目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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27話

 

 色々とビックリする展開が続いたと思える。

 エレンが盛大に吠えたり、そんなエレンをリヴァイが蹴りまくったり 中立なザックレーが明らかにアキラよりな発言をしたり、と。(隠れファンだと言う事は当然ながら 皆知らない)

 そして、控室に戻ってきてもそうだ。リヴァイが蹴ったからエレンの顔は痣だらけだし、歯も何本か折れてしまったりしていたけど……、なんとビックリ。折れた筈の歯がもう生えていたのだ。

 

 乳歯? と思ったが永久歯との事。

 でも、巨人になれると言う異常中の異常の事を考えたら、些細な事なので割愛する。 

 

 

「イテテ……」

「大丈夫か? エレン。ほれ これ貼っとけ」

 

 

 アキラはエレンに絆創膏を手渡した。

 エレンは 歯は再生出来た様だけど、蹴られた場所の痛みまでは無かった事にはならないらしい。

 しこたま蹴られまくったし 仕方がないと思うが、エレンの口許に血の跡が残っていてみてるだけで十分痛そうだ。色々な実験と称する名のイジメを受け続けてきたアキラも 痛いのは好きじゃないのです。

 

「でも やっぱあん時の啖呵は大したもんだったぜ? エレン。見たか? 宗教団体のお偉いさんの面。あの鳩が豆鉄砲喰った様な面。思い返しても結構笑える。あの場所ですっきりする事ってあんま無いしさ」

「……アキラ教官も結構言いたい事いってて、すっきりした顔してたと思うんですが………」

 

 正直後半部分、忘れ去られた感が拭えないエレンは、饒舌気味なアキラにそう返す。

 それを訊いて、やや図星だったのか がくっ と身体が一瞬だけ震えたアキラだったが 直ぐに体勢を整え直した。

 

「あれだけ蹴られてたってのに、オレの事見てたのかよ……」

「アキラ教官だけ、でしたから。……その、あの後で 庇ってくれる様な発言をしてくれたのは。必要な演出だと頭の中では判っていても、それでも 嬉しかったです」

 

 エレンは微笑みを返してそう言った。

 全てが決まった後だと言うのに エレンを処分しろ! みたいな発言をしてくる連中はそこそこいて、そいつらを一蹴(物理的じゃない)したのがアキラだった。

 エレンは純粋に、それが嬉しかった様だ。

 

 

「さっきのオレん時とは随分な違い様だな。エレン」

「い、いやっ そんな事は……」

 

 ドサッ、と乱暴気味にエレンの隣に座るのはリヴァイ、そしてリヴァイの言葉を否定しようとするエレン。そして そんなリヴァイを見て ぷっ と噴き出すのはアキラだ。

 

「ふはっ! えぇー、なんだ? リヴァイってそういうの気にしたりすんの? 普段からずっと しかめっ面で『オレに近寄るな』って オーラもバンバン出してんのに? 今更??」

 

 リヴァイの発言があまりにおかしかったのか、アキラは笑い続けていた。そんなアキラに対して別に気にする様子もなく淡々と返すのはリヴァイ。

 

「馬鹿のやり方もそれなりに学ぶ所多いんだと 最近ながら知ったからな。オレでも学習はすると言う事だ。まだまだ学ぶ事が多い。『馬鹿に学べ』だな」

 

 リヴァイのセリフには それなりに説得力があって ふんふん と頷いていたアキラだったのだが。

 

「……って、自然(ナチュラル)に人の事を馬鹿馬鹿言うなや! お前らだって同類項だろ!? この根暗チビ!」

「ああ、そうか。馬鹿よりは童顔と言ってやった方が良かったか?」

「うっせっ!!」

 

 これは殆ど恒例行事になりつつあるリヴァイとアキラの罵り合い。

 勿論、エレンは初めての事だから目を白黒させている。

 

「ははっ エレン。これは慣れるしか無いよ。2人はこんな感じだから」

「そうだよ。……調査兵団恒例だね。もう 止める人もいないし」

「エルヴィン団長もいつからか、止めなくなりましたよね?」

「リヴァイのああ言う表情は、アキラとのやり取りの時しか見られないからな。恒例とは言っても、……私にとってはあまり見ない光景なんだ」

 

 この場でリヴァイとの付き合いが一番長いのがエルヴィンだ。2人は互いに信頼し合っているのは間違いなく、可能な限りではあるが無茶な範囲でもエルヴィンの判断は間違いない、と思っている。

 

 それでも、リヴァイの自然な表情。何処か笑っている様にも見えなくない表情は今まででも見た事が無かった。その点でもアキラにはエルヴィンは感謝をしているのだ。

 

 リヴァイは人類最強の兵士として、孤高の存在として 見られている面があった。絶大な信頼を持ち合わせていて、心酔もされていたりもするのだが、対等に見る、接する相手と言うのは極端に少ない。

 今まではリヴァイに並ぶ実力者はいなかった。実力が全てと言うつもりはないが、それでもある意味 本当の意味で対等に接する事が出来るのはアキラだけだろう。

 

