スランプな上にちょっと短いです……。
本当に一瞬だ。一瞬のやり取りだが直ぐに気付ける事はある。
――明らかにおかしい。
そう、まるで弾丸の様に速く動く。そして 更にその一撃はまるで雷の如き威力だった。
受けが間に合ったのにも関わらず、拳が当たった個所は完全に消し飛んでしまうのだ。だから早々に戦術を変えた。受けてはならない攻撃だった為、兎に角回避に専念した。
破損個所も何とか修復するだけの時間を稼ぐ事が出来たのだが、それでも回復する意味さえ無いのではないか、とも思えてしまう。
純粋な力と力のぶつかり合い。人間が巨人を打ち破るなどと一体誰が想像できるものだろうか。
――あれは、いったいなんなんだ……? あの、
こちらの蹴りが当たらない。
元々 人間の大きさから考えたら的が小さいと言う事もあるのだが、それでも ここまでは何ら問題なく蹴散らす事が出来た。立体機動装置も武器も全く問題なかった。この巨体で動きが鈍くなる、という訳ではない。当然自分の身体の様に動かす事が出来る。大きさと素早さは反比例したりしない。……なのに当たらない。
『よっと。惜しいな。もうちょっとだった』
そして、何よりも厄介だったのが脳裏に霞めるあの時の光景だった。
もう、何人も踏み潰し、蹴散らし、命を奪ってきた。共に訓練をし、同じ釜の飯を食い、過ごしてきた者でさえ、簡単に殺す事が出来た。
自分達は戦士である。
そして 相手は《悪魔の末裔》であり《悪の民族》だ。
『よーし。そうだ! でも 欲を言えばもうちょい角度を鋭利に。ん~ 緩急をつけたり、フェイントを多用するのも良いと思うぞ? それにほれ! 相手の呼吸をもっと読め! オレに当てる事くらい簡単にできるって』
そうだ――。相手は 必ずやらなければならない相手。
なのに、怒りに歪むあの顔を見てしまうと、動きが鈍る。動きが鈍ると同時に――意識と気持ちもブレてしまうんだ。
「……再生能力もピカイチだな。他とは比べ物にならんくらい速い」
女型の巨人と数合打ち合いをし、最初は左脛、更には左脹。右の拳と腹部。抉り取り、何度も吹き飛ばした。だが部位によって時間差はあるものの、普段の奇行種、通常種とは比べ物にならないくらい早く修復されてしまっていた。
そして 途中からは、防御に徹しているのか、回避される事も多くなってきていた。
「ッ!! ッッ!!」
どんっ! と大地を揺らせながら跳躍し、一瞬で距離を取られてしまう。
「なんだ? 時間稼ぎのつもりか……? 巨人が逃げるとか、情けねぇ事この上ねぇな」
離れていく巨人に挑発のつもりで言うアキラ。だが、挑発だけではない。この少しの攻防で、アキラの中に
最初は小さな違和感に過ぎなかったのだが、それが徐々に大きくなってしまったのだ。
女型の巨人の鋭く、えぐり込む様に放つローキック。それを躱すと直ぐに身体を駒の様に回転させて遠心力を活かしての回し蹴り。ローキックを撃つと見せて、ハイキックへと切り替える。
そして――何より 身体に刷り込まれた格闘術は 簡単に変える事など出来るハズも無い。
それは、
そうだ。……この攻撃をアキラは受けた事があるのだ。
「……ちっ」
戦いながら、いや 違う。巨人を纏った人間が敵側にいる、という事実を知ってから、幾つかパターンを考えていた。
数あるパターンの中でも、今回のコレは 最悪なシナリオ。
それが、アキラの頭の中でノンストップで放映されてしまっているのだ。
仲間達を殺した巨人の正体が、まだ確定ではないものの 確実に着実に輪郭を帯びだしていた。
『エルヴィンの判断は間違えねぇよ。従え。それがより多く、救えるヤツが出てくる。それ位そろそろ学習しろ』
『……できるか? アキラ。お前にしか頼めないんだ』
その映像の合間。割り込む様に2人の声が入ってくる。自分の考えをかき消す様に入り込んでくる。
『無事じゃないと許さないから。私も死なない。だから アキラも死なないで!』
そして、押しのける様にもう1人の声も響いてくる。立ち止まる事も、背く事も許さないと言わんばかりに。それらが 死に直結する事を誰よりも知っているから。
「ったくよぉ! わーーーってるよ!! クソが!!」
アキラは右の拳を強く握り絞めた。
何が一番大切なのか。そして 天秤にかければどちらに傾くのかは、考えるまでもない。苦楽を共にしてきた仲間達の命とそれを奪おうとする相手。考えるまでもない。
そして、幸か不幸か…… 今回の作戦は殲滅ではない。
