目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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17話

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 場所は訓練施設。

 

 あれからもう2年が経過していた。

 

 この場所で汗を流し 訓練に訓練を重ね 兵士達は当初に比べ見違える程に成長を果たしていた。身体だけでなく……心までも。

 

「いや……、心っつったらちょい微妙だがなぁ……。サボってるヤツはサボるし」

 

 調査兵団の任務の傍らで、訓練兵達の特別講師も受け続けて2年。……それなりには上下関係、信頼関係は気付けたと思うアキラ。……いや そう思ってるのは訓練兵達だけだろうか。

 

 教官と言うよりは、仲間の様に接し、接されている。アキラ自身も堅苦しいのは嫌いだからそれを望んでいたから上下関係は公の場以外では見せない様にとしていた。

 

 

 そして、今日は午前から格闘術の訓練の真っ只中。

 

 2人1組になって 刃物で襲ってくる相手を対処する為の格闘術の訓練を受けている。

 

 その訓練兵達をしっかりと見ているのはアキラだけでなくぺトラもいた。

 

「でもこれ 巨人相手に役に立つとは思えないぞ。巨人がナイフ持って襲い掛かってくるとかも有り得なさそうだし」

「ん? でも アキラにとっては凄く役に立ってるんじゃないかな。見よう見真似であっと言う間に巨人にしてたじゃん? その力押しが基本だったのにさ?」

「あー……、まぁ 試した事なかったし。前は喧嘩ばっかりで当て感だけは結構自信があってそれだけで対処してたからな。でもなぁ。まぁ……人間の中にも色々いるし。覚えておいて損は無いよなぁ~」

「それ、絶対ハンジ分隊長の事言ってるでしょ」

「さぁてね。ああ、1人じゃないと思うがなー」

「って事はリヴァイ兵長もって事? あの2人をどーにかしよーとするなんて、アキラくらいしか考えないよ」

 

 ぺトラの口からとんでもない名前が出てきたのだが、幸いな事に訓練兵達は今の訓練の真っ最中だったから、訊いてなかった様子。

 決して少ないという訳じゃない調査兵団だが、そんな事を口にするのはアキラくらいだろう、とぺトラは苦笑をしていたその時、アキラは。

 

「お……? アニのヤツ。何だかやる気になってんじゃん。何かあったのか?」

 

 数多くいる訓練兵達の中の1人を見つけて、見ていた。

 

 その兵士の名前は《アニ・レオンハート》

 

 数多くいる訓練兵達の中でも極めて能力が高く、殆どの訓練で点数を取っている。

 

 だが、格闘術においては あまり重点に考えていないからか、成績に付ける点数は立体機動術に比べたら果てしなく低い。だからこそ、今までは隠れてバレない様に 上手くサボっているばかりだった様だが……。

 

「へぇ…… アニの相手はアイツか。エレン。一体どういう心境なんだかな。やる気出してんじゃん」

 

 2人を眺めてるアキラに 肘撃ちを入れるぺトラ。

 

「いてっ! な、なんだ?」

「……アキラ そんなに、あの子の事。気になるの?」

「ん?? 気になるっつーか、結構珍しいだろ? ぺトラも思わないか? アイツが格闘術でやる気だしてんの」

「そ、それはそーだけど……、この間なんか 手取り足取りって……」

 

 いじいじと、両方の人差し指を合わせるぺトラ。

 

 以前、バレない様にサボってたつもりだった様だけど、ものの見事にアキラには見つかった事があった。鬼教官がいるからアキラ自身はそこまでとやかくは言わなかったけれど、一度 アニと格闘術の訓練をマンツーマンで受けた事があったのだ。

 アニにとってみれば、真面目にする所を見せて口止めのつもりだったのかもしれない。……内地志願者にとって 点数の減少は死活問題なのだから。

 

 足技を主体としたアニの格闘術。その威力もそうだが 何よりも正確に素早く、最も効果的な部分に蹴りを入れる。それは滅多にみられる物じゃないんだが……。

 

「いやいや手取り足取りって、そんな楽しそうなもんじゃなかっただろ。あん時は サシャにした時の要領で、アニの攻撃を躱して躱して 何度かからかってたら……、めっちゃキレられたじゃん。普段から怒り顔が1段階増して、まるで鬼でも出たんかと思ったんよ」

「ぁー……。でも 女の子からかって遊ぶなんて、アキラ趣味が良いって思わないよ?」

「ま、そりゃそうだが。でも 本気のアイツってのを見てみたくてな。アニともう1人のヤツはほんと逸材だってオレの目から見ても思うし」

 

 アニの蹴りは正確無比で素早い。

 だが、それはあくまで人間業の範囲内だ。アキラの上司にはとてつもなく早い男もいるし、数いる中でも動きが俊敏な巨人も何度か相手にした事もあったからか、アニの動きに慣れるのも早かった。

 

