短編。ブラックホットココア   作:さんばがらす

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てでざりぜのお話。

私は第二外国語は独語を取っていましたので、フランス語はさっぱりなんだ。今回のタイトルも何にも考えないで「てー、です、ありーつぇす」とか読んでました。

久々に開いたら一応書き切れてるかつ、次なに書こうとしてたのか忘れたので投稿。


二羽:Thé Des Alizés

intro

 

裏世界の情報? 俺の見た目が情報屋っぽいって? ハッハッハ、嬢ちゃん面白いな。

 

そうさな……喋るウサギのバー、ありったけの夢をかき集めたひとつなぎの大シスト、白い粉を運ぶ女。最近のトレンドはこんなとこだな。そんな目を輝かせたって駄目だぜ。俺が情報を売るのは小洒落たバーにいるときだけだ。紅茶屋じゃあなぁ……ハッハッハ。

 

……おっと、すまねぇ。紅茶屋じゃなくてハーブティーショップだったな。店員の嬢ちゃん。

 

すまねぇついでに注文良いか?

 

『ティー・オブ・ザ・トレードウインド』これを頼む。

 

ん? どうした相席の嬢ちゃん方。そんなカッコいい名前の茶があったのか、って?

 

貿易風のお茶……ウサ公乗っけた嬢ちゃん物知りだな。そうだよ。直訳だとそうなるみたいだな。

 

ただ、"tradewind"ってのは"ある決まった経路を吹く風"って意味もあったらしい。

 

だから、これを訳すなら……『いつも吹く風のお茶』、ってとこか。

 

このお茶はきっと爽やかで、それでいて安心感のある味なんだろう。決して『かっこいい味』なんかじゃない。

 

ん? どうしたウサ公、「仏語で言え」?ハッハッハ、こりゃ一本取られたな。

 

……おお、これがそのお茶か。どれどれ……ん?電話か。悪いな嬢ちゃん方、少し外すぜ。

 

 

Thé Des Alizés

 

 

私は、男らしいさばさばとした性格の女の子である……と自負している。

 

この性格は、元軍人の父に男手ひとつで育てられたことによるものだ。

 

父は私に、自分がいつ死んでもいいようにと、私が一人で生きていくために必要なありとあらゆることを叩き込んだ。もちろん軍隊式でだ。

 

でも、父は虐待と教育をはき違えるような破綻者ではなかったために、私はひねくれることはなかった。

 

ただ、女の子の育て方としては、そこに『女の子』らしさはいささか以上に欠如していた。

 

父もそのことを危惧していたようで、私を、いわゆるお嬢様学校に入れることでそれらを学ばせようとした。

 

結果として、お嬢様の振る舞いを身に着けることができた。しかしながら、お嬢様学校という環境は、私を決定的に拗らせもした。

 

 

女の園というのは、往々にして男性性に飢えているモノだ。

 

 

私は、可愛く、というよりもカッコ良く振舞うことを望まれた。

私に対して黄色い声援を送る彼女たちはきっと、私の『女の子』らしさには興味がないのだ。

 

その無関心へのあてつけのように、私は髪を高めのツーサイドアップにしている。いわゆるツインテールだ。この髪型は、高校生がやるには少し勇気がいる。

 

 

まぁ、その当て付けを汲む人はいなかったが。

そんなこんなで日々は過ぎ、私は、父の知り合いがやっている喫茶店のバイトを始めた。

店主の娘とも順調に仲良くなり、そこそこの日々を送っていた。

 

 

この喫茶店の中では、私は普通の女の子でいても何も言われなかった。

 

一緒に働いている店主の娘――チノは私の自律性、いわゆる大人っぽさに憧れており、私が学校で求められるような男らしさを求めなかったからだ。

 

 

そんなある日。

 

「征服♪ 征服♪」

 

軍人仕込みの私の耳が、おかしな漢字(Conquest)をあてはめているが、この際どうでもいい。

 

声だけでわかった。コイツは可愛い女の子だ、と。

 

下着姿のまま、とっさにクロゼットの中に身を潜めてしまった。いつもの外面の『かっこいい女子』を演じたくはなかったのだ。

 

だが、完全に気配を消していたにもかかわらず、彼女は私を見つけてしまった。

 

……結局、彼女はチノと同じで私に男らしい振る舞いを求めなかったのだが。

 

彼女――ココアはのうてんきそうに見えて、ひどく繊細かつ慎重な側面がある。他人から『無能である』と思われることに対しての強い忌避感などがそうだ。

 

私は、ココアが『普通の女の子』であることを羨ましく思った。

 

私にとってはその普通さが、得難い特権であるかのように思えたのだ。

 

 

だからだろうか、魑魅魍魎も恥じらう乙女・ロゼを爆誕させてしまったのは……

 

あの時は、私はリゼだと名乗る気にはなれなかった。

 

自分が今まで嫌々ながらも築いてきた、男らしいさばさばとした性格の女の子である、という自負に、自身が執着しているのに気付いた。

 

 

もはや自分は、『普通の女の子』にはなれないのだと、思った。

 

形を取り繕うことはできる、立ち居振る舞いも可能だ。でも今までの自分のイメージがそれを許さなかった。

 

 

「ハイドとジキルだなそりゃ」

 

父の仕事の関係でたまにうちに来る運送屋の壮年の男性は私のことをそう評した。

 

間違ってはいない。

 

普通(ハイド)にあこがれる女の子(リゼ)がいて、それでも周囲のイメージ(ジキル)は崩したくなくてロゼが生まれるのだから。

 

Vin rosé 

 

よぅ、調子はどうだい? 雇い主サマ。

 

あんたがこの店に俺を呼ぶなんて珍しいな。どういう風の吹き回しだ?

 

……まぁいい。報酬分の仕事はする。今回は何だ……ふむ、承知した。

 

 

――マスター、ロゼワインを頼む。

 

お、何だウサ公。『貴様にしちゃ何の捻りもない』? ああそうだな。今日は久々に『神の血』を呑んでおきたかったのさ。別に基督教じゃないがね。

 

赤(ロッソ)でも、白(ビアンコ)でもない中途半端な紅。

 

これがいいんだよ、これが。

 

赤の大人っぽさと白の飲みやすさのハイブリッド。

 

女と少女の境目。

 

なんていうと変態っぽいが、でもこの時期の女は一種の魔性を宿す時がある。

 

『恋する乙女は戦争屋』ってやつだな。

 

 

なんだ、ウサ公『本物の戦争屋風情が何を偉そうに、あと神の血は赤ワインじゃ』だと?

 

……元は運送屋だったはずなんだがね。何処でこうなったんだか、ハッハッハ。

 




主人公:長島(イメージCV秋元洋介)

コードネームはロングアイランド・アイスティー

飲み物の名前が多いごちうさ国に、同じく飲み物の名前が多いコナンの『黒の組織』が出張って来ないようにするためにリゼ父が雇った荒事専門のトラブルシュータ―。

好きな飲み物はたくさんあるが、好きな食べ物はラビットハウスの裏メニューのナポリタンであると公言している。

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