ロビーの冒険   作:ゼルダ・エルリッチ

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8、はぐくみの森の子ぎつね

 むかし、どこまでも広がっているのかと思うほどの大きさを持ったその森は、大いにさかえていました。その森をおとずれる者たちは、みな、森のもたらすおしみないめぐみにかんしゃしながら、大いにくつろぎ、食べて、飲んで、楽しんだのです。そのため、ここをおとずれる人たちは、みな、旅のよていがすっかりくるってしまいました。いちにちすごすだけのつもりが、三日になり、四日になり。ついには、ふた月をまるまる、この森ですごすことになってしまったほどだったのです。

 

 それには、この森に住んでいる住人たちのせいかくも、深くかかわっていました。とにかくこの森に住む人たちといったら、明るくようきで、はじめて会った人であっても自分の家にいっしゅうかんくらい、わけなくとめてしまうのです。ですがそんなことは、この森の人たちにとっては、ごくあたりまえのことでした。それはつまり、この森が住人たちに対して、じゅうぶんすぎるほどのめぐみを、与えてくれていたからなのです。住人たちはあくせくはたらかなくても、いつでも食べものや飲みものを手にいれることができましたし、そのほか、お金にかえることのできるたくさんのきちょうな品物たち(ぐたい的にいえば、めずらしい花のみつであったり、宝石のつまった木の実であったり。ここにしか住んでいないという、ふわふわ森ペンギンの羽毛であったり、すばらしいかおりを放つ、森サンゴのえだであったり。そういう品物たちでした)も、この森の中では、かんたんに手にいれることができました。

 

 ですから、この森に住んでいる人たちはとても心が広く、毎日をすてきに、とっても楽しくすごしていたのです(じつにうらやましいかぎりです)。そしてこの森の住人たちのすばらしいところは、それらのめぐみをだれかれかまわず、みんなで分けあおうとするところでした。とかくせちがらい世の中では、お金でもなんでも、きちょうな品物を手にいれればいれるほど、それらを自分ひとりのところばかりにためこもうとするものです。しかし、この森の人たちにかぎっては、そんなこととはむえんでした。お金とか宝物とか、そういったものはひとしく、みんなのものであるのだと、かれらは考えていたのです(じつにすばらしいかぎりです)。

 

 みんなをだいじにするそんなかれらが、とくにたいせつにもてなしたのが、ほかのくにからやってくる旅人たちでした。この森がもっともさかえていたころ、西のくにぐにからはたくさんの旅人たちが、この地をめざしてやってきていたのです。そういった旅人たちのことを、この森の人たちは、まるで家族どうぜんのようにあつかいました。旅人たちに、かれらの見たこともきいたこともないような食べものや飲みものをふるまい、そして旅のきねんとして、自分たちのたくわえたきちょうな品物たちを、おしみなく分け与えたのです(ある旅人などは、全部あわせたら家いっけんをまるごと買えてしまうくらいのねだんになる、山のようにたくさんのおみやげをもらったほどでした。おかげでその旅人は、旅をつづけるのをやめて、この森に住んでしまうことにきめてしまったくらいなのです)。

 

 これで、この森をおとずれる人たちが旅のよていをくるわせてまで、ここにとどまってしまったりゆうが、よくおわかりいただけたかと思います。そしていつしか、だれもがこの森のことを、こうよぶようになりました。人々の暮らしをはぐくみ、心をはぐくむ。まさしくここは、はぐくみの森だと。しかし、今ではそれもむかしのこと。この森のはんえいは、思わぬところから、終わりをむかえることとなるのです。

 

 

 今、三頭の騎馬たちをつれた四人の旅の者たちが、その森のいちばん東の果てで眠りこけているところでした。かれらはもう、なかばなげやりといった感じで、地面の上にてんでんばらばらにちらばったまま、もうふをかぶってぐーぐー寝ていたのです。

 

 じこくはすでに、海つばめのこくげん。午前十時に近いころになっていました。かれらはいったい、なぜこんなところで、しかもこんな時間に眠っているのでしょうか? そのりゆうを説明するためには、ちょっと話の時間を、きのうの夜にまでもどさなければなりません。

 

 きのうの夜。すでにべつの場所で寝床についていたかれらは、夜ふけに、あるおそろしいかいぶつたちのしゅうげきを受けました。そのかいぶつたちの名まえを、みなさんはもうごぞんじですよね。そう、グブリハッグです。かれらは、このおばけみたいな見た目のおそろしいかいぶつたちに、へいわな寝床を追い出され、夜のやみの中をやむなく、逃げのびるはめになりました。

 

 あれから。旅の者たちは、夜のやみの中を走りに走りました(危険なのはもちろん、しょうちのうえでした)。ですがなにしろ、がけの下はまっくらなうえにも輪をかいてまっくらでしたから、そうかんたんには、正しい道をえらんで進むことは、できなかったのです。一行はなんどとなく、いきどまりの道や、べつのほらあなの中へとつづいていく道に、出くわしてしまいました。しかしそのたびに、みんなは力をあわせて、そのおそろしいがけの下の道からだっしゅつするべく、がんばったのです(いつまたそのへんの岩影から、新たなグブリハッグたちがあらわれないともかぎりませんでしたから!)。

 

 やがて、おそろしいがけの下の道もついに終わりをむかえ、一行が岩かべのあいだのほそいさけ目のようなすきまから、その森のはずれの中へと飛びこんだのは、もう空が明るくなってしまったころのことでした。かれらが、立ちのびるたくさんの木々を、どんなにかんげいしてむかえたか? ごそうぞうにたやすいことかと思います。それからかれらが取った行動は、ひじょうにたんじゅんめいかいなものでした。かれらは今、かれらがいちばんやりたかったことを、頭で考えるよりもさきに、すぐさまおこなったのです。それはつまり……、さまたげられたすいみんのつづきを、もういちどここで取るということでした! かれらは頭のさきから、つまさきまで、もうぼろぼろにつかれ果ててしまっておりましたので、森の中にはいったとたん、騎馬たちをつなぐのもそこそこに、もうふにくるまって、そのままどろのように眠ってしまったのです(だれだって、へいわに寝ているところをむりやり起こされて、そのまま夜のやみの中をかいぶつたちにおびえながら、なん時間も走らされるはめにあわされたのなら、心身ともにまいってしまうはずです)。

 

 つまりそういったわけで、旅の者たちは(もちろんこれは、ロビーたち、われらが旅の者たちのことをいっているのです。いうまでもないことですね)こんなところで、こんな時間に、眠りこけているというわけでした。でも、もうそろそろ、かれらに旅のつづきを、おこなってもらわなくてはなりませんね。なにしろかれらは、この物語のだいじなだいじなしゅやくたち。かれらがこのまま、ぐーぐー寝ているままでは、物語がさきに進みませんもの! さあ、旅のさいかいです!

 

 

 

 「クルッポー! クルッポー! 起キロー! 起キロー!」

 

 

 とつぜん、あたりにかん高い、なんともおかしなさけび声がひびき渡りました。いったいこれは、なんの声なのでしょう?(どうやら、人の声ではなさそうな感じですが。)その声は、旅の者たちのどまん中。かれらの中でもいちばんからだの小さな、ひつじの種族の者である、ライアンのいるあたりからきこえてくるようでした。

 

 

 「クルッポー! クルッポー! 起キロッタラ、起キロ! イイカゲン、起キロッ! コノヤロー!」

 

 

 だんだんと大きく(そして言葉使いもきたなく)なっていくその声が出ているのは、ライアンのそばの地面におかれた、あるひとつの小さなはこからのようでした。そしてようく見てみると、その声を出しているのは、時計のはりのついているそのはこの中から飛び出して、羽をばたつかせながらわめく、小さな小さな、白いはとのおもちゃだったのです。

 

 「う~ん……、あと五分……」ライアンはねぼけてそういいながら、はと時計のかたちをした小さな目ざまし時計にむけて、手をのばしました(なるほど、これはライアンがシープロンドから持ってきていた、目ざまし時計だったんですね。それにしても、ずいぶんおかしなものを持ってきたものです)。ですがこの時計は、どんなおねぼうさんでもぜったいに目がさめるように、ひじょうにきびしく作られていたのです。

 

 「起キナイヤツニハ、オシオキ! オシオキ! クルッポー!」

 

 時計のはとはそうさけぶと、羽をばたつかせて、ライアンのほほにむかって、(まるでラグビーのせんしゅみたいに)全身で体あたりをくらわせました! そしてそのあとは、するどいくちばしこうげきです! さんざんつっつかれて、こうなってはもう、起きないでいられる者などはいませんでした。

 

 「わわ、わかったよ! もう起きてるだろ!」ライアンがそうさけぶと、時計のはとはつっつくのをやめて、さいごにひとこと、こういって、すばこのかたちをした時計の中にひっこみました。

 

 「オハヨー!」(う~ん、にくたらしい!)

