目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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28話

 と言う訳で皆でせっせと旧調査兵団本部の大きな建物を大掃除開始。

 

 

 古城と言うだけあって やっぱり滅茶苦茶広い。

 そして指揮を執るのは異常な潔癖症でもあるリヴァイ。中途半端は一切許さない、妥協も許さない。リヴァイの事をよく知っているし、何度も経験してきた班のメンバーは兎も角、これはエレンにとっての最初の試練になる事だろう。

 

 とりあえずエレンは指示されたエリアの清掃を完了させて、その報告を、そして もう1つ訊く事があって降りてきた。

 

「リヴァイ兵長。上の階の清掃は終了しました。オレはこの施設の何処で寝るべきでしょうか?」

 

 寝床の確認である。牢屋では満足に寝れてないし、睡眠はやっぱり大切だから。

 リヴァイは それを訊いて窓の掃除を一時中断させて振り返った。

 

「お前は地下室にある部屋だ」

「また、地下室ですか……?」

 

 牢屋に投獄されていた時も位置的には地下だった。地下というのは基本的にジメジメしているし、良い雰囲気じゃないのは確かだったから、エレンにとっては気分が優れないのだろう。

 

 だが、それは仕様がない事でもある。

 

「当然だ。お前は自分自身を掌握できてない。お前が寝惚けて巨人になったとして、そこが地下ならその場で拘束できる」

 

 リヴァイの説明を訊いている所で、竹箒を肩に担いでいるアキラも話に加わった。

 

「ここが幾ら城で、そこらへんの建物より頑丈っつっても、内側から巨人がばーん! と現れたとなったら、絶対無理だろ。ここは盛大にぶっ壊れる。……そんでもって、んな事になったら……ここの掃除が更に大変だろ? やってられねぇよ」

 

 はぁ、と面倒くさそうにそう言うアキラ。

 巨人が出現した時の人的被害の事よりも、物的損害、更には面倒が多くなる という所に視点を置いているから、ある意味凄いと言える。仲間想いであるアキラの事はよく判っているから、ここである事にエレンは気付いた。

 

 例え――巨人が現れたとしても 絶対的な自信があると言う事。

 流石に建物を守る様な事は出来ないと思うが、ここの仲間達と一緒なら、被害を出さずに抑え込む事が出来ると言う自信だった。

 

 巨人に恐怖しない所も、普通とは 圧倒的にかけ離れている。

 これが実力が高いが故の自信と言うものなのだろう。

 

 

「オイ。掃除は基本中の基本だ。面倒と思うな」

「はいはーい。来たときよりも 使ったあとよりも美しく、ねぇー。調査兵団、リヴァイ班の基本だったなよな。規約とか見せられた覚えは無いけど」

 

 アキラは、ぽんぽん、と肩を竹箒で叩きつつ 通路の掃除を再開した。

 リヴァイは アキラの背中を見送った後 一呼吸置き、エレンの方を見た。

 

 

「これはお前の身柄を手にする際に提示された条件の1つでもある。ここでは守るべきルールの1つだ」

「………」

 

 

 エレンはそれを訊いて言葉を失っていた。

 

「お前が掃除した部屋を見てくる。その間ここをやれ。ああ、ぺトラ また アイツがサボってたぞ。アキラ(あのアホ)の監視役も怠るな」

「はい……」

「あっ、はい」

 

 リヴァイは部屋の外で掃除をしていたぺトラに声をかけつつ、エレンが掃除した2階のエリアへと向かっていった。

 リヴァイの後ろ姿を見送ったエレンは暫く声を出す事が出来なかった。それを見たぺトラが少し笑いながら言った。

 

「失望したって顔だね?」

「は、はい!?」

「別にそれは珍しい反応じゃないよ。それにアキラの時なんか 凄くストレートに言ってたし。エレンなんか可愛い方なんだから」

 

 口許に手を当てて笑うぺトラ。

 

 アキラとリヴァイとのやり取り。少し前の事を思い返していた様だ。

 

「世間で言う様な完全無欠の英雄には見えないよね。2人とも。エレンは訓練兵時代にアキラと接してるから、アキラの事は判ってると思うけど。アキラとリヴァイ兵長。2人は世間じゃ英雄だからね。でも――」

 

 こほんっ、と軽く咳を1つした後。

 

「現物のリヴァイ兵長は、思いのほか小柄だし、神経質で粗暴、近寄りがたい。アキラは、見たまんま。上下関係なんて知ったこっちゃなく、いつもいつもお気楽マイペース。………あと、誰よりも仲間想いで、情にも凄く熱いひと」

