目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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注 メチャ遅れました。その上展開も全然進んでません。











 すいません・・・


37話

 

 

 アルミンとライナー、ジャンの3人と女型の巨人の死闘。

 

 結果だけを言えば、3人とも怪我を負ったものの無事だった。

 

 明らかに運動精度が通常種の巨人とは比べ物にならず、立体機動において極めて優れていたジャンでさえ歯が立たない状態。ライナーもミカサに次いで優秀な兵士であり、女型の巨人の手の中と言う死地から強引に生還を果たすと言う快挙を成しえた。

 それでも、圧倒的に敵側の戦力の方が遥か上だと言う事実は変わらなかった。

 

「もう時間稼ぎは十分だろう!? 急いでこいつから離れるぞ!!」

 

 馬を潰され、地に伏していたアルミンを抱え、ライナーは駆け出す。

 

「人食いじゃなきゃオレたちを追いかけたりしない筈だ! そうだろ!!」

 

 相手は人食いの巨人ではなく知性のある巨人。故に、逃げる人間を必要以上に襲おうとはしないだろう、と言うのがライナーの考えだった。

 

 そして、狙い通りに女型の巨人は ライナーたちには見向きもせず、ある方向へと向かって走り出した。

 

「見ろ! デカ女の野郎め…… ビビっちまってお帰りになるご様子だ!!」

 

 それは 願ったり叶ったりの状況だと言える。このまま戦い続けたら まず間違いなく殺されているであろう事が判るからだ。相手は 巨人相手に戦い続け、近年では飛躍的に力を伸ばしてきた百戦錬磨と言っていい調査兵団の部隊。それを潰してきた相手だから。

 

 だが、アルミンは驚愕していた。

 

 なぜなら…… 女型の巨人が走り出したのは。

 

「(な、……そんな……!! あ、あっちは 中央後方……エレンがいる方向だ……!)」

 

 女型の目的は、エレンだ。それは推測の段階ではあるものの、極めて100%に近いとアルミンは判断していた。エルヴィン団長の勧誘式での話。全てはこの女型を、巨人を纏った人間を、……人類の敵、正体不明の敵を炙り出すために行ったのだろうと確信していたから。

 

 

 

 3人にとって幸運だったのはもう1つある。

 

 それは、周囲に巨人が一切いないという状況だ。あの女型の巨人のみであり、拓けた平原にはそれらしき影も一切見えない。

 ただ、問題もあった。

 

 

――――ピィィィーーーッッ!!

 

 

 指笛を只管鳴らしているのはジャン。馬を呼び戻そうとしているのだ。無事な馬は2頭。その2頭の内の1頭、ライナーの馬だけは戻ってきたのだが、たった1頭のみでは3人を満足に運ぶことなどできるハズがない。

 だが、訓練されている馬とは言え戻ってこない事は責められない。

 馬は機械ではない。九死に一生を得たのは馬とて同じなのだから。そのままパニックを起こし、帰ってこない事だって有り得る。若しくは、指笛の届く範囲外にまで逃げ出していれば……戻ってくるはずもない。

 

「(クソ……! ライナーの馬は戻ってきた。なのにどうしてオレの馬は戻ってこねぇんだよ! これ以上ここに留まる訳にはいかねぇのに……。最悪、1人をここにおいていかんとならねぇぞ……。その場合の1人はどうやって決めるってんだよ……! ひでぇじゃねぇか! 折角3人で死線をくぐったってのに……、なんて仕打ちだよ!)」

 

 あの状況で3人ともが無事だったのは奇跡だって言って良い事はジャンだってわかっていた。まだまだ新兵に近い自分達が 生き残る事が出来たのだから。 それだけに、当然だがこの場に誰一人残していきたくはない。まだ、ここは死地と言って良いのだから。建物や巨人より高い木々がある訳でもない。ここに巨人が現れたら、もう成す術が無いのだから。

 

「(クソっ……! 最悪の事なんざ、考えるな!! 全員で、全員で生きるんだ! だから、来いよ……!)」

 

 ジャンは只管 指笛を鳴らし続けた。

 

 ただ……忘れてはならないのがこの場所が まだ安心できない死地だという事。そして 音を聞きつけるのは馬だけではない。

 

 そう――音に反応するのは 巨人も同じだ。

 

「っっ!!」

 

 それは奇行種。それは行動が予測しにくいのが特徴である。背後より現れたのは6m級の奇行種の巨人。

 

「クソぉぉ!! ライナーーっっ!! アルミンっっ!!」

 

 負傷しているアルミン。そしてそのアルミンを介抱しているライナー。その2人は反応が遅れてしまった。

 

