目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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 突然お気に入りの登録数が増えたり、ランキングにのってたりと非常に驚いてます。
 見てくれて ありがとうございます。

 ただ、それだけに非常にプレッシャーも感じますね。チキンハートなので。
 拙い文章なので 暖かい目で見てくれたら嬉しいかと思う今日この頃です。




14話

 

 

 

「なぁ、シャーディス教官。ちょっと聞きたい事があるんだが」

「……珍しいな。お前が私の事を普通に呼ぶのは」

 

 それは 訓練開始2日目の夜の事。

 

 教官は訓練兵とはまた別の部屋を当然ながら用意されている。其々個室も用意されていて、それなりに優遇されているのだ。

 

 その日は アキラ達教える立場の者達も一か所に集まって 色々とミーティングをしていた。1人1人と部屋へと戻っていき今いるのはアキラとシャーディスの2人だった。

 

 最後まで残ったのは、シャーディスに話があったからだ。少し、気にある事があったから。

 

「今日の適正確認の訓練、と言うか試験と言うか、あの宙釣りのバランスとりだが……、アンタ 何かしたのか?」

「……言ってる意味が判らんな。何の事だ?」

 

 身体半分、背けていたアキラだったが、ゆっくりとシャーディスに向き直った。

 

「適正の試験であろうと、訓練であろうと それらに関しちゃ当然だが公平にしてた。オレも多少は 見るヤツに違いはあったが基本的にはな。勿論、アンタだってそうだろ? いや 完璧だ。此処にきてそれなりに経つが 一度も無かった。肩入れとかそんな類なのはなかった。……訓練が終えた先に待ってるのは 大多数が地獄。特別な感情を持たず 任務に集中するのが正しい姿なんだろ?」

「…………」

「それで今日の適正検査。言ってる意味 もう判ってると思うけど……、あんなの有り得ないだろ? あの少年 腰まで浮いてんのに あんな風に盛大に頭から激突するなんざ。そして それを指摘しないアンタもな」

 

 頭に手を添え 肘を机に立てて、アキラは続けた。

 

「ああ……別に話したくないならこれ以上詮索するつもりはないさ。アンタにはアンタの考えがあっての事だってくらいは判る。無意味な事はしないって事もな。……ただ、自分でも判らんのだが、妙に気になってんだよ。……だから、詮索する気はないって言っといてなんだが、次のだけ。次のだけを最後の質問にさせてくれ。別に答えたくなかったらそれで良い。……あの少年、エレン・イェーガーには何かあるのか?」

「……………」

 

 シャーディスは、口を閉ざしたまま話の最中に閉じた目をゆっくりと開いた。

 

「私の………、私の知り合いの忘れ形見だ。ただ、それだけだ……」

 

 シャーディスは 今はそれ以上は語る気は無い、と言わんばかりだった。

 つまり、友人は死んでいるという事だと言う事を理解出来た。

 

「そうか。……2年前の。悪かったな 詮索して」

「いや。私も少しは 話さんとな。……気が紛れるというものだ」

 

 シャーディスは、まだ残っている酒を最後まで飲み干した。

 その瞳は、何処か遠い所を見ている気がした。

 

「そっか。……色々あるんだ。人には……。人の数だけ それは沢山ある。……当たり前の事、なんだよなぁ。ここに来てもう何年になるか……。 でも、オレはこう言うのばかりだ」

「………」

 

 シャーディスは、アキラも同じ様に酒を口の中に注ぐ姿を見る。

 その姿は年相応とは言えず ギャップがあって 少なからず笑えた光景でもあるのだろうが、それ以上に胸に思う事があった。

 

「(アキラ―― お前がもっと早くに 調査兵団になっていれば………私も………)」

 

 シャーディスもアキラが調査兵団からこの訓練教育の場に配属をされた事は知っていた。アキラの功績やその()に関しては知らないが、それでも入って初日目に最強と名高いリヴァイ班に配属された事。調査兵団に所属してるのにも関わらず、この場に休養を理由に配置された事。

 同じく、リヴァイ班所属の兵士達ぺトラとイルゼも彼を慕っているのも一目瞭然だった事。

 

 それらの色々な思いが頭の中を廻る。

 

 だが、それらの思いも軈て消え失せてしまった。

 

「(……私はただの傍観者。私には何も変える事は出来ない。変える事が出来るのは 有能な兵士達だけだ。……エルヴィン。お前と早々に交代して正解だった)」

 

 これが運命だと言うのなら、その流れに導かれるままに――アキラが此処に来たのだろう。

 

「(私が出来るのは――――)」

「あー そろそろ戻って寝るわ。明日も結構ハードそうだし」

 

 くぁ…… と欠伸を1つするアキラ。それを見てシャーディスも小さく頷いた。

 

「そうだな もう良い時間の様だ。私も寝る事にする。アキラ1つ言っておきたいが、あまりサシャ・ブラウスを甘やかすなよ。お前も訓練自体は問題なく公平だが、接し方、扱い方の方もな」

「あー……。そりゃ確かに耳が痛い事だ。面白いヤツだったからついちょっと……」

 