 

 リヴァイの事は結構辛辣なコメントだが、アキラに関しては 呆れる様子を魅せながらも 褒め言葉? も残しているぺトラ。最後の方は声が少し小さくなっているが。

 

「え、いえ……。オレが意外だと思ったのは、上の取り決めに対する従順な姿勢です。その、アキラさんは よく知っているつもりです。……初めて会った時から、ずっと同じです」

「でしょ? さいっしょっからあんな感じだよ? お調子者だったり、それでいて恐れ知らず。ちょっぴり短気なトコもあったりして、上の人と口論なんて日常茶飯事。……リヴァイ兵長と口喧嘩出来るなんて、アキラくらいだしね」

 

 ぺろっ、と舌を出しつつそう言うぺトラ。

 

 それは『アキラの事をずっと見続けているから、誰よりも知ってるよ?』 と言わんばかりの表情だった。

 

 

「ん――リヴァイ兵長の事は、強力な実力者だから序列や型にはまらない様な人だって思ってた?」

「あ、はい。……アキラさんとは対等な姿勢を見せていると感じましたが、それ以外の人とは……。基本 誰の指図も受けない。意に介さない人だと……」

 

 それを訊いてぺトラは少し目を瞑った。時間にして殆ど一瞬で直ぐに目を開いた。

 

「私も詳しくは知らないけど……、以前はそのイメージに近い人だったのかもしれないね。リヴァイ兵長は調査兵団に入る前は、都の地下街で有名なゴロツキだったって聞いた事があるから。そして、その後に何があったのかは知らないけど、エルヴィン団長の元に下る形で調査兵団に連れてこられたって」

「団長に……」

 

 エルヴィン団長について エレンは詳しくは知らない。それでも団長を務める以上は 相応の力量の持ち主だと言う事は判る。その人柄についても。リヴァイ程の力量の持ち主が、下に加わる程の器量の持ち主なのだろう、とエレンは理解した。

 

 そして、そう思ったのと同時に もう1つ知りたい事が生まれた。

 

「あの、アキラさんは……? リヴァイ兵長と同じ様な境遇だったりするのですか?」

 

 あの陽気な人がゴロツキだった、などと言う印象は正直もてない。

 リヴァイについてはその鋭い視線から あの表情から よく判るのだが アキラは違う。大体が笑顔だ。笑顔にも種類があって、大体が人をからかう時の笑みが多い。

 

 そして 人を笑わす事も多い。そんな人だ。

 

「アキラ……か」

 

 ぺトラは空を見上げる様に 部屋の天井を見上げた。

 

「うん。気になるよね? あんな無茶苦茶な力の持ち主だし。普通は、ね」

「えと……その、そう ですね……」

 

 エレンは生返事だった。

 アキラが戦う所は確かに視た事がある。でもそれはトロスト区での作戦の終盤。巨人化が解除された直後の事だった。薄れゆく意識の中だったが、はっきりと自由の翼を見た後、その戦う姿を目の当たりにした。

 

 巨人を武器も使わず、使うのは己の肉体だけで――――圧倒した。

 

 あの時は 意識が混濁していた事もあって夢だったのではないか? と今でも思っている。

 

「アキラは誰よりも特殊な環境って言った方が良いかな。ほら 人は誰にでも人生があって 色んな経験をしてきていると思うけど、完全。全く完全で自分だけしかない。オリジナルな人生を、なんてものは誰も持ってないと思う。リヴァイ兵長の様に 街のゴロツキがある切っ掛けで調査兵団や憲兵団、駐屯兵団になった、っていう話だってない訳じゃないし、歴史を振り返っても 絶対に何処かしら共通点があったりする」

 

 ぺトラの言いたい事は エレンも判る。

 

 家族を失い、巨人に恐怖ではなく、憎悪した自分自身。他に誰も同じ様な気持ちを持っている者などいない、とは決して思えないから。

 

 同じような境遇の持ち主など、ここ数年で何人もいる事だろう。

 

 だが、それ以上に判らないのはアキラの事だった。

 

 

「アキラはね―――」

 

 

 話そうとしたその時、ぺトラの頭の上に手が乗った。

 

 

オレ(ひと)の人生を勝手に話すなんて良い趣味してるとは思わんぜ? ぺトラ」

 

 勿論 アキラである。見事なタイミング……と思えるが。

 

「リヴァイの事 いつも めっちゃ信頼した目で見てんのに随分辛辣なコメント残した時は、思わず吹きそうになったがな!」

 

