目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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53話

 

 

 

「おーい、お前らー。はい ちゅーもーく&あつまれー。大体決まった事発表するぞー」

 

 

 

 この数日間。

 戦いこそはなかったが、色々と頭が痛くなる様な雰囲気の中での会議が続いていて、漸く正式に決定した。

 

 細かな所は省いて、大きく分けると2つ。

 

 

 1つはエレン、エルヴィンの王都召喚の件が完全に白紙になった事。

 そして 最後にアニ・レオンハートの今後の処遇の事。

 

 

 アニに関しては 憲兵団・師団長ナイル・ドークにのみ真実を伝え それ以外の憲兵団の兵士たちには真実を伝えない秘匿となった。表向きはアニは憲兵団は脱退した、と言う内容だけをしらせて納得させたとの事だ。行先は調査兵団。

 その報告に腑に落ちない様子を見せていた新人が何人かいたらしいがとりあえず大丈夫だとの事だった。

 

 

 その後数分かけて アキラは訊いた限りの全てを伝えた。

 

 

 

「――これがエルヴィンから訊いた内容だ。頭ん中に入れとけよ。あと、当然極秘事項だから、口固くしとけよ」

『はい!』

 

 

 こんな時まで心臓を~ と敬礼をしようとするから、アキラはぶんぶんと手を振った。

 かったるい真似はするな、と言わんばかりに。

 

 その仕草を見て あの訓練生の時の事を思い出したのだろう。其々の表情が柔らかいものになって言っていた。

 驚愕の出来事の連続で、色々と心労が溜まっているのは間違いないから、丁度良かったとも言える。

 

「あっ、アキラ教官も聞いてくれよ。アルミンのつまんねぇ冗談話」

「んあ? 冗談?」

 

 ぐりぐり~ と頭を乱暴に撫でまわすジャン。アルミンは大真面目の話を冗談にされたからなのか、或いはただただ ジャンの行為そのものが嫌だったのかはわからないが、口許が一文字に真っ直ぐ伸びていて、……所謂 ムっ とした顔になっていた。

 

「別に。ただ可能性の話をしただけですよ」

「その可能性ってヤツがぶっ飛んでんじゃねぇか、って言ってんだよ」

「む……」

 

 ハハハ、と笑うジャンと、また 口許を固く結ぶアルミン。

 2人の間に入ったアキラは、とりあえずアルミンの方を見て、話してみる様に表情と仕草でアルミンに話す様に促した。

 

「あの巨人達は歴史を振り返ってみたら少なくとも100年間は直立不動だったんだから、そろそろ一斉に動きだすかもしれない、って言っただけです」 

「おー、成る程。そりゃ 無いとは言えねぇな。オレもアルミンと似たような事考えてたよ」

 

 アキラはアルミンの話を訊いて、ぽんっ、と手のひらに拳を乗せて頷いた。本気なのかノってくれただけなのか判らない表情だった。ジャンは恐る恐るアキラの方を見た。近くで表情を見てみても、やっぱり読めなかった。判りやすい性格をしている、と思っていたのに。

 

「……おいジャン。なーんか、失礼な事考えてね?」

「い、いえいえ。そんな事ないです。……いや、ある意味そうかも。アルミンの話。アキラ教官、マジで言ってるんじゃないッスよね?」

「ふーん……。ま、いいや。んでも さっきのは冗談じゃなくマジで考えてたぜ。壁ン中いることはいるんだが、ぶっ壊して出てこないとも言えねぇし、それに外でうじゃうじゃいる巨人達に混ざんねぇって保証なんざねぇし、誰もしてくれねぇよ。巨人は、夜活動停止する~~って話。何回か聞いてたんだけどよ。実は夜型の巨人もいてな。夜に随分活発なヤツだったよ。その上 夜の作戦の中でメッチャ不意打ち。身体くねくねさせながら迫ってきて……。うへぇ~、あれは思い出したくねぇわ」

 

 思い出して顔を顰める。

 アキラにとって初の奇行種だったと言うのはまた別の話。

 