 

 こうして旅の者たちはここに、(さわやかな目ざめとはいえませんでしたが)新しい旅のいちにちのはじまりを、ふたたびむかえることとなったのです。みんなは、まずは三頭の騎馬たちがちゃんといるということをかくにんして、ほっとしました(きのうは見張りも立てず、あたりを気にかけることもなく、眠ってしまいましたので、騎馬たちがちゃんとぶじでいるかどうかと、かれらはまっさきに心配したのです。

 もっとも、かれらの騎馬たちはメルをはじめ、みんな強くてかしこい馬たちばかりでしたので、すこしくらいの相手であれば、わけなくやっつけてしまうほどの力は持っていましたが)。それからみんなは、あわただしくにもつをまとめると、地図を広げて今いる場所のことをかくにんしあい、今日いちばんの話しあいを、ここにおこなうことにしたのです。

 

 「よていより、ずいぶんとおそくなってしまったが、ようやくついたな。まさか、こんなところで野宿することになるとは、夢にも思っていなかったが。」ベルグエルムが、やれやれといった感じでいいました。

 

 「どんなところだって、あんなおそろしいところで寝るよりはましですよ。」フェリアルが、ぼーっとしてひきつった顔をしたままで、こたえました(フェリアルはずっと、おばけの夢にうなされて、しっかり眠ることもできずにいました。おかげで目の下にはばっちり、くまができていたのです)。

 

 「まだまだ、これからがほんばんなんらから、しっかりしてよ、フェリー。ほら、あーん。キャンリーあげるから。」ライアンがそういって、フェリアルの口の中に、ぼうつきのいちごキャンディーをいっぽん、つっこみます(もちろん自分も、同じものをなめていました。それは、かれの話し方でもわかりますよね)。

 

 「めざすモーグっていうまちは、ここからどのくらいあるんでしょうか?」ロビーがベルグエルムにたずねました(ロビーの口にもまた、ライアンからもらったキャンディーがはいっていましたが、かれはなるべく舌たらずにならないように、気をつけてしゃべっていました)。

 

 「このはぐくみの森は、とほうもなく大きな森なのです。」ベルグエルムがロビーに地図をしめしながら、こたえます。「そして、今わたしたちがいるのは、その東のはずれ。モーグはこの森をつっきった、西のはずれに位置しています。きょりにして、およそ十五マイルはあるでしょう。しかし、じゅんちょうに進めたとしても、この森の中では、やはり、なにが起きるか? わかりません。そのこともじゅうぶん、考えにいれておかなければ。」

 

 ベルグエルムはそれから、このはぐくみの森のむかしと今のようすのことについて、みんなに説明してきかせました。さいしょにお話ししました通り、このはぐくみの森というところは、かつて大いにさかえ、文字通り、あらゆる人たちの暮らしをはぐくんでいたのです。しかし今では、西の街道を使う者もいなくなり、モーグのおそろしいうわさも広まって、このはぐくみの森まで足をはこぶ者たちは、ほとんどいなくなってしまっていました。ここからいちばん近いみやこであるシープロンドに住む、シープロンたちでさえ、この森の今のことについては、ほとんどなにも知らなかったのです。

 

 「この森の中が、今どうなっているのか? どんな人たちが、今住んでいるのか? それはだれにも知られていない。むかしのように、この森が今でも、人々の暮らしをはぐくんでいればよいのだが。そう考え……、うぷっ!」そこまで話したところで、ベルグエルムの口になにかがつっこまれました。それは、そう、やっぱり、ライアンのぼうつきのいちごキャンディーだったのです(これで、四人ぜんいんの口にキャンディーがはいったわけです)。

 

 「あんまり深く考えたって、しょうがらいよ。いってみれば、わかることなんらから。どのみちぼくらは、この森を通っていかなくちゃ、もくてき地までいけないんらからさ。そうれしょ?」

 

 みんなはライアンにはかなわないなと思いつつ、かれの意見もまた、もっともだと思いました。たしかに、あれこれここで話しあっていたとしたって、旅がさきに進むというわけでもありません。

 

 「う、うむ。では、みんな、じゅんびをととのえて、さっそく出発することにしよう。」ベルグエルムがいいました。

 

 そしてみんなは、(口にはいったキャンディーをなめながら)手早く出発のじゅんびをととのえると、この果ての見えないほどの大きな森、はぐくみの森の中へとむかって、ふみこんでいったのです。

 

 「いら、ひゅっぱ~つ!」ライアンがひとこと、大きくかけ声をかけました(ちなみに、「いざ、しゅっぱ~つ」といいましたが)。天気はうすぐもり。ひゅうひゅうと風の吹く、ある朝のことでした。

 

 

 「ねえ、ここってほんとに、はぐくみの森なの?」

 

 森の中のものさみしい道の中を、馬でぱかぽこ進みながら、ライアンがつぶやきました。かれのいう通り、森の中にすこしはいっていっただけで、あたりのようすはまるっきり、変わっていってしまったのです。

 

 まず、いくらもいかないうちに、道はばが急にせまくなりました。それも、ただせまいだけならどうってことはありませんでしたが、その道を横切るかたちで、たくさんの木の根っこが、うねうねとからまりながら張り出していたのです。ですから、馬に乗っている者たちは、かけ足でびゅんびゅん! というわけにはいきませんでした。しんちょうに進んでいかなければ、根っこに馬の足を取られて、馬といっしょにすってんころりん! 地面に投げ出されてしまうのです。

 

 変わったのは道だけではありません(そしてそっちの方が、この森をゆく旅の者たちにとっては、かんげいのできないものでした)。まだ午前十時。海つばめのこくげんをせいぜいまわったころだというのに、森の中にはろくに光もとどかず、あたりはぶきみにうす暗かったのです(せっかく、あのうすきみの悪いがけの下の道からのがれられて、よろこんでいたところでしたのに)。しかも、木々のみきはふしくれ立っていて、

まるでいぼがえるのはだみたいにごわごわしていました。そしてそこからのびるえだといったら、てんでんばらばらに、あちらこちらへと、のびほうだいにのびていたのです。

 

 そんな場所でしたから、とてもまともな植物が育っているわけがありません。みどりあざやかな葉っぱのかわりに、かれかけたつる草のたばが、えだにぐるぐるからみついております。かわいらしいきれいな色のお花のかわりに、なんともどくどくしい色をしたきのこのむれが、地面にびっしり生えていました(ぜったいに食べてはいけません!どくきのこにきまっていますから!)。

 

 これでは、ほんとうにここがはぐくみの森なのか? とライアンがぼやくのも、むりもありませんでした。だってどう見ても、この森が人々の暮らしをはぐくんでくれるようには、見えませんでしたから。

 

 「西の街道がとざされてからひさしいが、そのえいきょうは、この森にまですっかり、およんでしまったようだな。かつてのはんえいのおもかげは、もうここにはないようだ。」先頭をゆくベルグエルムが、道をふさぐようにせり出している木のえだを、手ではらいのけながら、いいました。

 

 「はぐくみの森のことは、名まえくらいしか知らなかったんだけど、これじゃもう、名まえを変えた方がいいみたいだね。『おばけ大集合の森』、なんてのはどう?」ライアンが、フェリアルの方をふりかえりながら、けらけら笑ってつづけました。

 

 「やめてくださいよ! えんぎでもない!」フェリアルがむきになって、ライアンに手をふりかざしながら、いいかえしました(仲のいいこと)。

 

 「ぼくのいたかなしみの森も、そんなに明るい森じゃなかったけど、」そうつぶやいたのは、ロビーでした。「この森は、ひどいです。こんな森だったら、ぼくはたぶん、いっしゅうかんでひっこしますよ。」

 

 ロビーはそういって、顔のまわりによってくる小さな羽虫のむれを、手でぱたぱたとはらいのけました(みんなさっきから、この虫が顔のまわりをぷんぷん飛びまわるのが、気になってしかたなかったのです!)。

 

 「ぼくは、二日でギブアップだね。」ライアンが、ロビーにむかってそういいます。「だって、こんなさびしい森においしいお菓子屋さんがあるとは、とても思えないもの。」(ライアンのかいてきさのきじゅんって、おいしいお菓子があるかないかによるところが、大きいみたいですね……)

 

 「あ、そういえば。」ライアンの言葉に、ロビーが急にあることを思い出していいました。

 

 「スネイルさんのお店には、きんじょのおばあさんがやいた、おいしいホワイトケーキと、チョコクッキーがあるんです。そんなにお菓子が好きなら、あのとき、買っておけばよかったかな?」

 

 これをきいて、ライアンの目つきが変わります。

 

 「ええーっ! それをさいしょにいってよー! ホワイトケーキに、チョコクッキー! 食べたーい!」

 

 ライアンはよだれをたらしながら、ロビーのことをぽかぽかたたいていいました(なんとか、今からもどって買いにいこうとするのだけは、やめさせましたが……)。

 

 こんな感じで(ライアンの場合はあまいお菓子へのげんそうをいだきつづけたまま)、旅の者たちはしばらくのあいだ、このささくれ立った森の中の道を進んでいったのです。道はあいかわらずせまく、木の根はあいかわらずうねうねと、地面をはっていました。そのうえしばらくいくと、道はあつくつもった落ち葉の中に、しばしばうもれてしまっているようになっていました。そのたびにみんなは、正しい道のほうがくをさ

がしあてるのに、くろうしたのです。

 

 さらにこのあたりになってくると、見上げる空のほとんどいちめんを、まがりくねったえだのたばや、黒っぽい葉っぱのかたまりが、おおいつくしてしまっているようになっていました。ですから一行は、森のおく深くにはいってからというもの、ひさしく、おひさまのすがたを見ていなかったのです。たまにちらちらと、黒い葉のあいだから、そとの光を見ることができましたが、そのほかの大部分の時間は、みんなは暗くぶきみなこの森の中の道を、とぼとぼと、進んでいかなければなりませんでした。

 

