目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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明けましておめでとうございますw今年もよろしくおねがいしますw

毎年ですが 正月も大変大変……………。あー 大変……。



そして※注意


『オリ分少な目注意報発令中』です。






40話

 

 

 それは アキラと女型の巨人が巨大樹の森の中へと入る少し前の事。

 

「リヴァイ兵長!」

「なんだ?」

 

 巨大樹の森に進行したリヴァイ班。

 この場所は 壁外、壁内に点在する巨木群の中でも 調査兵団の訓練地として利用している場所の1つであり、入り組んでいるのだが、その地形は正確に頭の中に叩きこんでいる。それが 圧倒的な戦力を誇るリヴァイ班であれば、尚更だ。絶対にする事は無いが(巨人がいるから)、目隠しをした状態であったとしても、進行する事が出来る程に熟知している。

 

 その場所に侵入して、エルヴィンの信号弾を確認して 煙弾を撃ち放ったと言うのに…… まだ(・・)帰ってきてない。

 

「その、アキラの活動時間が……40分を超えました」

「……そうか」

 

 ぺトラのリヴァイへの報告。

 それはアキラと別れてからのタイムキーパーだ。正確に彼女はそれを伝える役目を担っており、殆どズレはない。これまでもずっとそうだった。

 

「アキラさんの活動時間……?」

 

 エレンだけは、アキラの活動時間は知らされていなかった。だからこその疑問。そして 班のメンバー達の顔色が変わった事の理由が判らなかった。

 

 そう、ぺトラの報告から リヴァイ以外の全員の表情が険しくなっていったのだ。

 

 その理由が間違いなく、アキラと関係している、と連想する事は難しくなかった。

 

「兵長。私に行かせてください」

 

 ぺトラはリヴァイに進言した。進言……と言うよりは懇願にと言って良いかもしれない。

 

 この中で誰よりも表情を険しくさせているから。………誰よりも苦しそうな顔をしているから。

 

「駄目だ」

「っ……」

 

 だが、その願いを訊いてリヴァイが首を縦に振る事は無かった。

 ぺトラが1人アキラの所へと向かった所で、いや ただの1人がアキラの所へと向かった所で何が出来ると言うだろうか。超級的な力を使った時のアキラの速度は 立体機動装置を使った時の速度を軽く凌駕する。それも平地であったとしてもだ。

 

 リヴァイがぺトラ1人を行かせる筈がない事くらいぺトラ自身も判っていた筈だった。だけど、それでも言わざるを得なかったと言って良い。

 何故なら……。

 

「兵長! これまでで、アキラが…… アキラがここまで時間が掛かった事はありません! もしもの時は私達が 連れ戻さないと……ッ」

「判っている」

 

 ぺトラの言葉に、短く返すリヴァイ。

 

「……判ってるだろ。今の状況を考えろ。これまでの訓練の事も次いでに頭に入れ直せ。アイツは何も考えてない訳じゃない。例え想定外の事態が起ころうとも、何を優先させるべきかが判っている筈だ」

「っ……は、はい」

 

 僅かな差ではあるがこの中では一番付き合いが長いのはリヴァイ。そして 自分達が最大級に信頼する兵長だ。感情が全面に出ていたぺトラだったが、どうにかそれを押し殺す事が出来た。何よりも説得力のある言葉がリヴァイから聞けたから。

 

「……決して誰も見捨てず、全部を守ろうとする大バカだ。長距離索敵陣形に分かれている今の状況で、そんな自分が真っ先に折れる様な状況にする訳無いだろ」

 

 そうだ。

 アキラの事をこの場にいる者達は全員知っているから。

 

「そうだぺトラ。……兵長の言う通り。だから アイツが帰ってきたら、思いっきりひっぱたいてやれ。遅刻だ、ってな」

「そりゃあ良い。何なら牛一頭を運ばせるか。タダで」

「なら、それに加えて酒も用意しとかないとな」

「やれやれ。……あのバカがどう行動するか、今までの事を考えてみれば オレらなら判りそうなものだがな」

 

 リヴァイ班の全員の表情に余裕も戻ってきていた。

 勿論ぺトラも。

 

「オルオ。喋り方気持ち悪いから止めて」

 

 だから、いつも通りの返しをする事が出来たんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 更に少し時間を遡り、場面はミカサとコニーに変わる。

 

 それはエルヴィン達に続き巨大樹の森へと中列が入っていき、それを後続が確認した後 それに続く事は無く班長が回り込む事を指示して迂回中の時だ。

 それに違和感を覚えたコニーはミカサに訊いた。

 