「「!!」」

 

 巨大な手が2人に迫るその瞬間。もう1人、指笛を聞いていた者も辿りついていた。

 

「だから、オレの教え子に手ぇ出すんじゃねぇっつってんだ! この木偶が!!」

 

 巨人の手を迎え撃ったのは 突然 空から降りてきた? 男だった。

 小さな拳を大きな巨人の手に当て 周囲に光が瞬いた。目も眩むその光。ジャンやアルミン、ライナーは思わず目を閉じ、開けた時には 襲ってきていた巨人の姿は無かった。

 

「あっぶねぇな。 だが、お前ら。無事で何よりだ」

「「「アキラ教官!!」」」

 

 目を開けた時 それは誰が来たのかはっきりした瞬間だった。

 

 そして、巨人はと言うと…… 当然ながら吹き飛んで地面に頭からめり込んでいた。トドメはさせていないが、アレだけ深く突き刺さっていれば、動く事は出来ないだろう、と言う事で放置。

 

 アキラは 全員の無事を確認をしたところで、本題に入った。

 

「お前ら 女型の巨人ってのを見てないか? どうやらソイツが今回の原因……なんだが」

 

 ファムの最後の言葉が女型の巨人だった。全てはソイツと会わなければ進まない。そして、自分自身が相対しなければ被害が拡大する事も理解していた。調査兵団の各班を容易く潰す相手。巨人の鎧を纏った人間なのだから。

 

「あ、はい……! 女型の巨人なら、中央後方の方へ……!」

「っ……。成る程。女型の狙いは やっぱアイツ(・・・)って事か。的中したな。エルヴィン。……ほんっと、嫌な事を当てんのが結構多くなってきたぞ」

 

 アキラはアルミンの話を訊いて、立ち上がった。

 

「お前ら。あれを見ろ」

 

 アキラは前方の空を指さした。

 指が示す先の空には緑の煙弾が次々と撃ち放たれていた。それが意味するのはただ一つのみである。つまり、作戦続行の意思表示だ。

 

「は……? 撤退、命令じゃないのか……? 陣形の進路だけを変えて作戦続行……?」

「作戦続行不可能の判断をする選択権は、全兵士にあるはずだが、まさか指令班まで煙弾が届いていない……のか?」

「いや、間違いなく届いてる。あの煙弾の見える範囲って結構広い。その上でエルヴィンが判断したって事だ。作戦続行ってな」

「だけどアキラ教官! ここまで甚大な被害が出てる! 今は体勢を立て直す方が先決なんじゃないのか!?」

 

 陣形の奥深くまで侵入を許した事実が、この陣形に多大なるダメージを与えていると言う結果が見えている。見えているからこそ、ライナーの様に ここは一先ず撤退を考えるのが普通だと言えるだろう。

 

 だが、エルヴィンの判断は違った。

 このまま続行だと。

 

「アルミンも言ってるように、その女型ってヤツの狙いがエレンだってんなら、ただ撤退するってのも危険が伴うな。まだオレは見てないが 話を訊けば、女型(ソイツ)は馬よりも早く走れるんだろ?」

「あ…… はい。異常なまでの脚力でした」

「ってこたぁ 闇雲に逃げても追いつかれる危険がある。そっちのリスクの方が高いかもな。だが、このまま進んだ先には巨大樹の森がある。どちらかと言えばそん中の方がまだ安心って判断したかもしれんぜ、撤退よりな。あの森も結構広大だ。全兵士が入ったところで 木が足りなくなる何てこと、無いからよ」

 

 周囲の木々は異常なまでに高い。流石に50m級の超大型が来れば話は別だが、基本的な巨人よりは遥かに高い。それに加えてその巨大な木々が無数に存在しており、走る巨人にとっては障害物になる。余程の事がないかぎり立体機動装置を身に付けた兵士の機動性の方が上回るだろう。

 

「来た道逃げて、続くのは平地だ。そんな場所でやり合う方が危ねぇ。……ま、オレやリヴァイを除けばって話だがな」

 

 ゴキリッ! と拳を鳴らしながらそう言うアキラ。その視線を、表情を見て 漸くジャンは気付く事が出来た。……いや、ジャンだけじゃない。アルミンやライナーも同様だった。

 先程までいつも通りに話すアキラ。この危機的状況でも飄々としており、常に余裕を持っている様子がうかがえたのだが、今の表情は全く違う。

 

 そう……一文字で言い表せば 『怒』

 

