目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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10話

 

 

 それは 抗えない絶対的な死。

 

 カルラは エレンとミカサの2人の子供を自分から離す事はハンネスのおかげで出来た。

 子供達をハンネスに託して もう死を覚悟した筈なのに、身体中が震える。身動きが取れないのに身体の芯から震える。最早痛み以外の感覚がない潰れた足も、痛みを忘れて震えてしまっているかの様だった。

 

 自分自身を押し潰していた瓦礫は 意図も容易く持ち上げられ、その身体は外気に晒された。

 

「やめろおおおおおおおおぉぉ!!!」

 

 エレンの悲痛な叫びが街中に木霊する。

 だが、その腕はカルラを捕らえた。潰れた足を握り絞め持ち上げられてしまう姿を、エレンとミカサは はっきりと見てしまっていた。

 

 そして 大きな口を開けカルラを飲み込もうとしたその時だった。

 

 ドゴォォォ! と凄まじい轟音が起こったと同時にエレンの家の向かい側の建物が一気に崩落した。その凄まじい砂埃はあの巨人を、……自分達の母親の姿を覆い隠してしまった。

 

「母さぁぁぁぁん!!!」

 

 何が起きたのかはわからない。

 ただ、判るのは砂埃に交じって血飛沫が縦に昇った事だ。

 

 それが、エレンやミカサには 母親の血である事を連想させるのには十分すぎるものだった。

 

 その時にエレンとミカサを担ぎ走り続けるハンネスは一度だけ振り向いた。エレンやミカサ同様にはっきりと見る事は出来なかったが……、ハンネス自身も2人と同じ結論だった。それ以上は何も視ずにただただ只管に走り続けた。

 

 カルラに託された子供達を守る為に。カルラを犠牲にして子供達を助ける道を選んだ。

 だがハンネス自身も、自分自身が巨人に挑む事が出来なかった、と言う理由も勿論あった。あの目で表情で見つめられただけで、戦意を根こそぎ奪われてしまったのだ。だから 戦って3人を助ける可能性のある道を 選ぶ事が出来なかった。

 だから……カルラは死ぬ。

 ハンネスは、流れ出そうになる涙を懸命に堪えてカルラに託された子供達を守る為に走り続けたのだった。

 

 

 

 そう――この時 カルラは死ぬ筈だった。

 

 

 

 助かる筈もない。巨人の手の中から 武器も持たない状態で、手の中に収まった状態で、助かる等有り得ない。確率で言うならほぼ100%だと言っていい。

 

 だが――奇跡は起きた。

 

 

 

 

 

 それはカルラが握られる数秒前の事。

 

 

 その光景を建物の上から見ていた者がいたのだ。

 いや、見ていた――ではなく、見つけたのだ。

 そう、アキラである。

 

 

 この広い街の中、修羅場と化した街中で出会うのは殆ど物言わなくなった亡骸だけだった。飛来してきた門の瓦礫に押し潰された者や巨人に踏み潰された者、……喰われて肉片を残すのみになった者。

 初めて、この世の本当の地獄と言うものを見た気がしていた。

 かつてない程の大量の死を目の当たりにして 気が狂いそうになり 絶望さえ覚えた。だけど そんな中でも確かに聞こえた声を探し走り続けた、時には慣れない立体機動装置を使い、見つけたのだ。

 

 

「うぉらぁぁァァァァァ!!!」

 

 

 風を斬り割く様に動く。

 アンカーを建物に突き刺し、収縮する力と自らの脚力を合わせた。あまりの速度に身体がバラバラになりそうな感覚に見舞われたが、構う事なくその勢いのまま建物にぶち当たり、そのまま突き破った。“ドゴォォ!”と言う凄まじい轟音はこの時に発生したのだ。

 

 その衝撃により目は充血し視界が赤に染まる。当然建物にぶち当たった為 身体の所々が悲鳴を上げ 自らの血で服を彩った。

 

 だがまだ止まっていられない。真っ赤な視界が捕らえるのは、今まさに女性を喰らおうとしている巨人の姿。漸く見つけた生存者だ。

 

 アキラは、建物を突き破った勢いのままに 巨人の腰部に突撃してその巨体に風穴を開けた。あまりの勢い、威力により風穴は大きく破れ、その身体を真っ二つに割り 傷跡から血が噴き出したのだ。

 

 そう、エレン達はその血を目撃したのだ。

 