 ちゃっかり聞き耳を立てていたのだ。

 

「もー ビックリするじゃない! 兵長が来たかもって!」

「オレの事 勝手に話そうとするからだ。プライバシーの侵害ってヤツだな」

 

 頭の手を払いのけて拳を振るうぺトラ。その拳を笑顔で受け止めるアキラ。

 そして エレンは呆気に取られてぽかん、としていた。

 

「そんなにオレの事が気になんの? エレンは。オレに同性愛の趣味はないぜ?」

 

 その表情を見たアキラはエレンに笑いながら訊いた。

 

「あ、いえ……すみません。不躾でした」

「ははっ 気にすんな。オレを見た奴らって、大体は同じ様に考えるんだよ。『コイツ、一体なんなんだ?』ってさ。それを色々と枝分けしていけば、オレの出生とか どんな経験をしてきたか、とか 際限なく広がっていくんだ。それに ピクシスのおっさんなんか色々と凄かったんだからな。『女経験はあるか~?』 とかから始まったかと思えばどんどんと、矢継ぎ早のリクエストだ。『何人と~?』 とか、挙句の果てには 『巨人とヤったんか? 気持ち良いか?』とかだ。……殆どありゃ変態おやじだ。男にんな質問して何が面白いってんだか」

 

 笑いながらそういうアキラ。

 

 

 そして、何だか知らないがぺトラは表情が一気に険しくなっている。

 

 

 

「それ、初耳」

 

 

 

 気のせいかもしれないけど――空気に亀裂でも入ったのか? と思える効果音が頭の中に響いていた。エレンにも アキラにも。

 

 

「ん? 何の事だ?」

「司令との事」

「あー。そりゃそうだろ。今初めて言ったんだし。そこにはエルヴィンしかいなかったし」

 

 急に言葉がカタコトになってるぺトラにやや違和感を覚えるアキラ。

 

「それ、詳しく」

「ん?」

「司令との事。 く わ し く」

 

 そして顔が怖くなった。

 

「おもしれえ話でもねぇだろ? なんでんな事聞きたがるんだよ」

 

 

 

 

 

「く……わ……し……く……!」

 

 

 

 

 

 目を見開いて迫るぺトラには妖気に似た何かを感じてしまう変質な圧迫感があった。迫られている訳じゃないのに言霊だけで後ずさりをさせる程に。

 

「ちょっと 落ち着けって。ぺトラ! なんで怒ってんだ??」

「……………」

「わーったわーった! 怒ってる理由もそうだが 何で んな事聞きたがるか知らんが また話してやる」

「い・ま!」

「今は無理だ」

「……なんで?」

「すぐ判る」

 

 話してくれると言う言質を取れたからか、ぺトラの言葉は普段のそれに戻っていた。

 だが、アキラが今無理だと言った意味が判らない様子だ。そして アキラが言う様に直ぐに理解する事が出来た。

 

 

 

「おい。お前ら。いい度胸だな……3人揃ってお喋りタイムか?」

 

 

 

 さっきのぺトラの言霊とはまた違ったもの。静かだがそれでいて圧倒される様な威圧感を感じられる声が部屋に響いたから。

 

 慌ててぺトラは掃き掃除をしようとするのだが、最早手遅れ。

 もう、『3人』と言われているから。数に含まれているから。

 

「ちゃんとノルマは熟したって。ほれ リヴァイがいるトコの廊下がオレの持ち場。結構ヤレてるだろ? 仕事はちゃんとオレはするんだよー、リヴァイせんせー」

「……ふん」

 

 リヴァイは する時はするアキラの事を判っている。そして 案の定出来ている所を見て 何処か納得は出来てなかったが、それでも合格と言わんばかりに視線を変えた。

 変えた先にいるのはエレン。

 

「オイ、エレン」

「は、はいっっ!!」

 

 金縛りにあってた感覚だったが、どうにか解く事が出来て 元気よく返事をするエレン。

 因みに何を言われるのか、と内心ビビっていた。

 

 

「上。ぜんぜんなってない。全てやり直せ」

 

 

 言われたのが 盛大な駄目だし、とやり直しだった。

 

 

「ここが第一関門。巨人を兎に角殺しまくりたいんなら、突破する事だな」

「……ほっ」

 

 

 何だかんだでお咎めなしなぺトラは一息ついて、アキラに耳打ち。

 

 

 

「……兵長がいなくなったら、洗いざらい吐いて貰うからね」

「オレは なんの容疑をかけられてんだよ……」

 

 

 

 

 


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