビーがまだ半分からだを寝かしたまま、マリエルにたずねました(なんだか足に、力がはいりませんでした。これはたぶん、ピーマンとたまねぎのせいでしょう)。まわりを見渡してみても、しばふがすこしむこうのさきで消えているだけで、なんにもなかったのです。

 

 「わかりません。ぼくもさっき、気がついたばかりです。ざっとしらべましたが、どうやらここは、海のまん中の、だんがいぜっぺきの島みたいです。まわりにも、なんにも見えません。」

 

 「だんがいぜっぺき?」

 

 マリエルの言葉に、ロビーはおどろいてようやく立ち上がることができると、そのままよろける足で、しばふのふちまでいってみました。

 

 「気をつけてください。あぶないですよ。」

 

 その言葉にしたがって、しんちょうに下をのぞきこんでみます。すると……。

 

 ひええ……!

 

 まさにそこは、だんがいぜっぺき! 下までかるく、三百フィートはありそうでした! そしてそのはるか下で、岩かべにうちつけられた波が、ざざあー! しぶきの音を立てていたのです(波の音がしていたのは、こういうわけからなんですね)。その高さに、ロビーは思わずうしろに飛びのいて、しばふにぺたん! としりもちをついてしまいました。

 

 「どーする、これ?」

 

 はんたいがわから、リズがやってきました。リズもマリエルのつぎ、同じくらいのときに起きて、今はんたいがわのがけをしらべてきたところだったのです(ちなみに、リズの服はからからにかわいていました。たしかきょうふの部屋から、びしょびしょになって出てきたはずでしたけど。いいおてんきだから、かわいたのでしょうか?)。

 

 「ほんとうになんにもない、しばふだけの島だぞ、ここ。どうやったら出られるんだ?」

 

 マリエルやリズのいう通り、ここははしからはしまでが三十ヤードほどしかない、ほんとうに小さななんにもない島でした。そのうえ、まわりをだんがいぜっぺきにかこまれていましたので、出るにも出られません。すでにマリエルがためしてみましたが、やっぱり魔法も、使えないということでした。や、やばいんじゃない? これって。

 

 「ろんり的に考えてみても、」マリエルがあごをなでながら、いつものちょうしでいいました。「ここはまだ、イーフリープの中と見て、まちがいないでしょう。ライスタの精霊の力も、あてにはできません。そうなると、いったい、なにからはじめればいいのか……」

 

 「とりあえず、こいつ起こそうぜ。」リズがそういって、ライアンの肩をゆさゆさとゆさぶりました。「こら、ライアン。起きろって。」

 

 それでもライアンは、なかなか起きません。「しょうがないやつだ。」マリエルがまた、おみみふーふーのじゅつ(魔力なしバージョン)でも使ってやろうかと、考えはじめたとき……。

 

 

 「みぎゃー! ななふしー! いやー!」

 

 

 とつぜん、ライアンがさけび声を上げて飛び起きました! な、なにごと?

 

 「ど、どした?」リズはびっくりして、うしろにぺたん! としりもちをついてしまいました。マリエルもロビーも同じくびっくりして、どきどき! なりひびく胸をおさえます。

 

 「あ、あれ……? なにもいない……。あ、ロビー。マリーも。リズ、なにやってるの?そこで。」ライアンがあたりのようすをきょろきょろとながめ渡しながら、きょとーんとした顔をしていいました。

 

 「なにやってるの? じゃないよ! いきなり、びっくりするじゃんか。なんだよ、ななふしー! って!」リズがしりもちをついたまま、こぶしをふり上げてぷんぷんいいます。

 

 その言葉をきくと、ライアンはからだをぞわわーっ! とふるわせて、顔を青くしてしまいました。どうやらまた、なにかを思い出したようすです。

 

 「い、いないよね! ななふし、いないよね! だめだよ! だめだよ!」ライアンがそういって、からだ中をぱたぱたと手のひらでたたいて、そこになにかついていないか? たしかめはじめました。どうやら、ななふしというそれが、からだにくっついていないかどうか? しらべているみたいです。

 

 「ななふしって、あのななふし? 木のえだみたいな、へんな虫だろ?」リズがいいました。

 

 みなさんは、ななふしというこんちゅうを知っていますでしょうか? 手足のかんせつがいっぱいあるように見える、おかしなかたちをした虫のことです。リズのいうように木のえだみたいなすがたをしていて、えだにばけているものや、葉っぱみたいなすがたをしているものもいます。ななふしはみなさんの世界と同じく、このアークランドにも、同じようなすがたの虫として暮らしていました。

 

 そしてこのななふし。ふつうの人なら、「べつに、ただの虫だろ」って思うだけかもしれませんが、ライアンにとってはまったくそうではありませんでした。なにしろライアンは、大の虫ぎらい!(ここまでの旅の中でも、ちょいちょいそんなことをいっていましたよね。)しかもこのななふしという虫は、ライアンの中でもいちばんの、だめだめな虫だったのです。

 

 「そんなのいないよ。だいじょうぶだから、安心して。どうしたの? ライアン。」ロビーが、あわてふためくライアンのことを心配していいました。ちょっといつもと、ようすがちがいましたから。

 

 ライアンはなにもいないということがわかると、「ふううー。」と深いため息をついて、それからようやく話しをすることができました。

 

 「よ、よかったー……。ちょっと、やな夢見ちゃったもんだからさ……。ただの夢だよ。だいじょうぶ……」

 

 

 さて、このあたりでお待ちかね。このライアンのおかしな行動のこともふくめて、読者のみなさんにおひろめしておかなければならないことがあります。それは……、あのきょうふの部屋の中で、なにが起こったのか? ということ! ロビーはいちばんのきょうふ、ピーマンとたまねぎにさんざんな目にあわされてしまいましたが、やっぱりライアン、マリエル、リズの三人も、ロビーと同じく、自分のいちばんだめなきょうふのものにおそわれてしまっていました。それがいったいなんなのか? 知りたいですよね?(べつにいい?)

