目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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5話

 あれから、一体どれだけ時間が、日が経っただろうか。

 

 

 木の枝に印を刻み続けて……350日目。

 

 正直な所、『よくぞ生き続けられた。褒めて遣わす!』と自分達を褒めてあげられる。いや、あげたい! と割と本気で、アキラもイルゼも思っていた。それにイルゼ自身が怪我をしている事もふまえて考えると……、

 

『本当によくぞ無事で生き続けられた!』とマジで思える。

 

 

 そして、アキラは、この広大な世界に送り込まれ、妙な声が話しかけてきて、巨人と遭遇し、イルゼを助けて、木の上でサバイバル生活が始まった。

 

 本当に、とんとん拍子で展開が進んでいたのだが、この約1年と言う間は、それ程目立った展開はなく、毎日をただ生きる。生き抜くだけだった。

 

「ん……、大丈夫、かな」 

 

 イルゼは、自分の骨折していた手足を確認していた。

 

 彼女の怪我は、そこまで重症、と言う訳ではなかったのが良かった。巨人に握られてその程度で済んだのは、まさに幸運だ。

 イルゼ自身もしっかりと、経過処置は施せた様で 暫く固定したまま安静にし続ける事で、完治へと順調に向かっていた。

 

 

 忘れてはならないのが、やっぱり巨人の存在だ。

 巨人たちは時折やってきたりしていた。気付かずに通り過ぎりたりする奴もいたが、その内の数匹は上にイルゼやアキラの存在に気付いた様で、上ろうとしてきたりもしていた。

 

 でも、そこはアキラの出番である。

 

 上ってきたとしても軽く一蹴出来た。

 周囲に巨人の残骸が出来上がるだけで、とりあえず問題なかった。

 ただ、現れた巨人は、5~6m級のみだった。イルゼの話によれば、現在確認されているだけで15m以上の巨人も存在するらしい。……流石に倍以上の体格との巨人を、倒せるか? と聞かれれば、アキラは簡単に首を縦に振る事は出来なかった。まだ、遭遇していないし、判らない。と言うのが心情でもある。……と言うより、あまり相手にしたくない、と思ってたりもした。あの巨人は色々と気持ち悪いから、と言う理由もあったりする。

 

「イルゼの怪我も大分良くなったみたいだな。今後の事、そろそろ考えておこうか。壁の町に戻る事とか。確か、色々と情報を得たんだろ? 今回の件で」

「えっと。うん」

「まー、その情報だけど……オレ(・・)もあるよなぁ。……間違いなく。異常と言えばそうだし。多分……いや、間違いなく一番だろうなぁ、オレ」

「えっっ!? い、いや その……、一番、って言うのは……、ある意味間違ってないけど、その、その……ゴニョゴニョ」

「ん? どうしたんだ?」

「や、何でもないよっ?? なーんでも……。別に~……」

 

 2人きりの約1年もの長期間サバイバル生活……、と言っても アキラに頼ってばかりだったイルゼ。正直に言えば、アキラに対して申し訳ない気分と……、心に芽生えて、花を確実に咲かせた淡い気持ちが5分5分に心を占めていた。

 これ程長く異性と2人きりで生活など、今の今まで経験が無かった。訓練時には異性はいたものの、複数参加が基本だったから。

 

「(ぅ……、い、今の私を両親が見たら―――な、なんて言うかな…………、こ、こんな時のことなんて、教わってないから……っっ)」

 

 こればかりは仕様がない。異常空間に2人っきり――おまけに、相手は命の恩人ときている。容姿に関してもアレだ。『……自信がない』とアキラは言っているが……、はっきりいって全然悪くない。悪くない、どころではない。幼さはあるものの、それでも整った顔立ちだと思う。いや、間違いなく。

 

 

 つまり……、どストレートに言えば、イルゼがアキラに惚れない訳がなかった。

 

 

 強い男に惹かれるのは、数多の動物たちの共通とも呼べるものだ。或いは吊り橋効果、も少なからずあるかもしれない。

 だが、生憎な所、人間は動物ではない。……少々複雑だ。そんな単純な気持ちではなかった。

 

 だけども、イルゼには恋愛経験が全くの0である。つまり、どうすれば良いのか、全く判らないし、アキラも1年近く生活を共にしてきたが、それっぽい雰囲気は見られないから、更にどうすれば良いのかが判らない。でも、それでも 色っぽい(?) なシーンも何度かあったけれど、活かす事も出来る筈がなく……。

 

 色々と今まで迷惑ばかりかけてきた両親にもそうだけど、それ以上に今はアキラにも迷惑をかけてしまっていたから。だからこそ、これからは……。

 

「……え、えっと、今日、今日からは私も働けるからねっ!! 脚も腕も、痛みもすっかりなくなってきてるし!」

「ん? ああ。助かるよ。って言うか、イルゼは、ずっとオレが採ってきたヤツを調理してくれてるだけでも十分働いてくれてると思うけどな? それに、果物とか最初の方で飽きてきてただろ? だからすげー助かったって。それに木の上で 火を使うなんて、無茶な、って思ってたからイルゼが火を使った時は、マジ驚いたよなぁ。不燃材木を上手く使うなんて、大したもんだと思ったし」

 

 イルゼがしてくれた事を色々と考えつつ、アキラは更につづけた。

 

「色々とメシのバリエーションが増えたのは、ほんと感謝だったな。飽きないし。イルゼの料理、上手いし栄養バランスもばっちりだったみたいで、偏ったりしなかったしな」

 

