目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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30話

 

 

 

 結局エレンは夜通しハンジの話を訊かされ続けた様子。

 

 これでしっかりと身に染みた事だろう。ハンジと言う者の正体を……。

 

 

 

 朝日が東の空から登り始めて、この城にも届いてきた辺りから アキラは眼を覚ましていた。

 その後、暫くは布団の中で後5分……の格闘を暫く繰り返した後、何とか完璧に意識を覚醒させることが出来た。駄目押しに顔でも洗おうと部屋から出て通路を歩いていると――、まだ話し声が聞こえてきたのだ。

 

 非常に熱心。本当に熱心。鬱陶しい程熱心。気が狂ってると思わてても仕方ない程熱心な声が。

 

『ちょっとエレン! ぼーっとしてないでまだよく聞いて! ここからがかなり重要なんだよ!』

『へぁ!! は、はいっ!!』

『まず、巨人との意思疎通に関しては、これは闇雲にやってる訳じゃないんだよ。事例があってね。私の班に所属してるイルゼ・ラングナーってコが……!』

 

 エレンはまず間違いなく、後悔している事だろう。

 軽く時刻を確認するが、まず間違いなく軽く6時間は超えている。勿論休憩時間なんて存在しない。仮眠時間なんて、以ての外。

 

 

 

「……あいつら、確か今日実験するって言ってなかったっけか? 夜更かしなんぞして、大丈夫なのか? まー、とりあえず オレはかんけー無いこと、か。掃除するくらいの体力があれば十分だし……。くぁぁぁー」

 

 大きく大きく欠伸を繰り返しているのはアキラ。 

『朝は強いとは言えない。低血圧だって言っていいかもしれない』……と自分自身で周囲に言ったりしているのだが、一斉に『それは無い』と否定されてしまったりしている。

 無茶苦茶な身体能力、無茶苦茶なハンジの要求に応え続けているアキラが、そんな繊細に出来ている筈がない、という事だ。

 

 でも いまだに『何故だ?』とアキラは判ってなかったりするのはご愛敬だ。どんな事であっても、自分自身の事になれば見えにくいらしいから。

 

 

「んくっ んくっ あ、おはようアキラ」

「あぁ、はよーさん」

 

 ばったりと出会ったのはぺトラ。

 丁度、目覚めに一杯のお茶を きゅっ と飲んでいる所の様だ。

 

「んー……喉乾いたな。よし、オレも一杯貰うかなー」

「えっ……!」

 

 ぺトラは この時ぴーんっ! ときた。

 

 そう、今自分はお茶を飲んでいます。まだ コップの中には残っています。

 

 じぃっ とぺトラはコップを見る、その後 コップ自体を見る、中身を覗き込む。またコップを――と3往復くらいして、ちゃんと中身が入っていることを再々確認した。

 

 

『あ、アキラも欲しい? 飲む?』

 

 

 ぺトラは自分が持っていたコップを差し出した。

 

 

『ん? 確かに欲しいと思ってたけど、良いのか? ぺトラが飲んでたんだろ?』

『うん。私実は2杯目だからね。ちょっぴり飲み過ぎちゃってー』

 

 

 と、極自然の流れで差し出して。

 

 

『そっか、ありがとな。ぺトラ』

 

 

 と、アキラも極自然の流れで頂いて、丁度ぺトラが口を付けてた部分にちゅっ と……。

 

 

 

 

「ぷはぁーっ やーっぱコレだねぇ。朝一で飲むんは! 目の覚めるってもんだ」

「……え?」

 

 悶々と朝っぱらから妄想を膨らませていたぺトラだったのだが、気付いた時にはアキラはさっさと ぐいっ と一杯やってた。

 結構長めの妄想だったから その間にアキラはぺトラの前を横切って自分でコップをゲット、そして注いで ぐいっ と喉越し爽やかな状態。つまりもう飲み干してしまったと言う事。

 

