目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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メチャ遅れました。ごめんなさい……m(__)m そして進んでないです。



44話

 

 

「あのなぁ……判ってるか? 今ここ壁外なんだぜ? 幾ら撤退命令が出たからって、油断して良い訳にゃならないぞ?」

「う、うん……ごめん」

「ま、『やっと任務終わり! 無事に完了! あー大変だったわぁー』って思って気が緩むのはさ、判るけど、壁内まで帰って初めて遠征じゃん? オレが口酸っぱく言い続――……じゃなく、オレが口酸っぱく言われ(・・・)続けて、……聞いてきたつもりなんだが」

「仰る通りだよ……。いや 本当に返す言葉もないです……。ごめんなさい……」

 

 

 

 今、とてもとても 非常に珍しい場面に遭遇している。

 

 地上より目算で約30mの地点。

 巨人も届かない安全な木の上でぺトラが正座してて、そのぺトラをアキラが説教してると言う図だ。

 判る通り、アキラが説教されている、と言う今とは逆の事は凄く多かったのだが、今説教してるのはアキラ。こんな光景滅多にない。今夜は大雨か、大雪か、はたまた大槍か。 

 

 何にせよ、暴走モードに入ってたぺトラを止めたのはアキラ。小一時間ほど無駄に過ごした気もするが それを考えると全員が良しとした。

 アキラもそれなりにぺトラの地雷を踏んだとは言え、不可抗力だと言えるだろう。何より元気そうなアキラを見て安堵したと言う理由が一番かもしれない。

 

 

「はははは……」

「いやマジで全然見ねぇわ。こんな光景。だって覚えがないもん」

「だよなぁ。悠長にしてる場面でも無いって思うんだけど、見入ってしまうと言うか、何と言うか。何にせよ普段見れねぇ光景には違いないなぁ」

 

 

 リヴァイ班の面々は口々に呟いていた。

 長らく苦楽を共にしてきた班員でさえ同じ感想だった様だ。

 

 そして、今 例外がここに1人いる。それは勿論エレンだ。

 

 エレンはアキラが訓練教官時代からの付き合いで、リヴァイ班と比べたら確かに短いのだが、血気盛んな104期のメンバー達を何度も説教してる姿を見ているので、別に珍しいとは思えなかった。それに それ以上に思う所はあった。

 

「あ、あのー…… ここに留まってて大丈夫なのでしょうか……? 撤退命令が出たのでは……? それに女型の巨人は……?」

 

 空に撃たれた信号弾の事だ。しっかりと命令を訊き、陣形を立て直す事が第一。更に女型の巨人がどうなったのかも早く知りたい所だった。それはエレンだけではない。全員が女型の中身については 訊きたかった。それでも説教を延々と聞いていたのは、それ程までに珍しい光景だったから………なのだろうか。

 

「んあ? あー、それもそーだな。ってか オレもちゃんと説明するつもりだったんだぜ? ……だからお前らと合流する為に急いできたのに、とびっきりの歓迎されたからよー。あービビった。絶対 奇行種以上だわ」

「うぅ……だから、ごめんってば……」

 

 仄々とした雰囲気さえも感じるこの場で、どうにかエレンは口を動かし、アキラに言った。壁外であることさえ忘れそうな勢いだったから、それを戻せたエレンはファインプレイだと言えるだろう。

 

 他の面子も其々ため息をつきつつも、再度移動準備をしだしたその時。

 

 

「……何やってるんだお前ら」

 

 

 声がしたかと思い全員が振り返ってみれば、そこにいたのはリヴァイだった。

 エルヴィンの指示通りガスを満タンにして、準備万端。そして 表情がいつもの3割増しで険しかった。『何時も以上に根暗に磨きがかかってるなぁ』とアキラは思いつつも説明する。

 

「おぅリヴァイ。いや別に何でもねぇって。ただ ちょっとばかりぺトラに説教をしてただけだ。悪いな。エルヴィンには森を抜けて帰路に~って言われてたっけ。少しばかり時間無駄にした」

 

 アキラは頭をぼりぼりと掻きながらリヴァイにそう説明。

 それを訊いたリヴァイはと言うと、これまた珍しく、一瞬ではあるが 目を見開かせた。直ぐにいつものジト目になって再確認をした。自分の耳を疑っているのだろうか。

 

「……説教?」

「おう。なんたって合流するなり突然襲わt「明日は雨、豪雨。いや それも生温い。槍でも降るか」って、オイコラ!」

 