 

 ライアンのいちばんのきょうふ。それはもうおわかりの通り、このななふしという虫でした。きょうふの部屋にふみこんで、しばらくしたころ。ライアンは自分の肩になにかがついているということに、気がついたのです。「ん?」ライアンが、肩に目をやってみると……。

 

 「みぎゃー!」

 

 大きな、ななふしが一ぴき、肩にくっついていました! 自分の目と鼻のさきに、ななふし! もうライアンは、大パニック! そしてぎゃーぎゃー走りまわっているうちに……、足にも一ぴき! うでにも一ぴき! つぎからつぎへと、ななふしたちがあらわれたのです! もう頭の中は、まっ白! 言葉も出せません。口からあわを吹いてたおれるすんぜんに、ライアンはスタンプ台までたどりついて、まっ白な頭のままで、スタンプをポン! すると、あたりや自分のからだの上にいたななふしたちは、みんな消えていってしまいました。ライアンはさいごの力をふりしぼって、そのままよろける足で、ふらふらと部屋の出口までたどりついたというわけだったのです……(シンプルなだけに、いちばんきついパターンでした)。

 

 こんどはマリエルの番。マリエルは自信たっぷりで、きょうふの部屋の中へとはいっていきました。そしてすぐにスタンプ台を見つけて、「張りあいもないですね。ふん。」鼻をならして、そこに近づこうとしたとき……。

 

 「スタンプがほしいの? ぼうや。」

 

 とつぜん、なにやら、なまめかしい声が! マリエルがふりかえると、そこには……、おほん、なんというか、色っぽいというか、お子さまむけではないというか……、そんな、おはだがむき出しの、うすーい服を着たおねえさんがひとり、立っていたのです。そのおねえさんが、マリエルの方にゆっくりと歩いてきて……。

 

 「かわいいぼうやね。おねえさんが、あそんで、あ・げ・る。」

 

 「ぴぎゃー!」 

 

 マリエルの頭が、ぼん! けむりを上げて、かんぜんにショートしてしまいました!そしていつのまにか、右からも左からも、同じようなすがたをしたおねえさんたちがやってきて、マリエルのことをすっかり取りかこんでしまったのです。

 

 マリエルのいちばんにがてなもの。それはこんな感じのおねえさんでした(なんというか、そんな感じのおねえさんでした)。じつはマリエルは、若いじょせいが大のにがてだったのです。ふれることはおろか、近づくことさえほとんどできません。リズの場合はもともと男だと思ってせっしておりましたので、それがじつは女だとわかってからも、あんがいだいじょうぶでしたが、こんなふうに、もとから「色っぽさ、ばくはつ」といった感じのおねえさんは、かんぜんにアウトでした。べんきょうやりくつで通した頭の中が、かんぜんにショートしてしまうのです。

 

 そんなマリエルのことをよそに、もうおねえさんたちは、やりたいほうだい! 「うふふふふ。」マリエルのことを、なでたり、もんだり、つまんだり……(ひねったり、ひっぱったり、こすったり……)、くちゃくちゃにしてしまいました(マリエルの服がぐしゃぐしゃだったのは、このためです。だれですか? うらやましいなんていっている人は)。

 

 そして、どのくらいの時間がたったのでしょうか?(じっさいには、ほんのちょっとの時間でしたが。)マリエルはかんぜんにぼろぼろになって、きょうふの部屋の床にたおれていました。おねえさんたちは「ふふふ、またあそびましょうね、ぼうや。」といって、消えてしまっていましたが、マリエルの耳には、それもとどいていなかったのです。やがていしきを取りもどしたマリエルは(いしきを取りもどすまでの時間も、じっさいにはほんのちょっとの時間だけでしたが)、まっ白な頭で、「はは……、ははは……」かんぜんにこわれてしまいながらも、スタンプをポン! 出口へとむかったというわけでした……(気のどくなマリエルくん……)。

 

 さいごにリズ。スタンプ台にむかったリズは、ふいにぴちゃぴちゃという水のしたたるような音をきいて、ふりかえりました。そこにあらわれていたものは……。

 

 パイナップル! 人の背たけくらいもある手足の生えた大きなパイナップルが、二十体ほども! そのからだからパイナップルジュースをしたたらせながら、リズに飛びかかってきたのです! 

 

 「待て! 待て! やめろ! うわああー!」

 

 リュートの剣を出すひまもなく、リズのからだはもうパイナップルだらけ。百パーセントのパイナップルジュースで、びしょびしょです(リズがびしょびしょだったのはこのためでした)。じつはこれこそが、リズのもっともだめなものでした。パイナップルジュースです。パイナップルジュースの、あのあまみをふくんだすっぱさ。ふつうの人にとってはジュースとしてとてもおいしいものですが、リズにとってはもうじごくでした。思い出しただけで、口がまがってしまいそうなほどだったのです。リズは小さいころから、パイナップルだけはだめでした。りゆうは自分でもわかりません。はだにあわないとでもいいましょうか? パイナップルジュースがはだ(とくに口)にふれると、かぶれてかゆくなってしまうのです。それに、そのにおいもだめでした。

 

 

 まったく、このきょうふの部屋というやつは、いじが悪い! その人にとっていちばんだめなものを、ようしゃなくたたきつけてくるんですから!

 

 

 こうして四人の仲間たちは、みんなそれぞれに、いちばんだめなものをもらってしまったというわけなのです。これが、あのきょうふの部屋の中で起こったことでした。ライアンはそのきょうふを今ふたたび、夢に見てしまったというわけだったのです。リズに肩をゆさぶられて、肩にとまっていたななふしのことを、思い出してしまったというわけでした(もしあなたがこのきょうふの部屋にはいったとしたら、なにが出てくるでしょうか? わたしの場合は……、ぶるる! 考えただけでもおそろしい!

 

 ところで、このきょうふの部屋の中からもらってきたきょうふのものの名ごりは、しばらくはそのまま残ってしまいました。ライアンやマリエルの場合は、ななふしとおねえさんでしたから、部屋のそとまでついてこなかったからいいのですが、ロビーのピーマンとたまねぎのにおいと、リズのパイナップルジュースについては、しばらくは消えずに残ってしまったというわけなのです。そして今ようやく、このきょうふのものたちの名ごりは消えました。リズの服がかわいていたのは、そのためだったのです。ロビーのからだからも、ピーマンとたまねぎのにおいは消えていました。でもまだロビーは、力を出せずにいるようですが。

 

 こう考えてみると、なんだかリズが、いちばんかわいそうでしたね。においだけならまだしも、いちばんきらいなもので、しばらくからだがびちょびちょでしたから……。

 

 ちなみに、マリエルの服がぐしゃぐしゃなのはもちろんそのままでしたから、マリエルは目がさめたとき、あわてて服をととのえて、かみもきれいにブラシをかけたのです。みんなが起きないうちにすませてしまおうと、だいぶあわてたことでしょうね)。

