目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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暫く原作から脱線してたと思いますが、閑話休題と言う事で、原作の場面へと戻ります……<(_ _)>

非武装で待機してる(させられてる?)所にって、最悪ですよね…… ( ;∀;)



55話

 

 

「んー、蹴りだが、アウトロー狙うのも良いが、インロー狙ってみても面白いかもだぞ。アニは 距離つめる、飛び込んでくる速度も申し分ないし、ほれ、狙う幅が広がるだろ?」

「シッ!!」

「おっ、そうそう そんな感じ。でもまぁ、オレって立ち技マスターしてる、って訳でも、どっかの道場の師範って訳でもねーからなぁ。これは、素人の意見とでも思っててくれ。最終的にはアニが打ちやすい所に最高の一撃を、ってのがベストかもしれん」

 

 

 パシッ、バシッ!! と幾度となく乾いた音が響き渡る。

 

 

 

 ここは、アニがいた地下牢への入り口の建物以外は、周囲に一切ない開けた場所だった。周囲に気兼ねなく身体を動かしたりするのに 適している場所。

 つまり、何処へ逃げたとしても、判るという場所でもある。

 建物が無いから身を隠す事も出来ないという事だ。 

 

 だが、逃げられた時を考えたら、良い立地条件だと言えるかもしれないけれど、巨人を相手にするともなれば、良いとは当然 言えない。

 周囲に建物や木々が無い為、立体起動装置が使える様な環境ではないから。

 

 一部のツワモノは例え周囲に建物とか木々が無くても、巨人自体に直接アンカーを打ち込んで、接近。そのままなぎ倒す様な男がいたりするけれど、そんなのは例外中の例外。勿論、こんな場所で呑気に格闘の授業を施している男も当然ながら言うまでもない。

 

 

「うっし。そこまでー。今日はこの辺にしとくか」

「………はい」

 

 アキラは、アニの下段蹴りと見せかけての上段蹴りを受け流して、勢いそのままにアニを一回転させると、丁度両足そろって着地させた。それと同時に 終了の一言。

 汗を拭うアニは、何処となく寂しそうな残念そうな顔をしていた。決して気のせいではないだろう。

 

「ほれタオル。いい汗かいたみてーだから、水浴びもしてきたらどうだ?」

「……覗きませんよね?」

「アホ。オレが、んな事するように見えるか?」

「いいえ。ちっとも。………(そんな甲斐性あったら ここまで人間関係拗れてないと思う)」

「あん? なんか言ったか?」

「いいえ。ちっとも」

 

 アニは、タオルを受け取ると後ろの建物の中へ。

 因みに地下牢内にも地上側にも水回りの設備はある。アニの監視役~と言う事でリュウキが度々訪れているが、それの付き添いでイルゼやらペトラも時折 同行したりしている(アニのいる牢へ近づくのはアキラ限定ではあるが)。基本的にその人たちの為の生活の設備。勿論、アニの言う様な展開はアキラは起こしていない。……残念ながら。

 

 そして、アニは監視の目は一切気にしてない様で、服を脱いで水浴びを行う。

 身体を動かした後の水浴びはやはり気持ちが良いものだった。特に、今日のは。

 

「(……楽しいと思うのは随分と久しぶり。……そうだ。お父さんと一緒にしてたあの頃と、同じ……かもね)」

 

 目を瞑り、浴びる水を感じながら 過去の記憶を呼び起こす。

 何度も何度も同じ位置に蹴りを放つ。繰り返し繰り返し、技術を学ぶ。この格闘術は臨んだものじゃなかった。無理強いされたものだ。

 

 父親は、何処か現実離れした強い理想を持っていた。心底くだらないと思いながらも、技術を学び、習得し続けた。……そして、心底くだらないとアニは想い、軽蔑さえしそうな父親だったのだが、最後は父と約束をした。涙ながらに懇願する父親を見て。

 

 

 

 

 

――帰ってきてくれ。

 

 

 

 

 

 そう願う父親を見て。

 

 その時 アニの中で父親に対する想いが変わり始めたのだ。

 

 

「何で、思い出すんだろうね。こんな時に」

 

 きゅっ……と蛇口を捻り、アニは水を止めた。滴り落ち続ける雫が、やがて止まった頃に アニは目を開いた。過去の思い出に浸る事が出来た闇から、この残酷な世界を視界に入れた。

 

 

 

 だが、何故だろうか。

 

 

 目を見開いてみても、何度も目を瞑って開いてみても、……以前程、この世界は残酷だと思えない自分もいた。

 

 いつからこう思い始めたのか、もうアニにも判らなかった。判るのはつい最近までは、そう強く思っていた、と言う所だけだ。

 

 

 

『うぉーい あーにー! まだかー。そろそろ行かねぇと小言喰らうから早くしてくれー』

 