「とまぁ 今までの巨人の常識。それが通用しねぇ巨人だっている訳だ。大体 エレンが巨人に変身した時点で色々と覆されてるだろ。この世界の事。なーんもわかってねぇんだなって今更実感してるよ」

 

 

 巨人の常識。

 

 それは昔から脈々と伝わっているが、それも怪しいと言わざるを得ない。一般常識が覆ってきているのだから仕方がないともいえる。

 

 その一般常識も100年間の平和を打ち破られ、今日まででまだまだ更新し続けている。

 

 つまりアキラが言いたいのは、どんな事が起きたとしても柔軟に対応する。臨機応変に対応できる柔らかさを持っておけ、だと言う事だと其々がそう納得した。

 

 エレンは、自分自身の手を見つめる。自傷行為を行えば巨人になる事が出来るが、何故なることが出来るのかが判らない。

 

「確かにそうですね。……オレ達は敵の事を知らなさ過ぎる。ですが、アキラ教官」

 

 エレンは首から下げていた小さな古びた鍵を取り出して、見せた。

 

「オレの家の地下室。……そこにオレの親父が隠していた何かが眠っているんです。そこに行けばきっと……」

「おう。その件も言ってた。オレがひとっ走り行って確かめても良いんだけどなぁ。……敵さん側も伝わってる可能性が0とは言えねぇし、どういう情報なのか全くわかってないのが辛いところだ。最悪 都合の悪い情報だったら、木っ端微塵にされる可能性だって否定出来ねぇからな。あのデッカイ巨人の爆発で消し飛ぶ。今まで以上に慎重にしねぇと許さねぇ、ってエルヴィンに言われてっから、安易に行くのは……なぁ」

 

 アキラは、う~んと唸りながら言い続ける。

 

 ウォール・マリア内の広さは半端ではない。今までの遠征での走破距離の合計値、くらいは間違いなくある。その何処に巨人の人間がいるのか。一体何体存在するのか。……そもそも、敵の真の正体は 何なのか。判らない事が多すぎると言うのが結論だ。

 

 だからこそ 巨人の秘密に迫る情報。これまで以上の慎重さを見せていた。

 

 

「つまり マリアの内側……つまりは シガンシナを完璧に解放してゆっくり調べたいんだ、ってのがエルヴィンの考えだな。ははっ 似合わず、ガキみてぇに興奮してるエルヴィン見たのって初めてだったよ」

 

 エレンの家の地下室の話をする時のエルヴィンの様子を笑いながら言うアキラ。

 

 皆『あの団長が……?』と半信半疑。それもその筈で、エルヴィン団長は全団員が絶対の信頼を寄せる男であり、迅速かつ的確な判断、決断力も持ち合わせている。リヴァイやアキラを調査兵団の矛とするなら エルヴィンは調査兵団そのもの。……兵団の象徴だ。

 

 それ程の男が興奮している。子供の様に興奮をしている……などと俄かに信じられないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでアキラ教官。他の皆は……?」

「……あー 104期の奴らか? 大丈夫大丈夫。今頃休暇を満喫してるだろうよ。…………(多分)」

 

 次にアルミンが訊きたかった事。それは同期のメンバーについてだった。

 

 アニが女型の巨人であった様に、超大型の巨人、鎧の巨人と少なくとも後2体は確実に存在している。知性を持った巨人……いや、巨人を纏った人間が。

 その内の1人がアニだった。つまり、他にいるとすれば同期のメンバー。104期のメンバーに疑いを向けられるのも当然の事だ。

 

 アキラは休暇――と言っているが、殆ど今は隔離されているも同然の措置だとアルミンの中で結論付けた。

 

 

「それで、アニから何か聞き出せた事、ありますか……?」

「……んー。そりゃ気になるよなぁ。でも あいつも頑固だから」

 

 アキラは首を横に振る。つまり 訊き出せていないと言う事だと言う事が判る。

 

 それも仕方のない事なのだ。アニは。

 

『殺されても良い。寧ろ 殺される事を望む』

 