 ほぼ全員が思っていたことを代弁したのは、後からやってきたリヴァイだった。

 そんな挑発と言うか普通に思った事を口に出したリヴァイに勿論アキラも反応する。

 

「何が槍だ槍!」

「言葉の通りだ。……成る程。今日は色々と起こる訳だ」

「言葉通りってなんだよ! オレだってヤルときゃヤル……ってか、説教くらいするわ! なんでそこまで意外なんだよ!」

「判るだろ鳥頭。するより圧倒的にされる方だからだ」

「うっせ! この根暗顔!」

 

 またまた長くなりそうだったから、ここは自分自身が撒いた種、と言う事でぺトラが行動開始。

 

「す、すみませんリヴァイ兵長。その…… あ、アキラがいつも以上に時間かかって帰ってきたから、心配になってて 不覚にも感情が爆発してしまって……。私の不注意です。じょ、状況は判ってるつもり、でしたが……」

 

 清濁を織り交ぜて……じゃなく、虚実と真実を混ぜ混ぜしつつ話すぺトラ。

 普段よりも遥かに時間が掛かった事とぺトラがアキラの事を心配していたのは紛れもなく真実。でも、切っ掛けはエルドやらオルオやらの爆弾発言で、導火線にどころか爆弾に直接火をぶち込んだのは アキラ登場とその発言によるものだ。

 

 真実を知るのはアキラとリヴァイ以外のメンバーで これ以上ややこしくなるのは好ましくない、と言う事で一致団結。全員で頷いていた。アキラは『釈然としねぇなー』とやや訝しんでいた。

 

「まぁそれは良い。それでアキラ、全員に説明はしたのか?」

「出来てる訳ねぇ」

「だろうな。全員集まれ。……あった事を説明する」

 

 リヴァイの号令で直ぐに集まり、女型の巨人の事の顛末を説明した。

 

 一度は捕獲したものの、想定外の事態に陥り、失敗してしまった事。そして その中身が誰なのか……判らなかった(・・・・・・)事。

 

 ひとつひとつの説明を訊き、全員の表情が険しくなりつつある。

 

「くそ……っ」

「……つまり、今回の大規模遠征の目的は 巨人の力を持つ者を炙り出す事。そして それは失敗してしまったと言う事、ですか」

「今までとは比べものにならない程の犠牲です。中央の連中が何を言い出すか……」

 

 アキラの力、あの女型の巨人を拘束した光景。

 正直成功した事しか頭になかった。失敗したとは思ってもいなかった様だ。

 だが、その表情も直ぐに消え、全員が気を引き締め直した。

 

「でも、まだ終わった訳じゃない……。そうよね」

「そうだな。色々と考えるのは全員で無事に帰った後だ」

「何か文句言われたってアキラ。あんま暴れるなよ」

「おいエルド。人を乱暴者みたいに言うな」

「でも、完全否定出来るのか? 兵長や団長に抑えてもらってなきゃ何回か見た通り爆発してたって思うのはオレだけ?」

「うぐ……っ」

 

 多少軽口は言いつつも、士気までは落ちたりはしない。失敗は想定外だったが、それでも自分達はまだ生きている。生きている限り戦うとここの誰もが誓っていたのだから、簡単に膝を折る様な真似は誰一人しなかった。

 

「(……女型の正体は判らず仕舞い。損害もある。……オレは この後どうなる? 審議所では状況次第でと言われたけど……)」

 

 エレンは今後の自身の行方に不安を覚えていた。

 ただ馬を走らせただけの身で言うのは烏滸がましいが、それでも目に見えた成果は出せていないのも事実。中央の人間が自分自身の存在を好ましくないと思っているのは間違いない事実も踏まえて考えると……、いや、あまり考えたくないのが本音かもしれない。

 

 丁度 エレンが色々と考え込んでいたその時。

 

「……そろそろ本題を話せ。アキラ」

「ん?」

 

 リヴァイの視線がアキラへと集中した。それに倣って全員がアキラの方を向く。

 

「ガス渡す時にエルヴィンに言ってたヤツだ。合流出来た以上話さない必要もないだろ」

「あぁ。あの時の事か」

「丁度全員いる。今聞いておいた方が良いだろ。……いや、命令だ。吐け」

「いやいや、言うから。吐けーとか言わんでも」

 