 因みに、この手のぺトラの試み。色々なシチュエーションがあるが、今回のが初の試みと言う訳ではない。

 

 似た様な事をライバル(イルゼ)がいない事を良いことに試して試して試して……でも、成功した試しが一度も無いのだ。不思議な事に全くの0。何かが妨害でもしてるんじゃ? と思うレベル。

 

 何故かは不明だが 成功率0%の鬼門である。

 

「ほれ、ぺトラも もう一杯行っとくか?」

 

 返事を返す前に とくとくとく、とアキラはぺトラのコップに注いだ。

 なみなみと注がれるそれは、まるでお茶~と言うよりお酒~の様だ。それはそれで注いでくれた事に関してはありがたいとは思うのだが、シチュエーションが全く違う為、不満が残る。

 

「……ありがとっ」

 

 ぺトラは ぶすっ、としてる不満顔を隠す様に、直ぐに受け取って飲み干したのだった。

 何処か遠くから『抜け駆けしようとするからだよー!!』とお叱りを受けた様な気がするぺトラだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして この残酷な世界で、何処か温かい平穏とも呼べるこの一時は、直ぐに終わりを告げる事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ朝食だ、と熱中してるハンジと半分放心状態のエレンを呼びに入ろうとしたその時だった。殆ど同時にこの旧調査兵団本部に火急の知らせが届いた。

 

『ハンジ分隊長!! こちらにいますか!?』

 

 この大きな城内全てに聞こえるかの様な声量で入室してきたのは、ハンジの部下の1人。

 ハンジの姿を確認したと同時に返事を待たず、続けた。

 

 異常事態が発生したと言う事を。

 

『被験体が……2体の巨人が殺されました!』

 

 それは、捕らえた巨人が殺された、という報せだった。

 

 ハンジは半狂乱になりながら現場へと急行。

 それにリヴァイの班も続いた。

 

 現場では巨人を殺した時に共通して発生する蒸気がまだ出ており、その中には巨人の白骨体の影がくっきりと見えていた。

 それを一目見た瞬間から、ハンジは大声で奇声を発しながら泣き喚いていた。何度も何度も『ビーン』と『ソニー』の名を叫びながら。

 

 

 

 通常 巨人は人類の天敵であり、駆逐すべき存在だとこの壁中の人類の殆どが思っている筈だから それが死んだ所でどうという事でもない……が、今回のは別だ。巨人の正体を知ろうと兵団を上げて調査していたのが、例の2体の巨人である。

 

「嘘だろ……。これ、兵士がやったのか?」

「あぁ、そう言う話らしい。オレは見てないが目撃情報はある。そもそも見なくても……、これじゃ一目瞭然だろ?」

 

 厳重に拘束していた為 巨人が逃げ出す事はおろか、動く事さえ満足に出来ない。更に巨人は飲まず食わずでも死ぬ事が出来ない。殺す唯一の方法は巨人のうなじ部分を破壊する事のみしかない。

 

「目撃情報はここの見張りからだ。気付いた時にはこのありさまだったらしい。それに立体機動を使って逃げてるヤツを見たってよ」

 

 殺された瞬間こそ見ていないものの、立体機動装置を使って逃げ去る所の目撃情報はある為 殺されたと判断した様だ。

 

 犯人はまだ捕まっていない。

 

「何処の馬鹿だ? 貴重な被験体を殺すなんてよ」

「馬鹿じゃなけりゃなんなんだろうな。オレにゃ皆目見当もつかんよ」

「ハンジ分隊長も随分あの巨人に入れ込んでいたからなぁ。……当分続くだろうさ。あの様子だと」

 

 憲兵団のメンバー達が其々口にしていた。

 

 巨人を使った実験自体は調査兵団が主としているが、ここの管理、そして監視については憲兵団が行っている。明らかに警備側にも過失がありそうなのだが、我関せずと言わんばかりに他人事の様に話し続けている憲兵団は何処か滑稽に映った。

 

