目が覚めたら巨人のいる世界   作:フリードg

59 / 72
遅れてほんとにすみません……m(__)m



59話

 

 ミケやナナバ達を含む、104期の調査兵団たちに合流を果たしたアキラ。

 

 

 

 一先ずミケ達に説明する為に、主に作戦会議に使用している一室に入り、だらっ、とだらしなく椅子に腰掛けていた。

 

「ほんと良い逃げっぷりだ。……頭の良い野郎、猿だったな」

 

 もう何回目になるだろうか、アキラはそうつぶやき続けた所に、ナナバがポコッ、と頭に拳を入れた。

 

「当然だって何回も言ってるでしょ。見境の無い巨人なら兎も角、人間が入ってる巨人なら、アキラを前にしたら 逃げの一択しか取らない。と言うか、取れないんだ。全力で逃げる上に、人間にも戻れる、って手段も考えたら、仕方ない。……アキラの責任(せい)じゃない」

 

 険しい顔の後に、少しだけ笑顔を見せるナナバ。

 

「ん。……かもな」

「かもじゃなくて、絶対なの。まだ判んないのなら、もう一発いっとく? 多分、ペトラやイルゼも同じ様にすると思うし」

 

 ぎゅっ、と握りしめた拳を見せるナナバ。それを見たアキラは両手を上げて降参の姿勢。

 

「アキラ。捜索は体勢を整え、早急に出す。無論、例の巨人が出れば、直ぐに撃つ様に指示を出している。……情けない話だが アレは、我々には手に余る相手の様だ。お前に頼る事になるだろう」

「あー、その辺は それこそいつも通りだ。適材適所。気にすんな。ってか、(アレ)はオレの獲物だ。横取りすんな、ってリヴァイにも通達してくれるとありがたい」

 

 ゴキンッと拳を握りしめるアキラ。

 

 猿の巨人の性質は見た範囲、判る範囲ではあるが ミケとナナバに伝え、各兵団の班達にも伝わる事だろう。

 

 あの巨人の芸当は、看破できない。遠距離からの攻撃手段もそうだが、それ以上に厄介なのは他の巨人を操る術だ。操る、と言う面では 今アキラの横にいるアニも持っている様だが、それ以上の脅威を感じた。

 アニは自身におびき寄せる手段しかみていないし、集まってきた巨人は アニをも喰らった。つまり諸刃の剣の様に感じるし、それ以上の事が出来ないのは、あの時のアニの行動を思い返せば一目瞭然。

 

 だが、あの猿は正確無比に巨人を操った。

 

 まるで、壁を破壊したあの時の様な意思の統一。全ての巨人の脳なのではないか? と思える程だ。一連の巨人の騒動の発端。あの日のマリア崩壊の元凶ともいえる相手だろう、とも感じた。

 

 

 因みに、ナナバやミケが 今日一番の脅威をある意味感じたのはこの次かもしれない。

 

 

「とりあえず、アイツらのトコに行ってくるわ。その間、アニ。ここで良い子にしてろよ?」

「……はい」

「へ?」

「は?」

 

 突然のアキラの言葉。

 104期のメンバーたちには、其々待機してもらっているから、そろそろ状況や今後の事を伝えに行かなければならないのは判る。そして、当事者でもあるアキラが伝えた方が説得力があるし、何より帰還報告も兼ねる事が出来るから尚良い。

 

 ……が、アニがこの場に残ると言う所が少々頂けない。……いや、少々どころではない。超大型の爆弾、いつ点火してもおかしくない爆弾と一緒にいるも同然だから。

 

「ちょ、ちょっとまって!! アニ・レオンハートの管轄は、アキラの筈でしょ!?」

「ん? おう。そうだぞ。……んでもなぁ、なーんかアニ 同期のメンツに顔合わせるの嫌らしくて」

「んな その場凌ぎみたいなテキトーな理由で残していかないでよ! 暴れた時に私らだけで抑えられると本気で思ってるの!?」

「……情けない事ではあるが、それも手に余る事案だぞ。屋内と言う条件も最悪だ。招き入れた以上最後まで責任を持ってもらいたいが」

 

 ナナバ達の意見も最もだ。アニがしてきた事を考えれば。でも、アキラは軽く笑う。

 