 それでもなんとか、一行はめざすモーグのある西のほうがくへとむかって、すこしずつですが、きょりをちぢめていくことができました。しかし、やっぱりこれが、旅の道のいじわるなところ。そのさきの道は、今よりもっと、ひどいありさまとなってしまったのです。

 

 地面はどこもかしこも落ち葉にあつくおおわれ、どこに道があるのか? いよいよまったくわからなくなってしまいました。なんとかほうがくだけでも見さだめようと、ベルグエルムがほそい木を切って、そのねんりんをしらべてみましたが、なにせここは、日もろくにあたらない、うす暗い森の中。ほうがくはぜんぜん、わからなかったのです(これはボーイスカウトなどがおこなう、ほうがくをしらべるためのわざなのですが、みなさんはごぞんじでしょうか? 木にはねんりんというものがあって、それは日のよくあたるほうこうだけ、よく育っているものなのです。ベルグエルムはそのねんりんを見て、ほうがくを知ろうとしたのです)。

 

 「まいったな。この森は、よそう以上にやっかいだ。」ベルグエルムが、とほうに暮れながらいいました。「せめて光のむきだけでもわかれば、ほうがくがわかるかもしれないのだが、このあたりでは、どこにも、ひとすじの光さえさしていない。」

 

 「もうすぐ、おひるなんだけど、」ライアンが、にもつの中からあのはとの時計をひっぱり出して、つづけました。「これじゃまるっきり、夕ごはんの時間だね。どっちにせよ、ちょっとひと休みして、なにか食べようよ。今日はまだ、いちごキャンディーしか食べてないんだもん。」 

 

 そうして、旅の者たちはしかたなしに、手ごろな岩の上にすわりこんで、とりあえずのおひるごはんをとることにしたのです(張り出している木の根の上の方がすわりやすかったのですが、木の根の上にすわったら根っこをいためてしまうことになりますので、あえてみんなは、岩の上をえらんですわっていたのです)。みんなは食べながら、このさきの道のことについて話しあいましたが、正しい道を見つけるためのうまい方法は、ざんねんながら、なにも思い浮かびませんでした(ライアンのしぜんの力をかりるわざも、道さがしにかんしては、あまりやくには立ちませんでした。風の力をかりてみても、てんじょうにあつくしげったえだや葉っぱをまとめて吹き飛ばすまでのいりょくは、ありませんでしたし、ほのおの力では、なおさらだったのです。

 

 同じところになんどもくりかえしてわざをぶちこめば、あなをあけられないこともありませんでしたが、そんなことをそのつどしていたら、ライアンもつかれてしまって、旅をつづけるどころではなくなってしまうでしょう。そのうえ、そもそもそんなことをしたら森をはかいすることになってしまいますから、しぜんをあいするライアンにとっても、できればそんなまねは、したくはありませんでした)。せめて木にのぼって、

黒くおおわれたてんじょうの葉っぱの上に、顔を出すことができればよかったのですが、木の高さはみな三十フィートほどもあったうえ、しかもねじまがったそのみきは、上の方にいくほどほそくなって、そとにむかってそりかえっていたのです(いわゆる、ねずみがえしというやつです)。これではどんなに木のぼりのじょうずな名人だって、てんじょうの上に顔をのぞかせるなんてまねは、とてもできそうにありませんでした(じっさい、みんなの中でいちばん身のかるいライアンが、とちゅうまでのぼってみましたが、かれはそこで、こうけつろんを出したのです。「むり!」)。

 

 さて、旅の者たちはどうするのでしょうか? かれらのむかうべき道のさき。それはロビーのこの言葉によって、きまったのです(いつも通り、またみんなから、意見をもとめられてのことでしたが)。

 

 「道がわからない以上は、ぼくたちの力ではどうしようもないと思います。だれか、この森に住んでいる人をさがして、力を貸してもらうのがいいと思う。」

ロビーの言葉は、正しいものでした。自分たちの力をこえる問題には、人の助けをすなおにもとめることも、またたいせつだったのです。

 

 「たしかに、それがいちばんいいようです。」フェリアルが、ロビーの言葉にこたえていいました。「むかしのなごりがまだ残っているのなら、森のまん中までいけば、まちがあるはず。今でも人が住んでいるのかどうかは、わかりませんが。」

 

 そのフェリアルの言葉に、ベルグエルムもうなずいてつづけます。

 

 「はんえいはかこのこととはいえ、これだけの大きさの森だ。だれも住んでいないとは思えない。とにかく、そのまちまでいってみよう。住人がいることを、願うばかりだ。」

 

 「でもさ、そのまちまではどうやっていくの?」さいごにライアンが、もっともなしつもんをしました。そしてそのしつもんに対して、ベルグエルムはいたってまじめな顔をして、こうこたえるばかりだったのです。

 

 「かんをたよりにいくしかないな。運がよければ、道あんないのかんばんのひとつも、立っているかもしれない。」

 

 う~ん、さいごは、かんがたよりですか……。しかし、ほかに手立てがない以上、ベルグエルムのそのかんを、たよりにしてみるほかはありません。やはりベルグエルムは、みんなのいちばんの、みちびき手でしたから。

 

 ふたたび出発というところで、ロビーがフェリアルに、そっとたずねました。

 

 「ベルグエルムさんって、しんちょうなのか? だいたんなのか? どっちなんでしょう……?」

 

 するとフェリアルは、にが笑いを浮かべながら、小さな声で、そっと、ロビーに耳うちしたのです。

 

 「ときと場合によるんです。わたしにも、いまだに全部はわからないんですよ。」

 

 

 それからしばらくして。道がとつぜんひらけて、騎馬たちがその広場に飛び出したとき。みんなはとてもおどろいたものでした。まさに、どんぴしゃり! 一行は、はぐくみの森のどまん中。むかしのはんえいのなごりの残る、そのまちの広場へとやってきたのです!(思わずライアンとロビーは、おたがいの手のひらをぱちん! ともにあわせてよろこびあいました。ベルグエルムのかんが、みごとてきちゅうです!)

 

 広場にはたくさんの家々がたちならんでいました。しっくいのぬられた白いかべに、茶色い木のはしらがとてもきれいにとけこんでおります。それらの家はみんな二かいだてで、二かいのまどのそとには、色とりどりのペンキでぬられた、かわいらしいバルコニーもついていました。

 

 お店もたくさんありました。森のめずらしい食べものをあつかったレストランや、おしゃれなカフェテラス。パン屋さんに、本屋さんに、洋服屋さんに、おみやげ屋さん。そしてライアンの大好きな、お菓子を取りそろえたお店まで。じつにさまざまなしゅるいのお店が、ところせましと、この広場のまわりにはならんでいたのです。

 

 よかった。旅の者たちはさぞかし、よろこんでいるにちがいない。読者のみなさんの

中には、そう思った方も多いことかと思います。ですが、こう思った方も、同じく多いのではないでしょうか? なにか変だな? と(こんなに暗くてさびしいところに、急にこんなにはなやかな場所があらわれるなんて、よく考えたら、やっぱりおかしいですもの)。

 

 そうなのです、わたしもできれば、旅のみんなのことをよろこばせてあげたかったのですが、ざんねんながら、やっぱりまた、そううまいぐあいにはいきませんでした。

 

 この広場で旅の者たちが見たもの。家々に、お店に、さまざまなかざりものに、広場ちゅうおうの大きなふんすいにいたるまで。それらはすべて、とうのむかしにうちすてられ、荒れほうだいになったままの、むざんなはいきょだったのです!(せっかく、ライアンとロビーが、ハイタッチしてまでよろこんでいたというのに……)

 

 旅の者たちはがくぜんとしました。やっぱりこの森には、もうだれも住んでいないのか……。みんなの気持ちは、重くふさいでしまいました。

しかし、いつまでもおちこんでいるわけにもいきません。みんなは気持ちを強く持ちなおすと、まずはそれらの家々やお店を、しらべてまわることにしたのです。

 

 かれらはまず、いちばん大きくて、いちばんしっかりしたままのたてものの中に、はいってみることにしました。それでも入り口のとびらはなかばくずれてしまっていて、さびついたちょうつがいに、かろうじてくっついているだけだったのです(とびらがくっついているだけでも、まだましな方です。ほかのたてものでは、とびらはみんなくずれきってしまっていて、地面に落っこちてしまっていましたから)。

 

 たてものの中は、もうなん年も(あるいは、なん十年?)吹きさらしになっているままのようで、床にはたくさんの植物やきのこまで、生えているありさまでした(旅の者たちにびっくりして、小さないたちのような野生の生きものが、あわてて逃げていったくらいでした)。そしてはいってすぐのところに、大きな木のカウンターがひとつあって、そこにはいっさつの本が、おきっぱなしになっていたのです。

 

 「どうやら、やどちょうのようだな。」ベルグエルムがその本を手に取って、いいました。「ここはかつての、やど屋のようだ。たくさんの旅人たちが、ここにとまっていったのだろう。」

 

 ベルグエルムはそういって、そのやどちょうをぱらぱらとめくってみました(そうしたら本のページがばらばらになってこぼれ落ちてしまったので、ベルグエルムはあわててそれらのページを集め、こんどはしんちょうに、そっと取りあつかうことにしました)。

 