「な、なぁ 中列だけ森の中に入っていったみたいだったけど、陣形ってどうなってるんだ?」

「陣形はもう無い。私たち左右の陣形は森に阻まれてその周りを回るしかない。……索敵能力は失われてる」

「……なら、何で進路を変えてこの森を避けなかったんだ? エルヴィン団長は地図読み間違えちゃったのか? 右翼側がやべーってのは確認したから、そのせいで間違えたとか?」

「……わからない。確かに時折 右翼側から灰の煙弾も見たけど、白の煙弾も見てる。だから、右翼側の脅威は緩和されたって判断をしていいと思うけど、エルヴィン団長が何を考えているかまでは判らない」

 

 そう、全てわからない事だらけなのだ。

 右翼側が壊滅的な打撃を受けたと言うのは、煙弾の信号で理解は出来た。そして それに対抗する様に灰の煙弾が撃ち放たれた。そして 白も見えている。

 

 灰に対して白。即ちそれは脅威に対する対策が出来たと言う事。出来ると言う事を意味している事は知っている。当然 班長から一通りの説明は受けているから。

 

 

『煙弾の色についての説明は以上だ。何か質問はあるか?』

『白は 灰に対する対策が成された、と判断して良いと聞きましたが、具体的な対策については判るのでしょうか?』

『ああ。対策については状況次第だから一概には言えない、が。『最適の手段を取っている』それだけ認識していれば良い』

 

 

 その白の正体。

 ミカサは、十中八九ではあるが ほぼ間違いなくそれ(・・)が何なのかは理解していた。そして 班長がそれを濁して言うのにも理由があるだろう、と。

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

 場面は巨大樹の森の入り口にまで到達したジャン達。

 樹高80mを超える巨大樹の枝の上で待機をしていた。抜剣をして。そして、これは指示があったからだ。馬を降り、上で待機する。その事に誰よりも不満があったのはジャンだった。

 

「……正気かよ。当初の兵站拠点づくりの作戦を放棄…… 本来ならその時点で尻尾巻いてずらかるべきところを大胆にも観光名所に寄り道したあげく、馬降りて抜剣して突っ立って……、更にその上森に入る巨人を食い止めろと? ぜんっぜん巨人の影が見えねぇ状況だってのに、完全に無意味だろこれ」

 

 ジャンは不満に満ちた視線を合流を果たした自分自身の班長へと向けた。

 

「あいつ…… ふざけた命令しやがって……」

「聞こえるよ、ジャン。声を落として」

「ちっ…… ろくな説明もないってのが斬新だ。上官じゃなきゃ誰も相手にせず、聞き流せるんだが…… ヤツの心中も穏やかな気分ではない筈だよな。ここに巨人がいねぇ理由。そりゃ考えてみりゃ一発で判る。……あの人(・・・)が周囲に齎す影響ってヤツは、人間に限らず巨人まで引き寄せちまうんだってこった」

 

 不満に満ちていた筈のジャンの顔は軽く笑みを見せていた。

 

「(アキラ教官の事を考える時だけはちょっとだけど穏やかになるよね……ジャンは。ちょっと話題逸らしに今後も使ってみようかな……? 班長に聞かれて揉めるくらいなら……)」

 

 この時アルミンは そう考えていた。 

 

 

 軈て、ミカサ達も巨大樹の枝の上に来た。

 広大な森である為、全方面からの巨人の侵入を防ぐ事は不可能だが それでも可能な範囲で分かれて防御陣形を取る。

 

 一向に現れない巨人。その影すら見えない現状にそれぞれが苛立ちにも似た感情を表面に出しかけていたその時だった。 

 

 

 

 

 

『ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!』

 

 

 衝撃音、轟音と共に、森自身が叫びを上げた様なそんな雄叫びを聞き取ったのは。

 

 

 

 

 

「!!」

「これは…… アイツだ。絶対!」

 

 

 一度対峙しているからこそ、想像がつく。

 普通の巨人は声を発する事はしない。したとしても呻き声程度。これほどまでの声量を上げる巨人は今まで見た事がなかった。……そう、あの巨人は普通ではない事くらいは判っていたから。

 

「アキラさん……!」

 

 抜剣をした手が自然と聞こえた方に向けられていた。

 他の兵士達も同様。森中に聴こえた為 待機組の誰もが同じ様な構えを取っていたその時。

 

 