 

 

 さて、きょうふの部屋の物語については、このあたりで切り上げて……、ほんらいのお話の方をさきに進めましょう。

 

 みんなはあらためて、自分たちのおかれているじょうきょうのことを考えました。しかしどう考えても、いったいなにをすればよいのか? 思いつきません(ここでいつまでも、そよ風に吹かれておひるねしているわけにもいきませんし)。まわりを海にかこまれた、だんがいぜっぺきの島。まさにぜつぼう的なじょうきょうです。魔法も使えませんし、精霊の力もかりられません。船が助けにでもこないかぎり、ここからだっしゅつすることはふかのうでしょう。

 

 ふつうだったら。

 

 

 そう、ここはふつうの場所ではない、イーフリープ。ずっと変わらず、このままということはあり得ないのです。

 

 

 「あれ……? あっ! あれあれ!」とつぜん、ライアンがさけびました。

 

 「どうしたの?」「なに?」「なんだ?」みんながたずねます。

 

 ライアンはしばふのむこうをゆびさして、いいました。

 

 「ねこ! ねこねこ! ねこちゃんがいるよ!」

 

 びっくりしてみんなが見てみると、なんと、たしかにむこうのしばふの上に一ぴきの青いねこがいて、気持ちよさそうに寝そべって、しっぽをぺろぺろとなめて毛づくろいをしているところだったのです!

 

 「どこからきたんだ? さっきは、なんにもいなかったぞ!」マリエルが、信じられないといったふうに身を乗り出していいました。

 

 「いや、もう、そんなことはいってもしょうがない。ここは、今までの世界とはちがうんだ。なんでもありってやつだな。」リズが、「ふう。」とため息をついて、マリエルにつづけました。

 

 「あのねこちゃんが、なにか助けてくれるのかもしれない。とにかく、近づいてみようよ。」

 

 そしてそのロビーの言葉にさんせいして、みんなはその青いねこのそばまで、そうっと近づいていくことにしたのです(いきなり近づいたら、逃げてしまうかもしれませんでしたから)。

 

 「ちっちっち。ほーら、こわくないよー。おもしろいよー。」ライアンがキャンディーをいっぽん取り出して、地面にはいつくばり、それをねこにむかってふりふりふりながらいいました。ですがねこは、知らーんぷい。そっぽをむいたまま、「くああ。」と大きなあくびまでしていたのです。

 

 「ちょ! このぼくが、ここまでやってるのに! このねこめー!」ライアンはとたんに、ぷんぷんいい出しました(どっちがあそばれてるのか? わかりませんね)。

 

 「ねえ、リーフィがいってたよね。精霊王は話しをするとき、生きもののすがたになるって。まさか、あのねこが……!」

 

 ロビーがそういったとたん……。

 

 その青いねこが、すっく! とうしろ足二本で立ち上がったのです! そして……。

 

 

 「待っていたぞ。」

 

 

 そのねこが、口をひらいてしゃべりました!

 

 

 それはなんとも、ふしぎな声でした。そうです、ロビーのいう通り、やっぱりこのねこ、いえ、この人こそが、伝説の精霊王その人にほかなりませんでした!(ゆうえんちのつぎは、だんがいぜっぺきの島に、青いねこ! まったくこのイーフリープという世界は、よそくのつかないことばかりです。)

 

 「よくきたね。わたしの家にきなさい。お茶でも出そう。」

 

 青いねこ、精霊王はとつぜんそういうと、くるりとむきを変えて、うしろの方に歩き出しました。でもわたしの家って、そこにはしばふしかありませんけど……。

 

 そう思ったとたん!

 

 今までしばふしかなかったその場所に、いつからあったのか? 木と白い土のかべでできた、いっけんの小さなかわいらしいおうちがたっていたのです! ほんとうにとつぜんでした。ですけどそのおうちは、まるでなん年も前からそこにあったかのように、あたりまえのように、そこにあったのです。

 

 みんなは言葉も出せません。あまりにもとつぜんのことでしたので、まだ心のじゅんびというやつがうまくできていなかったのです。ですけど、そんなことをいっている場合ではありませんでした。目の前に、あの伝説の精霊王がいるのです! だれもがけいけんすることのできない、とくべつな伝説の中に、みんなは今いました。

 

 「いこう……」リズがなんとか、(かたまってしまっている)みんなのことをみちびいていいました。マリエルも、ロビーも、ライアン(まだキャンディーを持って地面にはいつくばったままでしたが)も、ぎくしゃくとした足どりで歩き出します(立って歩き出してからは、いちばん張りきっていたはずのライアンが、いちばんきんちょうしていました。きんちょうのあまり、手と足がいっしょでしたし)。

 

 ねこの精霊王が家の入り口までたどりついて、とびらのわきに作られていた「ねこせんよう」の小さなあなから、中にするりとはいりこんでいきました。つづいてリズが、木のとびらのとってに手をかけて、そうっとそとがわにひらきます。

 

 家の中は、まるでいなかのおばあちゃんのおうちのようでした。床にはあついおりもののカーペットがしいてあって、その上に、六つのいすをそなえたがんじょうそうな木のテーブルがひとつ、乗っております。テーブルにはきれいなテーブルクロスがかけられ、そのうしろの石づくりのだんろでは、火があかあかともえていました。しっそなつくりの、それでいてあたたかみのある家具が、ならんでいました。しょっきだなには、お花のもようのティーカップやお皿が、きれいにならんでおります。本だなには、みんなが知っているどうわの本が、たくさんならんでいました。

 

 

 「席につきなさい。」

 

 

 どこからか、精霊王の声がしました。部屋の中に見とれているうちに、みんなはねこの精霊王がどこにいってしまったのか? わからなくなってしまっていたのです。その声は上からしたようでもあり、地面の下からきこえたようでもありました。

 

 みんながはっと気がつくと、いつのまにかテーブルのいすのひとつの上に、青いねこがちょこんと乗っていました(頭がテーブルの上に出るように、そのいすにはクッションが三つ重ねられていました)。いわれるままに、みんなもそれぞれの席に腰をおろします(ふしぎなことに、みんなははじめから、「自分の席はここ」とわかっていたのです)。

 

 

 「つかれたろう。飲みなさい。」

 

 

 声がしたかと思うと、そのつぎのしゅんかん……。

 

