目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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20話

 

 

 巨人の恐怖――。

 

 それは、今から100年以上前から続いていた。

 人類は突如現れた天敵・巨人の出現により 絶滅の危機を迎えた。人間を見つけ喰らい続け――腹が膨れて喰えなくなれば中のモノを吐き出す。そこには巨人の生きる為の意思などない。……喰う事に意味などはない。

 巨人は喰わずとも死なないからだ。……ただ 殺す為に人間を喰らい続けた。

 

 時に笑みを浮かべながら、時に苦痛に表情を歪めながら、……時に嬉々とさせながら。

 

 

 それでも何とか生き残った人類は3重の巨大な《壁》を築き、そこで100年の平和を実現させていた。

 

 

 

 だが今から5年前――その平和も終わりを告げた。

 

 

 

 超大型の巨人の出現により開閉扉は完全に破壊され、100年もの間隔絶してきた巨人が解き放たれた。そしてその巨人により再び人類は蹂躙されたのだ。

 人類は一番外側の壁を放棄、2割の人口と3分の1の領土を失い、活動領域は2重の壁にまで後退した。

 

 だが――それにより人類は目を覚ます事になる。それは 外の世界へ挑戦をし続けてきた極一部の人間達しか持ち得てなかったが、痛い代償を支払う事で人類の多くが覚醒したのだ。

 

 

 以前より、成果を上げ続けてきた《調査兵団》。

 

 

 元々巨人を恐れず、壁外の進出を試み続けていた事もあって、希望が更に生まれ続けていたのだ。それにより以前よりも遥かに多くの人材と資金が集中した。

 

 調査兵団が、領土を奪い返そうと外へと向かう。

 

                                                                                                                                                                      

 その度に人々の希望と期待に満ちた歓声が街を揺らす。

 

 

『来たぞ!! 調査兵団の主力部隊だ!』

『おおっ、エルヴィン団長! 巨人どもを蹴散らしてください!』

『お願いします!!』

『リヴァイ兵長っ!! アキラさんっ!! 頼みますっっ!』

 

 

 街の住人達の歓声、そして期待に満ち、集まってくる視線。

 此処だけじゃない。間違いなく人類の期待がその背に、調査兵団に集っているという事がよく判る。アキラは皆の想いを痛い程感じた。歓声の中には間違いなく巨人に対しての怒り。……そして 大切な人を失った悲しみが同居している事が判るから。

 

「責任重大だよな。調査兵団っていうのは。皆を見てると改めてそう感じるよ」

「……今更だよアキラ。此処から先は、私達の肩にかかってるって言っても大袈裟じゃないから。……ここから先は 私達が。私達がやるんだから」

「……判ってる。それくらいならオレでも判ってるつもりだ。……さて、人間の強さってヤツを見せてやろうじゃねぇか。……巨人共(あいつら)に」

 

 アキラの呟きにぺトラが答え、アキラも頷いた。

 そこにはいつもの陽気なアキラの姿はそこには無く、何時も以上に集中しているのが隣にいたぺトラにはよく判った。

 理由は明白。今回はいつもとは違いより危険が伴う大規模な壁外調査だからだろう。

 そして その雰囲気が周囲に伝わっているのか、歓声がより大きく街中に響いていた。

 エルヴィン、リヴァイ、そしてアキラが並びその周囲の声援が大きくなっていく。

 

 

 アキラは 今最も注目されている調査兵団の1人である。

 

 

 リヴァイと並び人類最強と称されているからと言う理由もあるが、それなりに長く務めた訓練兵の教官も然り、そのアキラの人柄も何気に伝わって絶大なる人気も兼ね備えていたのだ。

 アキラ自身は調査兵団に所属してまだ他のメンバーと比べたら日も浅い。だが それでも期待が向けられるのは、情報操作をしたのはエルヴィン団長を初め、ハンジ分隊長が周囲を煽った為 と言う理由があり そして リヴァイ自身も否定する事なく認めている事も拍車をかけた(命令だったから渋々ではあるが……)。