「あ、あの………」

 

 突如始まった罵り合いと言うかじゃれ合いと言うか 慣れるしかない、と言われたエレンだったが、直ぐに慣れる事が出来る程器用じゃないから、目を白黒させていた。

 

「……って、ああ わりぃ。エレンの事ほっといたな」

 

 アキラは、一先ず一息ついて エレンの方に向き合った。さっきまでのはまるで最初から無かったかの様に言う。

 

「一先ず、エレン。オレの事 教官って言わんでいいぞ。も、そんな関係じゃないだろ? オレらは、同じきっつい職場の仲間なんだからな」

「え、えっと いや それは……」

「オレ役職なんざ ついてねぇから、普通にアキラで良い。固いのって結構苦手なんだ」

 

 アキラの言っているのが本当である事は、エレンもよく判っている。

 訓練兵時代でも、上下関係の類は一切五月蠅く言わなかったし、誰とでも気さくに、フランクに会話をしていたから。

 

 それでいて、実力も半端ではないとなれば、訓練兵に人気が出るのは時間の問題で、あっという間に人気教官となった。それは因みにシャーディス教官が怖すぎたから、という理由も少なからずあったりする。

 

「でも、オレにとってはアキラ教官はずっと教官で……」

「んー、そうなんか。でも オレって教官らしいことした覚え、あんま無いんだけど……」

 

 アキラはあの色々とあった訓練教官時代を思い返す。……時代、という程昔の話じゃないと思えるが、そもそもアキラが此処にきた歴史と言うのが非常に短い。それでも内容が濃すぎるから、より長く感じてしまうのである。

 そんなアキラを見て、手を口に当てて笑うのはぺトラ。

 

「あー、それは確かに。私も保障するよ。アキラってば教えるって柄じゃないし、教官として バシッ! と〆たりしてないもんね? 見てたけど」

「ぺトラ……。別に保障なんかしなくて良いって。自分で判ってんだから」

 

 頭を掻いて苦笑いをするアキラ。つられて笑うぺトラにハンジ。

 

「ま、あれだけしんどい訓練で賑やかなのって結構異常だけどね。質が落ちたり、サボったりしてる訳じゃないのに」

「サボれるかっての。んな事したら色々とうるさいのが直ぐ傍にいたし」

「シャーディス教官の事でしょ。まー頭突きくらいは受けても良かったんじゃない?」

「それ、目から火が出そうだから嫌」

 

 其々のやり取りを見て、また笑みを見せるエレン。

 ゆっくりと頷き、アキラの方をすっと見て告げた。

 

「じゃあ、……アキラ、さんで」

「おう。そっから行こうか」

 

 アキラは、エレンの肩に手を乗せて、告げた。

 

「エレン。お前は1人じゃねぇんだぞ。化けモンって言う括りをするんだったら、調査兵団(ここ)は色んな面で同じだ。歯がぶっ飛んでも、サメ見たいにそっこーで生えてきたって ここの奴らは驚いてねぇだろ?」

「あ……、はい。……ん??(さめ?? なんだろう……)」

 

 よく判らない単語があったが、疑問を考え続ける暇はなく アキラは続けて言った。

 

「オレだって十分化けモンだ。化けモン歴で言えば、オレが先輩。色々と抱えて突っ走るなよ? オレも経験してきたが、結構怒るぞ。ここの皆は」

 

 アキラが、親指でメンバー達を指し示す。

 

 当然っ と言わんばかりに腰に手をあてて胸を張るぺトラを筆頭に、大体のメンバーが僅かに頷いていた。世話のかかるヤツがもう1人増えた程度何ともない、と言わんばかりに笑っていた。

 

「(何かムカついたが)……まぁ良い。じゃあ 改めて宜しくな? エレン」

「はい。アキラさん」

 

 

 エレンを監視する役目があると言う事をすっかり忘れた様子のアキラは、エレンと共に固く握手を交わした。

 

 エレンのほっとする表情を見た後、頭に過るのは エレンの幼馴染、そして家族。

 アルミンとミカサの事。

 

 エレンが蹴りを只管受け続けていた時、ミカサは憤怒の表情になって飛びかかってきそうになっていたし、大丈夫だと言う事は頭では判っていそうだったが 心底心配していたアルミン。

 

「(あの2人にもしっかり フォローいれとくか。……アルミンは兎も角、ミカサは結構激情家だし。エレン限定の)」

 

 しっかりとフォローを入れるつもりな所を考えても、アキラは やっぱり面倒見がよく教官っぽい所があるので、時間が許す限り 2人にエレンの事を教えに行こうと決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□ 翌日 旧調査兵団本部 □□

 

 

 

 一気に場面は飛ぶが 審議があった翌日。エレンを含めた調査兵団のリヴァイ班は古い古城を改装した昔の本部へと来ていた。

 

 エレンの力はある意味はアキラよりも判らない所が多いから、壁と川から随分離れた場所にある所に拠点を移したのだ。先ずは少しでも全容を把握する為に。

 