 そこにはたくさんのお客さんたちの名まえや、そのかれらからのおれいの言葉などが、びっしりと書いてありました。どうやらかつてこのやど屋は、森でいちばんはんじょうしていた、ゆうめいなやど屋であったようなのです(もっとも、このやどの主人は、お客さんからほとんど、やどだいをもらうことはありませんでした。前にもいいました通り、この森ではどこの家だって、みんなをわけなくとめてしまうのです。ですからこのやどの主人は、もっぱら自分のしゅみで、このやど屋をけいえいしていました。

ここの主人のお目あては、やどだいのかわりに、旅人たちがもたらしてくれるものでした。それはつまり、旅人たちの話してくれる、胸おどるような冒険のお話だったのです。さぞかし、たくさんの冒険の話をきくことができたんでしょうね。冒険好きなわたしにとっては、うらやましいかぎりです)。

 

 ですが、そんな大きなやど屋の中でさえ、旅の者たちにとってやくに立ちそうなじょうほうは、なにも見つけることはできませんでした。それからみんなは、さらになんけんかの家やお店をしらべてまわってみましたが、やはり新しい住人につながるような手がかりなどは、なにも見つけることができなかったのです。

 

 「見て見て、ロビー! はちみついり、ルィンビスの花のアイスクリームだって! すごーい!」ライアンが、今はからっぽになっているアイスクリーム屋さんの店さきで、残ったメニューの絵をながめながら、いいました。「こっちの、モンブランナッツいりのココア・アイスクリームも、おいしそー! なんでみんな、いなくなっちゃったのさ! 食べたかったのにー!」

 

 (じだんだをふんでくやしがるライアンをロビーがなだめていた)そんなときのことです。ロビーはふいに、だれかの声をきいたような気がしました。ベルグエルムとフェリアルは、ずっとむこうの本屋さんの中をしらべているところでしたし、話し声がここまできこえるはずもありません。それにその声は、あきらかに、かれらの声とはちがっていました(もちろん、ライアンの声でもありません)。 

 

 ロビーはあたりを見まわしてみましたが、自分たちいがい、この広場にはだれもいるはずもなさそうでした。家々のまどや、てんじょうの木々のえだや、葉っぱにいたるまで、すみずみまで目をこらしてみましたが、やっぱりだれもおりません。ですが、そこでロビーはまたしても、その声をきいたのです。それはだれかが、二、三人で話しあっているような声でした。

 

 

 「騎士みたいだぞ、ほんとうにいいのか?」男の人の声がきこえました。

 

 「だれだろうがかんけいない。おきてを忘れたか。」もうひとりの男の人がつづけました。

 

 「むりだよ、やめようよ。」こんどは、それよりおさない感じの声がしました。どうやら、子どもの声。小さな男の子のようです。

 

 「だめだ。いいか、さっきいった通りだ。おまえがいけ。うまくやるんだぞ。」

 

 

 声はロビーの頭の中に、ちょくせつひびいてくるかのようでした。その声はとぎれとぎれな感じで、話している内ようもくわしくはきき取れませんでしたが、ロビーはなんだか、いやな感じをおぼえたのです。どうもなにかの悪いそうだんをしているように、きこえたからでした。そして話し声は、それっきり、ぱったりときこえなくなってしまったのです。

 

 ロビーはこのことをライアンに伝えようとしましたが、ライアンはあいかわらず、こんどはべつのお菓子屋さんのかんばんメニューである、「クリームいりの、森ペンギンのかたちをしたやき菓子」にむちゅうになっていて、とても話を切り出せるような感じではありませんでした。ですからロビーは、ベルグエルムたちにそうだんしてみようと、ひとり、かれらのいるむこうの本屋さんにまで、てくてく歩いていくことにしたのです(とりあえず、ライアンのことはそっとしておくしかありませんでした)。

 

 「どうしました? ロビーどの。」ベルグエルムとフェリアルが、本屋さんで地図をしらべながら、はいってきたロビーにむかっていいました。

 

 「だれかの声を、きいたような気がしたんです。どこで話していたのか? それはわからないんですけど……。三人くらいで、ぼくたちのことについて、話しあっていたみたいなんです。この近くに、いるのかも。」

 

 ロビーは半分、自信なさげにいいましたが、ベルグエルムたちの反応は大きなものでした。

 

 「それはありがたい! この森にはまだ、住人がいるんですね!」フェリアルが思わずさけびました。

 

 「うむ、これは思いがけないことだ。さっそく、かれらをさがしにいこう。」ベルグエルムも、うれしそうにつづけました。

 

 しかし、ロビーの気持ちは、まだもやもやとしたままでした。いやな感じはあいかわらずつづいておりましたし、声のぬしであるかれらが、はたしてほんとうに自分たちを助けてくれるものなのかどうか? ロビーにはなんとも、はんだんがつかなかったのです。

 

 そんな、おりもおりのこと。その声はそのたてものの入り口の方から、とつぜんきこえてきました。

 

 

 「あなたたち、旅の人?」

 

 

 騎士たちはとっさに、腰の剣に手をかけてけいかいしました! ですがすぐに、その手をひっこめることとなったのです。それはつまり、入り口のそとに立っていたのは、いがいにも、小さな十さいくらいのとしの、ひとりのかわいらしい男の子だったからでした。

 

 その子はきいろいセーターに茶色のズボンすがたの、きつねの種族の男の子でした。肩くらいまでのびた長めのかみを、頭のうしろでむすんでおります(かみの色はきいろがかった茶色。まさにきつね色です)。頭の上にはきつねの耳。おしりからは大きなきつねのしっぽ。小さな茶色いかばんを肩からたすきがけにかけていて、そのかばんには白くてふわふわしたまるいかざりがひとつ、つけられていました(これは森ペンギンの羽毛から作られていました)。

 

 「きみは、どこからきたんだ? この森の住人かい?」ベルグエルムが男の子にたずねました。

 

 それに対して、きつねの男の子はずっとにこにこした顔のまま、こうこたえたのです。

 

 「そうだよ。ここからすこしいったところに、ぼくたちフォクシモンたちの村があるんだ。あなたたちはだれ? なにかこまってるの?」

 

 こんどはこの男の子の方が、旅の者たちにしつもんをしました。ちなみに、フォクシモンというのは、かれらきつねの種族の者たちのことをさす、よび名です(ウルファ、シープロン、カピバル、オーリン、そしてフォクシモン。種族のよび名も、けっこう出ましたね)。

 

 「わたしたちは、東の地から、わけあって、旅をしている者だよ。モーグまでいきたいんだが、道がわからないんだ。だれか、力になってくれる人はいないかな?」ベルグエルムがこたえました。もちろん、旅のもくてきのことは、かんたんにはしゃべるわけにはいきません。ただの旅人のふりをするのが、ここではいちばんいいのでした。

 

 「それなら、ぼくの村においでよ。みんな、いい人ばかりだよ。村長さんにたのめば、ロザムンディアのいせきまで、あんないしてくれると思うから。」きつねの男の子が、あいかわらずにこにこした顔のままで、そういいます(ところで、きつねの種族のかれらは、モーグのことをロザムンディアのいせきとよんでいるようですね。モーグというよび名は、もともと南のくにで作られたよび名でしたから、かれらはそのよび名のことを、知りませんでした。ですから、「モーグってなに?」という男の子に、ベルグエルムが「かつてロザムンディアとよばれていた、まちのことだよ。」と説明したことで、「なあんだ、ロザムンディアのいせきのことかあ。」ということになったというわけなのです)。

 

 もちろん、旅の者たちは、その申し出をよろこんで受けることにしました。ですがロビーだけは、やっぱりいまだに、しっくりこなかったのです。それにこの子の声は、さっき頭の中にきこえてきた、あの男の子の声ににておりましたから。それでロビーは、ためしに、こうきいてみたのです。

 

「ねえ、きみはさっき、だれかといっしょにいた? ぼくたちのことを、話していなかったかな?」

 

 これをきいて、きつねの男の子はいっしゅん、どきっとしたように見えました。しかしあいかわらず、にこにこした顔に変わりはありません。男の子はロビーにむかって、こうこたえるばかりでした。

 

 「やだなあ、ぼくはひとりだよ。この広場は、ぼくのかっこうのあそび場だからね。大人たちはあぶないからきちゃだめだっていうけど、そんなことないよ。そんなことより、さっ、あんないするから、早くぼくについてきて。」

 

 こうして、旅の者たちはこの新しく出会ったきつねの男の子といっしょに、かれらフォクシモンたちの住む村へと、むかうことになったのです。

 

 「ぼくは、チップリンク・エストルっていうの。チップでいいよ。よろしくね!」

 

 ところで、だれかをひとり忘れているような……、あっ! そういえば、ライアン! みんながライアンのことをさがしに、お店のならんでいる場所までもどると……、かれは今、さまざまなフルーツキャンディーをあつかったせんもん店の前で、ショーウィンドーの中の見本をうっとりしながら、ながめているところでした。

 

 

 フォクシモンたちの村は、広場からいくらもいかないところに、ひっそりとかくれるようにしてありました。村のまわりは木でつくられたかべにぐるりとかこわれていて、そのさまはまるで、とりでのようでした(なにかりゆうがあるのでしょうか?)。入り口の門のまわりには、たくさんのきつねの種族の者たちの見張りが立っていて、その手にはみな、大きな弓矢がかまえられております。そのようすをひとめ見たみんなには、なんだかこの村が、とてもぶっそうな感じに思えました。ですが近くによってみると、その見張りの人たちはみな、きつねの男の子チップと同じようににこにこ笑っていて、とてもあいそよく、旅の者たちのことを出むかえてくれたのです。

 