 と考えを未だに捨ててはいない。

 誰よりも人を殺した女は、誰よりも裁いて貰いたがっている。他の誰でもない自らが夢中になれた相手に。それをアキラ自身が一番傍にいるから感じているのだ。

 

 悔いていると言うのなら、仲間の事を話せば、とも思いがちだが それは以前から叶ってはいない。アニがその事について口を頑なに閉ざすのは 仲間意識やアニが持っているであろう使命感がまだ根強く残っている為だと推察された。

 

「楽にはさせたくねぇから、根競べってヤツだな。一応、偽装っぽいけどアニに関する戸籍とかハンジ辺りが調べてる。んでもなぁ、5年前。……と言うか、年数関係なくあの辺のって相当杜撰だったらしくてな。大雑把を通り越してるんだと。最初は燃えちまったんじゃないか、って思ってたんだが、今は、『そんなのさいしょっから そんなの在りませーーん』って思えてきてる。……ったく、町そのものが元々無かったのかよ、ってレベルだ」

「そ、それは……」

「否定出来ませんね。オレたちの町でも駐屯兵たちは飲んだくれでしたし、そもそも管理してくれる様な所、知りませんし」

「………。自分たちで調べられる事があれば」

 

 アキラの言葉に、アルミン、エレン、ミカサが反応を見せる。

 

 

 

――思い起こすのは遠いあの日。何もなく、何かが起きて欲しいとさえ思っていた幼い頃の記憶。

 

 

 調査兵団と言う人類の希望が街へやってくる度に歓声が起き、街そのものが震えているのではないか? と思える程熱狂をしていた。シガンシナに拠点を構える駐屯兵達は、その時こそ、真面目? な対応をしていたのだが、普段の姿は見せられたものではなく、常に酒が片手にある状態だった。

 

 そんな連中なのに、調査兵団が壁外遠征の為、シガンシナの門の所へ来る、と言う情報が回った瞬間に変わるのだから、エレンは更に憧れの目を向けた。いつか、あんな風に 英雄たちの様になりたいと心に誓っていたのだ。

 

 

「だろうなー、真面目な所もあるんはあるんだが、全員、ってわけにはいかんし、お前らの代で何とか頑張ってくれ。それと 無いモンを強請っても仕方ねぇし徐々にやってくしかないだろ。無いなら無いでそん時考えりゃ良い。―――手掛かりゼロって訳でもねぇし。それに、そう言う系の面倒な調べもんは全部各分隊長辺りに吹っ掛けてるらしいから、オレらまで動かんでも大丈夫だろ、多分」

「え、えっと…… いいんですか? それ。アキラ教官は?」

「良いに決まってるだろ? つーか、オレが普段どんだけやらされてるか知らねぇのかよ。……あぁ 最近入隊だし、知らねぇのも無理ねぇか」

 

 はぁ~ と深くため息を吐いた後に、アキラはつづけた。

 

「ほれ、巨人相手を主にやってきてんだから、他のメンツには別方面に力入れてもらってるって感じだ。おんぶにだっこじゃ申し分ねぇ~って言ってたやつもいるしな! それに他にもいろいろ協力だってしてんだし。ま、それは殆どハンジのやつの頼みだが――………あーほんと、思い出しただけで虫唾が走るってもんだ! なー、エレン」

「――――あ、はい。そうですね……。その、否定は……、やっぱり出来ません」

 

 同意を求めるアキラに対し、エレンは何処か遠い目をしていた。

 

 ハンジに延々聞かされた巨人の話。実験を重ねに重ね、異常なまでにエレンに執着を見せてきて、ミカサに止められた事も何度かあった。まだ付き合いがそんなに長いとは言えないエレンでこうなのだから、アキラ教官ならと考えたら寒気がすると言うものだ。

 

「教官はそもそも働き詰めですからね……その位はオレでもわかります」

「おー、そうか? 嬉しいねぇそう言ってもらえるとよ。……でもよぉ、ジャン。……働かせ過ぎ、ってのはまだ可愛いもんなんだ」

 

