答えの表と裏   作:Y I

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この小説の投稿頻度が二週間に一度に定着している……。

読んでくれる皆様、亀更新で申し訳ない( ;∀;)





第9話

 ――緑川駿(みどりかわしゅん)

 中学生にしてA級4位『草壁隊』の一翼を担う天才『攻撃手(アタッカー)』。無造作な髪型に小柄で活発そうな印象を与える顔立ちをしている。

 彼が天才と言われる所以は、入隊時の対戦闘近界民(ネイバー)訓練で4秒という過去最速記録をだしたからだ。

 

 そんな、天才『攻撃手(アタッカー)』である少年は、ある1人の人物が気に食わなかった。

 

 

 その人物の名は、天峰雄助。

 入隊時の対近界民戦闘訓練のタイムは、1.3秒。それまでの最速記録である緑川の4秒より2.7秒も短いタイムを出した人物だ。

 

 そう、緑川より短いタイムを出して最速記録を更新したのだ。

 それが〝きっかけ〟。

 

 

 緑川が対近界民戦闘訓練で過去最速記録の4秒を出して入隊した頃は、ボーダー内は緑川の話題で持ちきりだった。

 皆が口々に「緑川がすごい」と彼を褒め称える。

 

 気分は悪くなかった。

 

 さらに、その勢いのままA級の『草壁隊』に入隊した。最年少A級隊員の誕生だ。

 

 またしても皆、彼を褒め称える。

 

「緑川は天才だ」「中学生なのにもうA級になっている」「センスの塊だ」

 

 その言葉に愉悦を感じていた。

 

 

 しかし、それを邪魔する者がいた。

 天峰雄助だ。

 戦闘訓練で過去最速の記録を出し、尚且つ他の訓練でも全て1位をとる大型ルーキー。

 

 話題というものは移り変わるものであり、雄助が入隊してからはボーダー内では雄助の話で持ちきりであった。さらには、緑川を称賛する声は減り、逆に天峰雄助を称賛する声が増えた。

 

 ――気にくわない。

 

 C級隊員達の中では、緑川より雄助の方が強い、といった話が出ていた。

 

 ――気にくわない。

 

 ならどっちが強いか証明してやろう。そう意気込んでランク戦室に毎日通った。しかし、雄助がランク戦室に現れることは1度もなかった。

 

 ――気にくわない。

 

 なぜこない。勝ち逃げのつもりか。

 緑川は一向に現れない雄助にイライラしていた。

 本人からしてみれば勘違いもいいところなのだが、緑川にはそうとしか考えられなかった。

 

 ――気にくわない。

 

 雄助がランク戦室にくることはない、と諦めかけていたときにある情報を耳にした。

 

 天峰雄助がボーダーに入った理由は迅悠一に復讐するためである。

 

 それを聞いた瞬間、苛立ちが怒りの念にかわっていった。

 

 

 緑川は迅にトリオン兵から命を救われたことで熱烈なファンになり、ボーダーへ入隊した。

 自分とは真逆の理由で入隊した天峰雄助に不快感を覚えた。

 

 ――なぜ迅さんに危害を加えようとする。

 

 自分の愉悦を邪魔をしてきて、さらには憧れの人物に危害を加えようとする。

 怒りは頂点に達していた。

 

 

 

 噂を耳にしてから数日後、行くのが癖になってしまったランク戦室に向かいながら、この怒りをどうしようかと考えていると()()()がいた。

 

 黒い短髪、あまり高くない身長、真っ黒なサングラス、そして黒のラインが入った白い服。寝ているのかベンチに座り下を向いたまま動かないが、天峰雄助だと確信できた。

 

 

 雄助を見つけた緑川の心にドス黒い何かが広がる。

 

 

 ――ああ、やっと見つけた。

 訓練の時もどうせズルをしてたんだ。人を集めて全員の前でボコボコにしてズルを暴いてやろう。恥をかかせてやろう。そうすれば自分の方が強いと証明できる。そうすればあいつの評判は落ちるだろう。そうすればみんな俺を誉めるだろう。

 

 緑川の承認欲求は止まらなかった。

 

 

 もはや緑川の中では迅のことなど二の次だった。

 

 

 

 悲劇まであと四半刻。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 ――ああ、またこの目か。

 

 ランク戦を持ちかけてきた少年――緑川駿を見て、雄助はそう思った。

 

 

 なぜ緑川がランク戦を持ちかけてきたのか。雄助は『サイドエフェクト』を使わなくても、緑川の目を見ればその理由がわかった。

 

 

 

 中学の時に『サイドエフェクト』を使って試験で満点を何回も取ったことがある。

 最初は皆感心していたが、次第にカンニングをしたんじゃないかと疑われ、なんであんなやつがと妬まれ、最後に不正をしたと決めつけられて虐められた。

 

 

 〝妬み〟

 

 

 雄助が唯一理解できる人の気持ちである。

 いや、正しくは理解できる、というよりも()()()の方が合っている。

 

 中学の時に散々向けられたか妬みの視線により、その気持ちが理解できずともそう思っているとわかるようになった。

 

