目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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26話

 

 とりあえず、エレンの今後を決める審議は終わり、調査兵団が抱える事になった。

 

 最後はまさに怒涛の展開だった と言えるだろう。

 

 何故ならエレンの生死を決めると言っていい審議の真っ最中だった筈なのだけど、色々とあって繰り広げられたのは、キックの練習(ただのサンドバック?) だったのだから。

 

 エレンに盛大にキックをしているのはリヴァイだった。

 

 今でもたまに思うがリヴァイは体躯は調査兵団の中でも下の方に位置する。

 以前の身体測定でもデータの全てが調査兵団の中でも結構下に位置する。そんな小柄な身体だと言うのに……。

 

「……前々から思ったが、リヴァイの身体の何処にあんな力があるんだろうな?」

「リヴァイ兵長の力は確かに凄いけど、アキラ それ絶対に他人の事言えないよ。100人が100人、ぜーーったい同じ様な事を言う。棚に上げ過ぎ」

「そうだよ。あんな無茶苦茶な力があるのは何処の誰だった?」

 

 ぺトラとイルゼが ずいっ、とアキラの胸元に人差し指を差した。

 

「……そりゃそーだが、別にちょっとくらい思ったって良いだろ? 確かに棚に上げてるかもしれんけど、一瞬の瞬発力と言うか、反射と言うか…… 絶対オレよりも遥かに速いって」

「それを差し引いても、アキラは他人の事言えなーい」

「とーぜん」

 

 控室でポツリと口にするアキラだったが、盛大にダメ出しをされてしまう。

 それは当然。同じ人間の姿で 何倍もある巨人を素手でぶっ飛ばしてる男のセリフじゃないから。

 

 因みにリヴァイのキック、キック、キックの連発に餌食になってしまっているのが エレンだった。勿論 それには訳があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の発端は 事実解明を行っていた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エレンが巨人化した直後に その力を制御する事が出来ず 傍にいたミカサを攻撃したと言う事実が明らかにされ、もともと最悪だったエレンの心証が更に悪くなってしまったのだ。

 攻撃された当人であるミカサがエレンの事を擁護する発言をしたのだが、2人の関係性も審議中に暴かれた。更に幼少期 僅か9歳の頃に3人もの大人を刺殺したと言う事実も暴露された。

 

 その事実は アキラも教官時代に素性については しっかり調査しているから知っていた。その殺人と言う許される事のないであろう犯罪の動機内容についても 知っている。

 

 それは、殺害された男達に過失がありすぎると言う事だ。男達3人は強盗であり、ミカサの父親と母親はその3人に殺された。ミカサ自身を誘拐しようと企てていたのだが、そこにエレンが助けに入ったのだ。

 何も知らない子供を装い、油断をしている隙をついて2人を刺殺。最後の1人は、ミカサが仕留めた。

 

 つまりは、完全なる正当防衛なのだが、この審議中においては その辺りは全くをもって考慮されなかった。

 

 ミカサにとっては家族を目の前で殺された。

 エレンにとっては その行為そのものが許せず、相手を人間の皮を被った有害な獣にしか見えなかった。その怒りから及んだ犯行。

 

 確かに殺人を正当化する事は許されないかもしれないが、その行動は判らない訳じゃない。

 

 だが、ナイル・ドークははっきりとこう言ったのだ。

 

 

『根本的な人間性に疑問を感じる』

 

 

 と。

 この時 アキラの眉がピクリと動き少なからず身体に力が入ったが リヴァイとの約束もあり 自分の周囲をしっかりとガードされているから、何もせずに黙ってみていた。

 

 そして 周囲の見る眼が変わる。それはエレンに向けられていた恐怖を感じる視線が ミカサにまで向けられたのだ。

 

『そうだ。こいつは、こいつらは子供の姿でこっちに紛れ込んだ巨人に違いない』

『しかし、凶暴な本性までは隠すことが出来なかったんだ!』

『なぁ…… 悠長に議論してる場合なのか? 今目の前にいるコイツはいつ爆発するか判らない火薬庫のようなものなんだぞ! あんな拘束具、絶対に無意味だ』

『そうだ……、アイツらだって 人間かどうか疑わしい! 念のため解剖でもした方が……』

 

 ミカサにまで向けられた怪奇の視線。そして ミカサにまで危害を及ぼす発言。

 エレンはそれが我慢出来なかったのだ。 

 

『オレは化け物かもしれませんが、ミカサは関係ありません。無関係です!』

 

