IS<インフィニット・ストラトス>-Hard Line-   作:

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霞し記憶(ホワイトアウト・メモリーズ)1

 

 IS学園教務室。

 その一角にある特別教室。

 そこから毎度お馴染みの出席簿の音が響く。

 しかし今回は少々重かったが──

 

 

 バシンバシン!

 

 

「いっ……」

「うぅ……」

 

 

 

 織斑一夏、篠ノ之箒両名は脳天に走る鈍痛に耐えながら前を向く。

 そこにはしっかりと黒いスーツを着て、目がいつになく細くなっている女性が──織斑千冬が、腕を組み直していた。

 二人の担任、なのだが、師ともとれる趣で話しはじめた。

「馬鹿者ども。逃げ遅れていたとはいえ、一般人をIS同士の戦闘に巻き込むとはどうゆうことだ。

 さらには織斑、お前のISの下敷きにして重体にさせただと?笑わせるな」

 笑いなど微塵もない顔で一夏を見る。

 一夏は小さくなっていた肩をさらに小さくさせた。

「す、すみません…」

「勝利を確信したからと言って気を緩めるな。最後の最後であのような捨て身が来ることもある」

 

 

 

 発端──

 秋にやっと差し掛かり、風が少し冷たくなった頃、身の毛もよだつ要請が日本政府から飛んできた。

 

『市街地でIS学園を襲ったものと同タイプと思われる無人機が確認された。

 軍のほうではすぐにISが動かせる状態になく、IS学園からの迎撃を頼みたい。

 尚、一般人への避難勧告は既に出ている』

 

 

 ISは元々宇宙稼働を前提に作られたものだが、その圧倒的な性能から、今や国防の要ともなっている言わば兵器だ。

 歩兵はもちろん、戦車や戦艦、空軍機などものともしない。

 そんな代物が市街地で暴れまわっていると聞いた人間はどれだけ恐怖しただろう。

 情報は早く、的確だったことから、一夏と箒はすぐさまそれぞれの専用機で飛び立った。

 そして迎撃行動は優勢で進んではいたのだが……。

 

 

 王手とばかりに一夏はその必殺の白刀、《雪片弐型》を強く握った。そして瞬時加速。

 装甲が一部破損し、先程から動きが愚鈍になっている黒い襲撃者の懐へと入った瞬間、全身に熱が走り強制的に後ろへと吹き飛ばされた。

 辛うじて腕を前に交差させ防御はできたものの、その衝撃は強く、一夏はその背中を地面に叩きつけるほど飛ばされていた。

 背中に走る激痛を耐え、目を開けるとそこには赤く染まった自らの装甲があった。

 そして自分が『何の』上に尻餅をついてるのかも───。

 一夏は自分が、自分の振るう力を、一瞬見失いかけた。

 そして───現在に至る。

 

 

 

「…はい、すみません……」

 自分が人を殺すことなどないと思っていても、実際に人をぐちゃぐちゃにしてしまったことは、気持ち悪いほど一夏の心のなかに刻まれていた。そして無意識に頭が下がる。

 

 そんな一夏を見ていた千冬は、次に箒に視線を移した。

「お前もだ、篠ノ之。何のために同行したんだ、自分の役目を忘れるな」

 役目─。白式のバックアップと援護。その中には精神面の、というニュアンスが含まれていた。

「は、はい!申し訳ありません!」

 箒は深く頭を下げた。白いリボンで結ばれたポニーテールが揺れる。

 千冬は小さくため息をつくと、二人に背を向ける。

 怒っているのか、考えているのか。しばしの沈黙は二人にとってはとても耐え難い時間だった。

 やがて千冬は静かに口を開いた。

「…先程、なんとか一命はとりとめたと、医療班から連絡がきた。

 良かったな、織斑。お前は人殺しではないぞ」

 

 人殺し───一夏は事態の大きさ、自分の行動ひとつに一つ、もしくはそれ以上の命がかかっていることを改めておもった。

 思わず流れそうになる涙を堪え、潤んだ瞳で一度千冬を見、そして頭を深く下げた。

 小さな、本当に小さな声でよかった、と何度も呟きながら。

 

 同行していたからわかることだが、箒は完全にパニックに陥った一夏を、あのとき初めて見た。あまりにも見ていられないほど落ち込んだ一夏を、一度は殴ってでも正気に戻そうとも考えていたが、自分にそんなことが許されていいのだろうかと自問自答し続けていた。

 だが今の一夏を少しでも支えることが、今の自分には、そしてこれからの自分には必要ではないかとおもった。

 そして僅かに震える一夏の肩を支えるのだった。

 

 

 そんな二人を見ていた千冬は、先程とは違うため息をつき、

「わかったら行け。お前たちは行かなければいけないところがあるだろう。

 事情聴取はいつもの3倍で勘弁してやる」

 そう言うと、彼女はくるりと背を向け、整った足音を響かせながら特別教室から出ていった。

 この時、世界最強のため息の意味が、僅かに変わったことがわかる人間がこの世に何人いるだろうか。

 

 残された二人もまた、暫く呆然としていたが顔を見合わせると、足早に特別教室から出ていった。

 

 

 

『行かなければいけないところ』

 それは今の二人には、もうわかっていた。

 

 

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