 ええっ? とつぜん自分の目の前に、あたたかい飲みものがそそがれたカップがひとつ、おかれていました。いつからそこにあったのか? まったくわかりません。テーブルの上はずっと見ていたはずでしたのに、カップがあらわれたしゅんかんがわからなかったのです。というより、あらわれたとかいうような話ではありませんでした。まるで席につく前から、そのカップはもともとそこにあったかのように、みんなにはそう思われたのです(さきほどから、ふしぎな感じがつづきます)。

 

 カップの中には、みんながそれぞれいちばん好きな飲みものがはいっていました。リズは、ストレートティーにお砂糖ちょっと。ロビーはあまめのミルクティーに、シナモンパウダーを浮かべて。マリエルはココア(べんきょうにはつきものですものね)。そしてライアンのカップには、あま~いあま~いミルクセーキが、(しかもとく大のカップに)たっぷりそそがれていたのです。

 

 その飲みものの、なんともいえないふしぎなみりょく……。みんなは声も出せず、いただきますのひとこともいえずに、思わずひとくち、その飲みものを口にしてしまいました。そしてびっくり。

 

 「う、うまい!」

 

 そのあまりのおいしさに、みんなはごくごくと飲んで、あっというまにカップはからになってしまいました(まるでカルモトの家でお茶をごちそうになったときみたいですね)。そのはずでしたのに……。

 

 ふと見ると、今飲みほしてからになってしまったはずのカップに、またもと通り、もとのあたたかい飲みものがそそがれていたのです! しかもそれは、飲んだあとに新しくそそがれたというようなものではなくて、まるっきり飲む前のじょうたいにもどっているという感じでした。カップに口をつけたあとすらも残っていないのです(でもおなかにはしっかり、あたたかい飲みものがつめこまれていました。ですからたしかに、飲んだのです。まったくもってふしぎなことです)。

 

 みんながふしぎがっていると、またしてもびっくり。テーブルの上に、いつからそこにならべられていたのか? たくさんのお菓子が、お皿にもりつけられてならんでいました! クッキーにチョコレート、マカロンにシフォンケーキ、シロップのかかったフルーツに、ねじれたキャンディー、砂糖だま。そしてライアンの前には……、ちょうとく大きゅうの、クリームたっぷり三だん重ねのデコレーションケーキ!

 

 みんなはまたしても言葉を失ったまま、いただきますのひとこともいえずに、思わずひとくち、お菓子を口にはこんでしまいました。そしてまたびっくり。

 

 「う、うまい!」

 

 そのあまりのおいしさに、みんなはつぎからつぎへと、むちゅうでお菓子に手をのばしてしまいます(ふだんはぜったいにそんなことをしないようなマリエルまでもが、おぎょうぎ悪く、両手で手づかみでお菓子をばくばく食べてしまいました。それほどおいしかったのです)。あっというまにお皿はからになっていき、ケーキはみるみる小さくなっていきました。

 

 そして、みんながおなかいっぱいになったころ……。

 

 

 「どうやら、げんきがもどったようだな。」

 

 

 どこからか精霊王の声がしました。みんなは、はっとわれにかえります。見ると、テーブルの上にはなにも乗っておりません。もうじゅうぶんに食べて、飲んだからでした(とくにライアンは、もう大まんぞく。しあわせいっぱいといった顔で、へにゃっといすにもたれかかっていたのです。

 

 ところで、この飲みものや食べものはいうまでもなく、精霊王のとくべつな品物でした。口にした者をたちまち、げんきまんたんにしてくれるのです。みんなはよほどつかれていたのか? ごくごくばくばく、飲んで食べてしまいましたね。ほんとうは、ただのひとくちでもことたりましたが)。

 

 「そ、そうだ。こんなこと、してる場合じゃない。精霊王にお話を……」(いっぱいになったおなかを両手でかかえながら「ふう。」と息をついていた)マリエルがいいました(そしてその自分のすがたをきゃっかん的に見たマリエルは、たちまちはずかしくなって、しゃきっとしせいを正しました。「これじゃ、ライスタといっしょだ……」)。

 

 「ほら、ライスタ。精霊王さまだぞ。まかせろって、いってたじゃないか。」マリエルが、横にいるライアンの服をちょいちょいとひっぱりながら、小さな声でいいました。あこがれの精霊王、その相手がつとまるのは、精霊使いのたつじんである自分しかいない! とライアンは息まいていたのです。

ですが……。

 

 「な、なにー!」マリエルの、おどろきのひとこと!

 

 

 寝ています! ライアンはおなかがいっぱいになって、そのままいすの背にもたれて、むにゃむにゃ……、気持ちよさそうに寝てしまっていました。ラ、ライア~ン!

 

 

 ですけど、ライアンをあんまりせめるわけにもいきませんでした。みんながおなかにつめこんだお菓子や飲みものは、精霊王の言葉の通り、げんきをまんたんにしてくれるものでしたが、同時に、つかれたからだをとてもリラックスさせる力もあったのです。つまりあんまり食べたり飲んだりしすぎると、からだがほかほかあたたかくなって、すごく眠くなってしまいました。

 

 といっても、いくらがつがつごくごく、食べたり飲んだりしていたとはいっても、みんなはそこまで眠くはなっていなかったのです。ですがライアンの場合は、なにしろ三だん重ねのデコレーションケーキを、まるごと全部食べましたから! それは眠くなりますよね……(しかもミルクセーキも、とく大のカップですくなくとも五はいは飲んでいたのです。やっぱりライアンは、けっこうせめてもいいかも……)。

 

 あこがれの精霊王。夢にまで見た伝説のイーフリープでの、運命的な出会い。そのいちばんかんじんなシーンで……、ここぞというその大いちばんのところで……。

 

 

 かわいそうに。ライアン、たいじょうです。

 

 

 「あーあ、起きないぞ、こいつ。」リズが、ライアンのからだをゆさゆさゆすったり、ほほをぺちんとひっぱたいてみたりしながら、いいました(ためしにマリエルが、耳に「ふー!」息を吹きかけてみましたが、やっぱり起きません。だめみたいですね。もう、そっとしておきましょう……)。

 

 「な、なんてやつだ。あとでしつこく、くすぐってやるからな!」マリエルがぷんぷん怒っていいました(く、くすぐるの?)。

 

 「と、とにかく、精霊王さまにお話をきかないと。」いちばん右の席にすわっていたロビーが、左のみんな(ライアンいがい)にいいました。「マリエルくん、お願い。」(ライアンがいないので、こんなときにはまず、さほうやれいぎのことをいちばんよく知っているマリエルにお願いするのがいちばんいいだろうと、ロビーは思ったのです。)