 木の上だ。つまり可燃物である。周囲、全てが。

 だから、火を使った調理は色々と無理がある。大火事になっても不思議じゃない。でも、その辺りは流石は調査団と言う部隊に所属しているイゼル。以前逃げる時に、必要なもの以外は捨てて逃げたそうだ、捨てた物の中にはいろいろと非常時に使える物があるらしいから、それを回収してきた。武器の刃を包丁の変わりにしたり、便利アイテム・七つ道具なるものを取り出したりして、その後はばっちり豪勢な料理になったりした。

 火を使える為、小川で採ってきた魚を生で食べる事も無かった。……生で食べる習性はこの世界ではあまり無いらしい、と正直どうでも良い情報も得た(因みにアキラは刺身等は、好きでも嫌いでも無い)。

 

 つまり今まで色々あって、アキラは イルゼが何もしていない、など思っている訳無い。寧ろ、食に関しては助けにしかなってないと言える。衣食住は生活の基本だから。

 

 後、幸運だったのが、今いる森の木々の強度だ。非常に大きな木だから、その枝一本一本も非常に大きい。寝返りを2度3度した程度じゃ落ちない程の幅があるし、非常に太いから、比較的過ごし易かった、と言えるだろう。

 

「ま、まぁ、それくらいしかできないし。それに、ほら。巨人が襲ってきた時は、アキラにしか頼れなかったし。その上 周囲の探索だってそう。……全部、アキラにばかり負担、かけてるから、次、下の探索、私も手伝「それは駄目だ」っ……」

 

 イルゼが森の中を、周囲の探索を、それらだけはアキラは許容しなかった。

 

 何度かアキラ自身は、この木の下へと降りて行ったけれど、イルゼの言っていた『馬や立体機動装置が無ければ、生きて戻れない』と言う言葉が正しい、と言う事はよく判った。《立体機動装置》と言うのは、アキラは使った事も無ければ、見た事も無い為、何とも言えないが 馬の事ならよく判るし、あの巨人たちは その大きさ故に歩幅が人間とは比べ物にならない程大きい。だからこそ、人間の走力ではあっという間に追いつかれてしまうのだ。

 

 この下へと何度も降りたが、やはり巨人との遭遇率は異常に高かった。それどころか 複数遭遇した事もある。幾らなんでも面倒過ぎる、と判断したアキラは、回れ右をして回避する方向へと決めたのだが、そうはいかない、と言わんばかりに追いかけてきたのだ。……やっぱり 脚は早かった(早く感じた)。1体を倒せば、軒並み倒れていったから、相手にする分には問題なかったが、それでも群で来られれば、非常につらいものがある。

 

 アキラは、ここ数日の間に色々と自分の力について 試してみたり、聞いて(・・・)みたりして、確認したが……、どうやら 異常な力とはいえ、決して無敵と言う訳ではなかったのだ。

 

 その点についてはまた何れ語る事にしよう。

 

 話を戻そう。

 イルゼが襲われていたのは1体の巨人だ。……たった1体だと言える。

 

 助ける事が出来たのは、アキラが最初に言っていた通り、やはり運が良かった、と言わざるを得ない。複数で向かってこられたら、どうしても危険度が遥かに増してしまうから。だからこそ、イルゼに下へと降りる事は、最低限度。流石に女性であるから、ずっと木の上では、と思って、何日かに一度は小川に連れていった程度だ。アキラには、イルゼを束縛する様な、そんな気持ちは全くない、でも……命を落としてしまえば、そこまでだから。

 

「イルゼが力になりたい、って言う気持ちはスゲェ判るよ。もー、付き合いも長くなってきたしな。でも、それは、この後にしないか? その、壁の中? ……じゃなく、その町についたら、オレは所謂余所者だ。だから、イルゼがテキトウに紹介して貰ってくれないと、追々面倒になりそうだろう? ……なんでも、町の住人が壁の外を出歩くのって、結構な罪らしいじゃん。それに、町の外の人間は絶滅してるらしいし。……仕様がないとは言え、こればっかりはなぁ」

 

 アキラは、苦笑いをしながらそう言った。

 

「あ……。うん。それは 勿論。だって、私……、アキラには その……、たくさん、たくさんもらってるんだから。……それくらいは、させて」

「ん。期待してる」

 

 互いに笑い合って、今日も一日が始まるんだろう……。何処か甘酸っぱい想いも胸に秘めて、イルゼは 今日も頑張ろう。美味しい料理を作って、下へと向かうアキラの事を待っていよう。と心に決めた。

 

 こんな過酷な世界。残酷な世界だというのに、幸せを感じられる事が出来る事に今日も感謝して、1日を――、と思っていたんだけれど、唐突にそれも終了となるのである。

 

『これ、34回目の腕章。一年前、壁の外に出た調査兵団の部隊だね』

『ああ。だが不自然だな。目立つ様に掛けてある……。一年も壁の外で、とは考えにくいが、無事の可能性が高い』

 

 木の下から、声が聞こえてきたのだ。

 

 

「おっ……? 人間……か? イルゼ。知った顔か? 呼んでも大丈夫か?」

 

 下を見下ろして、イルゼに聞くアキラ。

 イルゼは、何処か複雑な気持ちがあったが、流石にそれは胸の奥へと押し込めた。下にいる2人は、知った顔……どころではないのだから。

 

 イルゼが所属している調査兵団の兵士長リヴァイと分隊長ハンジだったから。

 

 

 

 




ベルトルト 超大型巨人の存在。

この時点で襲撃があったのかどうか、正確に判らないので、まだ無かった。と言う設定で進行中。

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