IS<インフィニット・ストラトス>-Hard Line-   作:

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今回は、バレンタイン企画同時進行のため、文字数少なめです。

申し訳ありません……。


霞し記憶(ホワイトアウト・メモリーズ)2

 

 IS学園内、医療室。

 保健室とはまた別に用意されたこの施設は、主に治療に専念しなければならない生徒や教師、時には一般人をも収容できる。

 そのためか、ベッドは普通のホテルのそれとは幾分か大きく、人が一人寝るには十分過ぎる代物だった。

 

 

 

「う……」

 そのベッドの一つを使用していた青年が目を覚ます。

 全身が重く感じているのは、ありとあらゆるところに巻かれた包帯の所為ではないだろう。

 痛い。息をするたびに脇腹をえぐられるような痛みが走る。

 何も考えられない。自分はどうしてこのような状況にいるのか。

 確か、あの全てが赤に染まった街で自分は───。

 何か、情報が欲しいと、顔を横に向けると、そこには。

 そこにはとても美しく、愛らしい一人の女性が座っていた。

 彼女はこちらに気付くことなく、うとうとと舟を漕こいでいた。

(───この人は、確か…)

 彼女の名前に目星を付けたとき、ふと気付く。

 気持ちよさそうに寝ている彼女の手に扇子があり、その扇子は膝に立ててあったのだが、徐々にズレていく。そして──

「…はっ⁉︎」

 起きてしまった。

 もう少し見ていたかった、と青年は素直に思った。

 それは彼のまだ短い人生の中で、久し振りの心からの感想だったことは、彼はこの先言うことは無いだろう。

 見たいという感想を抱いた気持ちに名前が付いてからも、また。

 

「むぅ…いけないいけない。まだやらなきゃいけないことたくさんあるんだか…お?」

 彼女はこちらの視線に気付くと、少し顔を赤らめた。

「…こら、何見てるの。おねーさんの寝顔は高いんだぞ?」

 そう言われ、初めて自分が口を無造作に開きっぱなしなのに気付いた。

「す、すいません…!」

 慌てて顔を逸らし、窓側に体ごと向けようとするが、激痛がそれを止める。

「ぐっ…!っう…」

「こらこら、大人しくしてなさい。また死にかけられちゃ困るわ」

 そう言いつつ、彼女は優しい手つきで元の位置まで彼を戻した。

 その動きに再び見惚れてしまったのは。

(何故だろうか───)

 何も言えず、ただ彼女を見ていると、気分はどう?と声をかけられた。

「えと、とりあえず、………僕は大丈夫です」

 ついつい初対面という事と、いまいち状況が掴めずに一人称が変わってしまった。

 昔からの癖はたぶん絶対に治らない。

「あの…すみません、ここは一体…?」

 痛みが走る体は未だ言うことは聞いてくれず、なんとか動かせる顔だけそちらに向ける。

 彼女は顎に手をあてながら、静かに口を開く。

「そうね、意識はしっかりしているようだし、少しお話しいいかな?」

 パンッと扇子が開かれる。そこには『覚醒』の2文字があった。

「私はここの…学園の生徒会長、更識楯無。君は数週間前、その怪我をしてここに運び込まれたの」

 ここまではいいかな?と首を少し傾ける彼女は、やはり彼の知っている人物だった。

 ゆっくりと頷く。このゆっくりとした動作は自分が考える時間を稼ぐ為のものだった。

 

 

(やはり、更識楯無。ということはここはIS学園か?今のところ判断は難しいが…ここに更識がいることが何よりの証拠。ここがIS学園の可能性は高い)

「持ち物から判断したのだけれど、あなたの名前は八房悠(やふさ ゆう)君で間違いないかな?」

「…はい」

(…苦肉の策ではあるが、このような潜入は…潜入とすら言えないな。偶然の産物だが、この場合はラッキーかアンラッキーか…)