 しみじみとさせながら、色んな記憶がアキラの頭の中を巡っていた。

 

「アイツさぁ、オレの事巨人見る様な眼で迫ってくる事何度もあったんだよ。その上 人体実験みたいなのまでされたし。一度や二度じゃねーし……あー、うん。思い出しただけでやっぱし虫唾+腹も立ってきたわ。よし、やっぱ一発殴ってくる。一発くらいなら良いだろ。うんうん」

 

 どんどん黒いオーラ? のようなものが可視化されていく様にジャンは見えたらしく、ただただ苦笑いをするだけだった。怖がらずに笑える所がまた凄いかもしれないが、やはり相手がアキラだから、と言う理由が一番大きいのだろう。

 

 そして ぱっ! と立ち上がったアキラだったが、すぐに止められてしまった。

 止めたのは目の前にいたジャンではなく。

 

「一発で終わってしまいますので、それは駄目です。止めてください」

 

 横で控えていたミカサだった。

 アキラもびっくり中々に素早く動いてそのまま腕をとった。

 

「……わーったわーった。ったく、ペトラとかイルゼに次いでミカサもかよ。変にお目付け役になりやがって。それに ミカサはエレン担当じゃなかったか? オレになんかかまけてる暇なくね?」

「そんな事ないです。エレンの事も見てますので大丈夫です」

 

 アキラの言動のすべてが本気、とはミカサとて思ってはいないが、それでも律儀に守っている。

 

 ミカサは1つだけ特別任務を受けていて、アキラが攻撃性(笑)を特にハンジに対する攻撃性(笑)を見せだしたら、止める様にと託られているのだ。ミカサの身体能力なら、独特の嗅覚。すべてが適任。

 

 因みに、その依頼者はハンジ。

 

 何でも、頑張ってくれたらエレンと同じリヴァイ班編入も推薦するから、と持ち掛けたらあっという間に落ちたらしい。

 

 なかなか腕を離さないミカサを見て、アキラはにやっと笑った。

 

 腕を取ってる状態だから、腕を組んでいる様に見えなくもない。そして、エレンが他の女にくっつこうとしたら、豹変するミカサを何度も見ている。アニとミカサの一戦は、104期のメンバーの中では伝説の一戦となってる程だ。そして今回は逆パターンだから思いついた様だ。

 

 

「そんなくっついてたら、エレンのヤツが妬いちまうぞ?」

「っ………。そんなことは」

 

 笑いながらエレンの方へと視線を向ける。

 ミカサは仄かに頬を紅潮させて、俯かせているがそれでも律義に言いつけを守る! と言わんばかりに腕を離したりはしなかった。

 

「オレが何です?」

 

 エレンは聞こえなかったのだろう。普通に聞き返してきて、動揺したりする素振りは全く見せなかった。

 その結果、やや落胆してしまったミカサを見るのは少しばかり忍びなく思ったアキラは、掴まれたまま両手をあげる。

 

「わかったわかった。殴るのはまた今度にすっからそれで良いだろ? 少なくとも、オレらの班に配属されるまでは大人しくしてるって」

「……はい」

 

 ハンジにとって良かったのか悪かったのか判らないが、とりあえず ミカサは離れ、やや意気消沈気味だったところをそれとなくアルミンに慰められるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□ ??? □□

 

 

 

 

「――戦士長。準備出来ました」

「…………」

 

 夜の闇に紛れ、マスクを装着した複数の男たちが世話しなく動き、そして 報告をしていた。

 

「風向きが変わらない内にさっさとやってしまおうか」

「はっ!」

 

 持ち場へと戻り、そしてそれ(・・)を起動させる。

 噴霧口がわずかに震えたかと思えば、次の瞬間には勢いよく なにかが出だしてきた。

 

 

 

 

 それは 夜の闇に紛れ、束の間の平穏に迫る影。

 新たな戦いの幕が上がった瞬間だった。

 

 

 

「……こっからが大変だピークちゃん。日が昇り次第、行動開始する」

『了解』

  

 

 


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