 1~2度目は蹴りを脚で防御。

 そこから先は上手く回避を続ける。首と脚を取ろうと手を伸ばしてきても、一寸の距離で外され、逆にふわりとゆっくりと投げられる。……でも地面に倒す事はせず そのまま1回転させてこれまた上手く着地させてあげたりしていた。

 

『例え訓練だろうと、女の子をぶっ倒したりはしないよ~♪』

 

 とでも言ってる様に見えるまさかの紳士っぷりな扱い。

 

 それを見て アニの表情が更に変わった。笑ってるのか怒ってるのか判らない。……般若の様な顔に。

 

 

「……そのアキラの態度があの子に火を着けちゃったんじゃない。だから アキラは趣味悪いって言ったの。サボる所は確かに見たけど、あの子 あの格闘術を披露する時は、何だか一味違う表情だったんだしさ」

「まぁな。活き活きしてる感じだった。でも サボって良いってわけじゃないんだし、それがサボった罰だって思えばいいんじゃないか? オレをぶっ倒してやる! って顔してたし。気合は入ったみたいだったから結果オーライだ」

「はぁー」

 

 ぺトラが深くため息を吐いている間に アニの方も終わった様だ。

 見事にエレンがひっくり返っていたから。……そんでもって次にやり合っていたのは《ライナー・ブラウン》と言う名の体格の良い訓練兵。

 

 何故だか、彼もアニの餌食になっていた。

 

「よし オレまた行ってくるわ」

「はぁ…… って え? アキラ?」

 

 ぺトラを置いといて、さっさと移動するアキラ。

 何だか気になる女の子を見つけた男の子の様な感じがして、少々嫉妬心が出てしまっていたぺトラだったが……、一先ずアキラにそう言った感情が無いのは判ったから。

 

「もー。あんまり からかってあげないでよ」

「わーってるって。ただ、オレも身体を動かしたいだけだって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 盛大にアニにぶっ倒されたエレンとライナー。

 ライナーに至っては、ひっくり返ったまま まだ立ち上がれないでいた。……アニの体格の倍はありそうな体つきだというのに。

 

 そして、エレンはアニに、アニの使用する技術について訊いていた。

 

 アニは自身の父親から教わったとの事だった。だが、それ以上は話す事は無かった。

 

「こんな事やったって意味なんかないよ」

「………。この訓練の事か? 意味がないってのは……」

 

 アニは、顎をくいっ と動かして 他の訓練兵達に向けて続ける。

 

「『対人格闘術』なんか点数にならない。私を含め熱心な内地志願者はああやって流すもんさ……。過酷な訓練の骨休めに使ってる。それ以外はあんたらの様なバカ正直な奴らか、或いは本当のバカか。その3種類しかいない」

 

 アニの説明を聞いて、納得をせざるを得ない光景を見た。

 

 眠たそうに、ただただ取っ組み合いの振りだけをしていて、教官がいる時だけ表情を変える者。

 必死に汗を流し目には強い力が宿ってるかの様な表情をさせながら訓練に取り組んでいる者。

 ……自分で独自に生み出したのか判らないが、奇怪な動きを取り入れて遊んでる者。  

 

 確かに3種類しかエレンの目にも見えなかった。

 

 その時だ。

 

「ほっほー、ならその場合、この間のアニはどの部類に入るんだろうなぁ」

「っ……!」

「あっ……」

 

 突然の背後からの声に意表を突かれたアニは思わず飛びのく。エレンはその声の主の方へと視線を向けた。

 

「よっ、いつもいつも精が出るな。エレンは」

「あ、アキラ教官」

「………」

 

 アニはアキラが来るなり、完全に戦闘態勢に入った様で、視線が更に吊り上がっていた。

 

「やれやれ、随分とまぁ 睨んでくれるな? 一応 オレは教官なんだぜ? アニ」

「…………いいえ、睨んでません。これが私の素の表情です。なのでそんな事言われても困ります」

「はは。そうかいそうかい。まぁ オレがいる事で、気合が入るんなら良い事だ。 さっきも言ったがオレも教官だし、訓練兵達には気合を入れてもらった方が良いと思ってるんだ。これでも」

 

 両手を広げてそういうアキラ。

 以前の借りを返そう。隙だらけに見えるし! と思いかねなかったが、それでもアニは決して踏み込む事が出来なかった。

 隙だらけに見えて、まるで隙など無かったから。矛盾しているかもしれないが アニには感じ取る事が出来たから。絶対的な間合いの深さを。

 

「ほれ。エレンとライナーもいい加減起きろ。サボってるとみなすぞ?」

「うっ……。す、すみません!」

「し、失礼しました!」

 

 ライナーとエレンは起き上がって、敬礼をした。……が、堅苦しいのは好きではないからすぐに辞めさせる。

 

「そーいやぁ アニは言ってたよな? 『対人格闘術』は点数が低いって」

「……違いますか?」

「いんや。間違っちゃいねぇよ。何せオレらの目に見えてる敵、相手は巨人だからな。巨人相手に格闘術で攻めるのは……まぁ バカくらいだろうし」

「い、いえ……アキラ教官。巨人に格闘術でって、それじゃ自殺志願者じゃないですか? そうなったら止めないと」

「……ははっ、そうとも言うかもな」

 