「ん? アニ。オレらと敵対するつもりか?」

「いいえ。しませんよ」

「ほれ、大丈夫だってよ」

「信じられるかこのバカ!!」

 

 バコっ! と今日一番のチョップがアキラの頭に直撃。ヒリヒリ~ と頭から湯気が出るのを何となく感じたアキラ。かなり痛い部類の攻撃だった。言うなら、イルゼやペトラから受ける攻撃の様な感じ、である。

 

「いてて……、まぁ、マジで落ち着け。アニなら大丈夫だ。どういう風の吹き回しか、死にたがりな感じも今ん所感じねぇ。それに、変身! したとしても、お前らなら十分逃げれるだろ?」

「でも!」

「………」

 

 ナナバはまだまだ信じられない様子だ。手枷の外れた巨人が取る行動は簡単に判るから。

 でも、ミケは違った。

 

「わかった。104期の皆への説明は全てアキラに任せる。今後の編成については、オレ達に任せてもらいたいが」

「おう! それで良いぞ」

「ちょっと、ミケ!?」

 

 ミケの言葉に驚きを隠せられないナナバ。ミケはそのまま続ける。

 

「少し落ち着け。……確かに、オレもまだアニ・レオンハートは現時点で敵として認識している」

「なら何で!? と言うか、なんでそこまで落ち着けてるの!」

「お前も同じじゃないのか? 普段に、いつもの様に戻れているのが何よりの証拠だと思うぞ。……まぁ つまりだ この男が傍にいる時は決まって色々と苦言をいってるだろう?」 

「ぁ………」

 

 ナナバは、ミケに言われて漸く自分自身の事に気が付くことが出来た。

 

 巨人が群れで襲撃してきた時、正直絶望もした。大勢の104期の兵士たちをも巻き込んでしまった事もあり、更に己の不甲斐なさ、力不足である事も呪った。

 

 そんな折に、彼がやってきた。頭の中に浮かんでいた絶望の二文字を笑って粉々に打ち砕いてくれた瞬間だった。

 

 アキラが来て、いつも通りな自分になった。無茶な事、馬鹿な事、それらをアキラが言うのはいつも通りだ。違う所があるとするなら、いつも傍にいるリヴァイ班の面々がいない事。つまり ペトラ達がいない事くらいだ。

 

 そして、判り切っている。例え、アニ・レオンハートが襲撃してきたとしても、変わらない。

 

「(……見えてなかった。自分のコトが全然。それに、私の心配事なんて どうせ、あっという間にねじ伏せちゃうんだろう事も、判ってる筈なのに)」

 

 はぁ、と大きく深呼吸をするナナバ。

 両頬を思い切り叩くとアキラを見た。

 

「わかった。アニの事は私達が見ておく。……見る以上の事は出来ないけどね」

「ああ。それで頼むわ」

 

 アキラは、手をひらひらと振った後に、部屋を後にした。

 別の所へ行く……とは言っても、104期のメンバーが待機しているのは隣の部屋だ。

 

 エレンの巨人化の実験の時何度か立ち会わせてもらったが、巨人に成る時 独特の雰囲気になる。大気が震える、と言えば良いのだろうか、兎も角空気が変わるのだ。

 アキラはその一瞬を逃さない。至近距離でのエレン巨人化爆発? みたいなのを受ける実験(発案者ハンジ)をした時、余裕で回避、更には寸止め反撃まで出来てたから、仮にアニが巨人化しようとしたら、となりの部屋にいるくらいなら、速攻でやってきて建物の外へと吹き飛ばす事くらい訳ないだろう。

 

 ……そして、色々と思う所があるが、アニが攻勢に出ないと僅かでも思える事があった。

 

「…………」

 

 外へと出ていった時、ずっとアキラの背を見ていたのだから。

 扉を開け、部屋から出ていった後でも、ずっと。

 

 

 

「(いったい何角関係をつくるつもりなんだろ?)」

 

 苦笑いをするナナバ。

 そこにミケがやってきてボソリと一言。

 

 

「そこに更に一名、この場にいる誰かさんがその中に追加するかもしれんな」

「ッ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、その後。

 