 アキラは軽く頭と腕を振った後に 軽く一呼吸置いて告げる。それは自分自身が視た事を踏まえた推察に近い。

 

「お前らに話したけど 女だからか 男巨人に好かれる能力持ってるだろ? まぁ結局喰い散らされたが、その時偶然視た。視えたんだよ」

 

 『視た』と言った時、アキラの眼が鋭く険しくなった。

 

「チラっとだが、あの巨人の蒸気を斬り割く様に動く影……をな。一瞬だったし、気のせいかもと正直思ったが、可能性は0じゃないって事で最悪の方を想定した。それだけだ」

「……お前にとって、今の最悪の想定はなんだ?」

「勿論。あの時は人間なんか目もくれねぇ巨人だったとは言え、あんな巨人タワーん中に突っ込んで飛ぶ様な狂人オレらん中にいねぇからな。『女型の巨人の中身は喰われず、蒸気に紛れて逃げた』って想定だ。逃げる事に成功して兵士の中にでも紛れられでもすれば更に厄介だ。十中八九そいつの狙いはエレンだし、不意打ち喰らう可能性だって出てくるだろ?」

 

 アキラはそう言うと、西の空を見た。

 

「それに案の定だった。……向こう、変な地点から煙が出てた。勿論味方って可能性だってあるが、常に最悪の想定、だろ? 誘い込もうとしてたかもしれんし、一先ずグンタには信号あげるな、って止めといたから正確な位置までは判らんと思う。近づこうもんなら判るしな。巨人の身体で隠密は無理。更に今 兵士の単独行動なんてある意味巨人より目立ち過ぎ。そんなもん許可されんのはオレかリヴァイだけだってな」

 

 普段はおちゃらけたり、ふざけたり、と飄々としたアキラだが こういう時に限って頭の回転は異常に速い。もし アキラの言う通り最悪の想定して 敵が近づきあの場でグンタが信号弾を上げ場所を特定させでもすれば被害を被っていた可能性が極めて高いだろう。下手をすれば全滅さえあり得た。

 

「確かに…… ハンジ分隊長の推察ででも同じ様な事を言っていたし」

「だけど、エレンが巨人から出てきた時を考えてみれば出来そうとは到底思えない。エレンはどう思う?」

 

 グンタの問いに、エレンは首を横に振った。

 

「オレには無理です。意識も朦朧としてました。その状態で正確に立体機動装置を操作するのは……」

「……そう、だったよね。憔悴しきっていた上に装備も破損してたし、戦闘服も殆ど燃えた……溶けた様子でしたし」

 

 エレンの巨人化訓練はハンジ以外にも当然立ち会っている。ぺトラも幾度となく介抱し、手助けもしていた。その時の様子を見て考えれば、やはり腑に落ちない様子だった。

 

 それらを訊いたアキラは。

 

「なぁ。オレも思い出したんだけど。この妙な力を自覚した時の話な? はっきり言って力加減とか判らんし、何処をどう動いたら、どう力込めたら良いのかもさーっぱり。無我夢中でドカドカやってただけだったんだよ」

「……見たら判るよ。それ」

「そう言えば、最初の頃の訓練で盛大に調査兵団の建物ぶっ壊したっけ。あの修理費大丈夫だったのか?」

「んなもん時効だ時効! それに話の肝はそこじゃねぇっての!」

 

 話を折りそうだったので、強引に軌道修正するアキラ。

 

「言ってみりゃあよ。あの時は初心者だったんだよ。オレ。燃費も悪いから疲れるのなんの。 力の使い方とか全部、全然わかってなかったんだよなぁ」

「え、えーと つまりどういう……?」

「判らねぇか? エレン。つまり、エレンもつい最近だろ? 『オレ、巨人になれます能力』を持ったのって。つまり エレンは訓練(って名の人体実験か拷問)を受けたとは言えオレん時と同じ。超初心者。敵側の連中の素性とか一切判ってねぇのに、そんなもんを基準にする事自体間違えてんじゃん。……あのアホメガネに文句言ってやろか」

 

 アキラの最後のセリフは一先ず置いとこう。

 それを訊いてエレンは成る程、と頷いた。

 一通り黙って聞いていたリヴァイは 誰に言う訳でもなくぼそりと呟く。

 

 

 

「……普段からそれ位頭働かせてりゃ言う事無いんだがな」

「オイコラ! 聞こえてるぞ!」

 


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