チラシ配り――
もちろん想像はしていたのだけれど、かなり大変なことなんだって理解できた。
だって誰も受け取ってくれないんだから。とは言っても、お姉ちゃん達の頃とは違うんだろうけどね?
一応、生徒全員が学院のスクールアイドルの存在は知っているだろう。さすがに、お姉ちゃん達を知らないって生徒はいないだろうしね?
だから私達を気にする人は大勢いる。
でも、私達にじゃない――
この学院でライブと言えば、真っ先にお姉ちゃん達を思い浮かべるだろう――うん、私達の存在なんてそんなものだからね。
私も最初はただ「ライブを開催する」としか言っていなかった。
だけど、その声に反応して近づいてくる人は決まって――
「あの…… μ's のライブですか?」
そう、聞いてくるのだった。
とは言っても、ユニット名の発表をしていないだけの話だよ? それか、ローカルアイドルとしての話かも知れないんだけど。
6人で活動することは、みんな知っている――でも、何て呼べば良いのかわからないから μ's って言ったんだと思う。
もちろん、嘘をつくつもりもないから――
「……いえ、私達のライブなんですけど?」
そんな風に苦笑いを浮かべて答える。
その言葉を聞いた彼女は、一瞬驚いて「えっ? あなたもスクールアイドルだったの?」と言いたそうな表情から、バツの悪そうな苦笑いの表情に変えてチラシを受け取ると、ソソクサと校舎の方へと歩いていった。
きっと彼女はライブに来ないと思う――だって、お姉ちゃん達のライブだと思って
そんな風なことが数回続いた時点で、
すると、
そんな現実を前に、頭では理解していたけど凄く悲しい気分になる。
諦めようかとも思い始めていた――そんな考えが亜里沙と涼風の表情にも表われていた。
「――ッ! ――私達のライブを開催しまーす! よろしくお願いしまーす!」
だけど、私は前を見つめて精一杯の声を出して前に進んだ。
世の中そんなに甘くない――お姉ちゃんの言葉が脳裏に
わかっていたことだもん! これが私達の望んだ道なんだもん!
これくらいで諦めるくらいなら、お姉ちゃん達に強がりなんて言わないから!
だからライブまで続けるんだ! 1人でも多くの人に受け取ってもらうんだ!
そんな気持ちでチラシを配り続けた。
「……よろしくお願いしまーす。私達のライブを開催しまーす」
「……お願いしまーす! 私達のライブを開催しまーす」
私が諦めずにチラシを配り始めると――亜里沙と涼風も、私に負けないくらいに声を出して周りを歩く生徒達にチラシを配り始めていた。
私は、そんな2人の声に背中を押されながらチラシを配る――きっと亜里沙と涼風も、自分以外の2人の声に背中を押されていたのだと思う。
姿は見えなくても、すぐ近くで頑張る声が聞こえる――私達はそんな
♪♪♪
それから数日経って――今日はいよいよライブ当日だ!
前日まで、みっちり練習も頑張ってきた。チラシ配りだって毎日頑張った。
まぁ、
昨日は帰りに3人で神社にお参りをしてきた――そう、お姉ちゃん達がしていたように、ライブの成功を
お参りを済ませた私達は、自然と絵馬の掛けられている場所へと足を運ぶ。
目の前にかけられている、沢山の絵馬。
もちろん、お姉ちゃん達への願いが込められている絵馬ではあるけれど――それは私達も絵馬を書いてくれた人達と同じ立場だから。
とても身近な存在なのかも知れないけれど、私達の目指すお姉ちゃん達は、遥か遠く。そう、ファンの人達と同じように遠くに感じていた。
そんなお姉ちゃん達へと
だけど、今でも不安でいっぱいだよ――だから、応援してね? 力を貸して?
そんな願いと――絶対、ライブ頑張るからね?
そんな
絵馬に気持ちを送った後、私達は誰からともなく
だけど誰も口にしない――ただ、円陣を組むだけ。
でも、肩に乗っかった2人の腕が小刻みに震えながら、ギュッと私の肩に
3人は無言で円陣を組みながら、結束を固めていたのだった。
♪♪♪
今は新入生歓迎会の最中――私は亜里沙と涼風の横に座り、ステージ上の部活説明会を眺めていた。
この歓迎会が終わると、あのステージに立つんだな――そんなことを、ただ漠然と考えながら眺めていた。
とは言え、漠然と考えているからと言って余裕がある訳じゃない。もちろん、緊張と不安に押し
それでも、自分達の足で踏み出さないとダメなんだ――その為に頑張ってきたんだから、
そんな風に自分の気持ちに言い聞かせる。
だけど言い聞かせる言葉も
だって、今は歓迎会の最中なんだし、好き勝手に身動きが取れないんだからね?
