目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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11話

 

 

 

 調査兵団の本部として利用している古城を改装させた施設。

 

 作戦会議は勿論の事、休養にも利用していて設備もそれなりには整っている。

 

 ウォール・マリアが巨人によって突破されてから約1ヵ月間。本部で療養と深い眠りに入っていたアキラの耳に入ったのは、とんでもない知らせだった。

 

「――なんだって? ……悪い。よく聞こえなかったみたいだ。もう1回言ってくれ」

 

 自分自身の耳が悪くなった? と疑いたくなるのも無理は無い程の知らせである。

 ぺトラは神妙な顔つきのまま続けた。

 

「……ウォール・マリア奪還作戦を打って出たの。調査兵団だけじゃなく、駐屯兵団、憲兵団。全部隊から兵士達を募って」

「あー、そこは良い。奪われたってのは間違いないんだからな。……肝心なのはその次だ。そっから先がオレ、耳が悪くなったみたいで聞き取れなかったから」

 

 アキラは こめかみに人差し指を当てて唸った。

 

「集めた兵士達の総数は――60万人。一斉攻撃に出たの」

「………………聞き間違いじゃ無いって事かよ」

 

 60万人が討ってでたとの事。

 あろう事か巨人相手に物量戦を挑んだという事だ。アキラの覚えている範囲では 倒した巨人は20程に昇る。リヴァイも含めたらその倍以上。更には他の調査兵団の皆の力を合わせたら、まだ増える。

 

 だが、それでも減った様には感じなかった。寧ろどんどん増えていっている程だ。1体倒したら、2体。2体倒したら4体。……あの時の巨人の湧き出方は アキラ自身の力と同等。つまり異常だった。調査兵団の遠征で遭遇する巨人の数よりもはるかに上回っているのだから。

 

 そんな団体さんが待ち構えている場所に60万もの人間を送り込んだ。――聞き間違いじゃないらしい。

 

「……憲兵団? 駐屯兵団は百歩譲って良いと思う。訓練は一応受けてるって確か聞いてるし、あの日。……犠牲は多かったけど奮戦はしていたって思うからな。……だが憲兵団? 人間相手にしか戦ってこなかった面子じゃなかったっけ? オレここにきてまだ日も浅いし、間違ってないよな?」

「…………」

 

 今度はぺトラの無言だった。

 アキラは その無言は肯定と取る。

 

「……皆は? 調査兵団 リヴァイの班やハンジ達は?」

「それは大丈夫。結果は……その、……だった、けど。軽症者は何人かいるけど、死者無しだった。全体的に調査兵団の犠牲者は1%以下だったから」

 

 壁外で巨人と何度もやり合ってきている経験値が当然生きてきているのだからだろう。安堵感に包まれるが、直ぐにまた聞く。

 

「何度も悪いな。最後にもう1つだけ聞く。『それだけの数を投入して領土を奪還出来たのか?』 とは聞かないよ。……60万と言ったな。その生還者は? 何人、帰ってこれたんだ?」

 

 アキラの言葉に、ぺトラは表情を落とした。

 その核心めいた質問は ぺトラから言葉を発する器官を奪ってしまったかの様だ。

 

 つまり、その殆どが―――。

 

「……エルヴィンやリヴァイ、ハンジも了解を得ていたのか? その作戦」

「限られたメンバーにしか……上層部にしか命令は下ってなくて……。兵長もどこまで知っていたか不明なの」

 

 無駄死にするのもさせるのも嫌いだというリヴァイ。粗暴で神経質で潔癖症で……上げたら色々と口から出てしまうのだが、はっきりと言える事はある。

 

 ……あの男(リヴァイ)は仲間想いだという事。

 

 死にかけた兵士を看取る時 息を引き取る最後まで声をかけ続けていた。巨人を殺す時は無情に斬り捨てる。鬼を彷彿させる物があるがその時だけは息を潜めていた程だ。

 

 単純な強さだけじゃない。そういう所があるからこそ、近寄りがたい雰囲気を流していても、彼を慕いついていく者がいるんだという事はアキラ自身も判っていた。

 そんな男が 無駄死にさせる様な場所へ行かせるとはどうしても思えなかった。

 

 エルヴィンに関しては、少し違う。何よりも優先させるものを判っていて、切り捨てる時は 迷わない。人間性を捨ててでも決断する決断力を持つ男。だからこそ、団長に相応しい男なのだろう。リヴァイやハンジと言った、各長達も信頼をしている所からも判る。

 

 そして その作戦を訊いてもう1つ疑問も生まれた。

 