 アキラはその後部屋を後にし、シャーディスも同じく戻っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□ 翌日 □□

 

 

 

 少年エレン・イェーガーとシャーディス教官が向き合っていた。

 今日結論が出る事になる。この少年の行く末が。

 

 

「どうなると思う? アキラ」

「ん……。あの少年か? オレは 乗り越えると思うがな。……あの少年の気迫と、その目を見たらそう思えた。やってくれそーな気がするわ」

「だがな、今期は確かに出来る者が確かに多いが、誰しも素質と言うものがあるだろ? アキラ。人並み以上に出来る事があれば 人並以上に出来ない事だってある。……一夜にしてそれが覆るとはオレは思わんぞ」

「まぁ、それが普通(・・)なんだろうなぁ。……だが生憎、オレ 普通はとか、それが当たり前~とか あんまり信じないみたいなんだよ」

「ぁー……、まぁ お前はどっからどーみても 普通じゃねぇしな……。調査兵団現役所属の身でここにいるんだから。ああ、イルゼやぺトラも似たようなもんだが、監視役~とか言ってたし」

「色々とあったんだよ。オレにも」

 

 

 黙っていても 結論はもうすぐ後に出るだろう。だけど 何故だか判らないけれど、あの少年 エレンの事が何処か気になってしまった様だった。

 

 緊張している顔つきだが、その眼の中の色は同じだった。初めて見た時から変わらない、強い決意の表れを見た。

 

「よし。始めろ」

 

 シャーディス教官の一言で 始まった。

 キリキリ……と音を立ててゆっくりと浮き上がるエレンの身体。

 今までは、つま先が地から離れて2~3秒後にはバランスを崩して反転をしていた。

 

「(1、2、3……)」

 

 頭の中で秒読みをする。

 不安定で震えているものの、その身体は状態を起こしたままをキープする事が出来ていた。

 

 その姿に歓声が僅かだが上がっている。

 

 

――出来た!

 

 

 恐らく 見守っていた者の殆どが思った事だろう。

 だが、その次の瞬間。ガキンッ! と言う金属音と共に エレンの身体が反転し 地面に後頭部を打ち付けていた。

 

「ああっ!!」

「!」

 

 失敗してしまった事実を認めたくないのか、まだ諦めたくないのか、エレンは身体をバタつかせていた。

 

「ま、まだオレは! オレは出来ます……!!」

「いや、おろせ」

 

 無情な教官の一言は、彼の表情を奈落へと突き落とした。

 青ざめる表情は、絶望感さえ漂わせていた。

 

 

「ほらな。……そう上手く行きっこないんだよ。出来ねぇもんは出来ねぇ」

「いや、まだ終わってないみたいだぞ? ファムル 見てみろ」

「ん?」

 

 アキラが指さした先。

 それは、エレンを下へと下ろした兵士 ワグナーの装着している装備とベルトをエレンに渡していた様だ。

 

「あん? 装備代えたからってどうにかなるもんじゃ……」

 

 と、普通なら彼の様にそう思う事だろう。

 そう――普通なら。

 

 

 装備を交換した後、あっさりとエレンは 出来る様になっていたのだ。不安定だったが反転する事なく、身体をキープする事が出来ている。

 その光景には周りは勿論 本人も驚いている様だった。

 

「……なんだってんだ? 一体」

「装備を代えたら出来た。……なら、1つしかないだろ?」

「あー、成る程。装備に欠陥でもあった、って事か」

 

 納得した様で、手をぽんっ と合わせていた。

 

「運が良いんだか悪いんだか判らねぇな。あの訓練兵は」

「運だって実力の内だろ。……オレはそれを知ってる」

「調査兵団サマは 言う事がやっぱ違うねぇ。今回もピタリと当てて見せたし、何より ここ数年の飛躍だってそうだしな。じゃ オレ戻るわ」

「おう」

 

 手をひらひらと振って離れていくファムル。

 そして、アキラも。

 

「おおい。アキラ。立体機動装置の訓練を始めるから来てくれ」

「ん。判った」

 

 呼ばれたから、その場を離れていった。

 エレンの事は少々気にかかっているのは事実だが、自分の役割を放り出してまで見る程の執着は無いから。

 

 これより始まるのは、立体機動装置の訓練。

 数多くある訓練の中でも最も過酷な部類だと呼ばれているものの1つだ。

 

 居並ぶ訓練兵達の前に 先程呼びに来た男と共に並んだ

 

「これより、立体機動装置の訓練に移行する! 知っての通り、これが出来なきゃ巨人の相手は出来ない。つまり このままでは死ぬしかない。ここで体力、耐G能力、そして空間把握能力を鍛えてもらう」

「っつー訳だ。……気ぃ引き締め直せよ? まだ入り口に立ったばかりだがな。こっから始まっていく訓練はマジで死ぬかもしれねぇ事が多いからな。冗談抜きで。初日は多分大丈夫だと思うが……、まぁ あくまで多分だ」

 

 訓練の説明をしようとする男と、まだ始めても無いのに脅かすアキラ。

 

 その話を訊き、少々ざわつくのだが、アキラの事を見て 聞いて、接した者が多いから、そこまでの緊張感は無かった様だった。

 

