言い訳がましいですが大学が忙しく、また部活の方も忙しくてなかなか執筆できませんでした。
では、1ヶ月ちょいぶりに本編をどうぞ!
警戒区域。
そこは三門市の中に存在するボーダー隊員以外の立ち入りを禁止している区域であり、三門市内全域に開いていた
かの第一次大規模侵攻により大きな被害を受けた東三門市の成れの果てであり、今では倒壊した建物が散乱し、ゴーストタウンと化している。
そんな近界民の侵攻を受け、ゴーストタウンと化した旧東三門市、現警戒区域の中にある一軒家の屋根で雄助は、合同で防衛任務にあたるはずの那須隊の面々と離れた位置で体育座りをしていた。最早〝合同〟任務など名ばかりである。
(……虚しい)
トリオン体のため、ゴーストタウンに吹き抜ける風で寒さは感じないが、その代わりに空虚さを雄助に与える。
もちろん雄助が望んでこういった状況になったわけではない。
雄助が己の運の無さを再確認した後、志岐が「も、もうすぐ防衛任務が始まります」と言いに作戦室へ戻ってきたのだ。雄助を見るや否や、脱兎の如く逃げ出したが。
志岐の言葉を受け、熊谷と日浦は渋々ながらトリオン体へと換装し、隊長である那須もそれに続き換装した。雄助も那須隊の面々に続くような形で換装すると、ちょうど出動の時間になってしまった。
熊谷と日浦は聞き出したいことが聞き出せず、雄助は弁明やら言い訳やらができぬまま出動することとなった。
結果、日浦と熊谷は雄助に不信感を抱いたままの出動となったため、雄助は隔離ボッチと化したのだ。
「これが僕の運命なのさ……」
《女子と一緒にいるのは嫌なんだろ? だったら別にいいじゃねぇか》
「いや、そうなんだけど……。あの不審者を見様な目はきついよ……」
《まあ、耐えろ》
妖介から厳しいお言葉を頂き、そうだよねー……、とぼやきながら横目で那須隊を見遣る。
何を話しているのかは遠くて聞き取れないが、3人、もしくは志岐も交ざって談笑でもしているのだろう。
その光景を見ていると、ひどく羨ましいと感じる。
話したいとか、一緒にいたいとか、分かり合いたいとか、そういう事ではない。
彼女らはお互いを〝信頼〟しているだろう。
雄助はその〝信頼〟という安らぎを得たいのだ。
誰かに信じられて頼りにされたいわけではなく、誰かを信じて頼りたいのだ。独りはとても怖くて、誰も信じられないのはとても辛い。
それでも、その安らぎを得たいと想ってしまうのだ。
だが、その想いとは裏腹に――
自分と彼女らの距離が心の距離を表しているようで。
自分と彼女らの間に見えない壁があるようで。
自分と彼女らの違いを見せつけられているようで。
お前は独りなんだ。
――そう、言われているように感じるのだ。
* * *
熊谷は視線の先で体育座りをしている天峰雄助に不信感を抱いていた。
緑川に対する暴行、謎の妄言、日浦から聞いただけの話だが、不信感を抱くには充分であった。さらに先程から1人で誰かと話しているかの様に何か言っているのだ。怪しさマックスである。
だが、不信感を抱く反面、疑問も抱いていた。
本当に彼はそんなことをしたのか、と。
最初こそは驚愕のあまり日浦の話だけで判断してしまったが、冷静になってみると彼がそんなことをするような人物だとは思えなかった。
虫一匹すら殺したこと無さそうな雰囲気。常にビクビクとした気弱そうな態度。高校1年生にしては低い身長。
人に暴行を加えるどころか逆にカツアゲにでもあっていそう――実際あっているが――というのが改めて雄助に抱いた印象だった。
熊谷があとでちゃんと話を聞いてみよう、と心の中で決意している一方で、那須、日浦、志岐の3人は雄助の入隊時のことについて話していた。
『天峰って名前どっかで聞いたことあると思ったら、彼、対
「駿君の記録を半分以上も越えてるじゃないですか!?」
『そうだね……それに初期ポイントも3000からみたい』