「…………なら その作戦の時 何でオレを起こしてくれなかった? オレも加わるべきだろ。街中はあの装置を使うのは絶好の場だが、建物の高さが心許ないから安全地帯が少なすぎる。白兵戦にでもなったら餌食になるのは目に見えてるだろ」

 

 そう、アキラ自身の配置についてだった。

 

 どういう風に上に伝わっているのかはわからないが、民衆の声を聴く限りじゃ色々と尾鰭がつきつつ広まっているのは判る。そんな力を持つ男を何故 ほったらかしにしたのだろうか? と言う事。大規模作戦であれば尚更だ。

 そんなアキラの質問に無表情で答えるぺトラ。

 

「……兵長や団長の指示。休ませておけって」

「何言ってんだ馬鹿。オレが行けば犠牲者だって減らせたかもしれないのに、指示だっつっても時と場合を――」

 

 そこまで言った所で、ぺトラはアキラの胸倉をつかみ上げた。

 

「馬鹿はどっちよ! 時と場合!? どの口が言うのよ! アキラに言ったら 自分の事ぜんっぜん考えないままに また突っ込むからでしょう!? そんな怪我してるのに、ずっと昏睡状態だったのに! ほんといい加減にしてっ!」

「っ……」

 

 大きくアキラの身体を揺さぶった。

 

「自分が犠牲になって助けたら良い。命削って助けれたら良い。自分はどうなっても良い。そんな、なんでもできるカミサマのつもりだっていうのっ!? アキラだって人間なんだよっ!? 起こさなかったのは 無理ばっかりし過ぎるからに決まってるじゃない!」

 

 その言葉は何度も言われている。ぺトラだけじゃない、イルゼにも似たような事を何度か言われた事でもあった。ここまで激昂されたのは初めてだが。

 

「悪かった。心配ばかりかけちまってたな……」

「………」

「……悪かったよ」

 

 アキラの顔を見て、激昂しているぺトラの表情が少しずつ和らいでいく。

 

 そしてゆっくりとアキラを離した。

 

「ほんとに、判ってるの……? 何度目の反省?」

「ああ。判らない訳は無いんだ。オレだって反省くらいする。オレでも…………」

 

 自分自身がよく判らない事は何度かある。今までの言葉は無意識下での発言ではなく自分自身の意思である事も理解している。だけど、ぺトラの言葉の意味もはっきりと判る。1人で格好をつけるな、と言われればそれまでの話だが これは一歩間違えたら命に関わる事だ。

 なのに、躊躇わない。言われるまで止まらない。その根幹が判らなかった。

 

――自己犠牲精神に目覚めたのか? 

――何故、こんな風に行動する? 何で身体が動く?

 

 アキラ自身でも本当に判ってない事だった。

 

「アキラも反省してるみたいだしさ。その辺にしといてあげて。ぺトラ」

「っっ……! ハンジ、分隊長……」

 

 いつの間にか入ってきていたのはハンジだった。

 そして、その後ろにはリヴァイもいた。

 

「おはようアキラ。寝起きはずいぶんと絶不調みたいだね」

「……ぺトラには何度も怒られてるからな。今も怒られた。……怒られたり叱られたりして喜ぶ様な趣味はオレにはないからな」

 

 軽口を訊けるだけの口は まだ動く様だが やはりまだ自分の中では自問自答を繰り返していた。

 

 

 もう霞んで薄れつつある前世。此処とは違う場所。

 嘗て自分が生きていた世界ででの事を可能な限り思い返していた。

 

 

 何にも自分には無かった。早々に家族を失い 身内に絶望し 世の中に絶望し 荒れた。

 最後の最後で、唯一良い事をした。何でかはもう思い出せないが、それでも身体が動いて命と引き換えに少女を助けた。

 

 断片的ではあるが 以前の人生はそれだけだった筈だ。

 

 今回の行動も似ているとは思う。……何故そんな行動をとる? 

 

 繰り返し繰り返し脳内会議が開かれていたのだが、それは間もなく閉幕した。ハンジと話しをする為に。

 

「ぺトラの言葉だけど、アキラを呼ばなかった理由は大体それであってるよ。アキラは ほんと無理しすぎる。まだ半年程度の付き合いだけど アキラの事よく判った。……でもま、何でそこまでするのかはわからないけどね」

「脳内お花畑なんだろ。なまじ力を持ってるから実行できてるだけだ。……ただのガキって事だ」

「へいへい。目覚めに一発いい励ましをくれてありがとさん」

 

 リヴァイの話は半分に、ハンジの話に少しだけ集中する。……たまにハンジ自身にもいろいろとあるから、この割合でずっと行くとは思えないけど。

 

