目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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2話

 

 

 

 目の前で起こった出来事。

 

 イルゼには、それを直ぐに理解するなんて到底無理だった。折れた自分自身の片手、片足の痛みさえ忘れさせられる程の光景だったのだから。

 

 あの巨体が……、巨人が吹き飛ばされた。それも人間の手で……。そんな光景……、見た事ない。

 

 あの巨体が倒れた姿は何度か見た事がある。だが、それは斬り刻まれ、最後には急所を抉られて、力なく絶命して倒れる。後は、足等の四肢を斬られ、倒される事はある。

 だが、それは全て培った技術や武器、そして 剣術とも言える業があってこそだ。

 

 だけど……、今のは明らかに違う。そして、矛盾しているかもしれないが、それでも頭の何処かでは理解する事が出来ていた。

 

 単純な事だ。……シンプルな事。巨人をも上回る圧倒的なパワーで吹き飛ばした。

 

「ほぁ……、マジだ。目の錯覚かと思ってたけど、近づいてみたら、マジで でかい……。3m? 4m? いや、6mくらいはあるか? ……絶対、これ人間、じゃないよな。……そっか、鬼だったな。確か」

 

 ぐるんぐるん、と腕を回しながらそう言っている男。

 遠目から見てただけだったが、改めて近くで見た所――人間だった。人間の姿(・・・・)をしていた。その力の大きさは明らかに異常だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 吹き飛ばされた巨人だったが、その程度では止められない。

 

「ぅぅぅぅ……ぐぅぅぅぅ」

 

 唸り声を上げて、ゆっくりと立ち上がる巨人。

 吹き飛ばされたとはいえ、巨人としての急所を抉らなければ、絶命はあり得ない。頭を、側頭部を抉った異常なパワーであったとしても。当然だが、その事実を彼は知らなかった。だからこそ、驚いてしまうのも無理ない。

 

「……って、うわっ! アレで立ってくるのかよ。 あれだけ頭ガツンッ! とやったら普通死ぬんじゃ……? それに、頭、何だか変形もしてるし……。相手も普通じゃないか、相手も(まぁ……、オレの力自体も、それ以上に驚いたけど)」

 

 大きな大きな相手を眼前にしたというのに、初めて化物を目の前にしているというのに、不思議な事に落ち着けている。それどころか、何でだかワクワクしている自分が何処かにいた。

 

 軈て、巨人との戦いが再開しても、同じく落ち着けている。……興奮している。

 

 

 

 

――なぜ……?

 

 

 びゅおっ! と凄まじい風圧と共に、自分の身体よりも大きな手が迫ってきているというのに。一度、捕まれば待っているのは《死》と思わせるのに十分な威力だというのに。

 

 何度か、相対している内に、その身に窶していた物に気付いた。

 

 

――ああ、そうか。そうだった。オレ、何処か退屈もしてたんだったな……人生(にちじょう)ってヤツに。だから、かな。感覚が麻痺してただけじゃなかったんだった。

 

 

 人生を諦めた、と言ってよかった生前(あの時)

 荒れに荒れていたあの時。確かに諦めていたが……それ以上に、退屈していた。

 

 世界には何もない、と勝手に諦めて、荒れて……、最後の最後で漸く自分の事を心配していてくれた人、涙を流してくれた人がいた事を知った。1人じゃない、と知れた。

 だけど、終わってしまった。……本当に何もない人生で終わってしまったから。

 

 こんな異常な世界に突然連れてこられて(厳密には、判らない……)、驚きの連続で感覚が麻痺していただけじゃない。恐怖よりも、ワクワクしてしまっていた。異常な力を持っている事も、それに拍車をかけていた。

 以前より、喧嘩は何度も何度もしてきているから、喧嘩慣れはしている事も、それなりのアドバンテージになっている。……流石に人を殺したりは彼はした事ないが、相手は化け物。殺らなければ、殺られる相手だから、躊躇う事もなかった。

 だから、勢いよく 攻撃をする事が出来たのだ。

 

 

 

「オラぁ!」

 

 

 一撃。

 

 

「どりゃあ!!」

 

 

 更に一撃。

 

 

「ずりゃあっ!!」

 

 

 更に更に一撃。

 

 

「そりゃあぁぁぁ!!」

 

 

 更に更に……etc

 

 

「死にさらせぇぇ!!!」

 

 

 

 そして、暫く無双して……。感想を一言。

 

 

「………あぁぁ! もうっ うざい!!!!」

 

 

