目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

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58話

 

 叫びを上げた。声の届く範囲の巨人が全て反応した。数を数える事すら億劫に感じる程の巨人の群。たった1日で街を壊滅させた巨人の数よりも遥かに多い巨人の群。

 

 その巨人たちに下した命令はただ1つ。シンプルな命令。

 

 

 

『あの男を殺せ』

 

 

 

 

 巨人にとって、人間はただの攻撃対象。命令されようがされまいが 音に反応し、そして人間の姿形を確認しさえすれば、ただただ喰らいつく。長年見てきた光景だ。

 

 そう、無数の巨人の一斉攻撃を正面から迎え撃つなど、操る術を持つ例外を除けばではあるが、例え巨人の力を見に窶した者であったとしても無謀の一言に尽きる。

 巨人の力は強大だが、無限で、無敵はない。力を使い、消耗すればするほど、巨人の力は使えなくなる。

 

 そして――軈て喰われてしまう事は容易に想像出来る。

 

 

 だが、目の前の光景はどうだろうか。

 

 巨人がまるで人形の様に吹き飛ばされ続ける。高く舞い上がった巨人は、大地にその身体を叩きつけられ、部位折損する。再生はするし、向かっていきはするのだが、結果は目に見えていた。

 何度挑んでも、無意味。項を破壊しない理由は不明だが、あれ程の破壊力で攻撃を加え続ければ何れは 急所である項を破壊され、消滅する。

 

 巨人を屠り続ける。

 ただの人間(・・・・・)が巨人を屠る。

 

 否、アレが明らかにただの人間であるとは思えない。

 ただの人間が、その体躯で巨人に抗える筈がない。巨人に蹂躙される人間を幾度となく見たからこその感性だった。つまり有り得ない光景だ。この世のものとは思えない光景だ。

 

 

「……アッカー、マン? いや、違う。アレは副産物。あくまで 一部巨人の力を引き出せるに過ぎない。……あんなのは、ありえない。巨人の、ちからを はるかに………」

 

 

 まるで悪夢を見ているかの様だった。

 

 

 

 アキラが猿と呼んだ巨人は、正しくは獣の巨人と言う。その獣の巨人を纏っている男こそが、今回の巨人強襲事件の首謀者。

 

 そして、鎧の巨人、超大型の巨人、女型の巨人――壁を破壊した者達の身内。

 

 しびれを切らせて出てきたのは良いが 目の前の光景にはただただ唖然とするだけだった。

 

 

 そして、次の瞬間には 特大の一撃が15m級の無垢の巨人を吹き飛ばした所で、獣の巨人までの《道》が出来た。

 

 まだ遠目だったが、はっきりと目が合ったのが判る。

 

 

「――よぉ デカい部下たちにばっかに任せて まだ引きこもり続行ってか? それに随分上手く巨人を飼い慣らしてるじゃねぇか……。調査兵団(ウチ)ハンジ(アホ)が知ったら、泣いて喜びそうだな、こりゃ」

 

 

 無数の巨人の血をその身体全身で浴び、血に染まり 更にその血は瞬く間に蒸発していく。赤い霧に包まれたその男の姿を見て、頭に過ぎったのは1つの単語。

 

「悪魔……ッ!?」

 

 化け物でも良いだろう。だが、悪魔と形容したのには この時の彼は判ってなかったがある程度の理由はある。

 

 化け物、と言う言葉はよく使われてきた事だから。自分たちの一族の事で、幾年月も使われ続けたから。

 

 だから、化け物は知っているつもりだった。

 

 

 

 

 だが、アレ(・・)は 化け物を超えている存在だ。

 

 

 

 

「う、うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 

 自身の中で恐れが増大していくのが判る。それを振り払うかの様に再び叫びを上げた。

 絶命していない巨人たちは、それに呼応する様に一斉に飛びつくが。

 

「わらわらと、ったく。そう言うモテ方ごめんだってんだ!」

 

 少し時間は稼げたものの、呼び寄せた巨人達は 結局は吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寄ってきてくれんのは正直ありがてぇけどなぁ……」

「私が傍にいては 邪魔ですか? 存分に力をふるえないから」

「アホか。生徒を邪険にする教官がいるかってんだ。それに今アニは秘書っつー肩書も作ったんだぜ? 傍にいてなんぼだろ。あー でも、髪とか乱れるんだけは目、瞑っててくれ。風圧だけはどうしようもないし」

 

 

 暫くして、悠長な会話が聞こえてきた。

 どうやら、直ぐ傍で誰かを守りながら戦っているという事が判る。誰かを庇いながら、守りながら戦う事の難しさは判る。……それが出来る、と言うのは それ程までの力の差があると言う事なのだろう。お守をしながら戦える程の。

 

 

 

 巨人が通じないのはもう嫌と言う程理解出来た。

 

 

 それを認める事に時間が異常なまでにかかってしまったが、もう認めるしかない。現実が物語っている。

 

 

 なら、次はどうすれば良い? 

 降参し、白旗でも上げるのが得策だと言えるか?

 

 

 当然ながら 降伏と言う選択肢を選ぶ事は無かった。

 

 

 

 

 

――………オレは、全てを――ために、ここにきているんだ。……―――が、唯一の救い。そう、だろう ………ヴァーさん。 平穏を……、全てはそのために。

 

 

 

 

 

 ならば、あの得体のしれない悪魔がこの世界に平穏を齎せてくれるか? 