 ハンジは、手を伸ばして備え付けられていた椅子を引っ張り出し、腰を掛けた。

 

「あのねアキラを呼ばなかった一番の理由……。君はほんと人類にとって宝なんだよ。そんな君を無理ばっかりさせて 失う訳にはいかない。……来たばっかりで迷惑だって思うかもだけど。調査兵団は エルヴィン団長はそう思ってる。初めてここにきて、色々と知って 何としても抱き込めって何度も言ってたからね。だから 言わなかった。……今回の作戦。ほんと作戦って呼べないものだったしね」

 

 ハンジの言いたい事は判る。

 この残酷で過酷な世界の事を考えれば尚更だった。

 そして 今回の作戦についても、その真意を理解できたかもしれない。ハンジの言葉を訊いて。

 

「そうか。数を――減らしたかったのか。人間の」

「聡明だね。落ち着いてる時に限りだけど。そう、その通り。……ウォール・マリアを失って、人類の領土数割を失って大量の失業者で溢れるのは目に見えていたから。だから政府の上層部は 見事な速度で下したよ。今回の1件をね」

 

 ハンジの言葉に簡単に納得する事は出来なかったが、その後に聞かされるこの世界の未来。それを訊けば、嫌でも納得せざるを得ない。

 もしも あの広大な領土を奪われ、人間の数はそのままなのに、領土が狭くなったらどうなるか。

 数少ない食料を 資源を 土地を奪い合い……最後は殺し合いになるだろう。最後は巨人に殺されるのではない。人間同士が殺し合う結末なのだ。

 

「……だからか。 リヴァイも何も言わないのは」

「ふん。……オレは寝過ぎてるバカをいい加減叩き起こしに来ただけだ。仕事はまだ残ってんだぜ」

 

 リヴァイはそう毒づくだけで それ以上は何も言わなかった。

 エルヴィンも間違いなく同じだろう。いや 冷徹 冷酷 無情な結論を選べる決断力を持つエルヴィンであれば、率先して行動をしている可能性だってある。

 

「とりあえず、今回の事は胸に秘めといて。……皆口にしないとは思うけどアキラもね。……これは人類全員の罪にもなるんだ。失った人達がいるから 生きていけるんだから。……簡単に納得できないとは思うけどね」

 

 ハンジはそこまで言った所で、椅子に深く腰掛けて 大きくため息を吐いた。

 

「はぁ…… ほんと 何だかアキラには色々とごめんね。勝手に人類の宝にしちゃった事もそうだけどさ」

「……いや もう オレには帰る所も行く宛ても無いんだ。此処がもうオレの居場所だ。だからオレにだって益はある。……それに 他にもあるだろ? このよく判らん腕っぷし。居場所をくれた対価がそれなら十分感謝だ」

「そう、その答えも何度か聞いてる。よくよく考えたらアキラは欲が無かった所が不思議だと思うんだよね。そこまで力を持ってるなら、やりようによっちゃ何処までも上がれる可能性がある。巨人が圧倒的な脅威であるこの世において、それをある意味上回ってる力を持ってるからね。……勿論 むちゃくちゃな力だから ちょっと間違ったら恐怖されて 魔女狩り宜しく的な場面になる事もあったかもだけど」

 

 それは考えなかった、と言えば嘘だ。

 力を持てば、人は集まる。崇める事だってある。そして……畏怖する事だってあり得るのだから。

 

「……なんだ? ハンジは心理カウンセラーの真似事をしてくれるってのか? オレの」

「まぁ そうかもね?」

「……オレは とっ捕まえた巨人たちにご執心してて もうオレは眼中になしだと思ったんだがな」

「冗談。確かにビーンやソニーの事は否定しないけど、アキラだって十分魅力過ぎだよ」

「……その笑顔がオレには毒だし、怖いぞ。解剖は勘弁してくれよ」

「ははは、そんな事しないしない」

 

 そして リヴァイがハンジの隣に音を立てながら椅子に座る。

 

「いい加減話を進めろ。話の本筋は人事異動の話だろ。ズレ過ぎだ。とっとと戻せ」

「は? ……じんじ? いどう?」

 

 よくリヴァイの言ってる意味がいまいちわからなかったアキラだが、直ぐに説明されて理解する事になる。

 

 

 とりあえず、面倒な事になりそうなのは 説明される前から びんびんに感じていたのだった。

 

 

 




リヴァイ班なのでぺトラが介抱(多分イルゼ渋ってる?)。

イルゼとぺトラ。立ち位置完全にかぶってると思う今日この頃。
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