部活の合宿も終わり、新学年にも慣れてきて、やっと投稿することができました!
久しぶりでおかしな点が多々あるとは思いますが、そこは暖かい目で見ていただければと思います。
「――と、いうことにしてほしいのですが、お願いしてもいいですか?」
『たしかに、そのほうがいいかもしれないが……』
那須隊との合同任務があった翌日、トレーニングを終え、まだ日の出したばかりの時刻に、雄助は忍田と電話をしていた。
なぜ、雄助がこんなに日の出したばかりの早い時間に忍田へ電話をかけたのか。それは――
『……しかし、今まで避けてきたことだろう。本当にいいのか』
「はい、もう決めたことなので」
昨晩した決断、自分の逃げ道を無くして逃げられないようにするため。
忍田の最終確認にも即答し、その考えが不変であることが窺える。
暫しの沈黙の後、忍田はため息を1つついて雄助の要望を了承した。
『……そうか。では、次回からは君の要望通りにするよ』
「ありがとうございます! ……あ、すいません。そろそろ学校に行くので」
『ん? ああ、そうか。 ……ちゃんと授業を受けるんだぞ』
「は、はい」
失礼します、と言って電話を切り、受話器を戻し終えるのと同時に大きく息を吐く。
〝決断〟と言っても、そんな大それたものではない。
なんだそんなことか、と、なんだ今更か、と思うであろう、ちっぽけでとても小さなもので、既に1度妖介がやっていることで。
それでも、今まで逃げてばかりだった雄助にしてみれば、とても大きなことであり、この選択をするのにどれだけの覚悟が必要だったことか。
雄助のこの選択が吉と出るか凶と出るか、それはまだわからない。
ただ、
《なんで那須隊にしたのか聞かなくてよかったのかよ》
「あ……忘れてた」
《なにしてんだよ……まあいいや、行こうぜ》
「そうだね」
ちっぽけで小さな1歩ではあるが、たしかに雄助は前へ1歩進んだのだ。
《バイキングへ》
「いや、だから学校ね」
* * *
「……なんでそんなにジロジロ見てんだよ」
「だって……ねえ?」
「わからなくもないけど……」
熊谷の同意を求める声に苦笑いをしながら応える那須。
場所は警戒区域。
雄助は昨日に引き続き、那須隊と合同任務にあたっていた。
「けっ。俺は珍獣かなにかかよ」
「似たようなもんじゃない」
「……まあ、俺的にはゴリラが喋るほうがよっぽど珍しいと思うけどな」
「誰のことよ!」
訂正。妖介が、だ
揶揄に怒った熊谷が殴りかかってくるが、妖介はそれを適当にあしらいながら、こちらを見ているもう1人の人物に通信を飛ばす。
「ついでに
『え!? あ……すいません……』
その人物とは、遥か遠くにあるアパートの屋上から、スコープ越しに妖介のことを見ていた日浦だ。
そして注意を受けた日浦は驚愕していた。
(嘘、300メートル以上離れているはずなのに……!)
そう、妖介達が居る場所から日浦のいる狙撃地点まで300メートル以上は離れている。
しかし、それだけの距離があるのにもかかわらず、日浦の視線に気づいたのは『サイドエフェクト』を使ったからだ。
この場に集合したときには居たはずの人物が、気がついた時には消えていたら、普通は何処に行った? と思うだろう。
妖介も例外では無く、その答えを『サイドエフェクト』で求めた。更に、場所が分かったついでに何をしているかの答えを求めた結果、此方を観察していることに気づいたのだ。
しかし、便利な携帯アプリのように『サイドエフェクト』をポンポン使う妖介にもう1つ疑問が沸いた。
「つうかさ」
「なによ」
「
妖介の疑問を受けた熊谷は、今まで繰り出し続けていた拳を一旦止めて、あー、と気まずげな顔をする。
「ほら、あんたとは昨日初めて会ったじゃない? 会うまでに色んな噂を聞いてたから私達も結構警戒してたのよ」
「だから、みんなで話し合って茜ちゃんを1人にするのはやめよう、ってなって一緒に行動してたの」
本人も少し怖がってたしね、と苦笑いしながら言う那須達の話を聞いて、妖介はほー、とどうでもよさそうに反応し、雄助はなるほど、と思った。
《だから昨日は一緒にいたのか》
(それで逆に危険な目にあってんだから世話ねぇよな)
《……原因は妖介みたいなもんじゃん》
雄助は、はあ、とため息をついて、昨日のことを振り返っていた。
昨日分からなかった感情の正体――〝恐怖〟。
それが日浦が妖介に対して抱いていた感情。
恐らく、緑川とのランク戦を見て抱いた感情なのだろう。
恐怖とは、有害な事態を体験、自身と異なるものを目撃等をした場合に生じる感情だ。たしかに、
しかし、解せない。
会った時から思っていたが、なぜ日浦はあれを見ても那須や熊谷に言わないのだ。
あれは人に嫌悪感を与えるものであるのと同時に、直感的に危機感を覚えるものだ。そんなものを仲間に伝えないわけがない。
――わからない。彼女が何を考えているのか。