 

 恐怖に覆われつつある男にはそうは思えなかった。

 最後の1人まで無残に、惨たらしく殺されてしまう所しか想像が出来なかった。

 

 

 そして、それと同時に 真逆の感情が、まるで闇に差し込む光が差し込む様な感情が出てきた。

 

 決して譲れない強い想い。それが此処にいる理由。………命をかけるに値する理由。

 恐怖心を徐々にではあるが押しとどめようとした時。

 

 

「ッ……。ちっ やり過ぎた」

 

 

 歯噛みする悪魔を…… 人間を見て、光明が見えた。

 悪魔にしか見えなかった筈だが、その瞬間 一瞬ではあるが光明のおかげで人間としてみる事が出来た。

 

 確かに、異常な力を持っているが、大地に足で立っている。宙に浮いている訳ではない。手があり、足があり、……身体の形は人間と同じ。そして――。

 

「巨人の蒸気ってのも鬱陶しい事極まりねぇよな」

 

 人間と同じく眼がある。

 眼で見なければ相手を確認できない。……視界を遮れば……。

 

 

――此処しかない。

 

 

 獣の巨人はついさっき、握り潰し、丁度程よい大きさに分解された岩を思い出した。

 攻撃用に備えた (それ)は弾丸。強力無比な遠隔の攻撃。接近戦では敵わないのは見て理解出来た。

 

 遠間からの攻撃ではどうか。相手の攻撃の届かない距離からの攻撃。

 

 

「ぬ……?」

 

 蒸気に遮られた視界。

 だが、それは言わば慣れっこだ。何故なら巨人を殺せば発生する蒸気。肉体の殆どが蒸気となり消滅する。……もう討伐数を数える(実績として必要らしい)のも面倒なくらいの数を屠ってきたアキラにとって、視界が妨げられる事態など大した問題ではない。

 以前にも、その蒸気に紛れ 逃げようとしていたアニを見逃さなかった。

 

 だが、今回のソレ(・・)は今までのとは比べ物にならない程の危険を孕んでいた。

 

「ッ!?」

 

 舞い上がった蒸気を貫いてくるナニカ。

 巨人より発せられている周囲を覆いつくさんばかりの蒸気はおろか、空間そのものを貫いているかの様に貫いてくるナニカ。

 

 それが何なのか、理解する前に アキラは行動をしていた。

 

「アニッ! 伏せろ!!」

 

 全力で後方へとジャンプ。アニを押し倒し、庇った。

 

 巨人を前に踵を返すというのは、正直に言えばかなりアキラには抵抗がある事だが、時と場合。

 

 目の前の巨人よりも、大事なのはアニの命(教え子の命)

 

 ひょっとしたら、アニは巨人に成れるし、戦っていた時何度か四肢を捥いだりもしてるから、庇わなくても大丈夫なのでは? とも考えたが、最悪を常に想定するのが基本だ。

 

 

 アニを押し倒した次の瞬間、高速で飛来してきた何かが通り過ぎる感覚が背中にあった。

 立ったままであったなら、恐らく直撃していたであろう何か。

 

 飛び道具の類を持つ巨人である、と判断したのと同時に、アキラは 右手を思い切り上へと突き上げ、そして 地面に振り下ろした。

 

 振り下ろされた場所は丁度アニの頭1つ分程度離れた地面。

 凄まじい衝撃と音、そして巻き上がる砂塵と罅割れ、陥没する大地。即席の防壁としては及第点だ。

 

「ンの野郎……。ある意味 あの超大型(デカいヤツ)より厄介な攻撃してきやがって」

 

 ひょこっ、とアニから飛び起きると 直ぐに上へと戻った。

 何が飛んできたのか判らないが、まだ巨人はいるため、引きこもってる訳にはいかないからだ。

 

 あの猿の巨人が、全ての鍵を握っている。アキラはそう判断をしていた。アニの様子から見ても大体察する所はある。 

 

 つまり、逃がす訳にはいかないのだ。

 

 だが。

 

「……チッ。確かどっかで聞いた事があるよな。生き残れるのは臆病者か強者とかなんとかって、って。……逃げられちまったよ」

 

 

 砂塵が晴れた先に見えるのは、無数の巨人の残骸。

 飛来してきたナニカは、周囲の巨人にも命中してたらしく、見た通り粉々になっていた。項を抉ってる訳じゃないので、再生している様だが 破損部分がかなり多く、手間取ってる様子な個体もちらほら。

 

 ただ、判るのはあの一度見たら忘れられそうにない特徴がある巨人は姿を消していた。

 

 追いかけるのも有りかと思ったが、まずは情報共有。つまり 調査兵団に報告をしなければならないだろう。……何より、この先の大小の村の生存確認も優先だ。

 

 巨人が全力で離脱する速度と、アキラ自身の脚力+立体起動装置。どちらが早いか今後エレンでも使ってテストしてみるのも良いか? ともアキラは思う。

 

「……よけーな実験はいらんか、しなきゃならん事多いし。っっあー、報告とかめんどくせ! 逃げんなよ。……殺しにきてんだろ? お前らは」

 

 あの巨人の数を考えたら、……いや、考えたくはない。村の状態がどうなってるのかなど。

 

 アキラは、頭をぶんぶんと振った。そして、帰りを待っているであろうメンバーたちの元へと戻る為、アニを引っ張り上げる。

 

 

 

 

 

「ほれ、アニ。ちょっと戻るぞ。ああ、気が向いたらあの猿呼んでくれ。呼び寄せるの得意だろ?」

「……………了解、です。保障はしませんが」

「わーってるよ。んな期待してねーって」

 

 

 


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