 はっきりと、自らの口で化け物と認めた上で、ミカサを庇った。

 そして更につづけた。自分自身の考えを、今思ってる丈を全て吐き出したのだ。

 

『……そうやって自分達の都合の良い憶測ばかりで話を進めたって……、現実と乖離するだけで、碌なことにならない』

 

 あの時、エレン達を処分しようとした駐屯兵団達。

 巨人への圧倒的な恐怖を前に考える事を放棄した駐屯兵団達と、ここにいる者達は何ら変わらない。

 

『なんだと……』

『こいつ……ッ!』

 

 図星である、と言う事はよく判っているのだろう。その眼は怒りに染まっていっていた。

 それでも構わずエレンは続ける。頭の中では 言い続けるのは不味い、と思っていたのだが、ブレーキはもう壊れてしまっていた。

 

『大体……あなた方は巨人を見たことも無いくせに、何がそんなに怖いんですか?』

 

 最後は、もう全て言いたい事は言う。吐き出す。

 エレンは全ての覚悟を決めた。そう、この場で殺される事も覚悟して。

 

『力を持ってる人が戦わなくてどうするんですか。生きる為に戦うのが怖いって言うんなら、力を貸してくださいよ! この……、この 腰抜け共め……!』

 

 ぎりっ、と歯を食いしばりながらエレンは吠えた。

 

 

『いいから黙って、全部オレに投資しろ!!!』

 

 

 その叫びは完全に場を沈黙へと追いやった。

 だが、それでも沈黙したのは一瞬だった。エレンの表情が、怒号が巨人のそれに見えたのだろう。『ひっ』と恐怖の声を誰かが上げたのと同時に。

 

『構えろ!!』

『ハッ!!』

 

 ナイル・ドークが隣の兵士に銃を構える様に指示。

 もう後は銃撃しろ、と命令を下すだけだった。指示をされて撃たれるまでにはもう数秒も無いだろう。その指示し撃つよりも早く行動を移したのがリヴァイだった。

 

 飛び込んだ勢いのままにエレンの頬を蹴り上げた。

 普通であれば、数mは吹き飛ぶであろう威力だったが、エレンは拘束されている為 吹き飛ぶ事は無かったが、威力を全く殺す事も出来ない為 その衝撃をモロに受けてしまった。

 代わりに飛んでいったのは エレンの歯。

 

 その後も容赦なくエレンを蹴り続けるリヴァイ。顔面に加えて腹、脚と痛め続けていく。

 

『お、おい……』

 

 撃つように指示を出そうとしたナイルも戸惑いを隠せられなかった。

 銃を構えた兵士も撃てば良いのか判断できなかった。それでも 照準はエレンに狙いを定めていた……が。

 

『止めときな。……その銃、撃ったらお前が怪我するぜ』

 

 突然、横に来ていたのは……。

 

『あ、アキラ!? お前……っ』

『じゅ、銃が……』

 

 銃身を握られており、そのまま無理矢理にひん曲げられてしまっていた。このまま撃てば、間違いなく暴発する角度にまで。

 

 アキラは そのまま銃を握りしめたままの体勢で リヴァイの方を見る。まだしこたま蹴り続けていて、やめる気配は無かった。

 

『……オレよりリヴァイの方が先に動いた。……これ、ちゃんと約束は守ってるだろ』

 

 エレンを甚振っている光景は、正直見たくないが必要な演出である事くらいはアキラにも判るし、何よりも解剖されたり撃ち殺されたりするよりは何倍も良いから。

 

 だが、それが判らないのがミカサだった。

 

 エレンを助ける為に飛び込もうとしたが、寸前でアルミンに止められていたから。

 リヴァイは蹴り続けた後、頭を落としたエレンの後頭部を踏みつけながら言った。

 

『これは持論だが、躾に一番よく効くのは痛みだと思う。今 お前に一番必要なのは言葉による『教育』ではなく、『教訓』だ。しゃがんでるから丁度蹴りやすいしな』

 

 その後も血反吐が飛び散ろうが、どうなろうが蹴り続けた。

 蹴られ続けているエレンだったが、その眼は死んではいない。鋭く怒りに満ちていくのがよく判る。

 

『あ、アキラ……リヴァイを止めろ』

『ん?』

『危険だ。あれ以上は……、恨みを買って今ここでアイツが巨人化しでもすれば……一気に全滅だ』

『はぁ? 何言ってんだ?』

 

 ナイルの物言いに心底呆れる表情を作ったアキラ。

 