そんなものを伝えないとなると、何か企んでいるんじゃないか。そう勘ぐってしまう。
そうやって雄助が日浦に対して不信感を募らせている一方で、妖介は昨日の戦闘時のことについて熊谷から質問されていた。
「そういえば昨日から気になってたんだけど、あんた
熊谷から上がった疑問は至極当然のものであり、那須隊全員が思っていたことであった。
なんたって妖介は、走りながら撃ったり、スコープを覗かないで撃ったりしていたのだ。しかも、それでもって近界民の弱点である目玉のど真ん中を撃ち抜くのだ。
そんな本職の狙撃手でさえ難しい芸当を、本職ではない、攻撃手である妖介がやってのけるのだ。そりゃ疑問に思うだろう。
「気分。センス」
「文で喋りなさいよ、文で!」
ところが、帰ってきた返答は適当極まりないものだった。
適当な返答に怒る熊谷にあーもううるせぇな、と気怠げにしながらも改めて応える。
「実際のとこ本当に気分で入れただけだ、あれは」
「気分で入れただけであそこまで使えちゃうんだ……たしかにセンスね……」
「頭おかしいわね」
『そうですね』
那須がどこか呆れたようにぼやき、熊谷は頭がおかしいと言い、それに志岐が同意を示す。
そんな那須隊の、主に熊谷の反応に対して、妖介は額に青筋を浮かべながら反論する。
「あのな……センスっつっても銃口初速、弾頭重量、抗力係数、重力、方角、風速、標高、高低差、気圧、湿度、気温、地球の自転によるコリオリの力とかを計算すればあんなの誰でもできんだよ。雄助だってできるぞ」
「「『『……』』」」
当たり前だろ? みたいな感じで妖介の口から出てきた言葉の数々に、理解が追い付かない那須隊一同。
いや、確かに分からない言葉もあるが、言葉の1つ1つは理解できる。ただ、それがどう影響するのか、どうやって計算するのかが理解できない。
「……だってさ、茜。あんたできる?」
『無理に決まってるじゃないですか!?』
「……もしかして妖介君と雄助君て学者さんか何か?」
「んなわけねぇだろ。ただ銃を使うって決めた時に弾道計算の仕方を調べただけだ」
それで『サイドエフェクト』で答えを出したんだけどな、と心の中で付けたしておく。
「調べただけって……あーだめ。頭痛くなってきた」
「2人は所謂、天才ってやつかしらね」
「……そうだな」
那須が感嘆したように2人のことを〝天才〟と称したが、当の本人は微妙な反応をした。
ここで妖介、もとい2人について補足をしよう。
2人が持つ『瞬間最適解導出能力』。
たしかにこの能力は那須が言うような天才、天性の才能、生まれつき備わった才能ではある。
しかし、万能ではない。
『瞬間最適解導出能力』は本人の知識や能力から答えを導き出す。
答えを導く下地、今回で言うならば弾道計算の仕方だが、それを知らなければ答えは導けない。しかも、知ったとしてもそれだけでは
瞬間的に最適な解を導くためには、その知識を深く理解し、その計算を解くことができる計算能力を持っていなければならいのだ。
つまるところ、馬鹿ではこの力を扱えきれない。
たしかに雄助は元々頭が良かったが、それは一般的な学生と比べての話であり、弾道計算なぞ出来るような頭ではなかった。
だから、〝努力〟をした。
多岐にわたる分野を学び、体験し、様々な知識を
学び、体験し、蓄え、それを何度も、何度も繰り返した結果、雄助が高校に上がる頃にはIQ190と確率的には世界に4人程度しか存在しない程の頭脳となった。
(才能は有限、努力は無限、てな。雄助のあれは天才って言葉で片付けていいものじゃねぇよ)
「どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
その事を説明するとなると、『サイドエフェクト』のことも教えなくてはならないため、適当に流しておく。
それと同時に、またしても熊谷からあ、そうだ、と質問が上がった。
「頭がおかしいと言えばあれはどうなってんのよ。あの『スコーピオン』で『モールモッド』の
熊谷は、耐久力が低く、受け太刀には不向きな『スコーピオン』で、どうやって『モールモッド』のトリオン兵最高硬度を誇る刃を受け止めたか、それを聞きたいのだろう。
頭がおかしい、で思い出されるのは非常に腹だたしいが、適当に応えると先程と同じ様になるためちゃんと応える。
「受け太刀する部分だけを予め硬度を高めて、あとは手首、肘、肩、腰、膝と全身を使って衝撃を受け流せばいい。そうすれば折れることはない」
それを聞いた熊谷が神妙な顔つきで、トリオン能力があまり高くないとできないのか問うが、妖介はこれはトリオン能力ではなく技術の問題だ、とそれを否定する。
「じゃあ『弧月』でも?」
「まあな。俺も前まで『弧月』でやってたし」
「なるほど……」
その一言を呟いてから、腕を組みながらあー、うーん、と唸り、何かを思案している。
暫くして、思案が終わったのか顔を上げて妖介を見据える。