 

 「わ、わかりました。」マリエルが、ややきんちょうぎみに、「こほん。」とせきばらいをしてからこたえます(いくらマリエルでも、相手は伝説の精霊王。きんちょうしてがちがちになってしまうのも、むりはありません。たとえ、すがたがねこでも)。

 

 「わたしたちは……」マリエルが、いいかけたとき……。

 

 

 「いわずともよい。」

 

 

 精霊王の声がひびきました。そうです、精霊王はなんでも知っているのです。今さら自分たちのことやここにきたもくてきのことなどは、話すまでもありませんでした(きあいをいれていたマリエルは、ちょっとひょうしぬけしてしまいましたが)。

 

 するとそのとき、またしてもふしぎなことが。

 

 さっきまで目の前のいすにちょこんと乗っていたはずのねこ(精霊王)が、いなくなっていました。ずっとねこ(精霊王)からは、目をはなさずにいたはずですのに。

「あ、あれ?」みんな(ライアンいがい)があたりを、きょろきょろさがしていると……。

 

 

 「こにょ方が、話しやすいよね。」

 

 

 「えっ?」さっきまでねこ(精霊王)がすわっていたいすの方から、とつぜん声がしました。しかもさっきまでのような、なぞめいたふしぎな声ではありません。そのうえ、どこからきこえてくるのか? わからないような感じでもありません。はっきりと、目の前のいすのところから声がしたのです。

 

 みんな(ライアンいがい)がそろって、そちらに目をやると……。目の前のいすに、青いかみの、青と白のデザインのかわいい服を着た、見た目もかわいい八さいくらいの男の子がひとり、すわっていました! ええっ!

 

 みんな(ライアンいがい……、この場面にかぎり、これから「みんな」とある場合は、ライアンいがいの三人ということでお願いします)は、またしてもびっくり! でももうそろそろ、なんでもありのこのイーフリープのびっくりにも、なれてしまわないといけませんね。

 

 「ねこだと、動くにょはらくにゃんだけど、話しづらくて。やっぱり、こっちにょ方がいいね。」

 

 男の子はそういって、おしりから生えた長いしっぽをテーブルの上まで持ってきて、ふりふりと動かしました。そう、このとくちょうのある話し方からもおわかりの通り、この男の子は、ねこの種族、ラグリーンのすがたをしていたのです。長いしっぽのほかにも、頭の上には大きなねこの耳がふたつ、ぴょこんと乗っていました(でもラグリーンとはちがうところが。それは背中の羽がついていないというところです。いすにすわるのにじゃまだから、消したんでしょうか? べつにどうでもいいですけど……)。

 

 「え、え? せ、精霊王さまですか?」マリエルが、ねこの男の子にたずねます。なんだか、あまりにもくだけたといいますか、それっぽくない感じでしたので……(なんかもっとこう、おごそかでりっぱなふんいきがあふれているものだとばかり、そうぞうしておりましたから。これじゃリュキアと、たいして変わりません……)。

 

 「そうだよ。」男の子(精霊王)があっけらかんとした感じで、こたえました。どうやらほんとうに、この男の子が精霊王でまちがいないようです(まあ精霊王はどんなすがたにもなれるということでしたから、こんかいはたまたま、このすがただったということなのでしょう。お子さまふたりのらい客たちに、あわせたのでしょうか?)。

 

 「あんまり話しをしたこともにゃいから、しゃべるだけで、つかれちゃうんだよね。人にょすがたにゃら、人としゃべるにょもらくだから、こにょすがたでがまんしてね。」精霊王がいいました。

 

 「あ、はい。それはもう……」みんなは「どうぞ精霊王さまのお好きなように」といった感じでいいましたが、しょうじき、「なんでラグリーン……?」と心の中で思いました。

 

 「それはそうと……」精霊王がつづけます。「みんにゃは、にゃにしにきたにょ?」

 

 ええっ? さっき、「いわずともよい。」っていっていませんでしたっけ?

 

 「ごめんごめん。じょうだんだよ。」精霊王はそういって、「きゃはは!」と笑いました(う~ん、まるっきり、ラグリーンの子どもになっています……)。

 

 「大きくにゃったね、ロビーベルク。会えてうれしいよ。」精霊王がとつぜん、ロビーにいいました。 

 

 「わたしは、きみの成長を見守ることしかできなかった。なにもできずにいたことを、すまないと思っている。だが、それはきみ自身の運命なのだから、わたしには、どうすることもできなかったのだ。そしてきみは、ここにもどってきた。それは、新たな力を得るためだろう?」

 

 「え……、あ……、は、はい。」ロビーが思わず、こたえます。とつぜんのことに、頭がこんらんしてしまったのです。それに今さっきまで精霊王は、ラグリーンの男の子の話し方をしておりましたのに、とつぜんこんなおごそかなしゃべり方になったので、それもびっくりしてしまいました(っていうか、ふつうにしゃべることもできるんですね……。できればこのあとも、ふつうにしゃべってもらいたいのですが……)。

 

 ノランにいわれ、そこでどんな運命が待ち受けているとも知れず、この伝説のイーフリープまでやってきたロビー。そこは、かつて自分が住んでいたことがあるという、とくべつな場所でした。そのとくべつなイーフリープで、今ロビーは、さいごの運命の力を手にいれようとしていたのです。

 

 新たなる力。女神の力持つせいなる剣、アストラル・ブレードの、その大いなる力をひき出すためのしかく……。悪の魔法使いアーザスとのさいごのけっちゃくのときにむけて、それは必要なものだといいました。いったいそれは……? ロビーはこのイーフリープで、どんな力を手にいれるというのでしょうか?