 だが、勿論それだけではない。アキラ自身が壁外調査で成果を残し続けているという事にもあった。一般的には、壁の外へ出て生きて帰ってくる事が一人前の証であると言える。壁外調査に出発し帰ってこなかった者など数多くいる。

 そんな世界で、殆ど実績がなく、ただ団長や兵長にいきなり紹介されただけの新人が 何度も何度も死地より生還を果たしているのだから、最早信じるしかないと言えるだろう。

 

 希望を託すに相応しい男だという事も。

 

 そして その力は公には伏せられている。……アキラの本当の力を知るのは調査兵団の主力部隊と中央の人間達の一部に過ぎなかったりもするが、それはまた別の話。

 

 

 

「さぁ! 開門するぞ! この先は巨人の領域だ。5年前に奪われた街を奪還するぞ!!」

 

 

 エルヴィン団長の激と共に、ウォール・ローゼの扉が開かれた。

 

 人類と巨人を分かつ扉。その先はただの人間にとっては死の世界。……巨人が蔓延る世界。そんな世界に調査兵団達は飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

□□ ウォール・マリアの内地 □□

 

 

 

 

 馬で駆け抜け、時折現れる巨人は蹴散らし、進み続ける。

 

 

 だが、ここで忘れてはならないのが、生存率は向上したもののまだ、被害は出続けているという事。如何に戦術や兵法が優れていたとしても、人間と巨人との間には 体躯の差同様に、力の差も存在している。

 

 

 市街地での巨人との戦い。

 

 

 その死角の多さ故に、不意打ちを受けてしまうという事も多く、一度でも攻撃を受けてしまえば致命傷になってしまうのだ。

 その大きな口で噛みつかれてしまえば……ただの人間には抗う術がない。

 

「……今に、今に見てろよ…………」

 

 10m級の巨人に身体半分噛みつかれてしまい、身動きが取れなくなってしまった男がいた。

 徐々に顎の力が加わっていき、肉が裂かれ続けている。歯が食い込んでいく度に吐血する量が増していくが、彼は決して悲鳴を上げたりはしなかった。

 

 それどころか、身体半分噛みつかれた状態で、懸命に反撃をしていたのだ。残った片腕で武器を手に、眼前の巨人の眼を抉った。効果は見られないが、力のある限り抉り続けた。

 

「お、前らなんか……… 今に……、人類が、滅ぼす………。最後に、最後に生き残るのは……人類だ……………」

 

 まるで苦しんでいるのを楽しむかの様に、絶妙な力加減で口を閉じていく巨人。

 そんな悪魔に決して臆する事なく睨み、手の力を決して抜かなかった。

 

「お前ら……なんか……、あのひとたちが、……あきらが、りゔぁい、へいちょう……が……、かなら、ず………!」

 

 意識が薄れだしたその時だった。

 風を切る音と共に、巨人の顔面に着地した者がいたのだ。その男は素早く口許へと移動し。

 

「おい……。その汚ぇ口を外しやがれ!」

 

 両手を巨人の口の中へと入れ強引に口を開かせた。

 強引に開かせる事で 巨人の口から逃れる事が出来た。だが 身体に力はもう入らない様で力無く落ちていってしまう。このままでは地面に激突してしまうが、そうはさせない。

 

「ぺトラぁ!! 頼む!!」

「任せて!」

 

 立体機動装置を使って、激突寸前の彼をぺトラが下で受け止め、更なるダメージを防ぐ事は出来た。それは確認できて 安堵する事が出来たが湧き上がる怒りは収まらない。

 

「ちっ……!」

 

 ぎり、ぎり、と歯軋りをするのはアキラ。

 また1人――巨人に仲間の命が奪われかけた。その事実がそのまま腕の力に宿り、そのまま ぶちぶちっ、と言う鈍い音と共に下顎を完全に引き千切った。

 

「くたばれ! クソ野郎が!」

 

 下あごを無造作に下へと放り投げると同時に背後に回り腰に差していた剣を引き抜き力任せに振り切った。

 

 刀で斬る様な すぱっ! と言う音ではなく どごんっ! と言う轟音が響き うなじ部分が削げた……と言うより、威力が強すぎて うなじから上がそのまま消し飛んだ。

 ……使った刀身と共に。

 