「やれやれ……。こりゃ不味い」

「アキラの責任だ。実演しろ。全項目」

「判った判った。……こればかりはしっかりとしねぇとマジで死人が出る」

 

 アキラは首を振り、腕を回し、皆の前に並んでいる訓練器具の前に立った。

 確かに笑う事が出来る場は必要だ。それは上官を含めて全員が判っている。

 

 だけど、訓練の最中でもそれは適用されるか? と言われれば絶対に首を縦には振らない。メリハリやON/OFFは当然必要だ。緊張感をもってやらなければ怪我じゃすまないから。

 それを教える為にもアキラは、前に出たのだ。色々とやらかしてる? 本人が実演して見せた方が効力があるという事を判っているから。

 

 身体に命綱を着けて、高所より飛び降りる訓練(俗に言うバンジージャンプ)、器械体操、命綱を使用したクライミング。

 

 そして 何よりも訓練兵達を恐怖させたのは、命綱を故意に切ってのけた所だ。《闇討ち》と呼ばれている訓練で、想定外の出来事が起きた後の対応を見る訓練だ。

 

 当然自分を支える命綱が切れた事で、支えの1つを失った。思わず悲鳴も起こるが それでもアキラは慌てず全くブレず、少し体勢を崩しかけていたが、あろう事か崖を素手で殴って拳大の穴を空けて、がっちりと掴んで落下を阻止していた。

 

 数多く揃えられた訓練器具とその内容を一通り全て終えた所で戻ってきた。

 

「えー判ると思うが、これからやるのは安全とは程遠い。死ぬ事だってあるって事だ。だが 外の事を考えりゃ、こんなトコで死ぬのならまだマシだ、って声もあるみたいだな。……それに巨人どもと戦うつもりなら、こんなトコで死ぬようじゃ話にもならんからそのつもりで」

 

 アキラはそう言った後に 頭を掻きながら言った。

 

「判ってると思うが、この訓練、今のを見よう見まねでやってみようとか、安易な考えをもったりすんなよ? オレもここまでになるまで大変だったんだからな。どっかのバカ眼鏡と、根暗男にむちゃなやり方で教え込まれたから出来るだけなんだ。しっかりとした手順で、毎日の訓練・練習をすれば身につく。……出来る様になる為の近道なんざねぇからな。日々精進する事だけだ」

 

 それだけを伝えるとまた 元の位置に戻っていった。

 

「それでは、基礎訓練からだ! 各自、指示に従って開始!」

 

 その合図と共に 過酷な訓練が始まった。

 訓練兵達の誰もが 先程の様な気の緩みはなく、訓練に打ち込んでいた。

 

 そして、その訓練を見つめる傍らで。

 

「相変わらず見事だな」

「だからさっきも言ったろ? オレの職場の上司がヤバいだけだ。色んな意味で。……あのハゲ教官が可愛く見えるかもしれん。………いや 可愛くは見えん」

 

 褒め言葉に苦笑いをするアキラ。

 自分自身の力に加えて、壁の外での1年の生活も確実に糧になっていた筈だが、それでも 立体機動装置の訓練もそうだが 立体機動装置自体の扱いも非常に難しいと言わずにはいられなかった。

 

 アキラは、元々リヴァイと言う超級の兵士の下で訓練をしていたから、ハードルが高すぎたせいだ、と言う声も少なからず上がったのだが、ハードルは高ければ高い程良い、と言う結論が出たので(ハンジとリヴァイ談) そのままだった。

 つまり初心者コースなど彼には無く上級者コースをいきなりだった。それでも しっかりと超えているから、周りはその力に改めて驚くのだ。

 謙遜をしてる所も評価に値するらしいが、色々と口の利き方が~ とあるから そこまで上がってない。代わりに規律にうるさい事を言う者達も黙認してたりする。

 

「兎も角、これからが始まりだな。長くなるってもんだ」

 

 訓練兵達をもう一回り視線だけを向けるアキラ。

 少々気にかけていたエレンの姿、サシャの姿、全員を満遍なく見続ける。

 

 誰も死ななければ良い。と言うのは甘い理想論に過ぎないだろう。実際にウォール・マリアの一件では数えきれない程の人間が死んだのだから。だけど、それでも甘い理想論だとしても……それを止める事はないだろう。

 

「さて……と、っていうか オレはいつまで此処に配属なんだ……? 休息っつーなら 十分なんだが」

 

 うぅん、と考えていた所で 本日もぺトラが合流。

 アキラの独り言を訊いていた様だ。

 

「まだ先だって。調査兵団の方も 小規模な作戦とかはあるけど、人数も足りてるし。被害も出てないから」

「成る程。でかい事があれば 現場でこき使われるってわけか。ま、別に構わんけど。……それに そろそろ、あのデカい連中をまた殴りたくなってきた所だ」

「そろそろ剣の使い方も覚えたら……?」

 

 ゴキッ と音を立てながら拳を握りしめるアキラを見て ぺトラは頼もしくもありそれでいて心配でもあり、とため息を吐いていたのだった。

 

 

 

 また――、巨人と戦う日も近い。

 

 

 


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