 

 「ロビーベルク。きみは、その力をすでに得ている。」

 

 ええっ? 精霊王のいがいな言葉に、リズもマリエルも、思わずロビーの方にむきなおってしまいました。ロビーもとうぜん、おどろきをかくすことができません。

 

 「でも、ぼくは、なにもしていません。」ロビーがいいました。ですが精霊王は、静かな表じょうをしていったのです(子どものすがたをしておりましたが、やっぱり目の前にいるのは、伝説の精霊王なのです。そのいげんと底にひめた力の大きさは、はかりしれないものでした)。

 

 「その力を持つための、ししつ。きみはこのイーフリープで、もうじゅうぶんにそれをしょうめいした。人を思う心。人をしんらいする心。きみはその心をもって、自分のほんらいのすがたをさらけ出し、こんなんやきょうふにうち勝った。それはなによりも、きみ自身の強さ、じゅんすいさを、あらわすものだ。きみがこのイーフリープで乗り越えた、あのしれんこそが、世界をすくうさいごの力を得るための、かぎだったのだよ。」

 

 なんと! あのおかしなしれんの数々は、そういうことだったんですね。人のことを思いやる心を持って、せまりくるこんなんやきょうふに、自分自身のほんらいのすがたでもってうち勝ってみせること。それがさいごの力、つまり剣の大いなる力をひき出すために、必要なものだったというのです(それならそうと、はじめからいってよ! といいたいところですが、いったらやっぱり、しれんにならないですものね)。

 

 あのしれんの数々は、剣のそのしんの力をひき出すための方法を、ロビーに学ばせるためのものでした。女神のつるぎ、アストラル・ブレードは、「いつわりのない自分ほんらいのすがた」をさらけ出し、「こんなんやきょうふを乗り越える強い心」を持って、「人を思いやるそのじゅんすいな思い」をあらわにしたときに、そのしんの力がかいほうされるようになっていたのです(かなりとくべつなじょうけんです)。これらのとくべつな三つのじょうけんのことを、あのしれんの数々はロビーに伝えていたというわけでした(これらの三つのじょうけんについては、剣のしんの力をかいほうするためのじょうけんとして、はじめからそのようにさだめられていたことでした。そしてこのことがさだめられたのは、はるかなむかし、この剣がレドンホールの石の中にふうじられたときのことだったのです。これはそのむかし、とあるひとりの人物の強い願いによって、きめられたことでした。そしてその人は、あるとてもかなしいできごとのすえに、この剣を石の中にふうじることになりましたが、その人の願いを受けて、剣の力をかいほうするためのこの三つのじょうけんのことを剣に与えたのは、ほかでもありません。はるかなむかしにこの剣のことを人々に与えた、女神ライブラ自身にほかなりませんでた。

 

 剣はこうして、そのしんの力がかいほうされるときを待ちつづけました。いつの日か、さいごのときにあたって、この剣の力の意味をりかいした、「自分の意志をついでくれる者」が、この剣のことを手にするそのときを……。

 

 そしてついに今日、ロビーがここに、その思いをついだのです。はるかなむかしの、そのとあるひとりの人物の、あつく強い、その思いを……。

 

 この人物がなに者なのか? それはこの物語のさいごの方で、わたしはみなさんにお伝えしたいと思っています。そしてなぜその人物は、剣の力をかいほうするための三つのじょうけんのことを、この剣に与えるように女神にお願いすることになったのか? その物語、とてもかなしいひげきの物語のことについても、わたしはいつかかならず、みなさんにも語りたいと思っています。このロビーの物語につながる、とてもとてもかなしい、その物語のことを……)。

 

 

 (しれんの内ようについて)ぐたい的にこまかく見ていきますと……。

 

 イーフリープでは、魔法も精霊の力も使えませんでした。それは剣の力をかいほうするためのじょうけんのひとつ、「自分ほんらいのすがたをさらけ出さねばならない」ということを教えていたのです(そとからの力が取りいれられないということは、すなわち自分自身の、まっさらなほんらいのすがたということになるのです)。

 

 サーカステントの中のしれんでは、ロビーは仲間とともに力をあわせて戦い、かれらのために力をつくそうとがんばりました(魔法や精霊の力を使えないふたりのちびっ子たちのことも、ロビーは「ぼくが守ってあげなくちゃ!」と助けようとしていましたよね)。あのしれんでは、ロビーは「だれかのために力をつくしたいという、思いやりの心をあらわすことが必要だ」ということを教えられました。

 

 それから、さいごはわかりやすいですね。きょうふの部屋のしれんでは、そのまま、「こんなんやきょうふにうち勝つ、強い心を持たなくてはならない」ということを、ロビーは教えられたのです。

 

 もっとも、教えらえたといっても、いわれなかったらぜんぜん、あのしれんにそんな意味があったなんてことは、だれにもわかりませんでしたけど……。わかるはずもないですよね。でもこれらのしれんを乗り越えたことによって、ロビーは知らず知らずのうちに、剣の力をかいほうするその三つのじょうけんのことをりかいし、それを剣の力をひき出すための、自分の新たなる力として得ていたのです(さすがは精霊王の用意してくれたしれんです。かなりへんてこなしれんだったことは、ひていできませんが……)。

 

 そしてロビーの得たこの力こそが、ノランのいっていた、「アーザスのことをうち破るために必要な、さいごの力」というものにほかなりませんでした。ロビーは剣のしんの力をかいほうする力、アーザスのやみをうち破り、このアークランドをすくう、そのきゅうせいしゅたるさいごの力を、こうしてさずかったのです(主人公レベル、さらにアップ! といったところでしょう。もっとも、はっきりとたしかな力を受け取ったという感じではありませんでしたので、ロビーもやっぱり、まだこんわくぎみだったのです(ファイナルビーム! とかいうひっさつわざでもおぼえたというのなら、はっきりしてるんですけどね……)。ですがロビーがこのイーフリープで得た力というものは、やはり必要ふかけつな、重要なものでした。

 

 今まででも、ロビーは敵をおそれることなく、だれかのためにつくそうとしてこの剣の力を使ったことがありました。ですがそれは、まだ剣の力を、ばくぜんとつかんだままの力だったのです。ロビーがこのイーフリープで得た力は、いうならば、剣の力をひとつにまとめ、そのさきにひめた、そのさいごの力をひき出すというものでした。この力を得るためには、ふつうならなんかげつも(あるいは、なんねんも)そのためのしゅぎょうをつむ必要のあるものでした。ロビーがこのイーフリープで受けたしれんは、そんなしゅぎょうをいっきにひとまとめにして、ロビーに学ばせるほどのものだったのです(さすがは精霊王のしれんです。

 ちなみに、ノランはこの剣を使いこなすために長いしゅぎょうが必要になるというそのことも、知っていました。そのこともありましたから、ノランはその必要ふかけつなとくべつなしゅぎょう、しれんのことを、精霊王にたくしたというわけなのです)。でもいくらそんなにすごいしれんだとはいっても、いわれなければ、ぜんぜん、あのしれんにそんな力があったなんてことは、わかるはずもないですけどね……)。

 

 

