ほんと ただのスランプですm(__)m
「…………ふぅん、まだ増えてるな」
巨人の群れが接近している。
ミケが鼻で感じる、と言っていた数は約15体と言っていたが、はっきりと見えてきたその数は 明らかにそれ以上。倍、3倍、判らない。
いったい何体現れているのか、判らないレベルで巨人の群れが迫ってきている。まるで湧いて出てる様に。
基本的に、人間を喰う事以外の考える頭があるとは思えない巨人が、一点集中で向かってくるのは初めてではない。
巨大樹の森で、人体実験の様なのをやらされた時にも巨人は減る気配が無いくらいの勢いで出てきていた。
これはあの時の数よりも更に多く感じる。……今までを含めた記録更新かもしれなかった。
そして、もう1つ感じた事がある。
「それにしても、随分状況が似てるな。マリアの時と一緒だ」
思い返すのは、あのウォールマリアが突破された時の事だ。
同時に、調査兵団の遠征の日でもあった。遠征の際に、巨人の群れに出くわした。犠牲を出しながらも、時間をかければ十分に殲滅出来る筈だったのだが、突如巨人たちは意思統一をした様に一斉に動き出したのだ。
そう、マリアの壁の方へと。
自分の後ろには、104期の兵士たちがいる。……あの時の襲撃では、何人も犠牲になった。その時と状況が似すぎている。違う点があるとするなら、今回は自分が前にいる事。
壁を越えて襲おうとする巨人の前に、立ちはだかる事が出来ているという事。
「この状況で悠長に考え事が出来るんですね」
アキラの傍にはアニがいる。
少しだけ話を聞いてみると、どうやらアニは別にあの巨人たちと友達でも仲間でもないらしい。女型の巨人の時は引き連れたりして迫っていた様だが、人間の状態ではそんな真似は出来ず、襲われるとの事だ。
「あぁ。余裕だな。あの程度、あのくらいじゃ」
「アレだけの数を
「お前さんも判ってるんじゃないのか? ああやって、直接オレんトコに来てくれる方が何百倍も有難いし、やりやすいなーって」
アキラの言葉に、アニは軽く目を閉じた。
確かに、壁の外では巨人が支配するこの世界において、自分たちの目的を達成する為には、それを圧倒する力を持つ者を、限りなく遠ざけ無ければならない。
そうしなければ、瞬く間に巨人は蹂躙されるだろうから。……作戦を完遂する為には それ以外の方法は皆無だ。
だからこそ、調査兵団が遠征に向かったあの時に、マリアの壁を破ったのだから。
「さて、今んトコ 散開しそうな気配は無いな。少々散らばってんのが めんどくせぇけど、ヤってたら向こうから群がってくるだろ」
アキラは迫る巨人たちをただただ見ていた。
最初は15だと思われてた巨人の数が、20に、30に、今では木なのか巨人なのか、よく判らない程。まるで巨人の森だ。まだ増えるとさえ思える。
そして、それらを見て考える事はただ1つだった。
「アニ。お前さんが巨人にならねー、巨人の力を使わねーっていうのなら、オレの傍にいろ。今のオレの傍が安全地帯だ。……壁ん中よりもな」
「そんなこと、百も承知です。……多分、私が巨人の方へ向かっていっても、止められそうですし」
「当たり。行かさねぇし、逝かせねぇ。そこんとこ判ってんなら良しだ。判ってんなら、ぜってー離れんなよ? 監督不行き届き、って怒られるのも嫌だ」
アキラは軽く笑みを見せた後、再び表情が戻った。険しい顔に。兵士であり、巨人側にとってはまさに悪魔な顔に。
「……さて、ゆっくりしとけっつった手前だ。
アニの持つ女型の巨人は、他の巨人を呼び寄せる力があるのは、あの巨大樹の森での一戦で判っている。更に言えば、あの瞬間以外に アニに襲い掛かる巨人はいなかった。戦闘の余波で吹き飛ばされた巨人は何体もいたが、アキラ自身に襲い掛かろうとした巨人はいたものの、アニには一切向かっていってない。 ……が、それはあくまで女型の巨人の状態の時に限りだ。人間の姿では 当然標的として襲われてしまう。
それでも、アニはどうやら この状況ででも女型の巨人の力を使うつもりはないと断言していた。