『テメェらァァァ!! ぜってぇぇぇこっちに近づくんじゃねぇぞぉぉ!! この辺でひと暴れしてっからよぉぉ!! 木々が薙ぎ倒されて、お前らもぶっ倒されても責任取らねぇからなァァ!!』

 

 

 同じくして、またどでかい声が聞こえてきた。これは人間のモノ(にしては 常識を超えている声量だが)である事は直ぐに判明。

 

 知っている声だったから。誰よりも信頼している者の声だったから。

 

 

「は、ははは……。負んぶに抱っこ状態ってこの事かよ。頭では判ってんのに、正直きついぜ…… アキラ教官」

 

 

『アンタの手助けがしたい』『その背を見ていたい』

 ジャンの心情はこの辺りだろう。それでもそうできないのは、圧倒的に足手まといだから。待ちも戦いの1つ。耐えるのも同じく。

 任務に従うのは兵士の最低限の務めである為と押し殺していた。

 

「なぁ……アルミン」

「ん? どうしたの」

 

 そして アルミンの傍にいたライナーが声をかけた。

 

「あの人は、本当に人間……なのか? エレンの様に巨人になれるって訳じゃないのに、なんであんな力が出せる?」

「……それを僕に聞いて明確な答えが返ってくるって思う? ライナーらしくないね」

「……っはは、そりゃそうだな。……悪い。ちょっと今頭ん中が混乱してるみたいだ」

 

 ライナーの表情が違うのはアルミンも感じていた。それは助かった事への安堵感等の類ではないと言う事も。だからこそ、この時アルミンは『ライナーは衝撃のあまり混乱してしまったから』と片付けた。誰でも目の前であんな事が起きて平常を保てる者などいる訳がないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、そのアキラの声はリヴァイ達にも聞こえた。

 

「おい。聞いた通りだ。オレ達は先を急ぐ」

「は、はい!!」

 

 リヴァイは表情1つ変えず、ただ班全員にそう伝えて先を見据えていた。

 

「アキラさん……」

 

 エレンはちらりと後方を振り返る。

 戦塵が巻きあがっているのだろう。轟音と共に、空高く砂埃がまるで砂嵐の様に渦巻きあがっていくのが見える。 何処で戦っているのかが一目で判る。

 

「アキラさんなら、きっと……ッッ!!」

 

 エレンが、後方から目を離そうとしたその時だ。

 また、凄まじい轟音が響いたかと思えば、何かが超高速で飛んできた。それがいったい何なのか、理解するよりも早く 目と鼻の先の巨大樹に衝突し薙ぎ倒された。

 

「あ、あれは……!?」

 

 姿を現したのは女型の巨人。

 手足に傷を負い、所々千切れ、抉れている所はあるものの運動機能は全く問題ない様子だった。そして、吹き飛ばされた先から出てきたのは。

 

『っててて……、ちっとは受け身の練習でもしときゃよかったか』

 

 アキラの姿があった。

 遠目からでもよく判る。額から いや 頭から流れ出ている血が判る。……相応の傷を負っていると言う事がよく判る。 

 あの勢いで叩きつけられて五体満足にいられる方が異常だと思うが、アキラの戦闘能力を知っているエレンからすれば、吹き飛ばされ、傷を負っている現状を見ただけで、相手の巨人、女型の巨人が異常なのだと言う事が直ぐに判った。

 

「兵長! オレ達も援護を!!」

「アイツはオレ達全員でやるべきです!!」

 

 それは、他のメンバーにとっても同じだった様だ。

 今までは 目の前に迫る巨人が面白い様に吹き飛び、打ちのめされ、圧倒してきた図しか見てこなかった。苦戦などしている様な素振りは一切見えなかったし、アキラ自身も飄々としていて そんな気配さえも見えなかった。

 

 だが今は違う。

 

 血を流している事もそうだが、何よりアキラ自身が吹き飛ばされると言った光景などこれまでに見た事が無かったから。

 

「野郎……、ズタボロにしてやる……!!!」

 

 刃を構え、女型の巨人を見る。

 怒気は離れていてもよく判る。今まで何度も命を救われたと言う恩義はこの中の全員がアキラに対してある。仲間だから当然、と言う言葉も何度も聞いたが、それだけで割り切れるハズがない。

 そんなアキラが今苦戦をしていると言うのであれば、四の五の言わず助太刀すると全員が思っていた。そして全員が 怒っていた。

 

 

 それらを見たエレンは 最初こそは心配していたものの 直ぐに安心する事が出来た。

 