 巨人を相手にするのは出来ないが、全く動けない巨人くらいは見る事が出来るから、と最も安全な役をそれっぽい動機と理由をつけて買って出たのだが、ご覧のあり様である。その事を気にした様子を見せないのも困りものだ。

 

 

「………ふん。行くぞ。後は憲兵団の仕事だ」

 

 リヴァイは それとなく判っていたと言わんばかりに、吐き捨てるとメンバー達にそう告げた。

 

「…………巨人を、殺したか。憎いから……? だが これでは……」

 

 アキラは 巨人が燃え尽きているかの様な蒸気を発生させてる所をじっと見ていた。

 巨人に怒りを覚えているのは正直判る。人類の殆どが巨人によって殺されたのだから当然だろう。その中には知り合いが、仲間が、親族がいた事だろう。それを考えたら よく判る。

 

 だが、今回のこれには違和感しか感じられなかった。

 

 考えを巡らせていたそんな時だった。エルヴィンの声が聞こえてきたのは。

 

「エレン。君には何が見える? ……敵は、なんだと思う?」

 

 エレンに対して問うているエルヴィン。

 その言葉の意味がはっきり言えば 解らなかっただろうエレンは。

 

「……はい?」 

 

 ただ首を傾げる事しか出来なかった。

 だが、その答えで十分だったのだろうか、エルヴィンは軽く笑うと。

 

「……すまない。変なことを訊いたな」

 

 そう言葉を残すと 人込みの中へと歩いて行った。

 そして エルヴィンが完全に見えなくなった所で。

 

「今の質問……いったい……」

 

 エレンは エルヴィンに直接聞けなかった事を呟いていた。

 エルヴィンの言葉を思い返して 何度も何度も考えるが、やはり意味が判らない。

 

「まぁ 深く考えるな。あれだけで エルヴィンの考えを読めるヤツなんて数える程しかいねぇよ。調査兵団にもな」

「……そう、ですか」

 

 考え続けているエレンの肩を叩きながらそう言うのはアキラ。

 確かに質問の内容をまた思い出すが、短過ぎるしそれだけで理解するなんて 新人である自分には無理だろう、という事が理解出来た。

 それと同時にある疑問も頭に浮かぶ。

 

「アキラさんは 今の質問は……?」

 

 エルヴィンとアキラは 長い付き合い――と思ってるのはエレン。

 

 いつからか、リヴァイとアキラの名は街中に広まった。エルヴィンの懐刀とまで呼ばれたアキラだから そう思ったとしても不思議じゃないが……実は付き合いの長さを言えば そこまでの程でもなかったりする。

 

「ん? ああ。……どうだろうな? エルヴィンと答え合わせしたとしても、何言っても『正解!』とは言ってもらえなさそうだし、何が正解なのか正直判らんよ。エレンの『質問の意味が判らない』って答えの方が、エルヴィンが望んでた正解という見方だってあるだろ?」

 

 エレンの肩をぽんっ と叩くとアキラは手を振りつつ移動を開始。

 

「おい。早く行くぞ」

 

 リヴァイも移動を催促。

 エレンもそれに従い共に離れていった。

 いつまでも耳に残るハンジの泣き叫ぶ悲鳴を置き去りに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後は、全力を挙げての犯人探し開始。

 

 

 

 

 ハンジに至っては 『親の仇だ!!』 と言わんばかりの剣幕で捜索している様子。まさに鬼気迫ると言った感じだ。

 そこまでの巨人への愛に正直脱帽してしまうのはアキラというと、リヴァイと共に一服していた。

 

「……あん時、あのまま齧らせた方が良かったか? アイツは」

「そう言うな。……アレでも力あるヤツだ。失えば大打撃になるだろ」

「まぁ、判ってるつもりだけどな。変人といやぁピクシスのおっさんだって似たようなもんだし」

「変なヤツ、という意味じゃお前も一緒だがな」

「うっせーっ! アイツと一緒にすんな!」

 