 壁中に巨人が現れた事実を目の当たりにし、直ぐに調査を行うという意見が全面的に出た。特に、この近辺の村出身達からは強く要望が出ており、装備を整えた段階で直ぐにでも行動をしそうだった。

 

 それを止めたのはアキラだ。

 

 アキラが戻り、そして 状況を説明するまでの時間。もし――もう少しでも遅れたのなら、不安が爆発し、命令違反覚悟の上で衝動的に行動を行いかねなかったのだ。

 

『気持ちは痛い程判る。……だが、単独行動は絶対許さん。オレと行動を共にして貰う。長距離陣形で警戒しつつ村調査だ。そのあと、壁の確認だ』

 

 これがこの場の決定である。

 アキラが、そしてミケもそう指示した。単独で行くなら ありきたりな謡い文句だが、『俺を倒していけ』と一言。

 

 ありきたりなセリフではあるが、実に効果的、そして単純な事だ。

 アキラを倒せるような兵士なのなら、別に単独行動しても全く問題ない。寧ろ大歓迎なのだから。……だからこそ、より感じる。自分達じゃ出来ないと言う事が。

 不可能である事に気付くと同時に、己の無力さも噛みしめる事になる結果ではあったが、甘んじて受け入れる者が大半だった。

 

 何より、これが最善であり、何より、これが幸運な事なのだから。

 

 以前のウォール・マリアの破壊の際は、アキラ達調査兵団はいなかった。……だが、今回はいると言う状況が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後の調査結果。

 

「……どうしたもんか」

 

 アキラは、全てを終え リヴァイ班の元へと戻ってきていた。

 リヴァイは勿論の事、エルヴィン、ハンジ、と更に数名。

 

 兵団の長が全員ではないが揃いぶみでの調査報告会である。

 

 

 

 時間は掛かったが、不可解な状況である事と、救う事が出来た事、そして 拭えない悲しい結果があった。

 

 

 一部を上げるとまずはサシャの故郷。

 巨人の襲撃に合っていたが 距離的に近かった事も有り、逃げられず取り残されていた親子の救出に成功、村の住人は無事だった。親子を見捨てた事実もある為 手放しで喜ぶ事は出来ない様だが、命がある事の喜びが勝り、一先ず幸先の良い結果だった。

 

 だが、当然良い事ばかりでは無かった。

 

 続いてコニーの故郷。

 その村は持抜けの空だったのだ。住人の1人も見当たらない。残酷ではあるが、普通に考えれば巨人の被害にあった村である、と言う結果になりそうだが、そう簡単な事では無かった。

 ただただ只管に喰い殺す事しかしない巨人達の襲撃があったというのに、村の住人の痕跡そのものが無かったからだ。家屋は倒壊しているものの、血痕の後も全く無く、更に不可解なのは村の馬が全て揃っていたと言う所。徒歩で巨人から逃げ切れる筈もないし、その様な選択をする筈もない。

 このコニーの村が第一の不可解なポイント。そして、最も不可解な所。

 

 

「壁が壊された様子は無かった。巨人達は空でも飛んできたって言うのかねぇ?」

「お前が見逃してなけりゃな」

「見逃すかよアホ。何回やったか覚えてねぇって」

 

 頭をボリボリと掻きむしるアキラ。リヴァイも書類に目を通しつつアキラを見た。そうは言ったものの、リヴァイがアキラが調査を怠る等とは思ってもないので言ってみただけだというのが正直な所だろう。

 

「それで、猿がまた襲ってきたって話を再確認したいんだけど」

「んあ? わりぃな。生け捕りしてプレゼントしてやりたかったんだが、逃げられたよ。猿って言うだけあって木登りならぬ、壁登りも得意みたいでな」

 

 報告書の中で、調査を行っていく過程での拠点の1つで使い古された昔の調査兵団の駐屯地、古城で一夜を明かしていた時、巨人の襲撃があり、とあった。

 

「夜行動出来る巨人って結構珍しいんだが、やっぱあの猿が指揮とってるとみて間違いねぇは。奴さん オレとは会いたくないみたいで、メチャ遠巻きで見てて、速攻で逃げてったけど」