「(馬鹿め……、ここにいるのは巨人殺しの達人集団だ。アキラさんに加えてこの人達も敵にまわしたら、お前に待ってるのは地獄だけだ!)」

 

 勝ちを疑ってなかった。このメンバー全員で攻めれば。

 

「リヴァイ兵長! 援護をしましょう! 指示をください!!」

 

 直ぐ隣のぺトラが再度リヴァイに進言するが、リヴァイが取った行動は。

 

「全員耳を塞げ」

 

 取り出した銃を上に掲げ、撃ち放つ。

 凄まじい音が周囲に弾き出され、森中に響き渡る。それは今までの煙弾ではなかった。

 

「音響弾……!?」

 

 それは位置を知らせる為に使うもの。視界が不良である森の中では煙弾よりも効果的な信号弾だ。それを撃った後にリヴァイは振り返った。

 

「お前らの仕事は何だ? その時々の感情に身を任せるだけか? あいつに口酸っぱく言い続けた時、お前らは何も聞いてなかったのか?」

 

 リヴァイはそう言うと同時に、エレンの方を見た。

 

「アイツを含め、オレ達、……この班の使命は そこのクソガキにキズ1つ付けない様に尽くす事だ。命の限り。……あの巨人はアイツに任せてオレ達はこのまま馬で駆ける。いいな?」

 

 その言葉を訊いて還す言葉は1つしかなかった。数多の感情が一気に沈静化していきただ一言だけ発する。

 

 

 

『了解です』

 

 

 

 それを訊いたリヴァイもそれ以上は言わず、前を向いた。

 だが全員が納得をした訳ではない。エレンだけは納得が出来てなかった。

 

「ま、待ってください。あそこでアキラさんが戦っているんですよ!? 手を、手を貸せばすぐに終わらせる事だってできるかもしれないのに!?」

「エレン! 前を向け!!」

「……グンタさん!?」

「歩調を乱すな!! 最高速度を保て!!」

「エルドさんまで!? なぜ、なぜですか!? アキラさん1人じゃなくリヴァイ班の皆がやれば…… あの巨人を殺す事だって直ぐに出来るハズです!! このままじゃ、万が一があったら……」

 

 最後まで言い切る前に、轟ッ! と目に見えない空気の壁の様なモノが自身の頬を叩いた。それにつられて振り返ってみると、あの巨人が正確無比に 巨木を蹴り倒しているのが見えた。普通の巨人ではありえない攻撃手段とその鋭さ。それを見て一気に戦慄した。

 

「アキラさん……!?」

 

 アキラにはエレンは何度も救われた。

 それは命もそうだが精神もあった。自分自身が混乱し、見失いそうになってしまった時、いつもいつも変わらない笑みを見せて 安心させてくれた。心の底から信頼できる教官であると同時に、憧れの兄の様にも思っていた。

 

 そんな人が今危険な目に遭っている。それもたった1人で、孤独に戦い続けている。

 それが自分を傷つけない為に、自分に尽くす為に。

 

 

 

―――人類を救うのは自分ではなく、あのアキラ教官である。

 

 

 

 エレン自身はそう思っていたのだ。

 

 

「エレン! 前を向いて走り続けなさい!」

「ぺトラさん!! なんで! なんでですか!? アキラさんの時間ってさっき言ってましたよね!? その時間ってヤツを超えると 危険なんじゃないんですか!?」

「………ッ」

 

 その問いにぺトラは否定も肯定もしなかった。それだけでエレンにとっては十分だ。

 

「大切な人をこのまま見捨てて、1人だけで戦わせて このまま逃げるなんてできない!! 違いますか!?」

「……いいえ! 逃げるんじゃない。先に進むの! それが兵長の指示よ。従いなさい!!」

「その理由がわかりません!! それを説明しない理由も全く判らない!! なぜですか!?」

 

 ぺトラに続き、オルオも繋ぐ。

 

「兵長が説明すべきではない、と判断したからだ!! それがわからないのはお前がまだヒヨッコだからだ!! わかったら黙って従え!!」

「………ッ」

 

 

 誰に何を訊いても、言っても…… 求めている答えは帰ってこなかった。

 エレンはまた、アキラの方を見た。

 

 あの凶悪な蹴りを真っ向から受け返している。今までだったら 普通の巨人だったら そのまま弾き返す。吹き飛ばして終いだったのにだ。全ての能力がこれまでの巨人とはケタが違うと言う事は離れていても判る。

 

 

――まだ、戦っているんだ。アキラさんだけで。……たった、たった1人で。

 

 

 急速に頭の中が冷え込むエレン。周囲の雑音の一切を頭から切り離したかの様に 静かに見る事が出来た。

 

 

――いや、オレだって戦えるじゃないか。皆がいかないのなら オレだけでも行けば良い。そもそも……何でオレは人の力ばっかりに頼ってんだ……? 力だったらオレにもあるのに。……自分で叩けばいいだけだろう!?