 いつも通りの軽いやり取りもそこそこに、エルヴィンが2人の元へとやってきた。

 

「これから勧誘式では 極めて正直に話すつもりだ。エレンの巨人化。そして彼の生家の地下室の秘密についても」

「まぁ、隠していたとしても、公にしたとしても大して変わらんな。シガンシナはここからじゃ遠すぎる。知った所で行動に移そうとしても無理があるし、何より正確な位置はエレンにしか判らん」

 

 リヴァイの言葉も最もだ。

 しかし、最高機密と言ってもいい巨人の秘密についてを公にする、と言う事は『そこまで秘密に近づけているのか!』と言う大きな希望をその思考に植え付ける事が出来ると言っていい。

 

 巨人がこの世界に、いや マリアの内側に一体 何匹、何十匹、何百匹いるか判らない現状では正直ゴールと言うものが見えない。ゴールの見えない、判らない進行程心を折るものはないのだから。

 

 そこでエレンの事を、巨人の秘密を掴めるかもしれない、と言う事を話しておけば、少なくともゴールは明確に見えてくるのだから。

 

「……だが」

 

 エルヴィンは視線をアキラへと向けた。

 

「アキラ。お前の事に関しては、今後は濁して話す。兵団としての活動の際も可能な限り。可能な範囲内でだ。鼓舞をする際にもな」

 

 その言葉を訊いて、アキラはゆっくりと頷いた。リヴァイは眼を瞑り 答えた。

 

「そうだな。……毎度毎度、巨人の侵攻のタイミングが良すぎる(・・・・)のも考えものだ。一度目も、二度目も、調査兵団(オレ達)が壁内から遠く離れた地点で起きている」

「だな。あれ程イラつく手はない。小細工無しで正面からってのがあいつらだと思ってた……それに あいつら、考える頭は持ってないもんだとずっと思ってたが……、エレンの1件で状況が、オレ自身の認識も完璧に変わった。相手はオレ達の事も知ってるんだろうさ」

 

 リヴァイとアキラ。

 2人はエルヴィンが伝えたい事の根幹を見抜いていた様だ。エレンの事を話す真意と逆にアキラの事は話さない真意。 

 

「だが、今後はオレとエレン、リヴァイも基本セットだ。前の審議の内容が公に公開された以上周知の事実。……だから 次回(・・)からは 全面的な殴り合いになる可能性だって高くなると思うぜ。ひょっとしたら、秘密にしときたかった情報なのかもしれんしな」

 

 アキラは、ぱしっ と拳を合わせてそう言う。

 殴り合いとは表現がおかしい気がするが、もうその辺りにツッコミを入れる様なのはこの場にはいなかった。

 

「つまり 今回の新人を含めた大規模な壁外遠征……、そう言う事(・・・・・) なんだろ? エルヴィン」

「ああ……。そう言う事だ」

「アキラにしちゃあよく判ったじゃねぇか」

「あからさま過ぎだここまで来たら。……それに時期でも他も色々と考えたら、可能性の面じゃ結構高い。それに 可能性は1%でもありゃ十分って常日頃言ってるだろ、お前らが」

 

 ははっ、と笑うアキラ。

 だが、笑ったかと思えば次は視線を鋭く 強くさせる。

 

「だがエルヴィン。これも判ってくれよ。甘い考えって一蹴されるかもしれんが、オレがもう仲間を死なせたくない。失いたくないって思ってる事もな。……手の届く範囲で それでも見捨てろって選択は強制で与えないでくれ。……オレも、自分で判断する」

「ああ。勿論だ」

「オレはそれについては以前否定しただろ。もう忘れたか?」

「……ただ釘刺をしただけだ」

 

 その会話を最後に、エルヴィンとは別れた。

 これから新人の勧誘式が始まる時間だから。

 

 

 

 

 

 

「リヴァイも犬死と無駄死には嫌いっつってたろ? ありゃ嘘じゃないだろ?」

「当然だ」

 

 


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