 悠は凄まじい早さで思考を進める。明らかにその早さは常人のそれとは明らかに違っていた。

 コンピューター、もしくはそれに匹敵するほどの早さで思考の海に溺れる。

 そして彼は一つの博打に打って出た。

「起きたばかりで悪いんだけど、ちょっと質問に──」

「あの…っ」

「?」

「あの、自分が誰なのか思い出せないんです…。自分の名前はすらっと出てくるんですけど…」

「えっ…」

「僕、何かの事故にあったんですか?それとも…自分から?」

「え、ええっと…」

 そう、記憶喪失を装うことである。

 悠が考える最も苦肉の策であったが、もうそんなことを言っている余裕はなかった。

 上手く誤魔化すことなど、楯無のことを知っている人間ならば無意味ということをよく分かっていたのだ。

「ちょ、ちょっと待って…!え、記憶が…?」

「そ、そうみたいです…」

 楯無はしばらく考えた後、苦虫を噛み潰したような顔でこちらを向く。

「そう…わかったわ。とりあえず今日は大丈夫よ。

 …私は用があるからもう行くけど…悠くんはそうやって休んでなさい」

 席を立ちながらそう言うと、ね?と軽くウインクしてみせる。

「は、はぁ…」

 気の抜けたような相槌を打つと、またすぐに思考の海に入る隙を伺う。

 適当に詰めておかなければ、また聞かれた時に困る。ここはIS学園、ならば世界最強(彼女)がいることは必然だ。

 より気を引き締めなければならない。

 そう思いながら楯無の背中を見送るが、彼女が扉に近付くと、その扉がいきなり開いた。

 廊下…なのだろう。そこから揃いの制服着た二人が入ってきた。

 

 一人は整った顔立ちの青年で、その瞳には強い意思が見て取れる。

 もう一人はしっかりとした目つきをした、ポニーテールの女の子だ。

 悠は思わず目を見開いた。

 

(篠ノ之箒…!それに…織斑…一夏…‼︎)

 間違いは無い。何度も確認した顔だ。

 この世界初の男性操縦者、として通っている織斑一夏。それにこの世界唯一の第4世代機のISを駆る篠ノ之箒。

 世界中がこの二人に注目しているのだ。嫌でも注目しないわけにはいかなかった。

(…やはりIS学園だったか。この体になったのも彼の所為なのか…?)

 記憶が無いと大嘘をついた割にはなぜ体がこのような半ミイラ男化しているのか思い出せない悠だった。

 それは今悠の頭の中に任務のことしか無いからだろうか。

 何にせよ、人数が増えたということは視線がその分増えたということ。

 より一層警戒を強めながらもボロを出さないように気を引き締める悠だった。

 

 

  ◆

 

 

「一夏くん。お姉さんのお説教は終わったのかな?」

 嫌味じみた言い回しだが、それが楯無さんらしい。

「はぁ…まぁ…」

「んー?暗い顔してるなぁ…。ていっ」

 そう言うと楯無さんは俺の鼻にふに、と人差し指を押し当ててきた。

「君は笑っていて元気な方が格好いいんだから、笑いなさい」

 言っている内容は置いておくにしても、地味に命令形だ。

「は、はい」

 だがそれでも従ってしまう…。楯無さんはそうゆう人だ。

 一方で。

 

