目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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遅くなってごめんなさいm(__)m


街へ帰還しました。

想像力の欠如か ベ●ト●トとの一戦は、現在オールカットしちゃいましたm(__)m 後日談で語られる様な気がします……。


48話

 

 

 エレンは、目を覚ました。

 

 整備されていない凹凸の激しい道、大きく揺れる荷台の中で、はっきりと目を開いた。そして、瞬時に記憶を呼び起こす。

 

――何故、自分はここで寝ていたんだろうか、何があったのだろうか、と。

 

 記憶がはっきり戻る前に声を掛けられた。

 

「おう。……起きたか、寝坊助」

「お、オルオ……さん。ここ、は……?」

「もうちょいで壁に着く。……ここまで来たら起きてても寝てても関係ねぇ。うるせぇから寝てろ」

 

 オルオはそう言うと視線を前方へと向けた。荷台にエレンと共に乗っていたのはオルオ1人、その荷台の周囲を護る様に取り囲む兵士達もエレンから見える。

 

「エレン!!」

 

 まだ 混乱が頭の中に残るそんな時に、聞こえてきたのは覚えのある声。

 

「ミカサ……?」

「大丈夫なの!? 身体、何処も痛くない!?」

「オレは、どうして…………ッッ!!」

 

 漸くだった。この時漸く思い出す事が出来た。

 手を自身の額へもっていく。駄々をこねるな、と初めて叱られた気がするあの時の痛みも思い出したかの様だった。

 

 そうだ。全ての元凶である超大型の巨人があの森に出現した。街を壊され、母親も失う切っ掛けになったあの超大型の巨人の襲撃。人類の仇を前にした時に決して臆す事無くただただ前を視続ける兵士がいたんだ。……自分の師であり、最も尊敬する人間の1人。そして人類最強と称される男達が、たった2人であの超大型の巨人へと攻め入ろうとしていた。

 

『バカタレ。オレぁあん時言っただろうが。『お前らの心臓なんぞ、いらん!』 ってよ。忘れんじゃねぇっての。お前の為だけに使え、それ』

 

 そう咎められてもエレンはついていこうとした。

 せめて一矢報いようと思ったからだ、足手まといにはなりたくないから、何なら道具の様に使ってくれても構わない、と言った覚悟も持っていた。それでも、叶わなかった。

 首筋に一撃を入れられて、たった それだけで昏倒し、意識を刈り取られてしまったから。

 

 エレンは全てを思い出し、ミカサの方を向いた。

 

 

「ミカサ!! アキラ教官は!? リヴァイ兵長は!?」

「…………」

 

 ミカサは小さく首を振る。

 その意味が……最悪なものである、と一瞬だけ想像しそうになったが、直ぐに頭の中で否定した。

 アキラは 数多の巨人を蹂躙し、駆逐し続けていた姿を見た。そして明らかに異常な力を持った女型の巨人をも圧倒した。そして リヴァイの実力も知っている。複数の巨人の襲撃をものともせず、常軌を逸したかの様な反応速度で、正確に立体機動装置を操作、巧みなバランス感覚で自在に宙を飛び回って、……瞬く間に切り伏せた。

 力のアキラと業のリヴァイ。そんな2人が簡単にヤられるなんて考えたくもない。

 

「……まだ、判らない。2人は あの巨人の所に残ってる。……エルヴィン団長に状況を知らせても、撤退指示は変わらなかった。……あの後、巨人も無数に出てきたから。あの巨人を目視出来る範囲から出て…… それっきりで」

 

 説明を続けるミカサの表情は沈んでいた。超大型の巨人は 確かにその大きさ故に非常に目立つ……が、それをも上回る巨大さを持つのが巨大樹の森だ。目視出来る範囲は、皮肉にもその森のおかげで限られてしまっていた。逃げの一手を取っていた為、悠長に背後を確認出来る筈もない。

 