「馬鹿が。加減を考えてやれって何度も言ってるだろ」

 

 その隣の屋根に飛び乗ってきたのはリヴァイ。

 

「右に3体。左にも3体。……正面から1体か」

 

 素早く現状を把握。

 1体の巨人の奇襲が合図だったのか、湧き出るかの様に 建物を破壊しながら巨人たちが接近をしてきているのだ。

 

「兵長! アキラ! 増援も到着しました」

「ぺトラ! お前はそのまま兵士を介抱しろ! 残りの全員は正面の巨人をヤれ!」

 

 ぺトラに指示を出すと同時に、アンカーでアキラの元へと移動。

 

「お前は左、オレは右を片付けるぞ!」

「あぁ。……たった1体殺ったくらいじゃ収まりそうにねぇよ!」

 

 アキラは怒りのままに、アンカーを伸ばし 素早く移動。そして アキラとリヴァイは途中で二手に分かれた。

 

 

 

「気持ちわりぃ顔しやがって……!」

 

 接近と同時に、拳を握りしめた。

 大口を空けて待ち構えている巨人の前歯に思い切り拳を打ち付ける。

 がきぃんっ! と言う音が響き まるで、金属で金属を叩くかの様な音が 響いたのと殆ど同時に巨人の巨体は吹き飛び、後続に続いていた2体もドミノ倒しの様に倒れていった。

 

 そして手早くうなじ部分を完全に破壊。3体をこの世から消滅させた。

 

 こびり付いた巨人の血をじっと眺めるアキラ。ずっと動き、戦い続けていた疲労感よりも ただ不快感だけが身体を襲っていた。

 

「……貴様らに同じ様な色の血が通ってるってだけで不快だ」

 

 ただ人間を殺すだけしか存在意義が判らない巨人。人間やほかの動物と同じく赤い血が流れている事にもなぜか不快感が生まれていた。

 この手には仲間達の血もついている。何度も何度も。……助けられた時も助けられなかった時もあった。時間が許す限りではあるが必死にその手を握って最後の瞬間も付き添っていた事もあった。

 そんな仲間達の命を受け継いで戦いを続けているんだ。だからだろうか仲間達が流した血が穢された気がしてならなかった。

 

 だから、手早く血を払い 拭うと移動を開始。途中でリヴァイとも合流した。リヴァイの方も問題なく始末し終えた様だ。

 

「終わったか?」

「あぁ。……この辺にいたのはあれだけだったみたいだ」

「そうか。……戻るぞ」

「……了解」

 

 アキラは多分、頭の中ではもう判っていたんだろう。

 流れていた血の量。そして あの時巨人の口の中に手を入れた時に判った噛み具合。

 

 

 何度も見てきたから。……命の終わりを。

 

 

「ぺトラ。そいつはどうだ!?」

 

 リヴァイが先にぺトラの元へと駆けつけた。

 必死に応急措置をして、止血をしようとしているが……包帯を巻いても巻いても、上から抑えつけても あふれ出てくる血を止める事は出来なかった様だ。ぺトラの両手が赤黒くに染まっていたから。

 

「血が……止まりません」

 

 ぺトラは涙を流しながらも まだ措置を続ける。

 アキラも、ぎりっ と歯軋りをしつつも傍へと駆けつけた。

 

「へい、ちょう……。あき、ら……。そこに、いま……すか……?」

 

 もう目が見えていないのだろう。そして声も もうあまり出せないのだろう。苦しみだけが伝わってくる。だが、それでも懸命に声を出し続ける彼に近づくリヴァイとアキラ。

 

「ああ。いるぞ。此処にいる」

 

 リヴァイが、あげられていた彼の右手を取った。

 目が見えないのであれば、触覚と聴覚だけでも伝えようとしたのだ。そして、反対側の左手にアキラも添えた。

 

「オレだってここにいるぞ。……これが終わったら。街を取り返せたら、盛大に飲もうって、約束しただろ……? しっかりしろ。もうちょっとなんだ」

 

 気丈に振る舞う様にしながらも……熱いものがこみ上げてくる。こればかりは何度あっても慣れるものではなかった。 

 