 見たのはカルラの血ではなく 襲ってきた巨人のものだった。

 カルラの身体もその衝撃の強さから、思わず離してしまったのか まるで木の葉の様に宙を舞っていた。……人間であれば間違いなく即死するであろう高さまで。

 

「っ!! うがぁぁぁっっ!!」

 

 巨人に渾身の一撃を入れたアキラだったが 目的は巨人ではなく人を助ける事。

 筋肉繊維がぶちぶち、と嫌な音を奏で悲鳴を上げているのは判るが構う事なく、無理矢理力の方向を変えて、再び飛んだ。

 

 跳躍してカルラの身体を抱きかかえると、そのまま比較的大きめの建物の上に着地。

 失った下半身もすぐに再生できる巨人だが 間違いなく時間は稼ぐ事は出来た。

 

「だ、だいじょうぶか……?」

 

 アキラは カルラの顔を覗き込む。 

 

 轟音と衝撃、巨人に喰われかけた事実とその恐怖。あらゆる状況がカルラの身に降りかかり 意識が殆ど無になっていたが辛うじて保つ事が出来た意識の隙間で見たのは 太陽の光を身に纏っている様な姿。後光――それを感じ取った気がした。

 

『かみ………さま………?』

 

 カルラは、そう呟いた。いや呟けたかどうかわからないが、その言葉を最後にそのまま意識を手放した。

 

 

 

「お、おい! しっかりしろ!」

 

 まるで眠る様に目を閉じたカルラを見て慌てて声をかけるが、はっきりと脈を確認する事が出来た。ただ 気を失っているだけだという事も判り一先ず安心する事は出来た……が。

 

「どうする……、どうすれば……」

 

 街の皆を助ける。

 そんな事はもう無理だという事くらいアキラは判っている。どれだけ異常な力と言われても、自分自身は基本的に人間だ。不死身だという訳ではない。

 度重なる無茶のおかげで身体中はズタボロだった。巨人は道中に4体は仕留めたが、今街中にいるのは 視界の範囲内でもその10倍以上はいる。

 

 どうすれば良い……? と考えに考え抜いていたその時だ。

 

「こ、この――――!!」

 

 声が聞こえてきた。

 聞こえてきたかと思った次の瞬間。

 

「バカァぁぁぁぁぁ!!」

 

 絶叫と衝撃が身体を襲う。

 何かが背中に飛びついてきたのは直ぐに判った。そして その声から誰が来たのかも。

 

「1人でまた、無茶ばかりして!! 何で、何で皆を頼ってくれないのよっ!」

 

 背中越しに思いっきり締め付けてくる。それがイルゼだという事はアキラはすぐにわかった。付き合いが一番長く、今までも同じ様なやり取りは何度かあったから。

 確かにアキラ自身肝に銘じる所ではあった。熱くなってしまったら周りが見えなくなってしまう事も今まで何度かあったから。

 

 だけど……、それを踏まえてでも。

 

「悪かったイルゼ……。だ、だけど……そこ、傷………」

 

 思いっきり捕まれている場所は 先程建物を突き破った時に出来た傷跡である。軽いお仕置き、とは思えなかった。激痛が走っちゃってるから。

 

「あっ……! ご、ごめんっ!!」

 

 イルゼは咄嗟に離したが、アキラは暫く痛みで悶絶をするのだった。

 

 

 

「さて ちょっとは頭冷えたかな? アキラ」

「ぁぁ……、十分すぎる程な」

 

 イルゼの後に遅れてやってきたのはハンジ。

 2人のやり取りを見て、少し苦笑いをしたが直ぐにアキラの頭を冷やす事を優先させた。悶絶している所に、文字通り水をぶっかけたのだ。

 

「随分酷い事してくれるじゃないか。……2人して」

「ごめん……。でも、アキラも悪いから。 ……絶対悪いから」

「リヴァイの指示でもあるね。『会ったら頭冷やさせてやれ』ってさ。勿論『手段は問わず』だって」

 

 ぐぅの音も出ない とはこの事だろうか。それ以上は何も言わず手を軽く左右に振った。

 今の状況を考えればゆっくりもしてられないから。

 

「一先ずこの人を安全な所へ、だな。この辺り唯一の生存者だ。……皆のガスはまだ大丈夫なのか?」

「とりあえず今はまだね。……でも戦況は悪過ぎる。空けられた穴から何体も出てきてる。……今まで無かった巨人の団体だ。だからこれ以上被害を少なく最小限に留めるには――ウォール・マリアを放棄するのが最善策だ」

 