『お前らは、エレンを解剖しようとしてたんだぜ? 恨みっつったら これ以上無いだろ。死ぬ程辛い痛みなら判らんでもないが、今はまだリヴァイは『教育』レベル。まだまだありゃ易しい方だ』

 

 アキラがそう言っているのが聞こえたのだろう。

 リヴァイも蹴るのを止めてこちら側を向いた。

 

『そういう事だ。こいつは巨人化した時に、力尽きるまでに20体の巨人を殺したらしい。仮に敵だと想定したとしたら 知恵が回る分厄介かもしれんが』

 

 リヴァイは 一呼吸おいてアキラの目を見た。

 

『……だとしてもオレ()の敵じゃないがな。お前らはどうする? こいつをいじめた奴らもよく考えた方が良い。本当にこいつを殺せるのかをな』

 

 リヴァイの言葉に押し黙る。

 再び沈黙が辺りを支配し始めたその時。

 

『総統……ご提案があります』

 

 エルヴィンの声が響いた。

 

『エレンの『巨人の力』は不確定な要素を多分に含まれており、その危険は常に潜んでいます。そこで エレンは我々の管理下に置かれた暁にはその対策として、リヴァイ兵長、そして アキラ団員に行動を共にしてもらいます。2人であれば、全て問題ないと判断します』

 

 巨人の力が暴走した時を過程として、それを被害最小限に御する事が出来るのはまず間違いなくリヴァイとアキラの2人を置いて他にはいない、と言う事は この場の誰もが判っている事だった。

 

 今回は 目の前の脅威。巨人化をするエレンの存在があったからか それを忘れてしまっていた様だが、巨人の討伐数が他を圧倒しているリヴァイとアキラの2人の存在は、巨人にも負けない人間の力の象徴だと言えるのだから。  

 

『ふむ……。成る程』

 

 総統も頷いた。

 

『正直、いつその案を出すのかと待っていたぞ』

 

 総統も、ザックレー総統もアキラの事は知っている。

 

 この場に召喚されたアキラが、訓練広場にてその力の片鱗を披露したから。巨人を屠る拳。大砲の如き威力の拳撃は 巨人を模して造られた彫像を一発で葬りさったのだから。

 最初こそは恐怖した。人の姿をした悪魔だと思えた。

 だが、その後の調査兵団の活躍。民衆の支持。そして アキラ自身の人柄。強大な力を持つのであれば、それを使い意のままに操ったとしても不思議ではないと言うのに、何も見せなかった。

 何かを、転覆する時期を狙っているのでは? と考えた事もあったが、行動に移していない事と、働いている事実(報告書は回ってきている)。

 あそこまでの力を魅せるので張れば、そんなまどっころしい真似をする理由も意味も無いとも判断出来た。

 

 その力を見て、恐怖もあったが年甲斐も無く、心を躍らせたものだった。

 

『2人であれば、エレン・イェーガーが暴走したら迅速に処理する事が出来る。そうだな?』

 

 この審議で どれだけの怒号が飛ぼうと常に中立の立場を守ってきたザックレー総統。実はアキラの隠れファンである。(勿論 本人が知るのみ)

 

 ……それは アキラにとって別に嬉しくもない事実。

 

 

『ああ。殺す事に関しては間違いなく』

『……(するしないは別にして)同じく。エレンは確か15m級になる、だったっけ? オレ前回 確か15m級もいたと思うけど……何匹ヤったっけ? ハンジ。それに ぺトラ』

 

 くるりと2人の方を向いて訊く。

 

 ぺトラは、周囲に向かって軽く一礼をした後 ペラペラとメモ帳を捲る。

 几帳面に記された戦いの記録をゆっくりと読み上げられた。

 

『15m級は、14体。後は10m、6m合わせて29体。前回だけの記録でこれです』

 

 改めて数字にされると、凄まじいから 当然ながら場はどよめく。

 巨人を見た事がない連中だとは言え その脅威は理解しているのだから。

 

 そんな呆然とする場の空気を読まないアキラはと言うと。

 

『うーむ……。やっぱ巨人を殺すより抑えつける練習もした方が良いんじゃないか?』

『『却下!』』

『……はい。了解であります』

 

 生け捕りは 殺す事よりもはるかにリスクが上がる。その強大な攻撃力を前にして忘れがちだが、耐久力に関しては攻撃力に比例したりしない。寧ろ反比例するかもしれない。リミットが切れれば、攻撃力よりも防御力が先に落ちてしまうと言う事が調べた結果判ったから。

 