 いい加減、面倒くさくなってきた様子だ。

 殴っても、蹴っ飛ばしても、ぶっ飛ばしても……、所々、肉片が飛び散る、と言うR-18Gなグロいシーンにはなるものの、数十秒でキレイに、新品になって戻ってくる。普通 動物とかでも 痛みとかで学習すれば 二度目はなく、逃げたりすると思うのだが……、ただ只管噛みつこうとしたり、手で鷲掴みしてこようとしたり、と全く変わらない。

 

 もう、何度目になるのか判らないが、大きな身体が、転がった所で一息。

 

「うぅむ。アイツはあれか。不死身ってヤツか。再生するまでに、大体2,30秒はあるみたいだけど、これ以上応戦するのも面倒くさくなってきた。……それに、万が一にでも掴まれたら嫌だし」

 

 自分自身が常人では考えられない様な身体能力を保有していると言う事は、大体理解する事が出来た。身体が羽の様に軽く、その内から湧き上がってくる力も感じられる。でも……、それでも疲労感はやっぱりある。あまり続けるのは得策ではないとも思えた様だ。

 

「うーん、とりあえず コイツよりも大きな木は沢山あるし、さっきの人、担いで木の上にでも避難するか」

「あのー……」

「あー、でも コイツより大きなヤツがいないとも限らないし。……大きさに上限ってあるのか……?」

「すみません……」

「いや、でも流石に100m~とかは無いだろうな。……流石に、そりゃ無理だ。この力でも」

「…………」

「ん?」

 

 漸く、大きな独り言の合間合間に入ってくる声に気付いた。

 元々、独り言なんか いうような性格じゃなかったと思うんだけど……、まぁ これも色々と異常だから、と言う事だろう。それは兎も角、先ほど襲われていた女性が、足を引きずりながら、無事な左腕を伸ばして服を掴み、引っ張ったから気付く事が出来た。

 

「ああ、そうだったそうだった。大丈夫か? ……見た所、大丈夫には見えないけど」

「いえ、この程度なら、問題ありません。……喰われなかっただけでも、信じられないくらいで……」

 

 つい今しがた、喰われそうになったのだ。当然恐怖が残っているのだろう。身体は震え、目には涙が溜まり、冷や汗が流れ出ていた。

 

「『もう大丈夫だ』 ……って格好つけて言えないな。まだ アイツ、生きてるみたいだから。とりあえず、少しでも動けるなら、隠れてな。アイツは何とかしてみるから」

 

 ぐるんぐるん、と腕を振り 答えた。

 

 彼女と話しをして、あの町では粗大ごみにも等しかった自分の腕に、人ひとりの命がかかっている事を改めて感じる事が出来た。その事が、彼に力を齎した様だ。

 あの日――、幼い女の子を助けた時の様な……力を。

 

「面倒くさい、なんて言ってられないか」

 

 ずぉぉ、と 周囲にまるで地震でも起こさせているかの様な振動と共に、あの巨人がまた 起き上がってきた。蹴りまくって、削いだアキレス腱も綺麗サッパリな様子だ。

 

「あのっ」

「隠れてろ、って言っただろ? 次掴まれたら死ぬかもしれないぞ」

 

 なるべく、彼女の身体を後ろへとおいやりつつ、巨人を見据えている時、……願っていた情報を彼女から得る事が出来る。

 

「巨人には、弱点があります……」

「……え?」

 

 くるり、と巨人から視線を外して、彼女の目を見た。

 何処か怯えている表情は、巨人に対するものなのか、自分自身に対するものなのかはわからないが、とりあえず今はどうだっていい。

 

「それは本当か? アレ、死なない訳じゃないんだな?」

「は、はい。後頭部の下……うなじ辺りの肉を削げば……っっ!!!」

 

 巨人の弱点を説明している間に、完全に復活してきた巨人がその大きな手を2人めがけて伸ばしてきた。視線を外してしまったから、まともに、攻撃を受けてしまう! と思い、反射的に目を瞑ってしまったその時。

 

「邪魔すんな」

 

 聞こえたのは一言。そして、衝撃音。

 巨人の大きな手を迎え撃つ様に、目の前の彼の回し蹴りがぶち当たり、また 吹き飛ばしてしまった。

 

「教えてくれてありがとな!」

 

 にっ、と歯を見せながら笑っている。

 

 それは、イルゼにとって 色んな恐怖心が芽生えていた彼女にとっても、何処か――、安心する事が出来る笑みだった。

 

 その笑みを向けた後、直ぐにあの巨人に向き合っていた。

 

「さて、と。弱点が判ってしまえばこっちのもんだ」

 

 拳を鳴らしながら、狂った様に向かってくる巨人を迎え撃った。

 

 そして、その後は早かった。 

 

 

 

 彼はあっという間に、巨人の急所を抉ったのだから。

 

 

 

 

 


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