 自虐的に笑うアキラとその笑みと話の真意が判らない他の3名。

 

「それで何が言いたいのでしょう?」

「うん? ああ、そうだったそうだった」

 

 アキラは、地面に落ちてる木剣をひょいと拾い上げた。

 

「ここで特別ボーナスだって思いついてよ。……格闘術で、オレからこの木剣を一本取れたら、立体機動術と同じ点数をつけさせてやるよ」

「……へ?」

「そ、そんな事出来るんですか!? 規定じゃ点数の割合って決まってて……」

「オレがゴネたら通るもんなんだよ。ハゲも黙ってくれる」

「あ……、確かにそんなトコ、今までありましたが……」

 

 呆気にとられて変な声を出すエレンと驚いてるライナー。話に喰いつくのは、2人だけで アニはただ黙っていた。

 

「貴方から木剣を取れるとは思えません。盛大な時間の無駄かと」

 

 以前の記憶が苦い思い出となって浮かび上がってきているのか、気合を入れさせる為に言ったアキラの言葉が空回りしてしまって、早々に辞退する流れになってしまった。

 

 だが。

 

「まーそりゃそうだな。以前もそうだったし。わざと負けてやったら更に怖い顔しそうだし。……ん、そーだ。ならこれならどうだ?」

 

 アキラは ライナーとエレンの2人の襟首をひょいと持ち上げてアニ側にさせた。

 つまり、1対3の構図。

 

「街で暴漢が暴れててさぁ大変。でも 兵士達は出回ってて、今丁度手が空いてるのはアニ訓練兵、ライナー訓練兵、エレン訓練兵の3名だけ。……さぁ、暴漢を無事制して街の平和は守れるかな? どーだ? お前ら」

「……つまり、3対1でと言う事でしょうか?」

「おう。エレンとライナーも一緒で良いぞ。……オレを相手にした方が良い訓練になるとは思わんか? たまにはオレも身体ぁ動かしてぇし。1人でも取れりゃもれなく全員に点を付けてやるよ」

 

 2つあった木剣をジャグリングの様に ひょいひょいと頭上で投げ回し、最後は片方を腰に差し、もう片方の柄の部分を右手で掴んで切っ先を3人に向けた。

 

「んー、3対1でも怖くて出来ませーん、ってか? アニは内地志願かもしれんが、お前らは違うんだろ? 外をうろついてる巨人。その怖さはこの比じゃないんだぜ。それにアニ。内地に行くには点数が絶対に必要だ。お前さんの力なら多分行けるとは思うんだが、それでも稼げるチャンスがある時は、それに掛けてみるもんだぜ。別にペナルティなんざ用意してねぇし。たとえオレから木剣取れなくても減点(ペナルティ)! なんて言わねぇよ。一応破格の条件のつもりだしな」 

「………………」

 

 アニのプライドに触ったのか、エレンとライナーの2人を両手で左右に広げて陣形を取った。

 

「木剣を私達の誰かが取れればその時点で勝利。そして高得点も取得。……条件はこれで間違ってないですか? ……ほかには?」

「ほかには何にもないぞ。その通り」

 

 そして 気合が入ったのはアニだけでない。エレンやライナーも同じだった

 

「……教官の強さは判ってるけど3人なら。……それに、ひと泡吹かせたい気持ちもある。……オレらの事をすげぇ舐めてるのが判ったからな」

「そりゃそうだ。まさに今の状況だ。……力を持つ相手を前に、逃げる訳にはいかねぇだろ。……さっきも言ったがそれが兵士の責任だとオレは思ってるんだからな。それに……外の化け物。巨人たちはフェアプレーなんてしてくれねぇんだ」

 

 じりっ、と構える2人。

 アニを中心に、左右の死角に回るエレンとライナー。

 

「丁度良かった。……私の蹴りは全部避けられてたから、しっかりと威力も感じてもらって、評価してもらいたかったんだ」

「おぅ。アニをしっかりきっちりと感じてやるよ。ただ――当てれればだがな?」

 

 アキラのセリフの後、妙な視線を感じたが、一先ず置いとくとする。

 

 そして、他の訓練兵達も今の状況が何となくわかった様で、手を止めて4人の方を見ていた。

 

「よーし。ハゲ教官に見つかっても別に気にすんな。オレが相手してやってるのがわかりゃ、頭突きも減点もされねぇよ。ってな訳で、…さ、来い」

「っ……!!」

「行くぞエレン!!」

「おうっ!!」

 

 3人は一斉に飛びかかって行ったのだった。

 

 

 

 




やる気スイッチを出すために煽った様です。弱い者イジメ~やストレス解消! の類ではなく。
ただ アニにとっては殺る気スイッチかもしれません。

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