目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

54 / 72
遅くなってごめんなさいm(__)m



この話は 閑話みたいものです。


54話

「よぉ。アニ」

「……おはようございます?」

「おう。って、なんで疑問形だ?」

「いや、逆に判りませんか?」

「ン? あー……そっか、そりゃそうだな。ここ地下だもんなぁ」

 

 

 アキラがアニの元へと足を運ぶのは今現在、最も重要な任務の1つになっている。

 

 アニから得られる情報の大きさを考慮すれば、当然とも言えるのだが、当のアニ自身が喋るつもりが全くない以上、現状では得られる成果はゼロに近い。そして成果が得られないのであれば、アニ自身は厄介な爆弾と一緒。いつ点火し爆発するか判らない意思を持った危険物、と言う声も身内では上がっていた。

 さらに言えば、アニには恐れがない。死さえだ。故にたとえ拷問をかけた所で無意味だと言うのは判る。そもそも、巨人になる事が出来るアニに対して、それは最悪な行為。悪手そのもの。

 アニは爆弾、そんな発言をする連中に限って、拷問と言った強硬手段を要求するが 爆弾に手を出しといて、こちら側は被害を被らないわけがない、となぜ思わないのか、と呆れてしまって逆に笑えたりもしている。

 

 ただ、爆弾と言う意味は言いえて妙だ。

 

 巨人に成った時の衝撃、その破壊力はエレンと共に行った検証、そして あの超大型の巨人の出現で既に立証されている。人間の傍で起これば9割9分9厘、即死だ。

 

 そんな衝撃を容易に受けるアキラは別だが、それこそ無理な話だった。アニに『楽をさせない』と言ったのはアキラ自身にも言っている事なのだから。

 

「うっし、ならこうしようか」

「……? どうするのですか?」

「外行くぞ」

「は?」

 

 アキラは、アニが閉じられている牢の錠を引き千切り(勿論後に弁償)中へと入る。

 そして、ニヤっと笑って続けた。

 

 

 

「デートだ、デート」

 

 

 

 何を言っているのか判らなかった上に、一瞬時間が停止した感覚に見舞われた。

 そして 数秒間の沈黙の後―――漸く考える事が出来た。言っている意味を理解した。 

 

 理解したからこそ。

 

 

 

「…………はぁ!?」

 

 

 

 声を上げてしまったのだ今日一番の。

 

 この壁の中に来て一番、驚愕したかもしれない。少々情けない気もするが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは遡る事数時間前。

 

 

 

 

 

□□ 調査兵団宿舎 □□

 

 

 リヴァイ班全員が集い、今後の策を考える簡易形式ではあるが作戦会議の様なものが開かれていた。そして、そこの空気はなぜか重く暗いものになっていた。原因は勿論、トラブルメーカーの1人。

 

『……もっかい言ってみて』

『あん? 聞いてなかったのか。珍しい事もあるもんだな、真面目なペトラが』

『いいから。聞き間違いかもしれないし』

 

 アキラは頭をぼりぼり、と掻きながら苦笑い。ペトラは表情を引き攣らせていた。

 

 周りは当然何でこんな空気になったのかわかるからこちらも違う意味で苦笑いをしていた。

 それは幼さで言えばエレンもそうなのだが、彼でさえ理解する事が出来ていた様だ。何とも言えない表情でアキラを見ていて、その横で控えるミカサは、同情の眼差しをペトラに向けていた。

 

『アニとデートだ。外に連れ出d『ふざけんじゃないわよ!!』あぶなッ‼ コラコラコラ! フォーク投げんな! それにふざけてねー 最後まで言わせろっての』

 

 

 ここで説明しよう。

 

 

 ペトラの口調が荒くなるのは 怒りが5割増しに上がった時だ。それ以上は以下の通り。

 

 

 

□ 6~7割で男も真っ青な口調+威圧感。

 

□ 8割~10割未満は実力行使。

 

□ 10割、我を忘れる+実力行使(身体が勝手に動く?)。勿論、解読不明な奇声と共に。

 

 

 今回のは、アキラがデートと言う単語を使った事に驚きもしたが、内部に巨人が潜んでいる可能性が高く、新しい事実も判明し、極めて忙しい時期に場違いな単語を聞かされてあっという間に沸点に達した、と言うのが真相だ。

 

 因みに原因のアキラは大真面目。

 

『104期んトコに、あいつらがいるトコにアニを連れてくんだよ。判れってーの』

 

 はぁ~ とため息吐きながら言うのだが、吐きたいのはこちら側(アキラとペトラ以外の全員)だろう。一言一言端折る部分が多くて誤解を生むような発言は控えろ、とも言いたい。それは女性陣の意見ではあるが、今回ばかりは男性陣も似たような心境だった。

 

『判るわけないだろ。まず、目的から言え。そこが本題だろ。いきなりアニとデートって、オレでさえ悪フザけで言ってるとしか思えん』

 

 エルドが代弁してくれた様だ。それに追従するように、リヴァイ以外の全員がうんうん、と頷いていた。ペトラに関してはまだ睨んでいる。何処となくミカサも同調する様に同じくだ。まさに四面楚歌と言っても良い具合なのだが、当の空気を作り出したアキラはいつもの調子を崩さない様子だった。