「あら? そうだったのね」
志岐からの情報に日浦は大いに驚いた。まさか雄助が純粋に強い人だとは思っていなかったのだ。
日浦が緑川と雄助のランク戦で見たのは最後の1戦のみ。その1戦も戦闘とは程遠いものであり、暴力、拘束、尋問、トドメはデストロイ。最早、残虐と称されても否定はできないものである。
そのため日浦は雄助に悪い印象しか持っていない。故に、雄助は何か卑怯な方法を使って勝った、と思っても仕方が無いことであった。
一方、那須は雄助から妖介がしてきたこと――悪行含む――を粗方聞いているのであまり驚いていなかった。
「でも、
「……あ、ああ。そうね」
突然話を振られた熊谷は曖昧な返事をしつつも、たしかに、と思っていた。
初めての戦闘訓練で1.3秒を出したともなると、ボーダー内で話題にならないはずがない。ましてや同じポジションである熊谷ですら知らないのはたしかにおかしい。
そんな2人の疑問に志岐が答える。
『うーん……そうですね。詳しいことは分からないんですけど誰かが情報を広げないようにしてたみたいです』
「どういうこと、小夜ちゃん?」
『その時の映像がないんです。それにその場に居たC級隊員達はその時のことを口外禁止にされてるっぽいです』
その誰か、とは嵐山隊隊長嵐山准とボーダー本部長忍田真史である。
この2人は、その日にあった雄助の心的外傷後ストレス障害の発作のことを広めないでくれ、と妖介に頼まれたため、その場に居たC級隊員達に口外禁止を言い渡した。
戦闘訓練の記録が広まらなかったのは、これの副次的なものである。
ちなみに、戦闘訓練の映像を消したのは、『サイドエフェクト』の副作用である目を見られたら嫌であろう、という忍田の気遣いである。
『あー……あとB級昇格に2ヶ月かかったっていうのも理由ですかね』
「? 3000ポイントからスタートしたんですよね。 どうして2ヶ月もかかったんですか?」
『C級隊員の中じゃ結構有名みたいだけど、天峰君は初期ポイントの高さに胡座をかいて、訓練に全く参加してなかったって話だよ』
その話を聞いてほえー、と些か間抜けな声を出す日浦。そんなことはないと思うけどなぁ、とその話の信憑性を疑う那須。
三者三様の反応をする中、熊谷がふときになったことを口にする。
「ていうか、小夜子はどこからそんな情報を持ってきてるのよ」
『……秘密です』
「あんた変なことしてないでしょうね!?」
そんな熊谷の一言で、ゴーストタウンには似つかわしくない少女達の笑い声が警戒区域の一角で響く。
そこが警戒区域だということを
ある程度笑うと、不意に日浦が声をあげた。
「あれ? あの人、急に立ち上がってどうしたんでしょう」
「ん? ……ほんとだ。どうしたんだろ」
3人の視線の先では、先程まで体育座りしていた雄助が徐に立ち上がっていた。
熊谷と日浦の2人が突然動き出した雄助に警戒を強めた、次の瞬間――
『――っ!
警戒区域に相応しい、ボーダーの警報とサイレン音がけたたましく鳴り響き、続くようにして空に空いた大穴から紫電を轟かせ白き侵攻者が現れた。
「――散開するよ! 茜ちゃん、熊ちゃん!」
「え、あ、はい!」
「了解!」
門発生の通信がはいった瞬間に指示を出す那須。
だが指示を出すその声はいつもの冷静沈着なものではなく、焦りを含んだものであった。
『すみません、那須先輩! 門発生に気づくのが遅れました……』
「反省は後にしましょ。それよりもサポートお願いね」
『は、はい!』
(そうは言ったものの完全に気が緩んでた……!)
那須は自分の気の緩みを叱咤した。
しかし、侵攻者である
後方で眩い閃光。
次いで腹の底まで響く爆音。
活動を停止し、地面へ倒れ伏す近界民。
何が起きたか分からず、思考が停止した。
今さっきまでこちらの世界へ侵攻しようとしていた近界民が、頭部から後ろが
誰が? どうやって?