「じゃあさ、今度その技術を――」
「――無理」
「最後まで聞きなさいよ! ていうか、なんでよ」
私にも教えて、と続ける前にかなり食い気味に断る。
「いや、だって俺がそこまでする理由がないだろ。教えることによる利益、メリットは? 無いだろ」
「……感謝されるとか」
「アホか」
鼻で笑い、じゃあこの話は終わりだ、と言って話を打ち切る。
熊谷は断られてむくれているが、そもそも頼む人物が悪い。人を助けることに利益を求めるような男が、感謝されるだけで動くわけないだろう。妖介を動かすとなれば金か飯を献上するほかない。普通に山賊と同類である。
そうやって、山賊がむくれる熊谷を放っていると、今度は那須が質問を投げ掛ける。
「そういえば、そのサングラスってなにか意味あるの?」
《……っ!》
雄助が息を呑んだ。
恐らく『サイドエフェクト』が反応したのだろう。驚愕、焦燥、緊張、不安、と様々な感情が入り乱れているのが分かる。
しかし、それをおくびにも出さず妖介は返答する。
「なんでそんなこと気にすんだよ」
「いや、いつもつけてるから何か意味があるのかなーって思って」
中で雄助が安堵からくるため息を吐いた。
那須は変に疑っているわけではなく、ただ単に興味本位で聞いているだけのようだった。
しかし、油断はできない。妖介が変なことを口走らない保証はない。故に、雄助は妖介が変なことは口走らないように、念入りに釘を刺す。
釘を刺された妖介はわーったよ、と返事をし、眩しいから、とか、目が弱いから、とか適当に誤魔化そうと、口を開きかけたその瞬間――。
『――
志岐による今日初めてとなる門発生報告により、話の中断を余儀なくされる。
その報告を受けた妖介は水を得た魚のように門の元へ直行する。
「いぃよっしゃあぁぁぁぁ! やっと来やがったか!」
「あ! ちょ、コラ! 待ちなさい、おすわり!」
熊谷の制止も聞かず、犬より聞き分けがない山賊は獲物を狩りに突っ走っていった。
那須は小さくなっていく妖介を見て、呆れたように小さく笑う。
「ははは……じゃあ私達も行こっか、熊ちゃん」
「はぁ……そうね。援護よろしく、茜、小夜子」
『わかりました!』
『了解です』
そうして、1人でヒャッハーしてる山賊の元へ少女達は向かうのだった。
一方、雄助はタイミングよく門が開いたことに1人、安心するのだった。
* * *
少女はここ数日のことを思い返し、泥沼に落ちた様に悩む。
その原因は彼の、いや、彼らの渦巻き状に変化したあの異形の目だ。
初めてあの目を見たのは、彼が緑川とランク戦をしていたときだった。
あの緑川を切り捨てた時の目は、思い出しただけで身体中を恐ろしいものが走り抜けるのを感じる。
そして、その数日後。彼と少女の隊で合同任務をすることになった。
まずは、彼の危険性を説いた。
次は、彼が言った妄言について。
そして、あの目のことを言おうとして、出撃の時間となってしまった。
ならば、あの目のことは彼が居ない時に他のメンバーに相談しよう、と決めた。
しかし、それと同時に、ふと思った。
そういえば、なぜ、彼は室内にも関わらずサングラスをしていたのだろうか。
オシャレ?
目が弱い?
それとも――
目元を
そこまで考えて気づいた。
もしかして
その考えに行き着くと、そうとしか考えられなくなった。
少女は悩んだ。
悩み、悩んで、これでもかというほど悩んだ。
彼の秘密を話せば、自分が感じている恐怖が、不安が和らぐ。
しかし、彼の秘密を話せば、彼が傷つく。
少女は天秤にかけた。
彼の秘密と自分の心の安寧を。
少女は優しかった。
悩んだ末に、彼の秘密を口外しないことにしたのだった。
彼がその優しさを理解できないとは知らずに。
今回の話は不可解、というかおかしな部分が多数あると思います。
それはシンプルに強引に進めたせいです。申し訳ございません。
あと、小説内では解説されていない部分の解説を少々。
Q.なんで妖介は日浦が見てるのに気づいたの?
A.雄助の『サイドエフェクト』が凄いからです(適当)
まあ、スコープに反射した光とかで分かったのでしょう(適当)
Q.コリオリの力ってなに?
A.赤道に近いほど地球自転による回転周速度が速いことから、緯度方向に移動する物体が軽度方向に対する力を受ける、というものです。詳しくはゴルゴ13を。
Q.IQ190てヤバない?
A.『サイドエフェクト』込みでのIQとなります。無しだと130くらい。
あと高嶺○麿君もIQ190だったので無理矢理合わせました。
Q.IQって鍛えられるの?
A.可能らしいです。書くと長くなってしまうので詳しくはググってください。
と、まあ、こんなものでしょうか。
何か分からない部分や解説が欲しい部分がある場合は、コメントいただければ返信いたします。必ずしも答えれるわけではないですが……。
今回はここまで!
では、また次回。