 そんなロビーに、精霊王がまた、静かにつづけました。

 

 「ロビーベルク、よくききなさい。きみがこのイーフリープを去ってから、世界は大きく変わってしまったのだ。悪しき勢力はますます強大となり、人々の心に、うたがいの気持ちが生まれた。おたがいをそんちょうすることを忘れた者、敬意をはらうことを忘れた者の、なんと多いことか。かつてのネクタリアたちのように、アークランド世界を見すてようという者は多い。

 

 「人は、人が生きるうえで、もっともだいじなもの、人としてのほこりを失いつつある。このままではほんとうに、アークランド世界はほろびるだろう。アーザスは、そこに生まれた人の弱き心をりようし、悪しき力をたくわえている。きみの手にした力は、その悪しき力をうち破る力。人の弱き心をくじき、アークランド世界をほんらいの正しき道へと、みちびくための力だ。それこそが、きみのもとめていた、さいごの力。悪に守られたアーザスのやみをうち破り、世界をしんにすくうために、必要な力なのだ。」

 

 マリエルも、リズも、ロビーと同じく、精霊王の話をくいいるようにきいていました。精霊王の話はとてもむずかしい話でしたが、とてもだいじな話なのだということは、だれにとってもわかりました(ロビーのきゅうせいしゅとしてのやくわり、心がまえのことを話すのと同時に、この世界そのもの、人のそんざいそのものの意味のことをも、精霊王は話していたのです。こんなにだいじな話はほかにありません)。

 

 精霊王がつづけます。

 

 「ロビーベルク、きみは、ほんとうの強さを持っている。ほんとうの強さとは、こぶしの強さではない。人をねじふせる力でも、したがわせる力でもない。どこまでも人を思いやる、じゅんすいな心。それが、人のほんとうの強さ、ほんらいあるべき強さを生み出してくれるのだ。かなしみの森で、ただひとりすごしてきた日々が、人のことを思いやる、きみのそのじゅんすいな心を、いっそう強きものへと変えた。宝玉の力、そして人としての心。世界をすくえるのは、ロビーベルク、それらの力をあわせ持つ、きみしかいない。」

 

 精霊王のいう通り、力で相手をねじふせたとしても、それはけっして勝ったということにはなりません。相手の弱みにつけこんだり、みずからの立場をりようして、人をおさえこみ、したがわせる。そんなことは、正しき者のやるべきことではありません。そんなことは、けっして強いことではありません。なさけないことです。精霊王はこのイーフリープから、そんなことをいやというほど見てきました(そしてノランにもわかっていたのです。アーザスの悪をうち破るために、さいごに必要なもの。世界をすくうために、さいごに必要なもの。それはこぶしの強さでも、剣をふるうわざでもない。人のことを思いやる、ロビーのそのじゅんすいな心、それにほかならないのだということを)。

 

 宝玉の力、人としての心、それらの力をあわせ持つ、きゅうせいしゅたるロビー。精霊王はそんなロビーに、さいごにこう伝えました。

 

 「さいごに、その剣に力を与えてくれるものがある。それは、剣の力の意味をりかいしたきみならば、おのずと得ることができるだろう。」

 

 精霊王はそういって、いすからぴょこんとおり立ちます。

 

 「ロビーベルク。わたしがしてやれることは、もうない。きみはもう、必要なすべてのものを持っている。あとはきみの力で、きみのさいごの運命の中へとむかうのだ。さいごの旅のことについては、ラグリーンたちに、道あんないをたのんでおいた。かれらに助けをこうとよい。」

 

 そして精霊王は、ぴょこぴょことした足取りで部屋のおくのとびらの前までいき、とってに手をかけました。

 

 「会えて、うれしかったよ、ロビーベルク、マリエル、リズ。ずっと寝てたね、ライアン。また会おう。いつの日か。」

 

 精霊王はそういって、とびらのむこうへ消えていきました。

 

 

 

   ちちちち……、ぱたぱたぱた! 

 

 とつぜん、小鳥たちが目の前を飛び去っていきました。あまりにもとつぜんのことに、ロビーたちみんなには、しばらく、なにが起こったのかもわかりませんでした。ですが、しだいに頭の中がはっきりしてくると、みんなは自分たちの身になにが起こったのか? りかいすることができたのです。かれらはまたも、どこかべつの場所に立っていました(ここでもライアンは、まだ地面でぐーぐー寝ていましたが)。

 

 「こ、ここは……?」

 

 あたりをきょろきょろながめ渡してみて、みんなはここがどこなのか? わかりました。目の前には、美しい水めんをたたえた、おだやかなみずうみ。白い砂がそのまわりをかこんでいて、あたりには色とりどりの花々がさきほこっております。みずうみのまん中には、あざやかなみどりにおおわれたしんぴ的な島がひとつ、浮かんでいました。

 

 そう、ここは、たきのみずうみです! みんなは、そのみずべに立っていました。つまりイーフリープへとむかうその出発の場所に、みんなはふたたびもどってきたのです!

 

 

   ひゅんっ!

 

 

 とつぜん、目の前をすごいはやさで、もも色のふわふわしたボールがいっこ、飛び去っていきました! そしてそれにつづいて……。

 

 

 「待てえー!」

 

 

 そのボールに負けないくらいのはやさで、だれかがすっ飛んできたのです! それがだれだか? みなさんにはもうおわかりですよね。そう、それはあのラグリーンの男の子、リュキアでした。リュキアは今、マリエルからもらったボールを追っかけて、お空を飛びまわっていたところだったのです。

 

 「リュキア!」マリエルが大声でさけびました。さけんだときには、リュキアはもうかなりむこうの方にまでいってしまっていましたが、ききききーっ! マリエルのよぶ声に気がついて、(空中で)うしろ足で急ブレーキ! すぐにみんなのところへともどってきたのです。

 

 「あれえー? お兄ちゃんたち、たきにょ島に、ごようじじゃなかったにょ?」リュキアが、首をかしげていいました。

 

 「ようじがすんで、今もどってきたところだよ。」マリエルが、それにこたえてそういいます。

 

 ですがリュキアは、「あはは。」と笑っていいました。

 

 「うそだあー。だって、今さっき、あにょボール、もらったばっかりだよ? まだ、二十びょうもたっていにゃいじゃにゃーい。」

 

 ええっ? これは、どういうことなのでしょう?