 ハンジの言う策が最善である事は アキラもこの場にいるほかのメンバー達も判っていた。如何に巨人たちと戦い慣れているとはいえ 巨人相手に物量戦では分が悪すぎる。全員がアキラの様な肉弾戦が可能だったら殲滅は可能かもしれないが、そんな美味い話はない。アキラ自身の力の秘密を探ろうと色々と調べてみたが……健康な男子である、と言う結果しか出なかったから。

 アキラ自身もその身に宿す力の根源は この世界では解析出来ないとは判っていた。あの奇妙な声も自分自身にしか聞こえてこないのだから、尚更だろう。

 つまり、無いもの強請りをしても始まらない。今出来る最善をするしかない。

 

「アキラも無理ばかりしないで! ……もう、後少ししか動けない(・・・・)筈でしょ!」

「………ぁ」

「……まさか、忘れてた? 考えてなかったの?」

「………」

 

 沈黙は肯定と取る。

 だが そこを すかさず肘撃ちをしたのはイルゼの隣にいたぺトラ。イルゼはカルラを介抱していたから少し遅れてしまった様子。

 

「少しは回りを見て! 私達の事も信じてよ!」

「いや、信じてない訳じゃ無いんだ。熱くなったら、こうなって……。オレ 元々こんな性格じゃなかったと思うんだがなぁ……」

 

 いつの間にか熱血漢になってしまっている自分に今戸惑いがある。環境が人を変える、と言う言葉は聞いた事があるが、ここまで極端に変わるものなのだろうか? とアキラは思えた。

 

「なら、次は行動する前に一呼吸置く! 後先考えないの厳禁! 勿論、本当に緊急事態。動かなきゃ死ぬ様な時以外はだよ!」

「はい。ぺトラせんせぇ……。でもまぁ……とりあえずだ」

 

 一呼吸置いた後、直ぐ横から大きな影が飛び出してきた。

 

「これは緊急事態、って事で良いよな?」

 

 飛びかかってきたのは3m級。

 比較的小さい部類ではあるが人間にとっては巨大。人の頭は軽く丸呑みしてしまう程の口を広げて飛びかかってきたが……、そこにカウンター一閃。

 

 ドゴンッ! と爆発音の様な凄まじい轟音が響く。

 

 アキラの拳が巨人の前歯に直撃。歯をぶち折るだけでなく、そのまま鼻先を拳で抉り吹き飛ばした。

 

「……今のは良し!」

「とりあえず、此処でゆっくりしてられない。移動しながら話そう。アキラも後は回避とフォローに回って。……極力温存する事」

「判ってる。ほんと そろそろヤバそうだ……。エルヴィンやリヴァイの小言を訊くのも嫌だし」

「駄目、怒ってもらうから覚悟しといて」

「……はいよ」

 

 冷や汗ものだと言えばそうだが、珍しい事ではない。でも自分の残りの体力を把握し切れてないのはやはり危ないから、気を引き締め直す事にしたアキラ。

 

 そして、ハンジやイルゼもそうだが 個々の力の差が圧倒的にあるとはいえ、アキラの力に頼り過ぎている事は非常に頂けない。今後の事も今まで以上に考え直す必要がある、と頭の中でそれぞれが考えていたが、今は兎も角行動をする事を優先させた。

 

 全員が周囲を警戒し 立体機動装置を使って移動を開始したのだった。

 

 

 

 

 その後は……ハンジの言った通りになった。いや、そうせざるを得なかった。

 

 

 

 元々の危機意識の低さもあって、迅速な避難も出来なかった事も致命的だった。

 調査兵団の奮闘もあって、想定されていたよりも被害が抑えられた、と言うのは 事が終わった後のエルヴィン団長の言葉。だが それでも調査兵団以上の数の巨人が押し寄せて来たら、如何に戦い慣れていても無理だった。

 強力な戦力であるリヴァイやアキラの奮闘も一時凌ぎにしかならなかったのだ。

 

 この日――人類は巨人の進撃を防ぎきる事は出来ずウォール・マリアを放棄。 第2の壁 ウォール・ローゼ内部まで後退した。

 

 

 そして、人類は思い出した。

 巨人に支配されていた恐怖と壁の中と言う鳥籠の中に囚われていた屈辱を。

 

 そして、新たに芽生えるものもあった。

 

 

 

 

―― 駆逐してやる……! この世から、一匹残らず……!

 

 

 

 

 

 




そこまで無敵じゃない様子。

……あまりやりすぎたら、ジー○とライ○ー、ベルさんが絶望しそう。
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