 

『端折り過ぎなトコは性分っつーか、説明面倒っつーか。まぁ気を付けるわ。……んでもこれは 真面目な話だ。相手の人数もはっきりと判らんし、内側にいるのは限りなく100%だろ? なら、早めに打てる手は打っとこうと思ってな。出てきてくれないとこれ以上の対応もできんって』

『つまり、「アニ・レオンハートを餌に、他の巨人を炙り出す作戦」そう言えば良いだろうが』

『あー、いつもいつも直球でどーもだリヴァイ。そんなトコ。アニを利用するのは気が引けるトコがあるが、……まぁ、その代わり外に出すんだからその辺は目ぇ瞑ってもらうよ』

 

 アニを外に出す、と言う発言の所で再び場に緊張が走った。

 

 女型の巨人を解放する、と言うようなもので そのリスクは計り知れない。街中で暴れでもすれば、小規模の街であれば壊滅は必至だし、何より最悪なのが逃げられると言う点だ。

 危険性が増すのもある上に、最重要な情報を握っている相手をむざむざ逃がしたら致命的な打撃にもなるから。

 

『あー、大体わかってるよ、お前らが考えてる事。でもま、その辺はアニ、と言うかオレの事信じてくれ、としか言えねぇわ。全部対処する。ヘマはしねぇ』

 

 

 現在も原則、アニとの面会はアキラだけではあるが、立会人として ハンジやリヴァイ、エルヴィンも共に来ている事が多い。情報についての話は一切ないが、以前以上にアキラの事には心を開いている節が見える、と感じていた。演技である、と言う可能性は否めないが。

 

 

『……リスクを恐れてちゃ前に進めねぇ、だろ? エレンん時にも似たようなの言ってたの忘れてねぇよ、オレも』

『判ってる。……アニ・レオンハートについてはお前に一任している事はエルヴィンも了承している。今更 お前が馬鹿やって、ヘマする心配なんざするか』

『へーへー、そいつは信頼してくれてどーも』

 

 

 最終的には全員から理解と了承を得た。

『妙な事はするな』と釘をさされながら。

 

 

 

 妙な事? と勿論首を傾げていたが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場面は 再びアニのいる地下独房。

 

 

 こういう経緯があっての行動が真相で、アニ自身奇怪なモノをみるような視線を向けられてはいたが、長らく地下に閉じ込められているからか、外に出たいと思わない訳はなかった。

 

「………いきなり何を。裏がある、としか思えないんですが」

「そりゃ、そうだろうな。決まってるだろ? 押して駄目なら引いてみる。アメとムチ。たまには こう言うのも有りじゃね? って思っての行動だ。皆には大反対されたけど」

「当たり前です」

 

 立場的には敵側なアニ。なのに、反対していた連中……つまり調査兵団の皆には同情を禁じえなかった。破天荒過ぎるだろう、と今更ながら思う。

 

「私が逃げたらどうするつもりなんですか?」

「うん? 逃げるのか?」

「普通、それを聞き返しませんよ。…………でも、逃がしてくれる、と言うのであれば」

「あほか。オレに許可を求めてる時点で逃げる気ないじゃねーか」

「…………違います。逃げられると最初から思ってないだけです。巨人を簡単に手玉に取る相手にどうしろと言うのですか」

 

 アニは頭の中でシミュレーションをしていた。

 

 巨人に変身をした時点で拘束される事必至だろう。四肢を捥がれて動けなくなった所で、文字通り、見た通り、巨人の体内からつまみ出される。

 人込みに紛れて逃げようとしても、巨人の肉体が消滅するときに発する蒸気。それも大量の蒸気に紛れて脱出したのをあっさり見つけられてしまったから、そんな事が出来るとは思えない。

 立体起動装置をどうにか手に入れて、最大ガス噴射で逃げたとしても、爆発的? な脚力であっさり追いつかれる。

 

 つまり、どう考えても逃げれる未来が見えないのだ。更に言えばたとえ逃げても笑って捕まえられて許されそうな感じもする。

 

 

「どうもこうも、たまには付き合え。オレも気晴らしってのがいる。頭痛くなる会議会議会議……。憲兵団とのやり取りに中央王都の連中。大体はエルヴィンがするんだけど、正直、教官してるよりダルい。暴れるの禁止って言われてるし」

「はぁ……。暴れるの禁止って、それは当たり前でしょう」

 

 アニは徐に腰を上げた。

 繋がれている鍵付き鎖は、いつの間にか壊されていて 手枷がなくて軽いのを実感する。随分と久しぶりに解放されたのだ。

 

「何を考えているか分かりませんが……。付き合います。拒否権はあるとは思いますが、外の方がここよりは良いですから」

「うっし。んじゃ、行くか」

 

 歯を見せながら笑うアキラの背を追う。

 

 長い長い階段を上がりながら、そんな背中を見ながら、アニは思った。

 

 十中八九、目的がある。恐らくは、自分自身を餌に他の者たちを捕まえるのだろう、と。自分から話すつもりは無い。例え 出会ったとしても平然としていられる自信はある。……が、正直な所、向こう側が平常心を保てるかどうかは判らない。