 そして、男は軽く――笑みを見せていた。声は届いた様だ。

 

「は、はは。……わるい、な。オレのぶん……きゃんせる しといてくれ……」

「……バカ野郎。頑張れよ……っ」

「あきら…… へいちょう……」

 

 もう、声が小さくなってきていた。本当の最後が近いのだろう。

 

「……お、おれは じんるいの、やくに…… たてた……でしょうか……」

「………」

「………」

 

 死ぬ間際に残そうとしたのは、自分が戦ってきた意味。そして その意義についての確認だった。

 

「……おれ、は。このまま…… なんの、やくにも……たてずに…… し「馬鹿やろう!!」っ……」

 

 握る手の力を上げて言葉を遮る。最後まで言わせなかった。

 

「役に立ってない訳ないだろ! 十分過ぎる……十分すぎる程活躍したじゃねぇか!」

「ああ。コイツの、……アキラの言う通りだ。……今までも、そしてこれからもな。お前の残した意思がオレに、……オレ()に《力》を与える」

 

 リヴァイは、両手で右手をぎゅっと握り絞めた。

 アキラも左手を同じ様に。

 

「約束しよう!! 必ず巨人を全滅させる!! お前の残した意思と共に」

「あいつらにお前の分まで、思い知らせてやる!! これだけは絶対に、違えねぇ!」

 

 そう伝えたとほぼ同時に、僅かに残っていた握り返していた手の力が抜けたのが判った。

 そしてそれは倒れてからずっと介抱をし続けていたぺトラにはより判った様だ。

 

「兵長……、アキラ……。彼は……もう……」

 

 開いていた眼が閉じていた。……本当にただ眠っているかの様に見えた。

 

「……コイツは、最後まで聞いていたか?」

「…………」

 

 ぐっと堪え続けるアキラと、ぺトラに確認をするリヴァイ。

 そしてぺトラは大きく頷いた。

 

「……間違いありません。きっと、きっと聞いていた筈です。だって…… 本当に穏やかな顔のままで……」

 

 最後を迎える時。穏やかな顔のまま 逝ける者などこの世界には一体何人いるだろうか。巨人に襲われて死ぬ場合は誰もが絶望のまま、その絶望が顔にも表れていた事が多かった。だけど、彼は本当に……ただ眠っているだけの様な穏やかな表情だった。だからぺトラが言っている事が間違いない、と強く思えたのだ。

 

「……なら良い。……次だ。行くぞ」

「……ぁぁ。判ってる。……切り替える」

 

 慣れるものではない。だが、引きづり続ければ別の危険を生む可能性が高すぎる。

 だからこそ無理にでも切り替える術を、アキラはこの短い時間で学んだのだ。……少しでも抗える様に。

 

 そんな時だ。先へと行っていたエルヴィンが馬と多数の兵士達を引き連れて戻ってきたのだ。

 

「おい、リヴァイ! アキラ! 退却だ!」

「退却だと……!?」

「……っ」

 

 まだ やり遂げていない事がある。

 だから《撤退》の2文字。その命令だけは受け入れがたかった。それはリヴァイも同じ様だ。

 

「まだ限界まで進んでねぇぞ? オレの部下は犬死か? 理由はあるよな? エルヴィン」

「ぁぁ。オレもまだ足りねぇよ。コイツの供養も……まだ済んでねぇ」

 

 2人の意思は判るが、それでもエルヴィンは首を横に振った。

 そして、重大な事を伝える。

 

「……巨人がこの街を素通りし、一斉に北上し始めた」

「「「!!」」」

 

 エルヴィンが言っている言葉。それが一体何を意味するのか、理解するのに時間はかからなかった。

 

 

 そう……それは―――――。

 

 

「これは5年前と同じ現象だ。……街の壁が破壊されたのかもしれん」

 

 

 悪夢の再来である。

 

 

 

 

 

 





※ アキラは剣の使い方を学びだした。
 尚、直ぐに壊してしまう事が多い為結構怒られてる模様。(剣も無料じゃないでしょうし)


この二次小説で ここまで明確に誰かが死ぬシーンは初めてかもです。

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