 それが緑川を突き動かしたのだろうと雄助は感じ取っていた。

 そして、これから緑川がなにをしようとしているのかは、中学の時に散々体験したのでわかったしまった。

 

 

個人(ソロ)のランク戦しない?」

 

 その言葉を聞いて――ああ、やっぱりか、と思った。

 

 なぜこの少年が自分のことを妬んでいるのかはわからない。でも、自分をランク戦でボコボコにでもして恥をかかせたいのだろう。

 

 そう考えた雄助は彼の提案を――承諾した。

 

 

 どうせ断ったところで諦めるような目をしていなかったし、適当に負けてやれば相手の気も晴れるだろう、と考えて雄助は承諾したのだ。

 

 緑川は満足そうに頷くと、ランク戦室の方へ歩いていった。それに雄助は追随する形でついていく。

 2人の後ろには、緑川がわざと大きな声で話をしたためか大勢の隊員達がついてきていた。

 

 ――ああ、やだなー。

 

 大勢の目に晒されるのもそうだが、なによりランク戦、戦闘をしなければいけないことにため息が出てしまう。

 ただ負けるだけでいいとは言え、体を斬られるのだ。とてつもなく嫌で、逃げ出してしまいたい。

 しかし、逃げたところでまた別の日に緑川が来ることは予想できる。さらにはここまで人が集まっているなかで逃げたとなると周りに非難されるだろう。

 妖介に頼る、という道は先ほど雄助自身が閉ざしてしまった。まあ、今頃ふて寝でもしているのでどのみち無理だが。

 

 また戻ってきたランク戦室で雄助は113号室に。緑川は203号室へと入っていった。

 

 

『じゃあ何本勝負にする? 5本勝負でも10本勝負でもいいけど』

 

 ブースに入って初めて見るブースの機器に雄助がてんやわんやしていると、マイクから緑川の声が響いた。

 どうやら本数はこちらが決めていいようだが、5回か10回しか選択肢がない。つまり最低でも5回はボコボコにしたいようだ。

 

「……じゃあ、早く終わらせたいし5回で」

『……ふーん』

 

 雄助の早く終わらせたい、という言葉に緑川は少し苛立ちを覚えた。

 緑川には「さっさと勝って終わらせたい」と言っているように感じたのだ。

 実際のところは「さっさと負けて終わらせたい」なのだが。

 

『……ああ、そういえばハンデはいる? 君、B級になったばっかでしょ。トリガーとかいじってなさそうだし。それに俺はA級だからB級成り立て相手に――』

「――いいからさっさとやろう」

 

 

 瞬間、顔が見えるわけでも声を発したわけでもないのに、マイク越しに殺気が伝わってきた。

 

 ――あれ? まずかったかな?

 

 原因である雄助は煽ったつもりはなく、ただただ早く終わってほしかっただけなのだが、結果的には火に油を注いだだけだ。

 しかし、雄助は人の気持ちがわからないのだ。なぜ怒っているのか、それが理解できないのだ。

 早くやろう、と急かしたのがいけなかったのはわかるのだが、なぜそこで怒るのか全くわからない。

 本人からしたら「そんなカリカリしないの」とでも言ってやりたいところだが、それを言ったらいけない気がしたので胸の内に留めておく。

 

 

『転送開始』

 

 

 その言葉と共に目の前の景色はブースから町へと変わっていった。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

個人(ソロ)ランク戦5本勝負 開始』

 

 開始の合図と同時に緑川は『グラスホッパー』を踏んで雄助がいる方角へと疾走する。

 

『グラスホッパー』

 緑川が愛用する機動戦用オプショントリガー。

 空中にジャンプ台を作り出し、それを踏むことにより加速を得られる。

 

 その速度はかなりのものでスタート時には1km以上合った距離をあっという間に詰めてしまった。

 緑川は標的である雄助を捕捉すると、右手に『スコーピオン』を剣状に形成して力強く握る。

 

『スコーピオン』

『グラスホッパー』と同じく緑川が愛用する攻撃手(アタッカー)用トリガー。

 変形が自由自在で定まった形状を持たない刃。体中どこからでも出現させることが可能で、しかもとても軽く重さはほとんどない。

 軽さを活かし高い機動力を確保できるため身軽なトリガー使いである緑川とは相性がいいトリガーだ。

 

(あいつが持ってるのは……『弧月(こげつ)』か)

 

 対する雄助がその手に握るトリガーは『弧月』。

 鍔の無い日本刀の様な形状をしていて、高いレベルでバランスの取れた攻撃力と耐久力を持つ総合力に優れ扱いやすい傑作トリガー。

 

(受け太刀に回ったら不利だな。スピード勝負でいこう)

 

『スコーピオン』は軽い分脆い。『スコーピオン』より耐久力の高い『弧月』を受け太刀すると簡単に壊れてしまう。

 

 そのことを緑川の沸騰した頭の冷静な部分が思い出させる。どうやら相当頭にきてはいるが冷静なようだ。

 

 あくまで冷静に。そして冷徹に、標的を叩き伏せる。

 それだけを目標に。

 

(――まずは足から!)