 それのみが当てはまる。今まで虐げられ続け、餌食になり続けた人類の怒りを体現した者こそがアキラと言う話も何度か聞いた事があるが、まさに憤怒の化身だと思え、味方であり、尊敬できる人物なのに 身体の芯から震える感覚がした。あの女型の巨人と相対したその時以上の恐怖が。

 

 そんなアキラの表情だったが、直ぐに息を潜めた。

 

「お前ら。馬数が足りてねぇよな」

「っ……。あ、はい。ライナーの馬はいますが、オレのは…… それにアルミンの馬もやられて」

「ああ、その事だが心配するな。もう少ししたら来る」

 

 アキラの言葉に呆気にとられる。

 

「……は? えと、それはどういう意味、ですか?」

 

 アルミンも同じく。頭の回転が速く、聡明ともいえるアルミンなのだが 流石に理解する事が出来なかった様だ。ジャンが幾ら呼んでも全く来なかった馬が、アキラが呼べば直ぐに来るとでもいうのだろうか。最早何をしても驚かないと思うのだが、馬を一般的には違う意味で操る術も持ち合わせているとでも?

 

 そんな3人の疑問の顔を見たアキラは、にかっと笑っていった。

 

「お前らにとっての女神って事になんだろうな! その女神サマが駆けつけてくれるんだよ」

「「「???」」」

 

 ますますわからない、と頭を傾けたその時だった。

 

『みんなーーーーっっ!!』

 

 馬を引き連れたクリスタがここに合流したのは。

 

 クリスタの引き連れた馬。たった1人で3頭もの馬を、それも興奮していたであろう馬を完璧に落ち着かせてここまで連れてきた。そして 皆を心配している表情、安堵した表情。

 それらを見て、アキラが言う様に クリスタの事を 女神 だと思えない者はいないだろう。

 

「……サンキューな。クリスタ。流石にオレも男3人担いでいくのはしんど過ぎるし、絵的にもアレだし」

「いえ、アキラ教官が助けてくれたおかげです。私はこの位しかできないから。……でも、本当に皆良かった……。最悪な事にならなくて……、本当に」

 

 アキラは クリスタを撫でる。そして そのクリスタは 眼に涙を浮かべて、またアルミン達を見る。

 

『女神』

『神様』

『結婚したい……』

 

 アキラはとりあえず置いといて、口には出していないが、クリスタに対するそれが男達の心情だった。

 

「ははは。……とりあえず、お前らはこれで大丈夫……っと」

 

 アキラはそれを笑顔で確認したと同時に、再び空を見た。

 緑色の煙弾に交じって、一際不吉を孕む色をした煙弾。灰の色がこの空に再び打ち上げられたのを見たからだ。

 

「近い。……お前ら!」

「「「「はっ!!」」」」

 

 アキラの声に、敬礼こそはしていないが 自然と姿勢が更に伸びた。振り返ったアキラは手早く言う。

 

「エルヴィンの判断に従い、このまま進行しろ! ただ、それも時と場合だ。死ぬんだけは許さんからそのつもりでいろよ!!」

 

 そして 4人に背を向けた。

 

「オレは その女型ってヤツんトコに行ってくる。向こうの方に行ったんなら、多分あそこなんだろ」

 

 灰の煙が空に伸びているのが判る。ただの巨人であれば、黒や赤の色が上がるのだが 今撃ちあげられているのは灰色。……つまりあの下で 絶望的な事が起こっている事も。

 

 もうゆっくりはしてられない、とアキラは脚に力を入れた。

 

「…………アキラ教官!!」

「……なんだ、ライナー」

 

 アキラは振り向かなかった。ライナーだと言うのは声で分かった。 

 

 これは たられば の話にはなるが この時、ライナーの表情を見ていれば…… 何か(・・)を察する事が出来たかもしれない。

 

「い、いえ…… ご武運を」

「あぁ。お前らもな。……絶対死ぬなよ」

 

 それが最後の言葉だった。ドンっ! と言う轟音と大量の砂埃が周囲に舞い上がり、アキラの姿はそこには無かった。

 

 

「……このまま、行くぞ。オレ達は 進行方向へ」

「ああ」

「うん」

 

 

 アキラを見送った後、馬を走らせる4人。ちらりちらりとアキラが向かった方を見てしまうのは仕方がないだろう。あの凶悪な女型と対峙した者であれば特にだ。

 

 そんな時、1人だけライナーの方を見ている者がいた。

 

「……(ライナー……?)」

 

 それはアルミン。

 

 あの時。そう アキラを呼び止めた時 アルミンははっきりと見たのだ。何処か苦しそうなライナーの顔を。

 

 

 ただ、それが何を意味するのかは 全く判らなかった。

 

 

 

 


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