 「ようこそ、フォクシモンたちの村へ! さあ、どうぞゆっくりしていってください! 食べもの、飲みもの、なんでもありますよ!」

 

 そのあまりのかんげいぶりに、旅の者たちはちょっと、びっくりしてしまいました。ですが、そんなみんなのことをうしろからぐいぐいおしながら、チップはこういって、みんなのことを、村の中へとまねきいれるばかりだったのです。

 

 「みんな、お客さんがめずらしいんだ。ちかごろじゃ、だれもこの森にはやってきてくれないからね。さあ、はいってはいって。ゆっくりしていってよ。みんな、いい人ばかりだよ。」

 

 こうしてみんなは村の中へとあんないされましたが、人々の明るさとはうらはらに、村の中はなんだかさびれていて、暗い感じがしました(てんじょうはやっぱり、木々のえだと黒い葉であつくおおわれておりましたので、ふつうに暗かったのですが)。木とわらで作られた家々は、みんなもうずいぶんとくたびれている感じで、中にはだれも住まなくなったまま、ぼろぼろにうちすてられている家まであったのです。

 

 そんな中でたくさんのフォクシモンの人たちが、みんな笑顔で、旅の者たちのことを出むかえてくれましたが、その笑顔はなんだかぎこちなくて、心から笑っているようには見えませんでした。そしてなによりふしぎに思ったことは、みんな旅の者たちが今日ここにやってくるのだということを、はじめから知っていたかのように、じゅんびばんたん、かんげいの用意がととのえられているということだったのです(小さなはたをぱたぱたとふって、出むかえに出ている人たちの、頭の上には、「ようこそフォクシモンの村へ!」と書かれた、大きなまくが張りめぐらされておりましたし、そのまわりには色とりどりの、きれいなはたやかざりものまで、たくさんかざりつけられていました。

 

 その場ちがいな、はなやかさからいっても、それらはどう見ても、ふだんからこの村にいつもかざってあるものなのだとは、とうてい思えませんでした。チップにきいてみても、「たまたま旅人かんげいまつりのおまつりのときに、みんながやってきた」というわけでもないそうですし、「ほかにべつのお客さんがきていた」というわけでも、なかったのです。これはやっぱり、旅の者たちみんなのためだけに、じゅんびされたものなのだということでした。いったいいつのまに、じゅんびしたのでしょうか?)。

 

 そんな大かんげいのまっただ中を、旅の者たちは(ちょっといごこちが悪そうに)歩いていきました(ライアンだけは大手をふって、にこやかに、出むかえの人たちのかんげいにこたえておりましたが)。そしてみんなは、村のまん中にあるいっけんの大きな家の前に、あんないされたのです。その家はほかの家とはちがって、すべてまるたでつくられていて、つくりもがっちりとしていました(いわゆるログハウスを思い浮かべてもらえれば、それに近いと思います)。そしてその家の入り口の前に、旅の者たちのことを出むかえるかたちで、三人のきつねの種族の者たちが立っていたのです。

 

 「みんな、こちらがこの村の村長さんだよ。」チップがみんなに、村長さんのことをしょうかいしました。村長さんは、もうかなりのおとしよりで、手にはよくみがかれた、きれいな木のつえを持っております。うっすらときいろを残した白い毛の色をしていて(これはとしを取って、毛の色が白くなってしまったのです)、さまざまなししゅうのなされた、りっぱなチョッキを着ていました。

 

 「村長さん、この人たちは、旅の人たちなんですって。道にまよっていたみたいだから、つれてきました。力を貸してあげてくれますか?」

 

 チップの言葉に、旅の者たちはみんなぺこりと頭を下げて、それぞれがまず、じこしょうかいをおこないました(これはお客さんとしての、れいぎでした)。そして村長さんは、そんなみんなのあいさつをにこにこしながらきいたあと、自分もまた、あいさつをしてかえしたのです。

 

 「うむうむ。よく、きなさったな。わしは、この村の村長をつとめております、ランドン・ホップという者ですじゃ。こっちは、そうだんやくの、ティッドーとロラじゃ。」村長さんはそういって、そばについているふたりのことをしょうかいしました。ふたりともかなりたくましい感じの男の人で、きつねの種族ではあるものの、背たけはウルファの騎士たちに、ひけを取らないくらいだったのです。

 

 「ここにきたからには、どうぞご安心ください。なんでも、あなたたちののぞみ通りにいたしましょう。」そうだんやくのふたりがていねいにおじぎをして、旅の者たちにいいました。

 

 そしてさいごに、村長さんがみんなの手を取りつつ、こういって、旅の者たちをその家の中へとまねきいれたのです。

 

 「ささ、どうぞ中へ。かんげいのうたげの席ならば、もうすっかり、ととのえられておりますでな。もちろん、あなた方だけのために、とくべつに用意させましたのじゃ。お酒などはいかがです? わが村じまんの宝石の実から作ったくだもの酒が、たっぷり用意してありますでな。おなかがおすきなら、でき立ての肉の料理も、きのこの料理も、たくさん用意してありますぞ。」

 

 

 こうしてみんなは、家の中へとあんないされましたが、ロビーも騎士たちも、なんだかしっくりこない感じでした。今ここについたばかりだというのに、自分たちのためのかんげいのうたげの席が、すでにととのえられているとは、いくらなんでも話ができすぎています(だって、みんながこの村の近くにやってきてからここまで、時間にしたら、ものの五分もたっていませんでしたから。村のはなやかなかざりつけのこともふくめて、そのあいだにうたげの席をととのえて、でき立ての料理まで用意してしまうなんて、やっぱりおかしいですもの。えんかいの場だけなら、ふだんからいつもじゅんびしてあったとも、いえなくもないのですが、お料理はむりですよね。だれかのたんじょうパーティーが、きゅうきょとりやめになったので、その席や料理をさいりようしているというわけでもなさそうでしたし)。

 

 「なんだか、変だと思いませんか?」

 

 ロビーが村長さんたちにきこえないように、そっと、前をゆくベルグエルムとフェリアルのふたりにいいました。さきほどの広場でのあのふしぎな声をきいてからというもの、ロビーの頭の中には、もやもやとしたいやな感じが、ずっと消えずに残っていたのです。

 

 「わたしもそう思います。なにか、おかしな感じです。」ベルグエルムが同じく、ロビーにそっといいました。「ですが、今はかれらにたよるしかないのも、また、じじつです。しばらくは、ようすをうかがってみるほかはないでしょう。」

 

 「かれらはどうも、しんようできません。」フェリアルもまた、ふたりと同じ気持ちのようでした。「みんななにかを、かくしているみたいだ。」

 

 「用心しておくに、越したことはないな。」フェリアルの言葉に、ベルグエルムもうなずいてこたえます。「かれらの行動には、気をくばっていかなくては。」

 

 そんな中、みんなのあいだにわってはいったのは、ライアンでした。

 

 「とりあえず、用心はしておくってことでさ、」ライアンは、みんなの顔をのぞきこむと、にこっと笑っていいました。「かんげいしてくれるっていうんだから、ここは、ありがたく受けようよ。」

 

 それからライアンは、前を歩いていく村長さんたちの方にかけよると、そうだんやくのふたりにむかって、にこやかに話しかけたのです。

 

 「ね、あれはあるのかな? 広場で見た、森ペンギンのクリームいりやき菓子。ぜひ食べてみたいなあ。」(なにか考えがあるのかと思いきや、けっきょくライアンのもくてきは、これだったみたいですね……)

 

 

 そのあとみんなは、お客さんをまねくための大広間にあんないされました。テーブルはなくて、床にちょくせつ、まるいクッションがならべられていたのです(これはかれらフォクシモンたちのしゅうかんで、かれらは食事をするときにも、テーブルを使わないのです)。そして旅の者たちは、その中でももっともえらい人たちがすわる、いちばんいい席に通されました(まん中がランドン・ホップ村長で、その両がわにふたりずつ、かれらはすわっていました)。

 

 かれらがすわってまもなく。たくさんの人たちがやってきて、まるいクッションはすぐにいっぱいになりました。みんな、フォクシモンのでんとう的な衣服に、着がえております。赤、青、きいろ、さまざまな色のおりこまれたチョッキが、なんともはなやかでした。

 

 席がいっぱいになったところで、こんどはごちそうのとうじょうです。みんなの席の前に、あたたかいごちそうがもりつけられた大きなお皿が、つぎからつぎへとはこばれてきて、もう床の上は、お皿とカップと飲みもののびんなどで、いっぱいになってしまいました。ごうか、ルンルン鳥のまるやきにはじまって、とく大のたまごやきに、ゆでたまご。うずらの肉のからあげに、ぱりぱりジューシーなとくせいフライドチキンがどっさり。ぴりりとからいソースをかけた、チキンステーキのフォクシモン風まで(鳥のお料理ばっかりですが、きつねの種族であるかれらフォクシモンたちは、鳥とたまごが大好物だったのです)。

 

 さらに、肉を食べないライアンのためにも、たっぷりのマカロンきのこのいためものや、森キャベツのにこみ料理。ポテトパイのジュエリーソースがけ、などなど。とてもしょうかいしきれないくらいのみごとな料理たちが、目の前にならべられていました(ライアンのきぼうの、森ペンギンのかたちをしたお菓子も、山もりになって出されました。もっとも、まさかこんなリクエストがあるなどとは、村の人たちもよそうしておりませんでしたから、これらのお菓子は、きゅうきょ、大あわてで作られたのです。そのため、中のクリームがはみ出しているものも、けっこうあったんですけど……)。