「…………」

 うわぁ…何だろう。殺気を感じるなぁ…。

 隣には仲の比較的良い幼馴染しかいないはずなんだがなぁ…。

 その幼馴染──篠ノ之箒を横目で見ると。

「……なんだ」

 すげぇ睨んでいた。他人がパッと見たら絶対に鬼神とか阿修羅とかに見えるぞ、箒よ…。

 これで竹刀とか木刀とか持ってたら完全に……

「ふんっ」

 ゴスッ

 ぐえ。手刀をまともに食らってしまった。

「今、何か失礼な事を考えていただろう」

「うんうん、箒ちゃんの言うとおり」

 ……なぜ分かる×2

「ま、それはさておき」

 楯無さんが扇子を開く。そこには『覚醒』の文字。

「例の彼、たった今目を覚ましたわ」

 声のトーンが低い。自然とこちらも声のトーンが下がる。

「大丈夫なんですか?」

「うーん、何とも言えないわね。体は何とかなりそうだけど

 あぁ、名前は八房悠くんで間違いないみたいよ」

 楯無さんは珍しく困っているようだった。

「どうかしたんですか?」

 困り顔の彼女は少し迷ったように口を開く。

「…彼、記憶が無いらしくって…」

「記憶が…⁉︎」

 

 

 一夏は無人機迎撃作戦が終わってから常に罪の意識に苛まれていた。

 一般人を巻き込み、自身のISの下敷きにして重症を負わせたことをずっと気にしていた。

 そこに、今度は記憶を無くさせたと追加されてしまっては、一夏の負の思考は更に加速の一途をたどってしまう他なかった。

 

 

「……一夏?」

 箒が覗いた一夏の顔は少しばかり陰っていたが、それが自分に助けを求めているような気がした。

 箒は少しばかりためらいはしたが、一夏の力になれることだと強く思うと共に、これからは私が一夏を支えてやるのだという少しばかり飛躍した乙女の考えが彼女の背中を押した。

 

 

「…一夏、大丈夫だ。私もいる」

 箒のその言葉に少し勇気をもらった一夏は、ゆっくりと頷いた。

「…ああ、もう大丈夫だよ、箒。悪いな、心配かけて」

「しっ心配などしていない…!お前がもうメソメソしないように声をかけただけだ!」

 それを心配というのでは…と、言おうとすると…

「はいはい、お二人さん?ここは医療室です」

 楯無さんが扇子を広げて俺と箒の間にいれる。

「あ、すいません…」

「全く…まぁ、いいわ。

 私これからちょっと用事があるの。だから彼の側についててくれる?少しでいいから」

「わかりました。元々私達が巻き込んでしまった人ですからね…」

「こーら、箒ちゃん?」

 箒が静々と答えると、楯無さんは腰に片手を当てながら、前傾になり箒の顔を覗き込む。

「箒ちゃんも元気出す!次で挽回すればいいんだから♪」

 と箒の鼻先を軽く突く。

「…ぅ。わ、わかりました」

 おお、あの箒が顔を赤くしながら大人しく従っている。

 さすが楯無さんだ。

「それじゃあ、二人とも、よろしくね」

「「はい」」

 二人の間を通り過ぎ、医療室を出る寸前で楯無さんの足が止まる。

 そしてクルリと振り返ると

「あ、久しぶりの男の子だからって襲っちゃダメだぞ、一夏くん?」

「お、襲いませんよ!」

「ふむ、安心安心♪ではでは〜」

 クスクスと笑いながら医療室を出て行く。

 楯無さんの相変わらずの自由っぷりに俺も箒もたっぷりとお説教を受けた後だというのに何故だか微笑んでいた。

 

 

『学園最強』。それが楯無さん──つまりは生徒会長のある種の称号なのだが。

 楯無さんは強さ、強大さといったものだけではない凄さがある。

 例えばそう、今のように不思議と人を笑顔にしてしまうような。

 色んな凄さを持った人なのだ。

 ……と、楯無さんの凄さを再確認したところで。

 

 廊下側からベットの方へと視線を移す。

 そこには1人の少年、いや、自分よりも歳は上かもしれないので青年か。

 しかし一見すると同い年にも見える。

 黒髪に少し細めな目。そして何より男にしては美形なその顔立ち。

 今のようにベットで横になっていると女性のようだ。

 全身包帯だらけなのが自分のせいだという点が非常に胸を刺したが。

 何処から話そうか。いつ頃謝ろうか。

 そんなことを考えながら、俺はベットの方へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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