だから、脳内で必死に押し潰されないように抵抗するのが関の山なんだよね?
そんな感じで必死に抵抗していた私の目の前に――
ステージ上ではアイドル研究部の部活紹介をする為に、花陽さんが壇上に歩いてきた。その途端、会場中から割れんばかりの歓声が上がる。
花陽さんは苦笑いを浮かべながらマイクの前に立つと、部活の紹介を始めるのだった。
花陽さんが話を始めると、それまで上がっていた歓声が嘘のように静まり返る。そして、全員が真剣な表情で話を聞いていた。
別に花陽さんが何かをした訳ではない――
生徒会長として挨拶をしたお姉ちゃんの時もそんな感じだった。
改めて、お姉ちゃん達の凄さを感じると同時に――このタイミングで感じたくはなかったかな? そんなことを思っていた。
だって、花陽さんの登場は部活紹介の
この後、お姉ちゃんが最後に挨拶をして歓迎会は終了――つまり、お姉ちゃん達の凄さを引きずってライブに
正直、今は感じたくなかった――まぁ、お姉ちゃん達の凄さは最初から理解していたことだし? こうなることは予測していたはずなんだけどね?
きっと緊張と不安に必死に抵抗していたから、
そんなことを考えていたら、いつの間にか歓迎会は終わりを告げていた。
壇上で挨拶を終えたお姉ちゃんが舞台袖に下がると――周りの生徒が一斉に立ち上がり移動を開始する。
私達もその波に乗って――周りの希望や期待に満ちた表情とは相反するような、緊張と不安の表情を浮かべながら教室へと移動を開始したのだった。
♪♪♪
あと少しで、私達のファーストライブが――
私達の
私と亜里沙と涼風の本当の意味での――
もちろん、これが最後になる訳ではないのだけれど――
自分達が
今は
そんな
そして、いつかは光輝くお姉ちゃん達のようになる為に――
そんな気持ちでステージに立とう!
きっと私達なら大丈夫!
どんなに厳しい現実が待ち受けていたって、亜里沙と涼風――
2人との
だけど、
だって、
同じ今の中にいる人達に届けたい。
教室に戻る廊下を歩いている時、ふいに μ's の
私は脳裏に再生された曲達を聞きながら、自分自身にこんなことを言い聞かせていたのだった。きっとお姉ちゃん達が背中を押してくれたのだろう。
私は心の中でお姉ちゃん達に感謝をしながら、ポケットの中に手を入れていた。
指先に伝わる紙の
お姉ちゃんにとってUTX学院のパンフレットが
違うかも? だって、
このチラシは私達の思い出と頑張りを見てきた大事な宝物なのだった。
そう、今ココで見つけた私の宝物。
すぐには無理かも知れないけど、たくさんの笑顔を見せてくれるかも知れない宝物。
だけど、溢れる夢を見させてくれる宝物。
そして、まだ誰も知らない場所へと導いてくれる宝物――私達のライブはお姉ちゃん達でも知らない場所だから。
お姉ちゃん達を始めとするスクールアイドル達は、全員が誰も知らない場所を探して頑張っているんだ。
そんな誰も知らない場所を目指して、届きそうで届かないから頑張っているんだ。
そして、頑張るから宝物が増えていくんだと思う。
私は、そんな――
初めての宝物の感触を確かめながら、気持ちを引き締めて教室へと歩いていたのだった。
Comments 海未
いよいよ、ライブなのですね?
まずは、チラシ配りお疲れ様でした。
毎朝、行うのは大変だったと思います――
いえ、チラシを配ると言うことだけでも尊敬の念を抱いていますよ?
とても立派だったと思います。
そして、ファーストライブは緊張してしまいますよね?
私も緊張していましたから、良くわかります。
そんな時は、お客様を野菜だと思うと良いそうです――
まぁ、1人で歌う覚悟があるのならお奨めしますけど。
とにかく、悔いの残らないように頑張ってくださいね?