 

 「旅のみなさん方のけんこうと、旅の安全を願って。」ランドン村長が、手にしたカップをかかげて、かんぱいのおんどをとりました。そのカップには、さっき村長さんがいっていた、宝石の実のくだもの酒がはいっていたのです(まだ旅のとちゅうでしたし、旅の者たちはできればお酒はえんりょしたかったのですが、まずはいっぱい、お酒でかんぱいするのが、旅人をもてなすフォクシモンたちのならわしなのだといわれて、ことわることができませんでした。さすがにライアンとロビーは、まだお酒を飲めるねんれいではありませんでしたから、同じ宝石の実から作ったジュースで、かんべんしてもらいましたが)。

 

 かんぱいがすむと、それからはもう、飲めや歌えの大さわぎです。さまざまながっきを持ったきつねの音楽隊がやってきて、部屋の中を楽しげな音楽でいっぱいにしました。それにあわせて、はなやかな衣しょうに身をつつんだおどり手たちが、フォクシモンのでんとう的なダンスをおどりはじめたのです。

 

 えんかいの席はほんとうに明るく楽しく、人々もみんな、笑ってしゃべって、じつに楽しそうでした。しかし、ロビーをはじめとする旅の者たちは、それでもなお、いぜん、しっくりこない気持ちのままだったのです(ライアンだけは、まんめんの笑顔で、両手に持ったお菓子においしそうにかぶりついておりましたけど)。こんなにたくさんの料理が、みんなが席についたのとほとんど同時に出てきたのも、やっぱりどうにもおかしなことでした。だってそれらのお料理は、どれもたいへんなてまがかかっているようなものばかりで、えんかいがはじまるのを前もって知ってでもいないかぎり、すぐに用意できるようなものでもありませんでしたから(たまたま料理コンテストがひらかれていて、その料理を使っているというわけでもなさそうでしたし。もっとも、森ペンギンのお菓子だけは、前もって用意してなかったわけですけど)。

 

 それに旅の者たちは、ランドン村長をはじめ、みんなからまったく、身の上のことなどについてきかれませんでした。ふつうだったら、「どこからきて、どこへいくのか?」とか、「旅のもくてきは?」とか、いろいろきかれてもおかしくありません。ですがフォクシモンたちは、旅の者たちのことについてはまったくかんしんがないといったふうに、みんなにはいっさい、しつもんをしてこなかったのです(これも、かれらフォクシモンたちのしゅうかんなのでしょうか?)。ぎゃくに旅の者たちの方から、自分たちのことについてかれらに説明しようとしたくらいでしたが、かれらは「まあ、そんなことはいいじゃありませんか。さあさあ、とにかく、ゆっくりしていってくださいな。」といって、とりあってくれませんでした。

 

 しかし、手あつくもてなしてくれるのはありがたいのですが、旅の者たちも、そんなにゆっくりしているわけにもいかないのです。なにしろ、さきを急がなければならない旅です。早くモーグまであんないしてもらうようにたのまなければ、いつまでたっても、この村に足どめされてしまうことにもなりかねません。

 

 「あの、ランドン村長。」うたげのもり上がりがいっこうにおさまらないのを見て、ベルグエルムがたまらずに、ランドン村長に話を切り出しました。

 

 「かんげいを心よりかんしゃいたしますが、われらはわけあって、さきを急がなければならない身。まことにきょうしゅくではありますが、われらはもう、出かけなくては。モーグ、ロザムンディアのいせきまで、どなたかにあんないをお願いしたいのです。」

 

 これをきいて、ランドン村長はにこにこした顔をひっこめて、急にまじめな顔になりました。それからランドン村長は、そうだんやくのティッドーとロラの方をむいて、小さくうなずいたのです。

 

 「申しわけないが、」ランドン村長が前をむいたまま、ベルグエルムにいいました。「これは、われら、はぐくみの森に住むフォクシモンたちの、おきてなのですじゃ。このおきてを破れば、この村も、われらフォクシモンたちのでんとうも、みな、風の中に消えてしまうことになるじゃろう。われらははるかなむかしから、この森に住みつづけてきた。あのかいぶつがあらわれる、そのずっと前から、われらはこの森に住んでいたのじゃよ。森はすたれ、人々はみな、あのかいぶつのことをおそれて逃げていった。残ったのは、われら、フォクシモンたちだけじゃ。じゃが、われらには、この土地を見すてることなどはできん。この森には、われらのせんぞの、たましいが眠っておるのじゃ。」

 

 ランドン村長がなんのことを話しているのか? ベルグエルムにはよくわかりませんでした。あのかいぶつとは、なんのことなのでしょう? そしてベルグエルムがそう思っていたときのことです。ベルグエルムはあたりのようすが、だんだんおかしくなってきたということに気がつきました。景色がぼんやりとしてきて、人々のすがたも、ゆがんで見えはじめてきたのです。いったいこれはどうしたことでしょう? しかしベルグエルムには、すぐにそのわけがわかりました。これは、まわりのもののせいではありません。自分自身の目が、かすんできていたのです! ベルグエルムは目をごしごしとこすって、なんとか景色をもとにもどそうとしましたが、むだな努力でした。しだいしだいに、目の前がぐるぐるとまわりはじめました。音楽の音色が、頭の中にちょくせつ、がんがんなりひびいてくるかのようでした。おどっている人たちのすがたが、まるで夢の中のできごとであるかのように、ゆらゆらと、かげろうのようにうつっていました。

 

 「この運命にしたがわなければ、わしらは生きてはゆけないのじゃ。あなた方には申しわけないが、これも運が悪かったと、あきらめてくだされ。」

 

 しまった……! ベルグエルムはなにもかもに気がついて、なんとか立ち上がろうとしましたが、すでに手おくれでした。手足にまったく、力がはいりませんでした。そして、うすれていくいしきの中で、かれがさいごに見たものは、同じように床にたおれこんでいく、ロビー、フェリアル、ライアン、三人の仲間たちのすがただったのです。

 

 

 どこからか、ひゅうひゅうとすきま風がはいりこんできていました。そのつめたい風がほほにあたって、ロビーは思わず、「くしゃん!」とくしゃみを飛ばしました。

 

 ロビーが目をさますと、あたりはまっくらでした。なにも見えません。からだを起こすと、ロビーには自分が、つめたい石の床の上にちょくせつ横たわっているのだということがわかりました。いったいここは、どこなのでしょう? ロビーは目をこらして、なんとかあたりのようすをうかがおうとしましたが、だめでした。ここはほんとうのくらやみで、まったくなんにも、見えなかったのです。

 

 「だれか、いませんかー。みんなー。ライアーン、ベルグエルムさーん、フェリアルさーん。」ロビーはくらやみにむかってよびかけましたが、なんのへんじもありませんでした。

 

 ロビーは急に、心ぼそくなってきました。目がさめたら、とつぜんこんなまっくらな場所で、しかも、石の床の上に寝ていたんですから、まったくむりもありません。どうしてこんなことになっているのでしょうか?

 

 ロビーはすこし前のことを思い出そうとしました。たしか……、きつねさんたちの村で、かんげいのえんかいの席にまねかれていたはず……。たくさんのごちそうが出て、ジュースを飲んで……。ロビーはそこで、あることを思い出しました。そうだ、村長さんとベルグエルムさんが、なにかを話していたんだった。そこで……。ロビーはそのとき、ついに、自分が今こんなじょうきょうにおちいっているそのわけのことを、思い出したのです。

 

 そうだ! ぼくはあのとき、なんだか気分が悪くなって、目の前がぐらぐらゆれて、そのまま気を失ってしまったんだ! そしてベルグエルムさんも、同じようにふらふらしていた。思い出したぞ。

 

 そこから考えられるこたえは、(ふつうに考えれば)ひとつだけでした。食べすぎて気分が悪くなったので、きつねの種族の人たちが、この場所に寝かせてくれた……、わけではありません。つまり、だまされたんです! どんなねらいがあって、自分のことをこんなくらやみに放り出していったのか? それは今のだんかいではぜんぜんわかりませんが、よいもくてきのためであるはずもありません(それにおそらく、ほかのみんなも同じような目にあわされているはずだと、ロビーは思いました。この近くにいるのでしょうか?)。そして、そのよからぬもくてきのために、かれらははじめから、ロビーたち旅の者たちのことをだますつもりで、自分たちの村にさそいこんだというわけだったのです。

 

 ロビーははじめから、なんだかいやな感じを持っていました。そしてそのいやな感じが、このようなかたちで、げんじつのものとなってしまったのです。思えば、ロビーが広場できいたあの頭の中にひびいてきた会話は、かれらの悪だくみのそうだんでした。あのきつねの男の子、チップリンク・エストルも、そんなかれらの仲間のうちのひとりだったのです(そしてやっぱり、あのときの男の子の声はチップだったのです)。

 

 ですが、それがわかったとしても、今のこのじょうきょうが変わるというわけでもありませんでした。あいかわらず自分のからだは、まっくらなこの夜の底のような場所に、投げ出されているままなのですから。

 

 ロビーは泣きたくなってきました。ですが、べそをかいていてもしかたありません。とにかく今は、(どこにいるともしれないみんなのためにも)このじょうきょうをまず、なんとかしなければならなかったのです。

 