 燃え上がる巨大樹の森。そして超大型の巨人と女型の巨人。状況が最悪である事は否めないからだ。エレンを第一に優先させるミカサとて、アキラには感謝と尊敬の念を抱いている。何度も何度もエレンの事を支えてくれた姿を見て、特に信頼もしている。

 

「ミカサ。それにエレンも。……アキラと兵長は大丈夫だから」

「戻ってくるって、アキラと約束した。……あの2人は 人類の矛。力の象徴。……2人がいたら、無敵だよ」

 

 並走しているぺトラとイルゼが安心する様にと笑顔を向けてくれている。

 でも、どうみても 無理をしている様にしか見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 軈て―――ウォール・ローゼへとたどり着き、門が開く。

 

 

 

 

 

 

 

 鐘の音が響き渡り、最初は歓声に包まれていたのだが、明らかに減っている兵士の数。班の数で4つ程の損害だった。……それはこれまでにない程の被害を出したと言う事実が瞬時に理解出来ていた。

 次に目にしたのは怪我人の多さだった。壁外での負傷……意識レベルに関わる重症状態で壁の中まで生存できるほど、外は甘くはない。……だが それでも大勢の兵士達が壁中へと帰還出来ていた。

 

 そして、何よりも気になったのが―――リヴァイ兵長とアキラの不在だった。エルヴィン団長を先頭に進む兵団。分隊長たちは確認出来たのに、あの2人だけがまだ見えていない。 

 

 

 

 人類は矛を失ったのか……? と死んだかの様に沈む町民。唯一、声を上げるのは町の子供たちだけだった。

 

 

 

 そう――あの日のエレン達の様に。

 

 

 

 

 

 

 

「ぺトラ!」

「っ……、お、お父さん?」

 

 進む間に、ぺトラに声をかける者がいた。そう、彼女の父親である。

 

「………全く無事でよかった。こんな惚気満載の手紙寄越した癖に、帰ってこなかったらどうしようかと思ってたよ」

 

 この痛い程の静けさ。行進し続ける足音だけが響く中で、父親はぺトラに語り続ける。

 決して、雰囲気を読めてない訳ではない。それでも 娘の表情を見て勘づかない親はいない。それでも話し続けた。

 

「リヴァイ兵長殿に仕える事になってから良い事だらけだとか、アキラ殿の世話はたいへんだとか。……どっちが本命なんだよ! 二股してんのか? って問い詰めてやろう、って気分にもなったが、今は止めとくとするさ。それにオレとしては嫁に出すにはまだまだ早ぇとも思ってんだけどよ。お前もまだまだ若いんだし。色んな事経験しとくってのも悪くねぇよな。……あ、ぁぁ これ以上はあんま(オレ)がでしゃばるのも良くねぇか……?」

 

 注目が少なからず集まるのは感じる。あまり出過ぎて 歩調を乱す様な事になるのもだ。

 苦笑いをして、ぺトラの傍から離れようとした時。

 

「お父さん。……ありがとう。……私は大丈夫だから」

 

 親の苦労子知らず……のままじゃないと言う事だろう。 

 ぺトラだってそうだ。調査兵団に入った時から苦労と心配をかけ続けているのが判る。判っているからこそ、手紙はかかせなかった。

 

 そして会いに来てくれて、今この瞬間も心配をかけている。

 

 恐らく、平静を装っていても やはりバレている。表情に出ているのだと言う事が判った。

 

 

 ぺトラだけではなく、イルゼの両親も駆けつけていた。

 

 

 ぺトラの親とは違った対応。それは 話しかけるのではなく、ただただ抱きしめる。言葉を交わす時間は殆ど無かった。隊列を乱す訳にはいかないから僅かな時間だけだった。それでも強く、強く抱きしめ続けるだけだった。

 

 

 

 

 