 だからこそ、そんな事は許さないと言う事でぺトラとイルゼが猛反対。それはいつもの光景で、実質決定権がハンジやエルヴィンよりもある様だ。

 

 

『議論は尽された様だな。問題は全て解決だ。これで決めさせてもらおうか』

 

 妙な空気が流れたのだが、さして気にする様な事はなく、淡々と進める総統。

 と言うより、エレンについて散々あったと言うのに、それを忘れ去ったかの様に、いや元々無かったかの様に 淡々としていた。

 

 だが、そんな訳にはいかないのがナイルだった。

 

『お待ちください。まだ、問題はあります。……エルヴィン』

 

 視線はエルヴィンの方に向けられた。

 

『内地の問題はどうするつもりだ!』

『我々の壁外での活動が人類の安定から成り立っているのは理解している。決して内地の問題を軽視している訳じゃない』

 

 それは当然、と言わんばかりにドサリ、と座って言うのがアキラ。

 

『当然だろ? 仕事して疲れて戻ってきたってのに、温か~く迎えてくれなくなんのは正直しんどいわ。こんだけきっついブラック職場だってのに』

 

 盛大なため息。

 色々と外が大変なのは判るが、人間関係程 面倒で厄介なのも無いと思っている。巨人相手に大暴れする方が大分マシだと言えるのはアキラ。

 

『一番はエレンが人類にとって、敵じゃなく味方。それもほんとの意味で英雄(ヒーロー)って感じになりゃ 万事解決。そうだろ?』

 

 アキラの言葉を訊いたその時だ。

 

『ふっ、ふはははははははは!!』

 

 我慢が出来なくなった、と言わんばかりに大声で笑うのはピクシス。

 

『漸くらしさ(・・・)がでたな? お前さんにしては今回は我慢した方じゃ。大人し過ぎて、巨人でも降ってくるかと思ったぞ。 それに 何だかんだとお前ならやってくれそうじゃ。ワシは何にも心配しとらん』

 

 ピクシスは堪えきれない笑いを、懸命に抑えた後、ナイルの方を見た。

 

『ナイル・ドーク団長。そろそろ認めたらどうじゃ。この大バカが『うっせ!』外で大暴れするから、内地の平穏が守られていると言う事に。お前さん達の長年の働きを軽視する訳じゃないが』

『っ…………』

 

 ナイルはピクシスの言葉を訊いて、押し黙った。

 

 人類の為に働き続け、憲兵団として治安維持を 王都を守り続けてきたその強い自負は、突然現れた得体のしれない男によって全てを覆された事を良しとしなかった。

 最前線で戦っていなかったから。壁の中心で暮らしているせいか、巨人の恐怖と言うものを身近であまり感じていなかったからかもしれないが、彼のプライドが中々アキラと言う人外を認める事が出来なかった様だ。

 

『ん……(ナイル(あいつ)がオレの事 何か嫌な感じで見てくんのって、そう言う事もあった、って訳か)』

 

 奇怪な眼で見てくる理由は、持っている力が異常だから、と思っていたアキラ。

 ナイルとは常日頃会う間柄でもない。それも憲兵団のトップだ。直接的な交流はエルヴィンやリヴァイが中心だから、こういう場面でしか会ったりしない相手の心の内など判る筈もなかったアキラは今更ながら理解した。

 

 だからと言って、どうこうするつもりも無く、ムカついたから ぶっ飛ばす! 何てことは、正直今の所 クソメガネ(ハンジ)以外には向けていないから、と判断。

 

『なんだい? アキラ』

『いんや、別に』

 

 変な所で鋭いハンジだが、それもいつも通りだから、てきとーに流した。

 

 

『よし。これで本当に決定だ。エレン・イェーガーは調査兵団に託す。しかし、次の成果次第ではその命も無くなる事を覚悟せよ』

 

 

 ザックレーの宣言にて審議は完全に終了したのだった。

 

 

 

 

 

 しこたま蹴られたエレンはと言うと。

 

 

「(お、オレの事 忘れられてない………か?)」

 

 

 と酷い痛みの中でもそう思わずにはいられなかったのだった。

 勿論、ミカサやアルミンはしっかりと覚えている。

 

 寧ろミカサは アキラ達が話してる間も、射殺さんとでも言わんばかりに、リヴァイをにらみ続けていた。

 

 

 

 エレンが調査兵団に入れば、間違いなくミカサもついてくるだろう。その能力も逸材であり、全く申し分ない。

 

 

 それでも 色んな不安が内包するだろうな、と横目でしっかりと見ていたハンジは そう思うのだった。

 

 

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