 ロビーは自分のからだを、ぱたぱたと手でさぐってみました。今までと変わらないように思えます。けがもしていません。こんどは、あたりの床を手さぐりでしらべてみました。つめたい石の床のかんしょくが、ゆびさきに伝わってきます。するとすぐに、ロビーは自分の寝ていた場所のとなりに、なにかがあるのを見つけました。それはどうやら、ぬのでできたかたまりと、ひとふりの剣のようであったのです。それらをさぐっているうち、ロビーにはそれらのものが、自分の持ちものであるのだということがわかりました。ぬののかたまりは、ロビーのかばんと、スネイルにおくられたあのたいせつなリュックでしたし、剣はもちろん、同じくスネイルからおくられた、あのだいじな剣だったのです(にもつの中身もちゃんとあるようですし、剣もしっかりと、さやにおさまっていました。これはたいした発見です!)。

 

 ロビーはとりあえずほっとして、剣を腰につけ、かばんとリュックを身につけました。そしてそれから、あたりのようすをしらべるために、ゆっくりと手さぐりをしながら歩きはじめたのです。なにしろ自分がどんな場所にいるのか? ここが部屋の中なのか、ろうかなのかさえも、まったくわかりませんでしたから、そうするほかはありませんでした。

 

 そのとき、ロビーはふと、自分のリュックの中にあかりがあったのだということを思い出したのです(それはもちろん、スネイルにおくられたたくさんの品物のうちのひとつだったのです)。もっと早く気づけばよかった! ロビーはほっと息をついて、くらやみの中でリュックの中に両手をいれました。手さぐりで、はいっているものの品さだめをおこないます。ロープに……、せんめん用具のセット……。これは……、きゅうきゅう用具のはこです。ですが、いくらさぐっても、かんじんのあかりであるランプと油と火を起こすための小ばこだけが、どうしても見つかりませんでした。ロビーはあせって、リュックの底まで手をいれて、すみからすみまでかきまわしてみましたが、けっかは同じことでした。あかりをともすために必要な道具が、すべてなくなっていたのです!

 

 これはつまり、ロビーのことをここに放り出していった、フォクシモンたちのしわざにちがいありませんでした。かれらはくらやみを消すために必要な道具を、すべてロビーのにもつの中から、持ち去っていったのです(それにしても、なぜあかりだけを持っていったのでしょうか? ロビーのことをこまらせるためならば、ほかのにもつも全部、持っていってしまえばいいことですのに。武器である剣やほかの品物は、みんな残したままなのには、なにか意味があるのでしょうか?)。

 

 「ひどい、どうしよう……」

 

 ロビーはこまり果てました。もうこうなったら、このなにも見えないくらやみの中を、手さぐりのままで進んでいくほかはないのです。

 

 ロビーはかくごをきめて、リュックを背おいなおしました。そしてそれからロビーは、一フィートさきも見えないこのくらやみの中へとむかって、ゆっくりと歩き出していったのです。

 

 そのとき……! ロビーは自分の腰のあたりがぼんやりと光っているということに、気がつきました。見ると、剣のねもとのあたりが、青白く光っていたのです! ロビーはびっくりして、剣のつかに手をかけて、そのやいばをすこしだけぬいてみました。それと同時に、ロビーの目に飛びこんできたものは……。

 

 青白くかがやく、明るい光! なんと、剣のやいば全体が、なんともしんぴ的な、青白いかがやきを放っていたのです!

 

 「この光は、黒騎士たちと戦ったときの、あの光と同じだ!」

 

 ロビーはその光を見て、セイレン大橋の上でのあのおそろしいたいけんのことを、思いかえしていました。そしてロビーは、そのときに仲間たちがいってくれた言葉のことを、ここでふたたび、思いかえしていたのです。

 

 その剣は、われらのことを助けてくれたではありませんか……。

 

 ロビーの中に、急に大きな力がわいてきました。それはまさしく、くらやみの中に光るきぼうの光、そのものだったのです。

 

 「この剣は、ぼくたちのことを守ってくれる!」

 

 そしてロビーはついに、その剣のやいばをすべてぬき放ちました。

 

 剣は、ぼおーっとした青白いかがやきを放っております。それはセイレン大橋の上で黒騎士をやっつけたときのような、目もくらむような明るさではありませんでしたが、それでも、このくらやみをてらし上げるのには、じゅうぶんなだけの光でした(あかりを持ち去ったフォクシモンたちも、まさか剣が光るなんて、思っていなかったことでしょう。剣のいがいな使い方、発見です!)。

 

 ですが、それにしてもいったいなぜ、この剣は光っているのでしょう? ロビーがあかりをのぞんだからでしょうか? それとももっとべつの、なにかのりゆうがあるのでしょうか? なんにせよ、今はこの光はロビーにとって、このくらやみをてらすためのあかりとして、このうえなくありがたいものとなってくれたのです。

 

 ロビーは剣を頭の上に高くかざして、あたりをてらしてみました。そしてその剣の光にてらし出されて、ロビーはようやく、自分が今、どんな場所にいるのか? かくにんすることができたのです。

 

 そこはだだっ広い、石づくりの大広間でした。てんじょうはずっと上にあって、その高さは四十フィートほどもあるように見えました。まわりはぐるりと、石のかべにかこまれております。広間のかたちは長方形で、ロビーはそのちょうどまん中の場所に立っていました。

 

 その大広間のひとつのかべに、大きなさいだんが作られていました(さいだんとは教会などにある、おいのりをするための場所のことです)。しかしロビーは剣をかざして、そのさいだんをしらべてみましたが、それはなんともいやな感じのものでした。そのわけはさいだんのちゅうおうにかざられている、ひとつの大きな木ぼりのちょうこくのせいだったのです。それはロビーが今までに見たこともない、黒くてぶきみな生きもののちょうこくでした。黒いぶかっこうなかたまりから四本のみじかい手足がのびていて、大きな口と小さなしっぽがついております。目はありません。おたまじゃくしを思い浮かべてもらえれば、それに近いと思います。ですが、おたまじゃくしのようなかわいらしさなどは、そのちょうこくからは(つまりこの生きものからは)、ぜんぜん感じられませんでした。

 

 ロビーは背すじがぶるっとしました。こんなものは、長くは見たくはありません。ロビーはいやな気持ちでそのさいだんをはなれると、こんどはまわりのかべを、ぐるりとしらべて歩いていきました。そしてほどなくして。ロビーはついに、ねんがんの出口、ここから出る石のアーチがひとつだけ、むこうのかべにぽっかりとあいているのを、見つけたのです!

 

 「出口だ!」ロビーは思わず走り出して、そのアーチにむかいました。ロビーはとにかく、この場所からそとに出たくてしかたなかったのです。

 

 アーチをくぐるとすぐ、石のろうかが右にまがっていました。どうかそとへ出られますように! ロビーはそう願って、そのろうかを右にまがりました。しかし、そこでロビーのことを待っていたものは……、まっくらなやみの中へとどこまでもつづく、果てしないほどに思われる、つめたい石のトンネルだったのです。

 

 「こんなに広いなんて……」

 

 ロビーは自分が今おかれているじょうきょうが、思った以上にしんこくであるということを知りました。いったいどこまで進めばそとへ出られるのか? それもぜんぜんわからなかったのです。終わりが見えないというのは、せいしん的にもつらいものです。まして出口だと思っていたものが、果てしないトンネルの入り口だったとわかったときなどは、なおさらでした。

 

 ロビーは仲間たちのことを思いました。今どこにいるんだろう? みんなもまた、このトンネルの中のどこかにいるんだろうか? ロビーは胸がきゅんとしめつけられました。ベルグエルムさん、フェリアルさん、ライアン。みんな、ぶじでいるんだろうか?ロビーはかれらのぶじを早くたしかめたくて、たまりませんでした(今のロビーの気持ちは、ここまでいっしょに旅をつづけてきてくれたみなさんになら、痛いほどよくわかってもらえることと思います)。

 

 かれらのためにも、ロビーはくじけるわけにはいきません。ぜったいに出口を見つけるんだ。

 

 こうしてロビーは気持ちを強く持ちなおすと、剣のあかりをかざしながら、自分の目の前に待ちかまえているそのまっくらでつめたいぶきみな石のトンネルの中へと、ひとりふみこんでいったのです。

 

 すこしいったところで、ロビーはおかしなものを見つけました。右がわの石のかべに白いペンキで、ふち取りだけの四かくいかたちがえがかれていて、その中にこんな、なんともおかしな言葉が書いてあったのです。

 

 

   「肉料理の部屋」

 

 

 いったいこれは、なんのことなのでしょう? ロビーは首をかしげてしまいました。そしてさらにその言葉のあとには、同じく白いペンキでえがかれた矢じるしがひっぱってあって、その矢じるしのむきは、さっき自分がやってきたあの大広間の方をさしていたのです。

 

 ひょっとして、ぼくのいたあの広間が、肉料理の部屋なのかな? ロビーはそう思って、ちょっといやでしたが、ろうかをひきかえして、さっきの広間の入り口までしらべにもどってみることにしました。そしてさっきはすぐにトンネルにむかったので気がつきませんでしたが、広間の入り口のアーチの上に、(ろうかの方から見たがわだけに)やっぱり白ペンキで、小さく「肉料理の部屋」と書いてあるのを、ロビーは見つけたのです。

 