 この日……帰還した直後と言っていい。エルヴィンを含めた責任者全員が王都から招集を受けた。今回の壁外遠征にかかった費用、そして損害。それらは調査兵団の信頼、支持母体を失墜させたと言う事だ。

 

 それはまるで今までの功績がまるで無かったかの様。

 

 それは まるで…… 壁外遠征など、否 調査兵団そのものを認めていなかったかの様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その日の夕暮。

 

 ひとりの兵士が立体機動装置を用いてウォール・ローゼの上にまで来ていた。

 座り込み、夕日が沈む地平線をじっと眺めている。そう――巨大樹の森の方角をじっと見ていた。誰かを待っているかの様に。

 

「……遅い、よ? 帰ってくるって約束、したよね。遅すぎる、よ」

 

 ぽつり、ぽつりと呟く。

 必ず帰ってくる筈と疑っていない。信じている。だけど それでも呟き続ける。文句を口に出し続ける。

 

「そう言えば時間指定……なんで、私はしてなかったのかな? なんで、私は………」

 

『直ぐに戻ってくる』それは ただの口約束に過ぎなかった。

 その直ぐ(・・)と言うのがどれくらいなのか、1時間なのか、2時間なのか……1日なのか、或いはそれ以上……? 言葉の意味、解釈は本当に難しいとさえ思えてしまう。

 

「イルゼの時は……、確か あそこで1年間も過ごしたんだったよね……? また、それ位は掛かるの……? リヴァイ兵長と一緒……とは言っても、あの状況で、大丈夫、なの? ねぇ……? アキラ」

 

 疑う筈もない2人の実力。だけど、それでも此処へと来ていた。来ているのはぺトラだ。本当はイルゼと2人で……だったのだが、今調査兵団はたいへんな事後処理に追われている。だから、ぺトラとイルゼ2人に抜けられるのは厳しい、と言う事で交代で上に来ていたのだ。しっかりと信号弾、煙弾をその手に持って、今はぺトラの順番。

 

 此処へ来ると……どうしても涙が浮かんでくる。止める事が出来なくなってしまう。

 必死に止めようとした。もう会えない、と認めてしまっている様で嫌だったから。

 あの笑顔に、怒った顔に、苦笑しながら困っている顔に。……全部に心を奪われてしまっているから。リヴァイ兵長との喧嘩も恒例になっていて、それが無くなると火が消えた様になってしまうから。

 

 複雑だけれど、想いを寄せている、そんな人達は多い。誰もが2人の帰還を願っている。

 

 

「2人とも、戻ってきてよ……戻って、きてよ……」

 

 

 

 勿論ぺトラ自身も心から。

 

 

 そして、そんな心配をよそに――――。

 

 

 

 

『はぁ……何で俺が色々と担いでこんなデケェ壁登らにゃならんのだって話だよなぁ。門開けたら早いってのに』

『全員の立体機動装置が壊れた、信号弾も切れた。そのせいだ。それに 散々開門の時の鐘に文句言ってた男の言い草じゃねぇな』

『うっせ! でもだからって、この壁50mマジでロッククライミングさせんのって話だよ。しかも往復!? 十分重労働過ぎだ!』

『……俺もお前を運ぶのに苦労した。以前もな。その辺もちっとは考えとけよ』

『その節はどーも世話になりました!!』

 

 

 何だか聞き覚えがある声が聞こえてきた。幻聴の類ではないのか? と一瞬思ってしまった。

 いつもいつも訊いてて、傍にいるのが当たり前だった。離れるなんてありえないとさえ思っていた。だからこそ 長く、永く…… 感じていた。1日が何倍も長く感じられた。

 そんな声がこんなに、……こんなに。

 

 

「……ま、正直騒がれるのにはいつも慣れねぇし……、でも こそっと戻るってのも限界があるよなぁ。色々説明せにゃならんし。……とりあえず エルヴィン達にコンタクト取ってから考えんのが一番良いか」

「騒がれるとかそれこそ今更だ。さっさと戻るぞ」

 