 

 

 不意に、外から声が聞こえてくる。

 何処か呑気な声。朗らかな声。……敵である筈なのに、心底落ち着ける声。

 

 

 

「……あなたは、いったい何なのですか? あなたは、悪魔の末裔……本物(・・)の悪魔そのものなのですか? ……あなたは」

 

 

 呼びかけに返事を返す事なくアニは、閉じられた扉の向こうにいる人に向かって、問いかけた。

 

 この世界の真実を、少なくともこの壁中人類よりははるかに知っている。100年と言う長い月日を閉じこもっていたこの人類よりも。

 

 

 

 アニたち(・・)は 壁中人類の事を《悪魔の末裔》と呼んでいる。

 

 

 

 だが、目の前の男は…… アキラと言う名を持つ男の力を前にしたら、そんな生易しいものじゃない、と思えた。

 

 だからこそ、アニは問いかけたのだ。……間違いなく聞こえない程の大きさで、声の届かない距離にいるアキラに。

 

 

 

「あなたは、この世界を壊してくれますか……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして――時は進む。

 

 

 

 

 

 

 ウォール・ローゼ内にある調査兵団が保有する施設の1つ。

 そこで104期のメンバー全員が待機命令が出ていた。勿論、その理由は伝えられていない。

 そこを監視するミケ分隊長を含んだ兵士たち以外は。

 

「なあトーマ。確か今日はアキラが来るって話だったっけ?」

「そう聞いています。……やっぱりアキラが来てくれた方が有難いですね。いい具合に兵士たちが落ち着いてくれますから」

 

 アキラ人気は留まる所を知らない。

 リヴァイ兵長やエルヴィン団長よりも、ある意味アキラが受け持った期の訓練兵たちの間柄では非常に高い。特に大規模遠征が起きた後はより顕著に表れている。

 何せ、その時初めて目の当たりにした者たちが多いからだ。あの異常な力を。

 

 そんな男だからこそ、怪奇な目で見る者だって少しはいたが 直ぐに消し飛んだ。

 巨人に蹂躙された恐怖を知っているからこそだ。

 巨人を叩きのめしてくれる瞬間が目に焼き付いて離れないから。それでいて、あの人柄だから。

 

「……お前たち。アキラに期待する気持ちも、頼りたいと言う気持ちもわかる。……が、それでも 彼を頼り過ぎる様な真似はするなよ。オレ達で出来る事は全力でやる事も忘れるな」

 

 後ろで控えていた分隊長ミケは、話し込んでいるナナバやトーマに釘をさす。

 異常な力を持っている以外は普通の人間だ。あまりに力が強力すぎて忘れがちにはなるから、それだけは忘れぬようにと。

 

「勿論だよミケ。……際限なく無茶させてたら、正直 立つ瀬がない。何せ一応私は彼の先輩だから」

「オレも同感です」

 

 時折、色々と口には出すものの、心の底からそう思っている様な者はこの調査兵団にはいない。いるとすれば中央王都の者くらいだろう。

 

 

 そして、施設内の一室で、104期のメンバーがいた。明らかにだらけた様子で、外を眺めているコニーとサシャが不意に口にする。

 

「きょーは、教官休み日でしたっけ? また、チェスの勝負をしたいんですが」

「アホかサシャ。昨日と同じこと言ってるぞ。教官も暇じゃねーって事だ。それに また勝てもしねぇのに挑戦すんの? 肉とかが かかってるからって」

「肉は何よりも大切な宝でしょ~。そんなの景品にしたゲーム、参加しないのがどーかしてるんです。つまり、コニーがどーかしてるんですよ~」

「なんでオレだけだよ。ああいう頭使う遊びは嫌いなんだ。疲れるから」

 

 何もする事がなく、2人はただ談笑するだけ。

 他の者たちも大体似たようなものだった。

 

「んー、でも 確かにアキラ教官がいると 色んな意味で盛り上がるからなぁ……」

「ほら、コニーだって似たようなものじゃないですかー」

「だってよー、やる事無いじゃん。ぼ~~~~っと一日中過ごすのに比べたら断然そっち。なら、近くにオレの村あるし、抜け出てやりたいよなぁ」

「え~、それも前に聞きましたけど、そんなに帰りたいんですか~? 私なんてまともな人間になるまでは帰ってくるな、って言われてたんですよ~~。あー、まともになりました~って証明書あるなら、作ってもらいたいですね~。教官あたりに」

「バカかサシャ。どこの世界に パン狙って教官に飛びつくまともな人間がいるんだよ」

「もー、さっきから、アホとかバカとか。言ってる人の方がアホでバカなんですからねー」

 

 何処か幼稚な会話だった。

 それを横で聞いていたライナーは、大きくため息を吐く。

 