 ですけど、ここが肉料理の部屋だといわれても、ロビーにはさっぱりでした。それらしいものはまったくありませんでしたし、ごはんを食べるためのテーブルやいす(フォクシモンのりゅうぎならば床におかれたクッション)なども、ぜんぜんありませんでしたから(まさか、あのきみの悪いさいだんでごはんを食べるわけもありませんよね)。

 

 けっきょくロビーは、ぎもんには思いながらも、さきに進むことにしました。とにかく今は、こんなものにかまっている場合ではありません。早くそとに出なければ。ロビーははやる気持ちをおさえながら、ひとり、トンネルの中を進んでいきました。

 

 やがてロビーは、道がふたつに分かれているところにたどりつきました。道は右と左に、それぞれまっすぐのびていたのです。どちらの道もくらやみに通じていて、さきのようすはぜんぜん見通せません。そしてここにもまた、さきほど見たのと同じ、なぞの白いペンキの文字が書いてあるのを、ロビーは見つけました。

 

 まずロビーが今歩いてきたつうろの右がわのかべに、うしろのトンネルの方をさして、「肉料理の部屋」という文字が書いてありました。これはさっきの部屋のことですから、今までと変わりありません。そしてそれとはちがう新しい文字が、こんどは、分かれ道のつきあたりのかべに書いてあったのです。

 

 

   「デザートの部屋」

 

 

 肉料理のつぎは、デザート? これじゃまるで、レストランかなにかです。そして文字のあとにはやっぱり、白い矢じるしがひっぱってあって、それは右のほうこうをさしていました。ロビーは右のトンネルに剣のあかりをかざして、さきのようすを見ようとしましたが、くらやみはどこまでもつづいているばかりで、やっぱりなんにも見えませんでした。ですがロビーはなんだかそこに、とてもだいじなものがあるような気がしたのです。なぜだかはわかりませんでしたが、ロビーの心の中で、なにかがさわぎました(こんなときには、なにかがあるにきまっています!)。

 

 ロビーはその気持ちにしたがって、右のトンネルを進んでいくことにしました。このさきにだいじなものがあるという気持ちは、どんどん大きくなっていくばかりです。やっぱりこのさきに、なにかがあるにちがいない。ロビーはそうかくしんして、この暗いトンネルの中を足早に進んでいきました。

 

 それからあまりいかないうちに、つうろは右にまがっていました。ロビーがおそるおそる、まがりかどのさきにちょこんと顔だけを出してのぞいてみますと、そこからすぐのところにひとつの石のアーチがあって、どこかの部屋の中へと通じているようでした。そしてロビーはそのアーチの上に、思った通り、白いペンキの文字で「デザートの部屋」と書いてあるのを、見たのです。

 

 この部屋からだ。中に、だれかがいる! ロビーはとっさにそう思いました。さきほどから感じている、だいじななにか。それは物ではなくて、自分にとっての「だいじなだれか」にちがいないと、このときロビーは、はっきりと感じ取っていたのです。

 

 ロビーは剣をかざして、部屋の中をのぞきこみました。ロビーがたおれていたあの肉料理の部屋ほどは、大きくはないようです(やっぱり肉料理はいちばんのごちそうでしたから、部屋も大きいのでしょうか?)。そして部屋のすみには、さっきの部屋にあったのと同じようなさいだんが、作られていました。

 

 そしてそして、そんなものはどうでもいいのです! そんなものに、かまっている場合ではありません! 

 

 部屋をのぞきこんだロビーがまっさきに見たもの。それは部屋のまん中の床にあおむけにたおれている、ひとりのある人物。白くてきれいな服を着て、お菓子のたっぷりつまったかばんを、いつも肩からかけている人物。そう、それはまさしく、ライアンだったのです!

 

 「ライアン!」

 

 ロビーはもう、むがむちゅうで、ライアンにかけよりました(思わず、あかりのともった剣をそこらへんに放り出してしまったくらいです。この剣もとってもだいじでしたが、やっぱりライアンにくらべたら、かれの方がだいじですもの)。

 

 「ライアン、しっかりして! だいじょうぶ?」ロビーはライアンのからだをつかんで、ゆさゆさとゆさぶりました。はたしてライアンは、ぶじなのでしょうか? まさか、死んで……、はいませんから、ご安心を! じっさいかれはただ寝ているだけで、けがひとつしていなかったのです。

 

 「う~ん……、あと五分……」

 

 ロビーのひっしのよびかけにかえってきたのは、なんともまのぬけたへんじでした(ついさいきん、どこかできいたようなせりふですけど……)。ですが、そんなライアンの言葉に、ロビーは心の底からほっとしたのです。はじめ、ライアンが床にたおれているのを見たときには、ロビーは、しんぞうがこわれてしまわんばかりでしたから。

 

 「よかった! ほんとうによかった!」ロビーはライアンがぶじであるということを知って、これ以上はないというくらいによろこびました。ほんとうにロビーは、ライアンの身のことを、いちばんに心配していたのです(ベルグエルムとフェリアルのことも、もちろん心配していましたけど)。ロビーは思わず、ライアンのことをぎゅっとだきしめてしまいました(それでも、からだの大きさがちがいましたから、あんまり力をいれすぎないようにかげんしましたけど)。

 

 「ライアン、起きて。早く、ここから出よう。」

 

 ロビーがそういって、ライアンのことをもういちどゆさぶります。するとライアンは、ようやく目をさまして、あたりをきょろきょろと見渡してからいいました。

 

 「あれ……、ロビー、おはよー。まだ、朝じゃないみたいだけど、どうしたの? ここ、どこ?」

 

 どうやらライアンは、まだ自分のおかれているじょうきょうが、ぜんぜんわかっていないみたいです(まあ、寝起きですぐじゃ、むりもありませんけど)。眠そうな目をぐりぐりとこすって、「ふああ。」と小さなあくびをしました。

 

 それから。ロビーは今自分たちのいる場所のことや、これまでのことなどを、ライアンにみんな話してきかせたのです。もちろんロビー自身も、今のじょうきょうのことについては、わからないことばかりでした。ですがそれでも、自分たちがきつねの種族であるフォクシモンたちにだまされて、今こんな目にあっているのだということだけは、まぎれもないじじつだったのです。

 

 ロビーの話をきいているうちに、だんだんライアンも、目がさめてきたようでした。そしてしだいに、今のじょうきょうのことをりかいすることができていって、いちばんおしまいのころには、かれはもう、すっかり頭にきてしまっていたのです。

 

 「あいつらー! よくもだましたなー!」ライアンはフォクシモンたちにだまされたということを知って、ぷんぷん怒りました(もしも今、そばにたき火のほのおがあったのなら、あたりいちめんにほのおのうずがまき起こっていたかもしれません。こういうときのライアンって、とってもこわいんです!)。 

 

 「ライアン、おちついて。とにかく今は、そんなこといってる場合じゃないよ。」そんなライアンのことをなだめて、ロビーがおちついていいました(さすがはきゅうせいしゅです)。「早く、出口をさがさないと。それにたぶん、ベルグエルムさんとフェリアルさんも、このトンネルの中のどこかにいるんだと思う。みんなでいっしょに、ここをぬけ出すんだ。」

 

 「……うん、そうだね。」ロビーの言葉に、ライアンもおちつきを取りもどしてこたえます。

 

 「ふたりを、助けなきゃ。それができるのは、ぼくとロビーだけだもの。」

 

 そしてライアンは、自分のにもつ(ほとんどお菓子でしたが)をしっかりとかかえなおすと(そしてやっぱり、あかりはすべて持ち去られていました)、ロビーのうでにぎゅっとしがみつきました(これは暗いトンネルの中でまいごにならないようにするためです。べつに、デートにいくわけじゃありませんよ)。

 

 「けっきょく、ベルグもフェリーも、ぼくたちがいなくちゃだめなんだから。まったく、せわがやけるよね。」ライアンがそういって、「ふう。」と深いため息をつきました(さっきまではライアンも、かれらふたりと同じ立場でしたけど……)。 

 

 「ライアン・スタッカート部隊、いざ、しゅっぱ~つ! 今からぼくたちは、白の騎兵師団の騎士たちのことを助ける、ゆうかんなるきゅうしゅつ隊だ! ふたりには、あとでたくさん、おれいをしてもらわなきゃ。お馬さんになってもらって、背中に乗せてもらおっかな。それとも、肩ぐるまで、お城を三回まわって……」

 

 う~ん、なんだかさいごに、ぶっそうなことをいっているようですが……、まあ、とにかくこうして、ロビーとライアンのふたりによるこの小さなきゅうしゅつ隊は、さきの見えない、このまっくらなトンネルの中へとむかって、気持ちも新たにふみ出していくこととなったのです。

 

 「あっ、それから。」ライアンが急に、ロビーにむかっていいました。「ぼくが隊長で、ロビーが隊員ってことでいいよね?」

 

 むじゃきに笑ってしがみついてくる、そんなライアンのことを見ながら、ロビーはちょっぴり(というより、たくさん)、不安な気持ちになりました。

 

 だいじょうぶかなあ……。

 

 

 さてさて、このあといったい、旅の者たちはどうなってしまうのでしょうか? 

そして物語は、この夜の底のような暗い暗いトンネルの中での冒険の、もっともかくしんの部分へとむかって、つづいてゆくことになるのです。

 

 

 

 

 




次回予告。

  「たいへんだ! 早くみんなを見つけないと!」
  
      「じゃーん! これだよ。」
 
  「ぼくのことはいいから、逃げて!」
 
      「ここは、どこだ?」 


第9章「夜の底」に続きます。
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