 

『グラスホッパー』で更に加速して、雄助に急接近する。

 緑川は流石に奇襲するだけで両足は取れないだろう、と考え次の策を考えながら、雄助の背後から『スコーピオン』を雄助の両足を刈り取る勢いで振るう。

 

 

 しかし、緑川が振るった『スコーピオン』は――やけにあっさり雄助の()()を刈り取った。

 

「は?」

 

 これには思わず緑川も素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

 天峰雄助は仮にも戦闘訓練で1.3秒を出した男である。その男がこうもあっさり斬り伏せられるものなのか。

 

 緑川は不信に思いながらも罠の可能性を考慮し、両手も斬り落とした。

 それでも特に何かしてくるわけでもなく、うつ伏せで居るだけだ。

 

 そこで緑川は気づく。

 

 やっぱり弱いじゃん、と。

 

 疑問が確信に変わると緑川は、歪んだ笑みを頬に張り付けたまま、一言も発しないで雄助の首を斬り飛ばした。

 

『天峰 緊急脱出(ベイルアウト) 1-0 緑川リード』

 

 

 

 1戦目が終わってブースに戻った緑川は雄助のブースへと音声を飛ばす。

 

「動けてなかったけど大丈夫?」

『……』

 

 無言。

 軽く煽ってみたが無視されたのかあちらから音はしなかった。

 そのことに少しの苛立ちを覚えたが、それより今は愉悦が勝っている。

 

 次も軽くあしらってやろう、と考えたところで転送された。

 

 

『2本目開始』

 

 

 開始の合図と同時に標的がどこにいるか確認するためにレーダーを見る――が反応がない。

 

「ちっ『バッグワーム』か!」

 

『バッグワーム』

 レーダーに映らなくなるマントのトリガー。

 使用中は常に少しずつトリオンを消費するが、着用することでトリオン体の反応を隠すことができる。

 

 自分だけレーダーに映っていては不利な緑川は『バッグワーム』を起動しながら思考する。

 

(『バッグワーム』を使って奇襲か? それとも単なる時間稼ぎ?)

 

『バッグワーム』を使ったということは奇襲、もしくは単なる時間稼ぎ。そのどちらかだろうと踏んだ緑川だが、実際はどちらでもない。

 

『バッグワーム』を使った雄助の目的は――

 

 

 

 

 

 

(負けるだけでよくてもやっぱり戦うなんて無理ぃぃぃぃいい!)

 

 盛大に逃げるためである。

 

 この男は1戦目に緑川に手足を斬られたときに反応しなかったのではない。恐怖で軽く失神して反応できなかったのだ。

 それにブースに戻ってからの緑川の煽りも無視したのではなく、聞こえないほどに恐怖していたのだ。

 

(勝負を受けた数分前の自分を殴りたい!)

 

 こんなんあと4回もあんの!? ホント数分前の僕のバカ! と1人心の中で騒ぎながら逃げ惑う。

 

 ふとレーダーを見ると緑川の反応がないことに気づく。

 

(あっちも『バッグワーム』使ってきた!……ええい、使っちゃえ!)

 

 緑川が『バッグワーム』を使ったのに気づくのと同時に雄助は『サイドエフェクト』を発動させる。

 この男、逃げに全力である。

 

 

 

 雄助は『サイドエフェクト』で緑川の居る場所をある程度把握できても雄助の方から攻めに転じることはなく、『サイドエフェクト』をフル活用して逃げる。

 逆に緑川は逃げる雄助を捉えるために躍起になって探す。

 

 これではただの〝かくれんぼ〟である。

 まあ、少し殺伐としてはいるが。

 

 

 しかし、この状況も長くは続かなかった。

 雄助が恐怖に耐えられなくなり、うっかり姿を晒してしまったのだ。

 

 この状況に苛立ち始めていた緑川は、自分から姿を晒してきた雄助を見て嗜虐的な笑みを浮かべた。

 

「あれー? かくれんぼはもう終わり?」

「……」

 

 雄助は下を向いて動かない。というよりも動けない。

 またしても恐怖がそうさせる。ぶっちゃけ漏れそうなレベルである。

 

「まあ、どうやってあそこまで逃げてたか知らないけど――ね!」

 

 その言葉と共に雄助の首と胴は泣き別れした。

 

『天峰 緊急脱出 2-0 緑川リード』

 

 

 2本連取した緑川は上機嫌に雄助のブースへ音声を飛ばす。

 

「もうリーチだよ。次で負けが決まっちゃうね」

『……』

 

 やはり返事は返ってこない。

 まあいいか、と返事が返ってこないことを諦める。

 

 さて、次はどうやって倒してやろうかと上機嫌に考えるが、

 

 

 

 《おい、雄助》

 

 

 

 緑川は知らなかった。

 

 

 

 《人が寝てる間に随分楽しそうなことしてるじゃねぇか》

 

 

 

 雄助の中には悪魔(妖介)が棲んでいることを。

 

 

 

 

 《俺に変われ》

 

 

 

 悲劇まであと600秒。

 

 

 

 

 

 






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