「偵察目的か陽動か、或いは何か狙いがあるのか……。有力なのは アニ・レオンハート奪還と言った所か」

「うーん、エルヴィンの言う通りだと思うんだけど、アニ自身が逃げようとしてないんだよね。仲違いでもしたのかな? そこん所は何か聞いてないかい? アキラ」

「なーんも、アニはだんまりだ。自分から牢に戻っていったし、思い詰めてる感じもするし、こっちも時間がかかりそうなんだよなぁ、アイツん中で色々とケリをつけてるって感じがする」

 

 アニの扱いについては、上も相当考慮している事だろう。下手をうてば死者が出る事間違いなしな上に、対処できる人材が今のところ アキラかリヴァイの2人しかいない。その上に死を受け入れている、寧ろ望んでいる面もある事が見て取れるので、脅しは一切通用しないとみている。

 結論すると 敵対するか、こちら側に付くかは全て本人の意思に任せている状態である。

 

「兎も角、今後も警戒を強化する。当面は休みは なかなか取れない状況になるがすまないな、アキラ」

「あいよ。ストレスの原因をとっ捕まえるまで悠長に休暇なんざ取らねぇ。寧ろそっちが疲れる」

「そう言うと思ったよ。じゃ、アニの相手もアキラに任せるからね? ペトラやイルゼが怒んない範囲で頑張ってよ。そろそろ様子も見なきゃでしょ?」

「はぁ どっちにも気ぃ使わなきゃならんなんて、ほんとどー言う状況だってんだよ」

 

 苦笑いをした後に、アキラは席を立った。

 

「おいアキラ。もう少し答えろ。この猿の件だ」

「ん? リヴァイも興味あるか、やっぱ」

「……無いと言えば嘘になる。壁の向こう側に追いかけていったが見失う、とあるが その後の詳細は本当に掴めてねぇんだな?」

「あぁ。巨人も群れてきたし、あの鬱陶しい蒸気がそこら中に拡散しててな。紛れた可能性も捨てきれねぇよ、残念ながら。単独行動はすんな、って約束もあったし、調べるにしても限度があったってのも解ってくれ」

「ふん。……少しは成長したって所か」

「はいはい。ありがとーございやーす。リヴァイせんせー」

 

 手をひらひら、と振りながら席を完全に立つと扉へと向かった。

 背を向けたまま、最後に言う。

 

「あの猿が元凶。多分間違いない。そんで絶対に見つけたら全体周知を徹底させた方が良いぜ、エルヴィン。正直 オレやリヴァイじゃなきゃ手に余る相手だ」

「………そうか。了解した」

「んじゃ宜しく。行ってくるわ」

 

 

 アキラがそう断言するのに、少なからず緊張が走るのは、エルヴィンとハンジ。

 いつも歯が浮くようなセリフを言うアキラが兵団の力を信じてない、ともとられかねない(とる者は皆無だとはいえ)言葉を吐いたのだから。

 

 アキラが完全に去ったのを確認するとエルヴィンはリヴァイを見て聞いた。

 

「リヴァイ。お前の私見を聞きたい」

「あぁ。何度目か判らねぇが、あの馬鹿がいなけりゃ最悪の結果になったって不思議じゃねぇ状況だな。この猿の巨人。投擲手段の詳細を聞いて尚更思った。遠距離からの攻撃。……威力は大砲以上、速射、も可能で更には散弾のバリエーション。聞けば聞くほどだ。攻撃手段が近接に限られてる現状では、兵団にとって最悪の相手だ」

「リヴァイでもきついよね」

「……ひらけた場所でやれる相手じゃねぇ。銃の打ち合いとは訳が違う」

 

 ぴらっ、と書類を放り投げるリヴァイ。

 

「猿については、最優先事項として周知しよう。……そして、次だ。ハンジ」

「ああ、アキラの例の件(・・・)ね。勿論、了解は得てるんだろうね? エルヴィン。皆で話していいか、って。聞いてない! とか言われてアキラに怒られたくないんだけど」

「その点は心配するな」

「了解。んじゃあ始めるよ。本人を交えて~って思ったけど、集まった皆の意見を聞いたうえで、また聞いてみたい」

 

 ハンジは集まった全員に書類を配り終えた後、始めた。

 

 

 

 

 

 

 

「アキラの言うナニカ(・・・)についてだけど……」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。