その答えを得るために光と音の発生源である後ろを向く。
そこには
そして、
「ヒャッハー! 汚物は消毒だぜ!」
世紀末のような雄叫びをあげていた。
* * *
「ヒャッハー! 汚物は消毒だぜ!」
《随分楽しそうだね……》
「そりゃそうだろ! やっとのお楽しみだぞ!」
ソウダネ、と雄助は適当に返事を返しつつ吐息を洩らした。
負の感情を溜め込む雄助にまたか、とため息を吐いた妖介は、『サイドエフェクト』を使って「近界民はいつになったら来んだよ~」と愚痴っていた。
すると『サイドエフェクト』が反応し「数秒後に近界民が出現する」という答えが出たのだ。
それからの行動は迅速だった。
すぐさま雄助と入れ替わり、ドカンとぶっぱなしたいと思って新しく入れた『アイビス』を装備。
と、まあ間一髪ではあったが結果的には那須隊を助けることができた。あと少しでも遅れていたら、
しかし、そこまで考えて不可解な点が1つあることに気づいた。
なぜ狙撃手である日浦が那須達と行動を共にしていたのか。狙撃手ならば離れた位置にある高台に居るはず。
その答えを『サイドエフェクト』で求めようにも
それが意味することは、行動を共にすることになにかしら日浦の気持ちが関係している、ということである。
まあ、雄助にとってそんなこと
それがどんな気持ちかなんて考えたとこでわからないのだから。
「なにぼーっとしてんだ、次来んぞ!」
「「「っ!」」」
雄助が考えること放棄したのと同時に妖介の怒号が那須隊へ飛ぶ。
妖介の言うとおり『モールモッド』が1体、『バムスター』が2体、
妖介はそれを確認すると志岐へ通信を飛ばす。
「志岐? だったか。通信は繋がってるな」
『え……あ、は、はい』
「俺の支援はしなくていい。お前の隊のことだけ集中しろ」
妖介はそれだけ言うと、もう1体の『モールモッド』の方へ志岐の困惑の声を無視して向かう。
「よっと」
『モールモッド』に向かうついでに『バムスター』を1体、『アイビス』で打ち砕く。
その際、熊谷に当たりそうになったが、まあ問題はない。
「ちょっと! 危なかったんだけど!?」
「おい、那須。1体はお前らにやる」
「え、ええ。わかったわ」
「無視するなー!」
那須はこれがもう1つの人格である妖介なのだと分かっていても、その変貌ぶりには驚愕を隠せずにいた。
いくらなんでも変わりすぎだろう、というのが那須の感想であった。
一方、妖介は周りの困惑、文句、驚愕を無視して、これまた新しく入れたトリガーを装備する。
そのトリガーの名は『スコーピオン』。
変形が自由自在で定まった形状をもたず、体中どこからでも出現させることが可能で、しかもとても軽く重さをほとんど感じない
今まで妖介が主に使っていた攻撃手用トリガーは『弧月』だったが、緑川とのランク戦が終わった後、雄助から『弧月』の使用禁止を言い渡されたのだ。
「前のと比べると、これ軽すぎんだよ」
《『弧月』は2度と使ったら駄目だからね……!》
わーってるよ、と気怠げに返事をしながら、民家の屋根をパルクールの要領で飛んで行く。
するとものの数秒で『モールモッド』に最も近い屋根に到着する。
先程は門から頭を出した瞬間に倒してしまったため、今一度『モールモッド』の全貌をよく見据えて一言。
「……なんかゴキブリみたいだな、こいつ」
《今言うことそれ!?》
そんな冗談? を言いながらゴキブリもとい『モールモッド』の眼前に降り立った。
降り立つのと同時に『モールモッド』が妖介のことを斬り裂かんとその
妖介は焦ることなくその刃を『スコーピオン』で
十数回も打ち合えば、手足が全て斬り落とされ身動きがとれない『モールモッド』の完成だ。
「……なんかさっきよりキモい」
《いやまあ……うん》
手足が多数存在しゴキブリの様な見た目も気持ち悪かったが、胴体だけで揺れ動いているのもまあまあ気持ち悪い。
「キモいしさっさと片付けるか」
《そうだね》
『スコーピオン』を振り上げ、弱点である目を一閃する。
妖介により手足を全て斬り落とされ、キモいキモいと言われながら機能停止させられるとはなんと憐れなことか。
一通り『モールモッド』のことを罵倒し終えた妖介は、寝てるから次出てきたら起こして、と言って雄助と入れ替わる。
「何か言い訳はある?」
額に青筋を浮かべて憤慨している熊谷に気づかず。
日浦が狙撃手なのに那須達と一緒にいた理由は次話で明かします。
まあ、察しはついてるとおもいますが 笑
そういえば雄助と妖介のBBF風なキャラクター紹介とか書いてみたいなーとか思ったり。
しかし、そんな上手く書ける気がしない……!
まあ、いつかは書いてみようと思います。