相手の正体を感付く前までは 正直 殲滅、駆逐、……殺すつもりだった。だが、今回の作戦を同時に思い出し、少なからず安堵している自分も間違いなくいた。
「あめぇよな……? ぜってー、オレも。お前達の分も 巨人を殺すと約束してんのに……」
握りしめた拳を見るアキラ。
そこには、灰になっている者達が 血を流した者達が 宿っている様にも見えた。自分に託し、死んでいった者達もいると言うのに。
「ったくよぉ……。―――ここは ほんとに残酷な世界だよ」
心底そう思ってしまう。思わず笑ってしまう程に……。
それを見た女型の巨人は 癇に障ったのか、隙を見せたと思ったのか判らないが一足飛び脚でアキラとの間合いを完全に潰した。
元々歩幅自体が違い過ぎる為、距離を取るのも距離を潰すのも巨人側の方が圧倒的にやり易い。鋭く、素早く。それでいて緩急を付け、フェイントも織り交ぜて。
そう――教えた通りに。
「……ッ!!」
完璧にとらえる事が出来た、と錯覚できるほど、完璧なタイミング。
一度も当てる事が出来なかった相手に漸く攻撃らしい攻撃が当てられる事が出来る達成感と、同じくらいの虚無感があった。
そしてそれと同時に、確かに聴こえた。僅かな時の間。刹那の瞬間だったのにも関わらず、確かに聞いた。
『――もう隠すつもりも無い、ってか? なぁ ―――よ』
それは 強烈な蹴りが、アキラの身体を蹴り抜いた瞬間に 確かに聴こえた。
がきぃぃ! と凡そ人間を討つ様な、蹴り砕く様な音ではない。何度も何度も踏み潰し、蹴り潰してきた時の音ではない。まるで金属と金属のぶつかり合いだった。
女型の巨人の蹴りは、間違いなく直撃した。今までは拳と蹴りのぶつかり。蹴りと蹴りのぶつかり合いだったが、今回は間違いなく攻撃する暇も無かった筈だ。
何度か回避する所も見ている為、異常なのは攻撃力だけだ、と踏んでいた。だから、自分自身の考え、気持ちを殺して 攻撃をした。一瞬の隙をついた。
「……な、ん゛……で……」
蹴った。間違いなく蹴り抜いたハズなのに、相手は動いていなかった。
立っていた。 大地だけが深く抉れ、ひっくり返ったが 相手は全く動いてなかった。
「口……きけるのか? 巨人の身体で」
額から一筋の血が流れてはいるものの、肉体的なダメージを全く感じられない圧力がそこにはあった。そして、背後には煙弾が空に放たれていた。
「……白。まぁ 頃合いでもあるか」
くるりと後ろを見て色を確認するアキラ。
そして、唖然としている女型の巨人の背後に瞬時に回り込むと。思いきり跳躍し、殴り飛ばした。うなじを狙っての攻撃だったが、女型の巨人の反応速度もかなり早く両手でガード。更には身体の力を抜き、逆に飛ぶ事で 衝撃を吸収。両手を少しは破損させたが何とか急所を守る事には成功した。
そして 吹き飛んだ先は 森の中。
「……さぁ 決着付けようぜ。
額の血を拭い、また挑発をする様に手招きをするアキラ。
死角の多い森の中。走る際にもこの巨大樹が障害物となってMaxで走り続ける事など出来ない。
相手は巨人をも圧倒する男。こちら側から見れば間違いなく正真正銘の悪魔に見える。今まで
後戻りはもう出来ない。逃げる事も出来ない。全ての道を閉ざされ、先にはもう死しかない。それ程までの事態なのだが、不思議と頭の中だけは冴えわたっていた。
『……この人に殺されるのなら。私を解放してくれるのなら』
それは 頭の何処かで思っていた事かもしれない。
そう――死を受け入れようと思ったその時だった。
アキラがそうだった様に、彼女の中にも声が聞こえてきたのだ。
――頼みがある。1つだけ、頼みが……。
声の大きさ自体は小さい。儚く消えそうな程に小さい。だがそれでも悲痛な、心からの叫びの声だった。誰よりも大きく聞こえてきた。
――オレが、間違っていたんだ。……今更オレを許してくれとは言わない。
――頼む。……お願いだ。この世の全てからお前が恨まれる事になっても、……だけはお前の味方だから。……だから、頼む約束してくれ。
『帰ってきてくれ……!』
その声が頭に届いた瞬間から、もう死を受け入れた己はもうそこにはいなかった。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
女型の巨人は吼えた。
空気を震わせ、大地をも揺らしかねない程の声量で吼えた。大地を踏みしめ、駆け出す体勢に構えた。
それは譲れぬ想いを持った者同士の衝突。
その最終章。
「ああ、そうだ。……来い、かかって来いッ!」
書いてて…… なんか原作で言う街中での戦い? の場面にとんだと錯覚しちゃいました……。