「……お前らなぁ、この状況を少しでもおかしい、って思わないのか?」

「はい~?」

「何がだ??」

 

 ライナーの言葉を聞いて、全くわからない。と言わんばかりな反応を見せる2人。聞き返してはいるものの、身体は完全なだらけモードだから、あまり頭の中にまで入っていってないのだろう。

 

「考えてもみろ。何で私服でいつまでも待機なんだ?おまけに『戦闘服も着るな』『訓練もするな』だぞ? 前提がおかしいじゃねえか。オレ達は兵士なのに? それに見ろ」 

 

 そして、次にライナーは窓の外を見た。サシャやコニーの様にただ単に視線を向けているのではなく、巡回をしているのであろう、調査兵団の兵士、つまり自分たちの上官たちに視線を向けた。

 

「外の上官たちは完全装備だ。そこも疑問だろ? ここは前線でもねぇ、壁の内側だぜ。あんな装備必要とは思えねぇ。いったい何と戦うってんだ?」

 

 ここまで言われたから、漸くコニーとサシャも考え込んだ。しっかりと頭の中を整理? しながら。

 

「う~~ん……、ああ、あれだ。この辺りは確かクマが出てた筈だ。オレの村でもけっこー、大変だったそうだからなぁー」

「えぇ、森も近いですし、クマですねぇ。クマもお腹すいてたら、巨人バリに、とは言いませんが、人間も喰います」

 

 まともな回答が返ってくる事は無かったから、ライナーはまた ため息を。

 

「クマ相手なら、鉄砲で良いだろう? 動物は学習能力が巨人より遥かにあるんだから、一発撃てば逃げる。だから、あんな装備は必要ねぇ。……それに、他のみんなも見てみろ。アキラ教官が来てる時は 忘れがちになっている様だが、みんな 今の状況の意味、それが訳が分からなくて困惑している、ってのが正直な感想だろ。いつまでも呑気にくつろいでんのはお前らだけだ」

 

 ライナーはすっ、と視線を鋭くさせた。

 

「オレはいっその事、抜け出して上官の反応でも伺いたい気分だ」

「……そんな事していいんですか~? アキラ教官に投げ飛ばされても知りませんよー。いつかの時みたいに」

「身体動かさず、だらだらするよりはマシだ」

「んー……、そうですね。……ん。………んん?」

 

 この時だった。

 ただ、何となくライナーの話を聞いていただけだったサシャ。対して深く考えもしてなかったのだが、ほんの一瞬。何か違和感を感じられた。いうならば、空気が震えたような、そんな気配。

 

 だから、サシャはぺたっ、と机に耳を当てた。振動は地中を伝わり この建物――ひいてはこの机にも伝わるからだ。空気の震えより、よりわかりやすく、聞こえてくるから。

 

 サシャはただの気のせいだろう、と思いつつも 耳を当てて……音を聞く。

 

 そして、小さな違和感は、やがて確信に変わった。

 

 

「あれ!? 待ってください!! ちょっと足音のような、地鳴りが聞こえてきます!!」

 

 

 突然のサシャの発言。あまりにも突拍子もない事ではあるが、声が大きいから全員の視線が集まった。

 そして、サシャの言葉を思い返す。

 

 足音が聞こえる。それも地鳴りと聞き間違える程の大きさの足音。そんな足音をたてるモノがいたとすれば、野生動物ではありえない。……つまり、必然的に1つの答えにたどり着く。信じたくない―――考えたくもない答えに。

 

「何を言ってるんだサシャ? ここに巨人がいるって言いたいんなら、そりゃ、ウォール・ローゼが破壊されたって事だぞ?」

 

 

 ライナーが口にするのは 考えうる最悪の事態である。

 

 

 

 そして、時同じくして、外で待機しているミケにも感じられていた。常人よりも何倍も優れた嗅覚は、サシャの聴覚よりも更に鋭く、正確にその事態を把握した。

 

 最悪の事態の。

 

 

「トーマ!! 早馬乗って報告しろ!」

「……? はい」

 

 まだ殆ど目視できない。大き目の木と見間違う事もある距離だが、間違いなくこの先からくる、とミケは確信し、命令を下した。トーマもミケに圧倒される形で、何を報告するのか? と聞く前に返事を返す。

 

 尋常じゃない気配に、ナナバも身を乗り出した。

 

「どうしたミケ?」

「……来るぞ」

「……何?」

 

 睨む先は南側。そして、その口から出てきたのは信じたくない事実。

 

「おそらく104期調査兵団の中に巨人はいなかった……。南側、凡そ500m先。巨人が多数襲来」

 

 

 

 そして、軈て目視できる程の距離にまで迫る。確かに動く影が見えた。……木よりもはるかに大きな影が。

 つまり、それが意味するのは、ただ1つだけ。

 

 

 

「ウォール・ローゼが突破された!!」

 


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