 

 

 自然と手が自身の口許へと向かう。

 

 

――アキラ……教官。今行きます。……先に行ってる貴方を 追いかけます……!

 

 

 手を噛みきろうとし、歯を当てたその時だ。

 

 

「エレン!? 何をしてるの!! それが許されるのはあなたの命が危うくなった時だけ!! 私達と約束したでしょ!?」

 

 ぺトラの声がエレンの頭の中に届いた。

 だけど、エレンは止まらなかった。険しい表情のまま そのまま口を閉じようとしていたから。

 

「エレン」

 

 そんな中で 今までには無かった声が届いた。

 

「お前は間違ってない。やりたきゃやれ」

 

 指示を出した後は沈黙をしていたリヴァイだった。

 

「兵長!?」

「オレには判る。コイツは本物の化け物だ。『巨人の力』とは無関係にな。どんなに力で押さえようとも、どんな檻に閉じ込めようとも、コイツの意識までは服従させることはできない。……誰にもな。例え殺されても無理だろ」

 

 エレンと接し、時には閉じ込め、時には攻撃をしてきたリヴァイだからこそわかる感覚だった。無防備の頭を蹴り続けた時も エレンの眼は変わらなかった。強靭。何にも折れない鋼の意思を見た。

 

「お前とオレ達の判断の相違は経験則に基づくもの。アイツに対するこれまでの信頼もある。……だがな、そんなもんはアテにしなくていい。選べ、自分を信じるか、オレやコイツら、……そして アキラ。調査兵団組織を信じるかだ」

 

 リヴァイは一瞬だけ空を見た。そして 直ぐにエレンに向きなおす。

 

「正直に言おう。オレだって判らなかった時期がある。お前くらいの時なんざ、まったくわからなかった。ずっとそうだった。自分の力を信じても、信頼に足る仲間の選択を信じても、……それまでは結果が全く判らなかった。まぁ 今は(・・)違うがそれこそがオレ達の経験則からって訳だ。絶対的に足りていない今のお前に判るもんでもない。……だからまぁ、せいぜい 悔いが残らない方を選べ。自分自身でな」

 

 リヴァイはそれ以上は何も言わず 前を見ていた。

 

「エレン……」

 

 最後にぺトラはもう一度だけ 口を開いた。

 

「……信じて。私達を、……アキラの事を」

 

 

 心に決め行動をしようとしていたエレンの意思がゆっくりとそれでいて確実に曲がり始めていた。

 

 そして、脳裏に浮かぶのは 調査兵団リヴァイ班に所属したばかりの時の事だ。

 

 巨人になる実験を試みようとし 失敗した。

 全く関係のない所で巨人化してしまった。

 当然、班の皆が敵意を持って自分に刃を向けてきた。

 それでも 庇ってくれた人はいた。リヴァイ兵長とアキラだ。

 その後 ハンジ分隊長に報告し、調査され意図的に許可を破ったのではない、と判ると全員が非を詫びてくれた。全員が戒めの様に手を噛みきる事までは出来なかったが、簡単には消えない歯型を入れていた。

 

 

『はは。オレ達だって人間だ。理解できねぇもんは怖いし、判らねぇもんは間違えるってなもんでな?』

 

 そんな中でアキラだけは笑っていた。

 

『全員がアキラみたいに強かったら失望しなかったかもしれない……わね。エレン』

『だから、馬鹿言えってのぺトラ。何度だって言っただろ? オレだって同じ人間だ。お前らがいなきゃ とっくに精神の1つや2つ粉砕してる。……1人じゃねぇから戦えんだよ』

『うわっ、出たよアキラのくっさいセリフ!』

『うっせーわ! エルド!! 本心なんだからしょうがねぇだろうが!』

 

 恥ずかしそうに、それでいて心の底から信頼しているのも判った。

 全員が全員を。……そして、その中に自分も入りたい。心から入りたいとエレンは思った。

 

『エレン。私達はあなたの事も頼る。……だから、私達の事も頼ってほしい。……だから、私達を……』

 

 

 

 

 

―――信じて。

 

 

 

 

 

 


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