同期のメンツにバレたく無いのか、実は傍に仲間がいるためなのか、此処で死んだらそれはそれで良いと考えているのかは、真意は不明だが。
アキラは拳に力を入れた。
まるで周囲の空間に歪み? でも現れたのか、或いはその尋常じゃない気配が可視化されでもしたのか、視界がおかしくなってしまったのか。
「………」
そんなアキラを見て、アニは考える。
いつもの調子で話をしているが、今は尋常じゃない程の怒りで満ちているだろうコトがはっきりとわかる。もし、ここに自分やあの104期のメンバー、他の調査兵団のメンバーたちがいなければ、怒りで我を忘れるのではないか? と思う程だった。
先ほどから見ているのは巨人の群れだけではない。その背後。……あの先には 大小多数の村が存在していた筈だった。地理については、アニもある程度は頭に入れているから直ぐに判った。そこから、巨人が押し掛けてきているとなると、村がどうなったのか、考えるまでもない。
それらの怒りを、ただただ拳に集中させる。巨人を容易に粉砕するその拳に、怒りを集中させる。そんな状態なのだから、空間の1つや2つ、歪んだ所で驚かない。
「……さて、かかって来いよ。巨人ども。一匹残らず蹴散らしてやるからよぉ……!」
ただ、アニはこうも思う。
怒りに満ちるアキラを前に、こう思う。やっぱり考えてしまう。
場面は代わり、時間も数分遡る。
全長約17mの巨人がゆっくりと歩いていた。
一斉に迫っていた巨人たちと違って単独行動。この時点で奇行種の類であると想像できるが、それ以上にこの巨人は他の巨人とは圧倒的に違う所があった。
「オレの巨人たちは上手くやってくれてるかな……?」
そう――この巨人は、この巨人はエレンやアニの様に巨人の鎧をまとった人間だった。
そして 今回の巨人騒動の首謀者である。
その身体は他の巨人と違い、全身が体毛に覆われ、まるで猿の様な姿の巨人だ。
まるで散歩を楽しんでる様に、周囲を見渡しながら 巨人の群れが突き進んだ方へと歩を進める。
「前々から思ってたけど 視界が高いってのは、結構良い気分だよなぁー。……さて、ピークちゃんとも合流しないと。……ん、んー、合流より 空を飛び回る道具ってのを見てみたいな。欲を言えば1個でも貰っときたい」
壁内に災いを呼ぶ存在。いや、元凶ともいえる男は悠然と歩を進め続ける。ここへ来る道中で、複数の村を襲い……そして ある施しをし、最終的には壊滅させた。
ただ――作戦通り、順調に事が進んでいると疑っていなかったこの男には1つ誤算があった。
彼は、
なぜ、壁内調査に向かった仲間たちが何年も戻らなかったのか。
調査兵団の主力兵器と呼べる立体起動装置の事は知っていても、それ以上に凶悪な存在がこの壁内にいると言う事実。
壁中人類は、悪魔の末裔……と呼んでいる。
その悪魔そのものだと言っても良い存在が、この壁中にいるという事実を。
「……なんだ?」
歩を進め続け、軈て森林が見えたその場所で、事実を直ぐに知る事になった。
一瞬、空気が震えた気がした。それと同時に凄まじい轟音も轟いていた。
「大砲でも用意していた、ということか?」
轟音の正体。大砲か何かを撃ったのだろう、と解釈をしていた。無数の巨人が一斉に攻めてくるのだから、それ位するだろう、と。
だが、不可解な事にその轟音は連続して起こる。起こり続けた。
まるで大砲の乱れ撃ちだ。
「いったいどれだけの数の
だからこそ、歩く速度を上げた。
あの数の砲撃を受けたとなれば、幾ら巨人と言えど無事にはいられないだろう。例え項をつぶす事が出来てなくても、今も続く轟音は確実に巨人の行動を削ぐはずだ。
「くしくも同じ得意分野。投げ合いなら負けるつもりは無いな」
男は、傍にあった大岩を片手で持ち上げると、力任せに握り砕いた。
「予定ではもっと奥での筈だったが……ん? んんん??」
岩に向けていた視線を再び前方へ戻した時、自分の目を疑った。
「なんだ……?