 そこに行くまでの間、エレンにちょっかいを出そうとしているのは、オルオ。

 リヴァイがエレンの事を時折注視しているのが気に入らない様子だ。エレンの性質上仕方ない事なんだけどそれでも。

 

「調子に乗るなよ、新兵。巨人か何だか知らんが、お前のような小便臭いガキがリヴァイ兵長と「ほれ、ストップ」ぶげっ!」

 

 妙な嫉妬心を出してるオルオも珍しくない。

 今でこそ、コンビっぽくなってるアキラとリヴァイ。こうなる前は、オルオも盛大にアキラに絡んでいたからよく判っていたんです。

 そして、この後に起こる事も大体。

 

「舌噛んで、血だらけになんの見えてるから。血ぃ出されたら馬だってビビるし、馬上ではとりあえず止めとけって、な? オルオ。落馬でもしたら、痛ぇぞ」

「うるせえな! こういうのは最初が肝心“がりっ!”っっ~~!!」

 

 止めたのは無駄だったのか、或いは止めようとしたから舌をかんだのか、どっちかは判らないけど、結局オルオは舌を噛んでしまう運命だと思えた。

 

「あー、ぺトラぁ。消毒液とかある? 結構深く噛んでるみたいだし、直で口ン中に放り込むから」

「そうね。結構刺激が強いけど、減らず口には丁度良いかも」

 

 バックパックから さっと取り出して アキラに放り投げる。それを上手くキャッチした後、オルオの血だらけな口の中にインサート。

 

 

「!!!!!」

 

 

 鮮やか滑らかな動きの連携に少しでも反応して防ごうとするのだが、脳からの指令が1秒程遅かったから無意味。噛み切った痛みと、傷に染みる痛みの二重奏を受けてしまったオルオは、暫くの間話す事も出来なかった。

 

 

 因みに リヴァイ兵長の口調真似(と、本人は思ってる)をオルオが時折見せるのが心底気持ち悪いと思ってたぺトラは何気に喜んでいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、エレン。まず 門をくぐって中に入る前に訊く事がある。ここってどう思う?」

「え…… どう、とは?」

 

 古城を見上げながらエレンに訊くアキラ。そして 言っている意味が判らないエレンは訊き返した。

 

「ほれ、ここだよ。この本部。見てみた感想は?」

「あー……、えっと 随分と頑丈な作りですね」

「ま、古城を改装してるからな。城だし、相応の防壁だってあるし。……で?」

「えっと……立派なのですし、備蓄もそれなりにあるとは思うのですが、近くの街に行くのも時間が掛かりますし、調査対象の壁の外も遠い。そのため立地条件はあまり宜しくないかと……」

「そりゃそうだ。調査(・・)兵団だからな。壁の外に行ってなんぼの仕事だし。……ほれ、他には? 難しく考えなくていいぞ。ほら、そことか、そこみてみ」

 

 アキラが指さすのは 城内へと通じる大きな扉の周辺。

 馬具を入れていたであろう木箱は壊れかけていたり(壊れて露出してたから、馬具入れだと判った)、背丈に近い長さに草が生えていたり、風にのってきたのか、ゴミも少々目に入ったり。

 

「あまり使われてなかったのでしょうか……? 少々荒れてると思います」

「そう、それだ」

 

 アキラは、指をぱちんっ! と鳴らして正解だと頷く。

 何の事だ? とエレンはまた首を傾げていた後。

 

「これから、リヴァイの違う一面を見る事になるぞ。ま、エレンの性格上 そこまで苦にはならんと思うけど、頑張れよ? 最初はけっこーしんどいぞ」

「え、えっと? 違う一面? それってどういう……」

 

 エレンが答えを訊く前に、アキラはさっさと中へ入ってしまった為 詳しくはきけなかった。でも 直ぐに判明する。

 

 リヴァイ班のエルドがリヴァイにしっかりとこの古城本部の現状を伝えてしまったから。

 

「確かにこれは重大な問題だ。……ぺトラ。あのアホをサボるなと呼び戻せ。全員で早急に取り掛かるぞ」

「はい。判りました」

 

 

 そこから始まるのは大掃除の時間。

 意外と似合う清掃着のリヴァイとアキラ。

 

「ま、これもステップだと思え。1000里の道も1歩だ」

「あ……はい。頑張ります」

 

 

 超本格的な大掃除をスタートさせた調査兵団。

 

 

 勿論、ただの清掃じゃなく、リヴァイ審査をクリアしなければ、終わりが見えないから結構大変だ。マイペースな性格だったら、更に大変になってしまう。(アキラ実体験済)

 エレンは、別に苦ではない様子だったが、それでも盛大にダメ出しを喰らうだろうなぁ、とアキラは遠目で見ていた。

 

 

 

 

「……ま、これも訓練? 足腰鍛えれるって思ってやれば……。思えねぇけどなぁ」

「口より手を動かせ」

「へーへー、リヴァイせんせーの仰せのままにー」

 

 

 

 

 


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