 

 

「(あんな所で、巨人になったしね。………あいつ(・・・)がまたどんな反応見せるかわかったものじゃない。でも…… これもわかっている筈。あの時、わかった筈。この人には敵わない(・・・・・・・・・)、と言う事も)」

「難しく考えんなって。久しぶりの外を満喫すりゃ良い。それに表向きは調査兵団になった、って事になってんだし、顔見せさせとかないと不信がるんだよ。104期のやつらは。ほれ、特にコニーとか、アルミンとか」

 

 104期のメンバーの名が出た時点でアニは予想が当たっているのだろう、と思えていた。

 何故、あえて口に出すのかははっきりとは判らないが。

 

「………皆に会いに行く、と言う事ですか?」

「ん? ああ、そうだな。久しぶりに会いたいだろ? アニも」

「会いたいと思った事はありませんが」

「うへぇ~ 薄情なヤツ」

 

 げー、と舌を出すアキラ。訓練兵時代の事を思い返しているのだろう。血のにじむ様な厳しい訓練。そして、あの壁が再び破られた日に、生き残った間柄だという事を。

 アニとて何も思っていない筈はない。 

 あの時。共に訓練に明け暮れていた者たちの死体を前に、平常ではいられなかったのだから。だから、思うところが全くないわけではないだろう。でも、それは アニ自身が最初からこちら側(・・・・)であれば、の話だ。

 

「……アキラさん。私が誰なのか忘れてるんじゃないですか? ……私は全滅させようとしたんですよ」

 

 そう、アニは女型の巨人。つまり街を地獄に変えた者たち側。皆を殺す切っ掛けを作った者たちの仲間なのだから。アキラの口ぶりはまるでそれを考えていない、と言わんばかりだったから、アニはそう聞いたのだ。実の所、口には出しても、実際に忘れている、とは到底思えなかったが。あの時の殺気は 『許さない』と言った時の事は、未だによく覚えているのだから。

 

「忘れるかよ。それに、実際は全滅はしなかった。あいつらは全員生きてる。……勿論、死んだ皆。ネス達の事も忘れちゃいねぇ。絶対に許さん、っつったのも嘘じゃねぇ。奴らの戦果を実らせる事にも躍起になってる、ってのもあるんだよ。これもその一端だ。……何より今は 感情ってヤツは殺す事に決めてんだ」

 

 グっ、とアキラは拳を握りこんだ。ぐ、ぐぐぐ、と握り、骨が軋む音が周囲に聞こえてくる。力を握りしめ、逃さない。と言った様子だったのだが、次の瞬間にはそれが霧散した。手のひらから、力が逃げていくのを感じたから。それと同時に、感情も抜けていく様に、見えた気がした。

 

 アキラはアニの方を振り返る。

 

「後、お前()をよく知ってから、だな。本当の意味でどうするのか。どうすりゃあ良いのか考えんのは。アニが教えてくれるとは思ってねぇけど」

「…………私の事も、楽をさせない、と言ってたと記憶してますが」

「そりゃ、オレの気の持ちようだ。だって、アニが楽になってるってのは感じてねぇし」

「……そう、ですか」

 

 楽になれるとも、楽をさせてくれるとも思ってない。今だってアニは苛まれているのだから。複雑に絡み合った事情と共に。

 

 だが、今は、今だけは アキラに合わせようとした。グっ……と強く目を瞑る。眼球を強く圧迫する様に。……そして ゆっくりと開いた。アキラの様に 気持ちを押し殺そうとしたのだ。

 

 

 

「でも、正直 ミカサとだけは会わせる事を勧めません」

「ん? そりゃどーして……、ってアレか。エレンか」

「猛獣の前に、餌を身体に括り付けて出てくようなもんですから」

「すげー言われようだな、ミカサ。わからんでもないが」

 

 

 アニの、あの時の女型の巨人の狙いは明らかにエレンだった、と言うのは恐らく皆が知っている事だとアニは判っている様子。

 あの部隊を襲った時の落ち度。言葉に反応してしまったのだから。

 

 後、アキラもアニの言った意味がよくわかると言うものだった。エレンを狙った以上、……異常なまでに反応を見せるだろう、と。でも、そこまで見境なしではないのも判っている。

 

「時と場合だろそれ。ミカサだってよ。そういやぁ アニvsミカサか。あったな、んな事も。オレも結構興味あったんだけどなぁ……、ハゲが来なけりゃ、ってヤツ。夢中だったろ? アニも」

「……通じるかどうか、興味があった、と言うのは嘘ではありません」

「だろうな。格闘ン時が一番……って、そうだ」

 

 丁度、外へと通じる扉の前に来た所で、アキラは何かを思いついた様子だ。

 

 思い切り、扉を押して開く。外の光が全身を包み込む。太陽の光がここまで温かく、心地よく感じた事は無い、とアニは思った。それとほぼ同時にアキラの声を光の中で聞いた。

 

 

「久しぶりに組み手すっか? 牢ン中でも欠かしてなかったみてぇだし、また見てやるよ」

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。