 

 リュキアは、うそをいうような子じゃありません。とってもすなおなのです(それはすぐにわかりますよね)。マリエルにはそれがわかっておりましたから、あごをなでな

がら、「うーん……」とうなって考えこみました。

 

 「どうやらぼくたちは、もとの場所にもどってきただけではなく、時間も、もとの時間にまでもどってきたようですね。」

 

 なんと! でもそれなら、リュキアのいっていることもなっとくがいきます。そして、マリエルのいう通りでした。みんなはイーフリープへとむかうそのちょくぜん、みずうみのほとりでリュキアとわかれた、そのちょくごの時間にまでもどってきたのです! すごい!(きょうふの部屋の前でなん時間も寝てしまっていましたから、助かりました。おくれた時間も、取りもどせましたから。そのうえ、リュキアとわかれたあと、みんなはみずうみの上を歩いていったり、精霊王のトンネルの前でひともんちゃくあったりしていたわけですが、それらの時間もすべて、取りもどすことができたのです。

 もしあなたがみずうみのほとりに立っていて、かれらの去っていくところを見守っていたのだとしたら。かれらがみずうみの上を歩いていったそのすぐあとに、かれらのすがたがまるでまぼろしのように消えていって、気づいたときには、イーフリープからもどってきたかれらが自分のすぐそばに立っていたというような、ふしぎなたいけんをすることでしょう。リュキアのいう通り、みんなはほんとうに二十びょうほどで、この場所にふたたびもどってきました(これが、やみの精霊の谷とイーフリープとのちがいです。やみの精霊の谷でも、やはり同じように時間がすぎませんでした。でもやみの谷の場合は、その中ですごした時間だけがすぎませんでしたが、イーフリープではこのように、その入り口の近くからそこにむかうまでの道のりにかかった時間までをも、なかったことにしてしまうのです。さすが精霊王のくに、イーフリープ。ちょっとほかと、かくがちがうといった感じですね))。

 

 「じゃあ、てっとり早くすませちゃおうぜ。」リズが、アップルキントの里の方をしめしながら、いいました。「かれらが、道あんないをしてくれるんだろ? 怒りの山脈だっけ?」

 

 ロビーのさいごの旅、怒りの山脈への道のり。精霊王はラグリーンたちが、その道あんないをしてくれるというのです。今思えば、さいしょにラフェルドラード里長に会ったときにも、ラフェルドラードはそんな感じのことをいっていました。かれはあのときすでに、精霊王から自分のそのやくわりのことについて、きかされていたのです。

 

 「イーフリープ……。ふしぎなところだった。」マリエルが、いまだに自分がそこにいたのだということが信じられないといった感じで、いいました(まだ頭がすこし、ぽうっとしています)。

 

 「イーフリープでぼくらが得たものは、はかりしれません。それは、この世界のしくみ、そのものといっていいくらいのものです。ほんとうに、きちょうなたいけんだった。」(マリエルらしい言葉でしたが、リズはそのうしろで、「そんなに、なにかもらったっけ?」とロビーにいいながら、頭をひねっていました。なんともリズらしい。)

 

 「ロビーさん。いよいよ、さいごの旅になります。」マリエルがつづけて、まじめな顔をしてロビーにいいました。

 

 「あらためて、ともにゆけることをうれしく思います。ロビーさんが思い通りの力をはっきできるよう、力をつくします。」

 

 「う、うん……」ロビーは小さく、うなずきます。ですがロビーには、いえませんでした。さいごの旅は、自分ひとりだけでいかなくちゃならない。マリエルくんとも、リズさんとも、ライアンとも、もうすぐおわかれになっちゃうんだということを……。

 

 「では、いきましょう。リュキア、ボールを追っかけるのはあとにして、里長さんのところまで、もういちどつれてってくれるかな?」

 

 マリエルの言葉に、もっとボールであそびたかったリュキアは、さいしょ「ええーっ。」としぶりましたが、すぐに「しょうがないなあ。」といって、みんなのあんないをもういちどひき受けてくれました。

 

 「ボールなら、よべばいつでももどってくるよ。なんなら、もういっこあげようか?」マリエルがそういって、ボールを出そうと、手のひらをかざしたとたん……。

 

 

  ぼわわわわんっ!

 

 

 「うわっ!」思わずマリエルがびっくりして、うしろにのけぞってしまいました!

 

 なんと! みんなの目の前に大きさが二十フィートはあろうかというくらいの、巨大な魔法のボールがひとつ、あらわれたのです! ええっ!

 

 「な、なんだこれー!」マリエルが、そのままぺたん! としりもちをつきながら、そのボールを見上げて、信じられないといったふうにいいました。「ぼくは、ふつうのボールを出そうとしただけだぞ!」

 

 「イーフリープのせいかな。」リズが、自分も、ぶおん! リュートの剣を出してみてそういいます。その剣はイーフリープで使ったときよりも、さらに力強く、しゅうしゅうと湯気まで立てていました!

 

 「今なら、岩でもかんたんに切れそうだぞ。なんか、強くなったっていうより、力のコントロールができなくなってるみたいだ。でも、ま、ほっときゃいいんじゃない? そのうち、もとにもどるだろ。」リズがあっけらかんとして、つづけます。

 

 「むせきにんなこというなよ!」マリエルがまたぷんぷんいいましたが、自分ではどうすることもできません。ここはリズのいう通り、もとのように力を使えるようになるまで、自分のからだをすこしずつならしていくいがいなさそうでした(うまく使えばもっと強力なパワーも出せそうですけど、まあ、やめておきましょう。今でもじゅうぶん強いですから!)。

 

 

 「とにかく、里までもどりましょう。」さいごに、マリエルがいいました。

 

 「ここは、しゅやくのロビーさんが先頭です。さあ、ロビーさん、いきましょう! リズ、たのんだよ。」 マリエルはそういって、ロビーの背中をおして、リュキアのあとについていきました。

 

 「つまり、おれがこいつ、背おっていくのね……」

 

 リズが、やれやれといった感じで、「ふう。」と深いため息をつきます。リズの足もとには、よだれをたらして気持ちよさそうにむにゃむにゃと眠っている、ライアンのすがたがありました。

 

 

 さいごの道のりがはじまろうとしています。

 

 

 

 

 

 




次回予告。


    「あれえー? みんにゃ、どこいったにょかにゃあ?」

      「なに、かってにきめてんのさ……」

    「われらには、きみをむかえいれるぎむはない。」

      「そなたのげんそうに、乗ってみるべきなのか……」


第25章「背中に乗ってもういちど」に続きます。


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