どう表現したら良いのかが判らない。ただ、起こっている事をそのまま口にするとすれば。
「……オレの巨人が吹き飛ばされてる?」
目に映るのは、宙に浮く無数の巨人。
巨人が、吹き飛ばされている。まるで紙切れか、舞い落ちる木の葉の様に宙を数秒漂い、そして落ちていく。
そして、轟音と共に雄叫びが聞こえてきた。まるで自分が巨人に命令する時の様な、轟音にさえ劣らない程の声量で。
『オレは此処だ! かかってこい!』
巨人は人間に、そして音にも反応する。
人間が大声をあげながら走り回っていたとするなら、それは格好の餌食だと言えるだろう。
ただの、人間であればの話だが。
「アレは、なんだ……? なんなんだ……??」
まるで暴風、竜巻でも起こっているというのだろうか、巨人たちが吹き飛ばされ続ける。
やがて、その暴風が、竜巻が鎮まった所で、目が合った。
「……へぇ。初めて目にするな。人間っぽくない巨人。その見た目、猿の巨人と言った所か?……てか、そもそも巨人って髪以外に毛、生えるのな」
はっきりと見えた。まだ、距離はあったが はっきりとその姿を見る事が出来た。
「にん、げん……?」
彼はまだ自分の目を疑っていた。
それと同時に、必死に理解をしようとしていた。何故考え付かなかったのだろうか、とも思っていた。
人間が巨人になる事が出来る、不可思議現象があるのなら、人の姿のままで巨人の力を、それをも上回る力を有する者がいるかもしれない可能性を。
「う、うおおおおおおおおおおおお!!」
だからこそ、反射的に叫びあげた。
今持ち得る戦力を全て、あの得体のしれない存在にぶつける為に。自分自身の本能が全力で警笛を上げていた。
―――アレは、あのイキモノは危険だ。
と。
「……成る程。あの猿にはアニと似たような力がある、って訳か。ハンジん時以来だな。ありがたくないモテ期。向こうからこんだけ寄ってきてくれてんだから」
アキラは、あの猿の様な巨人が叫び声をあげた途端に、明らかに表情が、目が変わって一斉に襲い掛かってきたのを見て直ぐにアニを連想させた。自分自身におびき寄せ、自分を食わせ、脱出したあの時の事を。
これまでは 先ほどの様な叫び声と轟音、つまり殴る音でおびき寄せ、一網打尽にしていたのだが、どうしても離れた巨人がかかるには少し時間がかかる。一匹たりとも後ろへ抜けさせない様に戦っていたアキラにとっては、この状況は好都合以外の何物でもない。
「あ……、なっ……」
ただ、その後ろでアニは驚いていた。
今まで表情をあまり変えなかったアニが、今日初めて変わった瞬間かもしれない。
「なんだアニ。アレは見知った相手か?」
「ッ……」
その表情を偶々目にしたアキラは、アニにそう聞くが 返答が返ってくる事は無かった。
「ま、ゆっくりで良いや。更に湧いて出てきた奴ら全部ぶっ潰さなきゃなんねーし」
ぐるん、と腕を一度回し、これまでにない速度で迫ってくる巨人にカウンターの拳を入れた。
全速力で突進する巨人の勢いとアキラの拳の威力。
勿論、巨人は抗う事が出来ず、ただ身体がバラバラになりながら吹き飛ぶだけだった。同時に周りに迫る巨人を巻き込みながら。
「ほんと殺りやすい。向かってきてくれる方が万倍ありがてぇ。……今までコソコソしてたもんな、巨人の癖によぉ……」
大地を強く踏み、拳を眼前に構え、アキラは この巨人を屠る力を、言霊へと変えて、叫んだ。
「纏めてぶち殺してやるから、さっさとかかってこい猿野郎!」