 

 こんなに――近くに。

 

「お?」

「……」

 

 はた、っと目があった。

 ぺトラは自分が驚いて固まってしまっている事を自覚していなかったのだろう。ただただ、目の前に繰り広げられている光景に目を奪われてしまって、反応が遅れてしまっただけで。

 

「ぺトラ。兵団の皆は宿舎か? エルヴィンに少々話がある」

 

 リヴァイが話しかけるが、やはり固まってしまっていて話が出来てなかった。

 それを見たリヴァイは軽くため息を吐くと。

 

「俺も、この馬鹿も死なねぇよ。……が、少々心配かけたのも事実だ。すまない」

 

 リヴァイからの謝罪の言葉。一体いつ以来だろうか。ぺトラは その極めて稀な言葉を貰い、どうにか帰ってくる事が出来た。

 

「お、お帰りなさい。兵長。ご無事で何より……です」

「ああ。それで皆は?」

「王都からの招集の通達があり……、負傷兵も多い為、引継ぎ等を行ってから向かうとの事です。……恐らく明後日には、此処を発つかと」

「判った。………ん」

 

 リヴァイは、それだけ聞くと そっと身体の位置をズラした。そこには、ぺトラにとっての意中の人物がいた。苦笑いをして頭を掻く仕草。変わらない仕草でぺトラに近づいてきた。

 

「よっす。お疲れさんだったな、ぺトラも。でもよー、リヴァイだけご無事で何より~ って少々妬いちまうぞ? オレだっているのによー」

 

 からから、と笑う。

 何にも判ってない、とぺトラは強く思う。『妬く』なんて言葉を使う所にも強く。

 確かにリヴァイの事も心配だった。それは間違いない。尊敬する人。調査兵団に入ったのも、エルヴィン団長が、そして リヴァイ兵長がいたからだ。 

 いつしか、それらの気持ちを大きく上回る様な感情を持った。その感情を向けられた相手が出来た。……それがこの目の前の男……アキラだった。

 

「でもまー、俺も一応言っとくよ。心配かけたな? んで、王都招集の件……だけど、どうするってんのかねぇ。……エレンの引き渡し? エルヴィンの失墜? それか、俺使った人体実験でもすんの?? まー、ロクでもねー事だろってんのは 判るが 俺も一緒に戻って聞いてみるk「ッッ!!」!」

 

 その時だった。

 弾かれた様にぺトラは動く。止まったままの時計の針が動き出す様に、止まった時間が動きだす様に、射られた矢よりも、放たれた弾丸よりも早く、ぺトラはアキラに向かって飛びかかった。

 

「この、ばかぁぁぁぁぁ!!」

「うぉっっ!?」

「しんぱい、しんぱいばっかかけやがってぇぇぇぇ!!」

 

 乱暴な言葉使いになる時のぺトラが素が出た時のもの。

 あの壁外で 木の上から飛びかかってきた時の奇声とはまた違うが、それでも感慨極まった時、極まりに極まった時、顔を出す。

 そしてぺトラの脚に籠る力はこれまで以上。突進し、アキラの腹部に抱き着く……と言うよりは衝突。

 

「ぐはっ!」

 

 鳩尾頭突きはそれなりに強力。おまけに両腕で胴体を掴みこんでるから衝撃を後ろへと逃がす事も出来ず、更に足場が悪い。足場の面積が小さい。更に更に、ここは壁の上。アキラの後ろは、壁の外。

 

 つまり、あまり突然正面衝突されると、必然的に後ろへと下がってしまう。もう足場がないのに、そのままぽーんっ、と放り出される様に、2人は宙を舞った。

 

「…………はぁ」

「……………」

 

 その様子を冷やかに見つめるのは リヴァイ。

 

 

 そして――もう1人 傍にいた。

 

 面白くなさそうに、ただただ一瞥しただけで顔を背けるのだった。

 

 


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